フルカス - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1985年11月号
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1. SFマガジン 1985年11月号

人々はかすかにざわめいて、前へすすみ出ようとひしめきあっさに見さだめ、敗けを悟ってわざとふり直す場合もある。それを見 きわめるのも、胴師の役である。 「ヤヌスの二、ヤーンの一、ヤヌスの二、イグレックの五」 ジャンがよみあげた。 「ヤヌスの十、ヤススの二」 一瞬のたゆたいのあと、しずかにころげおちたサイコロを、・フル いまや、人々は、自分のかけのことなど、すっかり忘れていた。 黒の・フルカスが、対張りをする、というだけでも、けっこうな見カスはすかさず手もとにひきよせた。わるい手ではない。 つぎは、ヨウイスの女であった。 ものであるのに、あいては珍しい、ヨウイスの民の女のコロ振りだ と、 いうのである。 流れるような、しなやかな手さばきで、女はサイコロの、小さな 中にはこっそりと、・フルカスか、女か、にかけあっているものも塔をつくった。 ドールの 「カシスの四、カシスの四、カシスの四、ヤーンの一 ョウイスの民は、神秘な力をもっていると信じられている。家業十三。ダゴンの四並び」 もまじない、占いをするものが多い。 わっと人々がどよめく。プルカスは、黙って札をおしやり、再 それだけに、ヨウイスの民の女が、どのていどのコロ振りの腕でび、札をもってこさせた。 こんどは、賭け金はいまの倍である。 あるかはわからなくとも、黒のプルカスをあいてに、なかなかよい 勝負をするのではないか、と期待されるのだ。 女は、さっきの分に、・フルカスからとった札をあわせておし出し ・フルカスは、まわりのざわめきや期待など、まったく耳にも入らた。 ぬていで、まっすぐ、コロ入れだけを見つめながら、しずかにコロ ・フルカスがふった。 入れをとりあげた。 「ヤーンの一、ヤーンの一、カシスの四、カシスの四」 決まりどおり、左右にふるなり、 わっと、人々がさわいだ。 「やツ」 「ヤヌスの十。ャーンとカシスの二組役」 気合もろとも、テー・フルに叩きつけ、そのまま少しじっとしてい ・フルカスのロもとが、ごくごくかすかにほころんだ。 て、すっと上へもちあげた。 ョウイスの女は、完全な無反応でコロ入れをとりあげる。 このとき、サイコロの塔がくずれてしまったら、二度まで、ふり カラカラ、という小さな亠日。。ヒシッというするどい音、そして静 直しができるが、それでも倒れる場合、こちらの失格になる。 むろん、・フロのコロ師は、決して倒したりせぬ。もっとも、とっ 「ヤーンの一、ヤススの二、ダゴンの三、カシスの四」 こ 0 寂。 6

2. SFマガジン 1985年11月号

人の不良少年に見とれていた。 が、太い腕が、つとのびてきてそれをさえぎった。 「ふざけるんじゃーねえや : : : 」 海坊主のサムであった。 イシュトヴァ 1 ンはいっそう調子にのって、虹のような気炎をふその小さな、陰気な目が、陰火のような光をうかべて、チロチロ きあげた。 と、イシュトヴァーンを見つめていた。何か、いかにも、思いあた 「もしもおいらがほんもののヨウイスの女だったらよ、ど助平のえ ったかたくらみがあるか、そういう暗い目つきであった。 らいさんとグルになって、かどわかして売りとばすつもりでいやが「、ツ、 ′てえことで、今日はだいぶん、面白くあそばしてもらった ったくせによーーー対で、まっとうにサイ改めも誓いもやって、張っよ、サイスのおとつつあん」 た勝負にサイスの賭場じゃ、こういうケチくせえまねをしやがるん イシュトヴァーンは身をかがめ、ヨウイスの女の衣装をかきあっ だと、チチアじゅうにふれてまわってやろうかい、ええ ? ししカめて、ストールでひとつつみにすると小わきにかかえた。 ら、耳をそろえて十万ラン、よこしやがれ、こいつは、黒の。フルカ 「明日また、十万ラン、うけとりにくらあ。証人にツ = ペシ親分 に一緒にきてもらってな。びた一文、まからんから、そのつもりで スと、ヴェントのイシュトヴァーンさまの、公正無比の一本勝負 よ。他の奴につべこぺいわれるすじはねえ。 いっとくが、妙な気を用意しとけよ。おい、・フルカスさん、悪かったな。あいつが、片目 おこしたってムダだそ。おめえらのうしろにや、何様がおっき遊ばのコルドの必殺わざ『ャヌス廻し』というのさ、拝めただけでも、 して、しろうとをだましていいようにまきあげるのを公認してるかありがてえと思ってくれ。こんどはうちの方へもいっぺん、客であ 知らねえが、おれだって、。ヒットの賭場じゃちったあ知られたイシそびにきてくれよ」 = トヴァーンだ。今夜、あす、あさってにでもおいらに何かあろう 云いすてて、さえぎるものもない人垣のまん中を、得意満面で歩 ものなら、チチアじゅうのやつらがサイスの賭場に暴動おこしておき出した。 さあっと、人々が二つにわれる。 しよせるぜ , ーー・第一、おれのうしろだてにや、オルニウス号のカメ ロン船長がついてるんだからな。つまんねえ、けちな了簡おこさずそのイシ , トヴァ 1 ンの背に、サイスのしわがれた声がかけられ こ 0 と、とっとと十万ラン、調達しにかけて行きやがれ、明日の晩、ル アーの日没の鐘が鳴るまでだけ、イシ = トさまのお情で待ってやら「覚えときなよ、お若いの。コレド・、 ノカ《五つ目》ドビスに勝って、 あ。 ( ツ、どいつもこいつも図体ばかりでかくなりやがって、脳みよく朝どうなってたかをな。髪も切らねえうちから、あまり頑張ら その方は、ノスフ = ラスのセム族みてえに小せえときてやがら。ばねえ方が、チチアじや長生きするんだよ」 かが : : : 」 「ありがとよ、とつつあん。その忠告に免じて百ラン、まけてやら 云いたいほうだいの雑言に、顔色をかえて、・フルカスが、とび出あな」 そうとする。 ふりかえって、片目をつぶってイシュトヴァーンは云った。そし 2

3. SFマガジン 1985年11月号

んだ」 女は、黙って立って胸元を待っている。 ジャンが、・フルカスのかたわらへよって、何かひそびそとささや「 : いていた。 女は、黙っている。 両手をだらりとさげ、なすすべもなく、立ちつくしていた黒の・フ「どこのヨウイスの民の流れだい。ええ へるもんじゃなし、名 ルカスのロがあんぐりとあき、それからばくばくとうごいた。 前くらい、名のったっていいだろうが。それとも、 その目がぎらぎらと光り出す。何か、ぶっそうな、たちのよくな舌が、あついくちびるをなめた。 「何か、名のれねえわけでもあるのかい い光があらわれはじめていた。 人々のざわめきの中で、しずかにストールにすつ。ほりくるまって ブルカスの太い指が、ヨウイスの女の、ひとにぎりにできるよう 立っている女を、・フルカスは、じっとみた。 なすんなりした手首をぐっと握った。 それから、意を決して、ぐいぐいと人々をかきわけた。 ぐいと、うしろへねじあげようとする。 はじめ気づかなかった人々は、・フルカスの細めた目と、唇のはた のあぶく、意味ありげにふところのベルトの中にさし入れられた手刹那ー 雄牛のように、おめいたのはブルカスのほうであった。 に気づくと、あわてて、道をよけた。 奥の扉をあけて、サイスがあらわれた。そのうしろに、巨大な怪すばやく、ヨウイスの女がとつばずしざまふみこんで、・フルカス の手を逆にねじったのだ。 物じみた、頭をつるつるにそり、水夫のなりをした男が立ってい 「痛えツ」 人びとは、そろそろと、出口の方へむかってあとずさりをはじめ ・フルカスはわめいた。 る。 「放しやがれ、この阿魔、阿ーーー」 その中で 口が、 ぽかんとあいた。 ・フルカスは、おもなろに、ヨウイスの女のところへ歩みよってい そのしぐさで、ストーレ・ : / 力はらりとすべりおちた。 ストールの下は、はなやかなター / 、 、ノをまき、そのはしを三つあ 「ねえさん、なかなか、みごとな勝負だったぜ」 みにして髪にあみこんだ、若い顔である。 猫なで声で云い、女の肩に手をかける。女はつつとよけた。ョウ 黒く、するどい、つりあがった狼めいた双の眸、きつい細い、円 イスの民らしいしぐさではあった。 を描く眉、うすわらいをうか・ヘたロもと、浅黒い、きれいな、しか し油断ならぬ感じの目鼻立ち : 「こいつあこの、サイスの賭場でも、歴史にのこる勝負になるぜ。 記念にひとっきいておきてえ。ねえさん、あんた、名はなんという たいそう、若くて、きりりとして、ほとんど美しいとさえいって っこ 0 こ 0

4. SFマガジン 1985年11月号

次に、女が、ヤーンの二組で、無役の・フルカスに勝った。 ・フルカスの鼻孔が、ぐうっと白くへこんだ。 やったり、とったりされる札はどんどんふえてゆき、もう、小山 「ダゴンの総役。こちら」 のように二人のまえにつみかさなっている。 ブルカスは、黙りこくって、札をおしやる。 第七、第八、第九ゲームを、三回っづけて・フルカスがとった。 もう、誰も、どちらにかけようともいい出さぬ。 うつかり、音などたてて、・フルカスの逆鱗にふれたら、こんなと女は、また、札をもってこさせた。 「お客人」 きの彼にさからおうものならどんなことになろうやら、知れたもの っと、サイスがそばによった。 ではないのだ。 この上の分は、あり金を、みせて頂かねえと」 すい、と胴元のサイス老人がきて、ヨウイスの女のななめうしろ「失礼だが に立った。 「お金は、ない」 ・フルカスがコロ入れをとった。 低い声だった。 「何だって」 「第三ゲーム」 サイスがするどくいう。 「ルアーの六、ルアーの六。ャススの二、カシスの四ーーーーヤヌスの 十八、ヤススの六」 「空賭けは、ご法度だ」 「カシスの四、ルアーの六、ヤーンの一、カシスの四。 ドールの十「空賭けじゃないーー次で、勝つ」 五のヤススの四」 「そいつあ、ダメだ。おい、・フルカス、打ち止めろ」 人々は、また大きくどよめいた。はじめて、ヨウイスの女の敗け「冗談じゃねえ」 であった。 ・フルカスは、気色ばんだ。 次も、女は無役、・フルカスはダゴンの三を出して勝った。一 「ここまで来てやめられるか。そいつは、ヨウイスの女だそ。な ョウイスの女な 女はおちついて、指で合図をし、金とひきかえに札をもってこさら、のこりの足し分は、その女をかけりやいい。 せた。 ら、五千ランにはなる」 二勝二敗にもちこんだので、・フルカスはさらにゆとりをとりもど「・フルカス、そいつも法度だ」 して来た。第五ゲームも、女はイグレックの並び役を出したが、。フ ルカスが、ヤーンの総並びでとった。 人々の中から、声をかけたのは さきの、奥のイスの客ーー・云うまでもない、カンドス伯爵であっ しだいに・フルカスは、目にみえて満足げになって来た。 こ 0 が、女は、何を考えているのか、つり上った目を、無表情にコロ 入れにすえて、いっかな動じるようすがない。 「よかろう。その分、このわしがひきうけよう」 に 7

5. SFマガジン 1985年11月号

・フルカスとサイス、ジャンたちは、ちろりとおかしそうな目を見第十一ゲーム。 かわした。 ・フルカスは、ヤススの五。 もともと、ヨウイスの女とあるからには、どうでもぶじにここを女は、ヤヌスの四。 出そうものではないのた。クムの娼婦と同じ金で売買される、ヨウ きわどいところであったが、・ フルカスの勝ちであった。 イスの女なのである。 いまや、 いくぶん、人々は、失望ともっかぬざわめきをもらして ただ、どうせ、漁色家のカンドス伯ならそういうであろうとい う、内心のもくろみが、まんまと図に当ったのだった。 どうやら運は、ヨウイスの女のほうを、見放したとみえる。 「では、伯爵さま」 「さいごのゲーム。戻りなし、かけ金、カン」 「これを、札にかえて、その女にやるがいい」 ジャンが云った。 カンドス伯は、皮袋を、サイスに投げた。 ・フルカスは、もう半ば自分の圧勝を確信していた。ごく無造作 女は、ていねいに、頭を下げたきり、 いかにもョウイスの民らしに、叩きつけてサイをふった。 く、何も云わぬ。 ルアーの六。カシスの四。カシスの四。イグレックの五。 そのとき、女のストールが少しずれて、のどもとにさげたかざり「 ドールの十九。ャススの四」 がちかりときらめいたのも、色つぼかった。 ・フルカスが、にやりと笑った。 「存分にかけるがいい」 分厚い舌が、ちろりとあらわれて、貪欲そうに、くちびるをなめ カンドス伯は、のどにからんだような声でいう。 「ちゃんとこのわしが、うしろだてに、立ってやるからな」 女は、黙って、サイコロをふり、またしても、小さな尖塔を、黒 女はまた、頭を下げる。 びろうどの上にたてた。 「つづけろ」 「ルアーの六 「は」 ジャンが読んだ。 ・フルカスはにんまりと笑った。すでに、何もかもが、思いもかけ「ルアーの六。ルアーの六。ルアーの : : : 」 ぬ「イグレックの幸運」の様相を呈してきたことに、すっかりほく ぐっ、と誰かののどが音を立てた ! そえんでいるようすである。 おおあたり 第十ゲームであった。 「ヤヌスの二十四、ルアーの総並びだ。《ャヌスの手》だ。私の勝 ブルカスは、「ヤススの総手」 ちだな」 女は、ヤススの二、ひとつで敗け。 ョウイスの女は、無感動に云い、賭場をゆるがすようなものすご に 8

6. SFマガジン 1985年11月号

ビンツ、 六とかければ、カシスの総四か、ヤススの六にかけるのは当りまえ という、コロ入れの叩きつけられる音。 ャススのではある。 「ヤーンの一、ヤヌスの二、ダゴンの三、ルアーの六 しかし、それは、大胆なかけかたであった。女は、さきほどとっ た札を半分、すいと前へおしやった。 わあっと、大歓声があがる。 「ヤススの二・ : 胴師は長い手のついたくまでで無造作に、札をかきあつめ、ヤス スの十二にかけた二人に二つの山にわけておしやり、のこった赤札「カシスの四」 三枚を、ヨウイスの女のまえにおした。「ダゴンの役」を、女は的「イグレックの五」 他のもののかけは、いくぶん、気のぬけたものとなった。 中させたのだ。 ざわっと、人々はゆれた。 「張り万、ないか。ーーー・締めるそ、締めるそ。張り方締めた」 もう、他の台の人々はさすがにヨウイスの女のことはわすれ、自静寂。そして らの楽しみにもどっている。 、、ルアーの六、イグレックの五 「ルアーの六、ルアーの六 この台の客だけが、ちらちらと、女をみていた。 ルの二十三」 「第四ゲーム」 しん、と人々は息をつめた。 胴師のツヤのない声がして次のゲームがはしまる。 胴師はくまでの先で、すべての札を、女のまえにおしやった。 柱のかげから、一見して張り師とわかる男が一人、すっと出てき 「ヤススの十二」 て、台の近くに立った。ョウイスの女は、やはり、まったくの無表 「ヤヌスの十二」 情のままである。 「ドールの十一」 「ドールの九」 「ヤヌスの十」 半ザンののち。 「ヤススの十六」 何か、ぶきみな静寂が、あたりを支配していた。 女の声に、一同はぎよっとした。 もう、他のテープルで、かけているものは一人もいなかった。他 「役張りないか。役張りないか」 の客は、全員、このテープルのまわりにあつまって、息をつめてい 「ヤヌスの六」 再び一同はぎよっとした。ャススの十六は、ヤススの二十四、つ そのテー・フルについているのも、もう、ヨウイスの女と三人の張 まり「ヤススの手」の大あたりの三つ下くらいの高い手で、これの り師、あと奥の客一人である。 出るには、四が四つか、六が二つ、出ていなくてはならぬから、十女のまえに、赤や緑や黄の張り札は、うずたかくつみかさねられ こ 0 ー 52

7. SFマガジン 1985年11月号

絶大な権限を持っているのだ。銀河連合に属している国家だったクしてから介入するかどうかを決める。決めるのは銀河連合の中央 ら、どんなときでも出入国はフリー。 ( スだし、みんな専用の宇宙船コンビ = ータで、介入するとなれば、そのときに派遣されるトラコ を与えられているから移動の足にも不自由しない。捜査権は国家やンも決まる。トラコンの方には仕事を選ぶ権利はない。 自治体から完全に独立しており、武器の使用だって無制限である。 今回の事件、アクメロイド殺しは、政府提訴扱いに準ずるものと でも、誤解はしてほしくない。 して処理された。提訴者が自治体の首長だったからだろう。警察組 は特殊警察ではないのだ。当然、軍隊の一種でもない。 織が不完全なので、が捜査を肩代わりするという形で受理 警察も軍隊も、たいていの国家はそれなりの規模のやつを保有してしたようだ。提訴されてから二日で派遣が決定され、その役が思い だすのもおぞましい二か月の休から帰ってきたばかりのあたした いる。銀河連合にだって、連合宇宙軍というのがある。 は、あくまでも、トラ・フル・コンサルタントを派遣するちにまわってきた。 ところだ。トラコンは、トラ・フルを直接、解決したり、地元の警察ソラナカ部長は、あたしたちが派遣されると聞いて、ひどく取り や軍隊に助言を与えてトラ・フルの解決に至らせたりする。設立目的乱した。理由はぜんぜんわからない。あと二か月ほど余分に休は に述べられているとおりのことをおこなうのだ。それ以外のことは要らないか、なんてことも聞かれた。もちろん断った。 しないし、過去にしたこともない。少なくとも、進んでしたことは あたしたちはチャクラで休暇は堪能したのだ。 ない ( わはは ) 。 「提訴してから、何か情勢に変化はあった ? 」 の理念は、『人類の繁栄』。要するに、福祉である。 コンサルタント ュリが訊いた。 そのために、トラコンはトラブルの相談員として働く。 はトラ・フルに関する提訴によって機能している。提訴「いろいろと」クラーケンは答えた。 は、あちこちから、いろんなルートで本部に届く。いちばん多いの「最大の変化は、ジュニアがヤクザを大挙してドルロイに入国させ が政府ルートで、発生したトラ・フルに対処できなくなった惑星国家たことでしよう。 工場と総督の身辺を警護させるという名目でね」 の政府が、にコンサルタントの派遣を要請する。政府が提「アクメロイドの得意先が寄こしたんだわ。供給に支障がでれば、 訴してきたら、は無条件にトラコンを派遣する。 発注した方も困るから。きっと、そうよ」 民間提訴もけっこう多い。とくに目立つのは、一度政府とか地元あたしは言った。 警察などで決着がついてしまった事件を、結果が不服だとして「中継ステーションで暴れたのも、そいつらです」 に再調査させようとするケースだ。こういうケースでは、 クラーケンが一一 = ロった。 はトラコンをすぐに派遣したりはしない。当事者及び司法当局あたしは連中のグロテスクな顔を思いだした。胸が悪くなった。 から、その事件に関するすべてのデータを提出させ、充分にチェッ 「まったくひどいもんです。きようまでにやつらに七人の仲間が殺 ウ = ルフニア

8. SFマガジン 1985年11月号

プルカスは、手にもっていたコロ入れを下においた。 と・フルカス。 「ジャン、奥の右から三番目の棚にある、ドライドンを象嵌したコ 「トロヤか。カンか」 ロ人れをもってこい」 「カンで」 低く命じた。 と女。 人々は、もう、ざわめくどころか、しわぶきひとっせず、じっ 「よかろう」 と。フルカス。 と、息を殺して勝負の成行きを見守っている。 客は、ごくりと唾をのむ。 ブルカスがこのように、緊張したおももちをみせるのは、珍しい ことであった。 「では、ものは」 とはいえ、まだ、彼はうす笑いをくちびるにうかべるだけのゆと「これを」 りはあった。 女は目のまえのうずたかい張り札を、半分にわけて、ひとつの山 「よし、それだ」 を前へ出した。カンでは二回目が倍になるから、さいしょの一回に うけとって、シ、ツ、シッとふってみて、具合をたしかめる。敗けたときのために少くとも半分のこしておかなくてはならぬの それから女と同じように一つづつ、サイコロをそこにおとした。 そして、黙ってそれを台の上におしやると、女も同じようにし「おい」 ・フルカスがあごをしやくって、張り師に札をもってこさせ、同じ 二人は同時に、あいてのコロ入れを手にとった。中から、ゆっく額だけつみあげた。 りと四つのサイコロをふり出し、容器の内、外、上、下とあらた「では、ヤススの誓いを」 め、いかさまの仕掛けのないことを確認した。 ジャンが云った。二人は無感動に、決まりのとおり、三つの賭場 「よかろう」 の誓いをとなえた。 。フルカスがしし 女もうなづく。胴師のジャン が、二人のコロ入 いよいよ、はじまりである。 れを、二人の台のまん中でうやうやしくとりかえた。 ・フルカスと、ヨウイスの女は、サイコロ入れをとり、同時に一つ 「ゲームは ? 」 づっサイをふり出した。 ジャンが字型のテーブルの、・フルカスの側のまん中に立って、 「ダゴンの三」 定めどおりたずねた。 「ルアーの六」 「先振りはこちら」 「戻りなし、十二回。よかろう」 ジャンが告げた。・フルカスが先振りであった。 4

9. SFマガジン 1985年11月号

サイコロが、からからとコロ入れ筒の中で鳴る音、よみあげる 声、そしてののしり声と歓声が入りまじる。 一沿海州、中原の南方でおおいに行われているこのサイコロ賭博 は、別名をドライドン賭博ともいい、そもそもヴァラキア、トラキ アあたりの船乗りたちがはじめたものであるという。 それは、きわめて、ばくちの要素のつよいもので、いちどにサイ・ ふいに、かすかなどよめきがおこった。東チチア、サイスの賭場コロ四つをつかい、特別の、上が太く、下はサイが一列になって出 てくるようになっているコロ入れ筒をつかってふる。 である。 コロふりと胴元がゲームをとりしきる。客たちは、あらかじめい 「あれ、あれ」 くつかの段階にかける。まず、ヤヌスの数、すなわち偶数と、ドー 「おツ、ありや、よ、よ、 ルの数、すなわち奇数にかける。次に、予想した、四つのサイコロ 「ありゃあ、あれだぜ」 「おお、ヨウイスの民だ。珍しいな、一人で、こんなところに出ての合計数をあてることにかける。さいごにいくつもの役、すなわち 四つのサイの目の出かたにもかける。 くるなんて」 ャヌスかドーレ、、 ノカつまり偶数か、奇数かによって、はずれたも がやがやがやーーーどよめきが、入口近くのところから、しだいに ひろがってゆく。 のがおりる。それが的中したものの中で、もっともじっさいの数に きようもチチアの夜はいつもと同じにふけてゆくところであっ近かったものが勝ちになる。 そして、数は外れても、たとえば「ヤーンの一」の二つ並びや三 た。たしかにサイスの賭場は、よくはやっていることだけは、まち 、三、四」や、二 : 、よ、。夜ごと、そこは、かけごとに入れあげる人びとでいつばっ並び、あるいは「ダゴンの手」っまり「一、 と二、四と四のような「二組手」また三つと一つ、などなどの役を トの賭場の、少なく見つもって三倍はある、大きな賭場で的中させると「大当たり」である。きわめて、可能性がたくさんあ ある。かけテー・フルも十いくつ、大小さまざまにある。その大半るから、いかさまをつかうほかには、合計の数と役とをすべて的中 は、ぎっしり客にかこまれ、あちこちから、あの声がきこえる。 させる「ヤヌスの手」は、まず何万回に一回もできぬのがふつうで 「もっと賭けろ ! 」 ある。 「張り方、ないか」 役はきわめてたくさんあるし、役のみあたって、数の外れること 「ヤススの十 ! 」 も多いから、このばくちの計算はきわめて難しい。それはすべて胴協 「大当たり ! 」 元、又は胴師がやる。ふつう、ばくちうちは、コロ師と張り師と胴 第三話黒のプルカス

10. SFマガジン 1985年11月号

「あによ、これ・ : ・ : 」 「外が、えらく騒がしいんだよ」あたしは言った。 むかっ腹を立て、あたしはとなりのペソ 「なんか起きたらしいわ。様子を見に行こう」 あらら。 クラーケンは、あたしたちの宿舎をキャナリーシティの市内じゃ なくて、海洋開発ラボに用意していた。 驚くじゃない。 ュリってば、平気で寝ている。 第一研究所の建物に隣接して、所員のド ーが建てられてい 幸福を全身で享受するやすらかな寝顔。あたり構わぬ喧騒なんる。そこのツインルームが一室、あたしたちのためにあけてあっ て、ユリの耳にはぜんぜん届いていない。 ジェットエンジンにくくりつけたって、こいつは寝てるよ。間違三階の東南角。装飾はまったくないけど、清潔ですてきな部屋 きのうは結局、クラーケンとの・フリーフィングと、アクメロイド 「ユリ、起っき ! 」 あたしはペッドから降りて、ユリんとこに行き、シーツをはぎとに関する資料のチェックだけで、一日が終わってしまった。 深夜までディス。フレイにかじりついていて、三時間くらいしか寝 の真んていない。 ュリは両膝を曲げ、それを腕で抱えるようにして、ペッド 中に転がっている。長いしなやかな黒髪が寝乱れて、緩やかな渦を「ケイったら、はりきりすぎよ : : : 」 巻いている。身につけているのは、レモンイエローのスキャンティ ふつぶつつぶやきながら、シーツをからだに巻きつけ、ユリもペ だけ。もっとも、それはあたしも同じだ。でも、あたしのスキャン ッドから降りた。文句を言いつつもシーツを離さないのがすごい。 ティはレースをふんだんに使ったホワイトシルクよ。ュリのとは、 諦めの悪いねえちゃんだ。 ものが違うわ。 それでもシャワーを浴び、服を着て軽くお化粧すると、なんとか 肩を押して十回くらい揺さぶると、ユリはようやく薄目をあけシャンとなった。服は、もちろんスペースジャケットなんて野暮な ものしゃない。ナイマン島は亜熱帯に属しているのだ。陽が昇った 「う、うーん」 ばかりなのに、気温はもう三十度を越えている。きのうは夢中だっ 恨めしそうにあたしを見つめ、切なげな声をあげる。たわけ。相たからいいけど、きようになっても、あんな暑っ苦しい服を着てた ら、あたしたちは焼け死んでしまう。 棒相手にきどるんじゃない。 「どうしたのよ、こんなに早く ? 」 ーオールを着た。ショートパンツでべア ュリはパイル地のオ】 トツ。フになっているやつだ。色はからし色に近いべージュ。あたし ナイトテー・フルに置かれた時計に目をやり、ユリは眉をひそめて は白いグルカショーツに紺と黄色のストライ。フがはいったシルキー 口をとがらした。右手でまぶたをこすっている。 トのユリを見た。 こ 0 4 5