: ママなんかきらいだよーだ : : : 」 あげた。 画面の横のス。ヒーカーから雑音とともに声が聞こえてくる。 そのときすぐ脇の居間から急にステレオの音がしはじめた。 おれもテレビに走り寄った。 ー・メタルたっ 放送が、すさまじい大音量で流れだした。〈ヴィ 「なんてこと言うんだ ! ママをこんなに困らせて悲しませてつー テレビからでてきなさいっ ! 」 おれは居間へとび込んだ。 「 : : : アッカンべーだー 「健一つ ! やめなさいっ ! 」 画面に映「た健一は舌をたした。同時にテレビのスイッチが切れ 耳を押さえ、ステレオのアン。フに向かって大声でどな「た。・ するとビタリとス。ヒーカーからの音がやみ、ザーザーと雑音が流た。 おれは部屋を見まわした。 れだした。 、 0 0 、 0 、 どこへ行った卩」 どこだっー ノの声は聞「健一つー ステレオなんかになるのはやめなさし 天井に向かってどなる。 こえるね」 と、長椅子がガタガタ揺れた。 おれは声を震わせてやさしく言う。 絵美が長椅子に抱きつく。そのとたん、本棚が大きく揺れ、。 ( ラ と、どうだろう。なんとスビーカーから雑音にまじってエコーの ハラと本が落ちた。 かかった健一の声が聞こえてきたではないか。 本棚が絵美に倒れかかりそうになっ 絵美が本棚に駆け寄る。 パあ : : : お帰んなさあい たので、あわてておれが押さえて戻した。 ひええっ健一つ、と叫んで絵美がス。ヒーカーに抱きついた。 おれは息を整えてからもう一度、腫れものに触れるように、でき部屋がしんと一瞬静まりかえ「た。本棚はもう健一ではなか 0 るだけ優しくステレオのアン。フに向かって言った。 おれと絵美は顔を見あわせる。 。いい子だから自分の体に戻りなさい。ね、ね」 「健一 。 ( タンと玄関でドアが閉まる音がした。 そのとたん、ステレオのスイッチがぶつりと切れた。同時に壁に 「玄関だっ ! 」 寄せてある幻型のテレビにスイッチが入った。 おれと絵美は玄関へ走った。 画面を見て、おれと絵美はのけそった。 絵美がドアに抱きついたが、そのときはすでに健一はドアでもな 激しくぶれてはいるが、白い粒子をパックに、健一の笑顔がアッ くなっていた。 3 。フで映っていたのである。 オ冫かになって外へでて行ったんだっ」 9 「絵美つ。外だっ。健一は、よこ 「健一いしし おれと絵美は靴をはいて外にとびでた。な・せかおれの皮靴がなく 絵美がテレビにへばりつく。 こ 0
『べィリーは、外出中だ』 ヘイズが、冷淡な口調で、言った。 聞いたこともない、男の声だった。 『殺したのか ? 』 . によ、・ ヘイリー以外、誰もいない筈なのに 『まだ、殺してはいない。ただ : : : 』 『だっ誰た、てめえはつい』 と、ヘイズは、ちょっと言葉を切った。 ポリスが、怒鳴った。 『ただ、諸君の出方しだいでは、今すぐにでも、死ぬことになるた 『くつくつく : : : 』 ろうな』 男のふくみ笑いが聞こえた。 『どういう意味だ、そりゃあ』 『なにが、おかしい』 ギリギリと歯がみをしながら、ポリスがうなった。 『諸君とは、一度、お会いしてるはずだがね。 ヘイズが、言った。 エレベーター・ホールで』 『諸君には、もうひと働きしてもらわなくちゃならんってことさ』 『てつ、てめえは、あの時の、手榴弾野郎 ! 』 『なんだと ? 』 『手榴弾野郎はないだろう。私には、ビック・ヘイズという、れつ 『。フラチナだ。 プラチナを引きあげて、私の船に積みこんでほ きとした名前がある』 『ヘイズ ? シラミ野郎の、あのヘイズか ? 』 『いい気ンなるなよ、ヘイズ』 『覚えていてもらえたとは、光栄だな』 ポリスの目が、殺意でギラギラ光り出すのが、シールドごしにで 『てめえの汚ねえやり方は、三歳の子供でも知ってらあ。悪党仲間も、わかった。 につまはじきにされて、今じゃ、誰も組むやつがいねえってことも『人質をとった気でいるんなら、とんだ、おかどちがいだぜ。 ひとの獲物を横取りすることしか能のねえ、 ( イ = ナ野こっちは四人だ。てめえ一人で、どう闘う ? 』 郎めⅡ』 『おや。そうかな ? 』 『私は頭脳労働者なんだ』 露骨に馬鹿にしている声で、ヘイズが言った。 ヘイズは、ぬけぬけと言った。 『ぶつ殺してやるⅡ』 『カ仕事は、他人にまかせることにしているのさ。ーー今回は、道ポリスが、パ ・ガンを引き抜いた。 案内、御苦労さんだったね。諸君』 青白い閃光が走った。 『べィリーを、どうした』 ポリスの手から、パワー ・ガンが、吹きとんでいた。 と、ジムが一一一口った。 ジムが、レイクが、そしてポリスが、茫然とした莎で、ふり返っ 『ペイリーの仕事は、終った』 ヴァンドームの こ 0 ロ 2
1959 年 12 月 あの頃わたしは・・・ 栗本薫 もり見な・みかつにの さもひ、守そおフてもよあ愛 王しいずに のつきたらし よとはだれてそイ位れ意け うもなひるかう老学な志らま な、さとこれだ師問かをれだ もかれりとはつの所つお、包 、た講のたき守ま のれて、も をのい近な父の義長。わ役れ 感外たしい母でをたかすのて じ見のいまのあうるれれ手守 さかで肉ま愛るけフはてでら 。さェきき育れ せらあ親にと せイわたてて る、るで、い るガめよらい もそ。あ十う ほンてうれる のう はしたにのど老聡なたべ の師明はこき 何た母なに のり世成がなかと年 なよち、の績、少なが頃 SF マガジン創刊 25 周年おめでとうござい かるが学つで特年さ、に ます。 25 年一一 -- 四半世紀ですね。凄い ! つべう問ねあにでにそ 乞あつの品 所の たな 残念ながら , 25 年前 ? まだ生まれてない 。さ歳に子たうりな、物 もんね , とはかなり前に云えなくなってしま がて、がどの 下通ど 、オそ よ のうも 弟このそーのてかう 稚園の年長組といったところでございます。 よろ王とよれ・麗い生に むろん , いかに早熟な私といえども , さすが りも子とうでタ質るヘ人 にまだ SF マガジンは読んでおりませんでし もンをのの手 となに た。当時私が読んでいたものというと , なか よし , りぼん , ぐらいなところでしよう。 のをぶつこ が わたなべまさこ「白馬の少女」「すみれ子さ 、そあえそかた王たの がえの、り の連は人か よ よ尾をふれ」などというのを覚えておりま ロロれ、づれうひ歩て形あた す。あと水野英子とか , 赤松セッ子 , 細野み のの王れがすそい人のえか ち子 , 細川知栄子 ( いまだに「王家の紋章」 でひてをよてい あ、子の 、そゆよいそ少 る先殿姿ふ 描いてるってのが凄い。「泣くなパリっ子」 ゆとくせ頭の年 男に下をつ なんて覚えてるな ) などはもう少しあとでし るさとつは身は が立目と やさ、け、を 足 かや教な誇刃そ を にく棟からにん と たかと申しますと , 髪はポニーテールにし 歩声のつか倒な た め て , ヒ。アノを習いに通い , 八コマの連載マン いがあたにしふ 礼黒か た てきち。もたう ら の ゆ だ は でありました。 くえちげあひ を手にしたのは 89 号からですから , ずいぶん のたのらろと た 。広で。窓れうに あとのことになります。「カムカム・エヴリ いあしか ボディ」なんてのがのってた。 10 周年記念号 芝るからそゆわ ト は買って今でももっています。 25 年もたっと し寄のつれ 生 、宿目くま ずいぶんいろいろなことがあるものです。来 を 王生はりれ よ 年は , うちの子どもが幼稚園へ入るのですか 子た底とる ら。ともあれ《銀婚式》おめでとう , S F はち知歩ほ ぎ の 何のれをど MO も目ぬはで て 四 闇こあ く 十
「 : ・その事故以来 私は私自身を 一つの時代に定位させて おくこどかて医、なく なってしまったのてす」 0 六〇年位の振幅て 私は癶、まイ、まな・代を さまよい続けています」 9 0 「一つの時代に 同調していられるのは ほんの数秒たったり 時には一年以上だったり : ・」 シンっ′ロ それは最初は一〇〇コマに一つ位の 割合で : : : 時間経過を追うごとに やがて五〇コマに一つ 三〇コマに一つと 増えていくのだった 東京へ帰り ラホなら戻ってきた フィル乙を見て 私は慄然とした 何箇所か彼女の姿ガ 写っていないコマが あった 0 ) 終わりの方 ては一度に 四コマほども 飛んている 部分すら あった 273
こくと絵美は少女のように頷く。よしよし、その調子だ。 おれは学習机の下に蹲っている健一を指差した。 「あそこにいるのは誰かな ? 」 「健一よ」 「なんのこっちゃ卩」 よかった狂っていない。おれはホッとした。 おれは言った。 「でも、あそこにいるのは脱け殻だわ」 「たから、これが健一なのよ」 おれはペッドからずり落ちた。 胸に抱いた超合金口ポットを絵美は哀しげな眼で見た。 「にやにい ? おれはひょいと手を伸ばして絵美の額にあてた。自分の額と比べ「健一は今、このロポットの中にいるのつ」 てみたが、熱はないようだった。 ジーと答えるようにロポットは一回動いた。 「あなたは健一の父親でしよう」 おれはペッドに肘を乗せ、頭を抱えた。そして、すっくと立ちあ 絵美は潤んだ眼でおれを見て言った。 がり、大声をだした。 「あたりまえさ。健一はおれの大事なひとり息子だ」 「いいかげんにしろっ , なあにを馬鹿なことを言ってるんだっー 「だったら、どうしてこれが健一だってわからないの ? 」 そんなオモチャが健一であるわけはないだろうつー ん、まて 絵美は超合金口ポットをおれに差しだすようにして見せてから、 よ。そ、そうか。あ、そうかつ。もしかしたら絵美と健一はおれを すぐに引き寄せギ、〉と胸に押しつけた。ロポットは苦しがるよう驚かそうとしているんだろう。はは、そうか。そうだろ。なあん にジーと一回手足を動かした。 だ。しようがないなあ。そっかあ。はは、はは」 おれは言葉がでなかった。 五日間、家を空けただけなのに、 おれはわざと声をだして笑った。スキツ。フで机に歩み寄り、下を 家はいったいどうなっちまったんた ? 絵美は気が狂ってしまった覗く のかフ 「健一君。もういたずらはやめようね。。 ( レちゃったそ」 おれは絵美を健一のべ : トに座らせ、おれも並んで座った。そし ビクリとも健一は動かない。 て彼女の両肩に手を置いて、優しく言った。 「健一つ。眠っちゃってるのか ? 「なあ絵美」 「あなた、冗談なんかじゃないのよ」 絵美はおれを見てパチ・ ( チと眼をしばたたく。 おれの背中に向かって、絵美は淡淡と言った。 「君が抱いているのはオモチャのロポットじゃないかい ? 」 おれは身を屈めて机の下を覗いたかっこうのままでいた。 「そうよ」 「その机の下にいるのは健一の脱け殻なの。今、健一はこの超合金 と机の下で蹲っている健一を、順番に何度も何度も見たのだった。 398
、。ィーンもパロの王子なのだから」 顔かたちもまた、美しいが、強烈な個性と意志をあらわす、類のなてもテ ディーンは頬を紅潮させてうなづいた。それへ、やさしくほほえ いものであった。 みかけ、はこばれてきたカラム水をとってやる。 「夜分、失礼いたします。おくつろぎのところを」 、・イーン。きっと、よほど毎日、ルナンたちの きちっとかかとをあわせ、騎士の礼をして彼女は云った。その声「うまくなったねテ も容姿にびったりとしたものだ 0 たーー・低くてきつばりしているく目をぬすんで、歌ばかりうたっていたのだろうね。まあいいから、 カラム水をおのみ、さめないうちに」 せに、妙になまめかしくひびいた。 「こうしているとーー何だか、マルガにいて、三人でいたずらや、 「ああ、リギア。いらっしゃい 馬をとばしてきたの」 ゲームや、賭けや、ロ争いや、いろいろなことをしていたあのころ 「ええ、近衛騎士団の詰所から」 に帰ったようだわ」 「何か、急用でも ? 」 リギアが満足そうにいっこ。 「いえテ 、・イーンさまがおいでとうかがったので。お上手になられ だんだん、こうやっ 「こうして久々に、三人そろっていると。 ましたね、キタラ」 てのんびりできるときが少なくなるのね。大人になるというのも、 「そう、いま、試験していたところでね」 、ことばかりではないわ」 ナリスは小姓に、あついカラム水をもってくるよう命じた。リギしし 「そう、マルガにいたころはーーー」 、・イーンに向きなおる、かれはびくび アにすわるよううながしてテ ナリスはかすかに笑った。それは、ナリスにとってはまだ半年ほ くしながら、兄の裁きを待っていた。 どしか前のことではなかった。リギアーー二人の王子の公式の守役 「発声は、まえよりよくなっている」 であゑルナン聖騎士候の、一人娘でナリスより一つ年上のリギア ナリスはいっこ。 「和絃もかなりこみいったのをひけるようになったね。でも、とこは、やはり十六のときに、正式に近衛騎士団に入団し、一年たった いまでは、近衛騎士団の花といわれる存在になっていた。ディーン ろどころ、 いいかげんになるから、一つ一つの音をていねいにしな くてはいけない。それに、そろそろ、キタラだけでなく他の楽器もにせよ、十六になれば、そろそろこれからの勉強や、そのあとのこ やった方がいいと思う、キタラしか知らないと単調なひきかたになとをきっちりと決めなくてはならなくなるだろう。 るからね。わかった ・ほくから、ルナンにいって、むろん勉強は「あのころがいちばん楽しかったのに」 か笛をやるようにさせて訴えるようにディーンはいった。いまのくらしは、あまりそうで ちゃんとやるという条件つきで、リュート もないと云いたげだった。 あげよう」 「兄さま ! 」 「また、あのころみたいにしてはいけないのかしら、兄さまと、リ 「そのかわり、決められた勉強もし「かりやらないとね。何といっギア姉さまと、ぼくと、三人で、すっとマルガにいて、踊ったり、 4
このまま寝室へ直行か、と思いきや健一の部屋の前へつれて行かて覗いた。 れた。 「こら健一つ。そんな所ですねてないで、でてきなさいつ。おみや 閉まったドアの前で、絵美はおれを泣きそうな表情で見あげた。げ買ってきてやったぞ」 ポプ・カットの切りそろえた髪の下の丸い眼を、ひたとおれに向け健一は半ズボンからでた膝に額を押しつけて両手で抱え、机の下 で蹲っていた。 る。ジーンズに、薄ビンクのセーター姿だった。 パ怒るそっ ! 」 小学一一年の子供がいるとは、とても思えない。大学時代とちっと「こらつ。でてきなさいつ。健一つー もかわっていない絵美だった。 だが健一は膝を抱えたままピクリとも動かなかった。もちろん息 はちゃんとしている。 おれが絵美の肩を抱き、顔を近づけようとすると、 「け・ん・ 「健一がおかしくなっちゃったの」 そう言った。 おれは手を伸ばして、健一の膝を揺すった。 「へ ? おかしくなった ? 」 「いいかげんにしなさいっ ! 」 こくっと絵美は頷く。 髪をくしやくしややる。 「どういうことだ ? 」 「顔をあげろ健一つ ! 」 訊いても絵美が答えないので、おれは健一の部屋のドアを開けまるで反応を示さない。 て、中に入った。後から絵美も入ってくる。 いったいどうなってるんだ ? おれは机の下に這いつくばったまま、傍に立っている絵美を見あ 健一はいなかった。 六畳の部屋にはべッドや机や本棚などがある。床にはマンガやオげた。 モチャなどが散らばっていた。 絵美を見て、ぎよっとした。 ぐるりと部屋を見まわしてから、おれの後ろに立っている絵美を絵美は大袈裟なテレビ俳優のように涙をポロポロこ・ほしていたの 見た。 である。 「いないじゃないか」 おれは首をひねり再び机の下の健一を呼んだ。 「あそこ」 「健一つー ママが悲しんでるしゃないかつ。でてきなさい。でて こないと。、 , ハが引きずりだすぞっ ! 」 絵美は学習机を指差した。よく見ると机の下から健一の足がチラ おれは両手を伸ばして健一の足をつかみ、引きずりだそうとし と見えた。 「なんだなんだ、しようがないやつだ」 おれは苦笑し、ネクタイをゆるめながら机に歩み寄り、身を屈め と、絵美が声をだした。 こ 0 396
ているのも、すべてはわが祖国のためなんだ」 しかし、実際にホッチが動きはじめたとき、わたしは彼がどれほ 一瞬、性急さが消えて、ホッチは陰気に考えこんた。「スミス、 どこの国で勢力を獲得したかを知って一驚した。彼は、侵略者の不 白状するが、おれにはこのすべてがよくわからん。国王は、なにが快な性質をどう強調すれ・よ、 ( いかを正確に心得ており、それを容赦 望みなんだ ? ここへやってきて、いったいやつはなにを手に入れなくやってのけた。 たというんだ ? 」 政府の施策のなかにも、ばかげたものがあった。たとえば、異星 エンターテ 「なにも。彼は、われわれの前に天くだってきて、なんの利益もな人の官僚が、国民の絶対に必要だと考えているもの しに、ごっそりトラブルだけをかかえこんだ。謎たよ。わたしの迷インメント、レジャー、その他ーーを完全に無視して、軍備拡張に いも、原因はそこにある」目をそらした。「これまで国王と接触し乗り出したときである。美術館や博物館が軍需工場に改装され、陳 てきて、いつも受ける印象は、彼が完全に、ほとんど超絶的なまで 列品は焼き捨てられた。映画館は自動工場に転用され、テレビ放送 に非利己的だということだ。あまりにも非利己的で、あまりにも超は、ぜんぶ中止になった。といっても、王様とその家来がみんな専 然としているため、まるでーーーまるでたんなる空白のように思える 制的な自動人形だとは、思わないでほしい。彼らは、貴重な名画を うっちゃるのがなぜいけないのか、その理由を知りもせず、また知 「それはきみの印象にすぎん。たぶん、勝手な先入観を彼に当ては ろうともしなかっただけなのだ。 めているんだろう。心理学者どもは、やつには感情がないという。 もし政府の機構がこれほど民主的でなかったら、万事はもっと順 利己欲も感情の一種だ」 に進行したかもしれない。国王は、自分の理解が貧弱なのをわき 「そうかな ? ま、そうしておこう。だが、なんといおうと、彼はまえて、一種の二重政府を組織していた。第一政府は、ここから最 人道的に思えるんだ。思いやりがあるーーこれは彼にとってむ高指令が出るのだが、全国各地の枢要な地位を占めた彼自身の種族 ずかしいことなのに」 から成り立っている。ただし、彼等の権力は、実際には奇妙な限界 ホッチは別に感心したようすもなかった。「ああ。忘れるなよ、 がある。第二政府は、原住民である人間の代表たちで構成されてお やつの内部にある感情の代替物がなんであれ、それなりの外的効果 り、大きな問題に関しては、 いまなお国王の口頭の許可を得なくて があるのかもしれん。それとも、もう一つ忘れるな。やつだけが、 はならない。 この惑星にやってきた異星人じゃない。やつは・フラジルに対してあ 国王は、この不合理な第二政府が持ち出してくる請願や、芝居が まり思いやりはなさそうだぜ」 かった泣き落とし戦術に というのも、彼らはけっして協力的で ホッチは立ちあがり、帰ろうとした。「もし、きみがこんどの反なかったからだがーーー いつも熱心に耳をかたむけた。そして、会議 乱を生きのびたら、売国奴として吊るし首にしてやる」 はほとんどっねに当惑した空気のなかで終わるのだった。ソーンの 「うるさい ! 」わたしはとっぜん腹が立ってきた。「わかってる」時代なら、こんなことは起こらなかったろう 彼は五分間で彼ら
ってきて、ダンゴになってぶどうの房にな って、卵時代と同じようにくつついてしま う。そうなってから初めて、ザリガニのお 0 0 母さんはエサを食べに出かけるんですね。 お もう水の中を這いまわっている自分の子供 はいないから、安心して食事ができるので ひ しよう。こちらも母親の分は夜に別にやら 五ロなきゃいけないのだが、ついついそれを忘 = れてしまう。ザリガニのお母さんは空腹な のです。 題 最近はもっとひどい。脱皮がすすんで、 ッ もう母親にくつつこうとしない子ザリガニ カ がいるかと思えば、まだしつかりくつつく のもいる。夜も昼もザリガニのお母さん この段階では、まだお母さんは普通にエ いつの間にやらお母さんのおなかにうじゃ は、ほとんど食事をしないらしいのです。 うじゃと黒っぽい卵がくつついていた。卵サを食べることができる。 しかし、おなかにくつついた赤ん・ほどもこの前、水漕のまん中で動かなくなってい の塊はいくつもの房にわかれていて、お母 たので、コッコッとしてやったら、 さんは水の中でそれを体の両側に広げたが脱皮して、水の中を動きまわるようにな ると大変です。たぶんザリガニの触手はエ気付いたふうで、慌てて穴の中に這いこん り、腹の下にすぼめたりする。 これだけでも結構えぐい光景だが、卵がサと自分の子供とを区別しないんでしようでいった。気絶していたようだ。子供が全 かえるともっと不気味で気持わるくいつまね。親どうしだと共食いしたりすることも部母親から離れれば、別の水漕でたつぶり 食べさせてあげたい。 でもじっと見つめていたい風の光景になつある。 サリガニのお母さんは偉大だ。 だからザリガニのお母さんは、子供たち 卵からかえったちつぼけなザリガニの赤が水の中を泳いだり這ったりしている間 ちゃんは、まだ糸でお母さんのおなかにく は、エサを食べようとしない。投げこんだ今月は、福岡県粕屋郡の太田定芳さんの つついたままでいる。四百匹の甲殻類が重工サは全部、子供たちが食べてしまう ( 父タイトルです。 今回掲載予定となっておりました亀和田 なり合って団子になってザリガニの腹から親は別居させてある ) 。 しかし、良くしたもので、夜がくると子武氏ですが、氏の都合により来月掲載とな はみ出しているんですぜ。おそましいと思 いながらも何度も何度も見てしまう。 ザリガニどもは、また母親のおなかへもどりました。御了承下さい。 330 0 6 0 7 6
「いつごろのものです ? 」 「リニア・ソレノイドは直しました」 「そう、百年ーー百五十、いや二百ーー」 「よくやった、アビー、おまえは天才だ」 おれは、溜息をついた。プローケンハイム機関は、六十年前には 船長は、うれしそうにグラスを干した。 存在しなかった。 「しかし、出力が足りません」 船長が、おれのほうを見て、にやりと笑った。 酒を注ぎかけた船長の手が、途中で止まる。 「うまくすれば、ガソリンエンジンのシリンダーぐらい、見つかる「そりやどういうことだ ? 」 かも知れんな」 「この星からは、とび出せないということです」 船長は、酒を注いた。 二日間、おれは不眠不休で働き、その間、″グロッギー″は、お「アビー 前言を撤回する。おまえはやはり、ただの間抜けだ」 れが真っ先に修理した蓄電器を無駄使いして、コン。ヒ、ータ相手に おれは、肩をすくめた。 カード遊びをやっていた。 「衛星軌道まで上がれば、何とかなるんですが」 おれが点検ハッチから這い出し、泥水メーカーのてつべんをなぐ「おまえはとんまだ、アビー 。どうやって衛星軌道までのつけるん りつけた頃には、船長の負け金は百二十九キロアイユ ーにのぼってだね。けっとばすのか、それとも、おまえが持ち上げてくれるの か ? そんなんじゃ、何にもならん」 「イカサマだ」 おれは、手についた絶縁グリースを、ジーンズの尻でぬぐった。 と、″グロッギー″メイカンは、口惜しそうに吐きすてた。 「″公園″とやらへ行ってみましよう」 「こんな見事なイカサマは、見たことがない。、、、、 しし力やつはおれ「ふん」 に、キングを三枚もよこしてからーー」 船長は、馬鹿にしたように鼻を鳴らす。 船長の繰り言は聞き流しておいて、おれはゆっくり泥水コーヒー 「そこで何を見つける気だ ? 空飛ぶミシン か、空飛ぶ電気掃除機 を飲んだ。どうせ船長は、賭け金を払う必要はない。 コンビュータか ? それとも、一世紀前のロケット花火ーーーそうだ ! 」 をリセットすればすむことだ。 船長の目に、何かろくでもないことを思いついた時の、邪悪な光 「ところで、アビー」 が宿った。 リセットボタンを押してイカサマ師を処刑し、グラスに新しい酒「アビー、グライカ花火を積んでたな ? あれはどうだ。ロケット のかわりに を注ぐと、船長は椅子を回しておれのほうを向いた。 「修理はうまく行ってるのか ? 」 おれは、グライカ花火を、″ソフィ / の尻にくくりつけて、ここ おれは、カツ。フの底をのそきこんた。 からとび出すという考えに対する、素直な意見を述べた。 220