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1. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

ス。フラッシュは西に傾き、道路の凹凸が、地表に長い影を引いて 「公社の先発隊 ? 」 、こ。くルーンタイヤがまた、石ころを踏み、車体が軽くはね上る。 ハデスは、燃え続ける宇宙船と、背後の林をながめた。 「そうか。当該惑星に , ーー先住植民者が現存し、あるいは、今後存 「十中八、九、ファルケンベルク鉱山社の艇だろう。公社から、じ在するであろうことが判明した場合 やまな森林を焼き払う仕事を請け負ったところが、投下地点をちょ の権利は消減する。惑星は、 その場合、公社とコングロマリット っと間違えたって筋書きだ。あの会社は倒産寸前だし、ファルケン当然植民者のものであり、発見者であろうがなかろうが、なんびと ベルクは、金さえあれば、おまけに公社か、コングロマリットのト も、その所有権を主張することはできない。 ツ。フからの依頼となったら、汚れ仕事にも平気で手を染める男だ」 ハデス老は、顔をしかめておれの方を見た。 「しかし、何のために ? どうして、公社はあんな遺跡を焼き払わ「そういうことだよ、事件屋さん。連中は、ス。フラッシュを手離し なければならんのですか ? 」 たくないんだ」 「何かが見つかるのがこわいんだろうよ」 「しかし、先住植民者は、見たところ死に絶えたか、どっかへ行っ ちまってる。それとも、生き残りでも見つかったんですか ? 」 おれは、肩をすくめた。 「あのスクラツ。フから ? これまでに発掘された物以外に、何が見老人は、目を細めて前を向いた。 「条文の後段、今後存在するであろうことが云々、というのは、何 つかるとー・ー」 のためにつけ加えられたか、知ってるか ? 老人は、もう一度、唾を吐いた。 おれはうなずいた。 「それでも、こわいのさ。何しろ、星ひとつがかかっているんだか らな」 「ケテイムでの、不幸な″事故石からだ。ケテイムの発見者が、先 廃屋の一つの影にとめてあった電気ギーは、さわれないほど熱住民族の″遺跡を、開懇のじゃまだとして爆破した。その遺跡 くなってはいたが、奇跡的に無傷だった。老人が、。 ( ギーの外からに、遺伝子保存設備があって、死に絶えたとされていた先住民族の ハンドルをとって、しばらく″散歩させ、車体を冷やしてから、遺伝子が、千名分余りも保管されており、三百年後に受精するよ う、。フログラムされていたことが、後になってわかった。ケテイム 乗り込んだ。 はっきりしない」 「本当に、何をこわがってるんでしよう」 の発見者が、このことを知っていたかどうか、 「その通り。その他にも、卵や蛹、幼虫、人工冬眠、あるいは他の 二箱目の煙草に火をつけながら、おれは言った。 様々な形で活動を停止していた異生物を、それと知らずに殺してし ハデス老は、じろりとおれをにらんだ。 まった例はいくらもある。だから、法律は、公社が惑星に対して充 「何だと思うね ? 連中から、星をとり上げてしまうようなものー ー連中の権利を四散させちまうのは、どんなものだと思う ? 」 分な観察を行い、現在も、あるいは将来も、先住民族に遭遇しない ロ 7

2. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

ス。フラッシュの強烈な白色光が、みごとな銀 レ。ホーターと呼ばれる事もある。ニュース・キャスターと称する拒否している男 事もある。ロの悪い奴は、″事件屋だの、″フレームアツ。ハー 髪を照らし出し、眉の下に影をつくる。 だのと陰口をたたく。 「はじめまして」 おれが売るのは情報ーーー事実と、それに関する見方であって、そ おれは、ハデス老の手を握った。老人の手は冷たかったが、握手 れ以上でも、それ以下でもない。 には力がこもっている。 フリーランスーーーと言えば聞こえはいいが要するにマス・コミ・ 「連中に、気どられてはいないだろうな」 コングロマリット : 、 カ専属で傭う気を起こすほど、名が売れていな「取材許可は必要ないし、あの船長はロが堅い。こっちから宣伝す いだけのこと。 る気もないしね」 同じように名の売れていない > オペレーターやスクリ。フターと背後で、コノ・ 、ハーターのうなりが高まり、無ロな船長のゴミ・ハケ 組んで仕事をすることもあるが、たいていは一人でネタを掘り出ツが離昇したのがわかった。 し、有線雑誌や、サービス・ネットワークに売る。シモネタは扱わ ハデスは、日焼けした、しわだらけの顔をゆがめ、にやりと笑っ こ 0 か違うし、あまりにも ない。清廉の士だからではなく、配給ルート・ 退屈な仕事だからだ。 「妙に思われるのはわかるが、連中は本気なんだ。ルポ屋さんが来 今回も、おれは一人で、ビデオカメラを片手に、チャーターしたてるとなったら、公社は何をするか、わかったもんじゃない」 ハケツから降りた。 チャーター船は、上空でギラリと光ってから、やかましい衝撃波 「三日後、同じ時間たね」 を残して、視界を去った。 ハケツの船長は、ペイントのはげた隔壁ごしに念を押し、お「どういうことです ? あなたが立ちのきを拒否している理由と、 れがうなずくと、無雑作にエアロックを閉めた。 何か関係があるんですか ? 」 出むかえは、たった一人だった。こいつは、別におれが無名であそれに、たった一人で、憑かれたように牛の交配に専念している ることとは関係がない。 理由と。ス。フラッシュ・カウの品種改良など、誰も望んではいな ス。フラッシュⅡには、いま、一人しか住んでいる者がいない。か って五百人以上いた研究員や鉱夫たちは、三日前に引きあげを完了 ハデス老は、地面に唾を吐いただけで答えず、発着場の赤錆びた し、あと十日以上たたなければ、公社の先発隊はやって来ない。 フェンスを蹴りあけ、放棄された管制塔のわきにとめてある電気パ 「来たな」 ギーに向かって歩き出した。 ハデス老は、まばらに生えた草の上から立ち上がり、骨ばった右「あんたの記事は、見たことがあるよ」 ・ハギーの助手席に置いてあった、ロ 1 。フの切れはしと、汎用レー 手をさし出した。牛の交配に生涯をかけ、この星からの立ちのきを アングル

3. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

「そ、それじゃ・ほっくは、お仕事に戻ろうっと」 額の鉢巻きには角のように二本鉛筆を差し込んでいた。あいつは ひさしたちを見ていた課長と係長に、杉山は投げキッスを送って 八つ墓村かっー から両手をひらひらさせ、自分の席に白鳥の湖のようにツツツッと また、あいつだ、とひさしは思った。 純合金貞操帯がひさしの股間を締めつけてきたのは朝からこれで戻って行った。 課長と係長は椅子からずつこけた。 五回めぐらいだが、そのたびにすぐ近くに杉山がいて、あの暗あい びさしも自分の席につき、横眼で杉山を睨み続けた。 眼付きで、じいいっとひさしを見つめていたのである。 ひさしと視線が合うと杉山は、あわてて仕事をするふりをした。 と、締めつけていた超合金貞操帯が、ふいにゴムのようにゆるん 妙にびくついていた。 おれの超合金貞操帯とそっくりの金属の輪を杉山は額につけてい ひさしはヘなへなと床に座りそうになったが、ぐっとこらえた。 この超合金貞操帯 た。あやしいっ ! 絶対あいつがあやしいっー 暗い顔をしていた杉山が・ ( ッと明るい表情になり、手にしていた ひさしは確信し とあの変態杉山と、絶対なにか関係があるつ , なにかを素早くボケットにしまってから、ひさしの傍ヘッツツッと 爪先だけで歩いてやってきた。こいつは・ハレリーナかっー 「セーキ君。どうしたのん ? 気軽に女子社員なんかに優しくしち やだめだよん。あいつら、すにぐっけあがるんだから」 ししいっと杉山を見た。 ひさしはじ、 「ど、どうしたの ? そんな犯罪者を見るような眼で・ほくを見て「ど、どしたのセッキ君。そんな鬼のような眼をしてつ」 杉山は両手を前にあげて及び腰になり、じりじりと後ずさってい た。声が裏がえっていた。 「杉山さん」 ひさしは狼のように歯をむきだしにして杉山にせまって行く。体 のまわりにメラメラとオーラの炎が燃えていた 「頭の鉢巻きがずれてますよ」 中央に⑩と書かれた真赤な鉢巻きが下にずれていた。そして、鉢あたりには饐えたような異臭が漂「ていた。 巻きの下から幅三センチほどの金属製の黄金色の輪のような物が見ひさしと杉山がいるのは雑居ビルの裏の袋小路だ「た。ー・、・すで にあたりは薄暗くなりはじめていた。 えていたのである。 二人とも会社帰りだった。どちらもきちんとスーツを着ている。 じ、 、つとひさしは杉山の額の黄金色の輪を見つめた。 ひさしは就業時間が終るとすぐ、話があるからと言って杉山を、 , 3 杉山はあわてて鉢巻きを上にあげてそれを隠した。ひどくおどお っ宀 強引に会社近くにある雑居ビルの裏へつれ込んだのだった。 どしていた。 こ 0

4. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

いじめっ子っ ! 」 「せ、関君の・ハカっー つけてるのかっ」 杉山は涙ぐんでいた。 ひさしは立ちあがり、杉山の股間を片足で踏みつけてみた。 グニョ、といやな感触がした。 杉山はスラックスのポケットから黄金色の小箱をだし、ダイヤル をぐいと右に回した。 ( 「ああんつ、だめつ ! 」 あまりにも不気味な感触に、靴の裏から寒気立ちあがろうとしていたひさしは、眼球と舌をとびださせ股間を 杉山が悶えた。 押さえた。超合金貞操帯が締めつけてきたのだ。 がそそっと這いあがってきた。 「げげつ ! 」 「そっそうか。杉山さんはつけてないようだな : : : 」 「ハカ・ハカバカっ ! 関君の・ハカっ ! 」 とひさしは思った。 靴が腐ってしまったかもしれない、 杉山はダイヤルをぐいぐい右に回す。 「ひえええん。 いいかげんに・ほくの体の上からどいてよおおん」 顔を真赤にしたひさしは、あまりの股間の痛さについに耐えられ 「話すまではどぎません。話さないと、体の上でとびはねますよ。 と叫びをあげて悶絶した。両 なくなり、一声、ぎえええええっ , 内臓が口からとびだしますからね」 「・ほ、・ほく本当に知らないもん。お家へ帰してよ。お家へ早く帰っ眼が白眼になった。 て仮眠取らないと、真夜中午前三時からのお仕事にさしつかえる「ああっ、いけないつ。また、やりすぎちゃったん ! でも、関君 つべーだ」 がいじめるからいけないんだよー う。あわわ」 杉山は気絶したひさしにアッカンべーをやり、ダイヤルを左に戻 杉山はあわてて口を押さえた。 し金属製の小さな箱をポケットにしまった。 「真夜中午前三時からのお仕事 ? なんですかそれは ? 」 そして杉山は袋小路に誰もいないのをササッと確めてから、気絶 しいかげん、ぐるしいようつ 「し、知らないつ。知らないよっー してヒクヒクひきつけをおこしているひさしにそおっと歩み寄って 杉山は猛烈に両手両足をスタ。 ( タ動かして暴れた。そして、自分行った。 の胸の上に乗 0 ているひさしの両足首をむんずとっかみ、すさまじ髪を電気シ = , クにあ 0 たように逆立て、白眼をむき舌をとびだ させているひさしの顔を覗き込み、眠っている白雪姫を見つけた王 いカで上に持ちあげ、ガスと左右に開いた。 子様のようにそおおおっと顔を近づけて行った。 「うわっ ! 」 ひさしは・ ( ランスを崩し、後ろにどうと倒れた。その間に、い秒杉山は自分の顔のまわりをソフト・フォーカスにし両眼を D 型に し、唇をタコのように突きだしてひさしのロに近づけて行った。 の速さで杉山は立ちあがった。 あと二センチで、ひさしのとびだした舌の先端に杉山の唇が触れ 5 杉山のショッキング・ビンクのワイシャツの胸には、くつきりひ る、というとき、ふいにすぐ上のビルの窓がガラリと開き、白いコ さしの靴跡が二つついていた。

5. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

足音はつづきながら、声にゆらぎはなかった。 彼はうなづいた。 「処分はこちらでする。知り合いでもいるのか ? 」 いっから霧が出てきたのか、彼にはわからなかった。横丁を曲が声は笑ったようであった。 ってすぐのような気もするし、もっと、ずっと前からだったような「私は誰も知らない。貴男以外は」 霧を震わせて彼はうなづいた。 気もする。 「その通りだ。知っているのはわたしの方たったな」 わかるのは、足下の歩道がコンクリートということだけだ。 「私のことはどうかな ? 」 それがどこまでつづいているのか。 「どう思う ? 」 わからない。 声は沈黙した。次の言葉を口にするまで霧は渦を巻いて流れ、足 白い世界に終わりがあるのか。 音は虚しく鳴りつづけた。 わからない。 点々と滲むひかりの珠は、常夜灯だろうか。 「彼は哀しむかもしれない。二度はいやだと言って」 時折り、別の人影が通りすぎてゆく。霧に映った彼自身の影法師「やむを得ん。怒り、哀しみ、憎悪 : : : 好きなだけ非難するがい かもしれない。 、。しかし、責任だけは全うしなければならん。この仕事、受けて ・何処まで行けば会えるのか、彼はただうつむいて歩いた。 くれるかね ? 」 「承知した」 静寂は澄んでいた。足音も澄んでいた。 声は遠くできこえた。口にしたくもないような、聞きたくもない それなりのリズムを刻む音が、ふと、ずれた。 ような、そんな声だった。 背後にもうひとりの自分がいるのだろうかと彼は思った。 何処へ行く気なのだろう、と彼は思った。そして、自分はいつま 足を止めず、彼は歩きつづけた。 で歩いていくのだろう。 「用件をきこう」 冷気が首筋から泌み入り、彼は強くコートの襟を合わせた。 声は闇よりも冷たく澄んでいた。 自分の足音だけが聞こえた。 「横浜に『ストラーダ』というディスコがある」 はるばると遠い道であった。 霧の粒が鼻先で珠を結ぶのを感じながら彼は言った。・ 「若者専用の場所だ。毎晩五〇人以上が集まる。うちひとりが目標 白い紗膜の奥にネオン・サインが浮かび上がってきた。「ストラ 9 1 ダ」と読めた。 「探せばいいのか ? 」

6. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

マシンのスイッチを 0 Z した。 マシンはかすかな唸りを上げて、猛烈な勢いで仕事を開始した。 0 0 0 0 から 9 9 9 9 までの一万組のキーの組み合せの中に、正し イハーは潜んでいる。カづくでマシンはそのナン・ハーを探 と入力する。四桁の数すべてを試せというわけだ。もし、四個のり出すのだ。 数字のうち、どれか一つでもわかっていれば、例えば、千の位が 7 一秒間に五十組のキーを押すようにセットしてある。一万組なら だとわかっていれば、 二百秒。約三分あれば、すべての組合せを押してしまう。平均して、 一分半もあれば正解に辿りつく。 私は背中にマシンをおおい隠すようにしてドアの前に立った。一 見つかれば、犯罪者である。こんなプレイキング・マシンまで使 っているとなると、言い逃れの余地はまったくない。 と打ち込んでやる。すると、七千番台の数だけを自動的に押して警部のフォローがあったとしても、もめごとから解放されるまで くれる。その他、何桁目かはわからないが、 8 と 1 が含まれていた にかなりな時間を浪費してしまう。第二ラウンド、再度プレイキン、 場合 グのチャンスがあるとは思えない。 時間の経過がやけに遅く感じられる。 マシンの作動音が次第に大きくなっていくような気がする。 手首の時計を見ると、やっと三十秒が経過したばかりだ。 突然、通路つきあたりのエレベータードアが開いた。 一組の夫婦連れが中から出て来る。 気付かれたらまずい 平静を装おうとした。手前の部屋へ消えてくれ。 夫婦は静かにしゃべりながら、一歩一歩私の立っている場所へ近 づいてくる。 かなり酒が入っているのか、二人とも顔を赤くしている。私の存 とやる。他にも機能があるのだが、まあいいだろう。こういった 各種機能は、六桁以上の・フレイキングを強力にサポートしてくれ在は気にもとめていない。 る。 それでも私は、夫婦が私の前を通り過ぎるまで、徴妙に体の向き とメモリー入力しておいて、

7. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

をひきつける。 けれども実際、彼はこの都市において不自由を感じたことは一度 もない。ケガも病気も事故も避けてゆく。唯一の事件は少女の乗っ た車との接触事故だけだが、これとても少女と出会わせるため彼女彼女は、となりの日本人協会に経験体を貸出していた。 そうしゅ がわざとしくんだものとしか思えない。おそらく、そうだ。 協会の宗主であるアルフレッド・ ・ウサノ師は、それを動く偶 〈許さないわ〉 像として典礼の際に使っていた。 少女は怒っている。 たとえば朝の祈りは新生の儀式だから経験体は卵を生み、昼の祈 ″許せない″ではなく″許さない″ という絶対的な口調が狼少年は りの時は成長の象徴として殺したばかりのニワトリを喰い、タの祈 好きだ。泥のようにのしかかってくる運命の力を、すべてはね返すりでは選ばれた信者たちに乳房を与える , ーーこれは母の無償の愛の 呪文。 証しとして。 〈あなた、頭にこないの ? 〉 ウサノ師は経験体に対し、生理的嫌悪感をおさえきれなかった。 「そりや少しは : : : 」 経験体は彼女の感覚受容体であり、知能をそなえた外部独立移動 〈すこし ? 〉 式センサーなのだ。 少女は本気で腹を立てている。 ウサノ師は経験体を忌み嫌っていた。どうにもがまんならないの 〈彼女の胎内にいるかぎりね : : : あなたは安全だものね。そんなスは、経験体が″鳥″の形をしていることだった。な・せ鳥が嫌いかと テキな声をしてるのに最近は仕事もしていないようだし。たって、 いうと足が蛇を想像させるからだが、その〃鳥の足はニシキヘビ 働かなくたって食べられるんだから ! 〉 ほどの太さがあるのだった。 狼少年は久しぶりに気力が充実してくるのを感じた。 「尊師様、お電話でございます」 ここのところ倦怠期と例のドラマのせいで連絡をとらなかったの朝の祈りと昼の祈りのあい間をぬって、。フールサイドでテレビを だが、少女はいつも彼にエネルギーを分けてくれる。 見ていると、ビキニ姿の美女が黄金の電話器を銀のトレイに乗せて 「 : : : 会いたいな」 運んできた。 狼少年は言った。 誰からとたずねる必要はなかった。一 少女は皮肉つぼく答えた。 その特注の悪趣味な電話にかかってくるのは一人しかいない。 〈彼女がを出したら、会えるでしようね〉 ウサノ師はひと呼吸おいてから、ギンギラの受話器をとりあげ 結局、ふたりは時刻どおりに会うことはできなかった。 狼少年の処む八八七五号室に″鳥″がやって来たからである。 あか 270

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痛みはないが、粘いものが指先についた。 上、正直だ。ドアの外から、見張っていたのだろう。 私は無言で歩き出した。口をきく気もしなかった。何をしても時これから先、三人の間でどんな光景が展開しようとも、もはや私 には縁のない世界の出来事だった。 間と労力の浪費だ。 ネクタイを直して私は歩き出した。 耳もとで風が唸った : 横へとびざま、レンチをふりおろした姿勢でバランスを取り戻そ足音が追ってきた。 軽やかとさえ言える音に、私は疲れを感した。依頼を受けるとは うと焦るでかいのの頬へ右のフックを入れた。 手加減はしなかった。レンチの勢いからして、命中すれば頭は砕こういうことだった。 「待って下さい」 かれている。 ひたむきな口調が私の足を止めた。左脇の娘がどんな表情でいる 拳の下で、頬骨の砕ける感覚があった : かより、背後の二人の凄惨な顔の方が鮮やかなイメージで湧いた。 歩道に倒れるス。ヒードは、奴の体重分遅かったようだ。 何の用かと尋ねた。 失神したか確かめもせず、私は反転した。 娘は沈黙した。 視界の右端から黒いものがとびこんできた。赤シャツのスビード は思ったより早かった。よけたつもりが、左顎をかすった。足元の何の用もなかったにちがいない。 五メートルほど先に、暗い横丁があった。曲がってどうなるかは ハランスが崩れ、二撃目を脇腹に受けた。 . 」 わからないが、少なくとも、仕事とは縁が切れるはずだった。 骨の折れる音がした。 赤シャツは調子に乗りすぎたかもしれない、大ぶりの右を、私は娘をその場へ残して私は歩き出した。 背後で激しい足音が湧いた。 ・プローを決めた。 左手で・フロックし、奴の腹に右のボディ びきつるような雄叫だった、やめてと叫ぶ志保の声が重なった。 膝をついたそのこめかみへもう一発叩きこもうとしたとき、予想 二人組が私に追いつく数瞬前に、私は身を屈めて走った。 外の声が湧いた。 青い光が前後左右をとび、背後の足音はたちどころにゃんだ。 「やめて ! 」 私より、足元であえいでいる赤シャツが驚いた。 ひとつだけ駆け寄ってくる。 志保は赤シャツに駅け寄った。 りよう ふり向いた眼前で、優美な別の形を青い光条が貫いた。 「大丈夫、隆ちゃん ? 」 それでも、志保はすぐ、私のかたわらへ駆け寄った。 「大丈夫 ? 」 赤シャツは顔をそむけながら言った。 それは私のすべき質問だった。私はうなづき、志保の具合を尋ね 私は左顎に手をあてた。 3 5

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「この頃、おかしな野郎がくるよな」 ない、ただそれだけのことだ。 コーラと同じ色の液体をひとロ飲んで、図体のでかい方が言っ 「内でも外でも、うちのお客さんに鼻血一本出させたら、これつき た。私の方は見ない。その分、声に悪意がこもっていた。赤いシ りにしてもらうぞ」 ャツを着た相棒がうなづき、 ーテンの口調に、荒つぼい顔が歪んだ。 「そうともよ。覗きが趣味の出歯亀に、おれたちの店荒されたくね 私は立ち上がり、ドアの方を顎でしやくった。用は今日一日で済 えよな」 むとは限らない。そのたびに、絡まれては時間の無駄た。 「ここはおれの店だよ」 「おっこちらさん、話し合いに応じるとよ」 ーテンⅡマスターがたしなめた。 「へつ、おもしれえや」 「そろそろ閉店じゃねえのか、おっさん」 声を啖のように吐いて二人が身構えた。 でかいのが私を横目でみながら言った。 そのとき 「おかしな野郎のをきいたことあんだよ。どっから来るのか知ら 照明がわずかに滲むのを私は感じた。 はたち ねえが、ある晩、霧の濃い夜に、二〇歳くれえの、小汚ねえ上衣に霧だった。 細いネクタイ締めた兄ちゃんがぶらっとやってきてよ、二、三日、 私は戸口の方へ眼をやった。 その街にいるんだと。で、そいつが出ていくときにや、街には誰も扉の閉まるかすかな音が吹き込む霧を断ち切った。 人がいなくなって、廃墟になっちまうんだってよ」 娘は美しかった。 二、三日、か、私は細いネクタイをゆるめながら、胸の裡でつぶ 腰までかかる黒髪は頭頂の青いリポンで押さえられ、薄い・フルー ゃいた。 のワンビースが、典雅な顔立ちを鮮やかに引き立てていた。美しい 「何がおかしいんだよ ? 」 せいか、どこか哀しそうだった。 私と二人との間の気配を感じとったのか、娘は一瞬立ち停まり、 赤シャツが私の前へ来た。 まず二人組の顔を見つめた。 「よせ」 と、、ハーテンが制止した。 「店の中でトラ・フルは断わる」 でかい方が頭を掻き、私の方をにらみつけて戸口へ向かった。赤 「安心しな。外でやってやるよ。ちょこっとお話し合いをな」 シャツも後につづく。 「そうともよ」 娘の眼は今度は私に向けられた。 でかい方もうなづいて唇を拭った。霧と一緒にやってくる男の導私は席に戻り、グラスを取り上げた。 仕事は終わった。 をきいてはいても、私がそうだとは思っていないらしい。気に食わ あん 5

10. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

師ともなると、ぎつかり基本料金分の三時間だけ本気に人を愛する のただよう空間をすかして壁ぎわのほうを見ると、・フラチ ことさえできるのだ。相手が真人間だろうが異人間だろうが機械だナ水着が目を潤ませながら、プードルの白い耳に何か耳うちしてい 8 。プるところだった。 ろうが動物だろうが、あるいはもの言わぬ人形であろうが : となりのストーリー ラチナ水着が相手をしているのは、どうやら。フードル大のようだっ ・メーカーのテー・フルからは、牧歌的な緑の た。たぶん、超駑級の金持ちが旅行にでも出かける間、ここへあず香りと髭男の香水に混じって、会話と風景の断片がちぎれとんでき けることにしたのだろう。 シーラの前には、白髪の老人がすわっていた。老人はいきなりた次の展開は : : : わから : : : トリが走・ : ・ : 追われてる : : : キツ。フル ずねた。 ちゃんの愛した : ・ 「お若いの。あの二人の仲はどう進展するかね ? 」 遠くにいるらしい綿ボコリ色の羊が、タンポポの種のようにフワ いまどき誰も見ない ( 見たくない ) テレビに、痴呆のように見入フワとシーラのテー・フルまで飛んでくる。 っている。 メーカーは、ただもうニコニコしている。首から下 シーラは老人の心の動きを細やかに分析しながら読む。メンタルげたメイプルリーフ金貨がゆれている。シーラは光りながら動くも ・フィメールの最たる特技は、人の外形や言葉のひびきに表われるのに思わず見惚れ、ストーリー ・メーカーの黒い目と出会ってしま っこ 0 特徴を抽出して、その心理を解析できる点である。 老人はその外見や言葉から受けるイメージより、ずっと深いレベ 「お電話です」 ルの質問をしていた。政治的な話題を望んでいるのだ。 歩行電話機が自分の腹に手をつつこみながら言った。まるで内臓 シーラは答えた。 をひき出すように、まっ赤な受話器とコードを取り出してわたす。 シーラよ」 「おそらく、離婚でしようけれど、そのまえに数々の条件を提示す「はい。 るでしようね」 ( ぼくだ ) 「ほうほう : : : 」老人は満足そうに言った、「元ソ連は条件をのむ おし殺したような狼少年の声。 かの ? 「仕事中なのよ ! 」 シーラは極上の徴笑みを浮かべた。 シーラも声をおし殺すが、語調は激しい 「もちろんですわ。東京になにも落ち度はないし : : : それに、こう ( : ・ : ごめん。助けてくれつ ! ) しう問題に関しては絶対、女性に分があるものです」 「どうしたの ? 」 「ホッホッホッ . ( 鳥の奴が火を吹いて : : : ) 老人は顏じゅうシワでうずめて大笑いした。 髭男の野太い悲鳴がドラゴン・カフェ内をふるわせた。 こ 0 みと