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検索対象: SFマガジン 1985年10月号
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1. SFマガジン 1985年10月号

「いくつに見える ? 」 「おんや、悪魔っ子。もう帰るのかい」 「私より、上ってことは ーーーないわよね。十七ーーー十八 「ああ、初会はちょんの間しかしねえのさ、おれは」 若くみえる十九かしら。十七たけど、世馴れてるのかー・・ー・どっちに 「ふーん」 もとれるわ」 貸し部屋業の遣手婆あのキ・ハ婆さんは、目をすがめて、じろし 「おれは、苦労してつからね。あんたみたいな、お姫さんとちがつろ、イシュトヴァーンをみた。 「まんだ、十六だってえのに、い。 っ・よしの男みてえな口きくよ、こ イシュトヴァーンは、掛け布をとって、からだの汗をぬぐった。 のガキは。少しは、育ったかよ」 若いさかんな活力の、甘い、むせるような体臭がうす闇の中に漂っ「見たらいいだろ」 「まんだガキの体だね。こんなやせつ・ほちで、よろこぶのは、ガキ の女だけさな」 「こんどは、いっ ? 」 「タムに声かけてくれりや、 いつでも」 「わるかったな」 「私のこと、淫奔女だと思う 「こんなに肌がすべらっこいうちは、ガキだよ。もっと、ごりごり 「そんなこと」 筋肉がついて、毛なくじゃらになったら、あたしも買うてやるよ」 イシュトヴァーンは、面倒くさそうに、 「冗談じゃねえや。おふくろどころか、てめえのばあさんとやって 「どうでもいいよ、おれには」 るようなもんじゃねえか」 「そうね。どうでもいいわね」 イシュトヴァーンは、下唇をうんとっき出した。それから、チュ 「じゃ、おれ、行くから」 ニックをひっかけにかかった 「また会えるのを待ってるわ」 「ほら」 「おれもーーーあ、あんた、なんてんだっけ」 一ラン銀貨を、キ・ハ婆さんの服のかくしにおとしてやる。 「ヴァイアよ」 「あいよ。せっせと、かせいどくれ」 「あばよ、ヴァイア。すてきなからだしてるよ、おまえ」 「てめえのために、かせいでるんじゃねえやーーーお、ヨーム」 ひょいと頭をかかえよせて、くちづけてやると、服をひとまとめ 云いすてて、あいまい宿の外に出ると、太っちょのヨームが待っ にし、足通しだけつけて、へやの外に出た。廊下の両側は、籐あみていた。 の戸が並び、中から、悩ましげなうめきや愛のささやきが月の光の 「どうだい、あの女は、うまくし・ほれそうかい」 ようにもれてくる。 ロのはたにあぶくをためて、熱心にいう。 「よう」 「任しとけ」 に 6

2. SFマガジン 1985年10月号

な 「わがゆくところにゆき、わが為すが如く」 「そうそう、そのなすをせよ : : : 」 「なすをせよ、じゃなくて、なすが如くせよ」 「なすーーーなすが如く : : : 」 ふいにイシュトヴァーンは手にしていた、羊皮紙の巻物を放り出 そして、また。 「わあっ、もう、頭がクチャクチャになる ! ナスだろうが、カボ 再び、ヴァラキア港を見おろす、ルーナの丘である。 「ヤヌスその如く云いたまうはーーーわがゆくところにゆき、わがなチャだろうが、知るもんか ! もっとやさしいのを教えやがれ。こ んなことやって、一体、よみかきに何かの役に立つのかよ ! え すが如くせよ。さらば汝はわが民となり、わが光汝が上に及ばん。 しからずんば汝は永遠に暗き淵にわだかまり、出ることあたわざらえ、おい、ヨナ公 ! 」 ん。アンドロス応えていわく、わが硬わが光、われ君のゆくとこ「立ちますとも」 少年は、おちつき払っていた。 ろにおもむき、君のなすをまねぶなりと」 「ヤヌス十二条法文さえ、覚えてしまえば、もうどんな難しい字で 澄んだきれいな声が、今日も青く晴れたヴァラキアの空に、ひび いていた。 もよめますよ。 ハロス語ってのは、ルーン語にくら・ヘてずっとやさ 「さ、もう一回」 しいし、ヤヌス十二条が、パ ロス語でかかれたいちばん難しい文章 「ヤーー・ヤーーヤヌス、その如く : : : 云いたまーーーたまうはーー・わなんだから。さあ、もう一度ー 「ううつ」 「人グイン・サーガ外伝〉 第二話男盗女館 とわ 7

3. SFマガジン 1985年10月号

とおしてぼくを育ててくれたのです。まるでゼアの巫女だと、みな「まだ、十六だというのに、もう、三年もたってるんですかー にわらわれるほどでしたよ。姉さんのような美人だから、云いよるお、おまけにーー・・あのう : : : 」 男はたくさんいたでしようが、姉は身をたかく持し、誰にもうんと「何でえ」 「あのう イシュトってーーーその、男の人とも・ : ・ : なんかするん いわなかったと思います」 ですか ョナは激して、 「そう、たまげた面するようなことかよ」 「だから、早く、助けてやらなくてはいけないんです。姉さんは、 イシュトヴァーンはすっかりいい気になって、大声で笑った。 娼婦になどさせられたら、舌をかんで死んでしまいますよ。本当 「男はいい金になるぜ。チチアじゃ、あたりまえのこったよ」 「不道徳な。ゼアの雷がチチアに下らねばいいけど」 「へえー」 「おめえ、また、お固いんだな。カルアってのがそう固いところと イシュトヴァーンは、ひょいと草をむしりとってくわえながらば は思わなかったが」 かにしたようにいっこ。 「うちは、別なんです」 「じゃ、おめえからみると、おれなんざ、百ペん舌をかんでも追っ 「石屋だからな。石は固くねえと、あきないにならんってよ」 つかねえんだろうよ。おれなんざ、女は十三、男に到っちゃ、九つ イシュトヴァーンは、自らの機知に惚れ・ほれして、ゲラゲラ笑い のときから知ってたぜ。おめえもおめえの姉さんも、チチアに生ま れてみな、身をたかく持しーーーとやらがもつのはせいぜい三つまで出した。 が、ひとしきり笑いこけてから、いずまいを正した。 だろうよ」 「ま、これ以上、おめえをからかうのはやめとくけどよ」 ョナのロを少しとがらせた顔をみて、そのか・ほそいあごをびんと ョナは目をまん丸くしてイシュトヴァーンを見つめた。イシュト 指ではじく。 ヴァーンは、いい気持だった。 「チチアで処女の女をさがすにや、乳のみ子をさがせ、というくら「ちょっときいときてえんだがよ。ィリシアって、知ってるか」 いだからな。ま、おめえがそういうから、そういう女もいるんだろ「ええ、もちろん。ばくの母の名です」 うと思っといてやるが、チチアでそんなセリフを吐いたら、よっぽ 「ふん、やつばりな。おめえのあねさんってのは、おっ母さんに、 どもてねえか、・フスだと思われて、二度と通りを歩けねえだけだ似てるのか」 「母を知っていたひとは、生きうっしだ、といいます。ぼくも少 し、似ているようですが、姉ほどじゃありません」 「ふーん、なーー・・もうひとつ、おめえのあねさんーーーでもとつつあ ョナはショックをうけたようすで、 ー 5 2

4. SFマガジン 1985年10月号

「なんてーーー激しい なんて、若い ! なんて、あんたは、まる 「ああ。おらあ、いつも同じだ」 「そう。 でーーーまるで : : : 」 : ねえ、イシュトヴァーン」 どこからか流れてくる、けだるげなキタラのひびきが、ささやき 「みんながおれをイシュトとかイシュティとかって呼ぶ。おまえ をおおいかくした。 も、イシュトと呼びな」 「ええ。 イシュト、気をつけてね。あたしはやつばりあんたよ イシュトヴァーンのほうは、トド婆あに金を払うと、また例によ り十も長く生きてるわ。いろんなことも、その分、知ってるわ。 ーねえ。 トトの矢だけじゃなく、あんまり生きるのにいそぎすぎって、ムダ話をしながら、ご機嫌で出てゆこうとした。 る人間は、早くにいのちの寿命を、つかいはたしちまう、という「気に入ったら、またおいで、息子や」 「来るさあ、おっ母さん。ちゃんと、モアラをとっといてくれよ」 わ。あんまり、急がないで」 少し、チップをはずんで、入口の戸に手をかけたとき、その戸 イシ = トヴァーンは、ふりむいた。一瞬、ひどく奇妙な、異様なは、反対側からひょいとひきあけられた。 「わ」 かぎろいをすらうかべた妖しい目で、チチアの娼婦を見おろした。 ぶつかりそうになって、イシュトヴァーンはあわててうしろにと 「その方がーーー急いで、急いで、もえっきた方が、ずっとマシさ」 びすさる。 かれは荒々しく、ささやくように、吐きすてた。 「こんな汚らしいとこで、チチアのどぶねずみみてえに、ワルども「で、でけえ」 目のまえに、うわさにきく東方の妖怪「生ける壁」が立ったみた のおあまりをあさって、こそこそ生きてくくらいなら、その方が、 、やこっこ 0 」し / ノ どれだけマシだか、知れねえさ。 おれは、このままおわるくら いなら、チチアに火をつけて、その火の中でやけ死んでやる」 「なんて、でつけえ男だ」 「イシュト ひそかに、イシュトヴァーンは舌をまく。目のまえが何も見えな くなったかのような、横も、たても、イシュトヴァーンの優に二倍 恐怖にかられたようにモアラが両手をさしあげる。イシュトヴァ はありそうな、水夫のなりをした大男である。 1 ンは、片手をあげた。 頭をくるくるにそりあげて、相当に人相がわるい。鼻も耳もつぶ 「あばよ、モアラ。達者でな」 れている。 云いすてるなり、もう、あとも見ず、室を出ていった。 モアラは、ドアの・ハタンとしまったあと、身じろぎもせず、じっ このまえ、ウミネコ亭でかいまみた、サイスの用人棒、海坊主の サムであった。が、あのときは、すわっていたから、ただ大きいと とイシュトヴァーンの去った方を見つめ、両手をくみあわせて立っ ていた。その口から、ひくいつぶやきがもれた。 思っても、ここまででかいとは、思わなかったのだ。 ー 70

5. SFマガジン 1985年10月号

し気をおちつけてしゃべり出した。ョナは、夕方、あいかわらずル にかつぎこまれて : : : もともと気の小さいひとですから、おそろし 1 ナの丘で字の勉強をすませてから、イシュトヴァーンと別れ、こさのあまり、ふぬけのようになってしまって、ばくがいっても、ロ のヴェントへもどるまえに、もう少し入り用の本をとろうと、カルもろくろくきけないんです。二度と、もとどおりにはならないだろ アへもどったのだった。 うって、お医者はいってました」 一応、父親には、友人の家へしばらくとまりこむとだけで、どこ ョナはたまりかねたように、唇をかんだ。 へゆくとはいっておらぬ。しかし、せめて、どのあたりにいるとだ「ぼくは ぼくたちは、お父さんも、姉さんもぼくも、何もわる けでも、云っておこうかと思ったのだが、家の近くにきたとたん、 いことびとっしたこともないのに、まじめに一生けんめい働いて生 きてきたのに、どうして、どうして、こんな : ・ : ・」 「あっ、ヨナ坊、大変だよ、お父さんが」 「やりやがったな」 「どこへいってたの。たいへんなのよ。早く、早く」 イシュトヴァーンはつぶやいた。 近所のおかみさんたちがさわぎたてて、ヨナの手をひいて家へ入 れとせきたてた。 「なんて、むちゃくちゃなことをしやがる。悪魔っ子といわれるこ のイシュトさまだっても、そんなあこぎは、生まれてこのかたした あわててとびこんで、思わずかれは絶句した。 「うちの中は、石工の道具から家具から、何から何までぶちこわさことがねえや。それをよーー」 れて、まるでうちの中に嵐がきたみたいなさわぎで : : ぼくの本「血だらけで、たおれてる、お父さんを、近所のひとが見つけて、 あわてて医者につれてゆこうとしたら、お父さんは、首をふって、 も、何もかもーーー」 そのときのショックを思い出したように、ヨナは細っこいからだかすかにうわごとのように何度も何度もいうんだそうです。 『ョナーーヨナ、ここにいちゃいけない。ヴァラキアにいたら危い をふるわせた。 : パロへおいき。父さんよ、 。しいから、いますぐ、貯金をぜんぶも 「びるごろに、あの、お父さんからばくちでお金をとりあげた、・フ って、パロへおいき』って」 ルカスという人が、大ぜい柄のわるい男をつれてきて、まだ借金が ロへでもいった方 払えないなら、ぼくをつれてゆく、出せといって、お父さんをさん「ふーむ、な。たしかにおめえ、こうなると、。ハ ざんいじめてーーでも、お父さんは、どうしても、ぼくのいどころがいいかもしれねえぜ」、 は知らないんだし、そう云っていたら、とっぜん、男たちがおそい イシュトヴァーンは考えこんだ。 かかって、家じゅうさがすといって、何もかも叩きこわし、あげく「そこまで、ことをあらだてるってのは、どうやらやつらは全然あ に、お父さんをふくろ叩きにして、ひどい目にあわせてーーー」 きらめる気はなさそうだ。いずれ、ヴァラキアにいるかぎり、逃げ 「なにイ、おやじさんは、くたばっちまったのかよ ! 」 きれなくなるかもなーーーーおめえは、どうなのよ」 「しいえ : : : でもひどい大けがで、骨が何本も折れて、医者のとこ 「どうって ? 」 5

6. SFマガジン 1985年10月号

とさらチチアのものは、独特の服装、匂い、ものごしをもってい って、汁のしたたるのを上手にロでうけてかぶりつきながら、イシ ュトヴァーンは家路をたどった。 る。見るからに不良少年然としたイシュトヴァーンなどが、上ヴァ ラキアの町なかをうろついたら、それだけであやしまれて、護民兵 「おツ、起きてる、起きてる」 によびとめられ、不審尋問をされるだろう。 肩でおすようにしてドアをあける。ずっと、いつものようにひと 「といって、いかなおいらでも、上ヴァラキアに住んでるようなダ りで大人しく、勉強をしていた、と思いのほか。 ああ、イシュト チはいねえし : : : ま、カンドスの邸のありかぐらいは、出人りの縫「イシュトー いきなり戸は内からひきあけられ、やせた小さいからだがぶつか い子、料理女、洗たく女でもさがしあてて、きき出せるだろうがよ」 イシュトヴァーンは、あれか、これか、と考えふけりながら歩いるようにしがみついてきた。 ていった。もう、そうこうするうちにようやくチチアは深更をまわ「あツ、わあ、びつくりした。ど、・ とうしたい、 ョナ公」 り、かなり、人通りも少くはなってきている。が、どんな深夜で せつかくのみやげをとりおとしかけて、イシュトヴァーンはあわ も、完全には人通りのたえることのない遊廓のこと、まだ寝しずまてる。 るにはほどとおい が、ヨナの顔をみて、はっと胸をつかれた。あの冷静な、かわい 「カンドスのとこに、つれていかれてるとすると たぶんもう、 いおちつき払ったヨナ少年の顔が、くしやくしやにゆがみ、涙に汚 ルキアは帰ってきたときにや、ゼアってわけにはいかねえだろうれているのだ。 おいらにとっちゃ、どんな女にもおそかれ早かれ一 「ど、どうした。何か、あったのか ! 」 度は来ること、べつだんたいへんとも思えねえんだが、身もちの固「イシ、ト、 いつ、かえってくるのかと思って、・ほくーーー・外へさが えってのは、難儀なこったな。また、そいつをョナ公に、どう話すしにゆこうかと思ったけど、絶対、外へ出てはいけないといわれて たしーーー」 イシュトヴァーンはふと、足をとめた。 「どうしたんだよ、ちび公」 「ヨナ公っていやあ、きようもどうせ、おそくまで、せっせと勉強イシュトヴァーンは、そういえば、この少年とはじめて会ったと してやがるんだろうぜ。おい、そいつを三つ、包んでくれー きも、泣きながら、二階からおっこちてきたのだ、とおかしくなり 石畳に、屋台を出している、ムールー屋に声をかけ、三つ、包まながら、ヨナの肩を抱いてやった。」 せた。ムールーは、ヴァラキア名物、貝やさかなをぶっ切りにし「お父さんがーーーお父さんが : : : 」 て、トマトと煮こんでガティのまんじゅうに入れた、海の幸の料理「泣いてちゃ、わからねえ。とつつあんがどうした」 である。 いかに、しつかりしているようにみえても、そこはさすがに十二 それを、夜食にもっていってやろうと、包みをもち、もう一つ買歳の少年で、ヨナはひとしきり泣きじゃくっていたが、ようやく少 ロ 4

7. SFマガジン 1985年10月号

んでもいいが、上ヴァラキアのやつで、知りあいはあるかー らんときもある。乾坤一擲ってやつで、大勝負をはらにゃならんと きもある。おめえはかしこいが、どうも、いまいち、押しがきかね 「あねさん、すげえシャンなんだろ。上ヴァラキアの貴族に見そめえ。はったりがきかねえんだ。まじめで、ちっこくて、ガキときて、 られたりしてねえか . るから、こいつは、ムリってもんだよ」 「そんなことは、ないと思います。姉は、ずっと、カルアで朝から「そうですか : : : 」 ョナはカなくいった。 晩までいっしようけんめい働いていて、朝早く起きて、夜ふけてか 「わかりました。・ほくも少し、どうもぼくの力にはあまるだろう らでないと決してやすまないくらいでーーーああ、ただ、姉さんは、 洗たく女をやってますから、上ヴァラキアじゃないですけど、ラト か、という気がしないでもなくてーーーたしかに、ばくちに勝って ナ川の中流の方へ、みんなとせんたくにゆきます。あのへんは、貴も、腕っぷしで来られたら、ぼく、どうしようもないですものね。 もともと、よみかきにむいてるようだというので、およそ体をきた 族の別荘があるけど」 えることとは縁どおく育ってきてしまったんです」 「ふーん、なるほど。やつが見そめたとすりや、そのあたりってこ ョナは肩をおとして、 ったな」 じゃ、もう、 「よけいなご厄介をかけて、すみませんでした。 それはあきらめます。姉さんのことは、また何とか、考えなくっち 「何でもねえ」 イシュトヴァーンはニャリとした。 「いいか、ヨナ公。おめえにこんなによく教えてもらっても、おい 「ばか、おめえも、早とちりなやっちゃ」 らにや、月謝も払えねえ。それに、な、どうも、こないだからのよ イシュトヴァーンは、ヨナがすっかりしょげてしまったので、 くぶんあわてた。 うすをみてると、おめえは、ばくちにや、向いてねえようだ」 で、な、 「だめですか : : : 」 「さいごまで、人のいうことを、ききなってんだよ。 ョナはうなだれた。 ョナ公。おめえはばくちに向かねえ気性だし、おいらはおめえに払 「覚えはいい方だと、思うんですけれど : : : 」 う月謝がねえ。それに、なにせもう、おれとおめえは義兄弟だ。か 「覚えはいいさ。ただな、ばくちってな、頭だけじゃないんだ。そわいい弟分の苦境をみすてておくってわけにもいかねえから、ひと こが学問とちがうところさ。ばくちはな、気性、気つぶってやつがつ、こいつは、おいらがおめえの代打ちをやって、おめえのとつつ ものを云うのよ」 あんをだまし、あねさんをかどわかしたやつらの鼻をあかしてやろ うじゃねえか。そう、云いたかったのさ」 「そうさ。賭場じゃ、ときには、旗色がわるくっても、やらにゃな「ええッ に 3

8. SFマガジン 1985年10月号

イシュトヴァーンはうなづいた。 「。 ( ロへゆくかい、え。ーーー何ならおれの知りあいの偉いやつに一 筆、パロの誰かに紹介状をかかせる・せ」 「おれとしては、あねさんだって、十七にもなってりや、もう一人 前の女、自分の運命は、自分できめていいって気もするがね。しか 「偉いやつって しおめえといっしょに。、 / ロへゆくなら何かと互いに心丈夫だろう 「きいて、おどろくな」 し。よーし、わかった。まかせとけ。その、おやじは、どうなんだ イシュトヴァーンは得意になった。 よ、ようすは」 「このヴァラキアの海軍の英雄、オルニウス号のカメロン船長よ。 やつならパロへも何回もいってるはずだぜ」 「ぼくがいっても、ロをあわあわってやって、ポロポロ泣くだけで 「ええッ ォルニウス号のカメロン船長を、知ってるんですか ? 」す」 ョナは目を丸くし、事件のショックさえ、忘れたようにみえた。 涙をこらえて、ヨナは云った。一 「知ってるも何も、おめえ、あいつあ、おれに夢中なんだぜ。おれ「おじさん一家がそばについててくれて、そのうちひきとってめん に養子になれの、あとつぎになれのって、顔さえ見りゃあ、うるさどうをみると、 いってくれてます。とてもいい人たちなんです くってさ。おれのいうことなら、何だってきくぜえ」 おじさんも、どうやら、狙われてるのはヨナみたいだから、お父さ 「へええっ イシュトって、すごいんだなあ ! だってカメロンんはこっちにまかせて、ほと・ほりのさめるまでは、ずっとかくれて ろと、 船長といえば、ヴァラキアでいちばん有名な船乗りで、ロータス・ いってくれてます」 トレヴァン公の大のお気に入りじゃありませんか ? 」 「そうか・ : : ・」 「そのカメロンが、おれに首ったけなのよ」 イシュトヴァーンは何回もうなづいた。気づいて、 「さめちまったが、たべろよ」 イシュトヴァーンは鼻孔をふくらませた。 「だから、おめえがもし、パロへゆく気がありや、紹介状ぐらいすみやげをわたしてやると、ヨナは、夕食もくわずにかくれて泣い ぐ書かせるぜ。あいつはけっこう、各国のえらいやつも知ってるしていたらしく、かれにしては珍しいいきおいで、むさ・ほるようにた べはじめる。 よ。それにはっきり云って、おれも、おめえはヴァラキアにもうい ( ふーな ) ねえ方がいいような気がするなあー トの下から、かくしてある火酒のつ ~ ほをひつばり出したイシ 「ーー・でも、姉さんがーーーお父さんはともかく : : : 大人ですからね : でも、姉さんをこのままにしちゃ、 いかれません。姉さんを助ュトヴァーンは、それからじかに口をつけてちびちびとすすりなが ら、ペッドの上に足をくんですわり、考えこんだ。 けて、いっしょにゆくなり、安全になったのを、見とどけるなり、 もう、黒の・フルカスとサイスやサムたちが心をあわせて、石工の しなくっちゃあ : : : 」 ハンゼをいかさまばくちにひつばりこみ、むりやりルキアとヨナの 「そりゃあ、そうだ。もっともだよ」

9. SFマガジン 1985年10月号

口を見下ろすかたちに銃をすえた。銃は百二十度旋回させることが ずのぼるのは不可能といっていし ・・も 頂上は、平らな広場となっており、草におおわれている。 ・ : か出来るから、丘を上がって来るすべての者が火線に入る。 ってッワラ軍とわれわれが戦ったとき、ここには二万人に達する軍し、強引に攻め登って来る敵がいれば、みなごろしの憂き目に会う 勢が駐屯していた。そして三万をこえるツワラの軍隊と戦い、これはずである。 を撃退したわけだ。 もちろんそんな事態が起こることがわれわれの望みではない。万 こ決まっている。 : ~ 間にもいったよう それだけ多くの軍隊の駐屯を可能にしているのは、頂上に良質の事平和に過ぎるのがいい冫 泉が湧き出ているためもある。戦いのないときは、ここはククアナに、これは万が一にそなえての保険なのだ。 の兵士たちの保養所としても使われていたようだ。そのための小屋アスカリたちはここに全員腰を据えることが決まったわけだが、 ハッサンたち四人のラクダ使いたちも、ここに残ると言い出した。 が、いくつか残っている。 : : : 私達は、それらを本拠地として使う ことにしこ。 私達が鉱山に出発したあと、ルーの町でナーガ人のあいだに取り残 ナーガ兵が荷馬に乗せて運んで来てくれた十日分の食糧ーーー新鮮されるのはいやだというわけだ。 な果物、干した果物、乾し肉などーーーをまずその小屋のひとつに運町には、まだ火薬が残っており、鉱山に運ばねばならないが、女 王に頼んでナーガの馬で運ぶことが出来るだろう。かれらアラビア び込むと、かれらには礼をいって帰ってもらった。 これからささやかな陣地をきずくわけだが、ナーガ人に見ていら人たちの役割も事実上おわったわけだ。かれらの望むようにさせる れるのはまずい。いうまでもなくその陣地の仮想敵は、かれら自身ことにした。 そのささやかなキャンプぜんたいをいまいちど点検すると、私達 だからである。 かれらの姿が見えなくなると、グッドはラクダから装備を下ろは忠実な従者たちに別れを告げ、丘を下りた。 よよ旅の大詰めが来た し、ガトリング銃の組み立てにとりかかった。私とカーティスも手あとは満月を迎えるのを待つのみだ。いい ことを私達はさとっていた。 伝い、ゼガにもその構造を説明しながら手伝わせた。 : : : 今後、こ ( 以下次号 ) の銃の管理はゼガにまかされることになる。私達のいのちは彼の手 にゆだねられることになるかも知れなかったからだ。 一時間ほどして組み立てが終わると、かんたんな試射をし、ゼガ にも撃たせた。試射をするのは初めてではなく、アスカリたちはみ んな威力を知っている。しかしまた、あらためてその強烈さに感じ 入ったようだった。 グッドは土を掘り、石を積んで立派な銃座をつくった。丘の登り

10. SFマガジン 1985年10月号

ク ( リスタルハレス 、。ほとんど空全体をおおいかくしているのは水晶宮だった。 太陽ではなし アジャンは機首の衝角を、もろい雲母の壁面に向けて突入する。先端が表面 にふれた瞬問、内部の圧力が壁面を吹きとばす。 白い破片がくだけ、飛び散り、金属的な音を響かせて機体に突き刺さる。こ のとき、彼はいつも強い破壊衝動にかられるのだった。 ク日′ス々′ルハレス 水晶宮ーーー彼のムフ日の獲物だ。水と一父換できるものを手に入れることができる。 つかの * 1 、占りつくよ、つに濃い霧のよ、つな雲の中に入る。太陽の強い光はど こにもない。均質な灰色の世界。大空の中で常に自分の位置を確認する飛行士 の本能が方向を決める。 雲海の上に舞いあがる。と、灰色の世界が一転して、まばゆい輝きにかわる。