た。四にしかならない。もう一枚引かなければ。彼は、自分の思考 たのに。 4 6 グレースのほうは、自分でも他人でも、どんどん利用してはばかをジョーンから引き離した。ジョーンは、今、彼を包み隠そうとし らない売春婦だった。大いなる宗教的な情熱に燃え、ある団体に入ている。彼女なら、ゲイ = とその淫売に襲いかかり、丸裸にして、 ろうとしたものの、サイコンダクターを使ったギャンブルに憑かれ手札をあばくことができるだろう。ゲイエの心臓は、単なる臓器で はない。少なくとも、今のファイファーには、別の意味を持ってい て排斥された女。だが、ファイファーが覗けたのはそれくらいだっ ゑそれは人生のすべて、人生そのものなのだ。相手からそれを奪 た。この冷たい女には、ほかの誰よりも強いカのたくわえがある。 最後のゲームは、まるで心理的な外科手術だった。メスで切り裂うのは、つかのまにせよ人生を征服することだった。ひいては、人 き、棍棒で叩きつぶす。一回目はファイファーが勝った。喜びがこ生を肯定することにも通じる。生きることに通じる。不意に彼は、 父親のことを考えた。 み上げる。臓器はたくさんあるのだから、もっともっと楽しみたい 「よろいをおろして」ジョーンがいった。「血が流れているわ」彼 気分だった。 次はファイファーが負けた。ゲイ = に丸裸にされたジ ' , ・ンが、女は、ファイファーの心に深入りしようとはしなかった。そんなこ 知らないうちにファイファーの手札を明かしてしまったのだ。ゲイとをすれば、彼の無防備な姿が危険にさらされるたけだ。 工は彼女を押し開き、秩序と能率の支配する層を突き破って、怒り「手を貸してくれ」ファイファーはいった。ゲームに勝っかどうか : 心臓を取られるかどうかが、この一番で決まる。 と、情欲と、抑えきれない大海のような憐れみを白日のもとにさらが : ふたたびジョーンは外套になり、大気になって、白想の冷たい糸 した。その様々な感情の群は、ぬるぬるした極彩色の蛇のように、 を彼の思考に織り込んだ。 彼女の体に巻きっき、のたうちまわった。 これが愛というものなんだわ、と彼女は思った。 ファイファーは、ほかのことに気を取られ、彼女を守れなかっ ゲイエのカードが読めなかったので、ファイファーは苛立ちなが 抑圧を解かれたジョーンの最初の感情は、ファイファーへの復讐ら、ジョ】ンにカ添えを頼んだ。ゲイエは沈着そのものだった。グ といっても、単にゲイエを覆い隠し 冫 ~ ノ力ない。 ナ彼よむをレースのカ・ハ 心、彼の心をすべて覗き見たいという欲望だった。・こが、 / ー ~ 開き、氷のように冷たく、神経を麻痺させる白想の中に彼女を埋ているだけで、極端な力を使っている様子はなかった。 ジョーンは心を空白にして、無我の境地に入った。が、思考は集 め、言葉には出さずに詫びた。柔かく丸味を帯び、愛にも等しい気 持をこめて送ったそのなぐさめの思念を、彼女は信じなかった。だ中され、冷たい氷の針になっている。それを使って相手方の思考を 刺し、さぐりを入れた。鉄のように固く、水のように流動的な、点 が、彼を攻撃することもできなかった。今はただ受け入れるだけな のだ。 と線の無常の世界を泳ぐようなものだった。ゲイ工とグレースの思 ディーラーはファイファーにダイヤの三とクラ・フのエースを配っ考は、螢光スクリーンの光点に似ていた。 こ 0
ズミたちをつついているすきに、一匹のボアが音もなく暗がりからがその一方で、どうやら僕を見張っていたらしい するすると出てきて、ネズミを一匹残らず食べたあと、再び音もな「きみはどこで眠っていたんだ ? 」僕は好奇心からたずねた。はじ 8 くいなくなってしまった。男はヒステリーを起こした。僕はヘビだめてここへきた日、僕は寝袋を見つけるのに数時間費していた。 って食べなければならないのだと指摘しそうになったが、本当はヘ 「エア・マットレスを見つけたわ」彼女は相変わらず腹立たしげに ビも人間もどうでもよかった。僕は完全に中立なのだ。 言った。「あなたが起きるまでひと眠りするつもりだったんだけ 一番若い客は十歳ぐらいの男の子で、彼はミズーリ州ポスワースど、目がさめたら、あなたはお客の相手をしてた。彼ゃー・ーあとの の閉鎖されたガソリン・スタンドから店にはいってきた。そこは信全部の客に対するあなたの扱い方を見てからーーーわたしはあなたに 号が一カ所しかないような町で、あんまり客をよこしてくれなかっ近よらないことにしたの。あなたには思いやりってものがないの ? た。その子はジーンズに青いロイヤルズの野球帽をかぶっていた。 思わしくない結果になったときのあの態度はなによ。せめて助けよ 前に失くした犬笛を捜しているのだった。僕はそれを見つけてやつうと努めることぐらいできるでしよ」 た。その子にも大笛にも何事もなかった。僕もそれでよかった。 しいことだろう 「僕はだれの邪魔もしない。何が起きようとね 僕は溜息をついて立ちあがった。もうだれもはいってきそうになと、悪いことだろうと、その中間だろうと、ほっておく」 。立った拍子に目の隅が大きな影をとらえたので、そっちをちら彼女は短い髪を乱暴にふり動かした。髪をゆすることより、その りと見やった。どうせ例によって棚のあいだにするりと逃げこむの動作で軽蔑を示すのがねらいだったんだろう。「耐えられないわ、 だろうと思ったが、あにはからんや、それはそこにじっとしていそういうのって。どうしてそう冷淡なの ? 」 た。僕が見ているのは、白くて長いクローシュ織りのショールにく 僕は肩をすくめた。「どうだっていいじゃないか。とにかく、喜 るまった、アジア系の若い女だった。彼女はデ = ムのスカートとスんで帰る客だっているんだ」 トライ・フのハイソックスをはいていた。 「なんですって ? 」彼女は驚いたようだった。「なんにもわかって 「あなたって胸くそが悪くなるような人ね」彼女はニューヨークな ないのねーー」言葉を切って頭をふった。「たぶん自分本位という まりで品良く、嫌悪をこめてしゃべった。 ことならわかるんでしようけど。もしわたしが何かを求めてここへ 自分でわかっていても、他人の口から聞かされるのは気にくわなきたら : ・ 。困ったことになっても、あなたから助けてもらうのは かった。「少し前からここにいたんだな」 まっぴらだわ」 「なるほど、そいつは筋が通っていると思。・ーー」 「二日ってとこかしらー女は片手で髪をかきあげた。髪は短くぶつ きらぼうに切ってあった。「わたしがはいってきたとき、あなたは僕はロをつぐんだ。彼女が隣りの棚に載った栓をした大きな金属 眠っていたわ」 の瓶に手を伸ばしたからだ。彼女はそれを僕めがけて投げつけた。 それを聞いて安心した。彼女は僕同様、ここの人間ではない。だ僕は身体をひねるのがせいぜいで、瓶は肩甲骨に勢いよくぶつか
、彼女はちょっと言葉を切って、つばをのみこんだ。「関心があ と思っている。たからそうふるまっている。 「そのチャンスですが、どういうものだったんですか ? 」靴のサイるのは絵なんです。それで今、取り逃したチャンスをつかみたいと ズか何かでも訊くように、僕はふり返ってたずねた。長々と歩くこ思っているんですの。あの頃はわたくしの腕もまだ冴えていました し、時間だって、絵を描くうえでのコネだって、たつぶりありまし とになりそうだった。 たから。くだらなく聞こえるでしようけれど、絵はわたくしがやり 「それが」彼女は僕のうしろでちょっと息を切らしていた。「わた くし、昔から芸術家になりたかったんですーー画家に。描きだしたとげた唯一のものなんです。今さら一からはじめる時間はわたくし のは十五年前で、そのときアクリル画のレッスンを受けはじめましにはありません」 たの。油絵もやりました。自分で言うのなんですが、かなりの腕彼女は泣きだした。 でした。展示会に出品した絵が何点か売れましたし、自分で二、三僕はうなずいた。白い光は停止して、上のほうの棚に載っている 展覧会を開いたりもしていましたわ。でも、くじけてしまったんで大きな、蓋のない木箱の上を行きっ戻りつしていた。「ちょっと待 っててください。僕がそれを取ってきます。目的のものをまちがい す。描きつづけるのがとても苦しかったんです」 白い光が別の通路へはいった。そこは一段とごみごみして、薄暗なく取るのはとても重要なことなんです。あなたがまちがったやっ かった。今までの場所より暗くなったぶんだけ光は・明るく見えたを手に入れたら、今度はそれから離れられなくなっちまうんですか が、彼女には光は見えなかった。僕にしか見えない。そのことはこら」 彼女はこっくりして、僕が木の棚をよじのばるのを見守った。 れまでにやってきた客たちの態度からわかっていた。だがあいにく ハリン島へ行 「たとえばですね、もし僕が低速貨物船を操縦してサ と、僕の光は僕には見えなかった。 僕の影でも彼女の影でもないものが、目の隅をかすめたが、無視くなんていう、だれか他の人の失くしたチャンスをあなたに与えて した。図体のでかい何かがここで自由に動きまわっているとしてしまったら、そりや、そういうこともありますからね。あなたはサ ハリンへ行かなけりゃならない」 も、どうやらそいつは恥ずかしがり屋らしかった。べつだん珍しい ? : : : まあ。それじや気をつけてくださいな」彼女は ことではない。 「わたくしが 彼女は話をつづけた。「六、七年前にわたくしのお友だちはこそ鼻をすすった。「いえ、その、ゴム手袋か何かお入り用じゃないか って再び学校へ通いはじめました。絵より勉強のほうが楽でしたわしらっていう意味で言いましたのよ」 わたくしは修士号獲得をめざしました。ただ通うだけでしたか棚は埃だらけで、じつにきたならしかった。手がクモの巣にひっ かかり、羽根におおわれた小集団をかすったが、なにしろ薄暗い通 ら、本当は急ぐ必要も、成績を気に病む必要もありませんでした の。それはただの暇つぶしで、絵を描くことよりずっと気楽だった路なので正体は不明だった。古ぼけたつぼを足でわきへ押しのけな んです。ただ、わたくしには関心が持てませんでした」声がつまがら昇っていくと、棚の上でちつぼけな無数の足があわてて逃げて
ば、時日が経過し前へ出ようとすればそれだけ少しずつ作業がむつ スボア市に飛ぶのである。 かしくなってゆく、これはそのひとつのかたち、ひとつの例とも解 今回はこの前とことなり、往復の全行程が空路であった。ジャク ト家の駐車場へ直接着陸し、そこからまた飛び立っ予定である。今釈できるのである。 司政官機は上昇する。 度のウイスボア市行きは、ジャクト家での談話会という、に 雲の中に入った。 とっては ( また、植民者たち一般にとってもそうと映るだろうし、 さらに上昇すると、青空の下に出る。 そうであって欲しいところだが ) 司政官が旧交をあたためるための 個人的色彩の強い行動なので、わざわざこのことを広く他に知らせそうなったところで、眺めが大して良くなるわけではなかった。 る必要はなく、かっ時間の無駄遣いを避けるためにも、こうした方青い空と雲海があるばかりで : : : 彼はシートにもたれかかって、考 えに耽りはじめた。 法が最適だと、が判断し準備を整えたのであった。 この点、キタにも異存はな、。 タトラデンのすべてにわたる状況や情勢を分析し総合して、必要 トツ。フクラスの名家であるジャクト家を訪ねる : : : それも、つい とあればしかるべき対応を模索し実行しなければならない。考える この間舞踏会へ出席したというのにまた出掛けるというようなこと時間を得ると、ひとりでにそれらに思いをめぐらせるのが、いつの は、なるべくなら知れ渡らないほうがいいのだ。新しい司政官はジ間にか彼の習慣になっていたのだ。 そのとき、彼の意識を領していたのは、この前の自分のウイスポ ヤクト家と結びつこうとしていると解釈されるおそれがあるからで ある。もちろん、だからといって何も隠密に行動するわけではなア市行きに対する、タトラデンの人々の反応のことである。タトラ く、問われれば正直に説明する手筈になっているものの、こちらかデンの人々といってもこの場合、・フ・ハオスは除外するのが自然だろ ら宣伝して廻ることはないのであった。それでなおかっこの事実をう。司政官がウイスボア市へ行き、上陸し、ウイスボア州立西北養 知り、悪意で触れ歩く者が出てきたら、今も述べたように、単なる育院を訪ね、ジャクト家の舞踏会に出席したということは、自分た 旧交のためと釈明すればいいし、それで大半は納得するに違いなちの居住地域を保持している。フ・ ( オヌたちには無縁の出来事だから であり、人間と混住しているプ・ハオヌたちは多少かかわりがあると とはいえ、キタの感覚では、これは結構持って廻ったやりかたでしてもそれらの声や意見は人間たちより現実に下位に置かれている ために、表面には出てこないのだ。従ってこの件に関する限り、。フ あり、何となく不透明だとの気持ちは拭い切れない。拭い切れない オスの反応を見定めるのは至難事であり、それほどの意味も持た けれども : : : いずれそのときが来てはっきりと方向を打ち出し敵と 味方を鮮明にするまでは、総花主義で押してゆくというこの方法をなかった。もちろんロポット官僚たちは、。フ ' ( オヌがこのことでど とるからには、どうしてもこのような仕儀にならざるを得ないのでう話し合い、どんな意見を持ったかを拾い集めるための作業はして ・ : 覚忸し腹をくくってやり通すしかないのであった。いいかえれいる。に命じられたからだが : : : データらしいデータはほと
心に刻みつけたんです。やはり、わたしたちは担当司政官になるべ 、それが自分のとるべき道ではないか、と、考えはじめたんだ。 くこのコースを進んできたのだから、期待を裏切るべきではない、 きっかけは、三つ。 え、自分から進んで担当を引き受けたいと、そんな気持ちになっ ひとづは、あなたがタトラデンへ担当司政官として赴任したときい たのね。 の、目の輝きね。これからの仕事に期するところがあるのが、よく おかしいかな。 わかった。自覚はしていなかったものの、わたしは羨しかったの だけどこれが、現在のわたしの心境。ま、繰り返しになるけど、 ね、生き甲斐をつかんだあなたが。あのあと、だんだんと、待命司 政官の気楽さというのは、つまり中ぶらりんの気楽さに過ぎず、本現代のような状況では、わたしに機会が与えられるとは、まず考え られないでしようが : 当の生活とはいえないような感じがしてきたの。 ふたつめは、後継者指名云々のやりとりを通じて、ドシラーンや結構長い手紙になってしまった。 レクス家のことをあれこれと知らされたせいでしようね。前からよ無理をしないで、その余裕があったときでいいから、またお手紙 く承知していたけど、貴族や貴族社会というものが、形式とある意 味での華やかさや心地良さで固められているようでも、実体は利害 にもとづく駆け引きの世界で、しかも当然ながら下部の人たちを土 △囲碁・将棋図書まつり▽ 台にして成立していることを、今更ながら思い知らされたわけ。 ・ⅱ月 1 日金↓ⅱ月日出・グランデ 1 階・ ま、綺麗ごとをいっても仕様がないわね。わたし自身がその貴族の △大学入試「赤本」特設コーナーマ 出で、貴族としての特権を亨受してきたんだから。でも、それに引 きかえ、おのれの利害を考えることなく任務を果たす担当司政官 ・ⅱ月 1 日金より・ブックマート 2 階・ は、もっと率直に全力投球できるんじゃないかと : : : そんな感慨を 持つようになったんだ。 学 趣演ア 弋築化職会庫童 ノイト 三つめの、これがもっとも直接的なきっかけなんだけど、 ロ書 型 0 カテ建理就社文児 行ド画フ一 1 ランが転勤前にわたしたちを叱咜したんです。司政官とは何か、 学機生経教詩家 担当司政官とは何か、待命司政官であるわたしたちはどういう存在 0. ンク噺 0 グ 田 3 典気学律学学術 角ボ、一、芸庫志心 なのが、随分はげしい言葉でハイドーランは説いたわ。きみたちは の 泉、「文文泉」辞電医法哲文引 人 初心を忘れたのか、ともハイドーランはいった。おしまいの頃には 田町皆皆白皆比白比白皆 門書 千椡 6 5 4 3 21 地 涙を浮かべて、話していたの。建前として教えられるのとはまるで 違う迫力だった。わたしは感動して、 ( イド 1 ランがいったことを・ 3
ゲイ工とその妻が、思考も含めて、丸ごと彼を呑み込もうとして 次の勝負にも勝ち、ファイファーは二番目のゲームをものにし た。これで一対一だ。今度のゲームで決着がつく。ファイファーに 救いに来たのはジョーンだった。ジョーンに引き戻され、彼はふ たたび、一面、真っ白な雪に覆われた球体に変った。ジョーンの冷は、必ずゲイエの心臓を取れるはずだという、冷静沈着な確信があ たい子宮に包まれたようなもので、もう安全だ。 った。だが、内臓のやりとり以上に、相手を丸裸にして、破減させ 「ら、あれを見て」その直後、ジョーンがいった。天の啓示のよたい執念のほうが今は大きかった。その執念は、すがすがしい河の うに、ツアイファーはゲイニのカードを見て取った。おい・ほれた妻ように、光を放ちながらほとばしっていた。 のイメージと一緒に、ゲイエの目の中に埋れた二枚のカード。 いっそう完璧で充足した現実感あふれ その彼のまわりの世界も変り、 るものになった。ギャン・フラーなら誰でもこんな勝負を夢に見るだ 瞬間、ファイファーはゲイエの中を覗き込み、思わず我を忘れた。 妻の名前はグレースだ。その肉体は、無数の外科手術と無数の身体ろう。勝てば極楽、負ければ地獄だが、それだからこそゲームに没 毀損ゲームで朽ち果てようとしている。彼女は『嘆きの天使』 ( そ入できるのだ。ジョーンでさえ夢中になっていた。毟り取ろう テー・フルの向こうの夫婦を一寸刻みにして、・フライ・ハシーを奪い 、大昔の映画だが、おれは見ている ) であり、ゲイエは道化だっ その屈辱を思うさまもてあそんでやろう。そんな気持が彼女にもあ った。あの二人はファイファーの敵だ : : : 彼の敵は、あたしの敵。 ートのエースとダイヤの五を持っている。 その直化よ、、 今や誰もが本性をさらけ出していた。戦いに倦み、心も体も疲れ ファイファーは、運がまわってきたのを感じた。ギャイフラーに はおなじみのこの高揚感。カードと慈悲深く一体化しているような果てていたが、このゲームに、凝縮されたこの完璧な時間に、四人 は没頭した。ファイファーは、ゲイエの顔を見ることができた。ゲイ 気分。怒りも、恐価も、憎しみもなく、勝利の感情だけがあった。 ゲイエが次のカードを引いて、運よく三でも出れば、九をつくられ工自身の思い描く顔と、グレースの見た顔の二つを。大きな鼻、浅 てしまうところだったが、ファイファーは相手の持札をコールして黒い肌、狭い額、大きな耳、だが、カのみなぎる顔で、野獣のよう に狂暴な美しさを持っているともいえるーーー少なくとも、グレース それを封じた。 その勝負に勝ち、ファイファーはジ「ーンに感謝した。イメージはそう思「ていた。ゲイ = 自身は、自分の姿に弱さを見て、頬の肉 の蓄えは貧困だったが、愛情を思念であらわした。ジョーンは、今のたるみを自覚している。 や彼のリズムと ( ーモ = ーの一部、いつもそばにいる伴侶にな「て株で大儲けしたにもかかわらず、ゲイ = は敗残者だ「た。数学者 、た。ジョーンは、みずみずしい緑の生い繁る彼の世界を優雅に歩をめざしていたのに、怠惰が高じて、二十五のときにやる気を失っ てしまったのだ。 く勝ち誇った猫の一群を夢見た。 素晴しい数学者になれたはずなのに。自分でもそれがわかってい その猫は発情し、やがて共喰いを始めた。 る 3
ためらいがちに、ライは地図の右上部の薄いオレンジ色に塗られしれない。そんなことは今まで一度もしたことがなかったのに。 た地域全体に、手のひらを重ねた。これならまちがいないはずだ。 黒曜石はライのくちびるに手を触れ、五本の指を動かしてしゃべ ハサディナだ。 る動作をしてみせた。話せるのか ? 黒曜石はライの手をどかせ、その下をのそきこむと、地図をたた ライはうなずき、男の顔に軽い羨望の表情がうかんで消えるのを んでダッシュポードにもどした。この男は字が読めるのだ、とライ見守った。ライも男も本来なら認めては危険なことを、たがいに認 はやっと気づいた。たぶん書くこともできるのだろう。ふいに、ラめてしまったのだが、暴力的行為へはつながらなかった。男は自分 イは男が憎らしくなったーー・深く、苦い憎悪。この男にとって読みのくちびると額をそっとたたくと、くびを横に振った。話すことが 書きの能力にどんな意味があるのだろう しい年をして警官ごっできないのか、あるいは話しかけられても理解できない、というこ こに興じているおとなの男にとって。とはいえ、現実にこの男にはとだ。疫病にもてあそばれ、重要な価値のある能力を奪い去られて 読み書きの能力があり、ライにはない。彼女は二度とその能力をもしまったのだ、とライは見当をつけた。 ライは男の袖を引っぱった。生き残った彼が、なぜロスアンジェ てないだろう。ライは憎悪と欲求不満と嫉妬とで、胃がむかついて きた。しかも、手から数インチ離れたところには、装填した銃があルス警察の職務を守ろうと決めたのか、ライには不思議だった。そ る。 の点を別にすれば、この男は正常なのだ。なぜ彼は家でトウモロコ だがライは ライは気持を抑え、血の色まで見すかすような目つきで、男をみシや、ウサギや、子供たちの世話をしないのだろう ? つめた。だが怒りは高まったかと思うと退いていき、ライはなにもどういうふうに質問すればいいのかわからなかった。すると男はラ しなかった。 イの膝に手を置いた。ライはもうひとっ処理すべき問題をかかえこ 黒曜石はおずおずと、だが、親しみをこめてライの手を取ろうとんだ。 ライはくびを横に振った 9 病気、妊娠、無力感、孤独の苦悩・ : した。ライは男を見た。彼女の顔にははっきりとした表情が刻まれ いやだ。 ていた。この社会に取り残され、生きつづけている人間なら、決し 男はライの膝をやさしくさすり、信じられないという笑顔を見せ て見まちがえるはずのない表情だ。嫉妬の表情。 ライは弱々しく目を閉じ、深い吐息をついた。過去に思いこが れ、現在を憎悪し、絶望と無力感をつのらせる、そういう感情はすこの三年間、誰もライに手を触れなかった。ライは誰にも手を触 ひと でに経験ずみだったが、他人を殺したいという、これほど強い感情れてもらいたくなかった。たとえ父親が喜んで家庭にとどまり、育 に駆られたことはなかった。自減しそうになって初めて、彼女はよ児の手助けをするとはいえ、これが子供をもうけるにふさわしい世 うやく家を出た。それ以上生きのびていく理由がひとつもみつから界だろうか ? 苛酷すぎる。この男は自分がどれほど魅力的か、自 なかったからだ。それだからこそ、黒曜石の車に乗りこんだのかも覚していないーー若く ( おそらくライより若いだろう ) 、清潔で、
の欠陥があるのかもわからない。 な意志表示をしたのだ。同じ身ぶりをくり返すつもりはない。幸い あごひげの男はため息をついた。自分の車に視線を向け、ライをなことに、若い男はライの身ぶりに応じて足をとめた。若い男は卑 $ 手招きした。立ち去るつもりらしいが、その前にライになにかしてわいな身ぶりをした。他の男たちが笑い声をあげる。ことばの喪失 ほしいようだ。いや。ちがう。ライを連れていきたがっている。た は、新たな一連の卑わいな身ぶりを生みだした。若い男は簡潔その とえ男が警官の制服を着ているとはいえ、法律も秩序も、そしてこものの身ぶりで、あごひげの男とライとのあいだにセックスの関係 とばさえもなくなってしまったこのご時世に、見知らぬ男の車に乗があると断定し、ライはここにいるどの男とも寝るだろう、その手 りこむなど危険きわまりない。 始めはこの自分だ、とほのめかした。 ライは万国共通の拒絶を表わす身ぶりとしてくびを横に振った ライはうんざりした面もちで若い男をみつめた。ライが若い男に が、男は手招きをやめなかった。 強姦されそうになっても、周囲の人々は傍観しているだけにちがい ライは手を振って拒絶した。男はまちがいようのない意志の伝達あるまい。ライが若い男を撃っても、やはり傍観しているだろう。 をつづけている。そしてそれは同時に、他の人々の心にひそむ消極若い男はそこまで強い態度に出るだろうか ? 的な関心をも引きだした。く , スの乗客たちがライに注目しはじめ彼はそうしなかった。それ以上ライに近づくこともなく、一連の 卑わいな身ぶりをしてしまうと、若い男はばかにしたようにくるり けんかをしていた男のひとりが、他の男の腕を軽くたたき、最初と背を向け、ライから遠ざかっていった。 にあごひげの男を、次にライを、指さしてみせたあと、ポーイ・ス あごひげの男はまだ待っていた。警官用リポル・ハーはホルスター カウトの敬礼のように、右手の親指とびとさし指を二本突き出しごとはずしている。両手を空にして、男はもう一度ライを手招きし た。その動作は非常にすばやかったが、遠くからでも意味がはっき た。銃は車の中のすぐ手の届くところに置いてあるにちがいない りわかった。あの女はあごひげの男の仲間だった。これからどうす が、男が銃を手放した行為に、ライは好感をもった。この男ならだ る ? いじようぶかもしれない。 この男もひとり・ほっちなのかもしれな 二本の指を立ててみせた男は、ライにむかって歩ぎだした。 ライ自身、三年間もひとりぼっちだった。疫病がライの手から ライはどうしていいかわからなかったが、その場を動かなかっすべてをむしり取っていった。子供たちをひとりずつ奪い、夫を奪 、妹を、両親を : ・ た。こっちへむかってくる若い男は彼女より半フィ 1 トは背が高 、十歳は年下だった。走って逃げきれるとは思えない。他の人に疫病 ( あれを病気といえるものならば ) は、生存者たちの仲をも 助けを求めてもむだだろう。周囲の人々は皆、見知らぬ他人だっ切り離してしまった。疫病は国じゅうに蔓延し、人々は新種のウィ ルスーー・新種の汚染・ーー放射能ーー神の怒り、にふれ、ソ連 ( 他の 一度だけ、ライは身ぶりで示したーー・若い男に止まれという明白国ともども、この国も沈黙のうちに減亡しつつあるのだが ) を恨む こ 0
TACIIIBANA これが噂の「ダス養成ギブス Ⅱ A Ⅱ M E に灯がともる。まるで巨大な獣が目を覚まし をは たかのようだ。 軽快なテンポて身体を揺らせながら、オー プニングが始まる とにかくこのライフ、自分の身体に自作の ダンス養成ギブス ( 工業用圧搾パルプをコン ニ = ロ ビューダライズし、予めプログラミングして おけば曲に合わせて勝手に動き出す機械 「巨人の星」の大リーグボ . ール養成ギブスをヒ プ下 ントにしたもの ) なるものまてとりつけ、。、 フォーマンスする花ハジメのパワーと、前 から録画していた映像に ( - その場で撮った生 の映像を組み込ませることで、数十台ものビ デオ・プロジェクターを、それ自体、生きて るかのようにあやつる Radical TV の、原田大 三郎、庄野晴彦のテクニックか見事に混りあ 、・つて、今までのライヴになかった、全く新し いショーを誕生させたのだ ニ時間近くのライヴの間、ステージを所狭 しと動き回る立花ハジメ。次々に 新しい映像を映すビデオ・プ ロジェクター。そして音楽。 つくば博ではな いかこれこそ、 ″人間と科学の 調和″である。 ックが好きだと いう立花 0 ジメ、次は どんなものを見せてく れるのだろう。 ” 0 0 0 M 0 ・「 TAIYO SUN 」 ( M ー凵 006 ミディレコード )
リ勺にやさしい漢字はなるべく使わな すが、一一百字詰は途中ことてす。しかも、原員自 いようにし、難しい漢字は必要に応じて使います。たとえば 、局 ての書き直しの時に無 つんので 〈尤も、これ程の大食漢にと「ても、流石にあの大盤ぶるま て 駄がなく、四百字詰は よさかん結 し いはこたえたらしい例えて言えば・・・・ : 〉などとやると、文 こを一カ 見通しがよくなるとい い半がの うことは言えるてしょ章を書きなれていないと思われることは必定てす。〈も「と ん も、これほどの大食漢にとっても、さすがにあの大盤振舞し ま ・昔のい 業とた 、。ことえていえば : : : 〉となるとふつうの る は」」 4 に - ん 4 に、らー ) し ワープロの人は関係 よ修」っ て こ田 5 十ー ト説みたいてしよう。 え章ナ ありませんが、自分だ おつむ 書書い文し凵ま 原稿の書き方のこまかい点については次頁の力「ミを御覧 けのために書くのなら しを 、こごくとして、ともかく要は読み易く、またふつうの本と しそできう ともカく、稿原稿の 読て 場合には鉛筆書きは不同じように書くということ、てす 文けす文 これて、ひととおり形式的なことはおわかりいたた : オ一 可てす。あ、それから 初 0 経今目を = 章 , 、やつ とと思いますのて ( 集字はヘタても良いから 本なセ最や「 一読はポを、 よツをも・すた くらナ トて 稿応トな 次に内容へと ( よ ていねいに聿日くこと ど工説 いほやす 投のスはすおは定で よの どテで丿請で判の 読みづらい原稿は編集うやく ! ) 進みま なンけがを座のも 」説自しょ - フ。 っトコわも導講かう 者の負担を増し、読む気をなくさせます。おまけ ここて問題にな てとス、る合指しし 体をつまらなく感じさせる効果があるようてす。 、ひテめえ場て添なと るのか ( というカ しのンたらるしはえ さて、紙と筆記用具の用意がととの「たところて書きはじ っ法すコいもか参の使ば めるわけてすが、そこてもうひとっ用意しておいて欲しいの多くの投稿原稿の こ方ま、多でか持うか欲 ( う , はがん間をいるは が国語辞典。最近の投稿原稿の誤字の多さには目をみはるも最大の欠点てある 稿ら稿の読時稿とえの 。こごし、執筆中はあまり辞書を気にしないほのが ) 文章の意味 、もく原もにい原稿使む の力ありますナオ かわからない で劫るい内長接投。望 うがよいてしよう。なせなら、執筆に集中することがてきな ん、冫れ長間に直、すを い - フことてす。 - ん卩】 読まい期でくかでの くなるおそれがあるからてす。それと、自分のよく知らない !2 、、込な定まなすのも まさかそんなこと 込 字を辞書て覚えて使うのは禁物てす。いちおう意味だけはか 者しちし一るでまなのう と思われる人 カ ち集と持致す出送いみ上よ ろうじて合っていても、絶対に使わないというケースなども 持編 ) に合必が郵が込 あり、思いがけぬ恥をかくことが少なくありません。漢字のも多いてしよう。 ( を社にに果、人ー プロつばく見せところがさにあら 稿品版綱う結たる売 使い方如何は、文章を素人くさく見せた ル又作持出要よ、ます たりという効果があります。そしてプロ「ばく見せる秘訣てず、なのてす。た いていの人は、け すが、それは意外や意外、漢字をあまり使わないようにする 、品ん 0