院長 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1984年11月号
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1. SFマガジン 1984年11月号

ラーデグンデが驚きの表情を浮べた。自分のいま耳にしたことばえまない醜聞の主なのです。ソールヴァルト・アイナルソン、では 始めましようか ? 」 が信じられぬといった風情だった。彼女はまるで困惑したとでもい 仲間たちと違って、彼にはぜんぜんはしゃいだふうが ったふうに大男の海賊を、上から下までじいっとながめまわし、そ大男が 部下たちをながめわたし、巧みにそ なかった、これは事実だ , れからまるで相手の寸法を取るような顔で、大男のまわりをぐるり と歩きまわった。これが何度もくり返され、彼女が相手のからだのの場の流れを読みとったふうだった。彼は言った。「俺は五人のも すべての部分をしろしろ見ている間に、大男の顔がしだいにしだいのとともに、なかへ入っておまえたちの持物を見てみたい。その後 に赤くなった。そうしておいて彼女はうしろに退り、もう一度相手で、庭にいる貧しいやつらは外へ出してやる。しかし、建物のなか にいるやつらはダメだ。それから、俺たちはもう一度、修道院のな をしいっと見つめ、それから農婦のように腕を組み、ノルド語とド ィッ語の両方で、大きな声で言ったものだった。 かを調べる。その間、残りの我々は門を閉めきって、そこを固めて いることにする。なにか悪企みでもあったら、この取引はなしだ」 「なんですって ? かれらが手の使い方を忘れてしまったと言うの ですか ? 」 「では、私があなたに同行しましよう」とラーデグンデ。「これは まさに、抵抗しがたい言葉だった。ノルド人たちが笑いだした。 正義にかなうことですし、また私がいっしよなら人びとの気分も鎮 わが民びともどっと笑った。ソールヴァルトまでもが笑いだした。 まるでしよう。私たちがいっしよなのを見れば、攻撃が意図されて 私もなにが可笑しいのかわからなかったが、つられて大笑いした。 いないとかれらも安心する筈です。あなたは良い人ですね、 修道院の石垣の裏手からは、幾度も静まってはまた我慢しかねるとヴァルト いえ失礼、あなたの甥の呼び方をつい思い出してしま いました。いらっしゃい ポーイ・ニュ】ズ、私の手を離さないよ いったふうに、どっと笑い声が起ったものだ。院長がノルド人たち の笑い声がやむのを待って、ドイツ語で静寂を呼びかけた。このと 一つに」 きにはもう、ちらほら忍び笑いが聞こえて来るだけだった。そして なんの それから彼女は大声を張りあげた。「門を開けなさいー 彼女は言った。 危険もありません」そして、五人の男とともに ( なかの一人はソー 「これら良き人びとは フアザー・ケアプル、信徒たちに伝えてルフィン、あれほど彼女を憎んでいた若い男だった ) 、我々はふと ください これら良き人びとは私の愚かな冗談を許してくださるい丸太が引き抜かれるのを待った。なかは猫の額ほどの隙間もない でしよう。真実、私は醜聞も侮辱も意図してはおりませんでした。 ような有様だったが、猛々しい戦士たちの姿に人びとはじりじりと しかし、笑うのは良いことです。医者たちの言うごとくに、体液を後退し、わずかに道がひらけた。 鎮める効能があります。それに、かかる地位にあるにも拘わらず、 振り返ると早くもノルド人たちは門内に押し入り、扉の左右の石 常日頃から私に厳粛さと徳性が欠けていることは、わが信徒たちも垣のきわに剣を抜き、盾を構えて立っていた。中央の塔に近づくに つみびと 良く承知しております。いえ、じつを言えば私は大いなる罪人、たつれて、左右に分かれる群衆の動きはしだいにのろくなった。絶え 4 6

2. SFマガジン 1984年11月号

4 ( 承前 ) もちろん、あきらかに個人的なそうした感情を、そのまま自己の 内部に取り込んで指定席を与えるのは、司政官としての判断に影響 を及・ほしかねないのだから、つとめて避けなければならない。まし て、おのれの気持ちに押し流されるというようなことは、禁物であ る。たしかに彼はウイスボア港到着以来、司政官としての顔を固守 することなく、タトラデンの元植民者ゆえの感情をしばしば表出 し、ときには演技を超えてそれに乗ったりしたけれども、そうした のはその場面でそうするのが適切たと思ったからであって、心任せ にやったのではない。頭の奥ではつねにさめた感覚がいて手綱を握 っていたのだ。そうでなければ・ハランスを失してしまうであろう。 だから、今のこの気分そのものは否定し得ないとしても、それにと らわれないように、抑制出来る限り抑制すべきなのである。彼は濁 りの色を見せはじめていた胸中を、何とか澄ませようと努力した。 そして : : : そういう意識の一方で思ったのだが : : : もしも彼がこ の出身世界のタトラデンではなく、他の世界の担当司政官だった ら、決してこんな心理状態に陥ることはなかったのではあるまい か。こういう、感慨に浸りたいのに許されないことによる不完全燃 焼の感覚や養育院が変りつつあるらしいことへの焦りと不満といっ たものは : : : すべて、彼がかってタトラデンの植民者であったため に湧きあがって来たものである。他の世界の担当であるならば、し かにそこの何かに没入したとしても、結局外来者としての立場や感 覚から離れられないであろう。どんな思考をしようとも、司政官と して、司政庁側の人間で終始するはすである。数多い司政官のうち 異例にも出身惑星タトラデンを任地として与えられた待命司政官 キタに与えられた任務は、さらに異例なものだった。タトラデンが 中心となっている反連邦的な第四五星区プロック化を阻止せよとい うのだ。着任後、彼は名家の圧力に抗し学校開設をはかるニクドー ト、タトラデンの原住種族・フ。ハオスの保護を訴え、中でも特別に知 ( ・フ・ハオスの先祖返り種 ) を増や 能も高く闘争本能も強いトズトー すようすすめる科学センターの男らと会う。また、旧知の名家の男 ェイゲル・・ジャクトから舞踏会の招待状を受けとった彼は、 タトラデンの各勢力に好意的な政策をとりつつ、分裂をうながすこ / ヒヤというブ・ハオスの とをもくろみ始める。そして手はじめに、、・ 仮設都市を彼は訪れ、そこで思いがけず知性的な・フ・ハオスたちと会 い、その一人パャサバから司政庁とハビヤとの交易、およびハビャ の主権を認めることを要請される。それについて解答は留保したま ま彼は司政庁へもどり、ついでウイスボア市へ向った。海路ウイス ボア港についたキタは、出迎えの群衆に迎えられる。そして上陸し た彼は、第一の目的地、彼の育ったウイスボア州立西北養育院を訪 れ、そこが彼の育った養育院とはすでにかなり異っていることに気 づくのだった。 登場人物 キタ . ・ 4 ・カ / 日ビア : : : タトラデン出身の司政官。 ドラエテ・・エクドート・ : ・ : もと通信社を経営していた女性。 ミア・・コートレオ : : : 東海岸通信の女性記者。 ハビヤの委員を務める・フ・ハオス。本名パャサニャレイ ・ハヤサバ : ェイゲル・・ジャクト : : : 初級・中級学校時代のキタの同級生 の兄。ジャクト家の男。 チャムパト・・ディル : : : ウイスボア州立西北養育院の院長。 ダノン・ eo ・セク日ビア : : : 養育院時代のキタの後輩。現在は西 北養育院の職員。 8

3. SFマガジン 1984年11月号

青い惑星の昼の側、高高度に、きらりと輝く点としてあらわれた かったから、 ードウェアをそっくりコビーして造ることはできな それは、見るまに大きくなる。灰色の機体。双垂直尾翼。ア。フロは 。人間の脳を造るというわけこよ、 冫冫しかない。それでラジェンドラ 7 ここでを左に向ける。戦闘機は側方五キロをすれちが は、素材は無視して、情報の流れる回路を模倣する。ラジェンドラ う。その後、戦闘機は急旋回、一発のミサイルを発射。 の能力では再現できない回路もあり、そんなときは、等価の回路を 〈重力制御をしない、空力だけを制御している航空機です。航宙機複雑な手順で組むのだが、等価とはいえ、同じというわけにはいか ではありません〉 なかった。ラジェンドラには、このおれの、人間の悲しみという感 「あんなものが飛ぶなんて奇跡だな。・ハ ランスを崩したらあっとい情は理解できないだろうとラテルは思う。感情という複雑な現象を うまに堕ちる。だけど、きれいだな。危うい美しさがある」 ラジェンドラはシミュレートできるが、ラジェンドラがそれを実現 〈機体制御とは別のコンピ、ータを搭載しています。情報分析用かするには実に冗長な回路を組まなければならない。回路は等価でも と判断できます〉 組まれた回路の種類の違いによって、理解しやすい思念とそうでな いものがある。ラジェンドラのハ ードウェアは、悲しみというソフ 「解析できるか。できれば、この戦いの内容もわかりそうだ」 トウェアを走らすのは苦手だ。ラジェンドラはだから、泣かない。 〈構造がわたしたちのものと異なっています。わたしの仲間のよう , イロットとコンタクトし海賊課刑事などをやっていると、とラテルは思った。自分の脳の なのですが、コンタクト不能。ラテル、。、 構造そのものが変化していって、泣くことのできない人間になるか てみますか ? 〉 もしれない : 「なんて言うんだ ? 言葉が伝わったとしても、彼はおれの言うこ となど信じないだろう。彼を知るには、彼の脳を解析しないといけ「おれはマシンじゃない」ラテルはつぶやいた。「たぶん、あの。 ( イロットも人間なら、おれの気持ちがわかるだろうな」 ない」 異星体とコンタクトするには、その考え方を知る必要がある。人〈それはどうでしようか〉ラジ = ンドラが言った。〈気持ち、とい うのはソフトウェアに関わるものが多い。 ードに依存しないソフ 間には理解できないような思考でも、その思考を生む源である脳な カ人間だとしても、マシンではない どの ( ードウェアを知ると、なるほどと納得できることがある。宇トもあります。あの。 ( イロット : という証拠はどこにもありませんよ、ラテル〉 宙警察刑事のラテルは未知の異星体に対処する教育を受けていた。 たとえば未知の脳、それが有機系であろうとコンピュータであろう「やってみるか」 そのハ と、に出会ったとき、ラジェンドラにその構造を解析してもらい ードウェア構造体がどんなタイ。フかを知るには、ある問題 ラジ = ンドラの空いたメモリ空間に、似たような構造体を実際に組に対してそれがどのような行動をとるかを観察して予測する方法が んでやると、対象となる思考の流れをシミ、レートすることができある。考え方を、構造から知るのとは逆の手順だった。 ( ー ドの違 た。誤差がでるのはしかたがなかった。ラジェンドラは万能ではな いによって扱いやすいものとそうでないソフトがあるなら、あるソ

4. SFマガジン 1984年11月号

) F カ特派員報告く 歓声が湧く。マガジン編集長今岡清氏も地図を片手に、池袋駅からローコンⅢの会部屋をうろうろするうちに、夜はふけていっ 御一緒である。たちまちのうちに花嫁やら庸場、豊島区民センターへ向かう。目標になるた。 ところで トートツですが、スタッフの方々 はずの住友銀行がない、あるはずの道がな 兵やら魔道士やらに取囲まれるお二人。 徹夜の準備、その他いろいろ御苦労様でした。 この会場に居るもの全て栗本氏の想像力のい。少々迷ったがたどりつけた。 ( 八月十一、十二日於豊島区民センター文 所産と断言しても過言でない故、その人気の場内が暗くなり、オー。フニング・フィルム 度合は凄まじい。話題の中心は一気に栗本氏が始まった。場内だけでなく画面も暗くてよ化ホール特派員・中町道信 ) く見えなかったが、宇宙船かなにかが映って へとなだれこんでゆく。 いたらしい。つづいて ;-:XOO 会長の井口忠 その頃ロビーでは、全国に広がるグイン・ 金沢発 サーガ・ファン・クラブが店出しをして同人利氏が渡独したときの報告。右の画面にはビ 誌の類を売りさばくという、よくある光景がデオが映され、左にはスライドが映され、中 八月十八日もひどく蒸し暑い夜だったが、 見られ、控室の横では、コン・ヒ、ータを持ち央でその説明をする。まずローダン・シリー 込んだスタッフが栗本薰氏の著作リストを・フズを発行しているパベル書房。その倉庫の大金沢の旅館富士久は周囲を圧する熱気にあふ リントアウトしてみんなに配るというサービきさは圧巻で、中で連動会ができそうなぐられていた。Ⅲ合宿のスタートで い。二千万冊ものロ 1 ダン・シリーズが入っある。 スをして、好評を得ていた。 会場へ戻ってみると、参加者有志による出ているそうだ。その出し入れは自動化されて今や北陸の夏を彩る一大イベントとなった いて、機械にカードを入れてボタンを押すだウラコンであるが、今年も名誉実行委員長の し物が始まっており、歌を歌う者、劇をやる ( 一台に五千柴野拓美氏をはじめとする多くのゲストを迎 者、グイン・サーガについて意見を述べる者けで欲しいシリーズの・ハケット など、ファンは強い。 冊 ) がガタンゴトンと転がってくる。ローダえて盛大に行われた。 まず合宿での夕食会でオー。フニング。柴野 さていよいよ祭も大詰めを迎え、全員で輪ン作家へのインタビュ 1 もおもしろかった。 ル・タイム。スタッフの指あの《銀河の奇蹟》四部作のエルンスト・ヴさんが矢野徹、宮武一貴、高千穂遙、石黒昇 を作ってカドリー ゲストも交じえてぎこちなくステッ。フルチェクやマガジン増刊号で紹介された各氏ほかのゲストを紹介の後、楽しいお食 をむ参加者たち。ところが本番になって流マリアンネ・シドウなど。特にマリアンネ・事。 八時から企画開始。とは言っても一度に九 れ - 曲が「勇者ライディーン」。たちまち大シドウは昔からのファンだけあって、彼 合日となって踊るどころの騒ぎではない。結女の家は本だらけ、ドイツの関係の本はつの部屋ではとっても見て回れない。柴野さ 局適当な曲が見つからず、ディスコ大会に突すべて揃っているそうだ。な・せか冷蔵庫の中んのワールドコン・レポートの部屋を見てい 入してしまうとは、一体誰が予想しえたであにまで本が詰っていた。そのあとは、太陽系たが、やはりアメリカはすごい。柴野さんの ろうか。 帝国の構成の解説や、宇宙船講座などの企画説明を聞きながら、出るのはタメ息ばかり。 特にすごいのはコスチ = ーム。あれに比べれ その後、興奮さめやらぬまま、コス・・フレが続いた。 夕方、本郷にある合宿会場、鳳明館台町別ば日本のは幼稚園児並み。アメリカはすごい の審査発表が行なわれ、とにもかくにも闇の グイン大祭は終りを告げたのであった。 館へ向かう。・ハンフレットの地図によるとな いはずの道があって、あるはずの道が見つか続いて同じ部屋で暗い夜話を主催。と ( 八月十二日於石垣記念ホール ころが、アルコールもはいらないうちから明 特派員・佐藤鉄斎 ) らない。少々迷ったがたどりつけた。 午後七時から合宿企画が各部屋で始まつるい与太話の部屋となり客が自主運営。しば た。ビデオの部屋や、ローダン見栄講座や太らくいてから脱出してしまった。 東京発 しかしどこも似たような状況で、矢野さん 陽系艦隊の戦略と戦術の部屋、遙か彼方のロ ーダン・シリーズのストーリイ解説の部屋、の部屋や売店″くるくる ;-;>< ″は言うに及ば 八月十一日、送られてきたパンフレットのアニメ・ソング大合唱の部屋 : : : いろいろなず、どこもかしこも酒と笑いの渦。わずかに ローコンⅢ