ククアナ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1985年11月号
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1. SFマガジン 1985年11月号

左であるーー・・さきほど目覚めてしまって、それからというもの眠れ なくなってしまった。それで散歩へと出てきたわけである。 王宮とその回りは、ところどころかがり火がたかれ歩哨がその任 についているが、しずかなものである。夜気は甘く、どこからかミ モザに似た花の香が漂って来る。町の大通りに植えられた並木から 女王が " 行″のために自室にこもってから四日がすぎた。そして匂って来るのだ。 ククアナ人のものだったかってのルーの町は、蛮人のものとして 月は次第に満ち、四日目の晩には、満月となった。 はよく整備された美しい町だった。みごとな体格の戦士たちと、美 私はついに出発のときが来たことをさとった。女王とともにソロ モン王の鉱山へと出かけるのだ。そこで、こんどの旅の目的が果たしい乙女たちがひしめいていた。 されることになるだろう。 : どういう状態にあるのかははつぎり私は人間の変わりようのはげしさに思いをはせた。かってここを とは分からないのだが、女王はイグノシが生きていると断言してい訪れたとき、私たちはカーティスの弟ジョージを救い出すというひ カーティス る。彼女はその場かぎりの嘘をいうような女性ではない。彼女が生とつの目的に結ばれていた。しかしいまはどうだ ? : : : きているというのなら、イグノシは生きているのだろう。 は女王アイシャとの恋にうつつを抜かしている。グッドはといえば もちろん私は、どういう状態にあろうとかれを救い出すつもりだダイヤを掘り出すことで頭がいつばいだ。 かってはグッドもこのククアナでロマンスを体験したこともあっ った。はるばる英国から二万マイルもの旅をして来たのはそのため である。 ・ : もちろん、ククアナの国土は女王のものとなっているたのだ。ククアナを護っているとされる″沈黙の像ーー・ダイヤ鉱 冫 ~ いかないだろう。だがカーティスが山の入り口に立っている、古代フェニキア人が建てたと思われる石 から、すぐに取り戻すわけこよ 女王と結婚した暁には、ククアナをククアナ人に戻すよう進言する像だーーー・ヘのいけにえとしてッワラ王の息子スクラッガに殺されそ うになった美しい娘ファウラタを、グッドは救った。 ことも出来るだろう。私としては、それに賭けるほかはなかった。 ファウラタはそれからというもの忠実にグッドに仕え、妖婆ガグ そして旅のもうひとつの目的 : : : すなわちグッドの目的も果たさ 1 ルとともにダイヤ鉱山へ向かったときも同行した。しかしガグー れることになる。この前、私たちが置き去りにして来ざるを得なか ルの裏切りを知らせようとして胸を刺され、絶命したのだ。 った大量のダイヤを手に入れることも出来るわけだ。 グッドが彼女を愛していたことは疑いない。もちろん、イギリス 私は、そんなことをとりとめなく考えながら、月光に照らされた へ連れ帰ることはかなわぬゆえ、みのらぬ恋であることはたしかた 王宮の庭を、例の閲兵式がおこなわれた広場へと足を運んでいた。 : ファウラタの遺体は、岩扉に閉ざされたダイヤ鉱山の すでに時刻は夜半を過ぎていよう。カーティスとグッドは、宿舎ったが。・ で眠っている。だが私は眠りが浅くーー歳を取ったことの残酷な証奥で骨となって眠っているはずだ。しかしククアナへ来てだいふ経 第十一章沈黙の像の彼方

2. SFマガジン 1985年11月号

「いいんだ、ウムスロポガース。おまえは間違ってはいない。あの からふりおろされた。甲冑が断ち割られる金属的な音がして、ルー ・・も ファスは頭から胴のなかばまでを斬り裂かれて、血を噴水のように娘は気が狂「てしま 0 たんだ。いろいろなことがあ 0 てな。・ しおまえが手を下さなければ、インク・フは殺されていただろう」 まき散らしながら倒れた。 私はいった。 そのときにはほとんど戦闘の決着がついていた。ククアナ人はか 「だがウムスロポガース、これはいったいどういうことなんだ ? んぜんにナーガ兵の虚をついたのだ。われに帰ったナーガ兵たちは けんめいに戦「たが、復讐〈の怒りに燃えたククアナの戦士たちのおまえはいままでどうしていた ? = = = 私は、死ぬほどおまえのこと を心配していたんだそ」 敵ではなかった。 戦闘が始ま「てから五分と経たぬ間にあたりは静かにな 0 た。血「それは長い物語だ、「ク「ザーン。ひとくちでは語れない」 ウムスロポガースは重々しく答えた。 にまみれた搶を握ったククアナの戦士たちが敵の骸を見下ろしてい 「あんたに心配をかけたことはわびる。しかしわしは一族の呼びか るだけになった。 : ところでマクマザー 冫ーいかなかったのだ。 かれらの数は二十人ほどだ 0 た。おそらく、ナーガ兵の追及に対けに答えぬわけこま ン、あんたに会わせたい男がいる」 抗して遊撃戦を展開していたククアナ人の生き残りにちがいない。 ウムスロポガースが振り向いてズール語でみじかく叫ぶと、ひと りの戦士がゆっくりと歩み寄って来た。ヒョウのみじかい毛皮をか らだに巻きつけ、水牛の革でつくった楯と槍をたずさえていた。そ : ポーグワン、それにインの頭は真「白で、やはり白いあごひげをたくわえていた。 「マクマザーンよ、しばらくだった。・ 「クーム。マクマザーン、インクプ、それにポーグワンよ」 クプよ、おぬしたちも変わりはないようだな」 ″クーム″というの ウムスロポガースは私達の前に立っと、重々しくうなずいて見せ老戦士はみじかい槍をふってあいさっした。 た。この老いたるズール人は、ともかく芝居がか「たことがなによはククアナ人の貴人に対するあいさつのことばである。 「インフアドーズ ! 」 り好きなのである。 : そこに立っているのは、イグノシの叔 私はわが目を疑った。・ 「だが、あの娘には気の毒なことをした : : : 」 ーサを見返っ父で、ククアナの王族のひとりでもあり、ツワラとの戦いで大きな ウムスロポガースはアダムスに抱かれたままのリ 勲功のあったあのグレイ連隊を指揮していたインフアドーズそのひ た。気の毒なアダムスは放心状態のようである。 「なぜなのかは分からぬのだが、あの娘がインク・フを撃とうとしてとであった。 いるようなので、わしが槍を投げたのだ。殺したくはなかったのだ「生きていたのか ? 」 「年老いたキツネはそうたやすく猟師の手にかかりはせん」 99

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つが、グッドの口から彼女の名を聞いたことはない。どうやらグッ ドはファウラタのことをすっかり忘れ去っているらしいのである。 : ともにい かくて私たちはいま三人三様の立場に立っている。 ながらも、心はたがい冫。 こよるかかなたをさまよっているのだ。なん とも残念なことであった。 広場へと柵に沿って歩きながら私はふと、向こうの小屋のかげに たたずむひとかげに気づいた。ひとかげはふたつで、かたく抱擁し あっているようである。 : : : 私は本能的に柵に身を寄せ、かれらの 正体を見届けようとした。 かれらは男女で、男の方は長身のナーガ人だった。甲冑を脱ぎ、 白い長衣をまとっている。女のほうはといえば : : : そのとき、ちょ うど雲間にかくれていた月が現われ、ふたりの姿をくつきりと照ら し出した。 私は息をのんだ。その女の髪が金色に月光にかがやいたのだ。・ : ククアナ人に金髪の女はいない。まぎれもなくリーサ・ヴァン・ ーベックだった。 同時に男の横顔もはっきりと見えた。百人長のルーファスだっ た。かれらがここでなにをしているかということは、問うまでもな 。人類が発祥して以来、人目をしのぶ男女が繰り返して来たこと である。問題は、ふたりがいっそのような仲になったかということ ルーファスは女王の信頼のあつい若手将校で、色は浅黒いが、ギ リシャ風の美しい容貌の若者である。リー サが魅せられたとしても 無理もないが、彼女はカーティスに思いを寄せて裏切られ、傷付い たばかりだ。その反動としてトム・アダムスに接近し、かれに付き きりでいたはずだ。もちろん寝場所はべつにしていたが。 当日Ⅲ ll 日日ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ日日ⅢⅢ ll ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ日ⅢⅢⅢⅢ日ⅢはⅢⅢⅢⅢⅢ日ⅢⅢ日日ⅢⅢⅢⅢⅢⅢ卩 アラン、ヘンリー、ジョンの三人は、彼らの援助で僭王を倒し、 王座についたククアナ王イグノシからの救援の声に応じてククアナ へ向かった。その途上で、ソロモンの秘宝を得るために鉱山技師の トム・アダムスをやとい入れ、さらに土民に襲われていた宣教師の 娘リーサ、そして彼らを助けてくれたウムスロポガースを一行に加 える。ようやくククアナに至った一行の前にタロスと名乗る白人の 男が現れ、アラン、カーティス、グッドの三人を女王の客として迎 えに来たという。ククアナは女王の率いる国ナーガに減されていた のだ。他の者をその場に残してククアナの都ル】へ赴いたアランた ちだが、女王は不在だった。そして、女王の帰りを待っ間に彼らは ナーガ軍団の猿人ジャガ族とトラ・フルを起こしてしまい、残された 者たちが猿人の襲撃を受け、リーサがさらわれてしまう。ただちに ーサ救出に向かう彼らは、ジャガ族の村でピンチに陥るが、そこ に女王が現れ、彼らを救いだす。彼らは女王とともにルーの街に戻 り、そこで驚く・ヘき話を聞かされる。かってシ・ハの女王の時代の悲 恋の主人公ヒヤミムが実は女王であり、その相手であるアスタルの 生まれ変わりがカーティスだというのだ。しかも、女王は二人が結 婚をすることに決めてしまっているのだった。ナーガ軍の閲兵式の おりに女王は婚約を発表するが、ナーガ人の反応は冷たい。しかし 女王はそんなことは歯牙にもかけないが・ : 登場人物 アラン・クオーターメン : : ジョン・フル気質のアフリカ冒険家。 ヘンリー・カ 1 ティス : : : 冒険心に富んだイギリス貴族。 ジョノ・グッド : : : 快活で義侠心に富み、ただし女性に弱いイギリ ス海軍士官。 アイシャ : : : ナ】ガの女王 トム ( トマス ) ・アダムス : : : アイルランド人の鉱山技師。 丿ーサ・ヴァン・リー ・ヘック : : : 宣教師の父の遺志を継いでアラン 一行に加わった女性。 ウムスロポガース : : : アランと旧知のズール戦士。 8 9

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れぬかのように目を大きく見開ぎながら、仰向けに倒れた。・ ーサは顔を真っ赤に染めると吽んだ。 ) 「よく覚えておきなさい。カーティスを殺すのは女王、あなた自身そらく、倒れる前に絶命していただろう。それほどククアナ人の投 8 げ槍の威力はすさまじいのだ。 なのよ ! 」 「そしてこのことにそなたはかかわっているというわけか、ルーフ だれもが一瞬凍りついた。私がようやくわれにかえったとき、周 アス ? 」 囲の闇から喚声が湧いた。ヒュッヒュッという音とともに投擲用の 女王はルーファスを振り返るとあいかわらずおだやかな口ぶりでナイフが飛んで来てナーガ兵のからだに突き刺さり、何人かが倒れ 尋ねた。ルーファスは蒼白になりながらも決然とした口調で答えた。次の瞬間、夜の精霊のように黒い肌で裸体の人間が回り中の闇 こ 0 から湧きだすと、槍を振りかざしてナーガ兵に襲いかかった。 「すべてナーガのためなのです、女王よ。神聖な結婚の掟はまもら私達は反射的に動いた。カーティスと私、グッドは女王に走り寄 れなければなりませぬ。われらはもとよりいのちは捨てておりまってその回りに立った。アダムスだけはリーサに走り寄った。胸の 槍を引き抜くと、ぐったりしたそのからだを抱き起こした。 す。 : : : 掟をまもるためには、こうするほか方法はないのです」 たちまちはげしい戦闘の物音が湧き起こった。私はすでに襲撃者 「そうよ、ルーファス ! 」 がククアナ人であることを見定めていた。さきほどナーガ人を何人 ーサが叫んだ。 か倒した投擲ナイフもカーラスと呼ばれるククアナに特有のもので」 「さあ、早く殺しなさい ! 」 ある。 「なぜ自分でそうしようとしないのだ、リー カーティスのおだやかだが哀しみにみちた声がいった。かれは樽「マクマザーン ! 」 の上に腕を組んで座りながらリーサを見つめていた。 聞き覚えがある声が叫んだ。すばらしく長身の黒人の戦士が、大 斧を振り回し、立ちはだかるナーガ兵を薙ぎ倒しながら走って来る 「君がそうするなら私も納得したろうに : のを私は見た。 「いいわ ! あなたの望みどおりにしてあげるわ ! 」 「ウムスロポガ 1 ス ! 」 ーサは狂気じみた叫びを上げると、拳銃の銃口をカーティスの 私は叫んだ。歓喜のあまり全身の血が沸き立った。アマズルの族 胸に向けた。 長、あの誇り高い戦士のなかの戦士は、生きていたのだ。 その瞬間、なにか重いものが空を切るヒュッという音がした。リ そのときルーファスがウムスロポガースの前に立ちふさがった。 1 サの胸に突き立ったものを私は信じられぬ思いで見つめた。 それは柄の短く穂のひろいククアナ特有の投げ槍だった。それがリ大剣を振りかざして斬りかかった。ウムスロポガースは立ち止まり 1 サの胸にふかぶかと突き立ったのだ。彼女は大きくよろめくと拳もしなかった。″女族長″を横殴りに振るとルーファスの剣は半 銃を取り落とし、数歩あとずさった。おのれを襲った運命が信じらばから折られて吹っ飛んだ。次の一撃がルーファスの頭上真っ向う インコシャース

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二時間足らずのうちに出立の準備はととのった。 私達は狩猟服にライフルで武装し、腰にはサイドアームとしてコ ルト連発拳銃を吊していた。女王はキロットに似た上下服の上に なめし皮でつくった軽い鎧を着込んでいた。私達が初めて見る軽快 私達は、ルーの町から三マイルほどふつうの道を進んでソロモン な姿だった。 護衛の兵士たちはもちろん甲青姿である。火薬や食糧、水、かん街道に出ると、それをま 0 すぐ北へと進んでい 0 た。 たんな野営用の装備などを積んだ馬車が用意され、トム・アダムス再三述べているように、ソロモン街道は幅二十フィートもある立 派な古代の街道である。ある箇所は石畳となっており、またある箇 とリーサが並んで馭者台に乗った。 このちいさなキャラ・ ( ンが王宮の門から町をつらぬく大通りに出所はこまかい砕石を敷きつめてある。馬に引かれた戦車が通るにも ようとすると、タ。スが指揮する親衛隊五百騎ほどが、通りの左右適した道で、事実古代にはソ。モン王の戦車隊が通「ていたのかも に整列しているのが見えた。もちろん女王を見送るためで、これは知れない。 かち ククアナ人が″三人の魔女″と呼ぶ山々のふもとまでは、徒歩で 女王が出かけるときのナーガのしきたりなのだろう。 ししお三日の距離である。この前私達が訪れたときは徒歩だったのだが、 指揮官のタロスも、威儀を正してその先頭に立っている それはククアナ人が馬を持たなかったためだ。馬であれば、その半 くれたがタロスは千人長で、ナーガ軍の将軍に当たる地位にあり、 分の時間でいけるだろう。 ほかの五人の千人長とともに女王を補佐する役割にある。 女王はみずから先頭に立ち、駒を打たせながらタロスに近づくと街道へ出ると同時に、 " 三人の魔女。の姿がはっきりと見え始め た。それは独立した山ではなく三つの鋭角的な山がつらなる連峰 声をかけた。 なに、四、五で、もっとも高いまんなかの峰の高さは海抜二千フィートほどだろ 「タロスよ、あとのことはよろしく頼みましたぞ。 日留守にするだけじゃ。わが背の君と婚約の儀式を終えしだい戻「うか。山頂はいずれも真 0 白に雪をいただいており、ククアナ特有 て来ます。それからは婚礼式の準備じゃ。すべてのナーガ人にと 0 ての抜けるような青い空にそれらがそびえているさまはまことに美し 忘れられぬ日が来よう。そなたらは王をいただくことになるのじゃ」かった。 ソロモン街道はそのふもとの五マイル手前で終わっている。″沈 女王アイシャは結婚のあとカーティスと王座を分かち合うつもり でいるらしい。しかしナーガ人がそれを歓迎するとは私は信じられ黙の像。がそびえるダイヤ鉱山の入り口までは、ヒースが茂る斜面 ・ : そして事実上この山がクク なか 0 た。げんにいま、兵士たちは女王に熱狂的な歓呼の声を浴びを歩いてのぼらなければならない。 とこか無気味な沈黙を守「て馬を整列させたままアナ国の北の国境にな 0 ている。ククアナ人のだれもがそこから先 せることもなく、・ である。タロスも無言のままこうべをふかく垂れて一礼しただけだ った。しかし女王は意に介するふうもなく、駒を進ませ始めた。

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インフアドーズはにやりとした。 いるのか、すべてを楽しんでいるかのように皮肉な微笑を浮かべて 「わしはひとにぎりの勇猛な男たちとともに山に逃れた。ナーガ人いた。 ・ : わしら「どうやらそなたたちはこの蛮人どもと知り合いのようじゃな」 たちは大勢いたがわしらを見つけることは出来なんだ。・ はかれらを好きなとき、好きな場所で襲うことが出来た。ククアナ女王がいった。ウムスロポガースの魁偉な姿にはさすがに心を打 人はただのひとりになっても、決して侵略者との戦いをやめることたれたらしく驚嘆するかのように見上げた。 はないじやろう」 : よろしい。わたくし 「それにこの見るもすさまじい戦士とも。 インフアドーズはそのとき、私達の背後に立っ女王に気づいたらはしばらく邪魔しないでいよう。ゆっくりと再会をたのしむがよい」 しい。その目がぎらりと光った。 そういうと女王は優雅な足取りで天幕へと戻っていった。そこら 「そこにいるのはあの女ではないか ! 敵を率いて来た魔女じゃ。 じゅうにナーガ兵の死体が散乱していたのだが、目もくれず、すこ ここで出会うたのもご先祖のおみちびきじゃ。わが槍でつらぬいてしも動揺した様子もなかった。 : : : 冷淡というよりも、そもそも女 くれよう ! 」 王は生死というものに超越しているのであろう。自分を裏切った兵 叫ぶなり槍をしごいて突きかかりそうになるのを、私達はあわて士たちと思えばなおのこと悼む気持ちもなかったにちがいない。 てさえぎった。 いつぼう私達は、まだリーサのからだを抱いて悲嘆にくれている 「待ってくれ、インフアドーズ ! われわれにも長い物語があるのアダムスをのそいて、たき火の回りに集まった。アダムスはしばら だ。さまざまな因縁がこれにはあるのだ」 くそっとしておいてやったほうがいいだろう。人間の悲しみはただ 涙を流すことだけでだいぶ軽くなるものである。 私は叫んだ。 「説明するまで待ってくれ ! 」 国をほろばそうとした張本人が目の前にいるのだからインフアド 1 ズが激高したのも無理はない。だが不承不承槍を引いた。 その間、女王はといえばかすかな微笑をうかべて超然とした様子「わしの身に何が起こったか話そう」 で立っていた。私達とインフアドーズやウムスロポガースとの会話ウムスロポガースが話し始めた。 : だがそうせ はズール語でおこなわれていたのでーー・・前にもいったが、ククアナ「無断で野営地をはなれたことはわしの落ち度だ。 人はズール人と祖先を同じくするものと見られ、ことばも相互に多ざるを得ないような事情があったのだ。あの夜、わしが野営地の回 少の変形はあるものの共通しているのだーーー女王に理解出来たかどりを見回りに出かけると、ひそかにズール語で呼びかける声がし だいぶ変わってはいるがたしかにズール語だった。わしを呼ん うか分からない。しかしいずれにせよ、その表情は変わらなかった ろう。ククアナの戦士にはおのれを傷つけられないことを確信してでいるようだった。わしはその声に引かれて次第に野営地を離れて

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行った。するととっぜんやみのなかから悪魔のように飛びかか 0 て「イグノシ王が生きていることはあんたも知っているな。女王の話 ではあのダイヤ鉱山のどこかに幽閉されているらしい。われわれ ・ : それがこの男たちだ」 来た者たちがいた。 ウムスロポガースはたき火の回りに集まって来たククアナの戦士は、かれを救い出しにいくとちゅうだったのだ」 「おお、マクマザーン ! 星から来た勇者たちょ ! 」 たちを見回した。 インフアドーズは文字通り感涙にむせぶばかりになった。 「わしは力いつばい戦ったが、なにしろ多勢に無勢だったのでつい 「そなたたちが、かならず来てくれるものとわしは信じていたよ」 に組み伏せられてしまった。縛られるとこのインフアドーズのとこ 「 : : : わしは、あの娘のことが気にかかる」 ろへ連れて行かれたのだ」 ウムスロポガースがアダムスを見つめながらつぶやくようにいっ 「わしらはだいぶまえからあの一隊の跡を尾けていた。ナーガ人で こ 0 はない白人がいっしよなので、ふしぎに思ったのじゃ」 「わしは女は殺さない主義だ。女は殺すよりもかわいがったほうが インフアドーズが引き取った。 インコシャース わしを裏切った女房の首をこの″女族長″で切り落とした 「そのうち、わしらによく似た男がひとり交じっていることに気づ ・ : あの白人の娘はなぜ気が狂ったのだ ? 気が ことがあるがな。 : その男をとらえ、尋ねてみればすべてが分かると思っ つよいが、とても美しい小鳩だったが : : : 」 て、かれを捕らえるようはかったのじゃ。その男は砂漠のかなたに すむズールという種族の戦士で、わしらと血がつながっていること「すべて、おまえが野営地を去ったあとから始まったのだ、ウムス が分かった。わしらが置かれている立場を話すと、わしらにカ添えロポガース」 私はいった。 ・ : そしてその男の口から、マクマザー して戦うといってくれた。・ ン、あんたが戻って来てくれたことを知ったのじゃ。しかしあんた「ジャガ族のことはおまえも覚えているだろう ? やつらが野営地 ・、たはナーガ人とは敵対関係にはなく、かれらの女王に会いにルー を襲撃した。森のなかのやつらの本拠地にかれらを連れて行ったの の町へと出向いたことを知った。 ーサがいかにしてカー わしらはルーを攻めるほどの戦力はない。じゃが、そなたたちが私はそこで何が起こったかを説明した。リ ティスを憎むようになったかを : : : カーティスと女王とのかかわり かならずまたあのダイヤ鉱山に向かうと考えた。それで、このソロ も。そこから悲劇は始まったのだということを。 モン街道のかたわらで待ち構えていたのじゃ」 「だが自分を責めることはない、ウムスロポガース。す・ヘては運命 : 礼をいうぞ、イン 「そしてわれわれを危難から救ってくれた。 だ。おまえがいてもいなくても、同じことが起こったにちがいな フアドーズ」 : ・あの娘は、このような奥地に来るには神経が過敏すぎたの 私はククアナの老戦士の手をかたく握り、かれもまた握り返して ( 以下次号 ) 来た。 、、 0

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カーティスはいっこ。 その感覚で、彼女がヨーロツ・ ( に乗り込もうと考え始めることが いちばん私には恐ろしかったのだ。女王はふしぎな呪術を身につけ「あなただけのせいではない」 ふたりは寄り添うと私達に向き直った。私はそのたたずまいのみ ている。たくわえている知識もおそろしく神秘的でふかい。彼女が ・ : まさにふた いったんヨーロッパの支配者となろうと考えたら、それを阻める者ごとさに心のなかで嘆声を上げざるを得なかった。・ りは似合いのカツ。フルといえたろう。カーティスのたくましさ、男 はだれもいないかも知れないのだ。 「女王よ、ヨーロツ。 ( という世界はあなたには向いておりません : ・性美、そして女王アイシャの美しさ、たおやかさは、男女それぞれ が持っ美質を究極まで表現しているといえたのだ。 グッドもトム・アダムスも、そしてリーサまでその美に魅せら 私はいった。 「昔からたくさんの国々が争い、権謀術数を競いあって来た世界でれ、見詰めているようだった。 「それでは、やすみましよう。 : : : 明日は夜明けとともに出立じゃ」 この す。そのような血みどろな世界はあなたにはふさわしくない。 アフリカという神秘で素朴な世界こそ、シ・ ( の女王の末裔であるあ女王はいった。 「明日の午後には、われらは沈黙の像の下に立っていることじやろ なたにはふさわしいのです」 「マクマザーンよ、そなたのことばにはいつもふかい知恵のひびきう」 が感じられる」 女王は微笑した。 「わたくしのためを思っていてくれることも分かる。だがこれから のわたくしはつねにわが夫のためを思って行動せねばならぬのじ夜が更けるとともに、冷え込んで来た。ククアナはかなり高い高 原地帯なので、昼と夜の温度差がはげしいのである。 しん 女王はすでに天幕のおのれの臥床に引き取り、寝についているよ カーティスもどうやら感情がおさまったらしい。そのときゅっく ーサは馬車の下で毛皮にくるまって寝、われわれ男性はた りと戻って来た。女王は立ち上がるとカーティスを迎えた。 き火のかたわらでやはり毛皮にくるまって横になっていた。 「すまなんだ、アスタル」 護衛の兵士たちは、すこし離れた場所にふたつのたき火をたき、 女王はふたたびあのやさしい声でいった。 歩哨以外の者を残してやはり寝についているようだ。 「わたくしの心はそなたの前ではいまだに少女のように揺れうごい だが私は例によって眠れなかった。女王とカーティスは、これか ている。そのためついそなたの気持をないがしろにしてしもうた。 それを考え出すと目が らどんな運命をたどることになるのか ? : ・ : ・ : じゃが、これからは気をつけましよう」 冴え、眠るどころではなくなっていた。ふたりが単純に幸福になる 「私もおとなげなかったようだ」 8

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? この求愛はルーファスのほう また、こころをひるがえしたのか からおこなわれたのか ? それとも・ : 私は胸さわぎを覚えた。たとえリーサがアダムスからルーファス に心を移したとしても、他人が口をはさむ筋合ではない。しかし彼翌朝の朝はやく、私達は女王に呼ばれた。女王の居室に入「て行 女の本性がこのように多情な女であ「たとはとても考えられないのくと、めずらしく黒衣をまと 0 た女王に迎えられた。、 「いよいよ出立のときが参りました : : : 」 だ。どこか不自然なにおいがする。アダムスはこのことを知ってい 女王はひどく疲れているようであり、やつれのあまり妻艶といっ るのか ? い 0 ぼうルーファスのほうにも問題はある。女王が臣下の規律にてもいい表情にな 0 ていたが、それでもやさしい笑顔をカーティス に向けていった。 はきびしい支配者であることは疑いない。おのれ自身の恋はべっと 「月も満ち、大地にひそむものの気息もととのいましたゆえにな。・ して、臣下の将校が異国の女との情事にうつつを抜かすことなど、 許すはずはないと思われる。かれらがこのような夜更けに人目しのわれらの結婚の準備をなすべきときが来たのですそして、マクマ んで会っているということが、その証拠であろう。女王がこの数日ザーン、ポーグワンよ」 、部屋に閉じこも「ていたので、そのようなことが可能だったと女王はククアナ人が私達につけた名を呼び、ほほえみかけた。 「そなたたちへの約東も果たすときが来ました。あの蛮人の王にも も思われる。 会わせてあげようし、ダイヤ鉱山へも案内して進ぜましよう。これ ーサが長身のもすべてわれらが結婚をことほぐためです」 私が見守るうちにふたりはふたたび抱きあった。リ ・ : そ私は女王の奇妙なおだやかさが気にかかった。女王はいつものあ ルーファスの首を引き寄せるようにしてはげしく接吻した。 の瞬間、私はさと「た。この恋をしかけたのはリーサだ。どのようの威厳、峻烈さをす「かり忘れてしま 0 たかに見える。幸福なのは な思惑があるのかは知らないが、彼女がナーガ人の士官を誘惑した分かるが、彼女を彼女たらしめていたあの活気が、女らしい優しさ : この五日間の にすっかり置き換えられてしまったようなのだ。・ ことは間違いないだろう。 いったいどんなものだったのだろうか ? 私はひっそりときびすを返した。たとえどのような仲であれ、ふ行とは、 たりには邪魔されぬ権利があると思えたからだ。恋というものはし「ルーファスと二十人程の者を供に通れて行きます。そなたたちも よせん不条理なものだ。この老いぼれの狩人の理解を絶していると支度するがよい」 いえたかも知れないからだ。 支度といっても、べつだんたいしたことはない。アスカリたちと 9 アラビア人たち、そしてカファー老人もガトリング銃とその装備と

10. SFマガジン 1985年11月号

とになって湧くものである。 へは行ったことがないのだ。 兵士たちはまきを集めて来て火を起こし、食事の支度を始めた。 ・ : 出発してから二時間後、右手にあの馬蹄形の丘が見え始め ・ヒルと呼ぶようになといってもかんたんなもので、新鮮な果物、チーズ、あぶった干し た。私達はそれをその形の通りホースシュー っていた。街道からは一マイル足らずの距離で、そのいただきから肉といったところがおもなメ = 、ーである。 熱帯の落日は早い。日が落ちかかったとみるまに闇が世界をつつ は街道を通る人間が見えるはずだ。 アスカリたちはいま私達を見守っているかも知れない。十日間とんだ。原始のアフリカの濃い闇だった。 いうのはそう長い時間ではないとはいえ、ただ私達を待ちつづける女王はひとりで天幕に引きこもろうとはせず、たき火のかたわら のはかれらにとって大いなる不安であり、苦痛だろう。だがかれらに毛皮を敷かせると、そこに坐って、私達とともに食事をとった。 に堪えてもらうほかはない。かれらはいったん変事が起こったときその食事はきわめて質素なもので、わずかな果物とチーズが銀の盆 に盛られてその前に置かれただけだった。 の私達の唯一の希望なのだから。 トム・アダムスにとっては女王を間近かに見る初めての機会であ さらに三時間ほど進み、日が暮れて来たので、街道のかたわらの る。さすがにその美貌に心を打たれたらしく、目を離せない様子だ ちいさな丘のふもとで野営することになった。 ーサをもし愛していなかったら、女王の虜になってしまっ ルーファスたち護衛の兵士が、女王のためにかんたんな天幕を張った。リ ーサはあのびややかな目を向 たかも知れない。そのアダムスに、リ り、野営の準備をした。私達はたき火をかこんでゴロ寝することに 、。、まよククアナは雨季でけていた。 なろう。リ ーサは馬車の下で寝れまよ はないので、雨の心配は要らなかった。 ルーファスとリーサといえば、私はふたりが今朝出かける前に顔「 : : : ポーグワンよ。そなたにいちど尋ねたいと思っていたのだが を会わせたとき、その表情にひそかに注目していた。しかしかれら はみごとに感情を殺していた。目配せひとっせず、まったく素知ら つましいその夕食があらかた済んだとき、女王がいった。 あのよう ぬふりをしていたのだ。だがむしろそのことが、私の疑心暗鬼をそ「そなた、なぜそのようにダイヤを欲しがるのじゃ ? : : : そった。・ ーサがなにかもくろんでいるのではないかという疑なものは大地が気まぐれに作り出した石のかけらにすぎぬ。ただ硬 くて、みがけば光るというのが取り柄じゃが : : : 。身をかざるには いがいっそうつよくなったのだ。だがべつだん証拠があるわけでは ちょうどいい。じゃがそれ以上の取り柄はないように思うが」 ないので、正面切って迫るわけにもいかなかったのだ。 だが私は思い切ってそうすべきだったのだ。あとになって起こっ 「ですが、文明社会では大いなる富の象徴なのです」 たことを考えると、後悔に胸を締めつけられる。あたら何人もの人グッドは答えた。 死にを出すことはなかったろう。 : だが人間の知恵とはいつもあ「もし、ソロモン王の宝庫にあるダイヤをすべて英国に持ち込んだ ー 02