ジェーン - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1985年9月号
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1. SFマガジン 1985年9月号

「まあ。たしかに、そういう考え方もあるけどね」 レイクとジェーソも、あわてて後を追う。 レイクは、渋い表情でうなずいた。 建物の裏手に、〈クレイジー・キャット〉の専用駐車場がある。」 「だけど、ほっとけないよ。ーー何人か死ぬかもしれないんだ」 息せき切ってかけつける三人。 ジェーンは、レイクの顔を、じっと見つめた。 パ 1 ドは、ちゃんとそこにあった二 それから、不意に表情をゆるめて、言った。 鍵も、残っていた。 「あんたって、ほんとにお人好しね」 トン。フソン、サ・フマシンガンを人れた、ポストン・ハッグだけが、 レイクは、ニャリと笑った。 なくなっていた。 「そこがいし 、って言ってくれる女の子も、たくさんいたけどね」 「なんてこった」 「要するに、手におえない馬鹿だってことよ」 レイクは、片手でびしやりと顔を覆った。、 ジェーンは、そう言い捨てて、パードに乗りこんだ。ジムが、 ジェーンが、確信ありげにつぶやいた。 エンジンをかけた。 「自分たちで、やるつもりなんだわ」 「なにしてんの、レイク。早くしないと間に合わないわよ」 「やる ? やるって、まさか : : : 」 レイクは、肩をすくめ、助手席のドアを開けた。 「そのまさかよ」 パードのエンジンが吼えた。 ジェーンが、生真面目な顔つきで、きつばりとうなずいた。 道路は、朝のラッシュで、ひどく混んでいた。 レイクは、入った。 ジムは、可能な限り早く車を走らせた。 「いくらなんでも、そんな馬鹿な : : : 」 あらゆる追い越しのテクニックが使われた。 しかし、ジ = ーンの顔つきを見ながら、ウ = ンディたちの行状をあちこちにすり傷を作りながら、やっとのことで中心街にたどり 思い出すうちに、笑いが尻す・ほまりに消えていったゞ 着くと、今度は交通規制にぶつかった。 あの連中なら、やりかねない。 「ついてないぜ」 「ジム。すぐに車を出すんだ」 ジムが、言った。 レイクは、顔色を変えて、叫んだ。 ーレン・スクエアの手前で、警察が道路を完全に遮断している 「ウエンディたちを止めないと、えらいことになる ! 」 のだ。 「どうして止めるの ? 」 「どうしたのかしら ? 」 「なんだって ? 」 「さあねえ」 「やらしときや、 車をのろのろと進める。 じゃよ、。 いい薬になるわ」 ロ 0

2. SFマガジン 1985年9月号

たしかに、いない。 「感心してる場合じゃないわよ ! 」 「たしかに、いないな」 「へえ ? 」 と、レイクは、うなずいた。 ジェーンは、テー・フルの上にあった、アイス・ハケットの中身 ( ほ あたしが、御手洗に立って、ち とんどとけて水になっていた ) を、レイクとジムの頭に、ぶつかけ「そうよ。おかしいと思わない ? こ 0 よっとして戻ってきたら、六人とも消えてたのよ」 「ママが恋しくなったんだろうさ」 「うおっ」 レイクは、歩入った。 奇声を発して、二人が飛びあがった。 「追っぱらう手間が省けて、よかったじゃないか。 腰に手をあてて、ジェーンが言った。 「どお ? これで目がさめたでしょ ? 」 「どうしたって言うんだ、ジェーン」 「ああ、そうだな。実にめでたい」 「なんかあったのかい ? 」 「うん、めでたいめでたい」 わけがわからんという表情の二人を、きつい目で睨みつけなが「おめでたいのは、あんたたちの頭よっ ! 」 ら、ジェーンが一 = ロった。 「いないのよ」 「そんな事で、簡単に諦めるような子たちじゃないわ。わかってる 「いないって、誰が ? 」 でしょ ? あれだけ、しつこかったのが、急に自分からいなくなる 「まだ寝てんの、レイク」 なんて。ーー・絶対、何かあるのよ」 ジェーンが、空になってころがってる、・ハ レイクとジムは、お互いの顔を見合わせた。 しながら、凄味のある声で言った。 不吉な予感がした。 「今、目がさめた」 「まさか : レイクが、あわてて言った。 ジェーンが、おそろしく静かな声で、言った。 . し子 / . し 「だけど、 「ジム。車の鍵は、ちゃんと持ってるでしようねえ」 「あの子たちょ ! 」 ジムは、一時、虚をつかれたような表情になった。 ジェーンが、わめいた。 「ウエンデイも、リッキーも、一人残らずいなくなってるの ! 」 「どこへやったの ! 」 「へえ」 「ルーシーって子が、車の中に忘れ物をしたからって : : : 」 レイクは、もう一度、店の中を見回した。 そこまで言うと、ジムは、いきなり身をひるがえして、かけ出し 】求ンのポトルを手に なあ、ジム 9

3. SFマガジン 1985年9月号

て、一人一人に手渡した。 少女たちは、熱心にスプーンを指でこすり始めた。 ジェーンは、レイクをふり返り、くすっと笑った。 レイクは、片目をつむって、それに応えた。 「ところで、レイク」 ジムが、ふと思い出したように、言った。 「ひとっ聞きたいことがあるんだがな ? 」 「なんだい、ジム」 「あー、つまり・ : : ・」 ジムは、少しためらった : 横目でチラチラとジェーンを気にしている。 「なによ、ジム。はっきり言ったらどう ? 」 「あー、いや、つまんないことなんだけどね。まあ、どうでもい、 ようなことで : ・ : こ 「なんなんだ、ジム」 ジムは、レイクを見つめた。 そして言った。 「金は、どうしたんだ ? 」 「そうさ。銀行へ行ったんだろ ? 」 「ああ」 「金があっただろう ? 」 「ああ」 「その金さ」 「ああ . 「どうしたんだ」 レイクは、ぼおっとした表情で、ジムを見つめ返した。 次にジェーンに視線を移す。 ジェーンは、ぶっそうな目の色をしていた。 レイクは、なんとなく天井を見あげた。 そして、言った。 「忘れた」 ジェーンは、レイクをぶっとばした。 翌日 部屋の掃除にやって来たメイドが、テーブルの下に落ちている、 一本のス。フーンを拾った。 そのスプーンは、首のところが、ぐにやりと曲がっていた。 最後の教訓 『素人ほどコワイものはない』 0

4. SFマガジン 1985年9月号

「本当なら、今ごろは〈メリー・ウイドウ〉で、札東の勘定で忙し ウエンディの指先に、カがこもった。 いはずなんだ」 「や、やめてくれ ) ~ ( ・つつ ! 」 「人生ってのは、計画通りに行かない方が、おもしろいって、誰か レイクが叫んだ。 が言ってたよ。ジム」 その時には、すでに手遅れだった。 セイフティ 「ああ。しかし、それにも限度ってもんがある」 安全装置がロックされているのではないかという、レイクの希望 二人は、しみじみとうなずき合った。 も、所詮むなしかった。 「ねえ。あっち、やけに静かじゃない ? 」 、っそうけたたましく響いた。 狭い室内では、銃声は、し ジェーンが、声をひそめて言った。 ウエンディの手の中で、トン。フソンは暴れ回った。 「もう寝ちゃったのかしら ? 」 ガラスが割れ、棚は落ち、電灯が破裂した。 さっきまで聞こえていた驕声が、びたりと止んで、居間は不気味女の子たちは、髪の毛をおさえて、悲鳴をあげた。 な静けさに包まれている。 誰一人、ケガをしなかったのが、奇蹟のように思われた。 レイクが、ウエンディの手に飛びついて、トン。フソンを奪わなか 「のぞいてみよう」 レイクが、足音をしのばせて、居間に近づいた。 ったら、きっと誰かが血を流していただろう。 六人の女の子たちが、車座になって、何事かひそびそと話してい 「なにごとなのつつ ! 」 ジェーンとジムが、すっとんで来た。 なにをやってるんだ ? 半ば自失状態で、床に座りこんでいるウエンディと、レイクが手 にしたトン。フソンを見て、すぐに事情を悟ったらしい レイクは、少し背のびした。 「ああ。もうつ ! 」 とたんに、全身の血が凍った。 ウエンディが手にしているのは、ジェーンのトン。フソン・サ・フマ ジェーンは、地団駄をふみながら、叫んだ。 「なんてことをしてくれたのつ。銃はおもちやじゃないのよ。誰か シンガンではないかー にあたったら、どうするつもりなのつつ ! 」 「でね。ジェーンさんが、これをこうやって構えてー・ー」 レイクは、トン。フソンをジェーンに手渡して、言った。 危なっかしい持ち方だったが、ウエンディは、得意気に銃を構え 「セイフティを、かけておかなかったのかい ? 」 て、コッキング・ポルトを引いてみせた。ジェーンになりきったっ もりなのだろう。しかも、まずいことに、トリガーに指までかけて「もちろん、かけておいたわよ」 いるのだ。 ジェーンが、憮然とした表情で答えた。 「でも、あたしのミスね。こんな物を、そこらに投げ出しておくべ 「銀行の天井めがけて : : : 」 る。

5. SFマガジン 1985年9月号

「ふふん」 ジェーンは、鼻の先で笑った。 「行くんだ」 くるりと踵を返すと、昻然と顔をあげて、出口に向かった。 レイクが、強い口調で言った。 はっきりと聞こえてくる。 ・ハトカーのサイレンが、 「なんて日なのかしら」 ジェーンが、わめいた。 レイクが、ロを広げて持っているポストン・ハッグの中に、トンゾ ヘイズンの手から、空の・ハ レイクは、それには取りあわずに、 ' ソンを落としこみながら、ジェーンが言った。 グをひったくった。 「まったくだ」 「また来るからな。そん時は、しつかりしてくれよ」 ・ハッグのジッパーを閉めながら、レイクもうなずいた。 そう言い捨てて、レイクは歩き出した。 . 」 二人は、銀行を出ると、小走りにジムの待っ車に急いだ。 「本気じゃないんでしょ ? 」 さっさと銀行を出て行くレイクの背中に、ジェーンが声をかけ銀行の少し先に、後部扉を開けて、一台のイエローキャゾが停ま っていた。昨日の夜、ある大手のタクシー会社のカ 1 ポートから、 盗み出しておいたものだ。銀行の前で、扉を開けて待っていても、 あいにく、レイクは本気だった。 ジ = ーンは、きっとなって、ペイズンを睨みつけた。ペインズ誰にもあやしまれない車といえば、これしかない。 後ろからは、サイレンで他の車を蹴散らしながら、二台のパトカ が、どうして石にならないのか、不思議なくらいだった。 1 が、信号を無視して暴進して来る。 また、クラクションが聞こえた 1 ジェーンとレイクが飛び乗るのと同時に、イエローキャ・フは、急 「ジェーン、警察だ ! 早く " 】」 レイクが、出口のところで叫んだ。・ 発進した。 ジェーンは、さもいまいましげに、銀行の中を、ぐるりと見回し「遅かったな」 こ。トイフソンを持つ手に、リキミが入っていた。 運転手の帽子をかぶったジムが、前を向いたままで、言った。も てつきり撃ち殺されるものと早合点して、心の中で十字を切ったちろん、アクセルはべた踏みだ。 「なんか、あったのかい ? 」 者も多かったろう。 「とんだ邪魔が入っちまってな」 ジェーンは、トリガーを再び引きし・ほった。 トン。フソンが、手の中ではねた。 ソクミラーに映るジムの目に、レイクが顔をしかめてみせた。 「まあ、話したって、信じちゃもらえないたろうけどね」 銃弾は、ことごとく、客や行員の頭上を通過して、壁にめりこん 「ほーお」 だ。全員が、あわてふためき、悲鳴をあげて、床に伏せた。 0

6. SFマガジン 1985年9月号

ジェーンが一喝した。ト う一度、銀行を襲うのよ。トン。フソンだのなんだの、今度の計画 「いや、別に」 に、あたしはもう十万も使ってるのよ」 レイクが、聖パウロみたいな誠実そのものの表情をとりつくろっ ジェーンは、恨みがましい目つきで、レイクを見つめて、言っ こ 0 て、言った。 「それより、あの子、ウエンディのことだけど」 「あたしの十万を返してよ」 「あたしが、どうかした ? 」 「そうしたいのは山々なんだけどね」 レイクは、肩をすくめた。 台所の入口で、ウエンディがニコニコしながら、こちらを見てい 古い話になるが、エリノアでの三十五万の借りは、こないだのアた。 「いやね、その : : : 」 ンヴィルで完全に返済した筈であった。ところが、ジェ 1 ンは、三 レイクは、ちらりとジェーンの表情をうかがった。 十五万では足りないと言うのだ。 ジェーンは、あんたどーかしなさいという顔で、レイクを見てい 『どうして足りないんだ ? 』 レイクの質問に、ジェーンは、当然という顔つきで答えたものる。 レイクは、ひとっセキ払いをして、言った。 「あー、ウエンディ ? 」 『利子よ』 おかげで、こうしてまた、ここオールドデール市の銀行を、一緒「なーに ? 」 「サインは、もうもらったんだろ ? 」 に襲うことになってしまったわけだが : ジェーンは、レイクの、いかにも投げやりな口調に、鋭く切り返「もっち。ジムおじさんのも、もらっちゃった。きやは D 」 ジムおじさん ? した。 「レイク。あんた、世の中の物事が、全て、肩をすくめるだけで解横目で見ると、ジムは、ふてくされていた。 やれやれ気の毒に。 決すると思ってんじゃないでしようね ? 」 レイクは、内心ジムに同情した 1 レイクは、あわてて、首をふった。 「そうすると、君の望みは一応かなったってわけだ」 「そう。わかってんならいいのよ。あんたたちは、あたしに借りが 「そうね」 あるんですからね。忘れたとは言わせないわよ」 「夜も更けて来たことだし」 ジムが、こっそりとレイクに目くばせを送ってきた。 「知ってるわ」 レイクも、こっそりとうなずいた。 「そろそろ、いい子は・ヘッドに入る時間じゃないのかな ? 」 「なに、こそこそしてんの ! 」 6

7. SFマガジン 1985年9月号

かどうか、ジェーンに訊ねるような目つきをしてみせた。 教訓その一 ジェーンは、お行儀のいい生徒を前にした小学校の先生みたい につこりと微笑んだ。 『銀行強盗の敵は、 やはり、これでまち 出納係は、ホッとした顔つきになった。 警察だけとは限らない』 がってなかったのだ。 続いて、ジェーンは、視線をついと動かして、銀行の中を見回し ジェーンが、いきなりぶつばなした。 ドラム弾倉を備えた、トン・フソン・サ・フマシンガンーー俗にシカた。 ゴ・タイ。フライターと呼ばれ、往年のギャングたちが愛用した、由他の客や行員たちも、出納係を見習うことにしたらしい。おとな しく両手をあげた。 緒正しい軽機関銃だ。 集弾率はひどく悪いが、音と見た目の派手さにかけては、右に出「ちょーっと、派手すぎるんでないの ? 」 ( ワーガン片手に、ジェーンの背後を力。ハーしていたレイクが、 るものがない。打ち上げ花火そこのけの、景気の良さだ。 オの最後 天井にボコボコ穴があき、そのついでに、監視カメラが一台、粉まるで緊迫感というものの感じられぬ声で、言った。トリ の一人、ジムは、表に停めた車の中で、携帯用のめんどうを 粉になって吹っ飛んだ。 みている筈だ。 あたりに、強い硝煙の匂いが立ちこめた。 レイクは、スキツ。フでもするような足取りで、ひょいとジ = ーン・ 客も、行員も、ガードマンも、ほとんどあっけにとられている。 大胆なスリットの入った黒いシルク・サテンのドレスに、真っ白の前に回りこんだ。ジェーンのスタイルに合わせたのだろう。スチ いふわふわのショール。見事な金髪を頭の上にまとめた完璧なレデ ール・ブルーのスーツをびしりと決め、ステットソンのソフトをか イが、これも黒いシルクの長手袋をはめた手で、世にもぶっそうなぶり、おまけに、襟に。 ( ラの花なんそ差して気取っている。 シロモノを、あざやかに取り扱ってみせたのだ。 レイクよ、。、 / ワーガンの先で、帽子の縁をぐいと押しあげて、ニ ジョギング。ハンツをはいたカモノハシほどの非現実感があった。 ャリと笑ってみせた。 ジェーンは、上に向けていた銃口を、ゆっくりと水平に戻した。 「そうやってると、まるで、禁酒法時代の女ギャングだぜーーーで、 そのまま引き金を引けば、カウンターの向う側に座っている山羊も、なかなか似合ってるよ」 みたいな顔の出納係は、秒速四〇〇メートルであの世へ旅立っこと「そ。ありがと」 になる。当の御本人も、さすがに、そこんところは、おぼろげに理 ジェーンは、おつにすまして応えた。 解したらしい。事態を、まだよくのみこめてない表情ながら、のろ「あなたも、なかなかのもんよ、レイク。 のろと両手をあげた。そして、自分の行動が、これで正しかったのチン。ヒラに見えるわ」 プリム 立派な使いっ走りの協

8. SFマガジン 1985年9月号

「はあ。私も、おかしいなとは思ったんですが : : : 」 しかし、目の前の現実は、おいそれとは消えてくれそうになかっ こ 0 ペイズン氏は、ロごもった。 「ほんのちょっとだけでいいんです」 「ねー、サインしてよー」 現実は、言い張った。 例の赤毛娘が、ノートでレイクの背中をつつついた。 「なに、ぐずぐずしてんのつ ! 」 「きっと大事にしますからー ジェーンの鋭い叱責も飛んで来た。 現実は、あくまでも真剣だった。おまけに、まるで邪気がないの レイクは、ため息をついた。 だ。あけっぴろげの無邪気さほど、始末におえないものはない。」 その時、銀行の表で、クラクションが二回連続して鳴らされた。 「あのねー、お嬢ちゃん ? 」 ジムだ。 レイクは、赤毛で、ちょいとソ・ハカスのある現実に、話しかけた。 「すまないけど、今、取り込み中なんだよ。わかるだろ ? それ引きあげの時間だった : ジェーンとレイクは、顔を見合わせた。 に、強盗ってものは、普通、サインなんかしないものなんだ」 「あのー レイクの目に、絶望の色が浮かんでいた。 ミスター ? 」 出納係が、おずおずと声をかけた。 「なんてこった」 レイクは、首を振った。カ無い声で、 「なんだ ? 」 ふり返ったレイクに、出納係は、ポストン・ハッグを差し出しなが「行こう、ジェーン」 「なんですって ? 」 ら、言った。 「これで、 いいんでしようか ? 」 ジェーンが、柳眉を逆立てた。一 ペイズンと「まさか、このままお金も取らずに、逃げ出そうって言うんじゃな ・ハッグの表面に、マジックで黒々と、アルフレッド・ 、でしようね ? 」 書いてあった。 頭に血が昇った。 「ジムの合図が聞こえただろ ? 奴は警察無線を盗聴してるんだ。 レイクは、カウンターごしに出納係の胸ぐらをつかんで、ぐいとそれが、どういう意味かわからない君じゃない筈だ。ぐずぐずして たら、身動きとれなくなっちまう」 引き寄せた。 「警察が何よ ! 」 「ペイズンさんよ」 ジェーンが、トン。フソンを振り回しながら、息まいた。 一語一語を、岩に刻みこむような調子で、レイクは、言った。 「あんたにや、常識 0 てもんがないのか ? 拳銃片手に、わざわざ「なんのために、こんな恰好までしたと思 0 てるの ! このドレス と、トン。フソンに、 いくらかかったか、あんたも知ってるてし 銀行員のサインをもらいに来る強盗が、どこにいるつ ! 」

9. SFマガジン 1985年9月号

「どっ、どっ : ジムは、片方の眉をつりあげた。 ちらりと 、・、ツクミラーに目をやる。 レイクは、狭い車の中で、可能な限り、その女の子から遠去かろ ジムは、軽くセキばらいをして、言った。 うともがきながら、素頓狂な声を張りあげた。 「あー。ところで、レイク」 「どこから湧いて出た」 「なんだ」 「どこって : : : 」 「おれには、紹介してくれないのかい ? 」 女の子は、可愛く肩をすくめて、言った。 「紹介 ? 」 「あなたの、すぐ後ろにずーっといたわよ、あたし」 レイクが、けげんな顔つきで、訊き返した。 「ちょっとレイク ! 」 「さっきから気になってたんだが」 ジェーンの肘が、レイクの脇腹にめりこんだ。 と、ジムは言った。 息がつまった。 「おたくの隣に座っている、もう一人の御婦人よ、 ( いったい何者な セキこんでいるレイクの耳をひつつかんで、ジェーンが語気鋭く んだ ? 」 囁いた。 「なんだって」 〈あんた、その子がついて来てるのに、気がっかなかったのつリ〉 レイクの表情が、一瞬にして、凍りついた。 レイクは、呼吸を整えて、おもむろにうなずいた。 油の切れたロポットみたいに、レイクは、ぎこちなく首を回し「気がっかなかった」 ジェーンの唇から、ため息がもれた。 まず、赤毛が見えた。一 ジェーンは、何も言わなかった。 そして、声が聞こえた。 ただ、レイクの顔を、ものすごい目つきで、睨みつけただけだ。 声は、こう言っていた。 この大馬鹿者。 「ねー。早く、サインしてよー」 彼女の瞳は、はっきりと、そう語っていた。 レイクは、カ無く笑って、肩をすくめた。 教訓その二 「急いでたんだ」 、『トラゾルは肥大する』 ジェ】ンは、そっぽを向いた。 または 「おいでなすったそ」 ・ハックミラーを気にしながら、ジムがつぶやいた。 『二度あることは、三度ある』 とたんに、 こ。

10. SFマガジン 1985年9月号

女の子からノートを受け取り、そのまん中に、下手糞な字で、 先頭のパトカーが、突然、コントロールを失って、道路脇のビル 〈高飛びレイク〉とサインした。 レイクの手元を、熱心にのぞきこんでいた女の子が、おずおずとにつつこんだ。 「きゃーっ ! 」 一一一口った。 ウエンディ : 、 カ突拍子もない声を、張りあげた。 「あのー」 「おねーさま、すてきっ ( ~ ワ」 「なんだい ? 」 両方のこぶしを口元にあてて、きやおきやお言い始める。 「その下に、ウエンデイへって書いて下さい」 おねーさま ? 「ウエンディ レイクは、茫然とした。 「あたしの名前」 それ以上に、ジェーンも茫然としていた。 「ああ」 トン。フソンを撃つ手を止めて、きやびきやびしているウエンディ」 レイクは、言われた通りにした。 を、ふり返る。その目が空ろだった。 「あのー、それから、日付けも入れて下さい」 すかさず、ウエンディがノートを差し出して、叫んだ。 「なるほど」 「サイン下さいリ」 レイクは、日付けを入れた。 ジェーンは、思わず頭が痛かった。 「これだけで、 いいのかな ? 」 「はいつ」 レイクは、そ知らぬ顔で、シートベルトのふりをしている。 「お願いしますう。あたし、おねーさまみたいな人、大好きなんで ウエンディは、カ一杯うなずいた。 す ! 銀行で見た時から、わあ素敵 ( ワ ) なんて思ってて。ドレス 「ありがとーございましたあワ」 着てマシンガン撃つなんて、もお最高。あこがれちゃうわワ」 「いや。なに」 ウエンディの瞳に、星がきらめいた。」 これだけ素直に喜ばれると、レイクも、まんざら悪い気はしな ジェーンは、疲れを覚えた。 そういえば、昔、感化院の先生が『ひとに喜ばれるような人間 こういう相手は苦手だった。まだしも、チェーンソーを振り回す になりなさい』って言ってたつけ。 思わずほのぼのしているレイクの横つつらを、ジェーンの声が思殺人鬼を相手にする方が、何十倍も気が楽だ。 いきりひつばたいた。 こんな時は、ひたすらおそれいって、できるだけすみやかに、退 「レイクー 散してもらうしか方法がない。 ほけーっとしてる場合じゃないわよっ ! 」 おねーさまは、ひきつった微笑を浮かべて、言った。 ジェ 1 ンは、トンプンンを再び取り出して、盛大におつばじめて 3