タトラデン - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1984年11月号
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1. SFマガジン 1984年11月号

それはたしかにそうであろう。タトラデンを自己の意志で去り、 チャムバト院長の流儀が肌に合わないからといって、ここでわざ ひとたびはタトラデン植民者社会と縁を切った彼には、何もいうこ 2 わざ異を唱えるような愚をおかすつもりは、彼にはなかった。ない とは出来ないのである。 以上、和する態度を示すのが、作法というものである。 だから、それはそれとして : : : 彼が注意を惹かれたのは、ラドラ 「用意が出来たら、呼びに来るはすです」 1 スンという名前が出て来たことであった。ラドラースンは九九七 院長はまたいい、彼は軽く頭をさげた。 「ところで : 星系第三惑星で、タトラデンを含む第四五星区・十四個の星系中、 : いかがでした ? 」 ややあって、チャムバト院長は、ロを開いた。「司政官殿がおら七つある植民世界のひとつなのだ。彼は自分がタトラデン出身であ れたころから見ると、この養育院もだいぶ変ったのではありませんり、さらに訓練や学習、また、タトラデン赴任にあたっての再学習 ということもあって、当然ながら七つの植民世界名はそらんじてい る。順不同に挙げれば一〇〇三Ⅲタトラデン、一〇〇七Ⅱレクサン、 「そうですね。何しろ、私がここを出て長いですから」 一〇〇九Ⅲセゼアヌン、九九七Ⅲラドラ】スン、九九九Ⅱザラエ 彼は、そんな受けかたをした。 ン、一〇〇〇虹ハクシエヌン、一〇一〇Ⅱデセイヨンだ。だがそれ 「これも、時代の流れということでしような」 チャムパト院長はいう。「ご存じの通りタトラデンというところはタトラデンを除いて、いずれも知識として覚えているのだった。 は、エネルギーをまだまた失いそうもない、いを わ・よ雑駁世界でしてタトラデンの植民者だった時分にも、同じ星区にそういう植民世界 が存在するという話は何度も耳にしたけれども : : : それらはあくま いや、私はタトラデンを出たことがないので、これはラドラー スンから来た人がいったことの受け売りですが : : : 中でもウイスボで別世界であって、それほど身近なものではなかったのである。 ア市はどんどん発展し変化しているのですから : : : この西北養育院ところが、チャム ' ハト院長がこうして簡単に、ラドラースンから 来た人、などと喋るとなると、たしかに昔よりはそれらの世界が近 も、例外ではないということでしようか い存在になっているのだろう。チャムバト院長が、そのラドラース 「そうでしようね」 ンから来た人間と直接話し合ったのか、それともタトラデンを来訪 彼は頷い チャム・ ( ト院長のいいたいことは、彼にはよくわかる。もしも司した人物の語録めいたものがマスコミで紹介されたのを引用したの 政官が以前のかたちの愛着を抱いていたとしても ( それは事実そのか : : : 彼にはどちらとも見当がっかなか「たものの、以前より他の 世界との距離感は縮まっているのは疑いないのた。この感覚が、第 通りなのだが ) 現在のように変貌して来たのは時代の必然であり、 かっ、これはタトラデン植民者社会自身の問題であって、やむを得四五星区プロック化の進行や星間交流会議といったものと連関して いることは確実である。その状況証拠を見せつけられたようなもの ないと解してもらわねばならない との意味を、言外に匂わせて であった。 いるのだ。

2. SFマガジン 1984年11月号

には、そうではなくなった者もいるかも知れないが、ふつうはその彼は、すすめられるままに院長室の、来客用のやわらかな椅子に腰 はすである。それはそれで明白に疎外感につらなるに違いないけれをおろした。 チャムバト院長が、テー・フルを置いた向いの席に位置を占める。 ども、疎外感としては、むしろすっきりしているとはいえまいか ? 「それでは」 なまじその世界の出身であることによる帰属意識の残骸や反撥と、 ついて来たダノンを含む三人は、それそれ用があるのか遠慮した それに伴う屈折を帯びた疎外感よりは、ずっと扱い易いのではある まいか ? もっとも : : : こんな発想は彼の場合、無意味には相違なのか、一番年上にあたる職員がそう声をかけるのと共に、会釈をし かった。彼がタトラデンの担当司政官になったのは、タトラデン世て部屋を出て行こうとした。 「ああ、ダ / ンくん」 界が連邦にとって不都合な方向に進みつつあるためであり、彼がそ の世界の出身だから事情に通じ他の誰よりもタトラデン社会内部に チャムバト院長がすわった姿勢で身をひねり、手をそちらへ伸ば 入り込みタトラデン社会を動かし得るのではないかということに起して呼んだ。「きみ : : : せつかく先輩が、それも司政官になって来 因していたのだ。でなければ彼はいまたに待命司政官として、・ハシて下さっているんだから : : : もう少し居たらどうかね。いろいろお ・ヨゼテンかどこかで優雅ではあるがどこか空しい生活をつづけて話申し上げたいこともあるだろうし」 いるであろう。彼がタトラデン以外の世界の担当司政官になれる確院長のそのすすめは、ダノン・・セクいビアにとって、望む 率は、待命司政官ーーそれも実習さえしたことのない待命司政官ところだったようである。 が、それ自体ひとつの層として位置づけられている現代、無きに等「ありがとうございます」 ダノンは頭をさげ、院長側の椅子に、しかし院長への礼儀もあっ しいかえれば、彼が しいと考えるのが間違いのないところである。 タトラデン以外の世界を担当していたら、との仮定そのものが、すてか、やや離れたところにすわった。 「記者会見の用意が出来るまで、それほど時間はかからないと思い でに空想的なのであった。 あるし冫 、よ、タトラデンに戻って日が経ちこうしてウイスボア市にますよ」 も来ているにかかわらずいまだに残る違和感や中途半端な感覚は、 チャム・ハト院長がいった。 「こちらで勝手に設営したりして、お これからもずっとつづくのかも知れない、と、彼はちらりと考えた疲れのところまことに申しわけないのですが : : : ま、ああいうマス りした。ひょっとすると、自分はこのタトラデンで帰還を本当に実コミ関係者というのは、こちらがへたに避けようとすれば押しかけ 感するときは、ついにないのではあるまいか、という気がしたのて来て、つまらぬ臆測をしたがるものですから。むしろ積極的に利 、と思いましてね。ご迷惑だったでしようか ? 」 だ。そして、それが予感であるのかそうでないのかは、彼には何と用するほうがいし もいえないのだった。 「いえ。とんでもない」 彼は、微笑を浮べた。 といった一連の想念や自己抑制を頭のうちにめぐらしつつ、 9

3. SFマガジン 1984年11月号

4 ( 承前 ) もちろん、あきらかに個人的なそうした感情を、そのまま自己の 内部に取り込んで指定席を与えるのは、司政官としての判断に影響 を及・ほしかねないのだから、つとめて避けなければならない。まし て、おのれの気持ちに押し流されるというようなことは、禁物であ る。たしかに彼はウイスボア港到着以来、司政官としての顔を固守 することなく、タトラデンの元植民者ゆえの感情をしばしば表出 し、ときには演技を超えてそれに乗ったりしたけれども、そうした のはその場面でそうするのが適切たと思ったからであって、心任せ にやったのではない。頭の奥ではつねにさめた感覚がいて手綱を握 っていたのだ。そうでなければ・ハランスを失してしまうであろう。 だから、今のこの気分そのものは否定し得ないとしても、それにと らわれないように、抑制出来る限り抑制すべきなのである。彼は濁 りの色を見せはじめていた胸中を、何とか澄ませようと努力した。 そして : : : そういう意識の一方で思ったのだが : : : もしも彼がこ の出身世界のタトラデンではなく、他の世界の担当司政官だった ら、決してこんな心理状態に陥ることはなかったのではあるまい か。こういう、感慨に浸りたいのに許されないことによる不完全燃 焼の感覚や養育院が変りつつあるらしいことへの焦りと不満といっ たものは : : : すべて、彼がかってタトラデンの植民者であったため に湧きあがって来たものである。他の世界の担当であるならば、し かにそこの何かに没入したとしても、結局外来者としての立場や感 覚から離れられないであろう。どんな思考をしようとも、司政官と して、司政庁側の人間で終始するはすである。数多い司政官のうち 異例にも出身惑星タトラデンを任地として与えられた待命司政官 キタに与えられた任務は、さらに異例なものだった。タトラデンが 中心となっている反連邦的な第四五星区プロック化を阻止せよとい うのだ。着任後、彼は名家の圧力に抗し学校開設をはかるニクドー ト、タトラデンの原住種族・フ。ハオスの保護を訴え、中でも特別に知 ( ・フ・ハオスの先祖返り種 ) を増や 能も高く闘争本能も強いトズトー すようすすめる科学センターの男らと会う。また、旧知の名家の男 ェイゲル・・ジャクトから舞踏会の招待状を受けとった彼は、 タトラデンの各勢力に好意的な政策をとりつつ、分裂をうながすこ / ヒヤというブ・ハオスの とをもくろみ始める。そして手はじめに、、・ 仮設都市を彼は訪れ、そこで思いがけず知性的な・フ・ハオスたちと会 い、その一人パャサバから司政庁とハビヤとの交易、およびハビャ の主権を認めることを要請される。それについて解答は留保したま ま彼は司政庁へもどり、ついでウイスボア市へ向った。海路ウイス ボア港についたキタは、出迎えの群衆に迎えられる。そして上陸し た彼は、第一の目的地、彼の育ったウイスボア州立西北養育院を訪 れ、そこが彼の育った養育院とはすでにかなり異っていることに気 づくのだった。 登場人物 キタ . ・ 4 ・カ / 日ビア : : : タトラデン出身の司政官。 ドラエテ・・エクドート・ : ・ : もと通信社を経営していた女性。 ミア・・コートレオ : : : 東海岸通信の女性記者。 ハビヤの委員を務める・フ・ハオス。本名パャサニャレイ ・ハヤサバ : ェイゲル・・ジャクト : : : 初級・中級学校時代のキタの同級生 の兄。ジャクト家の男。 チャムパト・・ディル : : : ウイスボア州立西北養育院の院長。 ダノン・ eo ・セク日ビア : : : 養育院時代のキタの後輩。現在は西 北養育院の職員。 8

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0 ◎ル ' 83 年ヒューゴー / ネビュラ賞特集 ヒューゴ賞ノヴェラ部門受賞作 ネビュラ賞ノヴェラ部門受賞作 1984 SF マガジン ⑩祈り 他の孤児 ⑩憂鬱な象ーー ①特集解説 ①引き潮のとき 創星記 く連載第 6 回〉 。被書空間 0 マ不レラ・グリーン・スリーヴス 平田真夫 ジョアンナ・ラス 冬川亘訳 ジョン・ケッセ丿レ 村上博基訳 ス / イダー・ロビンスン 風見潤訳 小川隆 ヒューゴ賞ショート・ストーリイ部門受賞作 タトラデン支配層との会見は近づく く連載第 22 回〉ーー眉村卓 川又千秋 石盤の文字の意味するものは・・ 星雲賞を独占した作者の野心作 ! 神林長平 工ゾコン SF コンテスト入選作品 The following stories are reprinted with permission of the owner, fo 「 which acknowledgement is here gratefully made : Souls by Joanna RussO 1982. Another 0 「 phan by JOhn KesseI 01982 by Me 「 cury Press. 表紙イラストレーション : 鶴田一郎扉・目次イラストレーション : 佐治嘉隆表紙 : 2 色べージレイアウト : マッセルカンパニ 本文イラストレーション : 金森達 / 山進岩淵慶造 - 吾妻ひでお / 加藤直之 / 天野喜孝 / 佐治嘉隆 / 横山宏 / 錦織正宜

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と、チャム・ハト院長はいったのだ。 かの方法で会話を中断させようとするのが、順当であろう。 とすれば、誰かが戻って来る気配をが感知したというの院長が、映話が終了したときに記者会見の用意が出来ているのを が先だ。 知ったのか、映話が終ってもすぐにここへ戻らず何かしていたのか ・ : 彼にはわからなかった。そして、自分がこんな忖度をするとい なりなりは、彼とダノンが会話に熱中して、ここ の人間が戻ってくるのに気づかないのではないか、と、あやぶんうのは、自分が、いかにかっての院生の先輩後輩といういわば内輪 で、警告したのではないか ? ふたりの話の内容が、チャム。ハト院どうしだとはいえ、チャム。ハト院長や院長のやりかたについての批 長ならむろんのこと、ここの職員たちに聞かれては具合いの悪いも判的言辞をダノンと交したための、軽いうしろめたさがなさせるわ のであったことは、事実なのだ。人が来る前にやめさせよう、と、 ざなのか、と、思ったりしたのである。 警告どして声を出したのだと考えることも出来るのだ。 彼は立ちあがり、チャムぶト院長たちにつづいて、記者会見にあ どれが当っているか、彼にはわからない。わからないけれども、 てられた部屋に入った。 誰かが戻ってくるということだけは疑いなかった。ロポット官僚が記者会見は、はじめのうちは主として、古巣の西北養育院を訪ね 司政官に嘘をつくことなど、あり得ないからである。 た彼の心境や、養育院の印象といった事柄に費された。当然そうで とすれば : : : 他の人抜きでダ / ンだけと話すことがあるのなら、 あろうと予想はしていたものの、これは彼にとっては不用意に答え 今のこの瞬間に完了してしまわなければならぬ。 られない、神経を使う仕事であった。というのも、こういういわば 脳裏を電光が過ぎるようにそれだけの思考が走るのに、こういう情緒的な問題になると、報道陣はあらかじめ彼の返事をある程度予 とっさの分析に馴れている彼でも、やはり、一秒あまりかかっただ想し、期待しているもので、そこを外れると次々と突っ込んた質問 ろうか。もうそのときにはドアの外に足音が近づいて、 / ックするが出てくるもので、そうならないように気をつけねばならなかった のが聞えた。 のだ。そしてまた、もともとチャムバト院長がこの記者会見を設営 「考えてみよう」 した目的が、司政官自身のロによるウイスボア州立西北養育院のイ 彼は短くいい、ドアを見て、声を大きくした。 メージアップにあったことは歴然としていたから、まともに院長の 「どうそ」 方針や今の養育院の行きかたに異を唱えるのはむろんのこと、そう 、賞揚すべ 別に彼がそんなことをいわなくても開けられていたであろう、と匂わすだけでもまずいことになるのはたしかなので : いう位の間隔で、ドアが開いた。 きことは賞揚し、そうしたくないことは私はタトラデンを長く離れ 姿を現したのは、チャム・ハト院長と、ふたりの職員である。院長ていたのでよくわからないが、院長の努力には敬意を表したいと思 の映話が済んだのはたしかだが、それだけではなかった。 うーーといった表現で応じる、ということが必要だったのである。 「記者会見の用意が出来ました。どうぞこちらへ」 中にはいささか意地悪い記者がいて、あなたのいたころと今とでは 6 2

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しかしこれは今の場合、会話とは無関係である。彼はこのことをばして喋ったのではない。要点をはっきりさせ、まとまり良く的確 に話したのだ。それは院長の明敏さを示していたともいえるし、同 頭の隅にしまうにとどめた。それに今の言葉は、院長室の壁ぎわに 佇立しているロポットたち、なかんすくによっても聞かれ時に、院長がこのことについては頭の中ですっかり整理がなされて ており、に送られのデータのひとっとなったはずなのおり、すでに何度か他人に説明したせいなのかもわからなかった。 そんなしたいで、チャムパト院長の話は意外に早く終り、終る だ。それをがどう受けとめるかは別の問題であるが : 「そういう流れの中にあって、この西北養育院は、私がいうのも何と、彼の顔をみつめていったのである。 「ま、大体はこういうところです。しかし計画はあっても、こうい ですが、相当な実績をあげていると自負していますー うことは援助がなければどうにもなりません。ご存じでしようが養 チャム・ハト院長はつづけた。「その上、このたびはここを出た方 がタトラデンの司政官になったのですから : : : ますます注目を浴び育院に廻ってくる予算は、たかが知れておりますのでね」 「それはお察しします」 ることになりました。名誉なことです」 「いろいろと、あたらしい試みもしておられるようですね」 一応は相手の言を受けたかたちでたが、彼はさりげなく、話を少 月 1 日月ー月引日水 スポーツ図書フェア 1 グランデ 2 階 し外した。チャム、、ハト の今のやりかたに対して、彼は面と向って否 定もしない代り、積極的に肯定の意を表することもしたくなかった 1 月日月ーⅱ月日金 ぐるまの本」フェア のである。そのためには西北養育院の実績とか評価とかについての グランデ 5 階 話題は長くつづけないほうが安全だ、と、思ったのだった。 エキサイティング 1 月 1 日明 51 月引日水 : これは、チャムパト院長にはすみをつける格好になった。 フックマート 4 階 プロレス図書フェア 「それなのです」 学 チャム・ハト院長は、身を乗り出した。 代 尹築化職会庫童 趣演ア さら そして、さきほどの説明で話し切れなかった事柄をいし 0 カテ建理就社文児 に、現在計画中のシステムや新設備について、喋りだしたのだ。 学機生経教詩家 聴きながら、彼は、まだ発言の機会を得られないでいるダノンの 0. ンク噺グ 田 3 典気衛学学術 ほうに、ちょっと視線を走らせた。ダノンは院長の話に耳を傾ける の 泉一文文泉」辞電医法哲文 人 しぐさをとっていたが、彼の視線に出会うと、ほんの一瞬ながら、 田町皆皆階階階階階 代呆ー・ 5 ・ 門書 千 6 5 4 3 21 地 若 あきらかな苦笑を浮べてみせた。 圭日〔 1 専 もっとも、チャムバト院長は、そうした事柄をだらたらと引き延 2