目がさめて、〈ウサギちゃん〉の壁紙が目に入ったとたんに、まうまくつけられるようになったが、こんなものはない方がギルダの からだはきれいに見えるような気がする。それで、やんわりと抗議 た、まずいことになったなと悟った。あのこどものことをすっかり 忘れていたのだ。しかし、あのこどもよりも、チャーリーとかいうする彼女自身の心を感知しながらも、あえてそれを無視してガード ルはつけぬことにした。だめだよ、なるべくシン。フルにした方がい 男のほうが自分の近くにいたはずだーーーどうしてこんなことになっ いんだから。・フラジャーとパンティ、セーターとスラックス、そし ちまったんだろう ? さ たしかチャーリーはギルダを眠りこませてから自分も寝こんだもてサンダルーーそれだけで充分だ。髪の最終点検を少々 : の : ・ : ・と思っていたが、あるいはそうではなかったのかもしれぬ。あ、これで外出の用意はできたぞ。 ギルダの車を使おうかとも思ったが、もし事態が予想どおりに展 おそらく、あの男は〈入れ替り〉が起こる前に目をさまし、そのま ま出かけてしまったのだろう。そう、たぶんそうだーーあのろくで開した場合、妙なことになる。それで、・ ( スに乗って下町へ出た。 なしは予定よりも早く一人でシアトルへ帰ってしまったのだ。くそそれでも、出発前にその家の住所は暗記しておく。もし誰かと一緒 に家へ帰ってくることになったときに、自分の家の住所を記したメ ったれめー モを見なければならなくなったりしたら、変なことになってしま チャーリーのご機嫌をとるためには大分苦労をさせられた。ギル ーへ行った。ど ダの妹がかれひとりを残して帰宅したあと、かれはギルダを入浴さ最初のパーには良いカモがいない。それで別の。 ( せ、髪をすいてやった。ギルダのさえないネズミみたいな妹と一緒うやらギルダをひっかけようとする男は、あまりいないらしい。で とんな男でもいいのだ。 にここへ着いたときにギルダがしていたアツ。フの髪型はとても複雑も今の自分にとっては、・ 二番目のパ 1 では、数人の男と口をきくことができた。そしてそ すぎて手に負えなかったので、ウェーヴのかかった・フロンド髪はそ のまま両肩にすきおろしておいた。髪の先端がちょっとくしやくしのあとで、チャ 1 リーに出会ったのである。次の日には、シアトル へ行くのだと言う。 だったがーー・どうやらこの女の髪は、お下げにしてはいけなかっ もちろん、こちらとしても次の日でなくては困るのだ。大した男 そんなことにかまってはいられない。化粧のやりかた たらしい はまったくわからない。しかし鏡にうつるギルダの顔は肌が美しではないが、少なくともこれから行こうとする方角が気にいった。 く、化粧はほとんど必要ないようだ。ためしに薄めの色の口紅を塗このころになって初めて気づいたのだが、ギルダの胃袋はあまり あいしよう ってみる。何回かやり直したあとで、これならいけそうだと判断しアルコールと相性がよろしくない。しかしおれがこれから、ホーム ・タウンにおけるギルダの名声を高めるか、低めるかは神のみそ知 た。ギルダ自身の生活習慣が若干は助けてくれるが、充分ではな るだ。それでも、出てきたビールは生ぬるくなって泡がまったく消 ガー「レよ どうやらえてしまうまでもたせ、あれやこれやと話をつなぎながら残りのビ 何回か練習をくりかえしたあげくに 6
は、この子にはまったく理解できないだろう。おそらく一日たてにした。それでギルダにもこの異変はまったく気づかれなかった。 ば、すっかり忘れてしまうはずだ。少くとも理路整然と記憶してい でも、保育園だって ? おそらく大人をうまくだますことはできる ることはできぬ。だからアートがこの子の言葉に気を配ってやればだろう。アート自身は、日ごろ大人たちがこどもをどう見ているか 問題はな、。電話料の請求書 ? せいぜい一ドル程度で、〈シをよく知っているからだ。しかしこども同士が互いにどんな見かた アトル〉と書いてあるだけだ。幼児が電話をおもちゃにするーーよをしているかとなるとーーさつばり思い出せない。畜生、まったく くあることじゃないか。だからといって、 ーニイはお尻をぶたれお手上げだ ! るほどひどく叱られはしないだろう。ギルダはどちらかというと甘「気持が悪いんだよ、ママ」 ええ、そうでしようよ。あんたったら、まるでお い母親だ。あんなチャーリーとくつついたのが、不必要なあやまち「気持が悪い ? だったのかもしれぬ。 馬さんみたいにたくさん食べるんですもの。でも、お熱はないわ。 四歳児の指で正しくダイヤルするのがこれほどむずかしいものとママをだまそうったって、そうよ をいかないわよ、お馬さん」 ニイにジャケット は思ってもいなかった。二回失敗し、もう一度かけ直した。三度目そう言いながらギルダは慣れた手つきで、 はまさに奇跡だったーー十一個の数字を全部正しくまわすことがでを着せてしまった。 きたのだ かれは受話器を通して聞こえる呼び出し音に、 一心に「大丈夫よ、。フレストン先生は昨日あなたがクレョンを新ったこと 耳をすませた。いったい何者かは知らぬが、あの野郎が今、この電なんか、もう怒ってないから」 話回線の向う端にいるのだ。 「ほんとに怒ってない ? 」 もう一つの耳に・ハスルームの扉の開く音が聞こえた。そして、ギ「ええ、怒ってないわ。先生がママにそう言ったもの。絶対に大丈 ルダの声 夫よ : : : 今日はきっと良いことがあるわ」 ーニイのものであると同時にア ニイ ? もうお仕度はできたでしょ ? 」 かれは笑い出した。その反応はパ くそったれめー 1 トのものでもあった。ようし、こうなったら、いちかばちかやっ てみよう。たとえもしほかのこどもたちがーーーそしてたぶん。フレス すばやく受話器を戻し、ギルダに見られる前に電話から離れた。 「保育園へ行くお時間よ、 ーニイ。さあ、青いジャケットを着まトン先生もーーーこの四歳の坊やの今日の態度がちょっぴりおかしい しようね。今朝は、お外がちょっと寒いわよ」 な : : : と感じたとしても、なにもこの子の一生がだめになるわけで かれはできるだけ口をきかぬように : : : そして、なるべく笑みをもあるまい。ま、アートとしては、できるだけ気をつけるよう努力 たくさん浮かべるように : : : 努めていた。たしか昨日見たこの子してやれば充分だろう。 は、あまりおしゃべりをせず、それでいて愛きようのいいこどもだ ギルダは確かにいい母親だったが、運転はあまりうまくない。ギ ったはずだ。やむをえず口をきくときは、シン。フルな言葉だけをロルダを宿主にしていたときにアートは、彼女の運転動作に締りがな
た。だがあのときは彼女の思考をたどってみて、ほんのちょっぴり ギルダは大口をあけて笑い出した。 ーを求めたいと願う欲 「そうだったの。わかったわ。おりこうさんね。さ、ちゃんとおべ嫌悪感を混えながらも、軽い気持でチャーリ 望があるのを発見し、それでアートはあまり実のない計画を最後ま ・ヘを着て、朝ごはんを食べましよう。急いで ! 」 かれは急いだ。着がえるのをギルダが手つだってくれる。靴のひで実行したのである。 もし元の自分自身に戻れるとなればー・・・ーと、アートは覚悟してい もを自分で結びかけてハッと気づき、今の自分はこんなことをして たーーーその場合には、宿主が普段はしないような行動もあえてとら はいけないんだ : : : と、危く思い出した。 キッチンでかれは、クッションをのせた普通のいすに坐った。幼ねばならなくなるだろう。だがアートには、その必要性が現実のも 児用の脚長いすに坐るのが何となく後めたかったからである。半熟のとなることを恐れる気持があった。なぜか ? アート自身にもよ くわからない。ただ一つ言えるのは、罪のない人間をトラ・フルに巻 タマゴは思ったより美味であった。汚れを知らぬ若い舌は、アート がとうの昔に忘れてしまっていた味を思い出させてくれる。そしてきこんだり、この上なく戸惑わせるような窮地に追いこみたくない ・ : という気持があることだ。そのような事態が起こった場合、そ アートの心は四歳児の眼を通して、薄手のネグリジェに身を包んだ と、アートはの原因がアートにあるという事実が必ずしもばれるわけではない。 ギルダの魅力を味わっていた。ついてなかったな : これもアートを尻ごみさせる理由の一つ しかしそれでもやはり : 思ったーーー彼女の妹としてここに来なければならなかったとは : をけしかけてしまったであることはまちがいない。 さらに悔やむべきは、彼女にチャーリ 1 アートは、エテ ・イ・フィンチと連れ立って緊急医療センターを出 ことだ。ギルダはまったくあんなチャーリーにはもったいない女な て行く自分自身の姿を見ている。しかしいったい、あれは誰だった それにしても、くそいまいましい と、アートは絶望し始めたのか ? どうしても突きとめなければならぬ。ところが今のアート や、一つだけ方法は いったい全体、いつまでこんなことを続けなければならんのには、そのための良い方策がまったくない。い あるーー現在の自分がシアトルへ行き、あちらの自分自身に会う か、あるいは電話で接触する手だ。だがそのような行動は当然記億 ふたたび自分に戻ったときに不都合を生じる。と ギルダは浴槽の中にいる。前日の様子から、彼女が石鹸の泡をふされてしまい んだんに立てたお湯の中に全身を漬けてゆっくりと入浴するのが好にかく、アート・フォレストという人間に少しでも普通でないとこ ろがある : : : と示唆するような手がかりを一切残したくない。なぜ みであることはわかっていた。しばらく考える時間がありそうだ。 一度だけアイナー・ガンダーセンのからだを恣意的に操作したあか ? それはつまり : : : きまってるじゃないか ! ニイが : ・ : この四歳の子が、もし電 でも、ちょっと待てよ。・ハ 1 とアートは、宿主の自然な動作にはなるべく干渉しないようにして きた。前夜チャ 1 リーにやらせた行動は唯一の悩むべき例外であっ、話をかけたらどうなるか ? 電話を通じて交わされる会話の内容 ハスタブ 7
二、三人のこどもが「やあ」と声をかけてきて、かれも「やあ」 い事実をいやというほど自覚させられており、運転中はしばしばア ート自身の努力を ( ンドルに加えねばならなかった。ま、だれにだと答えた。ここでの行動には特別なきまりはないらしく、めいめい って弱点はある。少くともギルダの運転は向う見ずではなく、攻撃が勝手なことをしているようだ。テープルの上から絵本を一冊とっ 的でもない。しかし今のアートにとっては、ミス・。フレストンが君たかれは腰をおろし、それを″読み始めた。できることなら角の ・ : と思ったが、最近大 臨するこの白い木造家屋に車が永遠にたどり着かなかったほうが、席に坐り、ほかの者全員を監視していたい : 学で受講した心理学の講座で、そのような席はかえって他人の注意 よっぽど嬉しい 保育園の中へ入ったとたんに、かれは不安になった。ギルダはすを惹くと教えられたことを思い出して、中央でもなく、かといって ばやくかれを先生に預け、サヨナラのキスをし、時間がきたらちゃ隅でもない位置に席をみつけた。 ー = イの思考が、ママはいっ午前中は長かった。かれは一心に他のこどもたちの言葉に耳をす んとお迎えにくるからねと言った。パ ませたーー全神経を集中して耳をすませた、といってもいい。誰か もそう言うんだけど、一度もそのとおりにしたことはないんだ : : と、アートに語りかけに話しかけられたときに、それらしい言葉づかいをしなければなら どっちにしたって大したことじゃない・ ぬ。他のこどもたちの動きを観察し、いつ、どんな場合にこの部屋 ている。やがてギルダは帰って行き、かれは一人きりになった。 、、ス・。フレストンは小がらのほっそりした女性だ。グレイのプラを出て行くかを確かめた。どこにトイレがあるかを知らないとまず ーニイはさつばりそのような思考をしない。 いのだが、・ハ ウスを着て、スラックスをはいている。わきの下から黒い毛がもじ やもじゃとはみ出ていた。 ぬり絵に色を塗るときは、塗りかたがあまりきれいにならぬよう につこりと笑いながら、話しかけてくる。「ジャケットは自分で気をつけた。へまのレベルをいつもどおりに保つべく、クレョンを 掛けるんでしよ、く 一本、わざと折ゑ横目で二人のこどもの塗りかたを盗み見して、 かれは一瞬、十二、三人いる他のこどもたちの存在を忘れて、周ほかのこどもたちがどんな色を好むかを確かめ、自分の色もそれに 囲を見まわした。このいまいましいジャケットを掛けるような場所合わせた。 やがて運ばれて来た昼食は、やけに甘ロであるようにアートには はどこにも見あたらない。 、、ス・。フレストンは部屋のわきに立って いる屏風を指さした。何羽かの鳥をあしら「た日本画が描いてあ思えたが、共有する若い味蕾はそれをおいしいと感じていた。 ー = イの思考が反応した。そちらへ歩いて行やがて若い代謝作用が眠けをもたらし、それを見はからったよう る。遅まきながら、 き、屏風のうしろを見る。洋服掛けがあ「た。手始めにしては上出にミス・ブレストンは言った 「さあ、お昼寝の時間ですよ」 ほかのこどもたちが・ハ ーニイには大した注意は払わないのを見まさに時宜を得た提案だ。 て、アートはほっとした。 枕を抱いてからだを丸め、うとうととしかけたアートの思考が、 7
ールは全部チャーリーに飲ませるよう努めた。 6 ちょっとオー ーウェイトぎみだが、チャーリーはまあまあ人前 に出しても恥ずかしくない男である。ギルダの関心はそれほど高く・・、、 はないようであったが、かといってどうしても嫌というわけでもな ・ä・・ハズビー らしい。だがあとでペッドインするときにはおそらく雄牛の前で 十字架にかけられたかよわい小兎みたいな気分になるだろうーーーそ れを考えたとたん、ギルダは明らかにがつくりきた。この女にそん な思いをさせるのは実に忍びないことだったが、ほかにチャーリー をひと晩中引きとめておく手だてはみつからぬ。 本誌八二年二月号に訳出された「ここがウィネトカならきみはジ なんとかチャーリ ーを酔いつぶそうとしたのだが、この男の酒量 ュディ」という中篇をご記憶だろうか。タイム・トラベルの変種と はまさにタンク・ローリーなみだった。それで、仕方なく : もいえる奇抜なアイデアに純愛ロマンスをからませた、ちょっと泣 かせるいい話だった。 しかも、すべてムダ骨だった・ーーあのろくでなしは一人でとんず あの中篇の作者、・・・ハズビーが、ほぼおなじ時期に発表し ニイとか らしやがった。あのこどもだけを置いて、だ。たしか・ハー た作品がこれで、やはり、オリエンテーションの過程ーー異常な状 いう名のがきだ。いくつだろう ? 四歳ぐらいの感じだーーまだ自 況に投げこまれた人間がどうやってそれに適応し、方向を見出して いくかを描いている。その状況が異常であればあるほど、そして描 分ひとりでは道路を横断することもできぬ年ごろの子だ。いわん 写が日常的にリアルであればあるほど、物語の面白味はますわけで や、のこのこシアトルまで出かけて、もう一度アート・フォレスト ある。ここから先はお読みになってからのお楽しみだが、先の中篇 に戻る機会をうかがうなんてことはとてもできやしない。 とおなじく、これもパズビーの代表作というにふさわしい出来。 & 誌の七四年四月号に発表された。 もうどのくらいの日数がたってしまったことやら。三週間だった 最近の・ハズビーは、大作えミ Kerguelen の続篇、洋し、 かな ? 一昼夜をひとくぎりにして、無限の歳月を生きてきたよう ( 1984 ) を出して、好評を得ている。 な気がする。 ( 浅倉久志 ) ことの始まりはあの麻薬だ。 「この野郎、しいかげんなことを言うと承知せんそ」と、アートは 「新しいのがあるぜ」と言い出したのは、ニテ ・イ・フィンチであ答えたものだ。「絶対にインチキなしろものじゃないんだろうな アシッド る。「に似てるがね、ずっといい気分だ。おまえ、前からト リツ。フしたいって言ってただろ いよいよ、チャンス到来だ。二 「工場主のロジャ 1 からじかに手に入れたやつだ。一つはおまえ用 ドル出しな。すばらしい気分になれるぜ」 一つはおれ用にな」とエディは、反っ歯を向き出して笑いやが にラッ
裁判所へ行かなければならない なにか信託募金に関する用件子をベッドの中へ入れに来たときだ。確か、いったんホールへ出 だ。くそったれめ ! て、それから長い廊下を右へ行ったところが、今の自分のゴールだ ったはずだ。 かくしてファーガソン夫婦はアートを置いて帰って行ってしまっ た。がつくりと落ちこんだ気持でアートは、宿主に適当な別れのあ いくぶん気が軽くなったアートは、改めて今の自分の姿を観察し いさつをさせた。そのあと、老女はまったくいつもの彼女らしくな た。直接自分の目で見ると同時に、・ハスルームの体重計の背後にあ いことをやったーーポートワインをがぶ飲みしたのである。もちろる鏡に映してみる。わりかしかわいい顔をした子だーー青色の眠、 ん、アートが自分のために飲んだのだ。 いかにも強情そうにえらのはった下あご、ずんぐりしたからだ、長 そしてその次にアートは地下室の貸室に住むデレク・アードウ = すぎて目に入りそうなプロンドの髪の毛 : : : 。それに、とても健康 ルになり、つづいて、デレクの友人の男になった。この男はデレクな気分だ。五感は大人よりもはるかに鋭敏だーー麻薬でトリツ・フし が陸軍にいた当時からの旧友で、たまたま女房とけんかしたためにているときの気分に似ている。 デレクの部屋で一夜を過したのだ。それから、その旧友の女房にな しかし何をするにせよ、四歳児になるというのは最悪の事態だな り、そしてさらに こんなことを話していても何の助けにもなら ・ : と、アートは思った。でも、当然、こんな状態がいつまでもっ ぬし、頭の中がぼうっとしてくるだけだ。 づくわけではない。だれにとっても幼年時代は短いものだが、自分 二つだけ目立つ事実があるーー第一に二度と同じ人物には転移でにとっては・ : : ・ほんの一日だけだ。それに性欲が全然ないというの きなかったことであり、そして第二に、、、 しことか悪いことかは分もいいものだ。普段のアートはうんざりするほど欲求不満になやみ らぬが、一度もセックスをしなかったことだ。ただし、後者にはっ つづけていたのである。その潜在機能を秘めたいちもつに目をやっ いに昨夜、唯一の例外ができたーーギルダになっているときに、あたアートは思わずほほえんだ。この小さなオチンチンはまさに無邪 の助平野郎のチャーリー にやられてしまったからだ。 気そのものの顔をしている。ま、これも時がたてば : 自慢していいことなのか、ぼやいていいことなのか。 かくして今やアートはパ ーニイという名の四歳の男の子で、おし ギルダの声だ。こんな近くまで来ていたとは、まったく気づかな っこをもらしそうになってあわてていた。部屋全体から見ればいか っこ 0 カイ にも小さいが、かれ自身にと 0 ては大きなべッドの囲いの上によじ「何をしているのよ、あんたは。そんなところでうろうろして、カ 登り、ふわふわした布地のやけにあったかい〈おくるみ〉のボタンゼでもひいたらどうするの」 をはずそうとしている。・ハスルームはどこにあるのか : : ここから どう答えたらいいんだろう ? ーニイがひとりでに答えてくれ はどうやって行ったらいいのか ? アート自身はこの部屋へ一度した。 か入ったことがない。ギルダになって、いつもの習慣どおりにこの 「なんにもしてないよ。おしつこしたかったの」
今のアートは、あとに残「たメラ = ーという名の女の子と粘土遊シ = イラはパパとロ , ・ダと三人でアパ 1 トの四階に住んでいる。 しかし今リ・ヒング・ルームでレンタル・テレビを観ている男はパミ びに興じていた。このゲームには、これといったル 1 ルはよ、 ただ、「できたわ。あたしの作ったものを見て」と言って出来上っではない。 「フランク叔父さんにごあいさつなさい、シェイラ」 た粘土細工の形を見せ合い、うなずいたり、笑ったりするだけのこ とである。いずれにせよ、笑うことはよいことだ。午前中よりも午アートはその男を見た。三十歳ぐらい、スリムで、栗毛だーー・ま あハンサムのほうかな。 後のほうがはるかに気分がいい 「こんにちわ、フランク叔父さん」 やがて園児の親たちーー大部分が母親だが、父親も二人いた あたしには世界で一番たくさん叔父さんがいるのよーーそう無邪 が、自分の子を迎えに来始めると、アートは初めて不安をお・ほえ た。だがその不安は不要であった。シェイラが緊張し、その女性を気に訴えるシェイラの思考をアートは抑えた。その叔父さんたち ′ / カお家にいるときには絶対に姿を現わさない 識別したからだ。赤毛の美人だーーーでも全体としてはギルダのほう 、刀し」し この女性はやせてギスギスしており、思いやりのなさそうイラの思考は語りかけている。 な顔をしている。無表情にシェイラを引き取ると、最大の能率と最「さ、こっちへ・いらっしゃい」 ローダはじれったげに、アートをパス・ルームへ連れこんだ。か 少の言葉を使って車に乗せ、ひたすらに放心状態をつづけたまま、 れが申しわけ程度にチョロッとおしつこをし終ると、ロ 1 ダは荒々 自宅へ向って車を走らせた。 しくかれを引っ立ててへ 、・ツドルームへ連れて行った。 かれは一つだけ質問した。 「さ、お薬をのんで、しばらく眠っててちょうだい」 「ねえ、ママ、あたしいくつだっけ ? 」 お薬 ? 今の自分はまさに健康そのものだ。ロ 1 ダはさっさとか 「三つじゃないの、お・ハ力さんね。まったくあんたって子は何ひと つ、ちゃんとおぼえられないんだから。それに、あたしはあんたのれのからだからドレスをはぎ、つづいて・ハンティをぬがせた。そこ ままはは 則に言ったでしよう。あたしのことはでちょっと手を止め、布地を手でさわって確かめている。しまった ママじゃないわーー・継母よ。 ~ まだ少しぬれているかもしれない。 ロ 1 ダって呼ぶの。わかった ? 今度そうしないと、・ヘルトで縛っ 「あなた、またおもらしをしたのね ? 」と、ローダ。アートが止め ちゃうわよ」 るよりも早く、シェイラはこっくんとうなずいてしまった。「お仕 シェイラの恐怖をアートは感じた。この子はおびえきっている。きょ ! 」 なんてこった ! あっという間にローダのひざの上でうつ伏せにされ、むき出しの この子は、きっと、かなりいやな生活をしてい るにちがいない。 尻をたたかれた。ううつ、畜生 ! 本当に痛い ! すぐ目の前に、 ナイロンのパンストをはいたローダの太ももがむき出しになってい 5 7