風 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1984年10月号
264件見つかりました。

1. SFマガジン 1984年10月号

第の数を ルー・風は動転した。 それは、″文字″だ。 いや、文字であろうと想像される紋様にしかすぎないはすだ。 ″を表しているの そして、ルー・風は、その中のひとつが、 ではないかと空想してみただけだ。 その瞬間 卩が開いた。 そして、中へ引き込まれそうになった。 そんな気がした。 しかしーーーーしかしー ルー・風は、恐くなった。 わけの分からぬ畏れに捉われた。 が、そのためにかえって、目が離せなくなってしまった。 これが、つまり″霊感法″とやらなのだろうか ( だとしたら : ・ いや、しかし : : : ) ルー・風は、一度、きつく目蓋を閉じた。 ーー多次元宇宙を越えて ! 以 工 ヴ ノ 外 ロ・↑ト・ < ・ハインライラ一矢野徹訳 そして、開いた。 ″を見つめてみようか もう一度 : : : もう一度だけ、その″ もう一度だけ ルー・風の視線が、そのプリントされたエメラルド盤の上をゆっ くりとさまよった。 そして、再び ″門 / に辿り着いた。 ルー・風は、息をつめ、目を凝らした。 : やはり、確かに、そう見える : : : が、その門は、今、閉ざ されていた。 そんな気がした。 さっきは、それが、いきなり開いた。 霊感 : : : というものたったのだろうか ? その訪れだったのだ「つ : ルー・風には、分からない。 うか ? 分からない・ 彼は、なおも、その門を見つめ続けた。 門が閉ざされている : : : ということは、その鍵が、どこかにある 定価一一八〇〇円。 早川書房 ー 53

2. SFマガジン 1984年10月号

ということか : ・ ( ネティの鍵 ) : : : その言葉が思い出された。 その文字のひとつを ″門″ではないかと空想してみただけだ。 ネティ : : : 冥界の番人 : : : その番人が持っ鍵 : そして : : : 鍵に相当するかもしれぬ文字を見つけ : : : そして、門 ル】・風の視線が、その″ を中心に、さまよい動いた。 を・ : : ・ ( 馬鹿な 閉ざされた門・ : ・ : それを開く鍵・・ : : 鍵・ : : ・鍵ーー 全ては、文字だ。いや、文字であるかどうかも分からぬ紋様にし ( あった ! ) かすぎぬ。 見つけたーー そして、ルー・風は、それを眺めているたけのはずだ。 ひとつの文字が、目に飛び込んできた。 鍵だ。まさしく、鍵だ。 それが、どうして、こんなところにいるのか レ ( いや、違う ! ) ・風の視線が、その文字をひろい上げた。 幻覚た。夢だ。 そして、門のところへ駆けもどった。 ( そうだ ! 早く、ここから、抜け出さなくては 瞬間 ルー・風は、振り向いた。 またも、門は、開いた。 そこに、厳めしい石造りの門があった。 そして、ルー・風は、思わず、それをくぐった。 そしてーーーその向こうに くぐり抜けた。 巨大な瞳が見えた。顔だ。顔が、門の向こうから、こちらを覗き そこに、世界が拡がっていた。 世界 : ・ : ・見たこともない世界だ : : : 見上げると、空は濃い紫色を込んでいた。 帯びていた。 それは ルー・風だった。 遙か遠くに、高い、先の尖った塔が霞んで見えた。 その覗き込む瞳の持ち主は、まぎれもなく、彼自身だった。 そして、その塔の先端めがけて鋭い雷光が、何度もひらめき落ち ( もどるんだ ! 向こうへ そう思って駆け出そうとした彼の目の前で、門がすさまじい勢い しばらくして、雷鳴が聞こえた。 で閉じた。 が、遠い : : : 遠い、雷鳴だった。 門の鉄の扉が、轟音とともに、閉ざされてしまったのである。 それが、微かに、しかし途切れることなく続いた。 ( 以下次号 ) : ここは : : : どこだろう : : : ) 思って、ルー・風は我に返った。 ( 馬鹿な 彼は、意味も分からぬ文字を眺めていただけだ。 こ 0

3. SFマガジン 1984年10月号

「錬金術の何たるか、だと 下らん ! おまえたちは、儂の ・前回までのあらすじ・ ことを、科学の正道を踏みはすして頭の狂った錬金術師とでも思っ 記録員であるルー・風は金星調査隊の欠員補充のために、金星の ておろうが、え ? まあ、 し そんなことは、どうでもいし 衛星基地《ヴィ 1 ナスター》へと派遣される。だが、到着した彼を かし、だ 待ち受けていたのは無人の発着ルームであった。彼は酷寒の発着ル この儂は、錬金術そのものになそ、まるで興味を持っ ームで内部への通路を探すうち、エレベーターを見つけるが、そこ ておらんのだ。分かるか ? 」 で白衣の女性アイリーン・に出会う。あまりの寒さに意識を失 「しかし、博士ーーー博士は、実際に、錬金術の実験を : : : 」 ったルー・風は彼女の部屋へ連れていかれ介抱され、彼は金星で撮 「いいから、聞きなさい。おまえたちは、そもそも、錬金術につい ったといわれるあきらかに人造物を撮ったと思われる不思議な写真 を見せられる。その後ローヴァー・ (.DO 少佐らと死んだ前任者であ て、頭から誤解している。知能の低い一部の神秘愛好者どもは、錬 るカーリ ・ s--2 のコビー・アンドロイドのところへ、情報の引き 金術を、何か万能の、科学を超越した魔術、秘術の類たと思いたが 継ぎに行く。ルー・風らはカーリー ・の死に関係のある映像記 る。もう少しましな知能の持ち主は、それを″金″を得る手段だと 録を受け取りそれを見るのだが、ミーラー・博士に邪魔をさ 考える。そして、知った風な口をききたがる程度の知能を持っ連中 れる。アイリーン・が博士を衝撃銃で倒し、ルー・風らは金星 ビルス になると、それを、化学をはじめとする自然科学の前時代的な形態 へ降下しようとするが、またしてもミーラー・博士に行く手 をはばまれながらも、説得の末四人で金星へ降下する。降り立った だったなどと解説してみせる : : : しかしーー」 一行は基地の試験坑道へと入り、博士に謎の石盤を見せられ ミーラー・の声は、その時、しごくまともに聞こえた。 るのだった : ・ 彼は、ひと呼吸おいてから、さらに言葉を継いだ。 登場人物 「儂に言わせれば、そいつらは、皆、同じたたの愚か者た。錬金術 を経ることで、化学が発達できただと ふん、確かに、化学 ルー・風 : : : 宇宙開発部隊所属の記録員。 アイリーン・ : : : 国際宇宙連盟所属、中佐。 それ自体は、錬金術を母体にして生まれたものかもしれん。しか ローヴァー・ : : : 部隊の先任士官、少佐。 し、化学を生み出すために、錬金術が存在したわけでは、断じて、 ミーラー・ : : : 連盟の嘱託研究員、惑星地質学者。 ビルス ミーラー・の調子が、次第に熱を帯びてきた。 もが、錬金術に対する誤解を積み上げてきたとも言える : : : 」 「それと反対に、錬金術が、科学を超越した究極の秘術なのだと信ここは、人類文明の最前線、金星タンムーズ基地の地下坑道であ じることも、実に馬鹿げている。世界が、土と水と風と火の四大原る。 素で成り立っているなどという説は、何かを象徴しているわけでは そこで、得体の知れぬ緑色の石盤を前に、錬金術に関する講義を なくて、単なる古代人の無知によるものだ。そうした無知を土台に聞かされている。 している″術″を、何か真理ででもあるかのようにあがめる低能ど ふと我に返って、ルー・風は、その異和のすさまじさに、思わず テー・フマン 9

4. SFマガジン 1984年10月号

イデ十メラム る妄想としか思えぬ仮説も : : : 何もかもが、ル 1 ・風にとって、ま彼が生まれた地域では、情報量が格段に多い古典型の表意漢字 サプレイン るでなじみのないものばかりだった。 が、人工知能言語として使われていた。 そんな知識が、この金星世界において必要になるとは、夢にも思彼の名、ルー・風にも、そのひとつが組み込まれている。 いはしなかった。 だから、そうした、映像的に構成された文字体そのものには、子 そして、実際 : : : そんなものが、必要だとは、今も思えはしなか供の頃から馴染んでいた。 ったのである。 そのせいだろうか : : : 彼の目は、そのエメラルド盤に刻まれた文 それにしても : ・ 字のひとつが、なんとはなしに理解できるような気がしたのだ。 霊感法とは、また、よく言ったものだ。 のような : : : あるいは、入口といったも それは : : : 何か、 そんなやり方で、未知の文字が解読できるなら楽なものだ。 のを表しているような気がした。 あれこれと考えながら、ルー・風は、ともかくも、その。フリント : これが、門であるとしたら : : : ここをくぐれば、 日ー″ を眺めた。 どこかへ・ 円形の表面に、紋様がぎっしりと刻まれている。 門を : : : くぐって : ・ : ・そしてーーーそしてーーそして 確かに : : : 楔形文字として知られる古代オリエントの遺物に、そ 目の前で、文字が躍りだした。 れは似通っているようにも思えた。 余りにも、一点を見つめすぎたせいか しかしーーその、楔形文字というものを、ルー・風がよく知って いや : : : それにしても : ・ : ・ ( 門がある : : : そして、門をくぐれ いるわけではない。 : どこ力に・ ば、それはどこかに : : ) : : : どこかに : プージョン 子供の時代に見た映像本の知識から、まるで進んではいない。 いきなり それが、象形文字だというなら、また話は別だ。 めまいを感じた。 こうして眺めているだけで、そのイメージの原形が想像されてく めまい いや、それは : : : 墜落感に近いめまいだった。 ることもあり得るだろう。 墜落ーー が、しかし、この紋様は : ・ ( いや、待てよーーー ) : : : もしかし たら、これは、そうした表意系の文字なのかもしれない。 日ー / なぜか : : : そんな気がした。 「が、いきなり、彼の目の前で、開いたのだ。 そして、そう思って見直してみると そして、彼はその中へ、一瞬ーーー引きすりこまれそうになったの である。 しかしーーしかし : : : そんなことがあり得るはずがない。 ルー・風は、驚いて、二度、三度とまばたきを繰り返した。 ー 52

5. SFマガジン 1984年10月号

ビルス ミーラ】・»-äが、なおも奐いている。 「さあ、急いで ! がもどってくる前にーー」 ピルス が、振り返る余裕も、勇気も、ルー・風にはなかった。 が坑道側のハッチを開けば、気閘内が減圧してしまう。 ハッチに近付いた。 その前に アロック 待ち構えていたローヴァー・ (.50 が、ルー・風をカまかせに気閘三人は、固まって、基地側に逃れ出た。 ジーク へ押し込んた。 が、再び、ハッチを閉鎖した。 ルー・風は、ヘルメットから、そこに倒れ込んだ。 アイリーン・ Q が、その場にへなへなとへたり込んでしまっ ェアロック 続いて、アイリーン・、そして O が、気閘内に転がり込ん できた。 そして、つぶやいた。 すぐさま 「 : : : 確かに : : : あたしたちは、何も知ってはいなかったようね : ・ ビルス 0 が、ミーラー・ i--; を待たずに 「博士は 博士が、まだ うめくように、彼女は続けた。 思わす、ルー・風は、叫んだ。 : ここまで : : : こんなことまでが起こっていたなんて : : : 夢に ピルス 「なら、心配いらないわ」 も、思っていなかったわ : : : 」 「中佐ーー」 アイリーン・が答えた。 ローヴァー・ ()5 0 が、やはり、ちょっとお・ほっかなげな足取りで 「彼は、どうやら、あの冥界の番人と仲がいいみたいですものね」 やってきた。 「冥界の、番人ーー ? 」 「ネティのことよ」 しュ / し 「教えてください。ネティ、とは、 : それよりも中佐 アイリーンが、吐き捨てるように、その名を口にした。 は、あんな怪物が、この金星にいることを、ご存じだったんですか 「ネティ ? その、ネティとやらは、 いったい、何なんです その声は、隠しようのない震えを帯びていた。 しかし、アイリーンはそれ以上答えす、金星服のロックを解い 「知るもんですか ! 」 て、ヘルメットを後に跳ね上げてしまった。 彼女は言い返した。 自動的に回路が切れ、彼女の声が聞こえなくなった。 「ーーでも、ネティという名前だけは、知っていたわ」 ルー・風も、慌てて、気密ロックを解除した。 「それは ピルス そして、スーツの外へ這い出した。 「»-ä t-n が喋ってたでしよう ? 創世記の起源は、シュメールにま ジーク 0 はすでに、基地側のハッチを開いていた。 で遡るって : : : そのシュメールの神話にネティという名前があるの 、ハッチを閉鎖した。

6. SFマガジン 1984年10月号

ビルス そして、彼の振り回す腕が、危うくルー・風をかすめた。 ミ 1 ラー・ t--äが、やはり大声で応じた。 「そしてーーそう ! さっき、アイリーンが暗唱したヘルメスの詩ルー・風は、慌てて一歩、後退った。 そして、何気なく視線を上げーー 篇とされるものにすら、はっきりと謳われていたではないか それに、気付いた。 ″かくして、世界は創造されたと : : : 」 それーー 「つまり、それが錬金術の本質だとおっしやるんですね ? 」 それは、岩の裂け目の向こうにいナ 「 : : : かって、地球という世界が、何ものかによって、どのように その陰から、じっと彼等を見下ろしていた。 してか、創り上げられた : ・ : こ ピルス ミーラー・が、ゆっくりとる。 目 : : : そう見えるふたつの光が、なおも腕を振り回しているミ ピルス 「 : : : その様子を、創世の神話が伝え、そして、その世界創造の技ラー・のヘルメットよりもはるか高みに浮かんでいた。 そして : : : そして 術が、やがて錬金術と呼ばれるようになる知識として、極度に卑小 それは、いま、まさに、その岩の割れ目の陰から、得体のしれぬ な姿となりつつも、かろうじて伝えられてきた : : : 」 ピルス その姿を乗り出そうとしていた。 そして、急に、は立ち上がった。 「おまえたちは知るまい。この惑星が、なぜヴィーナスと呼ばれて ヘルメットの中で、ルー・風のロが思いきり開かれた。 ヴィーナスとは、つまり、アッカド人たちがイシュ きたかを・ーーー が、そこから発せられるはずの悲鳴が、喉の奥に引っかかって、 タルと呼んだ惑星の女神であり、さらに古くは、シュメール人によ 出てこない。 ってイナンナと呼ばれていた」 ピルス ミーラー・は、危険なほどの勢いで、金星服の腕を振り回金星服の中で、ルー・風はもがいた その動作をパワード・ トが、より大袈裟な動きに変えた。 し、言った。 ル】・風は、よろめいた。 「何故だーー ? 何故だと思う ? どうして、この惑星がそのよう ただ単に、空にかかる明星を、美神そして、二歩、三歩と下って、坑道側面の岩壁にぶつかった。 に呼ばれてきたと思う アイリーン・が、振り返った。 に見立てて、そう名付けただけだと思うかね ? 違う ! そうじゃ この星は、そう呼ばれるべき惑星だったのだよ。彼等は、そ「どうしたの ? 何を、してるの ? 」 が、恐怖の余りせり上がった心臓に塞がれて、息が詰まったまま れを知っていた。イナンナ、イシュタル : : : あるいは、ヴィーナス とそれぞれの言葉で呼び代えながらも、彼等はつねに、この星に同だ。 じ属性を与えてきた どうしても、声が出ない。 ビルス ミーラー・の喚き声が、痛いほどに鼓膜を連打する。 ー 42

7. SFマガジン 1984年10月号

N 0 Z ー 2 「それは : : : そのネティというのは、やはり、怪物ーー ? 」 ドール アイリ 1 ン・はかぶりを振り、続けた。 : イナ ( 何があったのか・・ーー ) 「・ : ・ : あたしも、詳しくは覚えていないわ : : : でも、確か : ンナ、つまりイシタルには姉がいて、その姉が、冥界を支配するそれとも、一人、置き去りにされたことを恨んででもいるのかー 女王なのよ。そんな物語だったはずよ : : : そして、その冥界の門を ビルス が、そのままひと言も口をきかずに、 守っている番人が、ネティというわけ : : : 」 なり、ぶいと横を向いた。 「冥界の、番人 : : : 」 そして、すたすたと彼等の前を横切って、立ち去ろうとする。 「・ : ・ : ある時ーーー理由は、はっきりと伝わっていないけれど、イナ ドール ンナが、その冥界にいる姉を訪問しようとするのよ。けれど、姉アイリーン・が、慌てて床から立ち上がった。 の、 = レシ = キガルだったかしら・ : : ・彼女は、そのことを快く思わそして、ルー・風をうながし、彼の後を追って歩きだした。ル】 ず、ネティに命じて、イナンナの身につけているものを全て剥ぎ取・風、それに (•50 が続いた。 ビルス は、来た通路を足早に引き返し、自分の研究室のドアを乱 り、ついには殺してしまう : : : 」 暴に押し開けると、中に消えた。 「その、イナンナというのは : ・ : ・」 しかし、ドアが開け放ったままなのは、どうやら三人に対する、 「そうよ 入ってこい、という意志表示のようだ。 大きくうなずき、アイリーン・は答えた。 ドール アイリーン・が、ちらりと O を振り返った。 「イナンナとは、イシュタル つまり、この惑星を表す美神、ヴ ・ことしたら・ : : ・」 そして、肩をすくめてから、研究室に踏み込んでいった。 ィーナスのことだわ : : : でも・ : : ・ナ ルー・風も、恐る恐る、彼女の背中を盾にして中へ入った。 何か言いかけて、彼女は、それきり口をつぐんだ。 雑然とした一画だった。 ハッチが開いた。 その時ーー ビルス やたらと、物が散らばっていた。 そして、 ミーラー・が、姿を現した 9 デスク・プレイン 卓上頭脳が、床に投げ出してあった。 そして、唇をぐいと歪め、三人をねめ回した。 ・カ その回りに、得体の知れぬ器具類が、ひとまとめに放り出してあ その目付きに、どこか、おどおどした影があるのを、ルー・風はった。 中に、金色のものがべったりと底にこびりついた鍋が一個、混じ 感じないでいられなかった。 っていた。

8. SFマガジン 1984年10月号

ピルス ミ 1 ラー・»-Äが、背後を振り返った。 やっとのことで、 うめきつつも、ともかく、ルー・風は、腕を上げた。 そして、ヘルメットをもたけ、怪物を見上げた。 そして、その先で、岩の割れ目を差し示した。 「ネティ 「なんなのよ、坊 : : : 」 ミーラー・が、叫んだ。 言いながら、金星服のボディを巡らしかけたアイリーン・ 「来るな ! おまえは、出てきちゃいかん ! あっちへ行け ! 行 ・、、ルー・風に代わって、すさまじい悲鳴を張り上げた。 くんだ ! 」 ローヴァー・ 0 のヘルメットも、その方向に動いた。 ( ネティ : 「か、怪物・ : : こ ピルス 彼の、上ずり、かすれた声が聞こえた。 »-Äは、怪物のことを、そう呼んだのだろうか ピルス この怪物を、名付けるほど しかし : : : ではーーー彼は ' すでに、 たた独り、その怪物に背を向けているミーラー・だけが、 に、よく見知っているというわけか まだ何が起こったのかに気付いていない。 アイリーン・が、ルー・風の側まで、二歩で跳びすさってき「ネティですって : アイリーン・のつぶやきが聞こえた。 「・ : ・ : まさか : : : でも、そうだとしたら : : : ここが、冥界への入口 そして、彼の腕をがっちりとんで叫んだ。 「逃げるのよ ! 」 ここから先へは、出てきちゃいかん ! 帰るんだ、あ 「駄目だ ! ゆらりと、怪物が岩の陰から乗り出してきた。 しかし、それでも、その姿がよく見えない。 っちへ、行け ! 」 ピルス あたりが暗すぎるせいではない。 ミーラー・ j--äに、怪物を恐れる様子はまるでない。 怪物の姿そのものが、暗いのだ。 彼は、しつこい大か何かを追い払おうとするような仕草で、その まるで、影がそのままわだかまって、地面から起き上がってきた怪物に立ち向かっている。 テー・フマン ような : : : そんな、形容し難い姿だった。 いまの内にーーこ 「アイリーン ! 記録員 ! 早く ローヴァー・ OO だった。 しかし ェアロック そんな、闇を切り抜いたような姿でありながら、腕が、そして脚彼は素早く、気閘のハッチに取り付き、それを引き開けようとし が、頭部であろう部分が、それそれに認められた。 ていた。 そして ル 1 ・風の腕が、ぐいと引っ張られた。 ふたつの目、そうに違いない異様な輝きが、その頭部で、ゆらめ アイリーン・が、彼を抱えたまま、走り出したのだ。 き、瞬いていた。 こら ! 来ちゃいかん ! 帰れ、あっちへ行け : : : 」 こ 0 ー 43

9. SFマガジン 1984年10月号

サンドキンクス アイリーン・は、卓上頭脳を使うため、研究棟へ出かけてい 「あなたは、これよ」 言って、彼女が指差したのは、 (.50 が丸めて手に持っている〈工 メラルド盤〉のプリントだった。 あとに残されたル 1 ・風は、他にすることもなく、そのプリント 「これを ? これを、いったい、どうするんです ? 」 を、ペッドの上に拡げて見た。 ピルス 「もちろん、にらむのよ」 ミーラー・が、どうやら自分で撮影したものらしい 彼女は、答えた。 細密のレヴェルを上げすぎて、かえって画像が不鮮明になってし ビルス 「時間のあるかぎり、にらみ続けろーーー , そう、が言ったしやまっている。 ない」 しかし、その表面に刻まれた紋様を読み取るのが困難なほどでは 「まさか そんなことをしたって、何の役にも : ・ : ・」 、え、そうとは限らないわ : : : 」 目を少し離せばいいのだ。 かぶりを振ったアイリーンの表情は、真剣たった。 : エメラルド盤・・・・ : ) 「 : : : 今は、その霊感にでも頼るしか方法がないのかもしれない : それは、何か、錬金術の奥義を刻んであったとされる、伝説の存 : ・それどころか、それが、唯一、最良の方法なのかもしれなくてよ在であるらしい。 しかし、ルー・風は、はじめてその名前を耳にした。 いや、エメラルド盤だけではない。 そして、居住区へもどるとすぐ、ルー・風もまた、それを″にら イナンナも、ネテイも : : : その神話も、そして、ムー大陸に関す む″よう命じられた。 現代の旗手ー一ンが描く華麗なる世界ー・一、ーノ 安田均 / 風見潤訳定価四 ~ ( 〇円 , 一こ一 デスク・プレイン 、ハヤカワ文庫 SF

10. SFマガジン 1984年10月号

それは、〈 *OO 六九一〇〉の主星から溢れでた。フラズマ風だっ いるのだ。 コンソールの上で、赤いランプが点減をはじめていた。 トネガワは、眼下の光景に心を奪われ、最初その信号に気づかな太陽系の諸惑星を包む太陽風などは、比較の対象にすらならなか った。そのフラックスは、太陽風の何百万倍もあった。 かった。それは、かなり以前から点減を繰り返していたようだった。 ード》に取りつけたマーカーからの電波それが、連星のラグランジ = 点から泉のごとく溢れだし、長大な それは、《。フ一フズマ・ 一筋の太い糸となって、滝のように惑星〈ヴァイス〉の極に降りそ ード》の群が惑星〈ヴそいでいるのだった。 驚いたことには、信号は、《プラズマ アイス〉の北極上空、二万ャロメートルの地点に大挙、飛来してきその強烈な。フラズマの風にうたれて、〈ヴァイス〉の半球を覆う 《氷河》の表面は、燃えたつような。ヒンク色に染まっていた。 ) ていることを告げていた。 ド》の群が ド》が宇宙船なみの推進力をもっているという事そしていま、その《氷河》の上に、《プラズマ・ 《プラズマ・ いっせいに舞いおりはじめていた。 実からすれば、彼らがそのようなス。ヒードで〈ヴァイス〉に到着す 何かに衝かれたかのごとく、巨大な怪鳥たちは、先をきそって ることは、ありえぬことではない。 《氷河》の表面をめざしていた。 しかし、惑星の異変に時をあわせたかのように、な・せ彼らはい トネガワは、もはや思考する余裕を失っていた。ただ、電子の ま、やってきたのか ? 〈眼〉が見る光景を感じとるのが、せいいつばいどっこ。 トネガワは、コンビュータと接続されたヘルメットをとりあげた。 そのとき この異変を、何としても解明する必要があった。 その、なかば、機能を失いかけた彼の大脳に、規則正しい刺激を いまこそ、すべての謎が解き明かされるにちがいないー ヘルメットのスイッチを入れると、トネガワの〈眼〉は探査艇の送りつけてくるものが出現した。それは、惑星をとりまく狂気のよ うな電場と磁場の交錯する中にあって、冷たいまでの理性をもった 外から、白い惑星をながめていた。 トネガワは、艇の高度を急上昇させながら北極方向へと飛んだ。信号だった。 ヘルメットに繋がったコン。ヒュータが解析する、そのニュ 1 トリ みるみる、惑星の北半球が視野に入ってきた。 ノの信号を、トネガワは茫然として受けとった。 〈ヴァイス〉は、全体がオーロラのヴェールで包まれていた。 そして、北極方向に〈眼〉を向けたとき、トネガワは、思わず驚それは、《氷河》からの通信だったのだ・ : 嘆の叫びをあげていた。 8 荷電粒子からの制動輻射を感じる〈眼〉は、北極の上に降りそそ ぐ、すさまじいまでの。フラズマの流れを見たのだ。 ・こっこ 0 こ 0 4 8