他人の立場になって考えるということをなおざりにするのは、みても健康は健康だし、後継者指名変更はいつでもできるし、かりに ずから戦力を削ぐようなものである。 叔父がレクス家を嗣いでも今のところ叔父には子供がないから、早 気をつけよう。 晩わたしに順番が廻ってくる勘定。なんて、逃げ込む場を確保して おくのは、どうかなという気もするんだけど。 彼はおのれをいましめ : : : 文面に注意を向けた。 彼が書いたのよりは、ずっと長い手紙だった。 ニュースといえば、あのエガ工とレベンが契約を結びました。こ の頃はふたりいつも一緒で仲の良いのを隠そうともしないから、ま お手紙有難うーーと、まずお礼をいわなくちゃ。何しろ、担当司わりの連中はわたしも含めて、やっかみ半分、うんざり半分という ところ。 政官からのお便りなんですものね。わたしに手紙なんか書いてい て、 しいの ? 皮肉なんかじゃないのよ。うれしかった。 それからハイドーランが、テロイドンに転勤になりました。転勤 する前に、わたしたち何人かで栄転のお祝いをして、だ、ぶ話もし 元気そうね。 わたしも元気。それも最近ちょっと風向きが変って、妙なことをて : : : 考えさせられたわ。後任はトリラース・・ケイラとい うだいぶご年配の人で、ロうるさいけれど親切です。 考えるようになった。この件、あとで書きます。 そういえばタズテヘは、あれ以来行っていません。何となく面倒 あなたが元気なのはいいけれど、あんまり頑張り過ぎないほうが しいような気がする。大体が以前から、本気になりやすいたちだつで、その気になれないから。 というのが、あらましの報告。 たでしよう ? ま、こんなこといっても、頑張らずにはいられない 人だから、仕方がないわね。でも、肩に力を入れ過ぎると切れ味が さて : : : 冒頭に約東した、わたしの最近の心境、書かなくてはな らないわね。 鈍くなるんじゃないかな こちらの様子についておたずねだから、報告します。 あなたとよく会っている時分、わたしは自分がとても担当司政官 第一に、わたしはまだ・ハシ・ヨゼテン。ドシラーンへは当分帰らにはなれそうもないし、またその気もない、と、たびたび口にした なくてもよくなったんだ。というのも、わたしがなかなか帰ろうとけれども : : : 考え方がかなり変ってきたんです。せつかく今のコー しないでいるうちに、父はドシラーンの定めで後継者指名をしなけスを来たんだから、せめて一度か二度は植民世界司政を実際にやっ ればならなくなったので、とりあえず父の弟ー - ーわたしの叔父を第てみたいと思うようになったわけ。 一順位の後継者に指名し、わたしを第二順位の後継者として登録し驚いた ? それはおそらく、わたしが担当司政官に指名されることはまずな たわけ。後継者指名をしないうちに当主が死ぬと、相続が厄介だ し、貴族の称号の格や世襲財産が格下げになったり一部収公された いでしようし、万が一指名されてもどこまでうまく任務を果たせる りするんで、やむを得なかったんでしようね。だけど父は年といっか保証の限りではないけれど、やらせてもらえるものならやりた
構えながら、 は激しくまばたいた。 「かあいそうだけど、おまえはもう十二だ。それにこんなにかしこ イシ = トヴァーンは身がまえた。しかし、ヨナは超人的な意志の 4 っ ~ いんだから、ごまかさずに、ほんとのことを、知った方がいいだろ力をふりしぼって、何とか、くいとめた。」 うと思うんだ。 ルキアは、カンドスにけがされて、首をくくっ ちまった。なにも、死ななくったってーーー生きてさえいりや、すぐ かすれ声をョナはやっとしぼり出したが、それから、何とかし に助けてやれたのにと、おれは思うけど ルキアは、よっぽど、 て、ふつうの声を出し直した。 悲しかったんだろう。ま、死んじまったものはもうかえっちや米ね「もう、 しいですーーーわかってましたから : : : 」 え。そのかたきの何分の一かにはなるよう、おらあ、カンドスのや「わかってたあ つをおどしあげて、しこたましぼりとってやって来たよ。こいつを「ええ。何となく、そんな気がしていたんです。 おめえに半分やるからよ。それで、お父つあんにも、ラクさしてやぶん、もう生きちゃいまい、って」 れるし、おめえもやりたいことができる。カンドスの、かたきの金「何だって : : : 」 だ、なんぞと思わずに、ルキアがくれた金たと思ってよ・ーーな、ほ 「少しーーー十タルザンだけ、そっとーーーそっとしていて下さい ら、だから、ヨナ公、いい子だからよ : : : 」 云うひまにも、ヨナの頭は、少しづっ下へさがってきていた。 イシュトヴァーンは、ふところから、皮袋をとり出した。 ョナは、身じろぎもしない。ろうそくの灯にうっし出される、ま「おー、ー、おらあちっと、あっちへいってるから : : : 」 だ幼さののこっている横顔は、まっげが長くて、少女のようにみえ 「いいんです。ここでーーただ、ほんの、十タルザンだけ : : : 」 る。 ョナは、ひざの上に両手をくみあわせ、その上に、ひくく頭をた ふいに、イシュ十ヴァーンよ、 れてつつ伏した。イシュトヴァーンは、どうにも、身のおきどころ ーいたたまれない気分になった。 「な、ヨナ公・ーーちび公よう。じゃ、な、な、これ、もうこの金、のない気分で、それを見守っていた。かれにわかるのは、まった く、この少年と自分とがあまりにも異っていること、それゆえ、自 半分じゃねえ、ぜーんぶやるよ。だからさ : : : おらあ、 おれは、また、いくらだってかせぐロはあるしーーーなあ、ほら、四分にはほんとうは、この少年もその一家も自死した姉も、まったく 千ランだぜ。すげえだろう。だから、なあ、ヨナ公、なんとかし 、つ理解できないのだという、甚だ当惑させられる、どう考えていいか てくれよ なあ、悲しいのはわかるけどよ : : : こんな理不尽な目わからぬ事実ばかりであった。 にあうのは、なにもおめえたち一家だけってもんでもなし、な ? ョナの口からごくひくいすすり泣きが、一回だけもれた。しか いい子だ。だからーー」 し、それきり、ヨナは細い肩をふるわせながらもう声をたてなかっ ョナの唇と、まっげがゆっくりと、それから激しくふるえ、ヨナた。 いいんだよ、 ルキアは、た
1 ドの二、合計七だった。相手の札が読めなければ、三枚目を引くれ、昔のまま、完全な形で保存されている。ジョーンは、彼のすべ のはやめよう、とファイファーは思った。そのとき、彼はふと顔をてを知った : 上げ、あの毛むくじゃらの少年が投げキスを寄こすのを目にした。 ファイファーは精神を統一し、相手の心を覗き込んで、内臓を奪 「また見え見えよ」と、ジョーン。二人は、自分たちの世界に閉じわれた女のイメージを投げつけた。 こもっているところを想像した。闇をよろいにまとい、そのわずか蜘蛛の巣を破るよりも易しかった。一 なすきまから相手の心を覗いているところを思い描いた。 ファイファーは、鳥の羽根でくすぐられるように、男の苦痛を感 「さっきのからつぼの女に集中して」ジーヨーンがいった。「あれはじ取った。あの内臓のない女はムッシ、・デ = ーの終生の妻なの きっとムッシュ・デューの奥さんか情婦よ。あたしには、あなたほ だ。ファイファーは、相手の思考を突き破って中に入った。男の名 どはっきり見えないけど」だが、ファイファーは、自分の感情を抑前を読み取ることもできる。ガヤ、ガ ( イ、いや、ゲイエだ。男の え、暗く危険な悪鬼のような記憶をなだめようと必死になってい妻は、もう使いものにならない。ゲイエは、無意識の闇の中で、か た。あの毛むくじゃらの少年のイメージが、記憶や、怖れや、罪のらつぼの袋として妻をとらえていた。彼女はギャン・フルに狂い、臓 意識を閃光のようによみがえらせたのだ。ファイファーは、医者を器をすべて失っている。ゲイエは賭けごとを嫌っていたが、彼 やっていた父親を思い出した。昔から裕福な一家だったが、父親は身、妻の所有物にすぎない。妻を愛し、憎んでいる彼は、自己破壊 息子に金を与えるたびに、見返りとして愛情を要求した。そのあげの坂道を転げ落ちょうとしていた。 ・ - 彼の臓器を賭けて、ギャン・フ その妻は、彼を利用しているのた。 , く、少年のファイファーは、悪夢の中で、自分が父の男根をくわえ ているところを繰り返し見るようになった。母親が死んだあと、彼ルを始めたのだ。 はまたその悪夢に悩まされはじめた。臨終の母とサイ連結したと「この女は使いものにならない」と、ファイファーはゲイエに思念 を送った。だが、相手の反応は、ほんの一瞬しか読めなかった。妻 き、そのホモセクシュアルの幻想を見られてしまったのだ。 のほうも、守りは固い 今でもファイファーは同じ悪夢を見る。 しかも、守勢に立っているだけではなかった。 そして今、意に反して、あの毛むくじゃらの少年と同性愛にふけ ファイファーに向かって、あの毛むくじゃらの少年のイメージを っている自分の姿が心をよぎり、罪と反撥の意識がぞろぞろ引き出 された。少年と父親。結局、その二人は、一心同体の存在なのだ。投げつけてきたのだ。ファイファーは、少年の股間に顔が押しつけ 「思考が漏れてるわ」ジョーンの思考はみそれまじりの吹雪だつられるのを感じた。その瞬間、少年は姿を消した。かわりに現われ はっきたのは、ファイファーの父親だった。 た。ファイファーの心の奥、埋れた記憶の部屋への入口が、 目の前に、その股間がある。ファイファーは、小さく無防備な姿 り見えてきた。いや、部屋というより、地下の洞穴だ。中に収めら れたものは、陽に当って褪せることなく、意識の大気からも守らで捕えられた。 2
イエはただちに生命維持ュニットにつながれ、心肺機能回復法の蘇 話だったと告白した。 ジョーンは、その記憶にしがみついた。告白のあと、父は笑いこ生術を受けた。 だが、ゲイエは死んだ : ろげた。そんなことを考えていると、痛みは徐々に柔らいでいっ むづかしい法的な問題はあったが、結局、ゲームに勝ったのは生 ・こっこ。グレースにも勝ち、彼は臓器を手に き残ったラアイファーナナ : ・思考にも質量があるのだろうか。 ジョーンは、思考のカで自分を解放しようとした。思考と感情と入れた。ゲイエのすべての臓器を。 苦痛が純粋な数学の問題であるかのように、正しいアングルさえ見 つかれば、グレースの手から逃れられると思った。 リの街から二人を引き離す 物欲にまみれた快楽と危険は去り、 それは一瞬のうちにうまくいった。 移送ポッドの中で、透明な壁の向こうをながめながら、ファイファ だが、自分の命だけでなく、ファイファーの命まで救うために ーはジョーンに対して、新しい微妙な感情が生まれたのを感じた。 は、今すぐ何か手を打たなければならない。ジョ 1 ンは、グレース 改めて結ばれた親しさと感謝の絆 : : : そして、愛。 に過去を見せ、彼女がゲイ工と結婚した本当の理由を絵解きした。 しかし、ジョーンの中には、いまだにグレースの思考がこだまし それは、ゲイエが、子供の頃、彼女を犯した男と同じ顔をしていたていた。あたかも、心の一部がグレースと融合して、もう取り返し からだ。 がっかないかのように。ジョーンのほうも、ファイファーに対して これを見て、ゲイエは悲鳴を上げた。彼は、心の底からグレース新たな感情を抱いていた。おそらくそれは、彼女の愛の、新しく進 を憎んでいた。だが、それは、グレ 1 スが自分自身を憎む気持と比化したかたちなのだ。 べたら、ものの数にも入らない。彼はグレースを止めようとした。 : だが、ジョーンは、あんなことがあっ 二人は愛しあっていた : が、その力はあまりにも弱かった。彼もまた捕われていたのだ。 たばかりだというのに、早くも賭博への衝動に駆られていたのだっ 追いつめられたのか、まるで強姦犯に襲われたクローゼットにま た戻ったように、グレースはゲイエにつかみかかった。だが、今の 彼女には武器がある。グレースは死を念じながら、絶叫の中に彼を 閉じ込めた。ゲイエの血圧は、はらわたを締め上げられたように上 昇した。脳内血管の弱いところをグレースに見つけられたのだ。や がて、それは、ぶつりと切れた。 その攻撃でグレースの力が弱くなったすきに、ゲームマスターは ほんの二、三秒で正常な意識を取り戻し、全員の接続を切った。ゲ こ 0 こ 0 7
( 1955 ) などがある。ウイルスン・タッカ ーの The col れ〃 4 れ比 ( 1957 ) で は、ひとりの人間が二つの個体となって同 一時点に存在すると、そのうちのひとりは 消えてなくなるという仮説が導入される。 そこから引きだされる小説の緊迫感は大き タイム・パラドックスものの模範例は、 閉じた輪を複雑にした小説である。二つの 古典はともにロバート・ A ・ハインライン の手になるもので、「時の門」 "By His 可能となり、かくして主人公は自分の父親 にして母親ともなる。近年の作家では、ロ ト・シノレヴァーノ、一 グがタイム・パラ ドックスの設定をたびたび使っている。初 期の長篇 & ゆ 5 。 % な 4 ( 1958 ) では まだ初歩的だが、『時間線を遡って』の / んわ・ ( 1969 ) は、無能なタイム・クー リエ、すなわち歴史観光ガイドたちのから む巧妙で、込みいったファルスに仕上って いる。また "Many Mansions ” ( 1973 ) は、ひびの入った結婚生活に終止符を打つ ため、それそれ過去に飛んで相手の先祖を 抹殺しようとする夫婦を描いて、現実と幻 想をみごとに重ねあわせている。ディヴ ィッド・ジェロルドの The ー 4 れ W アん 0 。どイ丑襯ゲ ( 1973 ) は究極のタイム ・パラドックス小説をめざした作品で、こ れまで試みられたヴァリエーションがすべ て持ちこまれ、無限に増殖してゆく。 タイム・パラドックス小説は、数ある S F テーマの中ではきわめて特殊なところに 位置している。非常に窮屈な法則の中から 作家たちが新機軸をひねりだす、その工夫 の才が身上であり、その意味ではミステリ の密室ものに似ている。多くのタイム・パ ラドックスものは、建前では、古代から哲 学的な論争の的であった決定論と自由意志 の問題を扱い、肩のこらない感じでその一 翼をになっているが、それらをいま忘れが たいものにしているのは、形而上学的な深 みではなく、むしろロジックの巧みさであ 〔 M J E 〕 : ツミ : を↓第 『時の門』ロぶート・ A ・ハインライン ( 「時の門」所収 ) Bootstraps ( 1941 アンスン・マクドナ ルド名義 ) と「輪廻の蛇」“ ' A11 You Zombies— ' ( 1959 ) がそれである。前者 では、一連の出来事を経て男が未来へ連れ ていかれるが、のちには彼がその出来事を 起こして過去の自分を先導することにな り、単純な状況があやとりそこのけのこん がらがったものになる。後者では、ひとり の人間が自分の親になりうるという出来事 の連環が語られる一一親がひとりだけなら 遺伝学的に不可能だが、戦略的な性転換を あいだにはさむことによって理屈としては 〔次号につづく〕 XVIII 262
の部屋で、まず接続の感じをつかんでみてはいかがでしよう」男は 「しかし、事故が起こるとしたら、それは大脳接続のせいじゃない 無関心そうに目を伏せた。 : 、 カ実際は、骨董物の机にはめこまれた のか」 「やはり、このゲームは、お客さまには向いていらっしやらないよ端末の O スクリーンを見ていたのだ。 うですね」 ジョーンは、ファイファーがかすかに鼻翼をふくらませているの に気がついた。すっかりその気になっているんだわ、と彼女は思っ 「この店には、ここで遊んだ客全員の、公開をはばかられるような た。「ねえ、カール、もうやめて帰りましようよ」 情報が残っているんだろうね」 「接続をしても、そのようなことは決して起こりません。しかも、 「ミス・オッールのいうとおりかもしれませんよ」しかし、その言 私どもにはお客さま方の秘密を守る責任があります」 葉とは裏腹に、男はファイファーがもはや自分の思いどおりになる 「自分たちの安全のためにも、だね」 ことを知っているようたった。 「おっしやるとおりです」責任者は苛立っているようだった。 「私は・フラインド・シェミーをやりたいんだ」そういうと、ファイ 「プレーヤーどうしがお互いの思考を読み取れるのなら、カードをファーは振り返り、ジョーンをにらみつけた。彼女は、思わず息を 呑み、もしゲームに負けたら、この人はあたしにも犠牲を強いるつ 伏せておいても仕方がないだろう」 もりなんだわ、と思った。 「そう、そこなのです」責任者とファイファーのあいだの緊張は、 それをきっかけにしてほぐれたようだった。「うちのゲームは、シ「今、九人制のゲームをやっている最中でして」と、責任者はいっ ュマンドフェールに少し手を加えたもので、・フラインド・シェ、 た。「参加者が九人、思考妨害役のお連れの方が九人。あきができ と呼んでおります。カードはすべて伏せてください。もちろん、偶るまでお待ちになってください。 - - ですが、みなさまお疲れですし、 然の力にも左右されますが、ゲームを決めるのは自制心です。まカジノの普通の参加費に何がしかの額を上乗せしたゲーム料を要求 ず、ご自分の思考を・フロックしてください。その上で、相手方を罠なさるでしようから、かなり高くつくと思いますよ」 にかけてカードをさらけ出すように仕向ける。お連れの方とつなが「何時間待てばいいんだ」 ったほうが有利だというのは、そこなのです」 男は肩をすくめた。「もう一人、先にいらっしやったお客さんが ファイファーはジョーンを一瞥した。「そこのところを説明してお待ちでして。その方は、ダ・フルスでもいいとおっしやっています が、どうでしよ、つ。 待つのはやめて、お二方でゲームをなさって くれ」 「簡単なことですが、あなたがゲームをしているときに、お連れのは。そちらの方も、やはり初心者なのです。もっとも、連結なさる かなりの経験をお持ちですが。もちろん、お待ち 方の思念があれば、相手方に思考を・フロックするときの役に立つの奥さまのほうは、 になって、ほかの : : : 」 です」責任者は答えた。「しかし、多少、練習しなければ、うまく ファイファ 1 が承諾して、ジョ 1 ンと二人でさまざまな書類に指 ゆくものじゃありませんから、賭けるものがあまり高くつかない別
下さい。わたしも書くように努めます。何かあったら必ず知らせまも仕事のある身だから、いつも一縉とメルニアが書いているのは誇 す。 大表現であろうが、瑕さえあれば共に時間を過ごしているのは事実 元気でね。 だろう。この件についてメルニアは、やっかみ半分うんざり半分な どといっているものの、彼女自身がどう感じているかは、具体的に はよくわからない。彼女は何の気なしにか、意識してわざとか、契 約異性なる存在についての感想を、何もしるしていないのである。 読み終って、キタはゆっくりと息を吐き出した。 ハイドーラン・ 3 ・トコウがテロイドンへ転勤になったとい 長文だった。 うのは、予想外であった。どういうポストへ廻されたのかは不明だ 書いたのがメルニアであることを思えば、なおさらである。 けれども、メルニアが栄転と書いているのだから、昇進したのであ それに、単なる儀礼としての便りでもなかった。 ろう。 ハイドーランに敬意と何とはない親近感を持っていた彼に 最初の、自分への忠告を、彼は苦笑いと感謝の気分で読んだ。メ は、うれしいニュースであった。行く先がテロイドンというのも、 ルニアらし、 ししいかただと思った。 縁があるという感じがする。ョゼテンをあとにした彼は、まず一五 彼女がいまだにヨゼテンにおり、当分はレクス家を嗣ぐためにド星系第一惑星のテロイドンで詳細説明と再訓練を受けたのだ。 ( 彼 シラーンに帰らなくてもいい立場だということについて、彼は正直はそこでふと、メド情報官とのあの会話を思い浮かべたのである ) なところほっとした。メルニアはドシラーンに戻れば、司政官コ メルニアは、タズテのこともしるしていた。待命司政官など及び スの世界とは疎遠になるだろうし、そうなれば彼はひとりの友人をもっかない上級の官僚や有名人がしばしば行く、高級レストランの 失うことになるからだ。帰らずに済む事情に対しては、なるほどそ例のタズテである。彼はメルニアと食事するとなると、ほとんどい んなこともあるのか、と、納得したようなしないような、そんなもつもそこであった。目立たずに済んだからである。そのタズテヘ彼 のかなとの印象を抱いた程度である。 女はあれ以来行っていないという。彼と一緒に食事したとき以来、 工ガ工とレベン , ーー同期生でヨゼテン行政官センターに籍を置く行っていないというのだ。面倒でその気にならないからと彼女は釈 工ガエ・ << 4 ・ライスクと、宇宙生物学を専攻しているという明しているが、これは彼に何かをいいたかったのだろうか ? レベン・ 0 ・ザースが契約異性の関係になったという報告に、 : つまらぬ推察はやめておこう。 彼はやはりそうかと頷いた。録画でハイドーランに担当者指名を告 こうした事柄は事柄として、彼を驚かせたのは当然ながら、メル げられることになったあの夜、彼はメルニアとかれらの四人で、飲ニアの心境の変化であった。あれほど待命司政官の生活の快適さを みかづ議論をたたかわせたのである。そのさいエガ工はレ・ヘンを契口にし、享受していたような彼女が、担当司政官を志向するように 約異性にしようと思う、と、彼に喋ったりしたのだ。ま、ふたりとなったとは : : : 彼女はきっかけとなった事由を並べているし、それ
ジョイ・スターリングの野郎め ! 交管局のジョイが、この男の すべてが。何倍にも増幅されて ″グレタが、オート。 ( イロットで急上昇を開始したのを意識する家で、″事情聴取″してみることをすすめたのだ。 間もなく、爆発的な音と光と匂いと味のイメージに圧倒されて、お「わかりました。しかし、わたしのポスが納得するかどうかーー」 「納得しなかったら、どうするね」 れたちは、ひきずりこまれるように気を失った おれは、にやりと笑ってみせた。 おれは、卓の上の灰皿を、ばんやりながめていた。耳には、まだ「ポスも、ここに連れて来ますよ。再上映はできるんでしよう ? 」 ガンガンするシンセルビートのリズムが残っている。目からは、や「できるさ。いつでもね。それで駄目なら、こいつが親機とリンク できる距離まで行って、もっと迫力のあるやつをーー」 っとオレンジ色の光の洪水が薄れて行くところだ。 そして、鼻と口には おれは身ぶるいした。 おれは、頭を振った。 「遠慮しておきましよう。あれだけ離れた宙域でも、騒音と悪臭の 「わかってもらえたかな ? 」 ″放送″に悩まされてるんですからね。″サポテン″の星に、調査 男の声が耳に入って、おれはびくりと身をふるわせた。 隊を送りこむことになるでしようが」 目を上げると、棚の上に置いた標本箱と、にやにや笑っている男「おれはまっぴらだね、行かないよ」 「わたしもごめんです」 の顔が見えた。 「間違っても、短気を起こして、惑星ごと破壊しようなどとしない 「あれが、″サポテン″ですかーーー」 自分の声が他人の声のようだった。 ことだな。核爆発を反復されたら、苦情じゃ済まないぞ」 「あの時、ああするしかなかったこと、おれたちに罪はないこと。 「″親機の上に、″祖父機″がないとも限りませんからね」 男は、″サポテン″の容器をポンとたたくと、立ち上がった。 あったとしても、その罪はもう、充分すぎるほどっぐなわれている こと。わかってもらうには、身をもって体験してもらうのが一番だ「さて、もう六時前だぜ。そろそろ勤務時間も終わったろう。どう と思ってね」 だい、一杯やって行かないか ? 」 おれは、もみ手をしながら、元気よくうなずいた。 おれは、無言でうなずき、握りしめていた両手をほどいた。男 「いいですね。あのうーー・フライド・ポテトはありますか ? 」 は、銀色に戻っている″サポテン〃を、箱ごと、何か特殊な容器の 中にしまいこんだ。 「実際は、この百倍もひどかったんだがね。こいつはほんの、モニ ターにすぎないんだから それでも、みんなわかってくれた よ。放送著作権審議会の連中も、交通管制局の奴らもね」 8
覗かれても、気にしちゃ駄目よ。あたしは味方なんだから」 「おれは読めないままで勝負している」不安げな声たった。 「ムッシュ・アン、カードをお取りください」ディ 「それは向こうだって同じよ」 た。ゲームマスターは、ファイファーにうなずきかけ、白紙のよう だが、なぐさめにはならない。二度つづけて負けた彼は、最初の な無色の思考を送ってきた。 ゲームを落したのだ。 ファイファーは、カードのはじをめくった。ダイヤのジャックー もし次のゲームも取られたら、心臓まで取られることになってし ーっまり、ゼロ とス。ヘードの二だ。もう一枚カードを引かなけまう。その心臓は、白想か何だか知らないが、喉もとまでせり上が れば。 ってきて脈打っているようだった。 「自分の札のことは考えないで」ジョーンが叫んだ。「テー・フルの 「もっと冷静になるのよ」ジョーンがいた 向こうから、何か届いてこない ? 」 「このままだと、みんな筒抜けだわ。あたしを信じて、よろいを脱 ファイファーは、自分の思いを聴き取ろうとするかのように、耳いでちょうだい。そうじゃないと、手伝えないわ。あたしを中に入 をすませた。顔を上げて相手を見ようとはしなかった。テープルのれて。今のままじゃ、相手をますます有利にするだけよ。合体しま 向こうの自分の顔ーーあるいはあの毛むくじゃらの少年の顔ーーにしよう : : : 夫婦みたいに」だが、ファイファーは皮肉をいえるよう 見つめ返されると、狼狽し、魂を奪われるような気がするからだ。 な気分ではなかった。恐怖が、徐々に、じわじわ、高まっている。 内臓をすべて失い、体が空洞になった、抜け殻のような女のイメー 「何だったら、ゲー人を降りるという手もあるのよ」 ジが、ふと彼の心に浮かんだ。人間の形をした袋のようだと思っ 「ろくすつ。ほ勝負もしないうちに「内臓を手放せどいうのか ? 」フ こ 0 アイファーの球体のなめらかな表面に亀裂が走り、ジョーンはすす 「忘れないで、そのイメージ」と、ジョーンがいった。「あとで使んでそれに呑み込まれていった。球体の表面が変化し、山脈が盛り えるかもしれないわ」 上がり、みずみずしい樹々や草花が生え、砂漠が広がった。ジョ】 「相変らず札は読めない」 ンとファイファーの相反する気分の混りあったものだ。 「待つのよ。あせらずに」 ファイファーはもう独りではなく、保護されていたが、同時に危 「もう一枚引きますか」ディ ーラーがファイファーに尋ねた。ファ険なほど無防備たった。 ) 彼の内部の、人間臭い湿った闇の中で、ジ イファーも相手も、三枚目のカードを取った。 ヨーンは決してこれにつけこむことはしないと約東した。ファイフ 相手がどんな札を持っているのか、さつばりわからない。どうやアーの死んだ母、ぶよぶよの体をした、のつべりした顔の、骨太の ら、おたがいにわからないままの勝負になりそうだ。カードを表に女の姿が、つかのま、彼女の前をよぎった。フュイファーがその母 して、ディ ーししった。「六と五で、ムッシュ・テュ 1 の勝を憎んでいること、生前も今も憎んでいることまで感じ取れた。 ち」ファイファーはまた負けたのだ。 次の札ーー二番目のゲームの最初の手ーーは、クラブの五とスペ
これまでだって、おれはどんな だ。これは新しい試練にすぎない。 試練も乗り越えてきたはずだ。彼はそう我が身にいいきかせた。 ンヨーンが、自分の存在を示すため、ファイファーの上に降りそ そいだ。二人は、防衛の手段として、幾何図形の中で会話をかわす 練習をした。文字どおり、その図形は、球体の二点を結ぶ最短距離 の方角に雨あられと降りそそいでいる。 ゲームマスターが参加者全員にサイコンダクターを開放したと き、ジョーンとファイファーはすでに準備を終えていた。 だが、二人の目の前に出現したのは、なまはんかな準備など吹き 飛ぶようなものだった。正確無比な分身が、テーブルの向こうから ベルゲンガーたちには、無論、 二人を見ていたのである。そのド フ 1 ードよよかっこ。 「まず最初に、何を賭けるかを決めていただきます」コンダクター : ィーラーがいった。ゲームマスターの思考 には接続されていなしテ は、無色透明なままでいる。「臓器一つにつき、ゲームを三度行い ますが、それそれのゲームは三回勝負で決着がっきます」ディ ーは言葉を継いだ。「一人のプレーヤーが二度つづけて勝ったとき には、三度目の勝負、三度目のゲームは行われません」冷ややかで とげとげしいその声は、何事も厳しく、思いどおりにはならない外 界から無遠慮に割り込んできた。 「相手方はどうしておれたちの顔を知っているんだろう , ファイフ アーは、対戦相手がつくりだした幻影に動揺していた。 だが、ジョーンが返事するより早く、彼は自分で答えを出した。 「そうか、意識下の思考を読まれているんだ」 「そう、あたしたちが自分に対して抱いているイメージを見られた 日。与 a 本の三洋堂いりなか店 ( 〒愛知県名古屋市昭和区隼人町七ー一 ) 。ヒンポンポンポーン 毎度御来店ありがとうございます。お客様に御案内申し上げま す。名古屋の学生街の南西に位置する当店は地下鉄「いりなか」駅 から徒歩一分、杁中。ハスターミナルの真正面にございます。店内は と申しますと、四階屋上は通常使用されておりませんが、年二回、 五月と十一月の三日に同人誌即売会「青空ぐらふいつく」を開催し ております。三階コミック売場には各種マニア向けコミック ( 成人 向きを除く ) を多数とり揃えており、きっとどの御ビヨーキの方に も満足いただけることと思います。また、三階奥東側には、当店の 第二の店名である「名古屋アニメイト」のコーナーがあり、新旧ア ニメ商品、画材、アニメビデオ等がございます。一階文庫コーナー の棚には各文庫が並び、また書籍コーナーには新たにコー ナーを開設し、早川 全集をはじめと するさまざまな 書籍を多数集めて、 お客様の御利用をお、 待ちしております。 本日は御来店あり がとうございまし ビンポンポンポー ン 7