くなかったが、思わすジーンズの前を押さえてしまいそうになるほ どセクシー・こっこ。 おれの背後のドアが開き、吉永が玄関へ入ってきた。キーホルダ ーについた車のキーをチャラチャラさせている。 「いやあ、まいった。いつも鍵掛けると、キーが抜けなくなっちゃ 。ありや、こんな所でなにしてんだ。あがれよ。どーんと それこ、 冫しいかげんサングラスをは あがってくれ。おれの家だ。 ずせよ , 吉永はおれの肩をシシ叩き、。 コムそうりを脱ぎ捨てて上がり 「いらっしゃいませ」 ロへあがった。 玄関で三つ指をついて出向かえてくれた吉永の奥さんを見て、お おれは、そうか、と思ってサングラスを、あわててはずしてアロ れは腰を抜かしそうになった。今までの暑さやコブの痛さや腹立ち へ入れた。 / の胸ポケット 吉永の奥さんを見ると、おれの顔 力いっぺんに宇宙のかなたへ消しとんでしまった。 を、やさしく徴笑しながら見ていた。 「えと、このたびは新居にお招きいただきまして恐縮ですつ。え おれは顔を赤らめ、テニス・シュ—ズを脱いであがり、彼女がた と、吉永と大学時代、同じ広告研究会にいました三崎ですっ」 してくれたスリッ パを履いて吉永の後に従った。 玄関に突っ立ったおれは人形のようにペコペコ頭を下げた。 っと背後を振りかえると、吉永の奥さんが身を屈めて、おれと吉 玄関の上がり口に正座して、深々とおじぎをしていた吉永の奥さ永の履き物を、きちんと並べていた。 んが顔をあげ、おれの顔を不思議そうに、じっと見た。 視線が彼女のミニ ・パンツに包まれたキュッとひきしまった尻に 彼女が顔をあげたとたん、黒のタンクトツ。フの前から、胸の谷間 へばりつくのを、無理矢理はがした。 が見えてしまった。ーー・彼女は黒のタンクトツ。フに白のミニバンツ 「ま、どーんと座ってくれ。取りつけたばかりのエアコンもきいて という涙がでそうに悩ましいかっこうだったのだ。グラマーと言っるし」 ていい素晴らしい体で、手足はまったく日に焼けておらず真白たっ おれは小さな洋間に通された。 こ 0 吉永が独り掛けの椅子に座ったので、おれは向かいの長椅子に座 吉永の奥さんが、まだ小首を傾げ、パッチリした眠でおれの顔をつた。 「いい家じゃないか」 じっと見ているので、おれはどぎまぎした。ーー額の中央で分けた 長い髪を両肩の後ろにやり、背中に流していた。化粧つけはまった おれはいかにも建て売りだな、と言った感じに手をぬかれた内装 のである。 そして、吉永は前方を喜々として指差したのである 1 「見よっ ! あれこそ我が家だっ ! 」 気の遠くなるほど広大なキャベッ畑の中に、グリコのおまけみた いに小さな白い家が、ぼつんと、たった一軒だけ建っていたのたっ こ 0 5 4
かれは骨を・ハラ・ハラにしながら、磁力を強めた。磁線にひきつけ 受けた。白い強烈な光の東が飛んできた。 前脚の制御がきかなくなったと思ったら、両方とも膝から下がちられて骨のひとつひとつが立ち上がり、近いもの軽いものから、肉 9 2 ぎれ飛んでいくところだった。かれはウオオオッと叫んだ。感覚神のスー。フの中をズルズルひきずられはじめた。 経をすべて遮断した。自分の体がいったいどうなっているのかよく磁場をもっと強めると、ひつばられるというより走り、跳びはね わからなかったが、首がスツ。ハリ切断されて落ちてしまったときはるように吸いついてきた。かれの核融合ュニットは、銀色の金属片 につつまれたみの虫のようになった。 視界が一回転した。 かれは畜殺場のラマダのように手足を切られ、首を落とされ、肉再びレーザーが襲いかかってくる。 のかたまりとなってドウッと横倒しになった。 かれは電子脳とアイを金属片につつみこんで防御の姿勢に入りな まさしく血の海と呼ぶにふさわしい量の赤い血液がドクンドクンがら、必死で考えをめぐらした。連中も核融合ュニットを撃ったり はしまい。核融合ュニットを壊したら、このあたり一帯、取り囲ん 流れ出して、戦車の足を濡らすところまでやってきた。 ふと見ると、モビルは形を変えつつある。砲身を突き出し、かれでいる部隊ごとそっくり消減してしまうだろうから。 を狙っているのだ。 核融合ュニット そうか、そうだーーー核融合ュニット : 砲身はいっせいに長い炎を吐き出した。 かれは軍の修理班員の記億をひつばり出した。 複数の炎のラインはかれの体の上で合流して、すつぼりと包み込核融合ュニットは円環構造をとっている。超伝導コイルでぐるぐ んでしまった。 る巻きにして、核融合。フラズマというけものを閉じこめている。磁 かれのたくわえた細胞は、ものすごい高熱にたちまち溶け出し場で閉じこめているのだ。 かれは燃えさかる家と、レーザーや火を吐く黒い戦車の群れを同 ( 家がー 時に見た。 かれは電子アイを突き出して家を見た。 かれは超伝導コイルの一部を、わずかに、ほんのわずかに、ずら 家にはすでに火が燃えうつって、オレンジ色の舌が激しい愛撫をした。磁場にミクロの亀裂が入った。 くり返していた。 その瞬間、青い光が核融合ュニットの一端からほとばしり、その ( ョナ ! ) 光の帯は、最前列にいたモビルを次々に切り裂き、吹っとばし、ひ かれは立とうとした。 つくり返し、ヘし折り、グニャグニヤに溶かしていった。だが、か 火炎のなかで灼きつくされた細胞が、 ドロドロになって骨の間をれにはそれを見ることができなかった。核融合プラズマのけものが 流れはじめている。 放たれた瞬間、反動で後方の燃えさかる家の中へ、吹き飛ばされた からだ。 かれは核融合ュニットのコイルのまわりに磁場を発生させた。 するとかれの特殊金属の骨が、い っせいにユニットのほうを向い シノハラ中尉は何かを感じた。 何かあるときは必ず背中に悪感が走る。それが良いことであれ、 こ 0
「そうよ。で、何なの その、緊急事態とやらはーー、何が起「中佐ーー お言葉ですが、我々技術部員は、毎日、いえ、毎時間 こったっていうの ? 」 が、 O O —との戦いでした。たから、分かるんです。今までは、単 5 答えないわけこよ、 なる調子つばずれで済んでいた。けれど、もう、手におえません。現 それに様子からすると、彼女は明らかに、少佐の居場所を知在の 0@0—= の状態を、ひと目ご覧になれば、あなたたってーー」 テックマ / っている。 「分かったわよ、技術員ーーー」 いや、それどころか、彼女は、少佐の同行者の一人に違いないと相変わらずの面倒そうな口調で、アイリーン・は言葉を継い 思えた。 さもなければ、ヴィーナスターをほとんど離れることのない女王「 だからって、どうしろって言うの ? あたしや、 0 少佐 然とした彼女が、そんな場所にいるはすがない。 に、 O O >-«のお守りを押しつけようっていうの ( : : : それにしても ) 「そうじゃないんですーーー ! 」 キュイ ロン・は、またも顔をしかめた。 思わず、ロン・ 0>-4 は、大声を張り上げた。 (-50 少佐とアイリーン・という組み合わせが、いかにも無気「言った通り、 oæo—æは現在、ある種の錯乱状態に陥りつつあ 味なものに思えたからだ。 ります。そしてーーー信じられないことに、彼女は、幻覚を見ていま 一体 : : : 彼等は、そんな場所で何をしているのか す。ええ、その様子が、モニターにはっきり現われたんです。そし 「実はーーー」 て、その幻覚の世界で、独り芝居を演じながら、ローヴァー・ 00 ロン・ O>H は、説明をはじめた。 少佐の名前を口走ったんです , ー・・・ ! 」 「の状態が、極度に悪化しているんです。もう完全に、 「ローヴの名前を : ・ 狂気と呼んでもおかしくない状態で、このままでは、何が起こるか「そうです だから、どうしても、少佐の口から、事情を説 きたいんですーー」 「待ってちょうだい アイリーン・ Q が、不快を隠そうとしない口調で言った。 アイリーン・の声が、微かに高ぶったように感じられた。 「あれは、もともと気が狂いかけてたんじゃないの ? それに、 o 「何だって言うの ? O O —は、一体、何を喋ったってい gac-)—}--a がおかしいからって、ローヴ、いえ、 (.50 少佐を呼び出しうの ても仕方がないでしように。彼が自分で直せる機械は、オイルライ ええ、それが」 テックマン ターくらいのものよ。自分たちで、何とかなさいよ、技術員ーーー」 彼女に話すべきかどうか、若干の迷いを覚えつつ、ロン・ ロン・ O* は、さすがに腹に据えかねた。 は、答えた。 キュイ テッグスダップ
初めて気づいたようにそう言った。 づけているのだった。 Q ・はカアッと羞恥を覚えた。凡人にはよくわからない感覚器 「私には、わかりません」 に、自分のからだを″見られた″と思った。 Q ・は本心からそう言った。 サン。フル群は、 << 群が失敗におわったのち、人類文明の存亡を「そんなつもりはなかったんだ。おまえ、名まえは ? Q ・は数秒おくれて、やっと答えた。 賭けて生み落とされた。 群を使用するか、しないか、結局は神官であるかれの決断が優「へス特殊部隊少佐です」 「ファ 1 スト・ネームは ? 」 先されるだろう。 「ダナです」 かれの顔がグラグラゆらいだ。細かな波の立っ水面を通して見て かれは明らかに驚いたようにべッド いるようだ。 「いずれにしろ : : : 虹号は捕獲するか、殺すかしなければならな「ダナ・ヘスか ! 」 「そうです」 かれの表情は読みとれなくても、空気の流れのようなものでわか かれの姿が激しく揺れた。そのまま、この空間から切れて、どこ るのだ。かれは殺す、という考えに耐えられないでいる。いやなのかへ飛ばされていくのではないかと思うほど激しい。 かれは咳込んだ。 高価なものを破壊することではなく、意志を秘めたものの未来を 咳の合い間に言った。 「 : : : おまえ、子どもを生むそ」 阻止することが耐えられないのだーー・は、かれの精神の高貴 さと脆弱さに同時に触れたような気がした。そして、さらに強く魅 Q ・は直立不動していることも危うくなってきた。床が実体を 失いかけている。 きつけられた。 「Ⅲ号の居場所はじきにわかる」 「このぼくを、生むのだ ! 直属の部下と結ばれて : : : 」 かれが断言するときは常に正しい かれは思念を強烈に集中させた。 Q ・はかれの判断を待った。 Q ・は、床がぐにやりと溶けて投げ出されたような気がした。 「ぼくが、おまえをそこへ送ってやろう」とかれは言った、「三十白い空間が一転して、暗黒へ突き落とされた。だが、かれがすぐそ 時間ほど未来になるが、かまわないか」 ばにいて、彼女の体をグングン加速させているのだ。 それは質問ではない。・は敬礼した。 ・は、なかば気を失いかけていた。 息子 ? ・カれカ ? : : 子ども ? : : : まさカ ? : ・ : かれが思念を集中させるために腕をふるのが見えた。 「・ : ・ : おまえ、女か」 視る : : : 時を : : : 飛ぶ : ・ : ・のだー の中で身を起こした。 力い れ、 は を 2 3 7
問題は、そこから醒めた時た。 そこから醒め、あたりを見回し、そこで彼女が何を考え、何をし N 0 Z ー 4 ようと思い立つかが問題なのだ。 ( ーー・しかし、そんなことが、この俺に分かるものか ! ) ( 非常事態だ , ーー キュイ キュイ ロン・ O>H は、こうなってしまうまで、結局、根本的な対処を何 ロン・ O>H は血が滲むほどに唇を噛みしめた。 ついにーー最終的に、が発狂した・ー・ともかくも、彼ひとっ考えようとしなか「た各機構の責任者たちに、煮えたぎるよ うな怒りを覚えた。 は、そう信じた。 テッグマン ( ーーどうして、俺たち技術員たけが、その尻拭いをさせられにや 信じざるを得なかった。 この、わけの分からぬ映像ーーそして、それよりも以上に、不可あならんのだ冗談じゃない セラブレイン こんな場所で、発狂した珪素頭脳の気まぐれによって事故死させ 解な歌と言葉ーー・分裂した、やりとり : ・・ : というよりも、相手がい : なられるようなことにでもなったら、死んでも死に切れない。 るはずはないのだから、自問自答と呼ぶべきかもしれないが : ・ フル・フェイス んであれ、錯乱としか言いようのない音と画像を、総機能端末器研究員たちは、まだいい。 彼等は、好き勝手に″下界″へ逃げ出せる。 は、とめどなくモニターし続けている。 テックマン が、この衛星基地に特定配置されている技術員には、それが許さ まさしく 彼が聞いた警報は、正真正銘の危険を告知してくれたことになるれない ここにとどまり、ヴィ 1 ナスターと運命を共にするしかないの ではないか。 「ーーー何が、冥界の女王だ ! 」 キュイ まず、仲間に知らせるべきか ロン・ O>H は、湧き上がってくる恐怖心と戦いながら、吐き棄て しかし、知らせたからといって、何ができるーー・・・ ? るように一一 = ロった。 O O —»-Äの狂気は、今にはじまったことではない。 「人間にはなれないが、神にならなれるかもしれない、たと 何とかできるくらいなら、とっくに誰かが、何とかしている。 ( : : : 待てよ ) 狂っている。それも、完全に キュイ ロン・ O>H は、不意に思い付いた。 そのことは、嫌でも分かる。 : ロ 1 ヴァー・ OO の名前を呼んだの O O —は、今、確か : しかし、ます、どうすればいいのか OQO—* が、このリアルな幻覚症状の中に浸り込んで、自作自ではなかったか ニメラルドが、・ とうこうとも一「ロっていた。 演の神話劇に興じている間はまだいい。
、大宮信光 イラストレーション・横山宏 ( SF 乱学者 ) ソラリ地球の錬金術 東京大学海洋研究所に木村竜治助教授を『クオーク』十一月号の に寒かった。神戸大理学部の安川克己教授らが、鐘乳洞の石灰岩か 取材で訪れた。氏は『流れの科学ーー自然現象からのアプローチー ら取り出した試料からそう結論した。 ( 『朝日新聞』八四年四月一一 ー』 ( 東海大学出版会 ) の著者。うち一章が「ソラリスのごとく」 四日 ) ーーもっとも、地球生命の皮膚の温度が、体の内部から決め である。 られるのは、むしろ自然かもしれない。 ソラリス学の歴史が、私達が地球を認識する過程のパロディとみ 地球を動物の構造と比較して、「ソラリス的認識」を示した人が なせるが、地球のほうがソラリスより好意的、とされゑこれま いる。「その肉は大地、その骨は山脈を構成している連続する岩石 - ようかい で、地球内部の現象は地球物理学で、海洋の流れは海洋物理学で、 層、その軟骨 ( 筋肉 ) は凝灰岩であり、その血管は水脈であり、心 まわ みやくよく 大気の運動は気象学で、別々に研究されてきた。ところが、流れの臓の周りに横たわれる血の池は大洋であり、その呼吸や脈搏による 研究が進んで、自然界の流れのメカニズムが似ていることがわかっ血液の増減はまた大地においては海の潮汐であり : : : 」 ( 杉浦明平 てきた。そこから、″地球流体″という概念がうまれた。 訳『知られざるレオナルド』岩波書店 ) レオナルド・ダ・ヴィンチ 氏に会ってお話を伺うと、ある意味でもっと過激な意見の持ちその人である。 主。地球は、百億年の生を生きる一個の生命体。誕生し、発達し、 もっとも、大地が生きているという感情の淵源は、地球生命の発 壮年期を過ごし、老いて死ぬ個体である。増殖はしないけれどね、 生にまで遡行しようがそれを表現したのは原始の地母神崇拝に始ま と。ここで、私と意見が別れた。スペース・セッルメントや世代宇る。大地は、万物を孕む母神なのだ。地母神イザナミは火の神を生 宙船は、地球生命の増殖ではなかろうか。 み、ホトを焼かれる。地母神セメレーはディオニソス崇拝に通底 地球での生命進化の系統発生は個体発生を繰り返す、とは今西錦し、ギリシャ文明の再生の子宮たらんとした。 司氏の卓説である。この場合の個体として、種社会の構成員という その伝でいけば、火山は地母神の汗腺である。インド亜大陸のプ 意味だけでなく、地球生命体の意味を重ねあわせたい。い や、むしレートが南極大陸から別かれ、北に向かう途中、インド洋赤道ふき ろ、地球生命の個体発生の中で孕まれたが故に、系統発生は個体発ん近くで、ホット・スポット ( 地球内部から熱いマグマ流が湧き上 生を繰り返し、種個体もさらにそれを反復するのではないか。 っているところ ) を通過し、大噴火をおこした。噴火で流れ出た溶 ら一人一人、地球生命のミニチ、アだ。生きている地球流体は、ソ岩があふれ、今のデカン高原が生まれた。対流圏を突きぬけ成層圏 ラリスそのものだ。 に噴き上げられた大量の火山灰やチリが、長い間、地球をおおい 生きている地球の中心部は固体核。そのまわりを液体核がとりか 地球は冷えに冷えた。時、まさに六五〇〇万年前、恐竜の大絶減と こむ。深さ 2900 ~ 4600 。液体核の内部に生じる流れが、 なる。 ( ヒサクニヒコ『恐竜博画蒴』新潮文庫 ) ーー地母神が発熱 地磁気をつくりだしている。人はこの深 ~ い深い地下の流れを利用し、汗がだらだら出て、皮膚に生棲する微生物群が減び去ったの して航海や登山とする。 なお、プレート それだけでない。地球の大気は地磁気が強い時に暖かく、 がマントル対流にのって動くというのは、かって 0 ( 」 0 4
1 ェイリアン創造法、Ⅱ作家とし 基本を押えながら自分の描きたい ての税金対策、のうち、やはり重 要なのは、 1 の作家としての資質 良ものを描いているからこそ、面白 であろう。作家というのは結果で さが伝わってくるーーー『アキラ』 あって、目標ではない。小説が、 小説が書きたくて、でし ″アメリカ作家協会の十一名の作家がこ か自分の書きたいものが描けない れからを目指す人が陥りやすい各種の誤から書いて、作家と呼ばれるので ちを懇切に指摘して指導″してくれる『ある。作家と呼ばれるため、名声 の書き方』が″ ( ウ・トウ・ライト・ブックと金銭を得るために小説を書くの ス″の第三弾として出た。既刊のディーン・ ではない。 ・クーンツ ( 『ビーストチャイルド』の著 だから逆に、本末顛倒して、 者 ) の『ベストセラー小説の書き方』や『ミ かにもアメリカ的な″作家と ステリーの書き方』に較べると、いささか面して成功する本と本書を考えれ 白味に欠ける。本書の中でも″道具といつばいいのかもしれない。 友克洋が初期から持っていたもので、映画に ている実用書に面白味を求めるのは御門違い それにしても、こうした禁じ手を守って生よってさらに。フッシ = されたといったほうが かもしれないが、あまりにも当り前のことばまれる可もなく不可もないスタンダードな正しいだろう。こうしたディテールは″絵″ かり書かれているからだ。小説を少しでも読が大量生産されているのが、アメリカでしか表現できない。その″絵″に支えられ んだことのある人間、そして小説を読ん界の現状なのだろうか。日本とて対岸の火事て骨太いストーリイがある。 でいてしかも書こうとする人間にとっては、 のように見てはいられないのだが : 一九八一一年十一一月六日 ( 連載第一回掲載号 各章とも言わずもがなのことばかり指摘され 発売日 ) 、関東地区で使用扣新型爆弾を ている。序章のチャールズ・・グラントの さて、今月の一番のオススメは、小説では契機に第一一一次大戦が勃発、その三十八年後、 部分を読んで、ヤル気を出したなら、本を閉ない。大友克洋の『』である。現翌年にオリンピック開催をひかえたネオ , ト じてしまっても、 しし、とさえ思う。 在も「ヤング・マガジン」に連載中で、全体ウキョウが舞台である。建設にむかう荒廃し 小説作法を教える " 文章読本。の類で、参の約半分くらいまでストーリイがすすめられた都市。ここに " アキラ。をめぐり様々な人 考になると思われるのは谷崎潤一郎のものぐている途中の作品なので、第一巻だけで内容物が入り乱れていくのだが、三五〇頁を超す らいで、およそが " べからず集。や " 禁じを云々するのは早計だろうが、これは傑作第一巻鉄雄の章が終わっても、いやそれに増 手″を並べているのが現状だ。いかに書くの だ。『エイリアン』『マッドマックス 2 』そすアキラの章が連載で終わりに近づいている か、ではなくて、こう書いてはいけない、として『プレードランナー』とい 0 た映像メデ今も、未だに物語の先が見えてこない。質の いうことである。 ィアの影響なしでは生まれなかったかもしれ低下してきている漫画界にあって、これは近 本書で触れられた十一のポイント、ないと思わせる作品。チリひとつなくクリー 来稀にみる作品だ。次の展開が楽しみな連載 作家の資質 ( ライト・スタッフですな ) 、 2 ンなものと誰もが考えていた宇宙や未来に、漫画といえば、他に楳図かずおの『わたしは マーケット、 3 登場人物、 4 会話、 5 ア生活感あふれるディテールを″映像〃でそれ真悟』くらいしかない。だが、大友にしろ楳 イディアとプロット、 6 造語法、 7 未来社会らの映画は見せてくれた。といっても、そう図にしろ、手塚治虫からスタートしたといわ 構築法、 8 未来生活感、 9 未来の政治力学、 した生活の臭いを正確に描写する資質は、大れるストーリイ漫画の定石にのっとってやっ 円 2
が ) が陽をはね返しているのが、彼の胸を打ったのである。矛盾しは、彼に少年を引き合わせた。 ているようだが、他人の服装や持ちもの、そして相手の気持ちにう「そうか。きみが、キタ・カノ日ビアくんか」 ェイゲルは手を伸ばした。「妹から話は聞いているよ。何でもよ とい少年つぼさは、そうしたものに対して鈍いぶんたけ、象徴的な 鋭いはなばなしさには鋭敏である場合が多い。彼にもまたその傾向く出来るそうじゃないか」 「こんにちは。よろしく」 があって : : : その三つの大きな金の星印が、彼をとらえたのであっ いいながら、彼はエイゲルの手を握り返した。映像などではよく 今にして思えば、それは、名家の建物などによくありがちな、周見たが、ちゃんとした握手をしたのは、これが最初だった。 囲を威圧しおのれを誇示しようとするたたずまいに、幼い彼がまん「まあ、ゆっくりしたまえ」 一言残すと、エイゲルは芝生を踏んで、広い庭のむこうへと、歩 まとひっかかったということに過ぎないのかも知れぬ。しかしもち み去って行った。 ろん、当時の彼にはそんなことは、わかりはしなかった。 本館へ入って、かれらは自室で荷物を置いて来たエステーヤに案「兄ったら、おかしいの」 エステーヤが、笑いを含んだ声でいうのだった。「ああして : 内され、ホールや美術品の陳列を見せられた。エステーヤはいつば 庭の奥の林の中へ行って、ひとりで本を読むんだから」 しのおとなのように、手をうしろに組んで説明したのだ。 「へえ」 それから、外へ出て庭で遊・ほうとしたとき、かれらよりだいぶ : 彼には、おかしいとは思えなかった。それはきっとたのしいに違 : ・五つか六つ年長の少年が歩み寄って来たのである。 : ェイゲルのすらりと という気がしたのである。それに : い、小わきに本をかかえてしなし 少年は身体によく合ったスーツをまと いた。エステーヤに頷きかけ、彼女のグルー。フにはすでに顔なじみした姿や身のこなしはいかにも颯爽としていて : : : 彼は、今まで知 であるのを ' 裏づけるように、やあ、やあ、と声をかけ名前を呼んらなかった人間を見たような気分になったのであった。 で、ひとことふたこと話しかけた。 「そういえば、お兄様、キタ・カノ日ビアは初めてね ? 」 あれが、ジャクト家へ初めて入り、エイゲルと出会った日であ エステーヤがいった 「え ? 」 あのとき、自分はたしかに、未知の世界へ足を一歩踏み入れたの 少年は振り向いた。 だ。それが良いことだったのか悪いことだったのか、自分にも何と 「こちら、兄のエイゲル。こっちが、ほら、前にもお話ししたキタもいえない。あるいはそんな考え方はよくないので、めぐり合わせ よ」 にきなかったのかもわからないが : : : 自分のその後に大きな影響 初級学校の二年生とはとても思えぬ馴れたしぐさで、エステーヤを及・ほした、その入口に立っていたのかも知れないのである。自分に こ 0 る。
へズルズルと引きずり込まれてゆく。 残響が、あたしの精巧な内耳機関をカタカタ震わせた。 首は細くなり、顔面も正しい配列を深く刻みはじめた。あらかじ残響が静まらないうちに、少女は言った。 め決定していたのだというように鼻が出て口が裂け唇は赤く染めら「あーけーてー」 整った白い顔が奇妙に歪んだ。 れ、眼球は少し縮んで虹彩が青に変わった。 体毛もウロコも肉の中に呑みこまれていった。かわりに、頭部の あたしは思わず目をそむけた。 内側から押し出すように金色の巻き毛がニュルニュルと大量に生え 自分と同じ顔があんなふうにみにくく歪むのは耐えられない。 てきた。 少女は制御できない肉体をもてあまして、ムチャクチャに動かし その様子は実に気味が悪かった。 ていた。ふつくらした赤いくちびるがよじれて、白くにごったよだ それはまるで安物のお人形のように横たわっていた。いや、人形れがボタリと床に落ちた。 なら洋服くらい着けているだろうに、その子はまっ白な裸でいるの歩き出そうとして、足が交差し倒れた。ひじを使って立とうとす 。こっこ 0 ると関節が逆に曲がりはじめた。 そしてーーーその女の子は、七歳のあたしなのだ ! 顔をあげると首があり得ない角度に折れた。そして顔には苦しみ 少女は、ぎこちなく両手両ひざをつき、立ち上がろうとした。足とも笑いともっかぬ奇妙なしわが浮かびでた。 がふらふらして、まるで生まれて初めて立った赤ん坊のようにおぼ 足の親指が少女の額にくつつきそうだ。 つかない。 胴がよじれ、両肩の関節がゴソッとはすれ、こぶのように持ち上 っこ 0 息をついて口をひらくと、中にはちゃんと粒のそろった白い歯ま 、刀ュ / で、はえそろっていた。 その姿はすでに人間のかたちを超えていた。部分は少女でありな 少女は咳込んだ。まるで声帯をふるわせる訓練をするように、何がら、全体は得体のしれぬバケモノだった。 度も何度ものどを鳴らした。 あたしは恐かった。恐い : : : 恐い あたしは待っていたーーー彼女が口をひらくのを。 よくない記憶がよみがえる。鉄のフタを赤く溶かして地獄の底か 彼女は、気管を胴震いさせるような音を出した。それは重い汽笛ら這い出してくる ! の音色に似ていた。その声はしだいにトーンを上げて、クリアーに ママとあたしはよくゲームをした。 なり、耳をつんざくような悲鳴に変わっていった。 ママはあたしの美しさと若さが妬ましかったんだと思う。なぜな 部屋の空気を震撼させて、ビブラートのかかった悲鳴がつづ いら、かって自分にもあって、永遠に失われたものたから。 そして、孤高をたもつあたしの自尊心が憎らしかったのた。なゼ そして唐突に、 : ツ・ / うリ切断するように声がとぎれた。 なら、ママもそうだったから。 240
( 通報すべきだろうか それは : : : 確かに、ここでしか試すことのできないアクロバチッ しかし、彼は、それをどこへ通報していいか分からなかった。 クな方法だった。 規則によれば、集中管理室だ。 「まあ : : : ムーズったら、なんてことを : : : 」 が、そこに、当直の将校が詰めているとは思えなかった。 そしてーー二人は、警報音のことを忘れた。 規則ではそうなっている。各組織持ち回りで、三ないし四名の当 しかし キュイ ー 9 に居た電子技術員ロン・は、そうもいかなかった。直要員を常時配置することが義務づけられていた。 しかし、いつの間にか、ありとあらゆる規則が、なし崩し的に拘 警報は、作業中だった彼のすぐ頭上で湧き起こった。静まり返っ 束力を失ってしまっていた。 なし力にも脅迫的に聞こえた。 ていた区画内で、その音よ、、、 一一年ほど前からたろうか : : : 誰も彼もが、勝手な行動を取りはじ びくりと身体を硬ばらせて、彼は回路追跡器から顔を上けた。 め、何もかもが、どこもかしこもが、荒れはじめた。 ( ・ : ・ : なんだ卩 ) そして、とうとうまでが、おかしくなった。 警報が作動した。しかし、三度断続音がしたと思ったら、停止し テックマン 一番わりを食っているのが、ロン・たち技術員だった。彼等 てしまった。 誤作動か それとも、警報装置そのものが、い 0 たん作動だけが、いまだに規則に縛られ、働かされ続けていた。 かと言って、怠業は許されなかった。 したものの故障したのか そんなことをすれば、自分たちの生存が脅かされる。 後者であれば、重大だ。実際に、どこかで事故が発生したという ヴィーナスターは、今、微妙な状態にあった。 ことになるからだ。 0 一・は、回路追跡器の検査子を制御卓から引き抜くと、床そのことを、真に切実な問題として認識していたのは、彼等技艤 だけだったかもしれない。 を蹴った。 ヴィーナスターは、ひとつの、巨大な生物と言えた。 ふわり、と身体が宙に浮く。 その、文字通りの頭脳であるが、今や自己保存のため そのまま、泳ぐように進んで隔壁をくぐり、ー 8 へ移動し こ 0 の最も基本的な本能を、半ば喪失しかけていた。 放っておけば、基地は、少しずつ″壊死″の状態に追い込まれて 耳を澄ます。しかし、静かだ。天井の警報灯も暗い。 いくだろう。 異状は感じられない。 それを避ける道は、ひとっしかなかった。 ( どうしようーーー ) 近付いてきた壁を手で押し返し、その勢いで、身体を空中で一回が制御していたヴィ 1 ナスターの各機能を、その前に できるかぎり彼女から切り離してしまうことた。 転させながら、彼は考えた。 アラーム アラーム セン