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検索対象: SFマガジン 1985年12月臨時増刊号
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1. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

グッチャリよ、とカスさんは真白な歯を見せて、それは優しく微笑もん」 2 ひさしは右左右左とジャプを杉山の顔面に入れた。杉山もボクシ 3 したのです。ぼくは痛さにおいおい泣きながら土下座をし、ま、一 肌脱いでやるか、と彼女のたのみをしかたなく聞き入れてやったのングのかっこうをして応戦しはじめる。 です」 「今までに何人につけたんだっ ! 」・ この蠅男つ」 「さっきのでちょうど三十個だよう。ぐえつ」 「脅迫されたんだろがっー 「やがて透明から降ろされたぼくは百個の超合金貞操帯と催びさしのストレートが杉山の鼻を潰した。 眠ス。フレーを抱え、頭上の入口を見あげました。するとカスさんは 「もう二度とづけるなっ ! それになんだっておまえは独身男の住 入口から笑顔をだし、・ほくの頭の輪をさらに強くギリギリと締めつんでるアパートなどを知ってるんだっ」 けて、おっしやったのです。それを若くて美しい独身男性の下半身「この町内と隣町の美しい独身男性の住所と名前と電話番号はすべ にひとっ残らず全部つけておくのよ、と。わたしは十三日の金曜のてノートにメモしてあるもん。毎年・ ( レインタインにチョコレート 真夜中に、この公園へ再びやってきます。そこでとても大切な儀式送ってるんだもーん。うげつー を行うわ、とにこやかにおっしやり、 > サインをして去って行った ひさしの左アッ 。ハーが杉山の顎に入った。 のです。入口はし・ほむように小さくなり、点になって消えてしまい 「十三日の金曜になったらなにが起きるんだ卩」 ました」 「ひいい。知らないよう」 「それできさまは夜な夜な独身男のアパートに忍び込んで、その超杉山の顔は血まみれだった。いや、血と鼻と涎まみれだった。ひ このオケラっ ! 」 合金貞操帯をつけてまわったのかっー さしと杉山は軽快なフットワークで右左とパンチをくりだす。 ひさしは杉山の頭を殴った。 「十三日の金曜になったら、超合金貞操帯がはずれるのかっあ 「ひええん。だって夜中の三時になるとギリギリと輪が締めつけてと一週間もあるじゃねえかっ ! 」 「そうだと思うよう。一度つけたら誰にも二度とはずすことができ くるんだもん。お仕事をはじめるとゆるむんだもん。だから、てつ とりばやく、・ほくの町内と隣町の若い独身男性のア。 ( ートに毎夜忍ないんだよう。締めたりゆるめたりすることはコントロール・ポッ クスでできるけど、あわわしまった」 び込んだんだよう」 「おれは確かに美しい独身男性だが、この町から全然離れた所に住「なにつやつばりそうか ! あの黄金色の小箱だなっー んでいるじゃねえかっ ! 」 ひさしは膝蹴りを杉山の顔面に入れる。杉山はぐえっとのけぞっ右、左と杉山のボディに。ハンチを入れた。 「ぐふつぐふつ。だすようう。でも三メートル以内にある超合金真 た。が、ダルマのようにすぐに一昃る。 「だって、関君につければ麻美となにもできなくなると思ったんだ操帯にしかきかないよう。下半身の大きな人にはかせるときに広げ

2. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

そこでぼくは夜た、プレイボーイやペントハウスのグラビアにでてくるような金髪 の入口もあきてしまって去って行くだろうと : の公園の噴水の近くに砲丸投げをする人のかっこうで立ち止まったの超グラマーカツ。フの絶世の美女異星人だったのです ! 」 のです。指一本、まばたき一回もせずに丸々一時間・フロンズ像のよ「・ : うに立ち竦んでいました。が、ぬわんと、頭上の入口も丸々一時間 杉山は一度下を向き、フッとロもとに恥しそうな笑みを浮かべ こ 0 ぼくの頭上に、びたり位置していたではないですかっ ! 」 このゲンゴロウつ」 「アホかおまえはっー 「女ぎらいのぼくでも、彼女は思わずハートがドッキドッキするよ 「ぼくは頭上の奇怪な入口を指差し、クリント・イーストウッドのうな美女だったのです。こんなことは生まれて初めてでした。 ようにニヒルに言ってやりました。おまえがその気なら、こっちに彼女は。フラネタリウムにもない遙かかなたのアターミ星雲のジュラ ク星という所からやってきたキャサリン、愛称はカスよと名のりま だが入口は答えませんでした」 も考えがあるぜ、と。 した」 「あたり前だっ。このフンコロガシっ 「そして・ほくはついに最後の手段にでたのですっ ! 噴水の傍にガ「よく言葉が通じたな。おまえみたいな毛ジラミに」 ・ ( と跪きました。ばくはあやまったのです。どーかひとっ許してや「もっちろんによくあるテレ。ハシーっていうやつですよダーン ってくだせえ。なにもかもみんなぼくが悪いんですごめんなさいごナ。へつへつへ」 めんなさい、と額を地面にこすりつけてあやまったのです」 ああら、ちょいと、と右手を振ってから杉山は揉み手をした。 「なさけないやつだっー このシャクトリ虫っ ! 」 「で、どうしたんだ ? 」 「するとするとどうでしよう ! 入口から強烈なスポット・ライト ポン引きを見る眼でひさしは杉山を見た。杉山は姿勢を正した。 のような光がズ・ホッと一直線に出てきて、ばくの全身を包んだので 「キャサリン、いやカスさんは言ったのです。あなたにおりいって すスポット・ライトを浴びたぼくは、すっくと立ちあがり、つ たのみたいことがある、と。そして、奥へ引っ込んだと思ったら、 『マイ・ウェイ』を歌いはじめたのですが、一番も歌い終らぬうガシャガシャいわせて、例の超合金貞操帯を両手いつばいなんと百 いつのまにかぼくは、ぬわんとの内部に吸い込まれて個も運んできたのです。そして言いました。これを若くて美しい独 ェイリアン いたではないですか ! そしてそこで異星人とファースト・コンタ身男性の不半身に取りつけてほしいのよん、と。ぜひやってほし クトをしてしまったのですっ ! 」 やらないとこうだわよ、と言いつつ、・ほ 。やってちょうだいー くの頭に素早く取りだした黄金の輪をすつぼり被せたのです。そし 正座していた杉山は立ちあがり、両手を広げて言った。 てカスさんは腕時計のような物を、ちょこちょこといじりました。 さすがにひさしと麻美はごくりと唾を呑み込んだ。 ェイリアン するとどうでしよう。ばくの頭をギリギリと黄金の輪が締めつけて 「ど、どんな異星人だったのだ ? 」 「それは黄金色の超ビキニの上にスケスケビンクのネグリジェを着きたではないですか ! 言うことをきかないと、あなたの頭の骨は 3

3. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

そこまで見たひさしは耐えられず口を押さえ先に部屋をでて行っ たが、ふいに顔をあげて真剣な表情で話しはじめたのであった。 0 ェイリ。ア一ン 「これはぜえんぶ、ぼくが第四種接近遭遇をした異星人のせいなの 3 麻美の待っている電柱の横で、おえおえ吐いていると、杉山がこです ! ・ほくのせいじゃないのです ! 」 エ・簿リアン そこそとアパートからでてきたのだった。 「なにい ? 異星人だと ! 嘘つけこのチャネ・ゴキ・フリっ ! 」 「本当なのです。ーーーあれは一週間前の土曜の夜中、午前一一時頃た ったでしようか。仕事のことや人生のこと、人類の平和などについ て深く考えていたぼくは、どうしても寝つかれず、夜中にお散歩に 「ひいいん許して関君 ! これ以上ぶたないでつ。蹴らないでつ。 でかけたのです」 踏んずけないでつ ! 犯さないでつ ! 」 「若い男の下着でも盗もうと思ったんだろ。このザザ虫つ」 杉山は夜の道をイモのようにゴロゴロころがったり、シャクトリ 「ぎくつ。と、とにかく、人通りのまったくない住宅街の道を歩い 虫のように這ったりして逃げようとした。 ていたぼくは、ふと頭上になにかの気配を感じて見あげたのです。 なんと、五メートルほど頭上に巨大な明 「てめえというやつは、てめえというやつはっ ! 人類始まっていすると、どうでしようー らいの超弩級の変態野郎だああっ ! 」 いやいやそれ るい穴がぼっかり浮かんでいるではないですかっー ひさしはグシャグシャと杉山を踏んずけた。 は直径三メートルほどで、穴というよりなにかの入口のようでし 「おねげえですだ許してくだせえ」 た。ーー異次元への入口か、あるいは透明 0 の入口か下か 杉山は正座して、ひさしに手を合わせて拝んだ。 ら観察してみると、内部の機械類のような物がチラと見えたので ひさしは一度後ろにさがり、はずむような助走をつけて杉山の顎す。どうやら透明の入口と判断したぼくは、好奇心があった ところがどうでし をサッカー・ールのように蹴りあげた。ひさしの右足は自分の頭ものの、とりあえず逃げることにしました。 よう。その明るい入口はぼくの頭上にびったり位置し、どこまでも の上まであがった。 道を右に曲がれ 杉山は血を吐きだしながらぐえっとのけぞりスローモーションでどこまでも追いかけてくるではないですかっー 仰向けに倒れた 6 失禁していた。 ば入口も右、左に曲がれば左、走れば同じス。ヒードになり、歩けば 「ひさしさん ! もう許してあげてつ ! 」 同じス。ヒード。這いずりまわってもころがっても頭上でゆっくり動 麻美がひさしの背に抱きついてきた。 いているのです。急にダッシュするとダッシュする。宙がえりをす とうしても逃げられな れば入口も宙がえりをするといった状態で、・ そう そして杉山はすべてを打ち明けたのであった。 いのです。近くの公園に逃げ込んだ・ほくは考えました。 だ ! 逃げるからいけないのだ。じっとしていれば、そのうち頭上 杉山は夜道の真中にうなだれて正座をし、しばらく黙り込んでい こ 0

4. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

関びさしと麻美は、中央の。ハネが緩んで窪んだ狭いシングルべッ た出現してくれたんだねっ ! 」 トの中で、毛布にくるまってひしと抱きあった。 パッとひさしは破顔した。 「うひょひょ。なんかすごく新鮮な感じがするな」 「うん。昨晩、ひさしさんが眼っているうちにべッ トの中に忽然と 現われちゃったの」 クスッと麻美がひさしの顔を見て笑った。 「ああ、よかった。もう二度と現われてくれないのかと思って、心 「ん ? どした ? 」 「だって、あの電話の作者の声って、ひさしさんにとってもよく似配で心配で。おれは夜もろくに眠れなかったんだよ。昼間は会社で 杉山のアホにいじめられるし」 てたんですもの」 「ごめんね。さみしかった ? 」 「そ、そうか ? まだ会ったことないけど。 、どんなやっ 「もちろん、さみしかったよ」 なんだろな : : : 」 、・ツドに倒れた。どこから ひさしと麻美はひっしと抱きあってへ ひさしは首をひねった。 「変なこと言って、ごめんなさい。作者なんて気にしないで寝ましか、どうもこいつら芝居が臭くなってきたな、というエコーのかか った作者の呟きがかすかに聞こえて消えた。 「ひ、ひさしさん、なにか下半身にゴッゴッあたる」 「うん。そうしよそうしよ」 ひさしに被いかぶさるように抱きついていた麻美は言った。 二人は徴笑してからタコのように唇を尖らし、チュッとキスをし 「そ、そうだ忘れてた。いてえいてえいてえっ ! 」 て、抱きあって眼を閉じた。 「どしたのどしたの ? 」 「どーしたも、こーしたも、いてええっ ! 」 激痛に関ひさしは両眼をカッと見開いた。 ひさしは上に乗った麻美をはじきとばし、べッドからガ・ハと起き 「いてえええっー いてえいてえいてえ ! 」 て、床に立った。 下半身一部の猛烈な痛さに、あわてて毛布をはいだ。 「う」やっー 「な、なにそれつ」 なんじゃこりゃああっ ! 」 自分の下半身を見、ひさしは思わず両手をあげて上半身だけで踊べッド の上にべたんと足をの字にして座った麻美は両拳を口も とにあて、眼を丸くして言った。 「な、なんだろうこりや ? : : : 」 「どしたの、ひさしさん」 隣に寝ていた全裸の麻美が目を覚まし、白い胸をすり寄せるよう ガニ股で立ったひさしも自分の下半身を見おろし、眼を丸くした。 にしてひさしに抱きついてきた。 ひさしはいつも、上はシャッ下はビキニ・・フリーフというかっ 「どーしたも、こーしたも。あれ ? 麻美じゃないか っ ! またまこうで寝ている。その紺のビキニ・・フリーフの上が、金色に光る物 っこ 0 ℃ / し

5. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

いなかったからである。 コレクションだよ。どれ、下っていろ」 「私の足は、長年吸血ヅタに血を吸われて、肉がくさりおちてしま メイ・ファンのくちびるが何やら呟くと、ふいに宙からポッとひ った。もうこのマントの中で、足も手も、用をなさぬのだ。目もとかたまりの炎が生まれ、それがイドにまっすぐぶつかっていっ こ 0 な」 魔道師は少年のおどろきに気づいて云った。一 「わあ」 「だがわしは魔道にたけているので、そんなことはいっこうにさし ヴァレリウスが叫ぶ間もなく、イドはちりちりとちちみあがって つかえはない。目がみえずともすべて見えるし、手も足もっかえず燃えっきた。 グレイ・又イグ とも歩くことも、魔法の手をつかうこともできる。何の不自由もな「イ ー・リン・イーはイドや、グール、またカラヴィアの大灰色猿 いのだ」 など、たくさんのぶきみな生物をきやつのこの異次元の洞窟に放っ 「凄いや」 て、見はりとしているのだ。さ、行こう。私がついておれば何もわ ヴァレリウスは昻奮して云った。 れわれに手出しはして来ぬ」 「魔道って妻い。おいらも魔道が使えたらいいのに」 メイ・ファンはヴァレリウスにしつかりとっかまっているよう、 「ばかなことをいうものではない。 これは、通常の人であることとくりかえしていうと、急に宙にまいあがって、とぶような早さで前 縁を切り、ふつう人としての喜怒哀楽すべてを思い切ることによっ進しはじめた。 てのみ得られる、あやしの力なのだ」 ヴァレリウスはおどろいた。しかし、そのことへのおどろきは、 「でもーーー」 やがて、目のまえにつぎつぎとくりひろげられる、あまりにもおそ 云いかけたが、ふいに少年はワッと叫んだ。 ましい光景へのおどろきにうちけされてしまった。 「あ、ありや何だ」 つぎつぎとあらわれてくるのは、イ ー・リン・イーのおぞましい 目のまえに、ぞっとする半透明の壁のようなものが迫っていた。 所業の生きる証たちであった。あちこち、ヴァレリウスなどには、 ゅ 0 くりと立ちあがり、こ 0 ちの行手をふさごうとする、それの中どこにあるのかさえ想像もっかぬ秘境の、怪異な生物が檻にとじこ には、体内の器官らしいものが気味わるく透けており、何ともぞっめられていた。ノスフ = ラスのセム、ラゴン、イド、砂虫をはじめ とする眺めだった。 キタイの白トラ、砂漠オオカミ、岩モドキやフェラーラの下水にす 「さわってはいかん、くわれるぞ。それはノスフ = ラスのイドだ」まうどろどろした怪獣パンヨーラ、カリンクトウムの炎の池にのみ おちつき払ってメイ・ファンが云った。 住む火炎獣、海の『海馬人』や巨大なクラゲウオ、この世でいちば 「さきほどおまえのみたのは、ノスフ = ラスの = ンゼル・ヘアーとん大きい獣エル ( ンーーーそれはむろん、ヴァレリウスがそうと知っ カリンクトウムの蛇の木だ。 ( どれも、イー・リン・イーの呪うべきていようはずもなく、いちいちメイ・ファンがそうと教えてくれた

6. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

妻をつかう魔道師すべてを呪い、ののしりながら歩いていたが、ふ そのまま少しいく間は、さっきのとおりの暗闇だった。 いにギョッとして足をとめた。とめたというより、足がすくんだ、 しかし、また といった方が正しかったであろう。 「ウワッ」 壁の一部が、・ほーっと白くなり、半透明にすけていて、そこに、 突然、こんどは顔にふわりと何かがはりついて、ヴァレリウスは 何とも奇怪なものがうかびあがっていたのである。 金切声をあげてしまった。 まるで、ノスフェラスのイドをそこにはりつめて壁にしたかのよ 白い、くもの巣のかたまりのようなものが無数に、天井から下っ うに、岩がぶよぶよとすけているむこうに、おぼろげに見えるのていた。ふわふわしていて、細い糸を、ひとかたまりにしたような は、巨大な、からみあった三匹の蛇のようなものだった。 ものだ。もし、ヴァレリウスにそれだけの知識があればすぐに、そ しかしそれは、三匹の蛇ではなく、一本の木だったのだ。な・せなれをノスフェラスの無害だがえたいのしれぬ怪物、エンゼル・ヘア ら、それは、根もとの方では三本の青白い囿が一つになり、上の方ーであったとわかったであろう。 では、三つの蛇の頭がうねうねとうごめいて、互いにからみあった あわててヴァレリウスは顔から、それを払いのけた。 り、赤い長い舌を吐いたりしていたからである。 「なんてとこだろう」 「へ、へ、蛇の木だツ」 呪詛をこめて、かれはつぶやいた。 少年は喘いだ。いまにも、その蛇の赤くもえる目がかれを見つけ「もうこんなとこは、まっぴらごめんだ。これ以上いたら気が狂っ」 て、たちまちにカッと口をあいてするするとおそいかかってくる恐ちまう」 怖が、かれを凍りつかせた。 がむしやらにかけ出したい気持をありったけの自制心でこらえな 「ど、どうしよう」 がらまた歩き出す。やたらに走って、方向を見失ってしまったらゞ 弱々しくかれはつぶやいたが、しかし、すぐに、その怪物は半透それこそあいての思うつぼだと、つよい警戒心が働いたのだ。 明の岩の中に封じこめられていて、そのこちら側へは出てこられな叫び出し、狂い出したいのをこらえて、さらにまっすぐゆくと、 いのだ、ということを発見したので、少し、安心した。 しかし、足もとが少しづっ下り坂になってきた。しかも、妙に、ふ しかしこんなぶきみなしろものは、見たこともきいたこともなみごたえがスカスカとたよりなく、気味わるくなってくる。 、。どうみても蛇なのだが、その胴から下は、ひとつになって土の少年は立ちどまった。 中に根を張っているようなのである。 「いいかげんにしろ ! からかってるのなら、やめてくれ。早く ヴァレリウスは身を低くし、おっかなびつくり、そのまえを通り出せえ ! おいらは外へ出たいんだ ! 」 ぬけてほっとした。そのまま、こんなところに長居は無用とばか ありったけの声でわめいてみた。声はふわりと壁にのまれる。 り、また足をがくがくさせながらも早めようとする。 とたん、右の壁が、またも・フル・フルと半透明にすけた。 4

7. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

けるだけだろう。いや。ほんとうは、・ほくはあの懐かしい錆花の野った。 からだの半分が激しく圧迫された。 - のある世界のことも、けしてすっかり知っていたわけではない。た 強いけれど、恐ろしくはない力だった。襲いかかってきた色の塊 だ、慣れていただけなんだ。 ここにだって、そのうちには、慣れることもできるのかもしれなの硬度と温度が、ひどく好ましいものに感じられて、テオは悟った。 力を加えているこの物体が、きみなんだ。この世界の精神物体な 逆滝の内部に漂っていた時と同じ諦念が、結品体全体を蒼く透き . んだ・ : 注意深く見験すると、色の動きかたで、被圧迫体の関節肢らしい 通らせた。 逆らっても、抵抗しても、結局は大きな大きな流れを堰き止めるものが区別できた。自分のからだの被幕されてない感覚センターら しい部分に押しつけられているのが、もうひとつのからだの同じ部 ことはできない。 位であることがわかった。、 テオがそっと徴笑んだ時。 ああ、きみだね ! 不意に、光ったのだ。 テオは呼び掛けた。 外部の一点に小さな光の点が灯った。 ばくはテオだ。テオだよ。きみにあえて嬉し / 何よお、もう、う 九、十、十一 : : : 意識するともなしに数えながら、テオはハッ、 るさいったら。 / , い とした。ああ、十一だ ! 十より上の数を、きみは理解したい 何か、光声のようなものが感じられた気がして、テオはあわて 見る見る光は数を増やした。十二、十三、十四、十五 : : : 十六、 て、意識を研ぎ澄ました。 そして沈黙・ : あーあ。よく寝た。 じゅうろくい 厚い雲の上から聞いた錆花の実のはじける音ほどの情報が、どこ 十六だⅡ かにひっかかった ぎこちなかったけど、確かに、確かに十六だった : ・ 、、ねえち ・ : あら : : : あらやだ、まだ混線してる。もしもしーし テオは急いで十七を示した。 じれったいからだも、光考できない運命も、雑多な色の狂奔に溶よっと聞こえる ? 困んのよね、おたく、割り込んでるわよ。 けてぐるぐる回った。二対の関節肢の間の瘤のような塊の下あたりペん切ってくれない ? きみなのかい」 にある体内器官が、ドクドクせわしく跳ね回って、体表一面にサア テオは叫んだ。 と何かが走っていく感じがした。 ・ : きやひっ : : : ちょっと、ちょっと堪忍して、声が大き / どこ 何故こんなに嬉しいのかテオにもわからなかった。だが、大量の 色の塊がまっすぐこっちに押し寄せて来た時も、もう、抵抗しなか にいるんだ ? 光ってみせてくれないとわからな / いってばー 8

8. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

・こっこ 0 攻を飛べるようにしたのは、先輩自身なんですよ」 「一式陸攻って言うのか、この飛行機は」 サトルは、言葉を続けた。 「先輩は、たった一人で帆船をあやつって、あの嵐の大洋を乗り切「そうですよ。それも覚えてないんですか ? 」 「ついでに、もうひとっ聞かせてくれ」 ったんです。まあ、途中で白い鯨を見かけた時は、気が狂ったみた いに追いかけて、ずいぶん道草くっちゃいましたけど、なんとか無山下は、言った。 「この飛行機は : : : 」 事に陸地に着きまして。その後も、また凄かったですよねー、みの 「一式陸攻」 りさん ? 」 ーいったいどこへ向かって飛んでるんだ ? 」 「この一式陸攻よ、 「そうそう。あそこが、猛獣の国だとは思いもよらなかったもの」 「決まってるじゃないですか。グランド・コンコースですよ」 と、みのりも思わず話に熱が入る。 「グランド・コンコース : 「だけど、山下さん、前世でサーカスの動物使いやってたなんて、 「先輩は知らないかもしれませんけどねー、ぼくたちが、大冒険惑 あたし少しも知らなかったわー」 「いやー、ほんとに、目のさめるような鮮やかなムチさばきでした星に遊びに来て、もう三日た「てるんですよ」 「なんだって ? 」 からねー。先輩、あんな特技があるのに、それまで隠してるんだも んなー。もう少しで、・ほくたちライオンのおべんとうになるところ「三日です。三日目。つまり、連休は今日で終りなんですよ。だか ら、どうしたって、今日中に、猫ヶ丘に帰らなくちゃならないんで だったんですよ」 す。わかりますか ? 」 「あん時は、もうダメだと思ったわ」 「もう、三日もたってるのか ? 」 「危機一髪でしたからね」 「そうですよ」 と、サトルが、うなずき返した。 「だけど、食料は、どうしたんだ」 「危機一髪なことは、今だって、ちっとも変ってないんだがね」 「やだなー、みんな先輩が、どっかから持ってきたじゃないです 山下は、思いきり苦々しい口調で、言った。 か」 「なにしろ、おれは、飛行機なんて一度も操縦したことはないんだ 「おれが ? 」 から」 「そうですよ。サ。ハイ・ハルならまかしとけって、やたら張り切っ 「またまた、そんなこと言っちゃって」 サトルが、あくまでも明るく、言った。山下を完全に信頼してるて」 「おれが ? 」 口調だった。 「だって、猛獣の国を抜けて、歴史の国へ入って、博物館の一式陸「そう ! 」 325

9. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

「効いてるはずだ。痛えはずだ。おめえ、こらえてるんだろう。我 不意に肩が強く引かれた。 逆らわずふり向いた顎に鈍い衝撃が走った。移動感のすぐ後でい慢してんだろ ? え、そうなんだろ ? 」 私は志保に眠をやった。彼女がどうでるか、それが知りたいこと 腰がカウンターの端に当たって嫌な音をたてた。 ・こっこ 0 私は頭をふって、周囲の人影を見つめる。 あの二人と四人ほどの仲間がいた。志保のシン・ハなのか、時彦の予想は当っていたようだ。 弟分なのかはわからない。私を取り巻く怒りだけは、形をとりそう志保は脅えたような眼つきで数歩下がり、背を向けて走り出し なほど確実なものであった。 追おうとした私の前に、男たちが立ち塞がった。 今回は・ハーテンの援助も得られそうにない。 私は戦闘の意志をこめて手足をふり廻した。数人が倒れ、列は左 「この娘に何の用があるんだよ、兄さん ? 」 右に開いた。 でかいのが訊いた。 「どうしてだ ? 」 別に、と私は答えた。 「それで済むかい、この野郎 ! 」 走り去る私の背に、声が追いすがってきた。 ひとりが横から突っかけた。 「どうして、おまえに殴られると痛くて、おれたちのパンチは効か ねえんだ ? おまえは何者だ ? ーーー おれたちは何なんだ ? 」 拳は私のこめかみに当たった。 私は戸口をくぐった。 衝撃はあったが、痛みはなかった。 手と足が四方からとんできた。 私は立ったまま、】受けた。何度かパランスを崩したが、そのたび に立ち上がった。 彼らの攻撃は、やはり何かが違うのだ。 街路には影たちがひしめいていた。 「動かねえのかよ 青い光にふさわしい青い影。昆虫のような形と声をした奴ら。 と ~ 亦シャツが ~ 樊いた。 私を見て、彼らは音もなく後じさった。 「んなはずはねえーー野郎 ! 」 皮肉な笑みが浮かんだ。今になってやっと、こうなってやっと、 跳ね上がった足は私の鳩尾をえぐったが、私は立っていることが私たちは奴らを脅やかすことができたのだ。 できた。 奇怪なメカの向うに、街路を駆けてゆく小さな影が映った。一 「そんな : : : そんなはずはねえ」 私も走り出した。 蹴ったモヒカン刈りが呻いた。 影たちは手を出さなかった。やってきたものの、どうしたらいい 2 6

10. SFマガジン 1985年12月臨時増刊号

「ちがーうの。電話じゃないの。関君が心配で、様子を見にきてあとぶつけた。牛乳瓶の底のようにぶ厚いレンズの銀縁眼鏡がとん だ。水が音をたてて流れた。 げたの」 なにが心配なん「あ、大丈夫ですか、杉山さん」 「と、トイレに入ってるだけじゃないですかっー わざとらしく言い、ひさしは個室をでて手洗い場にさっさと向か ですかっ」 った。むろん助けてなどやらない。 「だあってん。関君がトイレに行ってから、四十五分三十二秒たっ たのに、全然戻ってこないんだもん。・ほく、とっても心配になって「ひいいん。額を。ハイ・フにぶつけちゃったん」 きちゃったの」 杉山は手を洗っているひさしの左横にやってきた。右の耳にひっ て、てめーは、人のトイレの時間までストツ。フ・ウォッチで計っ かかってぶらぶらしていた銀縁眼鏡をかけ直した。 てるのかっ ! ひさしは怒り狂った。あまりの怒りですうっと気が 正面の鏡にひさしと杉山が映った。二人ともワイシャツにネクタ イ姿だった。ひさしは薄い・フルーに茶のネクタイで、杉山はショッ 遠くなりそうだった。 「だいじよーうぶ関君 ? 便秘 ? それとも下痢 ? イチジク・カキング・。ヒンクのワイシャツに白の水玉模様の真黄色のネクタイを ンチョーもあるしラツ。ハのマークの正露丸もあるよん」 締めていた。おまけに頭に真赤な鉢巻まで締めている。 ひさしはハンカチを口にくわえて手を洗いつつ鏡の中の杉山を、 人の糞の心配までするなっ ! ひさしは怒りで声がでなかった。 「どしたの関君、黙り込んじゃって。セーキ君。貧血でも起こしたむすっと横眼で見た。 の ? 上から覗いちゃうよん」 杉山は歯槽膿漏で何本か抜けている歯をむきだしにして、かわい ひさしはあわてた。杉山なら平気でヤモリのようにドアをよじ登らしく笑った。鉢巻きをした頭は、あいかわらず中央で分けてボマ ひさしはすっくと立ちあがり、スラックスを って覗いてくる。 トでべったりなでつけていた。フケが大量に浮いている。 あげてベルトをきりりと閉めた。 ひさしはハンカチで手をふきながら、不機嫌な表情でじっと鏡の どしたの ? どしたの ? とドア越しに言ってくる杉山を無視中の杉山を睨み続けた。 し、ひさしは鍵を開けていきなりドアをガ・ハと引き開けた。 「やだん。そんなにじっと見つめないでん」 「うわっ ! 」 杉山はポッと顔を赤らめ、両手を頬にあてた。 ドアにへばりついていた杉山は・ハランスを崩して個室の中にとび ずつ、とひさしはずつこけた。おまえは十六歳の少女かっ ! ひ さしはすぐに体制をたて直して訊いた。 込んできた。 ひさしはサッと杉山をよけ、足を引っかけて杉山をころばしてや「杉山さん、なんですかその見るからに恥しい鉢巻きは ? 」 っこ 0 鏡の中の杉山の額を、眼を細めて見た。 杉山は便器に抱きつくように突っ込み、額をパイ。フにゴギンー 杉山は真中に朝と書かれた幅五センチほどの真赤な鉢巻きを額に 8