「〇ロ☆」〈よく知っています〉 「私の名はロ・フ・ 「☆ロ△〇〇 x 」〈それは知りませんでした〉彼はつづけて言 った「ロ〇 >< x x △ロⅡゾ」〈私はマ 1 王朝の十二代目の ギズⅡ世〉 「国王ですか ? 」 「△」〈いかにも〉 私は異星体との接触、そして彼らの国王との会見に成功し た。私は幸運だった。 国王、ギズⅡ世は私を王宮に招待した。 私は国王と同じ車に乗り市街を一巡してから王宮にむかっ 市街では市民の多くが路上に出て、私を歓迎した。彼らの歓 声は大音響となって我々の自動車のウインドを振動させた。 しかし、これはちょっとした見物である。二本足で歩く緑色 のトカゲが服を着て私に対して歓声を浴びせる。かなり不気味 も である。気の弱い女性なら悲鳴を上げて卒倒しかねない。 し、この光景を e に記録できれば一部のゲテ物マニアの間 で評判を呼ぶだろうにちがいない。彼らから見れば私なんて小 鬼以下だろうが。 市街で気付いたことだが、彼らの性別は外見で見分けること は難しい。毛髪のない彼らは、私の目にはすべて同じように見 える。体形も男女の違いを見つけることはできなかった。 私はそのことをギズⅡ世に言ってみたが彼は笑うだけで答え てくれなかった。あとで知ったのだが彼らも外見で性別を見分 けることは難しいと思っているらしい その日の晩。私は王宮の晩餐会で王宮の人々と楽しい時間を 過して℃た。 / 、 - 彼らは私の星のこと、私自身のことなどを聞き、 この星のこと、彼ら個人のことなどを、まるで私が旧知の友人 こ 0 206
選料理の腕 , ーー異星にて 新野一春 その時私は一人で笑っていた。 なんと言う幸運だろうー 普通の人間は嬉しい時に 別に私が狂人だという訳ではない。 は、そういう反応を示すものだ。 ″は、その灰色の船体を反 私の宇宙船″ストームプリンガー 私は知的異星体との接触に成功したのだ。 重力フィールドで支持しつつ、その星に着陸した。 これは民間人によるものとしては史上初、国家レベルもあわ その星の大気成分は窒素間 % 、酸素 % 、アルゴン % 、炭 せると五度目ということになる。とにかく私は嬉しいのだ。 酸ガス圓 % 、その他いろいろ、とにかく人間が生活するのに 私は毎年、四月から九月までの間は未探査宙域に″探険〃に は、なんの問題もない。私は宇宙服を着ずに外に出た。 行く。これはスリルに満ち、かっ安全な、それでいて安価な旅ムッとするような湿った大気が私の肺の中に流れこんだ。い だ。今の地球の中産階級の人間の間では最も流行している余くらか気分が悪くなった。いつでも快適な状態に保たれている の過しかただ。 宇宙船の空気とは違う。そう、この星は生きているのだ。 にもかかわらす、私は最初の民間人による知的異星体との接宇宙船の外には、この星の住人達が異星の客を一目見ようと 触に成功したのだ。嬉しいのは当り前。私が一人でスカ笑いす集まっていた。兵士が警備していなければ、彼らは、私の宇宙イ る気持もわかってくれるだろう ? 船を破壊しかねない勢いで私に殺到するだろう。 彼らは二〇世紀後半の地球と同レベルの水準の文明を持って数台の自動車が近付いてきた。おそらく政府 ( でなければ王一 いた。しかし、国王による独裁政治が行なわれていた。また民家の ) 代表だろう。 主主義という政治形態は生まれていない。もっとも国王は、 自動車は私の宇宙船の数メートル手前で静かに止まった。そス つの時代も慈悲深ければ、民主主義なんて生まれないだろう。 れと同時に中から偉そうな人物が出てきた。彼 ( ? ) は数人の ズ この星は平和なのだ。 兵士をつれて、私に近づいた。 異星体は身長一五〇 5 くらいで二本足で歩く。体毛はなく皮「〇 x △ワ ! ? 」彼は挨拶した。私はそれに対し地球語で答えて 、ダ 膚は緑、きっとハ虫類だ。 から彼らの言葉でそれを説明し、彼らの言葉で挨拶した。もっ 彼らは、私を友好的な異星体であると判断してくれた。私のともこれが自動翻訳機によるものであるのは言うまでもない。 宇宙船が彼らの星に降りることを許可してくれたのだ。 「私は宇宙旅行者です」 205
カーティスは低くいった。 う男である。 「私は、イグノシが何らかの危機におち入っているのではないかと「彼は蛮人と呼ばれるたぐいの人間だが、しかしわれわれのかけが こうき 思っている。生命の危険にさらされ、彼の王国そのものもおびやかえのない友人だ。王としての高貴な魂もそなえている。その友人が 助けを求めて来た以上、黙ってみすごすわけには行くまい。 されているのかも知れない。 とくしゅ かれらアフリカ人は、われわれ文明人にはない特殊な能力を持っ それに、ほかの理由もある : : : 」 せいしんかんのう しんれい ている。神秘学や心霊学でいえば、精神感応能力と称しているカカーティスは身を乗り出した。 だ。彼は、その力を使って、われわれに助けを求めているのかも知「率直に聞くが、アラン、君は人生に退屈してはいないかね ? れん」 私はイギリスに帰って来てからというもの、一度も心からたのしん だことがない。狩猟、ポロ競技、スクワッシュ、何をしても楽しく たしかにイグノシがそのような状況にあるとしたら、無意識のう はないのだ。心もうわべも着かざったイギリスの淑女たちと、結婚 ちに私たちに助けを求めたとしてもふしぎではなかったろう。 じゅうしゃ 私たちの忠実な従者であった彼は、私たちのカ添えによって正当する気にもなれない。 はっきりいって、ここの暮らしには、人生をかけがえのないもの なる王位を奪還する機会を得た。私たちがククアナを去る時、じっ つら うち にする刺激がないのだ。今となってはあの辛かった砂漠の旅、かず の兄弟と別かれるように彼は別かれを惜しんだ。彼の胸の内には、 しんく かずの辛苦もなっかしい。とくにあのすばらしかったルーの戦い 今でも私たちが生きつづけていると考えても当然だったろう。 一万マイルもの彼方からそのようなかたちでメッセ 1 ジが来るとが、思い出されてしかたがないのだよ、アラン」 は、ロマンティックすぎる考えだったかも知れない。しかし私はグ「それは私も同しですよ、ヘンリ ッドのいう通りアフリカ原住民には私たちにないふしぎな能力があ私はおだやかにいった。 ることも知っていた。 「私は正直にいってイギリスに引きこもるべきではなかったと思っ 「ククアナは、はるか彼方だ : : : 」 ています。オレンジ林にかこまれたダー・ハンの家がなっかしくてた まらない。 私はゆっくりといっこ。 ステッ・フ 草原を焼く太陽、灼けた土の匂い、雨上がりの森の甘い匂い、か 「万が一それが事実だとしても、私たちに何が出来ます ? ダー・ハ ンに着くまで、一か月はかかる。それから奥地に入り、ククアナにもしかたちの走る姿、ライオンの唸り声、土人たちの歌声。 : : : す 辿り着くまで三か月はかかるのですよ。そのことを忘れたんですかべて私の人生にしみついたものです。今ではすっかりそれが失わ れ、一日一日、ゆっくりと死んでいっているような気がしてならな いんです」 「もちろん、忘れてはいない。だがそれでも、われわれは行かねば ならんと思うのだ」 「アフリカに戻ろう、アラン」 だっかん たいくっ ー 07
であるかのように話してくれた。 「ほほう。娘さんが」 「ほう。あなたの星では二つ以上の動物が共存しているのです「ところで英雄ロプ。君の腕はどんなものだろう ? 」 「私の腕 ? 私は他人まかせであったから : : : 」 「いやいや、やって見るもんです」 「え ? そうです」私はこの質問に多少当惑したが彼らの気づ くところではない。 「いやそんな」 私は彼らが完全な菜食家であると言うのは意外であると思っ 「ぜび食べてみたい。英雄ロ・フの腕を」 こ 0 「ちょっとまって下さい」 「いいじゃないか。英雄ロ・フ」だれかが言った。「へるもんじ 「異星の英雄、ロ・フ・ ート、こちらに」国王が私を呼んだ。 「なんでしよう ? 」私はたずねた。 ゃなし」 「遠来の客をもてなすための食事が出来上ったのだ」 国王が指を鳴らした。すると、さっきの給仕がマナ板とほう 国王が指を鳴らすと給仕が食事を運んで来た。 ちょうをもって来た。、 「我々の国では古くからの風習で遠来の客に対しては、王家の 「さあ右手にしましようか ? 左手にしましようか ? 」給仕は 者は最大の敬意をはらい可能な限りのもてなしをすることにな笑いをうかべていた。それは暖かさに満ちた微笑だった。 っている。無論客人には、それに答えてもらうことになるのだ「この : : : 私の腕を ? 」私はおびえていた。 が。そこに用意した食事は我々の考えられる最高の物を使い 「娘の腕を食べておきながら」 王家の者が自ら料理したものだ。英雄ロプよ。食べてくれ」 「へるもんじゃなし」 ここはトカゲの星だった。 国王が言い終えると料理の蓋が取られた。 実によい香りが私の鼻孔をくすぐり、それに反応して唾液が 応募規定 ロの中からあふれそうになった。私は今までに一度だってこれ 〇応募資格一切制限なし。ただし、作品は商業誌に未発表 ほど食欲のそそられる香りを嗅いだことはなかった。 の創作に限ります。 私は食器を手に取ると狂ったように食べた。国王はそれを満 〇枚畝四〇〇字詰原稿用紙ハ枚程度。必すタテ書きのこと。 足そうに見ていた。 鉛筆書きは不可。 「うまい。実にうまい」私は絶賛した。 〇原稿に住所・電話番号・氏名・年節・職業を明記し、封筒 「それはよかった」国王はうなづいた。 に「リーダーズ・ストーリイ応募」と朱筆の上、郵送のこ と ( 宛先は奥付参照 ) 。べンネームの場合も本名を併記して 「こんなスゴイ腕の料理人は地球には一人だって居ませんよ」 下さい。なあ、応募原稿は一切返却いたしません。 「そんなにスゴイ腕かね ? 」 0 賞金金一封 「ええ」 〇掲載作品の版権あよび隣接権は早川書房に帰属いたします。 「これは私の娘が作ったのだ」 207
の思いにふけっているように見えた。その横顔を見つめ、私は今さ もちろん、アフリカ遠征には周到な準備が必要である。グッドはらながらその威に打たれずにはいられなかった。 ろう あらかじめ英印航路の客船の便をしらべてあったが、スエズ経由で ヘンリー・カーティスはまだ四十そこそこだが、じゅうぶんに老 南アフリカまで行く船がちょうど二週間後にあった。 成した風貌の持ち主である。肩まで伸びた美しい金髪、みごとな くち 私たちはそれで出発することにし、それまで手分けして、物資を鼻、おだやかな天色の目、つよい意志力をひめた唇もとと顎。 ちょうたっ 調達することにした。私の担当は、武器と野営用具であった。武器さながら、古代デンマークの王ともいうべき風貌であった。 といっても狩猟用をかねたライフルとサイドアームのビストルであ いつぼう私はといえば、こつけいなほど貧相な小男でしかない。 こわ、、 り、例のガトリング銃は、グッド・、 力調達することになっていた。 ・フラシのように強いごま塩の髪。頬のこけた顔。やせたからだ。・ グッドはフィンズベ リーにある自宅へと帰っていったが、私はカ ・ : とりえといえば、六十歳をすぎているにしてはととのえられてい 1 ティス卿のたっての勧めで、卿の邸に泊まることにした。 、一一一る体調と、活き活きとした褐色の目ぐらいなものだろう。 ん 日は滞在させてもらうつもりで、その間には息子の ハリーにも会えすくなくとも女性が私を見れば、人生の知恵をたたえたその目に るだろう。 だけは惹かれてくれる筈だ。 きやくま 入浴し、夜着に着かえて、客間のペ : 、トのシーツをはぐろうとし私は狩猟の腕のほかに何の取り柄もない人間たが、人間性だけは はやね た時。ーー・私はアフリカ生活以来の早寝の習慣がついているのだー じゅうぶんに観察して来たつもりでいる。いわば″人間性の専門 ドアがノックされた。 家〃と自認しているのだ。 開けると、やはり寝巻の上にドレッシングガウンを羽織ったカー 土民たちが私を″マクマザーン〃と呼んだのは故ないことではな ティス卿が立っていた。 に。いかなるカよりも知恵がまさるのだ。 ねざけ 「まだ寝るにはいささか早いだろう、どうだ、下で寝酒をいつばい やらないかね ? 」 4 「いいですとも。寝酒は文明人にふさわしい習慣だ」 私たちはスモーキング・ルームへとふたたび降りてい「た。召使やがてカーティスは顔を上げ、私を見つめた。 いたちはすでに退がらせてあ 0 たので、カーティス卿みずから暖炉「率直なところを聞きたいのだが、アラン : : = 君は今日のグ , ドを の火をつぎ足し、私に。フランデーを注いでくれた。 どう思うね ? 」 めいめいにプランデー・グラスを持ちながら、火を前にしてゆっ 「そう : : だ、ぶ肥ったようですな」 たりと坐った。 カ 1 ティスはゆっくりとかぶりをふった。 カーティス卿はしばらく口を利かず、火を見つめながらふかいも「彼の外見をい「ているのではない。君にも分か「ている筈だ。彼 あご 99
私は眉をひそめた。ガトリング銃はいわゆるマシンガンで、大量 殺戮用の近代兵器である。 「あのルーの戦いの際、ガトリング銃が一挺あれば、敵を一掃して せっしやく やれるのにと切歯扼腕したことを忘れたのかね ? ククアナは、ど んな状態になっているのかも分からない。強力な外敵におそわれて いるかも知れん。 「それに、私にはもうひとっ理由がある」 ガトリング銃が一挺あれば、どんな軍隊よりも強力な味方になる グッド大佐がいった。 「あの洞窟の奥にねむっているダイヤと金貨た。あれをたたむなし筈た」 はっそう はつくっ いかにも軍人らしいグッドの発想だった。しかし、そのことばに ・ : 私はぜひあそこを発掘する くあそこに眠らせておく手はない。 のも一理ある。私たちたった三人の白人がイグノシを助けにいったと つもりだ。そのために大量の火薬を持って行く。厚さ五フィート しても、大したはたらきは出来ないだろう。 岩扉を、爆破しなければならんからな」 「しかし、牛車ではあの砂漠をこえることは出来ない。それだけの 今度は、私とカーティス卿が顔を見合わせる番だった。 ほうくっ : まあ、アデンあたり 「だがあの宝窟は、イグノシによって封印されているそ。ダイヤは荷をはこぶには、ラクダが必要になるな。 多くの白人を惹きつけ、その白人たちはわざわいをもたらすものとで手配できるだろうが」 「こんどの探険には、全財産をそそぎ込むつもりだ。アラン、君の イグノシは信じているからな」 いちばんいいと思う方法を考えてくれ」 私は笑いながらいった。 「それに、私たちが持ち出したわずか十数個のダイヤでも市場に大たしかに、グッド大佐は人が変わったようである。かっては、女 ぎきよう 混乱をもたらしたことを忘れたのかね ? あの二つの石の櫃にぎつ好きという欠点はあったが、快活で義侠心に富み、男らしい男たっ しんし しりつまっていたダイヤをぜんぶ持ち出せば、世界中のダイヤの価た。何よりも紳士だった。海軍士官は士官である前に紳士であらね ちげらく ばならない。 値が下落するかも知れないぞ」 せいひん くわだ かねもうじゃ 私は冗談まじりにその企てをいさめるつもりでいったのだが、グ清貧をよしとするほど偽善的である必要もないが、金の亡者であ ってはならなかったろう。 トの表情は変わらなかった。 「ぜんぶとはいわない。だが私にはどうしてもあの宝の一部が必要グッドには、何か事情があるにちがいない。何よりも、彼が私の なのだ。何としてでも持ち帰るつもりでいる。 : それに、ガトリ 友人だという事実には変わりはなかった。 ング銃も持って行かなければな」 「分かった。いちばんよい方法を考えよう」 「ガトリング銃 ? 」 カーティスはふかいとどろくような声でいった。 「私たち自身を取り戻すために」 ひっ ー 08
「では、君も同じ夢を見ていたのかな ? 」 つな そのいには答えず、私はつづけた。 「夢のなかで、あのツアラとイグノシとの大決戦に立ち会ってい る。もちろんじっさいにはイグノシ軍が勝ったのだが、夢のなかで 1 海峡からの舌ビラメ、つめものをしたキジのロースト、 はツアラが勝つのです。イグノシ軍をふみにじり、ヘンリー : : : あ 鹿肉のステーキといったすばらしい食事のあと、私たちはダイニン なたも、ジョンも彼の手にかかって殺される。そしてこの私にもお グルームの隣りにあるスモーキング・ルームに移ってくつろいだ。 ビロード張りのソフアやアームチ = アが置いてある小さなラウンジそるべき斧をふりかざして襲いかかって来るのです」 ふたりはふたたび顔を見合わせた。 である。 「これはふしぎだ」 かたわらのテー・フルに・フランデーグラスを置き、詰めたばかりの グッド大佐がふかい息を吐いた。 ・ ( イプに火を点け、椅子にゆったりと坐り直すと、私はいった。 「じつにわれわれも同じ夢を見ているのだ。イグノシが死に、ヘイ 「さあ : : : 話を聞こうじゃありませんか」 丿ーや君も殺される。 ・ : そして、自分もまた殺されようとすると 食卓では、アフリカでのすばらしかった狩猟の思い出ばなしに終 始していた。カーティス卿は本題にふれようともしなかったのであころで、目がさめるのだ」 る。 「偶然の一致ということはありませんかね」 私はいった。 カーティス卿とグッドはちらりと顔を見合わせた。かるく咳払い すると、カーティス卿は唇をひらいた。 「私たちにとって、ククアナの思い出はまだ生々しい。夕食に食べ 「君は、虫の知らせというやつを信じるかね、アラン ? 」 たものの消化がわるければ、わるい夢を見ることもあり得ますよ」 オカルティスト 「さあ、私は神秘主義者ではありませんからね。自分の目や耳でた「しかし三人が同じ夢を何日もつづけて見ることはあり得ないだろ しかめられるものしか信じる気にはなれないが : : : 」 「虫の知らせというものが夢に現われる場合もある。私とジョン カーティスはおだやかにいった。 が、毎晩同じ夢をくりかえし見ているとしたらどうだ ? そこには 「そこには何かの意志がはたらいている。何者かが、はるかな距離 何らかの意味があるとは考えられないかね ? 」 と時間をこえて、私たちに何かを伝えようとしているとは考えられ 私は、とっぜん胃のあたりにしこりが出来たように感じた。 ないだろうか ? 」 「 : : : それは、もしかしたらアフリカの夢ではないかな ? あのク 「その何者かとは、 いったい誰です ? 」 クアナ国の ? 」 「もちろん、イグノシだよ」 そっちよく カーティス卿はうなずいた。その目が興奮にかがやいて来た。 グッドはずばりといった。海軍軍人らしく思ったことを率直にい まいばん んだい 2
しょこう ククアナ国での冒険の物語はぜひ自分の手で出版したいし、何よ 灰色の曙光が、田園にひろがり始めている。農園のむこうにつら すみ 、リーにひさしぶりで逢いたい。 り息子の / なる林は、まだ墨絵のようにくすんでいる。五マイル向こうにある トレー・ダー セ・フンオークスの村では、人々はまだ眠り込んでいるだろう。 私は五十年近くアフリカで、象牙 ( ンターや交易商としてすごし たんめい イングランドは私の故郷であり、 いまはさむざむしいこの広野て来た。ふつうの人間ならばはるかに短命でおわっている筈の生活 だった。そろそろ引退し、故郷の南イングランドでのんびり余生を も、春には美しく、夏にはかがやかしい緑につつまれることも知っ ている。 送うてもわるくはあるまい だが私はこの土地を愛せなかった。あの南アフリカの強烈な太陽そう決心するとイギリスに戻った。カーティス卿から、ダイヤの が、全身にしみついてしまっているのだ。あの熱気をいつもからだ売価の三分の一の八万ポンドをもらい、ロンドンの南二百マイルほ どのところにあるセ・フンオークスで、手頃な農園を買った。牧場も に浴びていないと、皮膚がふやけ、かびが生えそうな気がする。 事実、ズール人におとらず褐色に灼けていた私の肌も、この一年ついており、私が一人で隠棲するにはじゅうぶんすぎるほどのすみ / しふ色あせてしまっていた。それを見るかたった 近いイギリス暮らしで、・こ、・ きようしゅう のうえん うず 農園の仕事は私がやるが、牧場の管理は人をやとってまかせ、あ たびにつよい心の疼き : : : 郷愁をお・ほえるのだった。 私はカーテンを開けると、キッチンに行き、料理用ストープに火りあまる余暇には読書をし、狩猟や釣をしてすごす : : : それが私の こうちゃ を起こして紅茶を入れ、ブランデーをたつぶりそそいだ。住み込ん長い間の夢だった筈だ。 ハリーは休のたびにおとずれて泊まっていってくれ、ロンドン でいる料理人のシムズ夫人を起こすのも気の毒だったし、自分のこ とは自分でしなれている。寝室に戻ると気に人りのソフアに腰をすのカーティス卿の屋敷へは時折り出かけて旧交をあたためた。 しかしいつの頃からかむなしさが私の胸にしのび入り始めた。そ えて、紅茶をり始めた。 かくじっ ククアナ国からぶじ戻ったあと、私は一時ダー / 、 、ノの自分の家にれはひっそりと胸にすみつき、確実にその影をひろげ始めたのだっ オカカやかしい夏がおわり、秋がすぎ、冬が近づくにつれ、その 戻り、カーティス卿とグッド大佐はイギリスに戻った。しばらくしこ。 : 、 ゅうしルう てカーティス卿から手紙が来た。 ・ : 例のソロモン王の宝窟からわ憂愁はふかまった。私はほとんど、檻に閉じ込められたライオンの ずかばかり持ちかえったダイヤモンドは、すこぶる品質のたかいも心境になり始めたのだった。 そして、あの夢が始まった。 ので、汝外な値で売れそうだという。 リーと 六日ほど前から、同じ夢を見つづけるようになったのだ。・ ロンドンの病院で外科医学の研修をしている私の息子のハ クアナのあのルーの丘で、ツアラ軍とイグノシ軍とが王座を賭けて も友だちになり、ともに狩猟をたのしんでいるという。・せひ近いう ちにイギリスに戻ってほしいという文面だった。 戦った激戦の様子が、まずよみがえって来る。 そのことは私も考えていた。 現実には、イグノシ軍が勝ち、やぶれたツアラはおのれの宮殿の じじっ いんせい しゆりようつり おり 9 9
ではないわけだ。 われわれは、何かふしぎなエーテルの影響を受け、同じ夢を見て 手紙ではこれ以上くわしく説明するわけにいかないが、あるいは いるのだろうか ? そのエーテルははるか一万マイル以上をへだて 君も同じ悩みをかかえているかも知れない : ・ : なぜかそんな気がすた南アフリカの奥地から発せられ、このイギリスにまで届いている るのだ。 のだろうか ? 私はかぶりをふった。 そこで、出来ればロンドンのわが邸まで足をはこんでもらえない げんじっ をうかっ だろうか。大佐ともども、久闊を叙し、いい食事と酒をたのしみな私は現実主義者だ。この目で見、この手でさわれるものしか信じ ないことにしている。 がら、私たちの悩みの解決に力を貸してもらえればありがたい。 期日は、十二月一日でどうだろう ? ご息子の ハリーも招ぶ予定らちもない夢想にふけるのはやめよう、すべては、二人に会えば 分かることだ。 だ。病院の仕事がいそがしくなければ、来てくれるだろう。 親友たちへの再会のよろこびで、胸が大きくふくらみ始めてい たのしい一夜になることはまちがいない。久しぶりにマクマザー ンの知恵にあふれたことばを聞けることを期待している。 ・カーティス / 君の忠実なる友、ヘンリー カーティス卿らしい、ざっくばらんで簡潔な文面だった。虚飾が 第ニ章グッド大佐の動機 きらいで男らしい卿の性格がよく出ている。 マクマザーンというのは、ズール人が私につけた仇名で、″夜も ばんち 片目を開けて眠る男〃という意味だ。蛮地で暮らすにはそれだけの 用心ぶかさがなければ生きのびることはむずかしい。自分でいうの カーティス卿の領地は、中部イングランドのリンカーンシャーに もおかしいが、私にびったりの仇名といってよかったろう。 ークに近いメイフェアの一 あるが、ロンドンでの住まいはハイドバ 十二月一日といえば、三日先だ。もちろん私にはこれといった予角にある。 定もなく、ロンドンに出る余裕はじゅうぶんにある。 そのあたりはふるくからの高級住宅地で、貴族の邸がつらなって しかし、意味ありげな文面が気にかかった。ククアナに関して、 いるが、なかでもカーティス卿のそれは城館のように堂々たるもの 二人に共通した悩みとはいったい何だろう ? しかも私も同じ状態だった。 にあるかも知れないと示唆しているのだ。 約東の日の夕方五時に、私はビクトリア駅から乗った馬車から下 もしかすると、かれらも私と同し悪夢を見ているのではない り立っと、その邸の玄関のノッカーを叩いていた。 3- 0 ひどく冷え込んで、雪でもちらっきそうな日和だった。ロンドン その思いがふと閃いた。 特有の濃い灰色の霧が、街の上に低く垂れ込めていた。 あだな こ 0
とつけん 前でイグノシを待ちかまえた。ゃぶれた王者の特権によって一騎打た。次の瞬間、私の胸はククアナ国のさまざまな驚異の光景に対す どうけい ちの相手をへンリ 1 ・カーティス卿にえらんだ。卿によって息子のるあつい憧憬の念でみたされた。 にゆう スクラッガを殺された恨みもあったのだ。 砂漠からふりあおいだ、雪をいただく二つの高峰 : ″シ・ハの乳 ごう しかしカーティス卿は豪勇無双ぶりを発揮し、戦斧をふるってた房″の壮観。その山をこえて初めて目にした古代の街道、ソロモン だの一撃でツアラの首をはね飛ばしてしまったのだ。ククアナ国を街道も、おどろくべき眺めだった。岩を切りひらいて作った幅十五 おおっていた暗雲は晴れ、かってウムボパという名で私たちに知らフィ ートものなめらかな道が、原野をよぎってまっすぐにつづいて とう けいこく れていたイグノシは正統なるククアナの王位についた。 いるのだ。ふかい渓谷の上には、みごとな石づくりのアーチがかけ しかし″夢″のなかでは、最前も悩まされたとおり、ツアラが勝られていた。すべて二千年前の古代人がやってのけたことである。 た。カーティス卿、グッド大佐を殺し、イグノシをもたおし、私そして、ソロモンのダイヤモンド鉱山をまもるように宝窟の前に ちんもく 自身に迫って来る。 いつも、その斧が頭上にふり下ろされる寸そそり立っていた三体の″沈黙の像″。へ・フライの神々を模したと ゅううつ 前で目が覚めるのだった。 思われる。男性像が二つに女性像が一つで、神秘な憂鬱さをただよ わせていた。 これはいったいどういうことなのか ? そして私たちを恐怖でふるえ上らせた″死者の部屋〃。それはク ククアナ国へのなっかしさが、同じ夢をくり返し見させるのかフ びよう だがそれならば、なぜ私たちが殺される悪夢となって現われるのクアナ国代々の王の墓廟ともいうべきもので、宝窟の手前にある一 しよう しにがみ 室であり、鐘乳石をきざんで作られた巨大な死神の像の回りに、テ ープルをかこんで王たちの遺骸がなかば石化しつつ坐っていた。カ たしかに、私たちがかの地を訪れたことにより、おびただしい死 者が出た。数万のたくましい戦士たちが死に、ツアラ王も、その片ーティス卿が首を切り落としたツアラも、みずからの首を抱いてそ 腕の魔法使いだった妖婆ガゴールも死んだ。そしてグッド大佐を慕こに坐っていたのだ。 っていたあの美しいファウラタも。 そして、洞窟の奥でついに見たダイヤモンドの原石の、なめらか ソロモン王の秘宝がおさめられた大洞窟に私たちを封じ込めような石鹸のような手ざわりと、にぶいきらめき。 かれい としたガゴールは、厚さ五フィートもの岩扉に蛙のようにおしつぶすべては華麗な夢のようであり、同時に私の胸のなかでは、生々し へだ された。ファラウタはその危急を私たちに報らせようとし、ガゴー い現実であった。一万マイル以上も隔てた遠くにありながら、時が ルに胸を刺されて死んだ。 経つにつれ、いっそうその生々しさが増して来るようにも思われた。 私は溜息をついた。 ファウラタの骨は、今もつめたい石床の上で、永遠の暗黒に包ま れてねむっている筈である。 不安が、おぼろな黒雲のように胸の奥から湧き上がって来た。 きよう ククアナ国に、可、 : ・とっぜんつよい郷愁がこみ上げて来て、息がつまる思いがし イカ異変が生じているのではないか ? わが友イ イサスシ 8