ジャン - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1985年11月号
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1. SFマガジン 1985年11月号

プルカスは、手にもっていたコロ入れを下においた。 と・フルカス。 「ジャン、奥の右から三番目の棚にある、ドライドンを象嵌したコ 「トロヤか。カンか」 ロ人れをもってこい」 「カンで」 低く命じた。 と女。 人々は、もう、ざわめくどころか、しわぶきひとっせず、じっ 「よかろう」 と。フルカス。 と、息を殺して勝負の成行きを見守っている。 客は、ごくりと唾をのむ。 ブルカスがこのように、緊張したおももちをみせるのは、珍しい ことであった。 「では、ものは」 とはいえ、まだ、彼はうす笑いをくちびるにうかべるだけのゆと「これを」 りはあった。 女は目のまえのうずたかい張り札を、半分にわけて、ひとつの山 「よし、それだ」 を前へ出した。カンでは二回目が倍になるから、さいしょの一回に うけとって、シ、ツ、シッとふってみて、具合をたしかめる。敗けたときのために少くとも半分のこしておかなくてはならぬの それから女と同じように一つづつ、サイコロをそこにおとした。 そして、黙ってそれを台の上におしやると、女も同じようにし「おい」 ・フルカスがあごをしやくって、張り師に札をもってこさせ、同じ 二人は同時に、あいてのコロ入れを手にとった。中から、ゆっく額だけつみあげた。 りと四つのサイコロをふり出し、容器の内、外、上、下とあらた「では、ヤススの誓いを」 め、いかさまの仕掛けのないことを確認した。 ジャンが云った。二人は無感動に、決まりのとおり、三つの賭場 「よかろう」 の誓いをとなえた。 。フルカスがしし 女もうなづく。胴師のジャン が、二人のコロ入 いよいよ、はじまりである。 れを、二人の台のまん中でうやうやしくとりかえた。 ・フルカスと、ヨウイスの女は、サイコロ入れをとり、同時に一つ 「ゲームは ? 」 づっサイをふり出した。 ジャンが字型のテーブルの、・フルカスの側のまん中に立って、 「ダゴンの三」 定めどおりたずねた。 「ルアーの六」 「先振りはこちら」 「戻りなし、十二回。よかろう」 ジャンが告げた。・フルカスが先振りであった。 4

2. SFマガジン 1985年11月号

こ 0 ら、相当に苦労してカ・ハーをはぎとると、ぶつぶつののしりながら 「もう一マイルだけ近づけさせろ , ーー引き寄せてヘルマウスの餌食膝を使ってじわじわとうしろ向きに這いもどった。 〈先人〉たちはすでにわずかに進軍速度を落としており、主力は半 にしてくれる ! ジャン・ハ マイル先にまで迫っていた。 「これに」 「こい、 ヘルマウス活躍のときぞ ! 」卿はジャ・ ( ートをしたがえて「いまだ ! 」ファイド卿が興奮しきった声で言った。「やつらが散 るまえに皆殺しにするのだ ! 」内部の曇りと汚れで見えにくい望遠 前庭をあとにし、キューボラに登った。 管を覗きこみジャン・ハートに最終的調整を指示する。 「ヘルマウスを動かせ。蛮族どもに向けろ ! 」 「いまだ ! てえっ ! 」 ーにとびつい ジャン・ハートは油でぎとぎとに輝くハンドルとレバ トが発射レ。ハーを引いた。巨大な金属の筒のなかか た。ちょっとためらってから、試すようにハンドルをまわす。ヘル マウスはハンドルの動きに合わせ、ゆっくりと回転レールの上を動ら、。 ( チ。 ( チという音がしはじめた。ヘルマウスはうなり、咆哮し きはじめた。長いあいだ使われずにいたペアリングがうめき、きした。その鼻づらが赤熱し、オレンジ色になり、さらに白くなって、 が、それはたち だしぬけに目もくらむ紫の業火が吐き出された んだ。ファイド卿の眉が吊りあがり、険のある表情を作り出した。 まちゃんだ。ヘルマウスの砲身は高熱でわななき、蒸気をあげ、苦 「いやな音がするではないか」 「そんな、とんでもありません ! 一箇所でも錆があれば、少しでしみ、悲鳴をあげた。内部でかすかにポンという音が響いた。それ から、静寂が訪れた。 も汚れがついていれば、鞭打ってくださってもけっこうです ! 」 「では、その音はなんだ ? 」 業火は〈先人〉の集団の百ャード前に命中し、一帯の苔を黒焦げ 「これは内部的な目に見えないものでーーわたしの責任ではありまにしていた。照準装置が不正確だったのだ。ヘルマウスの業火が殺 せん」 したのは、〈先人〉の尖兵二十名ほどだろう。 ファイド卿はなにも言わなかった。いまやヘルマウスは原生林か ファイド卿はものぐるおしく合図を送った。「急げ ! 砲身をあ げろ ! いまだ ! もういちど撃て ! 」 ら溢れ出してくる青白い洪水にびたりとすえられていた。ジャイハ 1 トがふたつめのハンドルをまわすと、ヘルマウスはその重々しい ートはふたたび発射レ・ハーを引いたが、なにも起こらな かった。もういちどやってみたが、やはりなにも起こらない。「へ 鼻づらを突き出した。ファイド卿が怒りに震える声で怒鳴った。 ルマウスは疲れているようです」 「カ・ハーを忘れているではないか、このばかもの ! 」 「ちょっとした見落としですよ、すぐにはずします」下には天蓋が 「ヘルマウスは死んだのだっ」ファイド卿はわめいた。「余を失望 ゆるやかにつづいているというのに、ジャン・ハートはこわごわと突させおって。ヘルマウスはもうおしまいだ」 起につかまりながら、ヘルマウスの上を這いずっていた。それか「ちがいます、ちがいます。ヘルマウスは休んでいるだけです ! 2 引

3. SFマガジン 1985年11月号

・フルカスとサイス、ジャンたちは、ちろりとおかしそうな目を見第十一ゲーム。 かわした。 ・フルカスは、ヤススの五。 もともと、ヨウイスの女とあるからには、どうでもぶじにここを女は、ヤヌスの四。 出そうものではないのた。クムの娼婦と同じ金で売買される、ヨウ きわどいところであったが、・ フルカスの勝ちであった。 イスの女なのである。 いまや、 いくぶん、人々は、失望ともっかぬざわめきをもらして ただ、どうせ、漁色家のカンドス伯ならそういうであろうとい う、内心のもくろみが、まんまと図に当ったのだった。 どうやら運は、ヨウイスの女のほうを、見放したとみえる。 「では、伯爵さま」 「さいごのゲーム。戻りなし、かけ金、カン」 「これを、札にかえて、その女にやるがいい」 ジャンが云った。 カンドス伯は、皮袋を、サイスに投げた。 ・フルカスは、もう半ば自分の圧勝を確信していた。ごく無造作 女は、ていねいに、頭を下げたきり、 いかにもョウイスの民らしに、叩きつけてサイをふった。 く、何も云わぬ。 ルアーの六。カシスの四。カシスの四。イグレックの五。 そのとき、女のストールが少しずれて、のどもとにさげたかざり「 ドールの十九。ャススの四」 がちかりときらめいたのも、色つぼかった。 ・フルカスが、にやりと笑った。 「存分にかけるがいい」 分厚い舌が、ちろりとあらわれて、貪欲そうに、くちびるをなめ カンドス伯は、のどにからんだような声でいう。 「ちゃんとこのわしが、うしろだてに、立ってやるからな」 女は、黙って、サイコロをふり、またしても、小さな尖塔を、黒 女はまた、頭を下げる。 びろうどの上にたてた。 「つづけろ」 「ルアーの六 「は」 ジャンが読んだ。 ・フルカスはにんまりと笑った。すでに、何もかもが、思いもかけ「ルアーの六。ルアーの六。ルアーの : : : 」 ぬ「イグレックの幸運」の様相を呈してきたことに、すっかりほく ぐっ、と誰かののどが音を立てた ! そえんでいるようすである。 おおあたり 第十ゲームであった。 「ヤヌスの二十四、ルアーの総並びだ。《ャヌスの手》だ。私の勝 ブルカスは、「ヤススの総手」 ちだな」 女は、ヤススの二、ひとつで敗け。 ョウイスの女は、無感動に云い、賭場をゆるがすようなものすご に 8

4. SFマガジン 1985年11月号

( イン・フスの水晶のように澄んだ瞳が、ファイド卿の煌めく黒 らふく食わせておけ。全兵力が必要になる」 ( イン・フスに向きなおり、「各地の城と荘園に伝達、わが一族い瞳と会 0 た。「わしは殿が知っておられることーー〈先人〉が攻 9 2 郎党は全軍を率き連れ、手持ちの鎧を残らず装着のうえ馳せ参じる撃してくるということしか知りません。彼らは自分たちが愚かでは 、キないことを証明しました。そしてわれわれを殺すつもりです。彼ら よう命じよ。ベルガード・ホール、ポグホーテン、キャン・ハ ャンデルウ = イドにもだ。大急ぎでくるようせきたてろ、原生林かは咒法師ではありません。われわれを咒力で苦しめ、城外に追いた らここまでは数時間しかかからぬ」 てることはできません。城壁を打ち破ることもできません。地下か フスは片手をあげた。「すでに手配ずみです。城々には警告を与ら入ろうとしても、固い岩石のなかを掘り進まねばなりません。で えました。御意はみな承知しております」 は彼らはなにを考えているのか ? わかりません。彼らは成功する 「で、〈先人〉どもはーーやつらの心が感じられるか ? 」 のカ ? これまたわかりません。ですが、咒法師とそのきちんと整 備された知識の時代はもはや終わりを告げました。これからのわれ ファイド卿は歩み去った。ハイン・フスは巨体をゆるがせて正門 われは、手探りで、愚かな真似をしながら、奇跡を働くために模索 サラザールが泡にいろいろな液体を注 から外に出ると、城のまわりをひとまわりし、窓がなく、古代の奇しなければなりますまい 跡の兵器でさえ打ち破れない、ずんぐりした塔の黒壁を見あげ、賞 いだように」 賛の念を覚えた。遙か高く大天蓋のてつべんでは、兵器番のジャン鎧を着こんだ騎士の一団が城門から駆けこんできた。ベルガード トがキューボラのなかで作業し、すでにびかびかに磨きあげら ・ホールからの戦士団だ。時がたつにつれ、ほかの城々からの増援 れた砲身に磨きをかけ、グリースでべっとりの表面にさらにグリー 部隊がつぎつぎにファイド城に駆けつけ、やがて前庭は人馬で立錐 スを塗っている。 の余地もなくなった。 ハイン・フスは城内にもどった。ファイド卿が口を引き結び、目 日没二時間前、〈先人〉たちが見わたすかぎり平原いつばいに広 を光らせて近づいてきた。「なにを見ていた ? 」 がって姿を現わした。とてつもない大集団のようだ。規律のない塊 「城、壁、塔、天蓋、そしてヘルマウスを」 となって近づいてくる集団の前後には、落伍する者、先走る者、集 「で、なにを考えた ? 」 団から離れてさまよう者などがおおぜいいた 「いろいろなことを」 よその城からきた血気盛んな者たちは、ファイド卿のもとへ集 「ええい、のらりくらりと。そなたはロに出して言う以上のことを 打って出て〈先人〉どもを蹴ちらそうと口々に騒ぎたてた。 知っておるのだろうが。言ってしまったほうがよいぞ。ファイド城が、そこで彼らは、植林地帯の戦いを経験したファイドの勇者たち が蛮族の前に陥落すれば、そなたもほかの者たちと同じく死ぬのだのなかにひとりも賛成する者が出ないことに気づいた。もっともフ からな」 アイド卿は、〈先人〉が緊密な塊となっているのを見て喜んでい

5. SFマガジン 1985年11月号

、こ。貴族たちの頭上たかく飛ぶアジャンには岩や に彩色したものであることに気づナ 植物、擬装したついたてなどで仕切られたいくつもの箱庭を見わたすことができた。 やがて、アジャンは木の葉のかげにほとんどかくれた建物から大きくはりだしたテ 並の鳥の倍以上で売れる。 アジャンは操縦桿をひざで固定し、両手で微妙なフック操作をする。フックは鳥の 首をつかんで主人から引き離す。ほとんど抵抗しない貴族の女から離れ、鳥を吊った 飛行機は出口を求めて速度をあげる。 クリスタルバレス 水晶宮を脱出したアジャンは、心ゆくまで飛行を楽しんだ。

6. SFマガジン 1985年11月号

こ 0 , 〃い立 : 既 アジャンは拡散する クリスタル 空気にさからい、水晶 。ハレス 宮の内部へ侵入する。 雲母の細片が機体を うつ音はすぐにゃんだ。 アジャンはふせていた 顔をあげるとあたりを 見まわした。自然のま 堺トト・第 - まなら、四方に気まま に枝をめぐらすはずの 木々が、単純なフォル ムに整えられていたる ところに植、んられてい 積乱雲のようだ、と アジャンは思い 、気流 の乱れを連想して身を こわばらせた。しかし クリスタルバレス 実際の水晶宮の内部は、 頼りなく感じるほど安 定していて、操縦装置 に負荷はかからなかっ た。アジャンがあけた 7 穴は、幾枚もの巨大な 、をヴェールによってすで にふさかれていた。な - を . るほど、静かなわけだ、

7. SFマガジン 1985年11月号

前にもご説明したとおり、これは非常に難しい仕事なのです。予備判断したものか決めかねたように立ちつくした。 、やつが成功したのかどうかわからなくなった」 段階のうちは、コマンドアはうまくやっておるようで」 「ああ、それならわかっておりますよ」と ( イン・フス。 「″予備段階″だと ? この先になにが残っていると言うのだ ? 」 「なんだと ? どういうこと ファイド卿はくるりとふり向いた。 「咒いをかけるうえでもっとも重要なふたつの要素が。咒いをかけ られる者の感受性と、咒いのシンポルの適切さです」 「コマンドアの心を覗いたのです。彼はシンポルに紫の泡を用いま ファイド卿は顔をしかめた。「あまり楽観はしておらぬようだな」 「わしにはなんとも。イザーク・コマンドアの仮定は正しいのかもした。そして、すさまじいほどの力をふりしぼってそれを〈先人〉 たちの心に送りこみました。そこで彼は知ったのです。紫の泡が意 しれません。もしそうなら、そして〈先人〉の感受性が高ければ、 味するものは死ではなくーーー共同社会の安全を脅かすものに対する 今日ここに一大偉業がなしとげられ、コマンドアはとてつもない咒 恐怖であり、すさまじい怒りであることを」 力を得るでしよう ! 」 「どちらにしても」ややあってファイド卿は言った。「やつらには ファイド卿は咒法室のドアを見つめた。「いまはどうだ ? 」 なんの危害もおよんだわけではない。よもや〈先人〉どもがいま以 ハイン・フスの目が虚ろになった。「イ 精神を凝らすとともに、 ザーク・コマンドアは瀕死の状態です。今日はこれ以上咒いをかけ上に敵意を燃やすことはあるまい」 三時間後、一騎の斥候があわただしく前庭に駆けこんでくると、」 られますまい」 ファイド卿はくるりとふりかえり、祈祷師に手をふった。「咒法血相を変えて馬からとびおり、ファイド卿のもとへ駆けこんだ。 ものすごい数です ! 何千とい 「〈先八〉どもが森を出ました ! 室に入れ ! おまえたちの主入に手を貸すのだ ! 」 ファイド城に向かって押し寄せてまいります ! 」 祈祷師たちはドアに駆け寄り、勢いよく開いた。まもなく彼らまナー 「くるならきてみろ ! 」ファイド卿は叫んだ。「多ければ多いほど は、ぐったりとなり、黒いロー・フを紫の泡だらけにしたイザーク・ ート、どこだ ? 」 コマンドアを抱えて姿を現わした。ファイド卿は彼のもとへ詰め寄都合がよいわ ! ジャン・ハ 「ここでございます」 った。「成果はあが . ったのか ? 言え ! 」 「ヘルマウス用意 ! ただちに撃てるよう準備せい ! 」 イザーク・コマンドアの目はなかば閉じられ、ロはだらりとあい てよだれをたらしていた。「わたくしは〈先人〉に、彼らの種族全「ヘルマウスはいつでも使えます ! 」 トの肩をどやしつけた。「いいから行 ファイド卿はジャン・ハ 体に話しかけました。彼らの心にシンポルを送りこみ , 。ーー」頭がが くりと横へ倒れた。 ファイド軍の徒士頭が進み出た。「おん前に」 ファイド卿はあとずさった。「部屋に連れていけ。カウチにでも 寝かせておくがいい」彼らに背を向け、下唇を物みしめながらどう「〈先人〉が襲ってくる。部下に対オオ・ ( チ用の鎧をつけさせ、た 「これでしばら 249

8. SFマガジン 1985年11月号

の名を譲ったうえで、そなたとともに平原の小屋にでも隠遁するを塗り、びかびかに磨きあげ、愛情こめていたわっておりますから どこもかしこも卵のようにつるつるでございます」 ファイド卿はこわい顔でヘルマウスを見まわした。本体は直径六 ハイン・フスは重々しく宿命を暗示するしぐさをすると、出てい っこ。 のがっしりした筒で、そこからいくっ フィート、長さ十二フィート か四分球のようなこぶがとびだし、それぞれが磨きあげられた銅の 管で連結されている。まぎれもなく、ジャン・ハートは献身的に手入 とこを れをしていると見えた。錆や汚れは一箇所も見あたらない。・ 二日後、ファイド卿はイザーク・コマンドアのもとを訪れて、進見ても金属は磨かれてびかびかだ。砲口にはがっしりした金属の。フ 捗状況を訊ねた。コマンドアは概略だけを話して言いのがれた。そレートとタールを塗ったカン・ハスのカ・ハーがかけられている。砲を の二日後、ファイド卿はふたたび顔を見せ、今度はこまかいことま回転させるための金属管にもよく油が差されている。 で話せと迫った。コマンドアは不承不承自分の咒法室に案内した。 ファイド卿は四方を見わたした。南には肥沃なファイド渓谷、西 そこでは十人ほどの祈祷師、修祓師、見習い士が大きなテープルをには広大な平原、北と東には禍々しさを秘めて広がる大原生林。 とりまいて作業しており、原生林の〈先人〉の集落の大がかりな模卿はヘルマウスに向きなおり、油のしみを見つけたふりをした。 型を造っていた。 ートは絶対にそんなはずはないとあわてふためいて抗議し 「その湖の岸辺ぞいには」とコマンドアが説明して、「〈先人〉のた。ファイド卿は陰気な顔で警告を与え、これでますます身をいれ 体の一部を塗りこめた相当数の人形をならべます。それが完了したて手入れするだろうと心中ほくそえみながら、ハイン・フスの咒法 ら、 いよいよやつらに咒いをかけ、不幸を送りこむ番でございま室に降りていった。 部屋に入ると、咒法師長はカウチに寝そべり、天井を見あげてい 「よし。うまくやるのだそ」ファイド卿は咒法室をあとにし、城のた。咒法台のそばには、瓶や皿に囲まれてサム・サラザールが立っ 頂上にある尖塔に登って、古代兵器ヘルマウ、スが設置されているキていた。 ューボラに出た。「ジャン・ハ ファイド卿は眉をひそめてそのちらかりようを見つめ、「いった どこだ ? 」 いなにをしているのだ ? 」と見習い士に詰問した。 短驅で髭剃りあとが青く、赤い鼻をして腹の突き出た兵器番のジ トが顔を出した。「これは、ファイドの殿さま」 サム・サラザールはうしろめたそうに顔をあげた。「とくになに をしているわけでもありません」 「ヘルマウスを見にきた。いますぐ使えるよう整備できているか 「遊ぶ暇があるのなら、イザーク・コマンドアを手伝いにいけ」 「もちろんでございます、いつでも使えます。油を差し、グリース「遊んでいるわけではないんです、城主さま」 0 246

9. SFマガジン 1985年11月号

を ! イ 名のった貴族たちの子孫だった。彼らはたいくっしていた アジャンの侵入を見つめ る目に、それがはっきりとうかがえた。破壊や攻撃は彼らを悩ませる力を持っていな かった。 アジャンは貴族の態度にいらだっ。彼らの見世物にされながらも、彼らとの関わり を断っことのできない自分が不快であった。 クリスタルバレス 突然、風景がかわった。水晶宮の内部の広大な空問は、貴族たちの好みに応じたさ まざまな様相を見せる。 稍をかすめるように林をとびこえたアジャンの目前に樹木の壁が出現した。機首を あげ、青の染料で煮つめたような空へ舞いあがる。そのとき、彼は空が、雲母の天井

10. SFマガジン 1985年11月号

「コロを、振れるのかね」 ていた。 しつこく、彼はいった。本来ならば、ここまでたしかめるのはい コロふりの・フルカスの浅黒い顔は、土色にあおざめていた。 かにも無礼であったが、誰も口をはさまなかった。女も黙ってうな 「戻り第三ゲーム」 づいただけである。 ジャンのふるえる声。 「コロ入れは、あるのか」 「張り方、ないか」 女は首を横にふった。 「ドールの総並び」 ずい、と女の手が、うずたかい山の半分をおす。 「こちらをつかうか」 すっと、奥の客が、椅子をひいて立った。もう、かけきれぬ、と女はうなづく。 の表明であった。 、フルカスは、あごをしやくった。 「受け方、ないか」 あとは。フロの張り師しかいない。 胴師が胴元のところへとんでいって、平たい箱をうけとって帰っ と、みたとき。 てきた。ふたをあけると、そこにはずらりと、さまざまな色や模様 のコロ入れがおさめられていた。 ョウイスの女は片手をあげ、中指で、こっこっと台を打った。 ・フルカスは、その箱をずいとおしやる。 「対張りを受けるか」 ョウイスの女のしなやかな指さきが、つつつ、とそのコロ入れの くぐもった声が云ったせつな、どっと人々はどよめいた。 ・フルカスはとびあがった。はじめから、この女がっきまくりはじ上をなで、一「三回ゆきっ戻りつし、中の一つをとりあげた。 しいいたいくらいのしぐさで、細長い、黒び 胴師がうやうやし、と めたときから、そうしたくて、たまらなかったのだ。たかがふり のしかも女客一人に、こんなにかせがせた、とあっては、この賭場ろうど張りの入物から、卓の上へ四つのサイコロをころがした。 女は、すばやく、それをひろった。一つ一つ、たしかめるように の看板コロふりの、黒のプルカスの名にかかわるのだ。 「対張り、受けたツ」 かるくふって、サイコロ入れの中におさめる。 彼はわめいた。 ・フルカスは目を細めた。彼とても、東チチア一とよばれるコロ振 「代振りは」 りであった。その手つきをみれば、あいてがどのていどの腕か、す 女が首をふる。 ぐわかるのだ。 「お客人がふるのか」 真にすぐれたコロ師は、コロ入れの中のサイコロをふりかた一つ こくりと女がうなづいた。 で、自分の思った目を出すことさえできる、といわれるのがドライ ・フルカスは、うたがわしけなまなざしで、じろじろと女をみた。 ドン賭博である。