和な一種の家畜的超人が生みだされてい る。顧みられない残りの人間の子孫は、そ の状況ではやむなく超人類たちの人肉を食 べて、惨めに隠れて暮らさなければならな ジョン・クリストファーの T んどの 5 ぉ 5- 。” ( 1965 ) や、他にも多くの例が見られる 悪霊憑きの物語は、大体において、サイ能 力ということで説明される。たいていの場 ー合は、異星人によるテレバシー的な乗取り か、寄生の一形態である。それらの作品の 中のいくつかは寄生と共生の項で論じる。 使い魔も、邪悪な小生物が、、魔女″に協力 するというフリツツ・ライバーの『闇よ、 つどえ ! 』 Gather, Da 加 ! ( 1943 ; 1950 ) の場合のように、共生体であること が多い SF 短篇集と称するものに収録されてい る超自然の生物の物語の多くは、実際は、 それらの生物の超自然的状況を不問のまま にしたストレートなファンタジイである。 アンノウン誌はこの種の作品を相当数掲載 したし、のちの F & S F 誌も同様だった。 後者にはマンリー・ウェイド・ウェルマン の筆になる、吟遊詩人のジョンを主人公に した ( おそらく彼の最高の作品である ) 連の作品が掲載された。主人公のギター弾 きは、時には SF 用語によっていくらかは 地上に引き下ろされるにせよ、さまざまな 超自然的な脅威に遭遇する。中でも最高の 出来は「醜鳥ゞ 0 Ugly Bird! ” ( 1951 ) で あろう。それらはⅣん。“ 5 の e に ( 1963 ) に収録されている。 H ・ L ・ゴ ールドの「小人の棲む湖」 "Trouble with Water ” ( 1939 ) は、水の小鬼によって引き 起こされた混乱を描いた典型的なアンノウ ン誌風のユーモア・ファンタジイである。レ イ・プラッドベリの「集会」 "Homecoming" ( 1946 ) は、陽気で団結心の強い超自然の 家族の中にいる一人の、、普通人″を描いた 265 感動的な作品である。ウィアード・テール ズ誌も、超自然の生物を扱った作品を多数 掲載したが、そこには脱神話化はほとんど 見られず、あってもごく薄弱なものであ る。 H ・ P ・ラヴクラフトは、「ビックマ ンのモデル」 "Pickman's Model" ( 1927 ) をはじめとするいくつかのウィアード・テ ールズ流の作品で、食屍鬼をかなり見事に 描いている。シオドア・コグスウェルの 7 ' Ⅳ 4 〃ス 4 d the 仏 0 d ( 1962 ) と、アヴラム・ディヴィッドスンの Or み〃 the & のて 0 ″ん 0J5 ( 1962 ) の 中には、冗談めかした超自然の物語が数多 く見出される。ディヴィッドスン自身、一時 期は F&S F 誌の編集者であった。そのよ うな小説のいくつかがジュディス・メリル の水準以上のアンソロジー『宇宙の妖怪た ち』 Ga 鳬 Y G ん。 4 な ( 乞 1955 ; 0 訪お ea 比れ 0 ″ ) に収録されているが、 その中の短篇、ウォルター・ M ・ミラーの 「くだらぬ奴」 "Triflin' Man ” ( 1955 ; 圜 "You Triflin' Skunk") は、超自然現象に 通例の解釈が与えられ、悪魔憑きが異星人 によるものであったと判明する。 ェルフや妖精も、クリフォード・ D ・シ マックの『小鬼の居留地』 7 ' G 。房 記れ ( 1968 ) におけるように異星 人である場合も多いし、あるいは神話の項 で言及したようにネアンデルタール人や隔 世遺伝の遺物ということになる。クリスト ・スタシェフの《ウォーロック》シ ファ リーズのように、植民され、忘れ去られて しまった惑星に住んでいたという場合もあ ・ゼラズニイの『わが名はコ る 0 ロジ・ヤー ンラッド』 T んな 1 襯襯 0 記 ( 1965 F&SF 掲載時は " ・・・ And Call me Conrad ” ; 1966 ) に登場する、明らかに超自然の種を 含むギリシャ神話の生物は、 ミュータント である。 C ・ M ・コーンプルースの「蝕む もの」 "The Mindworm" ( 195 のにおけ XV
る吸血鬼は、放射能によって生みだされ た、テレバシー能力を持つミ ータントで ュニコーンとドラゴンも相変わらず人気 が高い。ユニコーンはなぜか神秘のヴェー ルをはがされていないし、ドラゴンは異星 の生物と説明されることが多い。前者の例 はヒ。ーター・ S ・ビーグルの『最後のユニコ ーン』 T んビ立 U 襯・ co だ〃 ( 1968 ) や、 ーラン・エリスンの "On the Downhill Side ” ( 1972 ) や、マーク・ゲストンの The & 部ル。 d ( 1976 ) に見られるが、 他にも数多く登場する。ドラゴンはアン・ マキャフリイの《パーンの竜騎士》シリ ズや、ジャック・ヴァンスの『竜を駆る種 族』 T ん 6 D だ 4g0 M の ( 1963 ) や、 アヴラム・、ディヴィッドスンの ogue Dragon ( 1965 ) が顕著な例である。 超自然の生物は、ロマンチック・ファン タジイの中で顕著な役割を演じる。合理化 され、都会化した現代文明の中では死に絶 えたが、不可思議な、未知の世界の片隅 ( 神話 ) では生き残っていると思われる 神秘を象徴することが多い。それらは、た とえば A ・メリットの描きだす、さまざま な失われた世界、あるいは、特にトマス・ パーネット・スワンのあらゆる小説と、剣 と魔法小説全般の中に、恐怖と美の双方の 姿で見出される。 幽霊はかなり特殊なケースで、終末論の 項でも触れている。スタニスワフ・レムの 『ソラリスの陽のもとに』 I な ( 1961 ) では、生きている惑星が人間の心を読むこ とによって、幽霊が肉体を備えて再生され る。またロバート・シェクリイの『不死販 売会社』ノ襯の・〃な D に〃怩 d ( 1958 ; 堕 1 襯襯 0 記″ , , 1 . 1959 ) では、幽霊 はゾンビーとともにきわめて現実的な存在 となっている。シェクリイは超自然の生物 をもてあそぶことが多い。たとえば「幽 XVI 霊第五惑星」 "Ghost V ” ( 1954 ) では悪 夢に命を吹き込み、「災厄を防ぐもの」 "Protection ” ( 1956 ) の主人公は、他の次 元からきた幽霊のような異星人の援助を受 けなければよかったと思うが、それもうな すける。キース・ロスーツの "Boulter's Canaries ” ( 1965 ) におけるポルターガイ ストは、現実世界に実質的損害を与え得る エネルギー形態である。 この種の小説はジャンル S F に、あるい は英米 SF に、限ったものではない。スタ ニスワフ・レムの『捜査』 S んイ。 ( 1959 ) は、自然なのか超自然なのか判定しがたい 食屍鬼の活動にスコットランド・ヤードが 乗り出すというミステリで、未知のものに どの程度まで合理的説明が可能かという興 味ぶかい実験である。 人工冬眠 〔 P N 〕 SUSPENDED AN IMATION 人工冬眠という考え方は、 S F における 最も古い小説上の考案のひとつである。は じめは、時間旅行の手段として便利なもの タイム・マシンの発 とみなされていた 明されるずっと以前から広く用いられてい た、未来への近道である。人工冬眠は、、進 歩的〃なユートピアを描いた最初の作品、 ルイ = セパスチアン・メルシェのん ' 4 〃 〃襯〃ん 4 れ尾化 940 e ( 1771 アムステルダム ) において使われ、また メアリ・グリフィスの T んだ記〃 4 れでイ 5 7 加 e ( Ca 襯加 03 〃収録、 1836 ; 1975 ) や、エドワード・べラミーの 『かえりみれば』ん 00 んツ g 召 ac ん 34 ( 1888 ) でも使用されている。 H ・ G ・ウェルズの ん the & 第ー 4 ん 5 ( 1899 改圜 The 2 スたい 191 のにおいては、単な る文学上の便宜以上のものになっている。 これらの作品では、小説の意図は他のとこ ろにあるためで、人工冬眠を実現する科学 264
TIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII 的手段についてはぼかしていた。ェドガー ・アラン・ポーの短篇「ヴァルドマアル氏 の病症の真相」 "The Facts in the Case of M. Valdemar ” ( 1845 ) では催眠術によ って人工冬眠が行われ、一方、グラント・ アレンは "Pausodyne ” ( 1881 ) において、 18 世紀の科学者があるガスを発明、自分自 身を長期間の麻酔状態にすることを空想し た。しかしながら、最も一般的な方法は、 常に、冷凍による保存 ( クライオニック ス ) であった。多くのファンタジイに刺激 を与えた、現実世界のもうひとつの保存法 は、死者をミイラにする古代エジプトの習 慣である。生命と美とを保存できるような ミイラ製法の秘義なるものは、ほんのわず かの想像力で思いつけるし、神秘の東洋の ファンタスティックなロマンスではエジプ トの王女というものはしょっちゅうよみが ト・ W ・チ えることになっていた。ロバー ェンパーズの T ん Tracer 0 工 0 立 ~ 0 加 ( 1906 ) と、クライヴ・ホーランドの The Spell な ( 1917 ) に、その例が見られ る。古代エジプトよりもさらに遙かな過去 から保存されてきた訪問者としては、オー ロフ・Ⅵ・アンダースンの T 4 尾 - 〃 ゑ〃 4 な ( 1925 ) と、アール・コック スの 0 オ & んれ化 ( 1919 ; 1925 ; 1947 ) におけるアトランティス人などがい る。 人工冬眠の考案は、初期のバルプ S F に、スタンダードな S F 的アイディアのひ とっとして受け入れられ、ひんばんに使用 されることになった。パルプ小説において はじめて人類の未来を探究した作品、ロレ ンス・マニングの T ん入科研 0 ス 30 ( 1933 ; 繦 1975 ) がその顕著な例である。 ジャンル SF の作家たちは、やがて、人工 冬眠が別の状況でも有効に使える道具であ ることに気づくようになった。つまり、光 速以下のスビードの宇宙旅行につきもの 263 の、耐えがたいまでのタイムラグを克服す る手段である。この方法を利用した初期の 宇宙旅行のひとつは、 A ・ E ・ヴァン・ヴ ォートの「遙かなるケンタウルス」 "Far Centaurus ” ( 1944 ) で描かれた。そこでは 勇敢な主人公たちが宇宙船の中で眠ってい る間に超光速航法が発明され、彼らが到着 した目的の星には地球人の繁栄した文化が 待ち受けている。人工冬眠中の乗客が大多 数を占めた宇宙船にまつわるもっと新しい ドラマには、マイクル・ムアコックとヒ フリー・ペイリー共作の『暗黒の廻廊』 The 召 c ん Co " 0 だ ( 1969 ) と、ジェイム ズ・ホワイトの T ん D 虍 4 襯石 I れれ襯 ( 1974 ) がある。ジャンル SF 作家たちはま た、怪奇小説お好みのテーマを思わせる手 法を使って、アトランティス人よりもっと 奇妙な人工冬眠中の存在を発見することも 辞さない。そこでは、邪悪な意図か愚行の ゆえに、太古の神々とその魔力が現代によ みがえってくる。この発想を使った S F 小 説は大体、類似性が見受けられる。目立っ た作品としては、レイモンド・ F ・ジョー ンズの T んス I れ ( 1951 ) や、コリン・ウ イルスンの『宇宙ヴァンパイア』 T ん eS, 第 4 化 4 襯が尾 5 ( 1976 ) や、ラリイ・ ーヴンの 『プタヴの世界』Ⅳ 0 だぞ 0 ( 1966 ) がある。 最近、人工冬眠の手段としてのクライオ ニックスがよく知られるようになったこと は、この小説上の考案にまつわる S F 用語 の信憑性を増しこそすれ、テーマそれ自体 の価値に貢献した点はわずかしかない。人 工冬眠能力の実存的意義に、なんらかの切 りこみを見せた作品にはヴェルコールの The 望 rg 釚お ( 1957 ) がある。〔 B S 〕 スーヴィン、ダルコ CR. ) SUVIN, DARKO (). ) ( 1930 ー ューゴスラビアの学者、 S F 評論家。 XVII
1967 年にアメリカに渡り、 1969 年以来カナ ダに住んで、マッギル大学で英語学の教授 をしている。博士号はザグレヴ大学で取得 している。 彼は、アメリカにおける SF への学究的 な関心の盛りあがりと密接に関わってい て、サイエンス・フィクション・リサーチ ・アソシェーションの活動的なメンーで あり、サイエンス・フィクション・スタデ ィーズ誌の発足当初から副編集長を勤めて カぬ世界乳なき海 XVIII ( 乞 1970 ) や、多くの作家によるェッセイ Science お / ct / 0 れ工 hO 襯 SO al な C04 れ r s しなき海』 0 Ⅳ 0 み , 0 励 & の : カナダ ) などがある。彼は『遙かな世界果 4 第 0 を ue de 化イれ ( 1977 ( 1976 ) と、フランス語で書かれた 04 お / / 0 れプ 956 ーノ 974 : 4 召あ〃 og ゑん 彼の発表した作品には 4 ぉれ & れ化 野は演劇、中でもフ・レヒトの作品である ) を行っている。 ( 彼のもうひとつの専門分 いたし、この問題について広く講義と寄稿 『遙かな世界果しなき海』 の集成、丑 . G. Ⅳ記な 4 れ MO & たれ化おな 0 れ ( 乞 1977 ) を編集し、 R ・ D ・マレンとともに、 & れ化 - 窺 / 0 & 4 イ 5 : Selected スれ I い 0 Sc れ磁 c 0 〃ノ 973 ープ 975 ([±1 1976 ) を編纂し て、グレッグ・フ。レスから出版している。 これらのすべて、とりわけ、最後のものに は、彼の評論の好例が収められている。な かでも、これまでの SF 評論を通じて最も 持続的な試みの一つは、 SF をジャンルと して定義しようというものである。彼の評 論の文体は、晦渋で、あいまいだと批判さ れている。確かに彼の英語はスムーズに流 れているとは言いがたい。あいまいさの一 部は、きわめて厳密で複雑な立論に由来す るもので、そのためにヨーロッパの構造主 義に基づく新しい用語を発見しなければな らなかった。彼は SF を、、認識の異化″の 文学と見なしているが、この用語について は、 SF の定義の項で説明されている。 S F 評論に、、認識性 / / という用語を導入した のは彼である。彼の唯一の全面的な S F の 研究がフランス語で書かれていることは、 英語の読者にとっては不幸なことだ。 〔 P N 〕 スウェーテン SWEDEN スカンディナヴィア 〔次号につづく〕 262
だから鬼よりもあなたのほうをみていたんです。鬼を見たところでれていただくことはできないでしようか」 なにが学べます ? なんの足しにもなりやしない ! 」 ハイン・フスはのどの奥でおおいに不快そうな音をたてた。「お 「ほほう」フスは気をよくして言った。「では、おまえはなにを学まえの面倒を見るいわれはない」 、ハイン・フス。あなたは 「未来には数多くの道があるはずですよ んだだ ? 」 「それが、やはりなにもーーですが、少なくともわたしは、魚みた口癖のようにそうおっしやっているじゃありませんか」 ハイン・フスは水晶のように澄んだ瞳でサム・サラザールを見つ いにじっとしていたわけではありません」 めた。「なるほど、未来には多数の道がある。そして今宵、こごに 横からコマンドアの穏やかな、しかし憎悪に歪んだ声が言った。 は咒道最高の顔合わせが実現している : : : おそらくこれほどの力と 「おまえはわたしが魚のようだと言いたいのか ? 」 腕を持っ顔ぶれがひとっテー・フルに会することは二度とあるまい 「もちろんそんなことはありませんよ、咒法師コマンドア」 「わたしの人形棚に行ってな、見習い士サム・サラザール、おまえやがてわれわれはひとりまたひとりと死んでいき、われわれにかな を形どった人形を持ってきてくれんかな。給仕に水を張った盥を持う力を持つ者はもう出ないかもしれん : : : よかろう、サム・サラザ 1 ル。おまえをわが見習い士と認めよう。イザーク・コマンドア、 オしか。おまえ ってこさせて、ひとつおもしろい遊びをしようじゃよ、 の魚に関する知識をもってすれば、きっと水のなかでも息ができるおまえも聞いたな ? この若者はいまからわしが預かる」 にちがいない。もしできなければーー窒息するだけだ」 「それなら代償をもらわねば」とうめくよテにコマンドア。 「遠慮しておきましよう、咒法師コマンドア。それに、お許しがあ「おまえはわしのタロン・ファイドの人形をーーーあのたった一体し かないやつをひどくほしがっていたな。あれをくれてやろう」 れば、おいとまをいただきたいと思います」 コマンドアは自分の祈祷師のひとりに命じた。「サラザールの人「ほ、ほんとうか ! 」コマンドアがとびあがって叫んだ。「 ( イン ・フス、感謝するぞ ! なんと気前のいい男だ ! ありがたくちょ 。もはやわたしの見習い士でなくなったからには、 形を持ってこい うだいさせてもらう ! 」 こいつが窒息してもなんの不都合もない」 ハイン・フスはサム・サラザールに合図を送った。「おまえの咒 「まあ待て、コマンドア」ハイン・フスがどら声で制した。「そう その若いのをいじめるな。そいつはもの知らずで、少しばかり混乱具をわしの馬車へ持っていけ。今夜はもう顔を見せんほうがいい」 サム・サラザールは丁重に頭をたれると、ホールを出ていった。 しているだけだ。これを心を鎮める修業だと思って、許してやれ」 「よかろう 祝宴はつづいたが、いまでは室内になんとなく沈んだ気分がたれ 、ハイン・フス」とコマンドア。「それもよかろう。こ こめていた。まもなくファイド卿の使いが訪れ、明日は夜明けとと のたわけものを仕込む時間はたっぷりあるのだからな」 「咒法師フス」とサム・サラザールが言った。「こうして咒法師コもに出発するから、今夜はみなもう休むようにと告げた。 ( 以下次号 ) マンドアの義務を解放された以上、あなたの見習い士として受け入 2 &
ルは、残忍さと活力の点ではエヴ = リドと互角だが、それ以外に悪「見るがいい」イザーク・コマンドアもしやがれ声で言った。「ケ 意に満ちた狡猾さも合わせ持「ており、それが鬼の憑依した兵士をイリルはそこだ」ケイリルは比較的人間に近く、反り身の短剣を構 えていた。ダントがケイリルを警戒するように窺った。つぎの瞬間、 さらに威力の大きな武器に仕立てあげる傾向があるのだ、と。 ダントはさらに大きく口を開き、ケイリルめがけてとびかかった。 アンダースン・グライムズはたしかにそうかもしれないと認め、 事実自分もそのような要素をエヴ = リドに加えようと考えていたと恐るべき死闘がくりひろげられた。ふたりの悪鬼は組みついたま ころだったと答えた。 まごろごろころげまわり、身をよじり、噛みつき、泡を噴き、声に ならないおたけびをあげ、たがいの体を引き裂きあった。ふいに、 「だが、わしの考えではな」とフスはつづけて、「もっとも強力な ダントがとびすさり、目のくらむようなス。ヒードでケイリルのまわ 鬼とは、すばやい動きを得意とし、ケイリルやエヴェリドのような 兇暴な鬼の攻撃を避けられるものでなくてはならん。たとえばそのりを疾駆しはじめた。その速度はますます速くなっていき、やがて いい例がわしのダントだ。ダントの憑依した戦士は、その敏捷性に姿がぼやけ、かんだかいすすり泣きのような音を発するめくるめく の憑依した者を打ち倒すこ色彩の渦と化した。音はますますかんだかくなっていく。ケイリル よってやすやすとケイリルやエヴェリド は荒々しく短剣をふりまわしたが、じきに力が衰え、動きも弱々し とができる。そもそも、憑依した者同士がぶつかりあえば、ケイリ ル戦士やエヴ = リド戦士は相手を恐れさせることができず、それゆくなった。そのとたん、かってダントだった光はひときわ白く輝 き、みなの心のなかだけに響きわたるおたけびをあげて爆発した。 えその威力は半減してしまうだろうが」 イザーク・コマンドアが赤い目を怒りに燃えあがらせてフスをにケイリルは影も形もなく、イザーク・コマンドアはうめきながら横 たわっていた。 らみつけた。「まるでその仮説が事実であるかのような口ぶりだ な。わたしはいかなる敏捷な相手にも打ち勝てるよう、入念に細工 ハイン・フスは深々とため息をつくと、顔の汗をぬぐい、満足そ を施してケイリルをこしらえあげたのだ。わたしはケイリルこそが うな笑みを浮かべてまわりの者たちを見まわした。室内の者たちは 数々の鬼神のなかでも最強の鬼と確信する」 石化したように息をひそめ、呆然と目を見開いている。ただひと り、見習い士サム・サラザールだけが、にこやかな笑顔を浮かべて 「あるいはな」ハイン・フスは考え深げにうなると、給仕を招き寄 ハイン・フスの視線を受けとめた。 せ、なにごとか指示を与えた。給仕は明かりを暗くした。 「見ろ」とハイン・フス。「そこにダントがいる。祝宴に加わりに「するとおまえは」と、さすがに相当の咒力を使ったフスは喘ぎな がら、「自分のカのほうがこんな幻より上だと思っていたわけだ。 やってきたのだ」 部屋の横手に、虎縞で被われたダントが聳え立っていた。四本のそこにすわって、 ( イン・フスの最高の術を嘲笑っていたわけだ」 恐ろしげな腕と、ほとんどががっと開いた顎だけのような、ずんぐ「とんでもありませんよ」サム・サラザールは叫ぶようにして、 「ばかにするつもりなんか毛頭ありません ! わたしは学びたい。 りした黒い頭を持っ怪物だ。体はしなやかな金属で作られている。
「にもかかわらず」とサム・サラザールは、「ファイド卿は古代の式の燭台がぶらさがり、燭台の一本一本の先端には古いがいまなお 車に乗り、・ハラント卿はヴォルケイノを用いてわたしたちを皆殺し明るい輝く光の球がついていた。 にしようとしたじゃありませんか」 奥の壁にはパラント城歴代城主の肖像がかかっておりーーー思い思 いの装東をまとった、百五人の陰気な顔がずらりとならんでいた。 「それを言うなら」とコマンドアはぞっとするようなやさしい声 で、「わたしの鬼神ケイリルはパラント卿のヴォルケイノに打ち勝その下には、・ ( ラントの血族と他の高貴な一族との関係を詳細に記 の系図もかかっていた。だが、いまやホール ったではないか。・こ、、 ナししち馬車に乗れば、ファイド卿の車など軽くした、高さ十フィート のなかは荒れはて、百五人の死者の顔にはもはやなんの意味もな 追い抜くことができる」 く、ただむなしいだけだった。 サム・サラザールはもっとうまい議論の進め方を考えついた。 「なるほど、咒法師コマンドア、たしかにおっしやるとおりです。 ファイド卿はなんの喜びも見せず食事をとり、一族の者がはしゃ ラント卿もま 心得ちがいを正すことにします」 ぎすぎると、横目でじろりとひとにらみくれた。・ハ 「なら、そのがらくたを捨てて役にたっことを考えろ。明朝はファ た、立場が逆であれば同じようにしただろう。下品な騒ぎはいかに も趣味が悪く、自分自身に対する侮辱のような気がするのである。 イド城にもどるのだからな」 「ご命令どおりに、咒法師コマンドア」サム・サラザールは何冊も一統の者たちはただちに卿の気分を感じとり、威儀を正して祝宴を つづけた。 の本をがらくたの山に投げもどした。 ホールのとなりの小さめの部屋では、咒法師たちが腰をおろして 、こ。。ハラント城のもと咒法師長、アンダースン・グライムズは、ハ 6 イン・フスのとなりにすわって、自分の敗北など気にしていないふり ( ラント城は掠奪された。フアを装おうとしていた。なんとい 0 ても、彼は四人の強力な咒法師相 ハラント一族はちりちりになり、 イド卿とその一党はもの言わぬパラントの召使いにかしづかれ、大手に善戦したのであり、咒力の衰えを感じる理由はまるでないのだ。 五人の咒法師が戦いのことを語っているあいだ、祈祷師と修祓師 ホールで陰気な祝宴をはった。 たちはうやうやしく耳を傾けていた。なにより議論の的となったの ・ハラント城はファイド城と同じように壮大な規模で建てられてい は、鬼がとり憑いた戦士たちのふるまいである。アンダースン・グ ィート、高さ五十フィ 1 ト、幅五十フ た。大ホールは長さ百フィ トもあり、現地の白っぽい香木から切り出した板材ではめ板を施さライムズは、 = ヴ = リドがきわめて残忍でしぶとく、その不屈の闘争 れ、磨きあげられた上に = スを塗られて、渋い蜂蜜色に仕上げられ心には頭がさがると進んで認めた。ほかの咒法師たちもコマンドア ていた。天井を支えるのは何本もの大きな黒い梁だ。梁のあちこちはたしかにそれだけの猛威を投射したことに賛同の意を表わした。 からは緑や紫、ブルーなどのガラスが複雑に組み合わされた多灯架ただし、フスはこうも指摘した。イザーク・コマンドアのケイリ 259
サム・サラザールは伸びあがるようにして、「別に目的があるわ 城の管理は年月をかけて徐々に信頼のおける代官に移行していく。 旧城主たちは快適だが防御の余地のない荘園にでも追いやり、私兵けじゃありません。古代のもののなかには、まちがいなく叡知がー を持っことを禁じてしまえばよい。もちろん、咒法師をそばに置くー少なくとも知識がーー詰まっています。この本にある記号を利用 ことは認めざるをえまいが、これはかえって好都合というものだーすれば、わたしの理解力が高まるかもしれないでしよう」 コマンドアは忌まわしげに両手をはねあげた。そばに立っている ーたとえば免許制を設けるのである。この件については、ハイン・ ハイン・フスに向きなおり、「はじめにやつは自分が木だと思いこ フスと相談せねばなるまい。もっともこれは、先の話だ。いまはと もかく、するべき仕事をすませ、早くファイド城にもどりたかった。み、地面に突っ立った。今度は古代の記号を調べて咒法を学ぶつも もはやほとんどすることは残っていなかった。生き残った・ハランりだ」 トの類縁者は、 ( イン・フスのもとへやって新しい人形に髪の毛等フスは肩をすくめた。「古代人もわれわれと同じ人間だったし、 を植えこませてから、各自の屋敷へ送り返した。かりにやつらが賠限られた知能しかなかったとはいえ、度しがたいぼんくらだったわ 償金の支払いをしぶったとしても、ちょっと焼けつくような痛みをけではない。あんな代物を作るには、ある程度の猿知恵が必要だ」 与えたり、腹いたを起こさせてやるだけで、喜んで支払う気になる「猿知恵など正当な咒法とはなんの関係もないわ」イザーク・コマ 2 イわ、つ - 。・ハラント城そのものは燃やしてしまいたかったがーー古代ンドアが言い返した。「これだけはいくら言っても言いすぎという の建築材は絶対的不燃性を誇っていた。 ことはない。そしてわたしは、もう百遍もサラザールに言い聞かせ もっとも、 ハラントの財産を狙って新たなる僭称者が出てくるのてきた。それなのに、見ろ、いまのこいつを」 を防ぐため、ファイド卿はすべての家宝や遺産を前庭に集めさせ、 フスは言質を与えまいとしてうなった。「わしにはあいつがなに 階級にしたがってひとりにひとつずつ、それらを配下の者どもに分をしようとしているのかわからんが」 け与えた。これで・ハラントの富は分散された。咒法師にさえ宝物分サム・サラザールは説明しようとして、これまで存在しなかった 配のお声がかかったほどだが、彼らは古代のがらくたを無知な迷信概念を説明することばを捜した。「もしかすると、ここに書いてあ の産物として軽蔑していたため、下級の修祓師と見習い士だけが残ることが判読できるかもしれないと考えたんです。なんとか古代人 り物をあさり、ときおり見落とされていたがらくたや異様な器具をの考え方が理解できないか、せめて彼らの魔法のひとっふたつでも 拾いあげた。 使い方を学・ヘないかと思って」 イザーク・コマンドアは、サム・サラザールが古代の本の山を抱コマンドアは目を丸くした。「おまえを見習いにしてやったと えてよろめいているのを見とがめ、いらだって怒鳴った。「いったき、だれがわたしに咒いをかけていたんだ ? わたしは一時間に二 いおまえはそんなものでなにをするつもりなのだ ? なぜがらくた十の咒いをかけることができる。これは古代人が一生かかってなし とげることのできた咒いよりも多いのだそ」 などしよいこむ ? 」 258
こ 0 本隊を繰り出し、やつらを一気に踏みつぶしてくれよう ! 」 「体が燃える ! 咒われた魔道士どもがおれを焼いている ! 」男の 苦痛はほかの者たちの不快感に拍車をかけた。じきに城のあちこち だしぬけに、城の城門が大きくあけはなたれた。ついで、なかか から悲鳴があがりはじめた。 ら作り物の怪物がとびだしてきた。大地を蹴る足、ふりまわされる ハラント卿の長男は、 ( 、イン・フスみずからにとり憑かれ、鎖帷腕、ぎよろぎよろと動く目、発される奇怪な音。本来なら、ファイ 子をはめた手で盾をがんがん殴りつけた。「やつらがおれを焼いてドの戦士たちはその怪物のありのままの姿を見てとっただろう。三 いる ! やつらがおれたちをみんな焼き殺してしまう ! 焼き殺さ頭の馬の背に乗せられた、怪物の人形だ。だが、彼らは恐怖にとり 憑かれており、武器を構えることも忘れてあとずさった。 れるくらいなら戦うほうがましだ ! 」 戦うんだ ! 」苦痛に悶える男たちが口々に声をあげそこへ、怪物のあとから・ ( ラントの騎士団が押し出し、つづいて 「戦おう ! 徒士がどっと繰り出してきた。突撃隊は波に乗り、ファイド軍の中 る。 ( ラント卿はまわりを見まわした。だれも彼もが苦痛に顔を歪め央めざして斬りこんだ。 ファイド卿はたてつづけに号令を発した。軍律がひとりでにもの ており、なかには火ぶくれや火傷ができている者もいる。「われら を言った。ファイドの騎士たちは下馬して三隊に別れ、・ハラントの の咒法とてやつらを苦しめているのだ。もうしばらく待て ! 」 卿の弟がそ 0 とするような声で吠えた。「あの ( イン・フスが炎突撃隊を押し包み、同時に徒士は横列を組んで押し寄せてくる敵の にかざしているのは兄上の腹ではない、わしの腹だ ! 咒法の戦い徒士に矢を浴びせかけた。 剣戟の音が轟き、両軍は激しくもみあった。この突撃でファイド ではやつらにはかなわぬ ! 打ち勝っとすれば、武力をもってする 軍打ち破れずと見てとったパラント卿は、戦力の温存を図り、ただ しかない ! 」 ( ラント卿は必死で怒鳴った。「待て、わがほうの咒法も効果をちに退却を命じた。・ ( ラントの戦士たちはみごとな動きで城砦へと 表わしつつある ! やつらはじきに恐柿に駟られて逃げ出すはす後退した。なんとか城内にとびこもうと、ファイドの騎兵は退いて いく敵軍の直後に追いすがった。そのすぐあとから、装甲兵馬の押 だ。待て ! 待つのだ ! 」 卿の従弟が胴鎧を脱ぎすてた。「敵は ( イン・フスなのですそ ! す重い馬車が追っていく。門が閉じられぬよう楔を打っためだ。 ファイド卿はさらに命令を発した。十騎の騎士からなる予備小隊 やつが感じられる ! おれの足を炎に突っこみ、あの悪魔めが嘲笑 が側面から突撃をかけ、・ハラント騎兵の主力背後を突っきり、徒士 っている。やつは言う、つぎはきさまの頭だ、と。戦いましよう、 を踏みにじって城内に踊りこむや、門兵を斬り捨てた。 さもなければ、わたしひとりでも打って出ます ! 」 パラント卿はアンダ 1 スン・グライムズに怒鳴った。「やつらが 「やむをえん」・ハラント卿は覚悟を決めた声で言った。「出撃しょ う。まずは 〈獣〉を斬りこませい。敵が恐怖に陥ったところで城内に入った。急ぎおまえの咒わしき鬼を召し出せ ! やつにわれ 252
でもここを通過せねばならん。卿はここを抜けて・ ( ラント城に戦さ ますよ」 ( イン・フスは森のなかを覗きこんでから、顔をあげ、歯擦音のをしかけに向かうところなのだ。〈先人〉と戦われるご意志はな 4 。妨害などせず、おとなしく通したほうが身のためだぞ」 多い〈先人〉のことばで怒鳴った。 ややおいて、ふたりが進みはじめると、〈先人〉のひとりが進み〈先人〉はつかのま考えた。そして、「案内しよう」と言うと、遠 征隊に向かって無頓着に苔地を横切りはじめた。 出てきた。人間に似た裸の生物だが、その姿は鬼面のように醜い 腕のつけ根からは泡嚢がとびだしており、オレンジ色の縁どりのあそのあとから、 ( イン・フスとサム・サラザールもつづいた。原 る発泡口がこちらを向いている。その背中の皺だらけのひだは、泡住民の脚の関節は人間の脚よりもずっと柔軟な構造を持っており、 くねくねとうねるような動きをしながら、ときおりびたりととま「 嚢から空気を吐き出すときにふいごの役目をはたすものだ。大きな 手の指先は鑿のように鋭くとがっており、頭部はキチン質で被われては、その先の地面をまさぐった。 「どういうことなんでしようね」サム・サラザールがハイン・フス ている。頭の両端からは、とくに境い目もないままに、何十億もの 切り子面のある複眼がキチン質と一体となってとびだしており、黒に訊ねた。「わたしにはあの生き物の行動がわかりません」 「驚くにはあたらんさ。やつは〈先人〉のひとりで、おまえは人間 、オ・ハールのように輝いていた。 人間がこの平原にやってきて住みつく以前から、彼らはこの惑星だ。おたがい理解の基盤はない」 に住んでいた原住生物の代表格である。彼らは苔地に住み、脇の下「そうは思いませんが」サム・サラザールが真顔で言った。 「なんだと ? 」 ( イン・フスはひどく不快なようすで見習い士をじ の袋から放出される泡の硬化したもので雨風をしのいでいたのだっ こ 0 ろっとにらみつけ、「おまえはこのわしの、咒法師長ハイン・フス のことばを否定するつもりか ? 」 〈先人〉は近くまで歩み寄ってくると、立ちどまった。 「限定された意味においてはそのとおりです。生き延びようとする 「ファイド城主、ファイド卿になりかわって申し伝える」フスがロ 火を切 0 た。「おまえたちの森は卿の行く手を遮 0 ている。ゆえに意志において、わたしは〈先人〉とのあいだに共通理解の基盤はあ 卿は、卿の軍勢が木々を損なうことなく、かつおまえたちがおまえると思います」 たちの敵に対して仕掛けた罠にかかることなく森を通れるよう、案「わかったようなことを」 ( イン・フスがうなるように言った。 「〈先人〉とのあいだに共通項があることを認めるにしても、では 内をもとめておられる」 「人間は敵だ。できるだけたくさん罠にかかるがいい 。それが罠をなにが不思議だというのだ ? 」 仕掛けた目的だ」原住民はそう答えると、くるりと背を向けて立ち「はじめは拒否しておきながら、たちまち森を通ることを認めたこ とですよ」 去りかけた。 ハイン・フスはうなずいた。「やつの心変わりの理由は、明らか 「待て」フスが厳しい声で呼びとめた。「ファイド卿はなにがなん