る。 みのりの考えるツ究極のおべんとう″とは : まず、ごはんは、ほどよく冷えていること。 次に、梅干しと昆布の佃煮が添えられていること。 そして、おかずは、おペんとう世界の三種の神器とも呼ばれる、 唐揚げ ! タマゴヤキⅡ ウインナ , と、三拍子そろっていること。 ( 注 1 ) 最後に ( これが一番重要なポイントだが ) 、その場合のウインカ 1 は、必ずタコカニタコカニしていることー みのりはタ陽に向かって叫びたかった。 タコさん。 「タコのウインナーの入っていないおべんとうなんて、本当のお んとうじゃないわⅡ」 タコさん ことほどさように、みのりにとって、タコのウインナーは、重要 カニさん な意味合いを持つのである。タコのウインナーこそが、おべんとう みのりは、せっせと包丁を動かした。 の象徴なのである。 これ以上はないってくらい、真剣な顔つきである。 ま】、そんなわけで、みのりの前に置いてある、まな板の上に 外科医がメスを扱う時のような、細心きわまりない手つきであは、これはタコこれはカ = とゆー具合に、ウインナーが可愛らしく 並べられているのであった。 額には、うっすらと汗さえにじんでいる。一 そして、みのりの背後には、およそ一トンはあろうかと思われ 朝もはよから、台所にこもりつきりで、ドアに鍵までかけて、みる、出来損いウインナーの山が、うず高く積みあげられているので のりは、ウインナーをタコにしているのであった。 あった。 あるいは、カニにしているのであった。 「あーーっ、また失敗 ! 」 時には、皮つきと皮なし ( のウインナー ) で、赤ワニ白ワニを作みのりは、それまで手にしていたウインナーを、肩ごしにポイと ったりしているのであらた。 ほうり投げて、新しいウインナーを手にとった。 おべんとうは、 かくあるべしー そしていこれひとつに人類の命連がかかっているノダ ! とゆー 0 月△日はれ 今度の連休に、 山下さんとサトルさんと、あたしの三人で、 大冒険に行こうとゆーことになりました。 おべんと作るんだいワ ( みのりの日記よりーーー原文のまま ) 303
みのりのおべんと箱は、ネコさん模様だった。 然と立ちつくしていたものだ。 「うーん」 原因を聞いてみると、 山下が、意味不明のうなり声をあげた。 『ウインナーをタコにしてたの : : : 』 山下は、つくづくと考えた。 「わあ。こりやー、おいしそうだ」 サトルは、さっそく蓋を開けて、中身をのそいている。 いったい、どーゅー風な手違いをすると、タコのウインナー で、台所を丸ごと吹ぎ飛ばせるんだろう ? 「タマゴヤキに、唐揚げに : : : あっ、すごい。ウインナーが、ちゃ やはり、みのりの才能には、常人では測り知れないものがあるよんとタコになってる ! へえ、すごいなー」 うだった。 「へへー」 みのりが、うれしそーに笑った。 「まー、しかし、ケガがなくってなによりでしたねー」 「ちょっとしたもんでしょ ? 」 サトルが、 にこにこしながら、一一 = ロった。 「みのりさんの、お手製弁当が食べられなくなったのは、残念な気「いやー、たいしたもんですよ、みのりさん」 サトルは、カ一杯うなずいた。 がするけど。 天気もいいし、絶好の大冒険日和ですよ」 「あら、おべんとうなら無事よ」 「これこそ、正しいおべんとうの姿ってもんです。ーー・それに、お 「えっ ? 」 が、泣かせますねー」 やつのマー・フルチョコレート 「ほら」 「そ ! あたし、これ好きなのオ」 みのりは、ガレキの中から、少し焦げ目のついた籐製の・ハスケッ いや、幼稚園の遠足を思い出しま 「ぼくも、大好きなんです。 トを、引っぱり出した。その中には、お茶を入れた水筒と、かーい すねー」 らしいおべんと箱が三つ。それに、。 テザートの・ ( ナナと、おやっすりすりすり。 に、マー・フルチョコレートが三本入っていた。 サトルは、マ】・フルチョコのケースに頬ずりしながら、うっとり 「これ、山下さんの分。これ、サトルさんの分。これ、あたしの分」している。 みのりは、春の陽だまりみたいな徴笑を浮かべている。 みのりは、それぞれのおべんと箱を並べてみせた。 爆弾が落っこちた跡みたいな台所で、くりひろげられる光景とし 山下とサトルは、思わず顔を見合わせた。 ては、なかなかに異常で、心あたたまるものであった。 それから、台所の惨状に目を移した。 、どうやったら、こんな大爆発の中で、お 最後に、もう一度、おべんと箱に視線を戻す。 べんとうだけ、無事にすませることができるんだろう ? 山下のおべんと箱は、クマさん模様。 ひとり山下だけが、悩んでいた。 サトルのおべんと箱は、ワニさん模様。 305
持ち主だからなー。 山下は、チラチラとみのりの横顔を、うかがった。 「さっきから、なに考えこんでるの、山下さん」 みのりが、明るく声をかけた。 アンドロイド 「も、大丈夫よ。海賊たちは、みーんな海の中へ落っことしちゃ ったし、ぬいぐるみは海の中には入ってこれないし、とりあえず、 この帆船にいれば、ひと安心よ」 三人は、海賊船の乗っ取りに、見事成功した。 につこり。 「いや。別に、そんなことは、心配してないんですけどね」 山下は、ロごもった。 「じゃあ、山下さんも、おべんと食べなさいよ。ーー・走って、おな 「いやー、あざやかなお手並みでしたね、みのりさん」 かすいちゃったでしょ ? 」 と、サトルが、感心しきった口調で、言った。 「マー・フルチョコに、あんな利用法があったとは、知りませんでし「はあ : : : 」 山下は、差し出されたおべんと箱を受け取りながら、ぼんやりと たよ」 うなずいた。 「まーね」 何か、心のすみに、ひっかかることがあったのだが、それが何だ みのりは、ちょっぴり得意そうに、うなずいた : ったか、どうしても思い出せなかった。 「だけど、危険だから、小さいお子さんは、絶対に真似しないでほ このウインナー、腹の中で爆発するってことは、ないだろう しいものね」 「ほんとですねー」 山下は、タコのウインナーを、ハシでつまみあげて、つくづくと 二人は、しみじみとうなずきあっている。 眺めた。 山下ひとりが、悩んでいた。 サトルとみのりは、例によって、旺盛な食欲を見せている。 世の中には、自分自身で、その場に立ち会っていながら、絶対に 「んー、うまい ! 最高 ! 」 理解できないことってのが、いくつか存在しているらしい 「ほんとに、そう思う ? 」 いったい、どうやったんだろう ? 「もっちろん ! 」 山下は、しきりと首をひねった。 「えへへー」 まあ、タコのウ卩ンナーで、台所を吹っ飛ばしちゃう才能の 「乗っ取るったって、一体どうやって ? 」 「だいじはうぶ」 みのりは、きつばりと言ってのけた。 「あたしたちには、マー・フルチョコレートがあるわ ! 」 3 に
1 ミューンツク・ルミナリー誌 特派のユリア・スウエルト です 承って おります エミューよ 同じ部屋に 入れても かまわない ? ええと いへ、 ウイング・キャット ですか ? うーん 大丈夫 そいつは そそ , つを したりは しない じゃあ 荷物と エミューを 部屋まで 運んでおいてつ はあ ? 203
山下は、肩をすくめた。 「それより、教えてくれないか。 男は、妙な顔をした。 そして、何も言わずに、山下の後ろを指さした。 三人は、肩ごしに後ろをふり返った。 グランド・コンコースの建物が、目の前にそびえていた。 三人は、互いにススだらけの顔を見合わせた。 そして、同時に吹き出した。 男は、相変らず妙な顔で、山下たちを見つめている。 「あ。そーだわ」 みのりが、ふと思いついたように、言った。 「コンビュータの故障は、直ったのかしら ? 」 「いやいや。とんでもない」 男は、首をふった。 「コンビュータ・複合体の中枢へも、まだたどりつけてないんじゃ ないかな。なにしろ、完璧な自己防御システムを備えてる奴だから ね。技術者たちも、かなり苦労してるらしい」 「そんなコンビュータ、ぶつこわしちゃえばいいのよ」 と、みのりは、あくまで過激である。 「そう簡単にいくもんかね、お嬢ちゃん」 男は、苦笑いを浮か・ヘながら、言った。 「なにしろ、奴の防御システムときたら、最新鋭の特殊部隊が一連 隊でかかったって、破れるようなシロモンじゃねーんだ」 「ふ】ん」 みのりは、ちょいと気取って、こう言った。 - 「あたしなら、そんなもの、ウインナーとマー・フルチョコで、ふつ グランド・コンコースは、どっちとばしてみせるけど」 「ほーお」 男も、ちょいと気取って、それに応えた。 マー・フルチョコなら、コンコースの 「そいつは、おもしろい え 売店にあると思うがね。なんなら、買ってきてあげようか ? お嬢ちゃん ? 」 馬鹿なことを言ったものである。 みのりを本気にさせては、いけなかったのだ。 山下たちが猫ヶ丘に帰って、二週間たった。 豪田篤胤科学研究所の台所は、元に戻ったが、大冒険惑星全体の 修復は、まだまだ終りそうにないという話である。 327
ポッと垂直にでてきて、気絶した杉山にあたった。 うにして走ってくるのだった。 6 「そうか ! あいつらは杉山が夜な夜な忍び込んで超合金貞操帯を杉山はあやつり人形のように白眼むきだしの気絶した状態のま 3 おお、とひさしたちゃ起きあがっ ま、ひょいと立ちあがった。 つけた独身美青年たちかっ ! 」 悲鳴をあげながら、二十九人の独身美青年たちが、たちまちのうた独身美青年たちが後ずさる。 ちにひさしたちのいる噴水の傍まで走ってきて、カつきて次々と倒そして、その直径三メートルのスポット・ライトの中を、頭上の ェイリアン 入口から異星人が、ふわふわと足から降りてきたのであった。 れていった。 ェイリアン パジャマを着ている者、きちんと服を着ている者、風呂にでも入異星人は見えない糸につるされたように気絶したまま立っている っていたのかシャン。フーしながら裸で走ってきた者、毛布を引きず杉山の横に、ふわりと爪先から降り立った。 ってきた者、歯をみがきながら走ってきた者、茶碗と箸を持ったま「おおっ ! 」 ひさしをはじめ二十九人の男たちは、一斉に両眼を D 型にして息 まの者、キリンのぬいぐるみを抱えた者など、様々な状態で男たち つ。よを呑んだ。 は走ってやってきたのだった。みんな股間の超合金貞操帯に引ー られてやってきたのだった。 瞳が金色で、肩よりも長いウェー・フのかかった金髪の超グラマー の異星人は、腿までしかないビンクのスケスケのネグリジェを着て 二十九人の男たちが、ひさしたちの前に倒れてぜいぜい息をつい いたのである。しかも、下は黄金色の金属性のビキニの上下だけだ ていた。 ェイリアン 「んまんま。君たちは・ほくに会いたくて走ってきてくれたのねんった。どう見ても異星人というより、。フレイボーイやペントハウス のグラビアの美女である。 「はじめまして、わたしがジュラク星からやってきたカスことキャ 杉山が胸に手をあててガクガク頷き、涙ぐんだ声をだした。 サリンよ」 ひさしは後頭部に回し蹴りを入れた。 「おまえに会いたくてくるわきゃねーだろっ , この便所のタワシ カスは身をくねらすようにして両手で金髪を後ろからかきあげて セクシーポーズをし、・ハッチン・ハッチン、男たちにウインクをしま くった。 「ぎゃああっ痛いっ ! 痛い痛い痛い頭が痛いっ ! 」 杉山が頭を抱えてのたうちまわった。 ひさしと二十九人の両眼を D 型にした男たちは全員両手を股間に 「す、杉山さん。そんなに強く蹴ったわけじゃ : あてた。胸もワ型にドッキンドッキン打っていた。麻美たけが白け 「ち、ちがうのつ ! 頭の輪がっ ! ぎえええっ ! 」 て見ている。 杉山は体をェビぞりにし、両眼を白眼にして気絶した。と、同時そしてカスは妖しく徴笑しながら言ったのだった。 に、ひさしたちの頭上の入口からスポット・ライトのような光がズ 「さあ、皆さん、なんだか予定より人数がひどく少いようだけど、