私はいった。 「下手に騒がないことね、女王さま」 「女王の怒りを招くとどうなるか、君も知らぬわけではあるまい」 ーサがあざけるようにいっこ。 「いや、 : : : もう賽は投げられたのだ。いまさら引き返すことは出「あなたの大切な男は、私がこの指を動かしさえすれば粉々になっ」 てふっとぶのよ」 来ぬ」 「彼女のことばはほんとうだ」 ルーファスは苦しげにいった。 「すべてはナーガのためなのだ。神聖な女王の血が、異国の者の血私はいった。 「カーティスは火薬の樽の上に座らされている。もしそれが爆発す によって汚されるのを見過すわけには行かぬ」 れば、かれだけではなくわれわれまで・ ( ラ・ハラに吹っ飛ぶでしよう」 私は愕然とした。 私はリーサに引き金を引く意志があることを疑ってはいなかっ」 「それでは、カーティスを殺すというのか ? 」 た。自分も死ぬことは承知で、彼女は引き金を引くにちがいない 1 「やむを得ぬ。ほかに結婚を食い止める手段はない」 聡明な女王のことだ。一目で状況を見て取ったようたった。 「そして女王が邪魔するなら、彼女も殺すわ」 ・ : ・ : リーサとか申したな」 ーサが叫んだ。私は暗然「娘よ ゆがんだ喜びに満ちた笑顔を見せて、 ーサにおちつきはらった徴笑を向けた。怒りにみちた顔よりも とした。リーサのカーティスへの憎悪がこれほどまでふかいとは思 よほど恐ろしさを感じさせる徴笑だった。 ーサはほとんど狂っているといってい いも及ばなかったのだ。リ ・ : なにが望みなのじゃ ? 」 : ほんらい、このような蛮地に足を踏み入れるべきではなか「そなた : 「正義をおこなうことよ。神の名による処刑といってもいいわ」 ったのである。最初から、神経が侵され始めていたのかも知れない。 ーサがルーファスを引き入れたのは、もちろんカーティスを殺 ーサは昻然と答えた。 すことを正当化するためだ。ナーガの国のためと称してナーガ人に「カーティスは、邪教徒の女王の愛を受け入れるというあやまちを : これは死 殺させれば、みずから手は汚れずにすむ。 : しかしその魂はどう犯したわ。キリスト教徒にはあるまじきあやまちょ。 あたい に値する罪だわ」 「娘よ : : : な・せはっきり愛をはねつけられたがための意趣返したと いわぬのじゃ ? 」 女王はひややかな微笑をうかべたままいった ~ 「なにも神の名など持ち出す必要はない。そのほうがわたくしもい ささか同情したろうに」 「あなたの同情など要らないわ ! 」 女王が天幕の垂れ幕をかかげて姿を現したのはそのときだった。 白い夜着の上にヒョウの毛皮を羽織り、優雅な足取りで歩いて来た。 そこでなにをしておる ? 」 「なにごとじゃ、レーファス ? : ・ : ・ へた ー 07
れぬかのように目を大きく見開ぎながら、仰向けに倒れた。・ ーサは顔を真っ赤に染めると吽んだ。 ) 「よく覚えておきなさい。カーティスを殺すのは女王、あなた自身そらく、倒れる前に絶命していただろう。それほどククアナ人の投 8 げ槍の威力はすさまじいのだ。 なのよ ! 」 「そしてこのことにそなたはかかわっているというわけか、ルーフ だれもが一瞬凍りついた。私がようやくわれにかえったとき、周 アス ? 」 囲の闇から喚声が湧いた。ヒュッヒュッという音とともに投擲用の 女王はルーファスを振り返るとあいかわらずおだやかな口ぶりでナイフが飛んで来てナーガ兵のからだに突き刺さり、何人かが倒れ 尋ねた。ルーファスは蒼白になりながらも決然とした口調で答えた。次の瞬間、夜の精霊のように黒い肌で裸体の人間が回り中の闇 こ 0 から湧きだすと、槍を振りかざしてナーガ兵に襲いかかった。 「すべてナーガのためなのです、女王よ。神聖な結婚の掟はまもら私達は反射的に動いた。カーティスと私、グッドは女王に走り寄 れなければなりませぬ。われらはもとよりいのちは捨てておりまってその回りに立った。アダムスだけはリーサに走り寄った。胸の 槍を引き抜くと、ぐったりしたそのからだを抱き起こした。 す。 : : : 掟をまもるためには、こうするほか方法はないのです」 たちまちはげしい戦闘の物音が湧き起こった。私はすでに襲撃者 「そうよ、ルーファス ! 」 がククアナ人であることを見定めていた。さきほどナーガ人を何人 ーサが叫んだ。 か倒した投擲ナイフもカーラスと呼ばれるククアナに特有のもので」 「さあ、早く殺しなさい ! 」 ある。 「なぜ自分でそうしようとしないのだ、リー カーティスのおだやかだが哀しみにみちた声がいった。かれは樽「マクマザーン ! 」 の上に腕を組んで座りながらリーサを見つめていた。 聞き覚えがある声が叫んだ。すばらしく長身の黒人の戦士が、大 斧を振り回し、立ちはだかるナーガ兵を薙ぎ倒しながら走って来る 「君がそうするなら私も納得したろうに : のを私は見た。 「いいわ ! あなたの望みどおりにしてあげるわ ! 」 「ウムスロポガ 1 ス ! 」 ーサは狂気じみた叫びを上げると、拳銃の銃口をカーティスの 私は叫んだ。歓喜のあまり全身の血が沸き立った。アマズルの族 胸に向けた。 長、あの誇り高い戦士のなかの戦士は、生きていたのだ。 その瞬間、なにか重いものが空を切るヒュッという音がした。リ そのときルーファスがウムスロポガースの前に立ちふさがった。 1 サの胸に突き立ったものを私は信じられぬ思いで見つめた。 それは柄の短く穂のひろいククアナ特有の投げ槍だった。それがリ大剣を振りかざして斬りかかった。ウムスロポガースは立ち止まり 1 サの胸にふかぶかと突き立ったのだ。彼女は大きくよろめくと拳もしなかった。″女族長″を横殴りに振るとルーファスの剣は半 銃を取り落とし、数歩あとずさった。おのれを襲った運命が信じらばから折られて吹っ飛んだ。次の一撃がルーファスの頭上真っ向う インコシャース
? この求愛はルーファスのほう また、こころをひるがえしたのか からおこなわれたのか ? それとも・ : 私は胸さわぎを覚えた。たとえリーサがアダムスからルーファス に心を移したとしても、他人が口をはさむ筋合ではない。しかし彼翌朝の朝はやく、私達は女王に呼ばれた。女王の居室に入「て行 女の本性がこのように多情な女であ「たとはとても考えられないのくと、めずらしく黒衣をまと 0 た女王に迎えられた。、 「いよいよ出立のときが参りました : : : 」 だ。どこか不自然なにおいがする。アダムスはこのことを知ってい 女王はひどく疲れているようであり、やつれのあまり妻艶といっ るのか ? い 0 ぼうルーファスのほうにも問題はある。女王が臣下の規律にてもいい表情にな 0 ていたが、それでもやさしい笑顔をカーティス に向けていった。 はきびしい支配者であることは疑いない。おのれ自身の恋はべっと 「月も満ち、大地にひそむものの気息もととのいましたゆえにな。・ して、臣下の将校が異国の女との情事にうつつを抜かすことなど、 許すはずはないと思われる。かれらがこのような夜更けに人目しのわれらの結婚の準備をなすべきときが来たのですそして、マクマ んで会っているということが、その証拠であろう。女王がこの数日ザーン、ポーグワンよ」 、部屋に閉じこも「ていたので、そのようなことが可能だったと女王はククアナ人が私達につけた名を呼び、ほほえみかけた。 「そなたたちへの約東も果たすときが来ました。あの蛮人の王にも も思われる。 会わせてあげようし、ダイヤ鉱山へも案内して進ぜましよう。これ ーサが長身のもすべてわれらが結婚をことほぐためです」 私が見守るうちにふたりはふたたび抱きあった。リ ・ : そ私は女王の奇妙なおだやかさが気にかかった。女王はいつものあ ルーファスの首を引き寄せるようにしてはげしく接吻した。 の瞬間、私はさと「た。この恋をしかけたのはリーサだ。どのようの威厳、峻烈さをす「かり忘れてしま 0 たかに見える。幸福なのは な思惑があるのかは知らないが、彼女がナーガ人の士官を誘惑した分かるが、彼女を彼女たらしめていたあの活気が、女らしい優しさ : この五日間の にすっかり置き換えられてしまったようなのだ。・ ことは間違いないだろう。 いったいどんなものだったのだろうか ? 私はひっそりときびすを返した。たとえどのような仲であれ、ふ行とは、 たりには邪魔されぬ権利があると思えたからだ。恋というものはし「ルーファスと二十人程の者を供に通れて行きます。そなたたちも よせん不条理なものだ。この老いぼれの狩人の理解を絶していると支度するがよい」 いえたかも知れないからだ。 支度といっても、べつだんたいしたことはない。アスカリたちと 9 アラビア人たち、そしてカファー老人もガトリング銃とその装備と
「ばかなことを : : : 」 ふっと、異常な気配に目覚めた。 アダムスが思わず一歩踏み出しかけた。 カーティスとグッド、そしてアダムスが立っている。その回りを「拳銃が暴発してそこに当たりでもすれば、かれのからだはパラ・ ( 剣をかまえたナーガ兵たちが取り囲んでいた。 ラになるそ ! 」 ルーファスが私の胸に剣の切っ先を突きつけると、低い声でいつ。「分かっているわ。でも暴発などはさせないわ。私は射撃には自信 こ 0 があるのよ」 「起きるのだ、マクマザーン」 ーサはひややかにいった。 私はゆっくりと起き上がった。 「爆発させるときは、狙って爆発させるわ」 「なにごとだ、ルーファス ? 」 気の毒なトム・アダムスは呆然とした。 起きぬけで頭がよくはたらかず、私はぼんやりしたままで訊ねた。 : これはいったいどういうことなんだ ? 」 「説明するわ、クオーターメンさん」 「すべてはこの男のせいよ」 うしろから声が聞こえた。リ ーサが、私のコルト拳銃をかまえて ーサはカーティスに憎しみに満ちた目を向けた。 立っていた。私が眠りこんでいる間に抜き取ったらしい。その目は 「この男が、キリスト教徒にもかかわらず、邪教徒の女の口説に耳 異様にかがやき、顔は興奮にゆがんでいた。 をかたむけたことから、すべてが始まったのよ」 「ほんとうは説明するまでもないことだけれど。 いよいよすべ 「私がだれを愛そうと君にはかかわりのないことだ、リー てを清算するときが来たのです。そうするよう、神が私にお命じに カーティスがおだやかにいった。 なったのよ」 「いまならまだ間に合う。 ・ : その銃を渡すのだ」 彼女の声には、狂信者に特有の熱狂したひびきがあった。おのれ「いし 、え。主を冒漬する行いを正すのが私のっとめです、カーティ の行為の正しさを盲目的に信じている者の声だった。 ス卿。あなたこそざんげの準備をしたほうがいいわ」 「こちらへ : 私もグッドも棒立ちとなったままだった。ライフルも、拳銃もす ーサが拳銃をふるとカーティスに命じた。いつの間にかたき火べて見当たらなくなっている。ナーガ兵たちにかくされたようだ。 のかたわらに置かれていた火薬の樽を指した。 かれらの剣が突き付けられているいま、動くことも出来なかった。 「この上に坐りなさい、ヘンリー卿」 丿ーサのもくろみはこのことだったのだ。しかしルーファスたち カーティスは黙って言われたとおりに動いた。その物騒なしろも はどこまでかかわっているのか ? これは女王に対する明らかな反 のの上に腰を下ろした。それも、私達が眠っているあいだに、ルー乱なのか ? ファスたちが運び下ろしたのだろう。 「女王が目覚める前に考え直したほうがいいぞ、ルーファス」
ともに例の馬蹄形の丘に移してあるので、グッドがダイヤ宝庫の岩 ーサはあいかわらずカーティスをまったく無視した態度を取っ 扉を爆破するために用意した火薬を運びさえすればよい。そのためていた。あの夜、ルーファスと情熱的に抱擁しあっていた女とは、 の馬車は、すでにタロスに頼んで用意してもらってある。あとはト 別人のようだ。 ・ : いったいどちらがほんもののリーサなのか ? ム・アダムスが一緒に出かけられるかどうかをたしかめるだけだっ私は胸のうちでかぶりをふった。いずれにせよ、なにも知らぬアダ ムスこそいい面の皮だ。かれが真相を知ったとき、あらたな悲劇が ーサ生じることは目に見えている。私としては、アダムスにふかく同情 私とグッドはさっそくかれが療養していた小屋を訪れた。リ があいかわらず朝からアダムスに付き添っており、入っていった私せざるを得なかった。 達を無表情な顔で迎えた。 : : : 私はひそかに彼女の顔をうかがった「私も、行きますわ」 が、べつだん寝が足りなくて疲れた様子もなく、恋に浮かれた様子 ーサはいっこ。 もなかった。私は、ゆうべ目撃したあの光景が、夢ではなかったか「トムにはまだ付き添いが必要です。それにひとりぼっちでこの町 と疑ったほどだ。まったく、女というものは天性の演技者らしい に残るのはいやです」 「トム、 いよいよダイヤ鉱山まで出かけるときが来た。・ 私達としても、彼女を置いていくつもりはなかった。アスカリた ムよ、つこ。 ちもいないいま、文字通りひとりだけになってしまうからである。 「からだの具合はどうだね ? 君は馬車で行くことになるが : : : 」しかしルーファスも護衛隊長として同行することが決まったいま、 「もう大丈夫です」 彼女のその言葉が真実かどうか、私にはいちがいに信じられなかっ アダムスは寝台から起き上がるといった。 た。彼女とルーファスのことはまだ私ひとりの胸におさめたまま 「昨日も、すこし歩いて見ました。馬車の旅なら問題はないでしょで、カーティスにもグッドにも打ち明けていなかったのだが。 「リーサ、君の使命感はいったいどうなってしまったのかな ? 」 たしかに血色もよく元気そうだ。悩みもなく、幸福にみちあふれ私はつい口走ってしまった。 「君はあのジャガ族まで教化しようとしたではないか。ナーガ人た ているかに見える。かれはリーサを見返ってほほえんだ。 「すべて彼女の看護のおかげです。ほんとうによく尽くしてもらい ちをキリスト教に改宗させたいとは思わないのかね ? ましたよ」 「 : : : かれらの神はあの女王よ、クオーターメンさん」 ーサはひややかにいった。 アダムスはかねてからリーサに思いを寄せていたのだから、かれ にとって彼女が手厚い看護をしてくれたことは、天にも登る思いだ「彼女がいるかぎりかれらは新しい神など信じようとはしないでし ーサと よう。でも見ていてごらんなさい、かならずかれらが目覚めるとき ったろう。そのため、回復も早かったわけだ。もちろん、リ はおとずれるわ」 ルーファスの仲にも気づいていないようだ。 - 」 こ 0 8
とになって湧くものである。 へは行ったことがないのだ。 兵士たちはまきを集めて来て火を起こし、食事の支度を始めた。 ・ : 出発してから二時間後、右手にあの馬蹄形の丘が見え始め ・ヒルと呼ぶようになといってもかんたんなもので、新鮮な果物、チーズ、あぶった干し た。私達はそれをその形の通りホースシュー っていた。街道からは一マイル足らずの距離で、そのいただきから肉といったところがおもなメ = 、ーである。 熱帯の落日は早い。日が落ちかかったとみるまに闇が世界をつつ は街道を通る人間が見えるはずだ。 アスカリたちはいま私達を見守っているかも知れない。十日間とんだ。原始のアフリカの濃い闇だった。 いうのはそう長い時間ではないとはいえ、ただ私達を待ちつづける女王はひとりで天幕に引きこもろうとはせず、たき火のかたわら のはかれらにとって大いなる不安であり、苦痛だろう。だがかれらに毛皮を敷かせると、そこに坐って、私達とともに食事をとった。 に堪えてもらうほかはない。かれらはいったん変事が起こったときその食事はきわめて質素なもので、わずかな果物とチーズが銀の盆 に盛られてその前に置かれただけだった。 の私達の唯一の希望なのだから。 トム・アダムスにとっては女王を間近かに見る初めての機会であ さらに三時間ほど進み、日が暮れて来たので、街道のかたわらの る。さすがにその美貌に心を打たれたらしく、目を離せない様子だ ちいさな丘のふもとで野営することになった。 ーサをもし愛していなかったら、女王の虜になってしまっ ルーファスたち護衛の兵士が、女王のためにかんたんな天幕を張った。リ ーサはあのびややかな目を向 たかも知れない。そのアダムスに、リ り、野営の準備をした。私達はたき火をかこんでゴロ寝することに 、。、まよククアナは雨季でけていた。 なろう。リ ーサは馬車の下で寝れまよ はないので、雨の心配は要らなかった。 ルーファスとリーサといえば、私はふたりが今朝出かける前に顔「 : : : ポーグワンよ。そなたにいちど尋ねたいと思っていたのだが を会わせたとき、その表情にひそかに注目していた。しかしかれら はみごとに感情を殺していた。目配せひとっせず、まったく素知ら つましいその夕食があらかた済んだとき、女王がいった。 あのよう ぬふりをしていたのだ。だがむしろそのことが、私の疑心暗鬼をそ「そなた、なぜそのようにダイヤを欲しがるのじゃ ? : : : そった。・ ーサがなにかもくろんでいるのではないかという疑なものは大地が気まぐれに作り出した石のかけらにすぎぬ。ただ硬 くて、みがけば光るというのが取り柄じゃが : : : 。身をかざるには いがいっそうつよくなったのだ。だがべつだん証拠があるわけでは ちょうどいい。じゃがそれ以上の取り柄はないように思うが」 ないので、正面切って迫るわけにもいかなかったのだ。 だが私は思い切ってそうすべきだったのだ。あとになって起こっ 「ですが、文明社会では大いなる富の象徴なのです」 たことを考えると、後悔に胸を締めつけられる。あたら何人もの人グッドは答えた。 死にを出すことはなかったろう。 : だが人間の知恵とはいつもあ「もし、ソロモン王の宝庫にあるダイヤをすべて英国に持ち込んだ ー 02
つが、グッドの口から彼女の名を聞いたことはない。どうやらグッ ドはファウラタのことをすっかり忘れ去っているらしいのである。 : ともにい かくて私たちはいま三人三様の立場に立っている。 ながらも、心はたがい冫。 こよるかかなたをさまよっているのだ。なん とも残念なことであった。 広場へと柵に沿って歩きながら私はふと、向こうの小屋のかげに たたずむひとかげに気づいた。ひとかげはふたつで、かたく抱擁し あっているようである。 : : : 私は本能的に柵に身を寄せ、かれらの 正体を見届けようとした。 かれらは男女で、男の方は長身のナーガ人だった。甲冑を脱ぎ、 白い長衣をまとっている。女のほうはといえば : : : そのとき、ちょ うど雲間にかくれていた月が現われ、ふたりの姿をくつきりと照ら し出した。 私は息をのんだ。その女の髪が金色に月光にかがやいたのだ。・ : ククアナ人に金髪の女はいない。まぎれもなくリーサ・ヴァン・ ーベックだった。 同時に男の横顔もはっきりと見えた。百人長のルーファスだっ た。かれらがここでなにをしているかということは、問うまでもな 。人類が発祥して以来、人目をしのぶ男女が繰り返して来たこと である。問題は、ふたりがいっそのような仲になったかということ ルーファスは女王の信頼のあつい若手将校で、色は浅黒いが、ギ リシャ風の美しい容貌の若者である。リー サが魅せられたとしても 無理もないが、彼女はカーティスに思いを寄せて裏切られ、傷付い たばかりだ。その反動としてトム・アダムスに接近し、かれに付き きりでいたはずだ。もちろん寝場所はべつにしていたが。 当日Ⅲ ll 日日ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ日日ⅢⅢ ll ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ日ⅢⅢⅢⅢ日ⅢはⅢⅢⅢⅢⅢ日ⅢⅢ日日ⅢⅢⅢⅢⅢⅢ卩 アラン、ヘンリー、ジョンの三人は、彼らの援助で僭王を倒し、 王座についたククアナ王イグノシからの救援の声に応じてククアナ へ向かった。その途上で、ソロモンの秘宝を得るために鉱山技師の トム・アダムスをやとい入れ、さらに土民に襲われていた宣教師の 娘リーサ、そして彼らを助けてくれたウムスロポガースを一行に加 える。ようやくククアナに至った一行の前にタロスと名乗る白人の 男が現れ、アラン、カーティス、グッドの三人を女王の客として迎 えに来たという。ククアナは女王の率いる国ナーガに減されていた のだ。他の者をその場に残してククアナの都ル】へ赴いたアランた ちだが、女王は不在だった。そして、女王の帰りを待っ間に彼らは ナーガ軍団の猿人ジャガ族とトラ・フルを起こしてしまい、残された 者たちが猿人の襲撃を受け、リーサがさらわれてしまう。ただちに ーサ救出に向かう彼らは、ジャガ族の村でピンチに陥るが、そこ に女王が現れ、彼らを救いだす。彼らは女王とともにルーの街に戻 り、そこで驚く・ヘき話を聞かされる。かってシ・ハの女王の時代の悲 恋の主人公ヒヤミムが実は女王であり、その相手であるアスタルの 生まれ変わりがカーティスだというのだ。しかも、女王は二人が結 婚をすることに決めてしまっているのだった。ナーガ軍の閲兵式の おりに女王は婚約を発表するが、ナーガ人の反応は冷たい。しかし 女王はそんなことは歯牙にもかけないが・ : 登場人物 アラン・クオーターメン : : ジョン・フル気質のアフリカ冒険家。 ヘンリー・カ 1 ティス : : : 冒険心に富んだイギリス貴族。 ジョノ・グッド : : : 快活で義侠心に富み、ただし女性に弱いイギリ ス海軍士官。 アイシャ : : : ナ】ガの女王 トム ( トマス ) ・アダムス : : : アイルランド人の鉱山技師。 丿ーサ・ヴァン・リー ・ヘック : : : 宣教師の父の遺志を継いでアラン 一行に加わった女性。 ウムスロポガース : : : アランと旧知のズール戦士。 8 9