女 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1985年11月号
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1. SFマガジン 1985年11月号

のフィンが = ンジンまわりを飾り、その先端では信号灯が規則的にこの宇宙港は小粒だが、自動走路や人口重力 = リアがこまめに配置 されている。さすがはドルロイの表玄関。中継ステーションもそう 明減を繰り返している。 だったけど、機能が充実している。 「百。八十。六十。四十 : : : 」 あたしが高度をカウントする。いやあもう、こんな慎重な降下は ロビーにでると同時だった。 生まれてはじめて。いつもだったら、すとんと落として、どかっと 若い男女が、わらわらとあらわれ、あたしたちを取り囲んだ。い 着陸。豪快極まりない。 エンジン音が、急速に甲高くなった。逆が生じ、ふわりと浮くや、ちょっと違う。正確にいうと、あたしたちが運んできたワーニ ヤのホバ ーベッドを取り囲んだ。 ような感覚がくる。 男も女も、二十歳前後の若者だが、あたしたちには見向きもしな 離着床が、もうすぐそこ。 ワーニヤのまわりに群がって、「しつかり」だの「がんばっ ランディング・ギャが。 て」だのと声をかけている。 接地した。 ュリが動力を切る。 「ありがとうございました」 そのさまをぼんやり眺めていたら、横から唐突にお礼を言われ ショックア・フソー・ハが沈みこむやわらかいショッ・ : ように船体を走った。 びつくりして、振り返る。 着陸完了。 「やれば、できるわねえ」 と、そこには。 あたしは感心した。 趣味のいいスーツでばしっと決めたハンサムが : 年の頃は二十七、八。 「やだあ、いつもと同じよ」 ュリがにこっと笑って身をよじった。 髪は・フロンド。 いつもと同じで、ふざけた女である。 ーの瞳。 すずやかな、アン・ハ 係留手続きを済ませ、船を降りた。ムギはお留守番である。悲し長身じゃないけど、均整の取れたスタイル。 をー , ー . し、力平ノ 、、よ甘めの顔立ちは、しかし、どことなくきりつとした雰囲気があ そうに啼いて同情を引こうとするが、方針を変えるわけこよ クアールなんて連れてたら、あっという間に正体が・ハレちゃる。 う。こんなのペ ットにしてるのは、銀河系広しといえども、あたし「わたしがクラーケンです」 やわらかい、印象的な声で男は言った。 たちだけである。名刺を担いで歩いているようなものだ。 この男がクラーケン。 タワービルのロビーにでた。ワーニヤはホパ ーベッドに載せた。 クカさざ波の こ 0 5 4

2. SFマガジン 1985年11月号

つが、グッドの口から彼女の名を聞いたことはない。どうやらグッ ドはファウラタのことをすっかり忘れ去っているらしいのである。 : ともにい かくて私たちはいま三人三様の立場に立っている。 ながらも、心はたがい冫。 こよるかかなたをさまよっているのだ。なん とも残念なことであった。 広場へと柵に沿って歩きながら私はふと、向こうの小屋のかげに たたずむひとかげに気づいた。ひとかげはふたつで、かたく抱擁し あっているようである。 : : : 私は本能的に柵に身を寄せ、かれらの 正体を見届けようとした。 かれらは男女で、男の方は長身のナーガ人だった。甲冑を脱ぎ、 白い長衣をまとっている。女のほうはといえば : : : そのとき、ちょ うど雲間にかくれていた月が現われ、ふたりの姿をくつきりと照ら し出した。 私は息をのんだ。その女の髪が金色に月光にかがやいたのだ。・ : ククアナ人に金髪の女はいない。まぎれもなくリーサ・ヴァン・ ーベックだった。 同時に男の横顔もはっきりと見えた。百人長のルーファスだっ た。かれらがここでなにをしているかということは、問うまでもな 。人類が発祥して以来、人目をしのぶ男女が繰り返して来たこと である。問題は、ふたりがいっそのような仲になったかということ ルーファスは女王の信頼のあつい若手将校で、色は浅黒いが、ギ リシャ風の美しい容貌の若者である。リー サが魅せられたとしても 無理もないが、彼女はカーティスに思いを寄せて裏切られ、傷付い たばかりだ。その反動としてトム・アダムスに接近し、かれに付き きりでいたはずだ。もちろん寝場所はべつにしていたが。 当日Ⅲ ll 日日ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ日日ⅢⅢ ll ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ日ⅢⅢⅢⅢ日ⅢはⅢⅢⅢⅢⅢ日ⅢⅢ日日ⅢⅢⅢⅢⅢⅢ卩 アラン、ヘンリー、ジョンの三人は、彼らの援助で僭王を倒し、 王座についたククアナ王イグノシからの救援の声に応じてククアナ へ向かった。その途上で、ソロモンの秘宝を得るために鉱山技師の トム・アダムスをやとい入れ、さらに土民に襲われていた宣教師の 娘リーサ、そして彼らを助けてくれたウムスロポガースを一行に加 える。ようやくククアナに至った一行の前にタロスと名乗る白人の 男が現れ、アラン、カーティス、グッドの三人を女王の客として迎 えに来たという。ククアナは女王の率いる国ナーガに減されていた のだ。他の者をその場に残してククアナの都ル】へ赴いたアランた ちだが、女王は不在だった。そして、女王の帰りを待っ間に彼らは ナーガ軍団の猿人ジャガ族とトラ・フルを起こしてしまい、残された 者たちが猿人の襲撃を受け、リーサがさらわれてしまう。ただちに ーサ救出に向かう彼らは、ジャガ族の村でピンチに陥るが、そこ に女王が現れ、彼らを救いだす。彼らは女王とともにルーの街に戻 り、そこで驚く・ヘき話を聞かされる。かってシ・ハの女王の時代の悲 恋の主人公ヒヤミムが実は女王であり、その相手であるアスタルの 生まれ変わりがカーティスだというのだ。しかも、女王は二人が結 婚をすることに決めてしまっているのだった。ナーガ軍の閲兵式の おりに女王は婚約を発表するが、ナーガ人の反応は冷たい。しかし 女王はそんなことは歯牙にもかけないが・ : 登場人物 アラン・クオーターメン : : ジョン・フル気質のアフリカ冒険家。 ヘンリー・カ 1 ティス : : : 冒険心に富んだイギリス貴族。 ジョノ・グッド : : : 快活で義侠心に富み、ただし女性に弱いイギリ ス海軍士官。 アイシャ : : : ナ】ガの女王 トム ( トマス ) ・アダムス : : : アイルランド人の鉱山技師。 丿ーサ・ヴァン・リー ・ヘック : : : 宣教師の父の遺志を継いでアラン 一行に加わった女性。 ウムスロポガース : : : アランと旧知のズール戦士。 8 9

3. SFマガジン 1985年11月号

インフアドーズはにやりとした。 いるのか、すべてを楽しんでいるかのように皮肉な微笑を浮かべて 「わしはひとにぎりの勇猛な男たちとともに山に逃れた。ナーガ人いた。 ・ : わしら「どうやらそなたたちはこの蛮人どもと知り合いのようじゃな」 たちは大勢いたがわしらを見つけることは出来なんだ。・ はかれらを好きなとき、好きな場所で襲うことが出来た。ククアナ女王がいった。ウムスロポガースの魁偉な姿にはさすがに心を打 人はただのひとりになっても、決して侵略者との戦いをやめることたれたらしく驚嘆するかのように見上げた。 はないじやろう」 : よろしい。わたくし 「それにこの見るもすさまじい戦士とも。 インフアドーズはそのとき、私達の背後に立っ女王に気づいたらはしばらく邪魔しないでいよう。ゆっくりと再会をたのしむがよい」 しい。その目がぎらりと光った。 そういうと女王は優雅な足取りで天幕へと戻っていった。そこら 「そこにいるのはあの女ではないか ! 敵を率いて来た魔女じゃ。 じゅうにナーガ兵の死体が散乱していたのだが、目もくれず、すこ ここで出会うたのもご先祖のおみちびきじゃ。わが槍でつらぬいてしも動揺した様子もなかった。 : : : 冷淡というよりも、そもそも女 くれよう ! 」 王は生死というものに超越しているのであろう。自分を裏切った兵 叫ぶなり槍をしごいて突きかかりそうになるのを、私達はあわて士たちと思えばなおのこと悼む気持ちもなかったにちがいない。 てさえぎった。 いつぼう私達は、まだリーサのからだを抱いて悲嘆にくれている 「待ってくれ、インフアドーズ ! われわれにも長い物語があるのアダムスをのそいて、たき火の回りに集まった。アダムスはしばら だ。さまざまな因縁がこれにはあるのだ」 くそっとしておいてやったほうがいいだろう。人間の悲しみはただ 涙を流すことだけでだいぶ軽くなるものである。 私は叫んだ。 「説明するまで待ってくれ ! 」 国をほろばそうとした張本人が目の前にいるのだからインフアド 1 ズが激高したのも無理はない。だが不承不承槍を引いた。 その間、女王はといえばかすかな微笑をうかべて超然とした様子「わしの身に何が起こったか話そう」 で立っていた。私達とインフアドーズやウムスロポガースとの会話ウムスロポガースが話し始めた。 : だがそうせ はズール語でおこなわれていたのでーー・・前にもいったが、ククアナ「無断で野営地をはなれたことはわしの落ち度だ。 人はズール人と祖先を同じくするものと見られ、ことばも相互に多ざるを得ないような事情があったのだ。あの夜、わしが野営地の回 少の変形はあるものの共通しているのだーーー女王に理解出来たかどりを見回りに出かけると、ひそかにズール語で呼びかける声がし だいぶ変わってはいるがたしかにズール語だった。わしを呼ん うか分からない。しかしいずれにせよ、その表情は変わらなかった ろう。ククアナの戦士にはおのれを傷つけられないことを確信してでいるようだった。わしはその声に引かれて次第に野営地を離れて

4. SFマガジン 1985年11月号

「そんなことして、どうしようってんだ ! それはな、体のいい隔信之が制止する間もなく、須見とその友人は上空に姿を消してし 離なんだよ。クズだけを寄せ集めておいて、動物園みたいに外からまった。 眺めて笑いものにするつもりなのさ、はつ」 壊れやすいのは、女の友情だけの専売特許ではないようだ。 ・ : なんでだよお、うつるってどういうことだよ : 須見はため息をついた。信之は日に日に扱いにくくなっている。 当然といえば当然だろう。病人が正常で、健康な者は異常なのだ。 のは、おまえらの方じゃないかー どこか、どこか変だよ ) ( おれだったら、とっくにまいってる ) 須見は思った。 ( 楽観的な信之は呆然と空を見上げていた。 性格と、ウェイト・トレーニングで培った強靱な精神力がなければ : 。なんか : : : よく考えると、おれたちよりも「ハイ ! 」、 気が狂ってしまう : ・ こいつの方がよっぱど人間離れしてるな ! ) しばらくそうしていただろうか。突然、背後から声をかけられた。 二人は黙りこくって歩いて ( 須見は空中を進んで ) いた。 しい・ハストが目に入った。 振り返ると、いきなり形の、 ドギマギしてその上を見ると、まだかすかにあどけなさの残る少 前方から一人の男がやって来る。宙にあぐらをかいて、手にした 別に、表紙のモデルに見とれて女の、じっと見つめる目があった。 週刊誌の表紙を見つめていた。 いるわけではない。本を閉じたままで読むのが流行っているだけだ。 そのまま十秒ほど睨み合ったあと、少女はようやく口を開いた。 男はふと顔をあげ、やってくる二人に気付いたようだ。男は須見「やだあ、あなたなんにも考えてくれないんだもん ! 」 の友人で、そして信之の元友人だった。 「え、あ、ああ : : : 」 ( この娘、テレ・ハシーがあんましうまくない 彼は信之の方にチラ、と目をやり、須見に向かって挨拶ぬきで思みたいだな : よし、ちょっくらからかってみるか ) 「ああ、実 はまだ型にはかかってないんだ」 考を送った。 ″まだこんなやっとっき合ってんのかよ、おまえ。やばいよその 「へえ、そうなの。珍しいのね」 強いテレバシーは信之にも受信できた。″ この雑誌にも載ってるけ 少女は信じたようだ。信之には観察する余裕ができた。 どさ、あれ、うつるらしいぜ 全身きれいに日焼けして、ひきしまっている。しかし、出るとこ ″須見は、純粋に驚きを発した。 ろは出ている。肩から小さなポシェットを下げていて、足下は ″だからさ、あんましこいつの近くにいない方が : 地面から五十センチは浮いていた。 信之には、須見の顔が粟立つのが見えた。 「そんなにジロジロ見ないでよ」少女はいった。「あたしって、太 「の、信之、悪いけどおれ、ちょっと急用ができちまった。わりい らない体質なのよね。あなたもさ、最近にしては珍しく筋肉隆々じ ゃない。ね、あたしたちって、かなりいい線いくと思わない ? 」 「あ、ちょ、ちょっと、待てよ ! 」 「そ、そうだねー 。病気な 8 7

5. SFマガジン 1985年11月号

・ : けど : ら、おれが襲いかかった女とか、他の連中 : : : あの警官だって同罪てはいけない : だろ ? 警官はしきりととぼけていたけど : : : むむつ、これは、背「あ、どーも。ばく、今野文雄といいます」と、とりあえずそれだ 後に巨大な権力の存在を感じるそ。うーむ、思いあたることといえけいうと、および腰で男に近づく。 ば、四日前に教授から預かった書類だが : : : しまった ! あれは家男は名乗らずに、何をして捕まったのかとふたたび尋ねた。そこ に置いてきちまったぞ。あの中には国家をも脅かす秘密の研究結果で彼は、今朝起きてからの出来事を、かなりくわしく、しかし書類 くそう、まんまと罠にかかってしまっ が入っているに違いないー のことなど何も知らぬかのように、説明した。男とは一定の間隔を たそ。ーー・・すると、このあとおれは消されるのか ? ああ、なんて保ち、相手のでかたを観察しながら。 ことだ ! 本人すら知らぬ間にドロドロした権力抗争に巻き込ま 見れば見るほど、男が殺し屋とは思えなくなってきたので、今野 れ、だれにも気付かれぬまま消えてゆく一般市民のはかなき運命 ! は「巨大な陰謀」説を撤回することにした。もっと合理的な解答を こんなことなら、はやめに童貞を捨てておくんだった : : : ) 男が与えてくれそうな気がしたからだ。 彼は頭を抱えてうなった。 「つまり」と、男は今野の話を聞き終えるといった。「風邪で三日 「あんた、いつまでそこにおるん ? 」 ほど寝込んだあとに外へ出てみると、誰ひとり服を着ていないので 突然、背後で声がした。 自分も脱いで、女を引っかけようとしたら逮捕されたっちゅうんか おそるおそる振り返ると、留置場の片隅にひとりの男がうずくま ? 」 っている。暗い あまりに簡単に要約されてしまい、自分の説明の中にいれた複雑 のびた無精髭。浅黒い身体 ( やつも裸た ) はしなやかに動きそう な心理的葛藤を理解してもらえたのかと心配になったが、とりあえ ! 」 0 ず今野は頷いた。 ( 刺客か ? ) すると男はニャリ、と笑って両手を広げると、「あんた、おれが 男からはただならぬ殺気が漂ってくるような気がした。 今、どんな格好しとるか見えるか ? 」 や 「見えるもなにも、すっ裸じゃないですかー今野は男の、かなり立 ( ただでは殺られん : : : ) だが彼の意に反するかのように、男はいきなり破顔してこういっ派な一物に軽い羨望の一瞥を投げてからいった。 たのだ。 男は確信を持って頷いた。「なるほどな。あんた、 O 型や」 「そんな格好じゃ、寒かろ。こっちへ来いな。あんた、何して捕ま「やだなあ、ぼくは 0 型ですよ」 りよったん ? 」 男は今野の目を見つめ、唇をなめた。「おれがしとるのは病気の 用心深く立ち上がり、男の顔をうかがう。 話ぞ。あんたが、今はやりの超能力病の o 型ちゃうやつにかかっと 殺し屋などにはとても見えない柔和な表情。いやいや、だまされるのは間違いない」

6. SFマガジン 1985年11月号

ともに例の馬蹄形の丘に移してあるので、グッドがダイヤ宝庫の岩 ーサはあいかわらずカーティスをまったく無視した態度を取っ 扉を爆破するために用意した火薬を運びさえすればよい。そのためていた。あの夜、ルーファスと情熱的に抱擁しあっていた女とは、 の馬車は、すでにタロスに頼んで用意してもらってある。あとはト 別人のようだ。 ・ : いったいどちらがほんもののリーサなのか ? ム・アダムスが一緒に出かけられるかどうかをたしかめるだけだっ私は胸のうちでかぶりをふった。いずれにせよ、なにも知らぬアダ ムスこそいい面の皮だ。かれが真相を知ったとき、あらたな悲劇が ーサ生じることは目に見えている。私としては、アダムスにふかく同情 私とグッドはさっそくかれが療養していた小屋を訪れた。リ があいかわらず朝からアダムスに付き添っており、入っていった私せざるを得なかった。 達を無表情な顔で迎えた。 : : : 私はひそかに彼女の顔をうかがった「私も、行きますわ」 が、べつだん寝が足りなくて疲れた様子もなく、恋に浮かれた様子 ーサはいっこ。 もなかった。私は、ゆうべ目撃したあの光景が、夢ではなかったか「トムにはまだ付き添いが必要です。それにひとりぼっちでこの町 と疑ったほどだ。まったく、女というものは天性の演技者らしい に残るのはいやです」 「トム、 いよいよダイヤ鉱山まで出かけるときが来た。・ 私達としても、彼女を置いていくつもりはなかった。アスカリた ムよ、つこ。 ちもいないいま、文字通りひとりだけになってしまうからである。 「からだの具合はどうだね ? 君は馬車で行くことになるが : : : 」しかしルーファスも護衛隊長として同行することが決まったいま、 「もう大丈夫です」 彼女のその言葉が真実かどうか、私にはいちがいに信じられなかっ アダムスは寝台から起き上がるといった。 た。彼女とルーファスのことはまだ私ひとりの胸におさめたまま 「昨日も、すこし歩いて見ました。馬車の旅なら問題はないでしょで、カーティスにもグッドにも打ち明けていなかったのだが。 「リーサ、君の使命感はいったいどうなってしまったのかな ? 」 たしかに血色もよく元気そうだ。悩みもなく、幸福にみちあふれ私はつい口走ってしまった。 「君はあのジャガ族まで教化しようとしたではないか。ナーガ人た ているかに見える。かれはリーサを見返ってほほえんだ。 「すべて彼女の看護のおかげです。ほんとうによく尽くしてもらい ちをキリスト教に改宗させたいとは思わないのかね ? ましたよ」 「 : : : かれらの神はあの女王よ、クオーターメンさん」 ーサはひややかにいった。 アダムスはかねてからリーサに思いを寄せていたのだから、かれ にとって彼女が手厚い看護をしてくれたことは、天にも登る思いだ「彼女がいるかぎりかれらは新しい神など信じようとはしないでし ーサと よう。でも見ていてごらんなさい、かならずかれらが目覚めるとき ったろう。そのため、回復も早かったわけだ。もちろん、リ はおとずれるわ」 ルーファスの仲にも気づいていないようだ。 - 」 こ 0 8

7. SFマガジン 1985年11月号

人の不良少年に見とれていた。 が、太い腕が、つとのびてきてそれをさえぎった。 「ふざけるんじゃーねえや : : : 」 海坊主のサムであった。 イシュトヴァ 1 ンはいっそう調子にのって、虹のような気炎をふその小さな、陰気な目が、陰火のような光をうかべて、チロチロ きあげた。 と、イシュトヴァーンを見つめていた。何か、いかにも、思いあた 「もしもおいらがほんもののヨウイスの女だったらよ、ど助平のえ ったかたくらみがあるか、そういう暗い目つきであった。 らいさんとグルになって、かどわかして売りとばすつもりでいやが「、ツ、 ′てえことで、今日はだいぶん、面白くあそばしてもらった ったくせによーーー対で、まっとうにサイ改めも誓いもやって、張っよ、サイスのおとつつあん」 た勝負にサイスの賭場じゃ、こういうケチくせえまねをしやがるん イシュトヴァーンは身をかがめ、ヨウイスの女の衣装をかきあっ だと、チチアじゅうにふれてまわってやろうかい、ええ ? ししカめて、ストールでひとつつみにすると小わきにかかえた。 ら、耳をそろえて十万ラン、よこしやがれ、こいつは、黒の。フルカ 「明日また、十万ラン、うけとりにくらあ。証人にツ = ペシ親分 に一緒にきてもらってな。びた一文、まからんから、そのつもりで スと、ヴェントのイシュトヴァーンさまの、公正無比の一本勝負 よ。他の奴につべこぺいわれるすじはねえ。 いっとくが、妙な気を用意しとけよ。おい、・フルカスさん、悪かったな。あいつが、片目 おこしたってムダだそ。おめえらのうしろにや、何様がおっき遊ばのコルドの必殺わざ『ャヌス廻し』というのさ、拝めただけでも、 して、しろうとをだましていいようにまきあげるのを公認してるかありがてえと思ってくれ。こんどはうちの方へもいっぺん、客であ 知らねえが、おれだって、。ヒットの賭場じゃちったあ知られたイシそびにきてくれよ」 = トヴァーンだ。今夜、あす、あさってにでもおいらに何かあろう 云いすてて、さえぎるものもない人垣のまん中を、得意満面で歩 ものなら、チチアじゅうのやつらがサイスの賭場に暴動おこしておき出した。 さあっと、人々が二つにわれる。 しよせるぜ , ーー・第一、おれのうしろだてにや、オルニウス号のカメ ロン船長がついてるんだからな。つまんねえ、けちな了簡おこさずそのイシ , トヴァ 1 ンの背に、サイスのしわがれた声がかけられ こ 0 と、とっとと十万ラン、調達しにかけて行きやがれ、明日の晩、ル アーの日没の鐘が鳴るまでだけ、イシ = トさまのお情で待ってやら「覚えときなよ、お若いの。コレド・、 ノカ《五つ目》ドビスに勝って、 あ。 ( ツ、どいつもこいつも図体ばかりでかくなりやがって、脳みよく朝どうなってたかをな。髪も切らねえうちから、あまり頑張ら その方は、ノスフ = ラスのセム族みてえに小せえときてやがら。ばねえ方が、チチアじや長生きするんだよ」 かが : : : 」 「ありがとよ、とつつあん。その忠告に免じて百ラン、まけてやら 云いたいほうだいの雑言に、顔色をかえて、・フルカスが、とび出あな」 そうとする。 ふりかえって、片目をつぶってイシュトヴァーンは云った。そし 2

8. SFマガジン 1985年11月号

則Ⅳ囲 W 『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』 村上春樹著 / 6 田頁 / 四六判上製 / 田円 / 新潮ネ土 実は、先月号で、この作品をとりあげるつみくろ」がとても好きなのである。いやじっていなくてはならぬ。結果としてはサタイア もりでいたのだが、水鏡子氏がすでにやったさい、あれは可愛い やアレゴリイになっていても、過程としてそ ときいたのと、ちょうど『幻世紀は警告すしかし、このレビーでとりあげられたり うであってはいけないのだ。村上春樹の小説 る』が完結し、その方が緊急である、と考え新聞でも的として紹介されているけれどは現代文学としてはすぐれて自律性をそなえ たので、そのままになってしま 0 た。かなりも、この作品はま「たくではない、とはており、だから好きの若者たちにも受け 時期おくれにもなったし、安永航一郎のマン 云っておきたい。あくまでこれは「純文学」入れられるのだと思うが、しかし彼の小説は ガ『県立地球防衛軍』と、どちらにしようであって、でもファンタジーでもないとそのイメージのたしかさにもかかわらず具象 か、と迷ったが、この作品についてはいろい 思う。として、つまりシミ、レーションではない。 具象性とイメージのあざやかさは ろ評価がわかれているようだし、私は村上春とかスベキ、レーションとかセンス・オヴ・ ちがう。それで、私は彼の作品をよむと妙に 樹については、まだ一回も書いたことがない ワンダーとかとして読んではいけない、と警心もとない、面白かったのだが妙に不安なよ ので、やはり一応書いておくことにした。 告しておく。そうでないとをも、村上春うな、よく考えると何を云いたいのか、どう 私はこの村上春樹という作家、樹をも、誤解することになる。ガルシア・マ いう話だったのか、わかるような、わからん 決して嫌いではない。 ことに誰でルケスがでないのと同じくらいこれは純ような気持になる。それが、純文学だという もいうとおり、『羊をめぐる冒文学作品でしかない。といっても、別にけなのである。 険』は面白かった。 したことにはなるまい。どうしてかというとむろん純文学だからどうというわけでもな こんどの作品 ( 長いからタイト ちゃんと云うと大演説になってしまう いが、これは、ではないということを念 ル書くのがめんどくさい ) もさっ が、一言でいえば、というものは、ファ頭におきつつ読まないと、読みまちがいをし と読んで、面白い。とにかく、一 ンタジーも含めて、暗喩ではありえない。 やすい作品であると思うのだ。基本的には、 つの作品に必ず何がしかのあざや の描く怪物や終末、異次元、宇宙人、 これは、コト・ ( とイメージのつづれ織りのよ かなイメージを出してくるのがむ未来社会は、それ自体たしかに具象であり、 うな小説である。本当は、ストーリーはどう やみとうまい人で、その点、村上具象のもつ自己目的性と自己完結性とを具えでもよいし結構もどうでもよい ラストで二 龍 ( あのワニさんはよかった ) と共通してい つの作品が結びつく、といった小細工は る。もっとも誰でもほめるのであろう耳の美 りヾーヾ F 野暮である。ない方がよかった。やたら しい女とか、むやみとたべるやせた娘より、 すいすいと読めて面白いしイメージもあ レ 私がいいと思うイメージというのは、「やみ ざやかなのだが、読みおわってよく考え くろ」と、そして「夢を読む」職業とか、影 るとどう、何が面白かったのか、イメー 作〕 とのややいかがわしめの関係とか、あのへん ジやコトバも実体はどこにもなく、たた し : 、たまらない。耳のきれいな娘とかは、作 「やみくろ」や耳の女が中空にひっかか 者が、このへんのイメ 1 ジで読者を感心させ ってチェシャ猫のように浮かんでいるー てやろうという下心がみえすくようで、私な ーこれはそういう小説だ。だから、ま 学 どひねくれ者だから、いまいち素直にのりた 文 4 Ø峠判 あ、要するに「文学」なんだろうと思 、つ 0 よよよ。 くない。私などが、虚心に読むと、あの「や ・ <NDU)< Z<Y<N ー >< ・ようやっと申しわけていどの夏休みをとったら、たまによく寝て頭ガアホーになってしまった。もはや回復不可能てはないガと思う。 中島梓

9. SFマガジン 1985年11月号

入選作 千早澪 知り合いのセールスマンに、アンドロイドを買わないか、と「当社の。フログラムは最高ですからね、絶対、命令には背きま もちかけられたのは、夏も終わりの頃だった。 せん。ただ、悪用だけは出来ないようになってますがね」 「最新のやつなんですよ。今まで出たアンドロイドのなかし「だけど : : : 」 俺は云った。 や、絶対、これ以上のものはありません」 「で : : : どんなのだ ? 」 「この外見・ : ・ : もうすこし、どうにかならないのか ? 」 独り暮らしの惨めさには閉ロしていた俺は、ちょっと乗り気サンプルのせいか、アンドロイドは、もろにそれとわかる、 こよっこ。 機械そのものといったからだっきをしていた。 「完璧な読心能力を持ってるんですよ。いいですか、ちょっと「その点も大丈夫です。あなたの望むまま、女にでも、男にで も仕立てられます。顔、背丈、その他みんなお好みにあわせて 試してごらんください」 セールスマンは、見本のアンドロイドを一体、俺のほうへ寄お作りします」 越した。 しかし、まだちょっとひっかかることがある。俺は尋ねた。イ 「心の中で、なんでもいいですから、″欲しい〃と思ってみて「読心能力を持ってる、ってことは、こっちの。フライヴァシー ってもんが、なんにもなくなっちまうんじゃないのか ? 」 ください。そうすれば、こいつがすぐ持ってきてみせますよ」 「御心配には及びません。当社のプログラムを御信用くださ ( コーヒーが飲みたいな ) 俺は、ふっと思った。 ( アイスで、 ス 。そんなことは、一切ありませんから。あなたが持っ願望だ それもクリームのはいらないやっ : アンドロイドは、全く自然な動きで出て行き、じきにグラスけを読みとれるつくりにしてありますので、大丈夫ですよ」ズ かくして、俺は買約書にサインすることになった。 にアイスコーヒーをなみなみと淹れ、ストローまで添えて持っ ・タ てきた。 俺は、夢のような生活を送ることになった。アパートには、 「へえ : : : かなりなもんなんだな」 カワイコちゃんのアンド料イド。頭のなかで、ちょいと思った 思わず俺は感嘆した。 羊が一匹 9

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あたしたちは、駐車場の端から端までを全力で疾走した。百メー ドアが勢いよく開いた。 トルに直したら、たぶん十秒を切っていたと思う。 一台から五人ずつ、武装した屈強な男が飛びだした。 乱闘に参加したのは。 素姓は一目見て知れる。 ガー・ヒイが撃たれたときだった。 小汚い格好に、崩れた凶悪な顔。 もう秘密捜査もへったくれもない。距離を置くといったって、こ ヤクザだ。 んなの見過ごせるわけないじゃないか。これは喧嘩ではない。戦闘 ジュニアが呼び集めたヤクザ。 一方的な虐殺だ。 動きが速かった。すごく速かった。あたしも「一リもどうしようもでもない。 あたしはガービイを撃ったやつを捕まえた。細身の陰険な顔をし なかった。泉はみんなのいるところから、かなり離れている。 身構えるひまも与えず、ヤクザはラボの所員たちの中になだれこたやつだ。 そいつの腕をかいくぐって背後にまわり、右膝のうしろに蹴りを んだ。 ある者は素手で、またある者は棍棒のような武器で、無造作に襲入れた。 そいつは他愛なく、、ハランスを崩した。 男も女も区別しない。 倒れたところを馬乗りになり、髪の毛を損んだ。顎に手をかけ、 殴打し、容赦なく踏みつける 9 一息にひねった。 中継ステーションで見た光景とまったく同じだ。違うのは、今度鈍い音がした。 は所員の方も武器を手にしていたことだ。 首が百二十度ばかり後方に折れ曲がった。 レイガンで応戦しようとした。 何人かが、 叩きつけるように手を離す。 すかさず、ヤクザもガシを抜いた。 それから、そいつの銃をあらためた。 ばばばっと光条が走る。 最新型のヒートガンだ。 絶叫がほとばしった。 あたし好みの銃である。エネルギーゲージもマキシマムを示して 五、六人の男女が、光線に薙ぎ倒され、もんどりうった。 いる。こいつは、この銃で、ガービイの胸を灼いたのだ。 その中にガービイもいた。 拝借した。 ガービイは胸を丸く灼かれていた。 ちょいとこじつけだけど、この銃でヤクザを蹴散らせば、ガヒ イの供養になるんじゃないかしら。 殺気を感じた。 振り返ると、あたしを狙っているやつが、三人ばかり背後にいた。】 っこ 0 3 6