) F カ特派員報告く 歓声が湧く。マガジン編集長今岡清氏も地図を片手に、池袋駅からローコンⅢの会部屋をうろうろするうちに、夜はふけていっ 御一緒である。たちまちのうちに花嫁やら庸場、豊島区民センターへ向かう。目標になるた。 ところで トートツですが、スタッフの方々 はずの住友銀行がない、あるはずの道がな 兵やら魔道士やらに取囲まれるお二人。 徹夜の準備、その他いろいろ御苦労様でした。 この会場に居るもの全て栗本氏の想像力のい。少々迷ったがたどりつけた。 ( 八月十一、十二日於豊島区民センター文 所産と断言しても過言でない故、その人気の場内が暗くなり、オー。フニング・フィルム 度合は凄まじい。話題の中心は一気に栗本氏が始まった。場内だけでなく画面も暗くてよ化ホール特派員・中町道信 ) く見えなかったが、宇宙船かなにかが映って へとなだれこんでゆく。 いたらしい。つづいて ;-:XOO 会長の井口忠 その頃ロビーでは、全国に広がるグイン・ 金沢発 サーガ・ファン・クラブが店出しをして同人利氏が渡独したときの報告。右の画面にはビ 誌の類を売りさばくという、よくある光景がデオが映され、左にはスライドが映され、中 八月十八日もひどく蒸し暑い夜だったが、 見られ、控室の横では、コン・ヒ、ータを持ち央でその説明をする。まずローダン・シリー 込んだスタッフが栗本薰氏の著作リストを・フズを発行しているパベル書房。その倉庫の大金沢の旅館富士久は周囲を圧する熱気にあふ リントアウトしてみんなに配るというサービきさは圧巻で、中で連動会ができそうなぐられていた。Ⅲ合宿のスタートで い。二千万冊ものロ 1 ダン・シリーズが入っある。 スをして、好評を得ていた。 会場へ戻ってみると、参加者有志による出ているそうだ。その出し入れは自動化されて今や北陸の夏を彩る一大イベントとなった いて、機械にカードを入れてボタンを押すだウラコンであるが、今年も名誉実行委員長の し物が始まっており、歌を歌う者、劇をやる ( 一台に五千柴野拓美氏をはじめとする多くのゲストを迎 者、グイン・サーガについて意見を述べる者けで欲しいシリーズの・ハケット など、ファンは強い。 冊 ) がガタンゴトンと転がってくる。ローダえて盛大に行われた。 まず合宿での夕食会でオー。フニング。柴野 さていよいよ祭も大詰めを迎え、全員で輪ン作家へのインタビュ 1 もおもしろかった。 ル・タイム。スタッフの指あの《銀河の奇蹟》四部作のエルンスト・ヴさんが矢野徹、宮武一貴、高千穂遙、石黒昇 を作ってカドリー ゲストも交じえてぎこちなくステッ。フルチェクやマガジン増刊号で紹介された各氏ほかのゲストを紹介の後、楽しいお食 をむ参加者たち。ところが本番になって流マリアンネ・シドウなど。特にマリアンネ・事。 八時から企画開始。とは言っても一度に九 れ - 曲が「勇者ライディーン」。たちまち大シドウは昔からのファンだけあって、彼 合日となって踊るどころの騒ぎではない。結女の家は本だらけ、ドイツの関係の本はつの部屋ではとっても見て回れない。柴野さ 局適当な曲が見つからず、ディスコ大会に突すべて揃っているそうだ。な・せか冷蔵庫の中んのワールドコン・レポートの部屋を見てい 入してしまうとは、一体誰が予想しえたであにまで本が詰っていた。そのあとは、太陽系たが、やはりアメリカはすごい。柴野さんの ろうか。 帝国の構成の解説や、宇宙船講座などの企画説明を聞きながら、出るのはタメ息ばかり。 特にすごいのはコスチ = ーム。あれに比べれ その後、興奮さめやらぬまま、コス・・フレが続いた。 夕方、本郷にある合宿会場、鳳明館台町別ば日本のは幼稚園児並み。アメリカはすごい の審査発表が行なわれ、とにもかくにも闇の グイン大祭は終りを告げたのであった。 館へ向かう。・ハンフレットの地図によるとな いはずの道があって、あるはずの道が見つか続いて同じ部屋で暗い夜話を主催。と ( 八月十二日於石垣記念ホール ころが、アルコールもはいらないうちから明 特派員・佐藤鉄斎 ) らない。少々迷ったがたどりつけた。 午後七時から合宿企画が各部屋で始まつるい与太話の部屋となり客が自主運営。しば た。ビデオの部屋や、ローダン見栄講座や太らくいてから脱出してしまった。 東京発 しかしどこも似たような状況で、矢野さん 陽系艦隊の戦略と戦術の部屋、遙か彼方のロ ーダン・シリーズのストーリイ解説の部屋、の部屋や売店″くるくる ;-;>< ″は言うに及ば 八月十一日、送られてきたパンフレットのアニメ・ソング大合唱の部屋 : : : いろいろなず、どこもかしこも酒と笑いの渦。わずかに ローコンⅢ
) F カ特員報告《 ぬえランドがそれらしい形態を保っていただ本界には " チベット″を自称する地域がが、部屋によっては、きれいな画面を楽しめ け。なにしろ企画部屋と寝部屋が区別できずたくさんあった云々」というものだ。そした。 結局私もどこかの部屋で未明まで大騒動。 て、実に広島というのも、その中の一つなのそしてタ刻、梶尾真治、田中芳樹の両氏が さて眠い目をこすりながらの当日は金沢市かもしれない、と私は思う。 御到着される時間には、各部屋ともすっかり 観光会館。二千人収容の大ホールを中心に九そんな広島で、初めてのコンヴェンシ盛り上がっており、到着の放送に、それそれ カ所で企画が同時進行。おまけに。フログラム ョンが開かれるというので、とりあえず駆け大歓声の一幕もあった。 があてにならないとあって右往左往の有様。つけて見た。会場は、広島平和公園のすぐわ明けて十九日、夜遅く ( 朝早く ) まで飲ん 気がついたら大ホールで高千穂遙ショーをき、旅館″新萬である。 だくれて眠そうな参加者も、メインホールと 見ていた。スペースオペラやヒロイック・フ 天気は快晴、絶好の日和の中でこの大サ・フホールにそろそろと集まって来た。サプ アンタジーの書き方とか次作の予定について会は始まった。開始間際にハ。フニングが二つホールでは、梶尾、田中両氏の対談。メイン 会場からの質問もまじえてなかなか盛りあが ほど発生したと聞く。まず一つが、ゲストとホールでは野田氏秘蔵のフィルム公開。 ( ご っていた。 して参加していただくはずの今日泊亜蘭氏ろごろ寝ている連中もずいぶんいたが ) 。 会場をぐるっと回ると即売会場やらが、体調がおもわしくないということで参加 そして、メインホールに全員が集まり、オ やらオークションやらは大盛況でじっと覗き取りやめになったということ ( どうそお大事ークション、クイズ大会と進んで閉会式。参 こむだけ。石黒さんを囲む会とファン同士が に ) 。そしてもう一つは、庄原でピラミッド 加者による、なんでも人気投票の発表があ おしゃべりする部屋におじゃましたがなかなを捜しておられた、小松左京氏が、一日めだ り、投票総数六千数百票の声に、会場にいた か楽しかった。 け遊びに来て下さるという知らせが入ったこ全参加者二百名足らずは、大笑い。このおか 大ホールに戻ってマクロスショーを見たがとである。 げで徹夜したスタッフ、参加者は数知れず。 せつかく石黒、宮武、松崎の三氏を迎えなが後者は、正しくうれしい誤算であったが、 あらためて、ゲスト四氏の紹介があり、さ ら構成がいまいち。テレビ版を大スクリーン直前の数日間、スタッフのあわて振りは大変らに一般参加者の中から、マガジンでお に流したのが一番おもしろいのでは情けなであった様だ。 なじみの飛浩隆氏、リュウでおなじみのみち とにもかくにも、聖火入場に始まって、午はらかつみさんも、紹介された。 続いて、コスチュームショー。なぜか中森後一時には、つつがなく開会式ということに そして、なにはともあれ、広島初のコ 明菜が登場したりもしたが、なかなか楽しか なった。ゲストの野田昌宏、小松左京、そしンヴェンションは幕を閉じる。 て長谷川正治の三氏が紹介され、今日泊氏と 非常に、こじんまりとした、手作りの大会 そしてエンディング。再び柴野さんの宣言電話でお話をしたり、いろいろ面白い工夫がであり、参加者としての私は、色々と楽しま で閉幕した。それでは、スタッフ諸氏とも参見られた ( 機械が不調であった、残念 ) 。 せていただいた。 加者の皆さんともまた来年会えることを祈り 以後、分科会が始まり、夕食を経て、夜もそして思うことは、ヒロコン 1 と、わざわ ながら : ふけてゆく。メインホールでは、小松氏によざ『 1 』をつけた意気込みを、大きく買いた ( 八月十八、十九日於金沢市観光会館 るピラミッドの話があり、夕食後は野田氏にいということである。 特派員・北野喜樹 ) ・ハトンタッチされた。その他、長谷川氏を中その証しを、来年とはいわない、是非とも 心としたアートの部屋に始り、ゲームの近いうちに示していただきたい。と、スタッ 部屋、マイコンゲーム、 ードサイエンス、 フの健闘を祈りつつ、投票のしすぎで痛む腕 広島発 スベオペ、九州、エトセトラ : : : と、まをさすりながら、私は・ハイクにまたがり家路 についたのである。 いつだったか、このコ】ナ 1 にうまいことだくさんな企画が行なわれた。 ( 八月十八、十九日於旅館新亀萬 を、書いた方がおられた。日く「かって、日 は、機械がやや不調で残念だった 特派員・宮城島浩之 ) Ⅱ— 0 0 Z 1
今のア・ハ 1 トに引っ越してからもう一年この文章が載るのは秋だろうけど、真夏そのときだった。どこかから、いきなり 8 の夜中に聞いた奇怪な声や音のことを話し声が聞こえてきたのは。 以上たつのだけれど、実に不気味なアパー トなのである。 てしまおうと思う。 女性の声だった。泣いているような笑っ 新築で一斉に人々が入居したのだが、今その日、ぼくは真夜中の二時頃、机に向ているような、とぎれとぎれの言葉になら ない女性の声である。 だにどの部屋にどんなか住んでいるのか かって原稿を書こうとしていたのである。 全然判らない。かろうじて隣 ( ぼくの部屋かなり蒸し暑かったのだが、なぜかその夜うーむ、なるほど。ぼくは単純に納得し た。実にうらやましい。楽しそうだなあ、 は一階の一番端である ) には若い夫婦らしにかぎって、クーラーは体に毒だ、などと きものが住んでいるらしいということは、突然思い、部屋中の窓を全開にして机に向と。 そしてその女性の声が止んだ。と思った なんとなく判った。 ついこのあいだ夜かい、耳掃除などをしていたのである。 中にドタバタとけんかをするような音が夜中の二時であるからして、外はしんとら、今度は電気剃刀を使っているような、 し、通路の方で「あんたなんて金だけじゃ静まりかえっている。ラジオもなにもつけジージーという音が聞こえだしたのであ ない ! 」という女性のどなり声が聞こえてていないから部屋の中も同様である。放庇る。 きたからである。いったいどんな夫婦なの などしようものなら、大音響となって響き今度は、なるほど、とは思わなかった。 なんだである。こんな夜中に誰が髭を 渡ってしまう。 剃っているのだろう ? やがて、そのジージーいう音も止んだ。 そして、その後が、なんとも恐しいので れこ ある。野太い男の声がして、こう言ったの だピ妻 「お客の前では入れてみたりするんだそ」 はは = きマ 思わずぼくは、なんだなんだと椅子から いったいどこから聞こえてく 立ちあがり、 こ私セ了イ」てマ るんだとテラス窓に歩み寄ってしまっ 、ノ なんみ雇会を たくらいなのだ。 カ もっと聞こえてこないかとも思ったのだ が、暑くて仕事にならないので窓を閉めき りクーラーをかけてしまった。 題 「女性の奇妙な声」「ジ 1 ジーいう音」 0
格子窓からななめにさす光が明るくなった。水の音とキャンヴァス の軋りがきこえ、 ハンモックの揺れはとまらず、周囲の男たちが身 じろぎしはじめた。その夢に似た穏やかさにひたっているうちに、 不意に、自分はいま船に乗っているのだと気づいた。 鐘が一つ、ついで二つ隝った。すでに大半の男は起き出して、ふ っふついいながらハンモックをかたづけていた。 「どうした、ファロン」だれかが大きな声でいった。「起きろ」 目を覚ますと、暗がりと、揺曳感と、大勢の人間の体臭があっ た。頭をもたげて・ヘッドの反対側へ手をのばそうとして、べッドに 2 寝ていないことに気がついた。キャンヴァスの ( ンモックに寝て、 他にたくさんハンモックの吊られた部屋で揺られているのだった。 「キャロル : : こまだ半睡状態でまわりを見まわしてから、これは彼の名はパトリック・ファロン。三十二歳、シカゴの穀物取引所 はっと気づいたら夢だったということになるのだろうと思いながのさる仲買商社に勤める取引員である。毎週火曜の晩は、アスレチ ら、また仰向けに寝た。よく夢のなかで経験する、あの自分自身かック・クラ・フでスカッシをやる。キャロル・・フーカティという女 らの距離感を感じた。だが、部屋はなくならず、汗と潮のにおい、 と暮らしている。 なにやらむっとくる油のにおいは、むしろ現実味をました。上方の前夜、彼は同業者の夫婦がひらいたパ 1 ティに、キャロルと出か われたた一人のがれて汝に告げんとて来たれり ョ・フ記 1 7 7 幻 5
で毛布を引きよせて肩にかける。部屋は完全に空調されていて、別るのだろうか。 に寒いというわけではないのだが。 「おい、エア・コンはどことつながってるんだ」 「わかりました、御主人さま。四時ごろまでならできるそうです」 「外と直通させていますけど、いけませんでしたか」 「そうか、ならばそのようにしてくれ」 「なんだ、やつばりそうなのか。いや、それでいいんだ。ありがと う」 「かしこまりました。センターにはそう伝えておきます。ただ まったく良くできているものだ。電子頭脳の召使い。彼の思考パ 「うん、何だ ? 」 ターンを完全に記憶しており、その場その場に実に的確な処置をし 「もしも、三時に雨がやめば、虹が見られるといっているのですていく。昔の人間の仕事では、こううまくはいかないだろう。 「コーヒーをくれ」 「虹、か」 「かしこまりました。お食事は ? 」 、あとにする」 もう、ずいぶん長い間見ていない。 これも「あそこ」では見られ「いし 「では、どうそ」 ないものだ。 「今日をのがすとどうなる ? 」 壁の一角が。ハタンと開き、マジック・ ハンドが現われた。湯気の 「いつになるか不明です。この一週間以内にできなければ、おそらたっカツ。フを持っている。彼は飲み物をすすりながら、再び窓の外 をみつめた。水滴のうしろには、彼の良く知っているビルが雨にか く二カ月以上先になるでしよう」 気象センターも万能ではなく、好きなときに好きな天気を、といすんで立ちならんでいる。昔からずっと変らない街ーー・東京。 うわけこよ、 冫しかないのだ。 東京は美しかった。いや、この時代、都市はどこでも美しいの だ。それらはすべて、思い出を材料にして作られているから。 しかし、二カ月もか。そんなに生きられるのたろうか。こればか 良い時代だったのかも知れない。 りはこの時代の医学でもわからない。だが そう、少なくとも彼自身は何不自由なくすごしてきた。望んだこ 「いや、かまわん。やつばり今日は雨の音を聞いていたい。四時ま で続けるようにいってくれ。気が変わったら、また知らせるから」とはたいていかなえられたし。現に今だって、こうして彼のために わかりました」 雨を降らせている者さえいる。彼にはそのぐらいの権利はあったの 「べッドを起こしてくれ」 彼の命令に寝台がゆっくりとおきあがり、窓が目の高さの所に来 思い出の時代か。 た。水の匂いがする。部屋の空気はすべて人工的に調整されてるは 今、世界はまったく平和だった。この惑星の歴史の中では、これ 9 ずたから、気のせいかも知れないが。それとも、外の空気を入れて以上のおだやかな時代を見つけることはできないぐらいに。災害、 が」 - 」 0
それに、誰かがこの部屋にやってくるというようなことを、 O が告けるのがそもそも異例である。どこかよそを訪ねて、そこ 2 「司政庁で、何か・ほくに出来る仕事はないでしようか」 の人間が部屋に帰ってくるのを報告する義務は、特別な場合を除い て、にはないのだ。 彼は相手を見た。 だから、これはその特別の場合なのであった。 西北養育院の院生あがりで、養育院の教官をしているダノンが、 が ( あるいはその連絡を受け後見しているが ) こ そんなことをいいだすとは、予想もしていなかったのである。なる ものではないかも知れない んな真似をした理由はいくつか考えられる。 ほどここの教官の待遇は、そんなにいい が、職業としては安定しているはずなのであった。 一番可能性が高いのは、なりなりが、司政官であ 「今の養育院の行きかたには、ぼくはもうついてゆけないんです」る彼がダノンに返事を与える前に、ストツ。フをかけようとした ダノンは視線をテープルに落とし、低くいった。「古い人で辞めということである。司政官が、これまで司政庁とは何のつながりも なかった人間、それも私的関係にある人間に、司政庁での仕事はな た者も、たくさんいます。ぼくは何とか頑張ろうとしてやって来た いだろうかと問われれば、減多な返事をされては困ると判断するで のですが : : : もう疲れました」 あろう。返事そのものをするなというのか、するのなら慎重にして : うかつなことはいわないでもらいた そういわれてみれば、彼には納得出来るのだった。ガレャン時代もらいたいとの警告なのか : 、との意思表示だった、とも解釈出来る。 の養育院で育ち、ガレャン風の養育院が自分たちの養育院だと信じ て来たダノンには、今の、いわば成長拡大主義のチャム。 ( ト式のやあるいは、そこまでの強いものではなく、彼とダノンの会話が個 りかたは、耐えがたいのであろう。自分がダノンの立場だったとし人的なところに行き過ぎ、しかもこの養育院長をそしると取られて ても、やはり同じことを考えたかも知れない。 も仕方のない話になって来たから、彼の自粛を求めようとして、そ 「何かあれば、手伝わせて下さし。に 、よくみたいなものがお役に立つんな挙に出たのかも知れない。 かどうかわかりませんが : : : 納得して、打ち込める仕事をやりたい だが、そのどちらにせよ、声を発して司政官たちの会話を中断す んです」 るために、誰かがここへやって来るというようなことを告げなくて ダノンはいう。 も、ほかにもっと適当ないいかたがあるのではないか ? 司政庁か 「誰か、ここへ戻って来るようです」 らの緊急の用件とか何とか : : : もっともらしい事柄がいくつもある 突然、が、ふだんよりやや大きな音量でいった。いつもはすである。たまたまそうしようとしていたところに、誰かが戻っ のような、今よろしいですかの前置きもなしに、会話に割り込んでてくる気配を聞きつけたので、そんなことをいったーーーというわけ だろうか。それではタイミングが良過ぎるのだ。もっと前に、何ら 来たのだ。
ロシイは、この効果が計算ずくのものであることを知っていたが、 ・はさっ エレヴェ、ーターのドアが開き、菩薩の誓願は途切れた。ドロシイ 効果を超越することはできなかった。そのことに彼女は苛立ち、苛 だが、少なくと 彼女は超然とした気分になろうはエレヴェーターが止まったのを感じなかった 立ったということにまた苛立った。 , とした。 も百メートルは降ドしたことを知っていた。ドロシイはエレヴ = ターを出た。 終わりのなさそうな通廊の終わりにエレヴェーターがあった。フ ィリツ。フは彼女をそのなかに押しこんで、ある階のボタンを押し部屋は予想していたより大きかった。それにもかかわらず、動力 た。それが何階であったのか見るチャンスはなかった。そして、通っきの大きな椅子が部屋を支配しているように見えた。椅子はまた 少なくとも、視覚的にはーーそこに座った人をも支配している 廊に戻った。 ように見えた。その印象は間違っている。老人はこの大きな邸を、 「幸運を、ドロシイ 邸のなかのすべてを、邸の建っている国のほとんどを支配している 「ありがとう、フィリツ。フ。確実なこと、避けるべきことについ て、なにか情報は ? 」 のだから。だが、そのようにはまったく見えなかった。 香りの交響曲が演奏されていた。・フラシ = フスキーの″幼年期″ 「そうだな : : : 痔の話はするな」 のシナモンの楽節である。それはたまたま彼女の好きな曲だった。 「そんな話をする人がいるもんですか」 フィリツ。フは徴笑した。 それが彼女を勇気づけた。 「こんにちは、上院議員」 「木曜に昼食をいっしょにどう ? 」 「タ食をいっしょにしてくれるなら」 「やあ、ミセス・マーティン。わが家にようこそ。座ったままで失 彼は片方の眉をあげた。 「もちろんですとも。お会いくださって、ありがとうございます」 「朝食は ? 」 「こちらこそ。わしぐらい年になると、あなたのような知的で美し 彼女は考えるふりをした。 「ブランチにしましよう」 い女性と時をすごせるのが楽しみになりますのじゃ」 彼女がそう言うと、フィリツ。フはちょっとお辞儀をして、一歩さ「議員、いつになったら、お話を始めることができますの ? 」 っこ 0 、刀ュ / 老人はかっては眉のあった部分をグイと上げた。 エレヴェ 1 ターのドアが閉まり、彼女はフィリツ。フの存在を忘れ「わたしたちはまだ真実をなにひとっ口にしておりませんわ。あな たが座ったままなのは、立てないからです。あなたが寛大にも会っ しゅじよう むへん ″是れ苦諦の衆生を縁じて無邊の衆生を度せんと願ふなり。是れ集てくださることになったのは、わたしが三通もお手紙をさしあげ、 うて、 むじんぼんのう 相場より高いお金をお払いしたからです。あなたは渋々とわたしと 諦を縁じて無盡の煩悩を断ぜんと願ふなり。是れ道諦を縁じてー 礼」
らないのだ。いかにも引き受けそうにして、かっ、可能ならば助カ 彼は返事をした。 「そういうことですから、もしよろしかったら司政官殿からもご助すべきなのである。とはいえ実際に具体的な業務をとりしきる TJQ 2 1 がどういうかまだわからないのだから、言質を与えるのはやめて 力を願えるとありがたいのです。もちろん、無理は申しませんが」 : そういう答えかたになったのであった。 チャムパト院長はそういうと、横のダノンに目をやった。「ダノ 「とにかくーーー」 ンくん、後輩のきみからも、お願いしてほしいところだな」 チャムパト院長がまたいいかけたとき。 「ひとつ、よろしくお願いいたします」 ノックの音がして、ひとりの職員が入って来ると、院長に小声で ダノンは、素直に彼に向いて、深々と頭をさげた。 何かを告げたのだ。 「ごもっともです。びとつ、検討させてみましよう」 彼は、記者会見の準備が出来たのかと思ったが、そうではなかっ 彼は答えた。 こういうことになるかも知れないとは、彼ははじめから漠然と予た 「申しわけありませんが : : : 急な映話がかかっているとのことで、 期はしていたのだ。それがチャム・ハト院長のさきの説明を聞いてい るうちに、これでは多分そうに違いないと考えるようになったのだちょっと失礼します」 : ・思った通りなのであった。それに、院長がわざわざダ / ンを院長はそうことわって、座を立ち、その職員と一緒に、部屋を出 引きとめたのは、なるほど後輩のダノンが先輩だった司政官に話して行った。 たいことがあるだろうとの思いやりがなか「たとはいえないたろう映話ならこの部屋の院長のデスクにもあるのだが、別室へ行「た が、こういう役目をさせる目的もあったのではないか ? 考えてみのは、客の前で話せない内容の用件なのかも知れない。 院長がいなくなって、先に口を開いたのはダノンのほうだった。 ればあたらしい司政官がこの西北養育院の出といっても、チャム・ハ ト院長は直接のかかわりは持っていなかったのである。司政官であ「ガレャン院長とは、だいぶ違うでしよう」 と、ダ / ンはいったのだ。 る彼とのパイゾ役に、ダノンを持って来るというのは、ごく自然な その発言は、い、かたとしては司政官に対するものであったけれ 発想であろう。 助力というのが経済的なものなのか、司政庁からの何らかの便宜ども、中身はまぎれもなくガレャン・・ビアが院長だった時代 供与を指しているのか、あるいはその両方を考えているのか : : : 彼の者どうし : : : その後輩が先輩に同意を求めるものであった。 にはわからなかったし、それだけのことが今の司政庁に出来るの だから彼は、ためらわずに喋りかたを切り替えたのた。 か、出来たとしてもほかから不公平だとの文句が出ないのか : : : 彼「なかなかの、野心家のようだね」 には不明だった。不明だが、あらゆる方面に好意的に出ようとの方彼は応じた。 針を維持しようとするからには、拒否しそうなそぶりを見せてはな彼のその口調に、ダノンはにやっとし、頷きながら、いうのだっ
「何を弾く ? 」 「マイ・レディ・グリーン・スリーヴス 雨の中に響く歌声。それはたぶん、見る者すべてに懐かしさを与 8 「よろしい。そういうと思ったよ」 える光景にちがいない。この街に住んでいる妖精たち。彼らもま 彼はゆっくりと弾きはじめた。もう何百回となく弾いている曲た、すぐれた電子頭脳と人間そっくりの姿を持っロポットなのだ。 だ。天井の電子頭脳がそっとその音をひろって、外へと導き出す。 そうすると、音はそのあたりにいる者ーー。道を行く妖精たちの耳に事の起こりはこうであった。 とどいて、歩みをとめさせるのだった。 ある日、正確には二三四二年の初め、一人の天文学者が太陽の輝 「マイ・レディ・グリーン・スリーヴスた」 線スペクトルのずれに気づく。核融合の条件が変化したのだ。すな 「本当だ。マイ・レディ・グリーン・スリーヴスだ」 わち、二三〇〇年代の終りまでには、太陽の表面温度が急上昇し、 「あの人はまだ大丈夫なんだな」 もとに戻るころ、地上には一部の植物と魚類ぐらいしか生き残って いないであろう。 彼の部屋の下には、何人もの妖精が集まってきて、その窓を見上 げた。妖精たちはみなそれそれの役目に合ったかっこうをしてい 混乱の中、それでもいくらかの対策が立てられた。しかしながら る。警官、学生、。 ( ン屋、だれもが彼の思い出を保存するためにそ結局は一部の人間しか救う事はできず、その彼らもまた、飢えと渇 の役わりを果たし、この東京の街に参加している。それが今は彼のきで死んでいった。そして、地上には天文学者の予言どおり、植物 部屋の下に集まって、雨にぬれるのもかまわずに、彼の音楽に聴きと水中の生物と、数百体のロポットだけが残されたのである。 入っているのだ。 ロポットたちがまずはじめたのは、当然生き残った人々をさがす そのとき、誰かが小さな声で歌い始めた。 ことだった。同時に、もし何人かでも見つけ出せたときのために、 住む所も作らねばならない。そのための機械も。だとすると、もっ グリーン・スリーヴスはわが命 と仲間が必要だ。 グリーン・スリーヴスはわが喜び 電子頭脳の衝動のままに、彼らは行動を開始した。さいわいにも 材料だけは豊富にある。ロポットはそれで仲間を作り、機械を作 すぐにまわりの者がそれに和し、あたりに静かな合唱が流れはじり、街を作った。数年後、地球上には再び文明の歯車が回りはじめ める。 たが、しかし人間を見つけることはできなかった。それでも作業は 続いていた。 そんなとき、大平洋の小さな島国、かって日本と呼ばれた所に行 った者が、耐熱壁でかこまれた資料保存室に、一つの記録を見つけ グリーン・スリーヴスはわが命 グリーン・スリーヴスはわが喜び
「まるで水からあがる必要なんかないみたいだ。泳いだあとは、な なくなったが、それでも彼女が必要だった。彼女がいまなにをして にをしても張り合い抜けなんじゃないかな」彼らしくもないことを いるのか、自分のことをどう思ってくれているのか、まだ気になっ いった。いいたくていったのではないが、彼女のほかになにを欲した。ときには気にしすぎだと思うこともあった。ときには、彼女な ているのか、自分でもわからなかった。 しにすごしたいと思った。彼女がいなくてもやれることがあるから 彼女は怪訝な顔をし、それからちょっと笑って。フールサイドにあでなく、ただ彼女なしにすごしたいのだった。 がり、両足を水にたらした。「自分でもときどきそう思うわ。あた 朝、彼女が着がえるのを見ていて、これはどういう人間なんだろ し、キャロル・・フーカティ」彼女はしごくビジネスライクに手をさう、なぜこの人間は自分とこのおなじ部屋にいるんだろう、といぶ しだした。 かる。夜、眠っている彼女の横に寝て、こめかみのみじかい褐色の 「。ハット・ファロンだ」 毛を指先でなでていると、彼女を所有し、彼女の顔を両手ではさみ 彼女はグレイのタンク・スーツを着ていた。ほそやかで、胸は つけ、彼女のすべてを知りつくしたい猛烈な欲望にかられる。とっ さく、長身で、あごがとがり、目は茶色だった。あとでわかったのぜん、その不可能が、身をふるわせる欲求不満となって、しまいに は、彼女がダンスの名手であること、シカゴの大手デパートで婦人は彼女をなぐりつけるのをこらえるのが精一杯になる。きっと自分 服の仕入れをしていること、旅行が好きで、へたな詩を書き、料理の、あるいは彼女の、どこかがおかしいのだ。自分が死んだら彼女 が好きでなく、子どもが好きで、彼に好感を持っていることだっ はどれぐらい悲しむだろう、葬式にはなにを着て行くだろう、将来 た。最初は彼女に性的興味を持っただけだった。ただし、最初二、 の恋人たちにはなんといってきかせるだろう。そんな夢想がつぎつ 三度寝たときは、あまりよくなかった。そのうちセックスがよくなぎにわく。 るとともに、ファロンは惚れてしまった。 キャロルも彼にそんな気持ちを持つのかどうか、彼女はなにもい イ事がおわってから、アスレチック・クラブで待ち合わすようにわなかった。ファロン自身も、自分の気持ちをしごくあいまいない なった。夕方ラケット・ポールをやって、食事をして、映画を見いかたでしか説明しなかったから、こちらの気持ちをわかってほし て、夜はどちらかのアパートですごした。彼女のアル中の父親に引 いとは思っても、彼女にはむろん通じなかった。だから、状況がお き合わされた。元警察官で、選挙区政治やらディリー市民のマシン かしくなってきて、さらにその度がくわわったとき、彼はなにが悪 やらについて、とめどのないおしゃべりをきかされた。クリスマス いのか自分でもいえないのだから、彼女に説明してやることなんか にはキャロルが、彼の両親の家へきてすごした。い っしょに暮らすできなかった。彼の不満の種は、恥すかしくて口にいえないような アイーンにおさまった。 ようになると、ふたりは居心地のいし / ことばかりだった。それでも、ときどきもう自分たちの仲はおしま 彼女の情愛に包まれていると、彼は安堵を覚えた。しばらくする いだ、もう自分はなにも感じないと思いつつ、どうかするとまた、 と、もうあの最初の日ほど、最初の二、三カ月ほど、彼女を欲しく彼女が部屋にはいってくるだけで頬がゆるんでくることもあるのは 232