で聞いたら、スタッフを含めてなんと百九 場所を移して、合宿は早稲田の杜ならぬや、〈綺譚〉編集長の秋山さんの姿も ! オーラスは深夜四時から、掟破りのクイ十人が集まったそうで、必殺保護色を使う 本郷で、早くも立食パーティーからアルコ ・クイとなんなく仲間に入れた。 ールも入り、泡坂妻夫さんの手品ショーでズ大会、悪夢のようなジェスチャー ズもあり、優勝は 0 & ゲストの編集者コ午後四時に開会。オー。フニングフィルム は、矢野徹さんの茶々も入って大騒ぎ。 は、「プラックホールコアラ」が名古屋を 八時からは矢野徹さんの翻訳講座。予定ンビがひっさらっていきました。 より三十分も伸びて、創作講座も始まって朝食の時間はまさに死屍累々、矢野さん襲うというもの。スゴイ。続いてゲストの しまい『カムイの剣』全四十巻の全が明は年期の入った呑み方で、もりもり朝食をあいさつから自己紹介。知っている顔が多 かされるオマケつき。続く、栗本薫さんのお食べになっていたのに、同じ部屋で深夜いのでほっとする。私は立場上自己紹介で は、山田正紀氏の近刊の宜伝に努める ( お 、ツスルしていた翻訳家の宮脇孝雄さん、 本家創作講座では、風邪による熱をおして , お、なんという良い子であろうか ) 。それ 幸の名講師ぶりで、みずから、珍本奇本のオ大井良純さんはグロッキイでありました。 ークションまでなさり、世界に十冊の『魔それにしても、クラ・フ員諸君、よく頑張から食事の後、参加者は、自分の好きな企 画ルームへと消えていくのでありました。 ってくれました。イナホコン準備のため、 界水滸伝』の革装版は、まさに目玉商品。 私が行ったのは、『高い城の男』の読書 ー、ディック、ニ何人の留年が出たことやら : 続く分科会は、・ ーヴン、カー 一学生サークルの企画したコンペンショ会。レポーターの磯氏は、いきなり「記号 ヒーロ 1 & ヒロイン、ビ一ア オ、クラ・フ映画六本立て、アニメソング大ンでいろいろと不手際もありましたが参加論」の不意打ちで回りをあっといわせる。 たなみ すると名大の田波氏が、見事なレジュメ返 会、少女マンガと多彩な広がりを見せ、そ者の皆さんおっかれさまでした。 しで磯氏を追いつめる。これに中大 0 の れそれ、それなりのファンが異常に盛り上 ( 十月三日於本郷館 特派員・柴尾英令 ) 中村氏と理科大木下氏が参加、白熱の議論 がっていました。 を展開するも時間切れ。司会の渡辺氏がう 私はといえば、田中文雄さん、森下一仁 まく収めたが、後の討論会にまで尾を引い さん、水見稜さんと一緒に呑んでおりまし 名古屋発 たそうな。それから私は、安田均氏と水鏡 た。 ( 田中さん、家族サービスのあと、遅 子氏の翻訳講座に参加。海外のあり方 くまで呑ませ、すみません。水見さん、正 など真面目な話をユーモアたつぶりに話す しゃちほことエビフライの街 ( 最近では 体を明かしてしまいましたね ) コアラの街ともいうそうだが ) 、名古屋の二人に感動。 竹本健治さんの部屋は、アットホームな この他に大和真也氏の部屋「こなぶん ダイナコンⅡに行ってきました。 雰囲気でした。 そして矢野さんの部屋では、女の子が続地方大会へは、あまり参加したことがな 0 」やら逆井鋭二氏の「お絵かき教室」、 続と矢野さんの抱擁をうけ、即席婚約者がかったので、少々不安を感じながらの会場志水一夫氏の「恐い話の部屋」「イズ 入り。すると、いるわ、いるわ、いかにもムの部屋」それから「マルペ一首」の部屋 一組できたとか : 麻雀部屋では四卓立ち、伊藤典夫さん (-ng-i です、と書いたような顔、顔、顔。後などが盛り上がっていたらしい 派 特 ・ illlllllllllllllllllllllll. 2
ラジェ 1 ーター飾りそっくりといったかっこうで、車のポンネットに ジャイルズはいささかもったいぶった口調で答えた。「青い うずくまっているではないか。青塗りの金属面に、後足の爪と左の狂暴な ? ねえフレッド、このポストンで、自分の車にそんなこと 前足、というか腕というかで、がっちりとしがみついているらしかをしたがるような人間がいると思うかいー った。右の腕は恐ろしげなトサカのある顔の横にのばされて、まっ ロビーの内側で、グリズルは、そうとは知らぬ夜警兼エレベータ すぐ前方をさしている。 ー係のジョージの足もとあたりをじゃれまわっていた。ジャイルズ 「グリズル ! 」ジャイルズは絶叫した は使い魔のほうを見ないようにした。 青い生きものはゾクッと身ぶるいし、腕をさらに前へとっきだし「五階ですか、ウォードウ = ルさん」とジョージのほうから声をか けてきた。「お偉がたたちみんな、五階に集まっとられますよ」そ ジャイルズはグリズルに視線をすえたまま車に乗りこみ、発進されからジャイルズの上着の下のパジャマに目を見張り、「よっぽど せた。 / 街路に近づくと、前方をさしていた腕が急転回して右へのび大急ぎでたたき起こされなすったんですな、ウォードウ = ルさん。 た。指示どおりハンドルをきる。心臓が早鐘のように打っていた。 きっとたいした緊急事態にちがいないや。それにしちゃ、軍隊の人 サインにしたがえ、だー はまだひとりも乗ってこられませんがね」 ジャイルズは謎めいたおごそかな沈黙を守りつづけた。 公園のあたりにさしかかるころ、ジャイルズにもうすうすどこへ 五階の大部屋の重々しいガラス壁のむこうではカーテンがびっち 向かっているのかがのみこめてきた。スーアル トが近づく りと閉ざされていた。一方のはしに近いほうにわずかばかり、小さ と、グリズルは「徐行せよ」とでもいうように前方をさした腕をもな明かりが透けてみえる。エレベーターのドアが閉まると、ジャイ ちあげ、それから「止まれーのつもりか、突然びたりと下へ向けた。 ルズは自分のデスクがあるその部屋をめざして廊下を歩きだそうと O <t N のガレージ係のフレッド : カ窓のところへやってきた。目したが、そのとたんズボンの裾をひつばられた。グリズルが彼をつ はポンネットをみつめたままた。やがて、「お預かりしましようれて行ったところは、大部屋の明かりのない側ととなりあったミス ター・アー・ハスノットのオフィスだった。 か、ウォ 1 ードウエルさん ? 」そして二人は位置をかわった。ジャイ ルズが歩みさろうとしたとき、フレッド ; カ興奮した声でさけんだ。 トのオフィスは暗く、誰もいなかった。だが大部屋 「ウォ , ードウエルさん ! 」ジャイルズはひきかえした。「確かに に通じるドアは開いていた。ジャイルズはドアに近づき、足をとめ っ 見たと思ったんですがねえ」ハンドルの向う側でフレッド : 、 コツ。フス、 、スター・アー・ハスノット、ミスタ た。「おたく、車に青いラジェーター飾りつけてたでしよう、狂暴 、、、スタ な顔した、恐瓰みたいな。そいつが、どこか行っちゃったんですザー ・ジムの面々がそろって大部屋の向う側寄りに立っ ていた。黒っぽいスーツを着こんだ四人は、さもしかつめらしくも ミスタ
彼はドアを開けて、指定された小部屋に踏み込んだ。その部屋に は、司政官の装備のひとつなのである。その場の音を電波に変えて 入るのは、これが初めてであった。 発信をつづける一方で、危急の場合にはベルト自体がゆるんたり強 2 綺麗な部屋であった。 くなったりして、持ち主にそのことを知らせるのだ。 正面に大きな鏡があり、壁には絵がかかっている。シ = ードから彼はふだん、このベルトを減多に使ったことがない。見掛けに比 淡い光を落とす高いスタンドもいやみがなく、上品な感じなのだ。 していやに重いし、これまではそんなものをつけなければならない 今はべッドよよ、 冫オしが、おそらく来客を泊める部屋ではないか、と、場合というのが、なかったといっていいからである。これまでは、 彼は推測した。 つねに近くのどこかにロポット官僚がおり、の判断と指示に それと共に、こういう小部屋をいくつも持っているジャクト邸応じて、彼の身を守ってくれるはすだったからであった。 が、なぜまたわざわざ大がかりな宿舎ビルを建設しなければならな今は、これを使うしかない。 いのだろう との疑念が、ちらりと頭の隅をかすめたのも、事実も控室へ行「たあと、彼は、ひとりで舞踏会の会場に居 であった。 つづけねばならないのである。そのため、はそのベルトを着 が : : : 今は着替えである。 けるのを条件に、やっと、彼が単独行動をとるのを認めたのだ。こ 彼はが持って来たケースをあけて、着替えにかかった。 の手首にとめたベルトからの発信がつづいている限り、 O N<< は ここまでは紺色の、略礼にも使用可能な、司政官の バッジのついたそれを受けてに中継し、は現場の状況を把握して、適 月たったが、ウイスボア港に入るときからずっと着用しているの切な処置をとることが出来る。もしも何らかの危険が司政官の身に で、埃もかぶりしわも出来ているし、いかにも自分は司政官だとい 迫りそうだったら、輪の伸縮でそれを知らせ、司政官はすみやかに いたげな格好なので、ここでの舞踏会にふさわしいものに替えるのその場から出て行くーーという仕組みであった。 ・、、礼にかなっていると思ったのだ。 そればかりではない。彼は、シャツの下に、薄いが能力の高い防 着用したのは、司政官の制服ではなく、タトラデンのいわゆる紳護チョッキをまとっていた。これもの強制によるものであっ 士たちがちょっとした会合などでよく着る、心持ちラフな感じのス た。はもっと強力な、しかも胴全体を防護する型のものを使 ーツであった。い ってみれば私服である。けれども彼は、このほう うように主張したが、彼はそれでは自分の動作が鈍くなり他人にそ が今夜の出席者たちを無用に刺激しないたろうと考えて、そのスタのことを見抜かれるかもわからない、そうなったらそんなに警戒し イルを選んだのであった。 ているのかと敵意を持たれかねないから、逆効果だといい、 1. しかし、身につけたのは、それだけではない。 薄いチョッキに落ち着いたのであった。 彼は、ふつうよりはだいぶ分厚い金属ベルトの腕時計を、手首に本音をいえば、には悪いが、彼はこうした措置がしんじっ とめた。一見、ちょっとおしゃれな腕時計だが : : : ベルトそのもの必要なのかどうか、疑問に思っている。大体が、名家の舞踏会とい
R 特 P 員 0 R 告 T に精を出した。その後で、他の部屋へも行二日目のプログラムへ突入。 まずは実行委員長がミス・ガタコンに選 ってみたけれど、どこで都合するのやらほ 新潟発 出される。理由は女性で実行委員長だから。 とんどどこも酒宴中。 典型的なのが酒場らふあ亭。紫煙と酒、続いて″純″ミス・ガタコンが選出された。 その後がクイズ。台本がないとかでゲス 長いドライ・フの挙句にたどりついたそして熱気にあてられて部屋を出たときに は意識朦朧とした状態。涼しいロビーで頭トの方や参加者、スタッフが急拠問題をひ +<OOZ はまだ開場前で静かな雰囲気。 ねり出す不手際振り。もっともそれはそれ いささか拍子抜け気味だったが、人が集まを冷やしてまた一杯。 対照的だったのは、禁酒禁煙の「ジョナなりに面白かったけれど。 ってくるにつれて熱気もたかまり、開幕。 最後に『鍵』が来年の実行委員長へ渡っ 大事な『 O<<+<OOZ の鍵』をなくし て無事閉幕。再会を約東して、長い家路に 幸た実行委員長が、ラベンダーの香りととも 着いた。スタッフの皆さん御苦労様、来年 に一年前から『鍵』をもらってくるオー。フ またよろしく。 ニングが大いにうけて、早くも大騒ぎ。 ( 十月十三、十四日於ホテル湖畔 オー。フニングフィルムの上映、実行委員 特派員・北野喜樹 ) 長挨拶と続き、ゲスト紹介の頃にはもうす つかりなごやかな雰囲気になっていた。 夕食前の企画は大広間での全員ゲーム。 東京発 豊富な賞品を用意してのゲームだったが、 幸いなことに私は早々に脱落してしまっ & ミステリー、 た。じゃんけんに始まる苛酷な予選を勝ち こんな出逢いがほし かった。このキャッチフレーズのもとに、 派抜いてたどり 0 いた決勝が二人羽織での早 、冫食い竸争ではあまりに悲惨。新潟名物笹ダ 異色の大会が開かれました。主催は私たち ンゴとおにぎりを口に押し込まれる姿にはサンと宇宙クジラ」と「ワールドコン」のワセダ・ミステリ・クラ・フです。 さて、イナホコンは早稲田祭でわきかえ 敗残者の中からも同情の声があがるほど。部屋。特に後者では今年の *<<OOZ Ⅱの もっとも笑いの方が圧倒的多数派だったけスライドが本邦初公開とあって柴野さんをる早大内の講演会ーー井戸端会議で始 中心に喰い入るようにスクリーンを見つめまりました。当初の出席者の伊藤典夫さん、 ていた姿が印象的だった。 夕食後、いよいよ合宿企画の始まり。 鏡明さん、都筑道夫さんに、飛び入りの矢 私もアルコール補給後、出撃。ゲームの他にも、ディスコだの演劇だのビデオだ野徹さんを加え、会場の百五十人 ( うち、 部屋では射的とルーレットに興じ、光世紀のたくさんの企画があったらしいが、ほとイナホコン非参加の一般の方六割 ) ととも の部屋では何が光世紀か分からない与太話んど見られず、ロビーでお酒を飲みながらに、実に和気あいあいの二時間でした。 ニ人羽織での早食い競走 第一回イナホコン 2 ー 7
R 特派 P 員 0 R 告 T ているし、「紙相撲」ではメモルの帽 翌日気がつくと舞台に小学生の女の子がて来場された。 三人いた。子ちゃん「私は小一の頃からその後は自己紹介だが、人数が多いので子とソラリスの海が相撲をとっている、と マガジンを読んで : : : 」場内ドカー ちょっとしんどかった。ある参加者は、親いう調子。「森永のお菓子を食べる部屋」 ン。子ちゃん「私は小四の頃から小説をにダイナコンへ行くと言ったら、こう言わなどというものまであったらしい。読書会 書いて : ・ : ・」場内もう一度ドカーン。司会れたそうだ。「危くなったら、お金だけ置は、レポーターが頑張っていた。後半ディ ックを離れてポードリャール中心の話にな 者「大好きな大和真也さんに質問を」子 いて逃げてらっしゃい」・ : ・ : うーん。 ちゃん「何を質問されるとうれしいです七時半。「共通一次」が一勢に行わってしまったのが残念。その他、「翻訳講 か」場内ズゴゴーン。女子小学生パワーは れた。その名の通り、マークシート式の問座」とは名ばかりの、安田氏と水鏡子氏が 対談する部屋や、「討論会」とは名ばかり 反怖い。それからクイズ大会を経てめでたく の雑談する部屋などに行く。他では、「マ 幸終了。すべては企画力の勝利ですね、楽し ルペ一首の部屋」なんかが盛り上がってい かったですよ。来年もよろしく。 ( 付記 メモル人気はすごい ) 。 。ー判たようだ。 イ いつの間にか朝。早朝オークション、朝 ( 特派員・山田正紀研究会富川泰次 ) し食、即売会と続いて、実行委員長渡辺氏と 真也さんの司会コンビによる恒例のクイズ 大名古屋コンペンションーーー略してダイ ・。ハトルロイヤルである。相変らずばかな ナコンも今年で三回目を迎えた。秋のイベ ズ問題があって笑える。昨年に比べてちょっ ントとしてそろそろ定着してきたようであ イとテンポがゆるいという気がしたけど、ま る。直前まで心配されていた参加者も、ぎー あいいか。結果は、大逆転で女性の優勝。 りぎりになってからどっと申し込みがあ 最後にこれまた恒例の一日ファンジンが配 り、スタッフを含めると実に昨年の倍の二 られ、三本じめだか一本じめだかよくわか 、冫百人が集まった。 開始は午後四時から。オー。フニングは、題五十問をわずか十分でやらなければなららないしめで幕。 ・フラックホールコアラ対大名古屋防衛軍のない。後で発表された結果では、安田均氏それにしても、文章ではなかなかあの楽 しさは伝わらない。来年もダイナコンは開 と水鏡子氏が同率一位。さすがです。 死闘を描く特撮 8 で、なかなか面白い 八時。いよいよ合宿企画に突入する。とかれるそうなので、今回行きそびれた人は 特に O ・などかなりの出来だが、予告篇 にかく企画数が多いので、どこへ行こうか・せひ参加して、自分でそれを味わってみて というのが惜しかった。完成が待たれる。 大和真也氏、安田迷ってしまう。とりあえず『高い城の男』ほしい。 つづいて、ゲスト の読書会へ行ってみたが、同時に「大和真 ( 十月二十、二十一日於米川旅館 均氏、志水一夫氏、逆井鋭一一氏、細川英一 特派員・渡辺睦夫 ) 氏のあいさつ。高井信氏と水鏡子氏は遅れ也の部屋」ではコナ。フン QO ! をつくっ 幻 9
が和らぎ、寛いだ雰囲気になり、落ち着いた安全な気分になるが、 我が母方の曽祖父は、ペンシル・ハニア州の、ニューヨークおよびそれは経験した者でなければわからない。 トライ・スティッ・エリア ニュージャージー両州との州境の近くの、現在は″三州地区〃 一九七八年にマーガレット伯母が死んだ後、この家をふたたび見 と呼ばれている地域にあるボタモス郡区の、木の生えた丘の麓の高た時には、広々とした部屋の静けさが少年時代の楽しさを語りかけ 台に家を建てた。家の裏に七本のドイツとうひの木があり、その中てくるように思われた。家にはその住人の心霊的経験が何となく浸 の特に高いものは樹高八十フィートほどもある。これらの木の下のみこむものだと、わたしは半ば信じている。ある家には卑しい魂や 地面は茶色の針のような落葉に覆われ、風がそれらの枝の間を静か落胆した雰囲気があるし、都会のアパートなどには、怒りの叫びの に吹きわたる。丘をさらに登ると、スコッチ・。ハイン、土着のとう最後のこだまがまだ壁に残っているようで、いらいらした感じを放 ひ、もみ、かえで、かばなどの木が生えている。さらに登ると、家射しているように思われるものがある。 から一マイルほど上に、今はかえでの若木が茂っている中に古い林伯母のマーガレットは、わたしが少年のころからこの家に住んで 道がある。そしてその上に、開拓者のキャビンの土台があり、下生いた。わたしの両親は彼女に、この家の所有と、財産の使用を生涯 えの中に土台石がかろうじて見える。これらと、丘を横断している認めるという遺言を残した。今にして思えば、彼女は燃えるような 電線を別にすれば、人の住んでいる気配はまったくない。 情熱的な魂を持っていた。少なくともわれわれは、それぞれ独身生 シッ・フラップ 家そのものは骨組みと合いじゃくりの構造の、白いペンキ塗りの活がもっとも性に合っているという点で、似ていた。しかし子供の 三階建てで、屋根窓と、べランダと、イタリア風のスレート屋根がころ、わたしは彼女を嫌い、恐れていた。なぜなら、彼女は時によ ついている。当時の習慣にしたがって家は根積みをせずに建てられってわたしの存在を意識したり、しなかったりしたからである。 たので、年月が経つうちに沈下したけれども、骨組みは ' 頑丈であ家の装飾をやりなおし、ソファーに全部サラサ木綿の覆いをか る。子供のころの話だが、この家に配線にきた電気工夫が、無数のけ、″モダン〃絵画を壁にかけ、コーヒーテー・フルの上に、たばこ ″キャットつまり、間柱をつないでいる斜めの構造材に、ドリル の箱やフランス小説を散乱させたのは彼女であった。だが、彼女の で穴を明けなければならないとこ・ほしていたのを、覚えている。 老齢と病気も、家に心霊的痕跡を残さなかったらしい。壁も軒蛇腹 一階の部屋はゴールデン・オークの板張りで、床は寄木細工であも暖炉もこう言っているように思われた。「ほーらね、わたしたち る。すべての部屋は、三階の古い召使部屋も含めて、広々としてい は昔のとおりよ。あなたはなぜ長いこと寄りつかなかったの ? 」 て、居間の天井は高さが十八フィートあり、他の部屋の天井は十五と。 フィートある。このように天井が高いと、土地の人がいうように また、この家に幽霊はいないが、地下室となると話は別たという ″温まり難い〃家になる。しかし、広々とした感じがするし、物音ことを、申しそえておかねばならない。それは不規則な形で、天井 の響きカたが″ 、 - モダン〃な安普請の家とはぜんぜん違ってくる。心 が低く、大きすぎて穴掘りの人夫が取り除くことができなかった巨 0
家中で、暖炉の明りが壁に立ち昇る影を投げかけた。これらの影 た。家具はすべてヴィクトリア時代のもので、ほとんど新品に見え るものまでそうだった。大梁のある高い天井から黒い鋳鉄のシャンを見ていると心が落ち着かないので、かれはランプに油を入れた り、灯心を切りそろえたり、調節したりして働き始めた。 デリアがさがり、蝋燭が立っていた。すべてのテー・フルに、うわぐ すりのかかった陶製の笠のある石油ラン。フがのっていた。居間、食家のどこにも電気器具はなかった。電灯も、テレビも、ラジオさ 堂、そして書斎には、すべて暖炉があった。居間の暖炉は赤煉瓦のえも。書斎の『ハ ) と『センチ、 ーズ・マガジン』 ( ろ叨総合雑誌 もの、あとの二間は緑色のタイルのものだった。二階の二つの寝室 ー紙』の合本以外には、雑誌も新聞もなかった。浴室の設備さえ にも同様の暖炉があり、二階の他の二つの部屋のドアは開かなかつも旧式で、シャワー ( 使えなかった ) は、鉤爪のある動物の足に支 えられた浴槽の上の管から、ひどく大きい金属のひまわり形のヘッ ドがぶらさがっていた。見つけたマホガニーの薬品戸棚には、黒い ふたたび食器室に降りて、かきまわした。小麦粉やコーンミール イベカック ・ミルクや油やラードの罐があり、瓶詰豚毛の歯。フラシと、《吐根》とか《カラマイン》とか紙のラベルを の大袋があり、コンデンス めの果物と野菜がたくさんあった。ポーチと中庭には薪がたくさん貼ったそっけない茶色の薬瓶しかなかった。しかし、この家が一、 二年以上放棄されていたはずがないことは、一目瞭然だった。いた 積んであった。 ステーゲル 地下室で見つけた道具で、裏口の南京錠を止めているまたくぎをる所に塵が積っていたが、それはごく薄い層で、とても一世紀にわ こじて緩めたので、一見、扉に錠がかかっているような状態で、自たって蓄積したものとは思われなかった。しかも、不思議なこと 由に出入りすることができるようになった。台所の煙突から灰色のに、これほど多くの食料のある家にしては、鼠のいる徴候がまった 煙が立ち昇っていた。それだけはどうすることもできなかった。しく見当たらなかった。 かし、雪はもう止んでいたが、空には雲が低く垂れこめていて、煙家の中の物を壊すのは気がすすまなかった。しかし、結局、好奇 は見えないだろうと思われた。 心が勝った。かれは二階の二つの開かずの扉をこじあけた。その一 つの内側は物置部屋で、べッドの床架やソファーや椅子がつめこん ・ミルクを混ぜ、タを使って。ハ かれは小麦粉と水とコンデンス ンケーキを焼いた。あまりかびの生えていないチーズさえ、まるまであり、すべて汚くよごれていたが、見掛けはモダンなものだっ る一つあったので、その悪い部分をそぎ落とし、くさび形に切り取た。もう一つの部屋はオフィスとしてしつらえられていて、樫の って、パンケーキといっしょに食べた。 机、なめし革のアームチェアー、それに古風なロイヤルのタイ。フラ その後で、階下のすべての暖炉に火を起こし、煙突が唸りを上げイターがあった。側面に小さなガラス窓があって、中の機構の一部 が見えるやつである。 るまで薪をくべた。だが、この家の頑固な寒さはなかなか去らなか った。ウイング・チ = アーに腰を降ろして、足を炉床に置いていてそのタイプライターのそばに一東の原稿があった。かれは最初の 9 数語に目を引かれ、腰を降ろして読み始めた。 も、しつこい寒気が背中に忍び寄るのを感じた。 こ 0
石をよけて曲がっている。地下室に入るには、台所の揚げ蓋から下えた。 に降りて、くもの巣の張った通路のようなところを腰をかがめて歩十一月に早目にやってきた嵐が電線を吹き落とし、電灯も電熱も この部屋使えなくなった。ビヴァリッジ夫人は暖炉に火を起こし、台所の薪 いて、そのさきの炉のある部屋までいかねばならない。 は、明りがついているかぎりは、不安は感じない。しかし、息苦しコンロをつけつばなしにした。わたしはこのような非常事態にそな いような暗闇の中では何かがそこにいる。家より古くて、敵意のあえて用意しておいた石油ラン。フを取り出し、われわれは蝋燭の灯の もとで食事をした。四日間続いた嵐のあいだに、わたしはラン。フや る、支離減裂な衝動みたいなものが。 わたしは友だちの善意の忠告にそむいて、 = = ーヨークでの生活蝋燭の柔らかな光に慣れて、好きになった。電灯が復旧すると、実 際にがっかりしてしまった。電灯は冷たく、非人間的に感じられた を切り上げ、事業から身を引き、家財道具の大部分を売りはらい 賃貸借を清算し、九月にこの古い家に引っ越した。ビヴァリッジ夫し、あまりにもいろいろの物がはっきりと見えすぎた。わたしに 人という土地の婦人が、家の中を住めるような状態に整えるのを手は、暖かい茶色の暗がり、神秘的な感じのほうが好ましかった。そ 伝ってくれた。わたしは彼女のことを、未亡人になったばかりで窮れで、ラン。フを使い続けた。ビヴァリッジ夫人には異議はない様子 乏しているだろうと推察した。それで、家政婦として同居してくれだった。 ないかと頼むと、彼女は承諾した。 わたしは彼女に手伝ってもらって、屋根裏部屋にずっと昔に放り こまれていた家具をいくつか運び降ろした。マー・フルトツ。フの鏡台 ビヴァリッジ夫人はたぶん五十歳ぐらいの頑丈な体格の婦人で、 肌が白く、髪が黒くて、それを旧式な東髪に結っていた。夫のことやテーブルは昔どおりにしつかりしていた。椅子や二人掛けソファ ばす はめったにロにしなかったが、夫は大工か、屋根職人か、そんな種ーは、もちろん馬巣織りのもので、とても座れる状態になかった 類の仕事をしていたらしい。彼女自身はほとんど教育を受けていなし、なめし革はひび割れがし、剥がれていた。余裕ができるとすぐ かったが、生まれつき知能が高く、読書によって精神を形成してい にストラウズ・ハーグの椅子類の張替屋を呼び、これらを修繕に出 た。わたし自身、彼女がきてくれたことを幸運だと思った。それし、表面をビンクと・フルーのフラシ天、というよりはむしろ毛足の は、彼女が家事を能率的に処理したばかりでなく、われわれの間で深いモヘアの布張りにさせた。それらが出来上がって戻ってきて、 はどちらの側からも、セックスを示唆するような言葉を口にしなか居間に置きなおすと、残りのモダンな家具はますます場違いに見え ったからである。彼女は静かな声で、ロ数が少なく、生活習慣を完るようになった。わたしはそれらを一つ一つ追放した。ポート・ジ オークション・ ャーヴィス道路の、いわゆる《競売綢》で、大きな冷蔵庫と、 全にわたしのものに合せた。何かの理由で彼女にきてほしいとわた しが思う時には、彼女はかならずそこにいた。わたしが一人になり二個の大きな銅の洗濯たらいを見つけた。これらの品物の一つ一つ たいと思えば、彼女は引っこんだ。夜になると彼女は三階の自室にの取替について、わたしは反対を半ば予想しながらビヴァリッジ夫 引きこもり、そこでときどき静かにラジオを鳴らしているのが聞こ人に相談した。なぜなら、それらを入れると彼女の仕事がかならず 7
は、急にラーメンの入ったカッゾをきつく抱きしめるようにした。腕で抱えるようにしたので、男はひっくり返り、そのまま動かなく 舁と蟐娥はあきらめて、窓から離れ、再び舟をゆっくりと動かせなった。動かなくなった男の上に、女がすがりついた。 「ここにはラ】メンないみたいよ」 「なんだ、あいつら : : : 」 蟐娥は言って窓から離れ、舁もビルディングの中の光景を見てい 「いやねえ、ケチ ! 」 「あ、あの建物にも灯りがついている、あそこにも人がいるかもし「臭い、臭い」 れないそ。行ってラーメンもらってこよう、こう腹がへっちゃあた と言ってすぐに壁から手を放した。 まらねえ。名案も浮かんでこない」 「たまらねえ匂いだ、こりやひどい」 舁は再び舟を進ませて、薄汚れた灰色の壁を持っビルディングに 呟くと、また腹の虫がグーツと音をたてた。 近づいた。 月は澄みわたり、水面にうっすらと絹のような光沢を与え、天空 大きな窓から覗くと、こちらには数人の男女がいるようで、やはで静かに輝いている。 り弱いロウソクの灯りの下にかたまっているが、ラーメンはな、 うとうとしようと思っても空腹で二人とも眠ることもできない。 った。彼らは部屋の床にころがって、いかがわしい行為にふけって「アーア、 ミミズ入りのラーメンでもいいから食べたい」 いるのであった。 「チクショウ、こう腹がへっては眠ることもできん」 ふと顔を上げた、髪のばうぼうの、垢にまみれた男と嫦娥の眼が舟底に、仰向けになって、舁は呟いた。 「だけどあなた、本当に月がきれいねえ : : : 」 あった。 言って嫦娥は舁にすり寄った。 男はどろんとした濁った眼で薄笑いを浮べ、ただれた唇をゆがめ 白いぶよっとしたむきだしの腕が舁の頬を圧迫した。 た。と思うと、また顔を下に埋めたのだが、男の下にはロウソクの 「よせよせ、それどころじゃないぜ : : : 」 炎に照らされた女の太腿があって、その太腿にはポロ切れがまきっ 真面目な口調で舁は言った。 いていた。 部屋のあちこちで、そういう光景が見られ、時おり弱々しい女の「あら、何よ ! あたしはただ愛を確かめたかっただけなのに : 呻き声が洩れ、女は転がりながら何の抵抗もせずにまたちがう男に 身をまかせていた。さっき眼のあった男が、よろよろと窓の方に近ふくれつ面をして、 寄ってきて、蟐娥に手を伸ばそうとした。下半身は裸で上半身はひ「食べ物もなくてこんなところにおつばり出されて、あたしたちこ きちぎれたシャツだけであった。男は「ウウウッ」という呻き声をれからどうなるのよ」 発し、嫦娥の方に来ようとしたが、ひとりの女が這ってきて脚を両「それだよ、問題は : : : 」
ドクター 「この調子なら、たいして時間はかからないそ」彼は気を取りなお ーニイは、壁にかかっている〈雨の海〉の地図の前 した。「この走りかたで、五マイルはこなしたはずだ。ひょっとしで行ったりきたりしていた。そのむかい側にある通信士たちの低い 3 2 たら、十マイルに近いかもしれん」 二段べッドはーーー一脚しかない椅子と同じように、キャン・ハスとア ごく小さなクレーター、つまり、差し渡し数百ャードの〈首飾〉ルミでできていたがーー三人の重すぎる重量を支えていた。主任天 レ を一周した。そのちょうど中央にちつぼけな峰があった。それは、文学者のドクター シャーマンよ、・、ツ キー・オニールとエミー 月のほぼ半数ちかいクレーターで見られる中央山塊に相当する。そ・ウォールの間に座 0 ていた。ウォールは、地質学者のチーフであ のときはじめて ( ンセンは、トラクターごと崖から落ちてしまったるだけでなく、・ ( ニイの副官でもあった。オニールは、ロケット カメラを惜しいと思った。 を送ってプラトン地域の写真を撮ることになった場合に備えてそこ 「運転に忙しくて、途中で一枚も写真を撮らなかったし、こんなに 完璧なミ = チアに出食わしたというのに、今度はカメラがないと「あの連中、自分たちの部屋を使えばいいのに、そう思いません きている」彼はぼやいた。「これだけの調査隊にしちゃ、情けない か」ジョーイがマイクの耳もとでささやいた。「・ハッキー以外はみ 予備カメラマンだよ」 な個室をあてがわれているんですよ。こんなにうるさくちゃ、どう そもそも月へやってくるなんておれはなんて馬鹿なんだ。そう思やって入電をキャッチしたらいいんです」 って、数分のことだが気を紛らした。本当はちっともきたくなんか うるさいとはいっても、この場合は溜息や、指でとんとん叩く なかったのだ。それに、はっきり言「て、も「と適当な、こういう音、それにシャーマンが座ったまま片手を顎に当てて地図を見つめ チャンスがあれば大よろこびするものがほかにたくさんいたのだ。 ているあたりから聞こえてくる苛立たしげな口笛が作り出す騒音で ところが不思議なことに、ほかにやりたがるものがいるから自分はあった。 したくないと思っていても、それをやらなくてはならないものも往「概略の位置には、ほとんど疑いがない」・ ニイがまた同じこと 往にしているものだ。 をいったものの、今度も前のように壁にぶつかってしまった。「な 彼はちらっと地球を見上げた。そして、輝いているその天体を左にか悪いことが起こったという確証がなければ、ほかの仕事をおっ 前方に見ながら、南へ進みつづけた。 ばりだして隊員を送りだすのはまずい」 「でも、きっとなにか厄介なことが起こったんですよ」ウォール ; マイクとジョーイは自分の無線機の前で、それそれ折り畳み式の いった。「最後に連絡をしてきたときは、なんでもなかったんでし よ 椅子と空き箱に座って、じかに話かけられないかぎり不機嫌そうに 押し黙っていた。彼らの小さな仕切り部屋が立て込んでいたから、 だれも返事をしなかったので、マイクがしかたなく前に言ったこ 二人は機嫌が悪かったのだ。 とをくりかえした。