ひさし - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1985年12月臨時増刊号
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1. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

ぎくりとして反射的に両手で股間をあわてて隠したが、誰にも見 られるわけはないのを思いだしてほっとした。 ひさしはドアを内側から叩いた。 ひさしは すると、しつこくコッコッコッと三回叩いてきた。 「くっそう。ヒリヒリするよう : : : 」 コッコッコッコッと四回叩きかえした。 ひさしは会社のトイレの個室の中で泣きそうな声をだした。スラ ックスをずり下げて便器の蓋の上に座り、自分のなさけない股間を今度は五回叩いてきた。びさしはいらだってゴンゴン、ゴンゴン 十回叩いた。 見おろしていた。 向こうも負けじと二十回、ゴンゴン叩いてきた。ドアの上の方、 金。ヒカの超合金貞操帯は、ビキニ・・フリーフのように、しつかり 下の方、中間と・ハラエティに叩いてきた。最後に、コンコココンの ひさしの下半身にフィットしていた。 スッコンコン、とおまけまでつけた。 下にはいていた・フリーフを取ってしまったため、直接金属にあた って痛いのである。おまけに道を走ったりしたので、こすれて股ずひさしは髪をかきむしってどなった。 れを起こしていた。 「いいかげんにしてくださいっ ! 入ってますよっ ! 」 すると、クスクス笑う声が聞こえてきた。 「なんでこんななさけないめにあわなくちゃならんのだ : : : 」 ひさしは泣きたくなってきた。性病にかかったよりももっとなさ「あ、やつばりセーキ君だっ」 けない。 ひさしは思わず便器の蓋からずり落ちそうになった。 杉山だった。同じ経理課の主任、ホモで童貞の変態上司の杉山良 会社のトイレにはひさし以外誰もいなかった。 一時間の遅刻の言いわけを適当に上司に言い、すぐに仕事に取り太郎三十五歳だった。 かかったのだが、ヒリヒリしていてがまんできず、トイレに駆け込「な、なんですかっ個室ならまだ四つ空いてますよっ ! 」 んだのである。 ドア越しにどなった。ひっしに怒りをおさえているため、体がワ しかし、トイレに駆け込んだものの、どうすることもできないのナワナ震えてくる。 ・こっこ 0 「ううん。・ほくはいいの。毎朝きちんと会社に行く前、自宅のおト パーは。ヒンクの花柄 イレでしてくるもん。うちのトイレット・ ひさしは腹をぐっとへこませて金属と腹との間に隙間をつくり、 なんだ」 ロと掌で風を送った。 とひさしは怒った。 イボ痔みたいな顔をしてなにが花柄だっー 「いつまでもこんなものをつけてたら、蒸れて腐っちまう。とほほ 「じゃ、 いったいなんですか ! ぼくに電話だったら、後でこちら からかけ直すと言っておいてくたさいっ ! 」 そのとき、トイレのドアがコッコッと叩かれた。 7

2. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

「ちがーうの。電話じゃないの。関君が心配で、様子を見にきてあとぶつけた。牛乳瓶の底のようにぶ厚いレンズの銀縁眼鏡がとん だ。水が音をたてて流れた。 げたの」 なにが心配なん「あ、大丈夫ですか、杉山さん」 「と、トイレに入ってるだけじゃないですかっー わざとらしく言い、ひさしは個室をでて手洗い場にさっさと向か ですかっ」 った。むろん助けてなどやらない。 「だあってん。関君がトイレに行ってから、四十五分三十二秒たっ たのに、全然戻ってこないんだもん。・ほく、とっても心配になって「ひいいん。額を。ハイ・フにぶつけちゃったん」 きちゃったの」 杉山は手を洗っているひさしの左横にやってきた。右の耳にひっ て、てめーは、人のトイレの時間までストツ。フ・ウォッチで計っ かかってぶらぶらしていた銀縁眼鏡をかけ直した。 てるのかっ ! ひさしは怒り狂った。あまりの怒りですうっと気が 正面の鏡にひさしと杉山が映った。二人ともワイシャツにネクタ イ姿だった。ひさしは薄い・フルーに茶のネクタイで、杉山はショッ 遠くなりそうだった。 「だいじよーうぶ関君 ? 便秘 ? それとも下痢 ? イチジク・カキング・。ヒンクのワイシャツに白の水玉模様の真黄色のネクタイを ンチョーもあるしラツ。ハのマークの正露丸もあるよん」 締めていた。おまけに頭に真赤な鉢巻まで締めている。 ひさしはハンカチを口にくわえて手を洗いつつ鏡の中の杉山を、 人の糞の心配までするなっ ! ひさしは怒りで声がでなかった。 「どしたの関君、黙り込んじゃって。セーキ君。貧血でも起こしたむすっと横眼で見た。 の ? 上から覗いちゃうよん」 杉山は歯槽膿漏で何本か抜けている歯をむきだしにして、かわい ひさしはあわてた。杉山なら平気でヤモリのようにドアをよじ登らしく笑った。鉢巻きをした頭は、あいかわらず中央で分けてボマ ひさしはすっくと立ちあがり、スラックスを って覗いてくる。 トでべったりなでつけていた。フケが大量に浮いている。 あげてベルトをきりりと閉めた。 ひさしはハンカチで手をふきながら、不機嫌な表情でじっと鏡の どしたの ? どしたの ? とドア越しに言ってくる杉山を無視中の杉山を睨み続けた。 し、ひさしは鍵を開けていきなりドアをガ・ハと引き開けた。 「やだん。そんなにじっと見つめないでん」 「うわっ ! 」 杉山はポッと顔を赤らめ、両手を頬にあてた。 ドアにへばりついていた杉山は・ハランスを崩して個室の中にとび ずつ、とひさしはずつこけた。おまえは十六歳の少女かっ ! ひ さしはすぐに体制をたて直して訊いた。 込んできた。 ひさしはサッと杉山をよけ、足を引っかけて杉山をころばしてや「杉山さん、なんですかその見るからに恥しい鉢巻きは ? 」 っこ 0 鏡の中の杉山の額を、眼を細めて見た。 杉山は便器に抱きつくように突っ込み、額をパイ。フにゴギンー 杉山は真中に朝と書かれた幅五センチほどの真赤な鉢巻きを額に 8

3. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

いじめっ子っ ! 」 「せ、関君の・ハカっー つけてるのかっ」 杉山は涙ぐんでいた。 ひさしは立ちあがり、杉山の股間を片足で踏みつけてみた。 グニョ、といやな感触がした。 杉山はスラックスのポケットから黄金色の小箱をだし、ダイヤル をぐいと右に回した。 ( 「ああんつ、だめつ ! 」 あまりにも不気味な感触に、靴の裏から寒気立ちあがろうとしていたひさしは、眼球と舌をとびださせ股間を 杉山が悶えた。 押さえた。超合金貞操帯が締めつけてきたのだ。 がそそっと這いあがってきた。 「げげつ ! 」 「そっそうか。杉山さんはつけてないようだな : : : 」 「ハカ・ハカバカっ ! 関君の・ハカっ ! 」 とひさしは思った。 靴が腐ってしまったかもしれない、 杉山はダイヤルをぐいぐい右に回す。 「ひえええん。 いいかげんに・ほくの体の上からどいてよおおん」 顔を真赤にしたひさしは、あまりの股間の痛さについに耐えられ 「話すまではどぎません。話さないと、体の上でとびはねますよ。 と叫びをあげて悶絶した。両 なくなり、一声、ぎえええええっ , 内臓が口からとびだしますからね」 「・ほ、・ほく本当に知らないもん。お家へ帰してよ。お家へ早く帰っ眼が白眼になった。 て仮眠取らないと、真夜中午前三時からのお仕事にさしつかえる「ああっ、いけないつ。また、やりすぎちゃったん ! でも、関君 つべーだ」 がいじめるからいけないんだよー う。あわわ」 杉山は気絶したひさしにアッカンべーをやり、ダイヤルを左に戻 杉山はあわてて口を押さえた。 し金属製の小さな箱をポケットにしまった。 「真夜中午前三時からのお仕事 ? なんですかそれは ? 」 そして杉山は袋小路に誰もいないのをササッと確めてから、気絶 しいかげん、ぐるしいようつ 「し、知らないつ。知らないよっー してヒクヒクひきつけをおこしているひさしにそおっと歩み寄って 杉山は猛烈に両手両足をスタ。 ( タ動かして暴れた。そして、自分行った。 の胸の上に乗 0 ているひさしの両足首をむんずとっかみ、すさまじ髪を電気シ = , クにあ 0 たように逆立て、白眼をむき舌をとびだ させているひさしの顔を覗き込み、眠っている白雪姫を見つけた王 いカで上に持ちあげ、ガスと左右に開いた。 子様のようにそおおおっと顔を近づけて行った。 「うわっ ! 」 ひさしは・ ( ランスを崩し、後ろにどうと倒れた。その間に、い秒杉山は自分の顔のまわりをソフト・フォーカスにし両眼を D 型に し、唇をタコのように突きだしてひさしのロに近づけて行った。 の速さで杉山は立ちあがった。 あと二センチで、ひさしのとびだした舌の先端に杉山の唇が触れ 5 杉山のショッキング・ビンクのワイシャツの胸には、くつきりひ る、というとき、ふいにすぐ上のビルの窓がガラリと開き、白いコ さしの靴跡が二つついていた。

4. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

ひさしがチラチラ杉山の方を見るのと同様に、杉山もひさしの方あがった。 「ご、ごめんなさいっ ! 」 をチラチラ見ていた。 ひさしと視線が合うと杉山は > サインを送り、チュッチュッと投「あちち、あちちっ ! 」 ひさしはスラックスの裾をつまみガニ股でビョンビョン床をとび げキッスまでしてきた。 まわった。幸い、超合金只操帯のためにひさしにとっても麻美にと 「あ、あの・ハ力が : : : 」 っても一番大切な部分は火傷をまぬがれた。 ひさしは頭を抱えた。 そのとき、女子社員がお茶を運んできた。ーー・ - ・朝と午後三時に十女子社員は ( ンカチをだし、ごめんなさい、ごめんなさいとひさ 人以上いる経理課の社員全員にお茶を運んでくるのである。なかなしのスラックスをパタバタと拭ってくれる。 「どうしようどうしようセッキ君 ! ぼく、やりすぎちゃったん か女子社員も大変だ。 ひさしの机の傍まできたプロックそっくりのザラザラの肌と四角 ! 」 杉山がエイトマンのようにすっとんできて、やはりハンカチをだ い顔をした若い女子社員が、盆から湯気のたっ湯呑を取ってひさし してひさしのスラックスをパタバタ拭った。キティちゃんの絵がプ の机の上に置いてくれようとした。 リントされたビンク色のハンカチで、集中的に股間のみを杉山は拭 女子社員の右腕がひさしの左肩に触れた。 っこ 0 そのとたんだ。 またまた超合金貞操帯が、いきなりぐぐっと 縮まり、ひさしのデリケートな部分を強烈に締めつけてきたではな女子社員と杉山が、ガ = 股で立ったひさしの前に膝まずくように してスラックスを拭っていた。 「あんたはどいてつ。このどじ娘 ! 」 「あぐっ」 杉山は女子社員を肩で押しのけた。女子社員は横にはじきとばさ ひさしはあわてて股間を押さえた。 れて床に尻もちをついた。みるみる泣き顔になって行く。・フロック そのひょうしに女子社員の右腕に肩が強くぶつかった。 に皺が寄って行くような感じだ。 「きゃん ! 」 ひさしはあわてた。 湯呑が女子社員の手をすべった。 「あ、大丈夫だよ。なんともないから。たいして熱くなかったか 湯呑はひさしの股間めがけて落下した。 それに、ぼくが君にぶつかったから悪いんだ」 湯呑はバカンと音をたてて割れ、熱い茶がひさしの股間にかかっ こ 0 女子社員はべったり床に尻をつき、両手を眼尻にあてた。 「ごめんなさい、火傷で変なになっちゃって関さんがお婿さんに行 「どあちちちちいっ ! 」 ひさしは両手でスラックスをつまみ、椅子から二メートルもとびけなくなったら、あたしがめんどうみてあげわ」 、、 0 2

5. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

やだん、と麻美は恥しがる。 で被われていたのである。 ひさしはよいしよっと、黄金色のふんどしを脱ごうとして、手を 、パンツね・ : : ・」 「ひさしさん、すつごし かけた。 麻美の言葉に、ひさしはプン・フン肩を横に振った。 お、おれ、いつのまにこんな物をはいたんだ「うむむ : : : 」 「。ハンツじゃなーい。 ろ ? うう、いてて」 ひさしはカんで顔を赤くして、それを脱ごうとした。 だが、びくともしなかった。 それは黄金色に光る金属製のふんどしそっくりの物だった。 「そ、そんな・ハ力な」 幅十センチほどの黄金色の金属板がぐるりと腰をベルトのように 巻き、それと垂直に、やはり同じ幅十センチほどの黄金色の金属板もう一度ガ = 股になってずりさげようとカむ。 するとどうだろう。ぐぐっと金属板が縮まり、逆にきつく締めつ が股間を前からぐるりと後ろへまわっているのだ。 つまり、黄金色の金属板のふんどしを、ひさしはすもう取りのよけてきたではないか。 うにパンツの上につけているのだった。 「ぎゃあああっ ! 」 ひさしはあまりの痛さに両手で頭を抱えてのけぞった。 「あてて : : : 」 ・こ、じようぶつ」 「どしたのどしたのつ卩 ひさしは金属板の上から股間を押さえ顔を歪めた。 、下こ引っ 「ひさしさん、どうしたの ? 」 麻美は床に膝をつき、ひさしの金属ふんどしをぐいぐし冫 ばろうとした。すると、ますます、金属ふんどしはきつく締めつけ 心配して麻美は訊く。 : 。なにしろ朝起きたばかりてきた。 「この金属のふんどしがきつくって : 引っぱるな 「ぎゃあああっ ! つ、潰れるうう : : : 。触れるなっ。 うう」 だから、元気よいのがしめつけられて : 麻美っ ! 」 腰を後ろに引くようにして内股になって呻く。 ひさしは床に倒れ、股間を金属板の上からかきむしり、体を h ビ 「んまあ、ひさしさん、かわいそっ」 そりにした。眼が半分白眼になっている。 麻美はべッドから降り、ひさしにべったり抱きついてきた。 たのむ麻美、なにか着てくれ。でないとますます痛「どうしよ、どうしよ」 「いててつー 麻美は両拳を口もとにあて、全裸のままひさしのまわりをおろお ろと走り回った。一 「それを脱いじゃえばいいのに」 「おお、そうか。そうだよな。なんでそれにはやく気づかなかった「いででで : : : 」 ひさしは顔面をぐしゃぐしやに歪ませて体をそらせ続ける。その んだ。やつばり麻美は頭がいいな」 腹の上に、いきなり麻美は背をひさしの顔の方に向けてドスンと股 ひさしは指で麻美の頬をちょんと突っついた。 3

6. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

関びさしと麻美は、中央の。ハネが緩んで窪んだ狭いシングルべッ た出現してくれたんだねっ ! 」 トの中で、毛布にくるまってひしと抱きあった。 パッとひさしは破顔した。 「うひょひょ。なんかすごく新鮮な感じがするな」 「うん。昨晩、ひさしさんが眼っているうちにべッ トの中に忽然と 現われちゃったの」 クスッと麻美がひさしの顔を見て笑った。 「ああ、よかった。もう二度と現われてくれないのかと思って、心 「ん ? どした ? 」 「だって、あの電話の作者の声って、ひさしさんにとってもよく似配で心配で。おれは夜もろくに眠れなかったんだよ。昼間は会社で 杉山のアホにいじめられるし」 てたんですもの」 「ごめんね。さみしかった ? 」 「そ、そうか ? まだ会ったことないけど。 、どんなやっ 「もちろん、さみしかったよ」 なんだろな : : : 」 、・ツドに倒れた。どこから ひさしと麻美はひっしと抱きあってへ ひさしは首をひねった。 「変なこと言って、ごめんなさい。作者なんて気にしないで寝ましか、どうもこいつら芝居が臭くなってきたな、というエコーのかか った作者の呟きがかすかに聞こえて消えた。 「ひ、ひさしさん、なにか下半身にゴッゴッあたる」 「うん。そうしよそうしよ」 ひさしに被いかぶさるように抱きついていた麻美は言った。 二人は徴笑してからタコのように唇を尖らし、チュッとキスをし 「そ、そうだ忘れてた。いてえいてえいてえっ ! 」 て、抱きあって眼を閉じた。 「どしたのどしたの ? 」 「どーしたも、こーしたも、いてええっ ! 」 激痛に関ひさしは両眼をカッと見開いた。 ひさしは上に乗った麻美をはじきとばし、べッドからガ・ハと起き 「いてえええっー いてえいてえいてえ ! 」 て、床に立った。 下半身一部の猛烈な痛さに、あわてて毛布をはいだ。 「う」やっー 「な、なにそれつ」 なんじゃこりゃああっ ! 」 自分の下半身を見、ひさしは思わず両手をあげて上半身だけで踊べッド の上にべたんと足をの字にして座った麻美は両拳を口も とにあて、眼を丸くして言った。 「な、なんだろうこりや ? : : : 」 「どしたの、ひさしさん」 隣に寝ていた全裸の麻美が目を覚まし、白い胸をすり寄せるよう ガニ股で立ったひさしも自分の下半身を見おろし、眼を丸くした。 にしてひさしに抱きついてきた。 ひさしはいつも、上はシャッ下はビキニ・・フリーフというかっ 「どーしたも、こーしたも。あれ ? 麻美じゃないか っ ! またまこうで寝ている。その紺のビキニ・・フリーフの上が、金色に光る物 っこ 0 ℃ / し

7. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

グッチャリよ、とカスさんは真白な歯を見せて、それは優しく微笑もん」 2 ひさしは右左右左とジャプを杉山の顔面に入れた。杉山もボクシ 3 したのです。ぼくは痛さにおいおい泣きながら土下座をし、ま、一 肌脱いでやるか、と彼女のたのみをしかたなく聞き入れてやったのングのかっこうをして応戦しはじめる。 です」 「今までに何人につけたんだっ ! 」・ この蠅男つ」 「さっきのでちょうど三十個だよう。ぐえつ」 「脅迫されたんだろがっー 「やがて透明から降ろされたぼくは百個の超合金貞操帯と催びさしのストレートが杉山の鼻を潰した。 眠ス。フレーを抱え、頭上の入口を見あげました。するとカスさんは 「もう二度とづけるなっ ! それになんだっておまえは独身男の住 入口から笑顔をだし、・ほくの頭の輪をさらに強くギリギリと締めつんでるアパートなどを知ってるんだっ」 けて、おっしやったのです。それを若くて美しい独身男性の下半身「この町内と隣町の美しい独身男性の住所と名前と電話番号はすべ にひとっ残らず全部つけておくのよ、と。わたしは十三日の金曜のてノートにメモしてあるもん。毎年・ ( レインタインにチョコレート 真夜中に、この公園へ再びやってきます。そこでとても大切な儀式送ってるんだもーん。うげつー を行うわ、とにこやかにおっしやり、 > サインをして去って行った ひさしの左アッ 。ハーが杉山の顎に入った。 のです。入口はし・ほむように小さくなり、点になって消えてしまい 「十三日の金曜になったらなにが起きるんだ卩」 ました」 「ひいい。知らないよう」 「それできさまは夜な夜な独身男のアパートに忍び込んで、その超杉山の顔は血まみれだった。いや、血と鼻と涎まみれだった。ひ このオケラっ ! 」 合金貞操帯をつけてまわったのかっー さしと杉山は軽快なフットワークで右左とパンチをくりだす。 ひさしは杉山の頭を殴った。 「十三日の金曜になったら、超合金貞操帯がはずれるのかっあ 「ひええん。だって夜中の三時になるとギリギリと輪が締めつけてと一週間もあるじゃねえかっ ! 」 「そうだと思うよう。一度つけたら誰にも二度とはずすことができ くるんだもん。お仕事をはじめるとゆるむんだもん。だから、てつ とりばやく、・ほくの町内と隣町の若い独身男性のア。 ( ートに毎夜忍ないんだよう。締めたりゆるめたりすることはコントロール・ポッ クスでできるけど、あわわしまった」 び込んだんだよう」 「おれは確かに美しい独身男性だが、この町から全然離れた所に住「なにつやつばりそうか ! あの黄金色の小箱だなっー んでいるじゃねえかっ ! 」 ひさしは膝蹴りを杉山の顔面に入れる。杉山はぐえっとのけぞっ右、左と杉山のボディに。ハンチを入れた。 「ぐふつぐふつ。だすようう。でも三メートル以内にある超合金真 た。が、ダルマのようにすぐに一昃る。 「だって、関君につければ麻美となにもできなくなると思ったんだ操帯にしかきかないよう。下半身の大きな人にはかせるときに広げ

8. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

ひさしは両手でドンと杉山の胸を突いた。 つ。杉山さんには関係ないでしよう」 杉山はすっとんで尻もちをついた。 ひさしは吐き捨てるように言って、ドアを押し開け、トイレを逃 2 「い 42 ー : ごめんね関君。ちょっと眩暈がしちゃって : ・げるようにでて行った。 いひーっひつひ、と杉山は笑い、数秒後ひさしの後からトイレを このところぼく、毎晩睡眠不足なんだ : : : 」 ふん、なーにが睡眠不足だ、と鼻でせせら笑い、ひさしはトイレでた。 のドアへ向かおうとした。すると杉山が、尻もちをついたままじい そして通路をひどいガニ股で去って行くびさしを見つめながら、 いっとひさしの股間を見つめているのに気づいた。 スラックスのポケットから煙草ほどの小さな黄金色の金属製の箱を ひさしはつられて自分の股間を見おろした。 取りだした。 スラックスのチャックがパックリ開いていて、黄金色の超合金貞杉山はその金属製の箱についているダイヤルをつまみ、くいっと 右に回した。 操帯が見えてしまっていたのである。 あわててひさしはチャックをあげた。 すると、十メートルほど先で経理課のドアを開けようとしていた ニタア ~ 5 、、と杉山は不気味に笑った。 ひさしが、ぎゃあっー と叫び内股になって股間を押さえた。 ひさしはそそっと背筋に悪寒が走った。 杉山はダイヤルをもとに戻し、金属性の箱を素早くボケットにし 「せえき君、ずいぶん素敵なパンツはいてるのねん : : : 」 まい、ひさしに向かって廊下をスキツ。フして行った。 杉山は上眼使いに言う。 「どーしたの関君 ? どーしたのん。どっか痛いのん ? 」 「そ、そうでもないですよ。じゃ、お先に」 杉山は、股間を押さえて経理課のドアの前にうずくまるひさしの ひさしはあわててトイレのドアを押してでようとした。すると尻肩にそっと手を置いた。 もちをついていた杉山が、糸で上に引っぱられたようにゆらりと立超合金貞操帯が、いきなりひさしの股間を締めつけてきたのであ っこ 0 ちあがった。こいつはあやつり人形かっー 「せえき君、いっからそんなにひどいガニ股になったの ? うふ ふ。あの例の麻美とかいう。ハー。フー娘はどうしたの ? 今、関君の お部屋にいるのん ? 」 杉山は腰を落したあやつり人形の歩き方でひょこひょこと歩み寄「なーんか、あいつはあやしい ってきて、下顎を力。 ( カバ開いて言った。 ひさしは机に向かって伝票の整理をするふりをしながら、杉山の 不気味な歩き方をするな ! ひさしはおびえた。 席の方をチラチラと盗み見していた。杉山の席はドアのすぐ近くに 、ますよ。でも、そんなこと、どうでもいいじゃないですかあり、ひさしの席は奥の係長の席近くにある。

9. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

「ハカバカ。あたしがひさしさんに、こんなことするわけないじゃ ない。それに、あたしにだってはずせないんだもん、あたしとだっ ひさしは自分の股間を指差して言った。 「テイソウタイ ? なあにそれ ? 」 ・ツドに忽然と出 「そ、そうだっ , 麻美はきよとんと首をひねる。 せつかく麻美がまたおれのヘ 「つ、つまりだな、おれが浮気をできないようにするための : : : 」現してくれたというのに、これじゃあ美しくも激しい愛の世界に入 れないじゃないかっ ! 」 ひさしは眉根を寄せてじいいっと麻美を見つめた。 麻美は不思議そうに眼をしばたたいている。 ひさしはそのことに気づき愕然とした。 「まさか麻美。おれが眠っている間に君がこれを : : : 」 「なんてこったっ ! 」 おお神よ、と天井を仰いだ。 低い声でひさしは言った。 「え ? あたしがっ」 麻美はひさしの胸に顔を埋めて、びさしさんの・ハ力、、ハ力と胸を叩 麻美は驚いて自分を指差し、ぶんぶん首を横に振った。 いている。ひさしは、天井を仰いだ後、よしよしと背をさすってや 「どうしてあたしが、ひさしさんにそんなことしなくちゃならない 「しかし、こんな物が麻美と同じように、おれの股間に忽然と出現 しいや、あるはずはない。なん 麻美の顔がみるみる泣き顔になって行く。両眼のふちが赤くなするなんてことがあるだろうか ? でもかんでも朝目が覚めたら忽然と出現しているなんて安易すぎ り、じんわり涙が溜ってきた。 ひさしはあわてた。 る。手抜きだ。作者にも良心があるはずだ。ーーーすると、誰かがお 「ご、ごめんよ。そうだよなっ。麻美がこんなことするわけないよれの寝ている隙に、部屋に忍び込んできてこっそりつけたというこ なっ」 とになるが : : : ん、まてよ」 ひさしは金属ふんどしのために、ひどいガニ股で麻美に歩み寄麻美を抱きしめていたひさしは、部屋の空中を見つめ眉根を寄せ 、床に膝をついて抱きしめた。 ひさしは上はシャッ下は脛た。まてよ、ともう一度呟いて、刑事コロンボのように眉根を揉ん 毛むきだしというひどいかっこうだった。ちなみにプリーフはトイだ。 レに入るときに不便だったので、引っぱりたしてカッターで切って「そういえば、昨晩、寝酒を呑んでペッドに入ってうとうとしてい はずしてしまっていた。今や金属ふんどしがパンツがわりなのだっ たとき、なにか黒い影のような物にのしかかられたような気がした 。あれは麻美じゃないな。ーー麻美、君は昨晩、いつごろお ひさしは麻美を抱きしめた。 れのペッドに出現したんだ ? 」 「ごめんよ麻美、変なこと言って」 ひさしの胸に顔を押しつけてクスンクスンと鼻をすすっている麻 こ 0 5

10. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

美を引きはがし訊いた。 ひさしは腕組みをして、ひとりでぶつぶつ呟いた。 「あたし、わかんなー そのとき麻美が玄関までやってきて背後から声をかけてきた。 だって、いつも目が覚めると知らな 「ひさしさん。もう九時を過ぎてしまったけれど、会社はいいの いうちにひさしさんのペッドの中にいるんだもの。でも : : : 」 「でも ? 」 「たぶん明け方頃だと思うわ : : : 」 ひさしは麻美の言葉に、カタンと顎を胸まで落した。ーーー振りか 「そうかつ。すると、あの寝入りばなの金縛りはやつばり : たえり、自分で顎を戻して言った。 しか誰かの気配を感じて、おれは眼を開けようとしたんだ。すると「か、完全に忘れていた。おれはこの話ではまだ三流電気メーカー サラリーマン ・フシューツと顔にいいにおいのするなにか霧のような物がかかっ に勤める会社員だったのだ : : : 」 て、そのとたんおれはなにもかもわからなくなってしまい、朝目覚 ひさしはその後、コマ落しの動作で動いた。 めたら、こうなっていたんだ : : : 」 「ひでえ遅刻だっ。課長や係長にまたねちねち言われるうつ。杉山 「それじゃあ、誰か知らない人がお部屋に忍び込んできて、ひさしのアホにいびられるうつ」 さんとあたしにとってとても大切な場所に、テイソウタイを : : : 」 麻美に手伝ってもらってワイシャツを着、ネクタイを締め、靴下 麻美はひさしをひたと見つめて言った。 をはいた。 そして超合金製貞操帯の上からスラックスをはき、 「うむ。そうだ。そうにちがいないつ」 上着を着た。 ひさしはすっくとガニ股で立ちあがった。そしてガ = 股のままキ「じゃ、麻美行ってくるよっ ! 」 ッチンを通り、玄関へ向かった。 ひさしはドアの外にでて、靴・ヘラを麻美に渡して言った。 玄関を見、ひさしはショックを受けた。」 「うん。さみしいから早く帰ってきてね」 「や、やつばり : : : 」 「もちろん ! 五時一分でタイム・カード押して、エイトマンみた 鉄製ドアが十センチほど通路側に開いていたのだ。起きてから、 いにすっとんで帰ってくるからねつ」 一度もひさしと麻美は出入りをしていない。 ひさしは唇を尖らせて麻美に、チュッとキスをした。 「くっそう : いったい誰がこのおれに金属ふんどし、いや貞操鉄製ドアを閉めた。ーー麻美が内側からロックし、チ = ーンをか 帯なんかを : : : 」 けるのを外から確かめてからドアの前を離れた。 ひさしはドアの隙間を見つめてギリギリ歯ぎしりをした。 「くそっ ! おれも夜寝る前にきちんとドア・チェーンをかけとけ 「これが貞操帯だとすると、誰かがおれに女性とできないようにしば、こんなことにならなかったんだっ。とほほ : : : 」 ようとしたのだ。ううむ。いったい誰だろう : : : 。昔の恋人だろう ひさしはスラックスの下についている超合金貞操帯のため、ひど か ? まさか」 いガニ股で通路を走り、エレベーターに向かった。 6