考え - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1985年12月号
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1. SFマガジン 1985年12月号

笑をうかべた。 あがめてはいけない。神だけでなく、王もです」 「いまに、わかるときがきます」 「なんとまあ、そんなことをいってたら、酒ものめず、肉もくえ ョナは云った。 ず、いいこともできねえってのか。そしたら、いったい、何のため 「もっと時間があれば、・ほくのカで、イシ、トにも、光をみせてあ に生きてるんだよ、ええ ? すべての一切がっさいの楽しみが、な げられたでしように。・ほくには導師となる力も、その時もありませ くなっちゃうじゃないか」 ん。信じてくれ、とも云いません。でも、いっか、世界にもわかる 「いまに、きっと、イシ = トにもわかる日が来ます。ーー、、来ればい でしよう。・ほくは信じているのです」 、と思います」 ョナは、ひくくうなだれて云った 1 それは、ヴァラキアのイシュトヴァーンが生まれてはじめて、 「世界そのものにも、いっか、わかるときがあるでしよう。世界が ミロクの教えについてきかさ ロク教の信徒をそれと知って出あい ミロクを必要としている、世直しを待ちのそんでいる、ということ ミロクの教えについて、人びとはもっと知り、そしてれた瞬間であった。しかし、それは、さいごではなかった。ずっと を。いっか、 のちになって、ヴァラキアのイシュトヴァーンは、くりかえしくり ぼくは、ルキアの志をつぎ、 無視できぬようになるでしよう。 かえし、ミロクの教えとその信徒について、耳にせざるをえなくな 人間がすべて平等で、正しく、倫理に従って清らかに生きゑミロ クの真世界を地上に招来するために、ぼくのこれからの人生をささってゆくし、やがて、それは、かれの後半生に、きわめて根深くか 学問をするのも、そのためです。どうやれらみもつれた一つの重大なものとなってゆくのである。 げるつもりです。 だが、それは、ずっとずっとのちのことであった。いまはただ、 ば、人々を救うことができるか、知るためなのです」 ヴェントの少年は、はじめてきく奇怪なことばに心乱され、彼には この上もなく満足できる、なれしたしんだものとしか見えぬこの世 これこそ まさしく、チチアの少年が、生まれてこのかたきいたことも、そ界を、まったく異ったものとして見ているものがいることをはじめ んなものの存在を想像さえもしたことのない、かれとしては、これて知って、奇妙な動揺と不快さをかきたてられて、何といってよい までの十六年の生涯の中で出会ったもっとも奇怪で、理解を絶したかすらわからずに、呆然とヨナを見つめているのであった。 「 , ーーそれは、まあ・ : : ・ともかくとして、さーーー」 考えであり、ことばである、といってよかった。 ややあって、毒気をぬかれたていで、イシ、トヴァーンはぼんや それゆえ、イシュトヴァーンは、とっぜんにかわいい弟分の気が りといった。 ふれて、とんでもないうわごとをいいはじめたのではないか、とい 「お前の身のふりかただけどーー・」 う恐怖にかられ、まじまじとヨナを見守るだけだった。 ョナは、それを察した。そして、悲しげに、すきとおるような徴「あ : : : 」 249

2. SFマガジン 1985年12月号

ョナもまたなにかしら夢からさめたというかのように、身じろぎ、トのもらったものなのに」 をした。 「ばーか。だから、おめえは、固くていけねえ」 その青白いやせた顔にうかんでいた、一種神々しい、清らかな光イシ、トヴァーンは、ようやく、すっかりいつものペースをとり が消え、 いつもの、イシ、トヴァーンの見なれた、かわいらしくかもどして、声をたてて笑った。えたいのしれぬ不安もようやくとお しこげな、十二歳の天才少年の、あどけなさと大人びたところの入のいていった。 りまじった顔になった。 「おれと、おまえは、誓いをかわした兄弟なんだそ、ん ? 兄が弟 「ええ」 にしてやることを、もらういわれがねえなんぞと、水くせえことを いうんじゃねえ。兄さん、ありがとうといって、抱きついてキスす 「おらあ、どうでももう、おまえはヴァラキアにいねえ方がい ( と思うんだが」 りやいいんだ。出世払いで返せなんぞ、けちなこたあ云わねえよ。 ョナが、いつものかれにかえったので、イシュトヴァーンはだ、 おらあこのさき何回だって、賭場に出さえすりや、何万ランだって かせげるんだ」 ぶんほっとして、声の調子まで、明るくなって来た。 「ああ、イシュト、イシュト 「どうだろう」 「ええ。・ほくも、それがいし 、と思います」 ョナは、イシュトヴァーンの首にしがみついて、すすり泣いた。 「お父つあんのことは心配だろうが、おじさんもついてることだ イシュトヴァーンは、四千ランが惜しくないこともなかったが、す つかりいい気持になって、ヨナの頭をつかまえ、そのほほに接吻し し、何なら、おれもちよくちよくようすをみにいってやったってい こ 0 それに、おまえは、これからって人間だしな。ーー・・・考えように 「いい子で、よく勉強するんだそ、ん ? 」 よっちゃ、ルキアのことも、かえって、思いがのこらず、よかっ 兄ぶって、彼はいった。 た、といえるかもしれんぜ。すつばり、こんなせせこましい、トレ ヴァン一族でなけりや夜も日もあけねえヴァラキアなんぞあきらめ「その年で、たった一人ではるかな。 ( ロへゆくなんざ、いろいろと て、かねてののそみどおりパロへいきなよ。この四千ランがあり心細かろうし、つらいこともあろうけどな、おまえは、ほんとに頭 や、まず五年は楽に食えるし、月謝だって払える。好きな学校へ入がいいんだから、頑張るんだそ。やるからにや、途中で弱音を吐く なよ。な ? いいな」 って、たんと学問して、とつつあんを迎えに来な。そのころにや、 ーしイシュト とつつあんも、よくなってるだろうしさ」 「よーし、 いい子だ」 「ああ、イシュト。それは、いけない、だめです」 おののいて、ヨナは叫んだ。 「でも、・ほく どうやって、・ハロへいったらいいカ : : : 」 「そんな、たくさんのお金。ーー・・もらういわれがありません。イシ 「なーに、まかしとけって。おれにもう、ちゃんとした考えがある 250

3. SFマガジン 1985年12月号

一日でもっとも暑いときだから、ほとんど人は外歩きをしない。 「ねえ、イシュト、苦しそうですよ。これ以上、かけるのは、ムリ この廻廊も、ひるの休みでがらんとしているのだろう。どこまでですよ」 「よけいな心配するんじゃねえ。弱ってたっておれの方が、おめえ も、どこまでも、石の円柱がつづき、右手は緑も美しい植えこみ、 石の床には、籐屋根がすかし編みの影をおとす。ヴァラキアの人のよりや強えんだ」 すべてが死にたえたかのような、しーんとしずまりかえったひるさ「でもーーーねえ、イシト」 「ああ」 がりである。 行っても、行っても、円柱がつらなって、あやしい錯覚をおこさ「ヴァラキアの平和も、いつまでつづくかわからないようですね。 だんだんぼく、ヴァラキアの内包している矛盾と問題が、明確にな せる。 って来ました」 「ヨナ公」 「よ、ツ、 「おちちち。ばか、笑わせるんじゃねえ。おれは、腹がいてえんだ ぞ」 「大丈夫か」 ほとんど、尽きることなく永遠につづいているかと思われた廻廊 「かどわかされるとき、ひでえことは、されなかったか」 にも、ついにおわりがあった。 「ええ。ただ、かつぎあげられて、いやですというのに、つれてい さいわい、誰にも出くわさずにすんだ。裏口だからであろう。 かれただけで」 「おツ、ここが、・出口だ」 「そうか。怖かったろう」 : 、問題は、出てからだ。上ヴァラキアでも上の方のここから、 「ええ、少し」 「かわいそうなことをしたな。たしかに、サイスのとこにのりこむ下ヴァラキアまでは、歩いては、かなり距離がある。そして、白 昼、ひと目でわかる下ヴァラキアの少年ふたりがそのあたりを歩い 前に、おれが考えて、おまえをダチのーーーヨームのとこへでも、う っしとくべきだった。ごめんな」 ていたら、必ず、見とがめられてよびとめられよう。といって、夜 「とんでもない。ねえ、イシュト、何だか、苦しそうですよ」 だと、傭兵が警固にまわっている。傭兵は、チチアのごろっきより 「ちっとな。ううつ、いまごろになって、ゆんべやられたのがちつもいっそたちがわるいのだ。 とばかしきいてきやがらあ。くそっ、だらしがねえな、おれも ( 女の服でも、かっ払えりや、おれもョナ公も、うまいこと逃げら が、むりもねえ、動きづめだ」 れるだろうにな ) 「怪我ーーしてるんですか ? 」 しかし、下ヴァラキア、ことにチチアのあたりとちがい、偉い人 人ばかりの住む、このあたりでは、ふだんから警備がきびしい。女 「怪我は、してねえよ、一応。ただ、ちっとな : : : 」 イシュト」 234

4. SFマガジン 1985年12月号

構えながら、 は激しくまばたいた。 「かあいそうだけど、おまえはもう十二だ。それにこんなにかしこ イシ = トヴァーンは身がまえた。しかし、ヨナは超人的な意志の 4 っ ~ いんだから、ごまかさずに、ほんとのことを、知った方がいいだろ力をふりしぼって、何とか、くいとめた。」 うと思うんだ。 ルキアは、カンドスにけがされて、首をくくっ ちまった。なにも、死ななくったってーーー生きてさえいりや、すぐ かすれ声をョナはやっとしぼり出したが、それから、何とかし に助けてやれたのにと、おれは思うけど ルキアは、よっぽど、 て、ふつうの声を出し直した。 悲しかったんだろう。ま、死んじまったものはもうかえっちや米ね「もう、 しいですーーーわかってましたから : : : 」 え。そのかたきの何分の一かにはなるよう、おらあ、カンドスのや「わかってたあ つをおどしあげて、しこたましぼりとってやって来たよ。こいつを「ええ。何となく、そんな気がしていたんです。 おめえに半分やるからよ。それで、お父つあんにも、ラクさしてやぶん、もう生きちゃいまい、って」 れるし、おめえもやりたいことができる。カンドスの、かたきの金「何だって : : : 」 だ、なんぞと思わずに、ルキアがくれた金たと思ってよ・ーーな、ほ 「少しーーー十タルザンだけ、そっとーーーそっとしていて下さい ら、だから、ヨナ公、いい子だからよ : : : 」 云うひまにも、ヨナの頭は、少しづっ下へさがってきていた。 イシュトヴァーンは、ふところから、皮袋をとり出した。 ョナは、身じろぎもしない。ろうそくの灯にうっし出される、ま「おー、ー、おらあちっと、あっちへいってるから : : : 」 だ幼さののこっている横顔は、まっげが長くて、少女のようにみえ 「いいんです。ここでーーただ、ほんの、十タルザンだけ : : : 」 る。 ョナは、ひざの上に両手をくみあわせ、その上に、ひくく頭をた ふいに、イシュ十ヴァーンよ、 れてつつ伏した。イシュトヴァーンは、どうにも、身のおきどころ ーいたたまれない気分になった。 「な、ヨナ公・ーーちび公よう。じゃ、な、な、これ、もうこの金、のない気分で、それを見守っていた。かれにわかるのは、まった く、この少年と自分とがあまりにも異っていること、それゆえ、自 半分じゃねえ、ぜーんぶやるよ。だからさ : : : おらあ、 おれは、また、いくらだってかせぐロはあるしーーーなあ、ほら、四分にはほんとうは、この少年もその一家も自死した姉も、まったく 千ランだぜ。すげえだろう。だから、なあ、ヨナ公、なんとかし 、つ理解できないのだという、甚だ当惑させられる、どう考えていいか てくれよ なあ、悲しいのはわかるけどよ : : : こんな理不尽な目わからぬ事実ばかりであった。 にあうのは、なにもおめえたち一家だけってもんでもなし、な ? ョナの口からごくひくいすすり泣きが、一回だけもれた。しか いい子だ。だからーー」 し、それきり、ヨナは細い肩をふるわせながらもう声をたてなかっ ョナの唇と、まっげがゆっくりと、それから激しくふるえ、ヨナた。 いいんだよ、 ルキアは、た

5. SFマガジン 1985年12月号

ヴァーノンだ。あいつの新品の望遠レンズだ。 だが、そういう本人さえ、忘れることができなかった。」 現像液の中におのれのぶざまな姿がうかびあがるさまが想像でき 9 「モリス博士がお呼びです」ダグラスがオフィスに顔を出すと、秘た。彼は写真からゆっくりと目をそらした。あの瞬間から彼の心に どんな変化が起こったか、モリス博士の知るべくもない。彼は一言 書がいった。 の抗議も否定もできなかった。 「わかった」 彼は校長室へと足を向けた。ひとりでにロ笛が出た。ここ数日、ア 「やむをえませんね」モリス博士は淡々とした口調でいった。「人 ニーはあいかわらず冷淡な態度だったが、彼はいずれなにもかもも間とは折り合いが悪くても、せめて猿とはうまくやってくれると思 っていましたのに。現像をしたヘンリーは、ありがたいことに、ナ とどおりになるという自信があった。気分も一時よりはよくなった。 こんどは、どんな恐怖と驚異をモリス博士はおれに伝えようとい れにも口外しないと約東してくれました」 うのか。そう考えながら、ダグラスはドアを / ックして、ガラス窓ダグラスは立ちあがった。いつまでも博士が写真をつきつけてい るので、うばいとって破り捨てたくなった。もう見たくもない。自 をのそいた。おおかた、例の雑誌がまた焚書にでもあったのだろう。 モリス博士は彼に入るよううながした。「おはよう、ダグラス」分にどのような心境の変化が訪れたか、それを博士にたずねてほし かった。あのような事件は二度と起こさないし、あの過ちを心底悔 アニーだ。なにかまずいことが : いていることを、わかってほしかった。 椅子をすすめられるまで、彼はじっと立ちつくしていた。しばら だが、博士の目は冷たく、彼をつきはなしていた。 く彼を見つめたすえに、モリス博士はいった。 「私物はあとから送りとどけます」 「これはわたしとしてもつらいことだけど : : : 」 ・ハレたんだ。しかし、彼はすぐその考えをうち消した。とりこし 自分の車のそばで立ちどまったダグラスは、二つの大きな赤い姿 苦労さ。・ハレるはずはない。そんなはずがあるかド落ちつけ。顔にが木の枝に腰かけているのを見てとった・ーー・ひとつは赤銅色、ひと 出すな。 つはえび茶色だ。ヴァーノンが耳ざわりなうなり声を発し、異様な 早ロのたわごとで、あとをしめくくった。蒸し暑い密林と豪雨をほ 博士は一枚の写真をとりあけた。 そこにはーーー彼の人生の一瞬が口をさしはさむ余地のない、冷厳うふっとさせる野性のさけびだった。 アニーはからだを掻きながら、チンパンジ 1 が境界のフェンスの な事実としてとらえられていた。博士は彼を告発するように写真を かかげた。あまりのショックに、彼はそれがひとごとのように思えむこうを歩きまわるのをながめていた。アニーがこちらを向きかけ たので、ダグラスは急いで車の中に入った。 しかし、彼はモリス博士の目に哀れみを探しもとめようとはせ荒々しく車を走らせながら、ダグラスは考えた。どうして人間よ 猿のほうがおれをよく理解してくれるはずがあス ? す、反抗のまなざしを写真に向けた。出所はわかっていた。」

6. SFマガジン 1985年12月号

る。 てどうしようもない怒りをおぼえる。彼としては妻を喜ばせるつも 「アニーの先生は、最初から彼女が特に有望な生徒だと感じていまりなのに、なにか判然としない理由で、彼女の感情を害する結果に した。彼女がタイ。フした文章は単純なものでしたが、独創的なエン終わってしまうかみだ。あの優しい感じの唇から、なぜあんな辛辣 な言葉が出てくるのだろう。テレーズは、なにごとによらず、真剣 ターティンメントだったのです」 に受けとめるーーーそして、彼には抑えることも埋めあわせることも つぎはアニーがタイ。フライターに向かっているショット。一 モンキー・ビジネス できない不祥事と誤解が、そこに発生するのだった。 「これをいんちきだとお考えになる方は認識をあらためたほうがい このつややかな肌の下で、彼女は悩み、緊張している。鋭敏な感 いようです。トルストイもうかうかできません」 モンキー・ビジネス その軽薄さと、そっけなさ、それに″いんちき″という愚劣な言受性と恐怖心。彼女の明るい性格がどこへ失われたのかもわからな いつのまにかあき いまわしに気がめいって、ダグラスはテレビを消した。 いままに、それをとりもどそうとすることさえ、 彼は長いあいだそうして坐っていた。テレーズは、彼に声もかけらめてしまった。彼女を愛しつづけようとはしなくなっていたが、 ずに、先に床についたらしい。半時間ほど、なにも映っていない画それでも愛をたもちたくないわけではない。ただ、もうどっちでも 面を見つめたすえ、彼はテー。フを巻きもどし、アニーの顔が出てくよくなってしまっただけだ。 るまで、音を消して再生した。 アニーのような女を妻に迎えていれば、もっと気楽たったろう 彼は画面をそこで静止させた。アニーの後光のようにふんわりと ひろがった赤毛のやわらかい感触が、あごにまざまざとよみがえっ てきた。 あの毛むくじゃらな顔が、たまらなく愛しかった。こちらを見上 げるときにうかぶ、無邪気な喜びの表情が好きだった。いつに変わ ダグラスは眠れなかった : らぬあの表情。アニーは聡明で、心が暖かく、恐れをしらない。彼 テレーズはシーオをくしやくしやに丸めてはねのけ、夫に背中をの言葉をへんに勘ぐったりせずに、ちゃんと耳をかたむけ、会話に 向けて寝入っている。ダグラスは、その肩と背中に目をやり、腰のつきあってくれる。ふたりきりでいて、なんの違和感もない。アニ くびれからまろやかなヒッ。フへと視線を移していった。彼女のおし ーには生命力がみなぎっている。 りはまるい卵形で、それが二つ上下に積み重なっている。窓ごしに ダグラスはテレーズのほうに伸ばしかけた手をひっこめた P その さしこむ街灯の光に、肌がなめらかな輝きをおびている。ほのかな肌が不満で火ぶくれをおこしているように思えたのだ。 シャイフ 1 の香り。そして、それ以上にほのかな女の匂い 妻のことを思うとき心にわきあがるこの感情を、人は″愛″と呼彼は扇風機の風を胸に受けて、遊戯室の床に寝ころんでいた。は ぶのだろう。だが、・ タグラスは、たいていの場合、テレーズに対しレンスの『息子と恋人』に関するアニーのレポートを、風にあおら

7. SFマガジン 1985年12月号

ク』 The トミ 0 を刊行していま嘘で、モジーは船内コンビ = 1 タの中に人モジ 1 の侵入で計画は大きく狂い、軍は万 す。しかも刊行にあたり、妻のジョーン・格を転写されただけでした。しかも、ディ一に備えて核武装した第二の宇宙船を派遣 Q ・ヴィンジに推薦文を書かせるという熱ヴィッドというのも人間ではなく、人工知します。異星人とコンタクトしたのち、人 のいれようです。カーヴァーもその信頼に能。フログラムだったのです。へび座方向か工知能は共通のパラダイムがないために発 こたえ、デル時代の二作とはうってかわっらタキオン通信で呼びかける異星人の声に狂し、停止してしまったのです。最後の瞬 こたえ、彼らの意図をさぐるために人工知間に、モジーは異星船の″コン。ヒュータ た壮大なストーリイを展開しています。 時代は些細な過ちから核戦争が起こった能が派遣されようとしていたというわけでに再転送されたのですが ヴィンジはこの作品から、カ 1 ヴァ 1 は あとの二十一世紀、宇宙核兵器もちこみ禁す。 ・ヘイリーだと評して 一方、フリーのジャーナリストのペイン八〇年代のアーサー 止条約が締結され、政治にも軍の考えより います。政府、軍、科学界などの姿を多く 科学者の考えがとりいれられ の視点を用いて浮き彫りにしてゆく手法 る雰囲気ができています。そ は、なるほどというより社会派エンタ んな中でタキオンの発見にと ーティンメント小説のものです。文章は達 もない、西側諸国の監視委員 者とはいえないものの、詩的イメージのゆ 会の管理下に極秘のプロジェ たかさや、人物描写の確かさと奥ゆき、サ クトがアメリカのサンダラン 霞スペンスフルな構成など、カーヴァ 1 は期 研究所を中心に進められま 待にそむかぬ実力を発揮しているといえる す。そこに参加している女学 でしよう。ファースト・コンタクトを描く 生モジーは、コン。ヒュ 1 タ間 近未来サスペンスという最近の流行の中で のタキオン通信をつうじて軌 も、らしさより小説としてのインパク 道基地上のディヴィッドと直 トを重視するフレンケルの編集方針は、七 接に思考をリンクする実験を つづけるうち、まだ見ぬディヴィッドに恋は、謎のタキオン通信に気づき、政府の宇〇年代と八〇年代とをつなぐもの をし、実験終了のをきいて親しいコンビ宙船計画に嘘があることを見ぬいた科学者として、興味ぶかく感じられます。もっと = ータ技師ホシに頼みこみ、ディヴィッドと知りあい、取材を開始します。そして恋へのこだわりを主張する他の編集者に のもとに転送してもらおうとします。ホシ人のかっての親友モジ 1 の事故死にも不審ついては、また機会を見てご紹介しましょ はモジーにひそかに恋していたため、秘密をいだきます。さらに軌道基地上の科学者う。 を知りながらモジーをディヴィッドの行たちは、政府が秘密理に異星人とコンタク トしていることを憂い、マスコミに情報を 先、宇宙船フアザー・スカイ号に送りこみ 0 ます。ところが、物質転送とはまったくの流そうとして軍に逮捕されてしまいます。 223

8. SFマガジン 1985年12月号

何にもねえよ。いますぐだってカンドス野郎のとこに、のりこめるどない。 「おばさんの家だと ? 」 ぐらいだ」 イシュトヴァーンは云った。 「へえ : : : 」 「ええ。カルアの、父の姉の家です」 ョナは尊敬の目で、イシュトヴァーンをみた。 「おやじさんのいるとこかよ ? 」 「イシュトって、たくましいんだな」 「いえ、父は、父の弟のところにいます。うちの父は、七人兄妹な 「あた棒よだ。てめっちみてえなガキとは、鍛え方がちがわあ」 「そうですねえ。ぼくは、あと四年たっても、イシ = トみたいにはんです」 「そうか」 なれそうもないや」 イシ「一トヴァーンはちょっと吐息をつき、急につめこみすぎてず コナはひくい嘆息をもらした。 「でも、そのかわり、ぼくにできることもあるんですよ。さっきのきずきするひきしまった腹をそっとなでた。 シチーは、・ほくがつくったんです。どうでした ? 昔から、おや「なあーーヨナ公」 じゃ姉さんが働いてるとき、ぼくがご飯をつくってたから、シチ = 「ここにいて、その、おばさんに迷惑はかからねえのかよ。ふつう ーはちょっと自信あるんだけど」 「へえええ。すげえもんだ。あれなら、立派に、店が出せる。学者のうちなんだろ」 になんざなるのはやめて、食いものやを開けよ。毎日三度三度、通「大丈夫です。とつぎ先だし、父のうちからは、いちばんはなれて ますから、そうかんたんには、ここがぼくの親戚だとは、さぐりだ ってやるからよ」 すっかり気分がよくなって、イシトヴァーンはくつくっと笑っせないでしよう。それにとても親切なおばですから」 おめえが、チチアに、ヨ。ヒスを呼びにいったとき、 「そうか。 たが、そこでふいに、現在の、自分とヨナとのおかれている状況に 、ってたな」 だいぶん見はりがいたとか、し 気づいた。 「ええ、人相のわるいのが、あちこちにかくれてました。・ほくは、 「そ、そうか。てなこと、云っちゃいられねえんだ」 かれはつぶやくと、あわてて身をおこしてすわり直し、あたりをたぶんそんなことだろうと思ってたので、注意して、とおくからよ うすをみて、それから、とおりすがりの子どもにびた銭をやって、 見まわした。 ビットの賭場から、ヨビスさんをこっそり呼んできてもらったんで 貧しげなせまいひと間である。壁は、ぼろ・ほろの籐の上に布をか 、人ですね」 けまわしただけだし、床ははってなく土間のままだ。調度といってす。あの人は、もし 3 4 2 も、ガタガタの、イシトヴァーンがねていた寝台と、ヨナのかけ「おらあおめえに。ヒットやヨビスがダチだなんていった「けかな」 「ぼく、イシュトの家にいるとき、ひるま近所の人といろいろ話を ている小さないす、寝台わきの小さいテー・フルのほかには、ほとん

9. SFマガジン 1985年12月号

Ⅳ田 W 『ヒトはなぜ助平になったか』 戸川幸夫著 / 2 頁 / 四六判上製 . 自 200 円 / 講談社 今月のレビ = ーを、三年ほど前の本だがた浮気したメスと若いオスは、ポスに追っかけうでも宜しい。とにかく、この本一冊読んど られて成敗されるが、強姦されて抵抗したメけば、酒の席でも、女の子をちょっと艶笑気 いへん面白い『病の文化史 ( 上・下 ) 』とい スは、ポスになぐさめてもらえるんだって分にさせて口説こうとか、当分、話のタネに うのと、『ヒトはなぜ助平になったか』と、 ことかかないと思う。ほがらかでいいではあ どっちがよいか、ときいたところ、のさ。わはははは。 りませんか、暗いことばかしの世の中に、こ 誇る「食欲と性欲のみの男」 ( 加 ) が私の担それに「コャドリ」なんてトリ知ってる ? ういう話。もっとも、これだけ強烈なタネ本 当であるから、当然、後者がよいという。そオスのトリが、骨と木で、ダンスホールをた れを読んで、少しは自分の行動原理が解明さてるんだって。おまけにそのとなりに、一プだと、酒のみのみ「ねえねえ面白い話知ってる ? 」とはじめる前に、他の人が誰もこの本読 ホテルをたてるんだって。で、メスをダ【、ス れぬであろうか、と考えたものであろう。 この本の帯にはしごくも「ともなことながホヨルにさそ 0 て一緒にダンスしフんでないのを、たしかめとく必要があるな。 とにかく面白くって何回も抱腹絶倒する、 ら、「この本の表題だけを見て、興味本位なンしたところでラプホテルにつれ心むんだち ポルノ的なものだと勘違いしないでほしい。 てさ。おまけに、結婚すると、見向ぎもしたいへんよみやすい本だ。裏表紙のとてもリ アルなカメさんの絵が何というか、わざとや この本の内容は、人間と動物の性くな 0 て、そまつな巣におしこめ ( て 0 自ナ ったのかなーとか考えこまされるが、こうい の本質について真面目に書いたっ別のメスをひっかけにまたダン k ホールへ ことをいってると、 ( 加 ) の奴に、わーオ もりだからである」と書いてあかけるんだってよ。わーよはまよ る。たしかに、ポルノ的とはいえ トラは、発情したメスデの咄す匂いをか 1 一、バ一ざ ' が発想とか云われるからやめとこう。 ないかもしれないが、しかし抱腹ぐと、何ともいいようの 2 、しまりのない。 ) 、いけとね。この本に関しては、「あ、タイ ・絶倒する愉快な本で、おまけに妙ヘラへラした顔で、ニ ルがまちがってる。これは『加藤はなぜ助 ' ~ になったか』が正しいもんね」とか逆襲で って ( まるで ( 加 ) でないかえ ) 「よ「わ なことでたいへんかしこくなる。 ~ い係るし。 アシカが強姦するなんて、あー それに関しては、夢枕獏くんの前に云って た、知 0 てた , ・おまけに、強姦 ' やや品のおちるお話」なりますげ一 アラシさんが xxxx をするこなんて 0 知、 ? と和姦はちゃんと見わけるので、 、いた名言、 . 至言があって、それはこうだった てた ? 「前足をあマから 0 三 4 足で。な。なんでお宅の本はみんな助平なのだ、と ヒトは 0 て = ・ = ・」だそうで、そ心か、《不 4 私がき」たら、獏ち ~ んは云 0 たね。「男と ~ 力もプー ~ の排水口で何かしたんをオ 6 , ) 4 、 ~ う , のは二種類しかなくて、それは『す ) 」 なせ て。メスウ「が恋のさやあてをする話だ」、』と『ふつうの助平』で、ボクなん イ。 をとか、ミンクやクロテンが強姦するとか、『ふつうの助平』だ」ってね。では「す ごい助平」の方は一体誰なんかがそうだと云 か、ハイエナは『家畜人ャプー』ごっこ ン をするとか、いやー、とにかく、興味のえるのかはききもらしたが、何となく、わか るような気もする。 を巣窟。 助平に じっさいにはこの本をよんでも、で、 わははは。あちこちひろい読みでよみかえ なぜ人が助平になったのか、いまいちよしてたら、やたら気分が朗らかになっちゃっ 4 なったか くわかんないんだが、そんなことは、どた。とってもいい本だなあ、これは。 ・バンドがよい。 ・ <ND()< Z<Y-<N ー >< ・夜遊びシリースをしすきてアホになってしまった。文章が出て来ない、アタマがよれる。スタイル・カウンシルとラー 中島梓

10. SFマガジン 1985年12月号

どほとんどなかったが、木箱には手をふれないことにした。首の短 「じゃあね , つばい詰まっているので、中身が見えなかっ い茶色の瓶には砂がい 「いやーー・あの、ちょっと、僕がきみに取り返してやったのはなん た。僕は膝をついて、二つのくもりガラスのつを見つめた。 だったんだい ? 」 「早く」彼女が足を踏み鳴らしはじめた。 「そのこと ! 」彼女は笑って、相変わらずあとずさりしながら言っ ろくに考えもしないで、僕はさっと二つのつぼをつかむと、立ち た。「ユーモアのセンスよ」 あがってそれを床にたたきつけた。ガラスが砕けて青みがかった火 「やるよ ! ちょっと待ってくれ」 色の煙が二筋、もくもくと湧きあがった。 彼女は立ちどまって腕ぐみをした。「本当にやるの ? 」 彼女があとずさった。 「きてくれ。やるあいだ、ここへ戻ってきてくれよ」なぜ立会人が 僕は身をのりだして煙が鼻のところへ昇ってくるのを待ち、思い ほしいのかわからなかったが、それが正直な気持だった。 彼女はにやにやしながら戻「てきた。「勇気があるなら、全部あきり吸いこんだ。一筋はカンサス・シティの炭焼きステーキみたい な匂いがした。もう一筋は新車の内部の匂いに似ていた。蒸気が消 けちゃいなさいよ」 僕はカなくほほえんだ。「どれもみんないいもの「てこともあるえてなくなるまで、何度も何度も両方を吸いまく「た。 しばらくして、僕は目をばちくりさせ、あたりをきよろきよろし な」 「どうってことないぞ」 彼女はにつこりした。「そうよーーーありうるわよ」 「それがちがうのよ」彼女は徴笑した。「普通どおりにしてらっし 僕は四つの容器を見おろした。木箱の中身は失ったある性質とい うより、有形の物体のようだ「た。この場所には当てになる規則なやい、今にわかるわ」 現代 (DLL の歴史 ジャック・サドウール■鹿島茂・鈴木秀治訳 四六判上製■定価三ニ 00 円 雑誌の歴史は、の歴史そのも一房 のである。雑誌掲載された傑作、名作 書 の要約、短評とともに、現代の興 隆を招来した雑誌の歩みをたどる 本書は、研究の資料として、さら には入門の書として最適である。早 107