: らき、らと輝く光か、 3 年は見た。 誰よりも強く求めてきたその光は、求めすぎたが故に、彼の手 か、ら、かっていく。 はっと目を覚まして・身体を起こす。荒い息と、じっとりと服を ( なんでだ : : なんでなんだ : 濡らす、嫌な冷たい、冫 呈、光はどんどん力を失っ 伸、はせ、は伸一、はす . 程、本もが一け「は本もか / 、オ どんな夢を見ていたのかは覚醒した今となっては覚えていな ていって。 良くない夢であることは確かだろう。胸の中では、嫌な喪 ( 俺は : : : 俺は、だったら、これからどうやって生きていけば良失感だけがざわざわと音を立てている。 いんた : 「はあ・ 光を失った暗闇の中で、絶望と共に、溺れたように息が苦しく かしがしと髪をかき乱し、彼ーーー山崎宗介は悪態をついた。習 なっていく。 貭のように、右肩に触れる。 重い身体は、どんどん沈み込んでいくようだ。 ( : : : 起きたら良くなってる、なんて魔法みてえなことあるわけ ねえよな ) 今はなんともないけれど、きっとまた、あの痛みは、この肩を 襲ってくるに違いない なかった。 助けて、と、叫んだような気がしたけれど、それは錯覚だった のかもしれない 真っ暗な世界の中、光を失って一人きり 少年はもう、自分が一体どうしたらいいのか、何もわから 、つとその強癶、をなくしていくのを、少 とはいえ、 いつまでもここで暗い顔で沈み込んでいても仕方が 今日は平日。朝練もあるし、授業もある。 宗介は暗い顔はそのままに、パジャマ代わりのジャージを脱ぎ
く。とはいえ、お互い着替えの水着とタオルくらいだ。大した荷かあ。見られたって気にしないっすよ ! 」 物はない 「そういう問題じゃねえよ ! 」 百太郎が宗介のために父親のタンスからこっそり拝借してき きよとんと見つめてくる百太郎の腰に、宗介は無理矢理タオル たカットソーは、サイスもちょう・ど良かった。しかし、 いかんせを巻く。思った以上に未発達な少年の体に動揺しながら、下半身 ん顔も知らない人間のものかと思えば、短時間とはいえ脱げると か見えないよ、つにした。 ほっとする。 「えー、着替えに くいっすよ」 : って、おい、御子柴 ! 」 「うるせえ、 、いか、らちゃんと隠せ ! 」 「え ? なんすか、山崎先輩 ? 」 つぶつ言う百太郎をしかりつけ、宗介も自分の腰にタオルを ほっとした宗介はそのまま何の気なしに隣て着替える百太郎巻き付け、手早く水着に履き替えた。 を見て、思わず大きな声をあげる。名前を呼ばれた百太郎は、着 ( ったく : : なんで俺がこんなにひやひやしないといけねえん 替えていた手をそのままにきよとんと宗介を見上げる。その下半た ? ) 身をーーー見事なまてに露出したまま。 ため息を百回くらいっきたい気分だ。 「お前、タオルは ! 」 「へ ? あ、ここにあるっすよ ! 」 おとなしく下半身を隠して着替えを終えた百太郎は、そのまま 宗介の指摘で、百太郎はロッカーに入れていたタオルを誇らしプールに向かおうとしたため、首根っこを捕まえてしつかり洋服 げに見せるが、問題は、なぜそこにタオルがあるのか、という話 を畳ませた。まるでお兄ちゃんのようだ。 だ。今、タオルは、腰に巻かれるべき存在てある。 すかり疲れ切って、ようやくプールに向かう 「ちげえよ、それは腰に巻いて股間を隠せ ! 」 やった、山崎先輩、今日空いてるっすよー 「えー、ても別に俺と山崎先輩しかいないからい、 、じゃないっす泳げるっすね ! 」 ワ 1
弋」ているよ、つだ。 浴槽の傍で尻餅をついていたーーー宗介は彼が言葉を発するま 「良かった : : : ん ? 」 でその存在に気がついていなかったーーーオレンジ色の髪の少年 ひとまず安堵の息を吐いたところて、違和感に気付いた。なぜ が声をあげた。ト学校中学年くらいの、元気がみなぎっているよ たろう、浸かっている水が温力、 、、。永いでいたプールは日皿水プー うな明るい雰囲気の少年だ。ぱちばちと驚きで激しく瞬きをする ルではない。先程飛び込んだ時も、いつも通り水は冷たかった。 瞳は、三白眼気味だが好奇心の強さでか、きらきらと輝いている。 いや、それより何より、周りの様子がおかしい。意識が戻った見ず知らずの人間が目の前にいるというのに、物怖じしたり法え ときはそれどころではなかったが、今ではわかる。 たりする気配すらない 「プールじゃねえぞ、ここ : ・つうか、ここはどう見ても : : : 」 「そんなの、俺が聞きてえよ。 : ここ、とこだワ・」 体格の良い宗介は足を曲げなければ入れない広さ。すぐ横に迫 「ここっすか ? ここは俺んちの風呂って言ってるじゃない るタイル貼りの壁。温かい水。そう、ここは、とう考えてみてもすかあ ! 」 答えは一つ。 「いや、そういうことじゃねえよ : : : お前、名前は ? 」 質問のらちがあかないことにいらいらする。だが、 相手は明ら かに年下だ。怒るわけにもいかない 気を取り直して、答えが決まっているであろう質問をすると、 少年はえっへんとでも言うように、 腰に手を当てて胸を張った。 「俺っすか ? 俺は御子柴百太郎っす ! 」 「モモタロウ : : : どっかの昔話にでも出てきそうな名前だな」 「その『モモ』じゃないっすよ ! 兄ちゃんは、なんていう名前 なんすか ? 」 「 : : : どこの風呂だよ ? 」 そ、つ、ここは風呂だ。それも、銭湯とかそう・いう・類てはなく、 とこかの家の風呂だ。 「俺はプールて溺れたんじゃねえのか : 状兄を把握しようと、宗介が頭を掻いていたとき。 「兄ちゃん、なんで俺んちの風呂にいるんすか ? 」 っ 、 6
大会の欠場を決めたとき、宗介は気付いてしまった。 「あのとき無くしたのは : : : 俺の、夢だったんだな : 目を覚ましたときの、嫌な喪失感。あれは、幼い頃からの夢を 失う痛みたったのた。 「俺の肩は : : もう、冶らねえんだ : : ・こ きらきら輝く夢が失われたとは、そういうことだ。リハビリと 故障を繰り返すこの肩は、日常生活では支障が無くても、力強い タフ一フィを、誰より・も練广水ぐことはで、ない 「ーーーははつ。ざまあねえぜ : : : 」 凛と同じ世界の舞台に立っと決めたのに、もうそれは叶わない とこかで予感はしていたから、そんな現実を凝視してしまって も、涙も出てこなかった。ただ、ロから乾いた笑いが零れる。 「水永も、もう辞めるか・ : : こ - 誰 - + もいナよ、 、電気が落とされた部活後のプールサイド。宗介の 乾いた笑い声は、もの悲しげに響くのみだった。 それでも、宗介はいつものようにゴーグルとキャップを被った。 い意味はないたた、そこに水があるのに永がないのはおかし 惰性のように水に飛び込むと、水を切って泳ぎ出す。 初めのうちは良かったが、しばらく泳いたところでズキッと肩 に痛みが走った。うめき声は声にならす、かわりにごぼっと口か ら息が漏れ、水が音を立てる。 ( ますい 漏れた息の代わりに、水が肺の中に襲いかかる。 ( 溺れ、る : 息が苦しい。視界がだんだん暗くなっていくようで、宗介は自 分の身体が、水中深くに沈んでいくのを感じながら、意識を遠の かせた 干・まっ、 . 。こほっ 気がついたとき、宗介は咳をしていた。咳と一緒に、飲みこん でしまった水が吐き出される。 「俺は : : : 助かった : : : のか : 溺れて、水を飲んだことまでは覚えているが、そのあとの記憶 とうやら生 はない。あのまま溺れて沈み、死ぬのかと思ったが、、、
続いた 「山崎くん、無理はやめなさ、 、。簡単に冶るものじゃない君の ためにも、頑張りすぎはダメなんだよ」 「山崎、大丈夫なのか ? 」 主冶医にそう諭されても、宗介は止まることができなかった。 「肩だろ ? 大丈夫じゃねえだろ」 彼の言っている意味はわかっていたけれども、止まったら、そこ 「今度の大会、誰が勝つんたろうな」 で夢まで目の前から消えてしまいそうて怖くて、頑張ることしか 部外者は無責任にそんな言葉を遠巻きに囁いた。この間まで賞できなかったのだ 賛と嫉妬のまなざしを向けていた者たちが、同情とあざけりの目 もし、近くに誰か、宗介が弱音を吐ける相手がいたら、事態は を向けるよ、つになる。同じ水泳部の中でも、圧倒的な強さで他を また違ったのかもしれないでもそれは仮定の話で、そこにそん 寄せ付けない宗介を、よく思わない者たちもいた。そんな人間た な相手はいなかった。 ちは、これみよがしに宗介に対して同情して見せたり、馬鹿にし 頑張れば頑張る程、どんどん駄目になってい たりした。 ( : : : 本当の俺の肩は : : どうだったんだろうな ) だが、宗介にとってそんな人間は、相手をするに値しなかった。 気がつけば、故障していなかった頃の自分の肩がどうだったの 大事なのは、肩を治し、再び夢へと全力で手を伸ばすこと、ただ かなんて、わか、らなくなっていて。 一つ。囁かれる言葉に耳を貸さす、宗介はリハビリに励んだ。 ( 俺は、絶対に凛とオリンピックに行くんだ : 、ビリは、簡単なものではなかった。血がにじむよう・な田、 でリハビリをし、、水げるよ、つになったと田った、ら、また無理をし て故障をする。大会にも、エントリーしても出場てきない日々か き飛ばしてくれるような魔法だったのだ。 , ーーーもちろん、そんな もの、この世に存在するわけがないのだけれども。 宗介が夢を見たのは、そんなときのことだった。起きたと きにはもう忘れてしまっていたけれど、大事な何かを失うような、 そんな嫌な夢。 そして、 ハビリで良くなってきたと思った肩が再び故障をし、 ・ 4
百太郎は、唇をぎゅっと噛みしめたまま、ぼろぼろと涙をこぼ ー ) イ、いと」 小さな膝小僧の上に、涙の雫が落ちている。 「お、おい、御子柴 ? 」 まさか百太郎が泣くなんて思ってもいなかった。焦って涙をぬ ぐってやろうとするが、あいにく自由に動く左手は百太郎に掴ま れたままだ。 「そ、そんなの : : : 山崎先輩が可哀想じゃないっすかあ ! 」 宗介に声をかけられたのがきっかけになったのだろうか。百太 郎はぐっと拳で涙をぬぐうと、それでもまだ涙で濡れたままの瞳 を宗介に向けた。 「山崎先輩は悪くないっす ! そんな、すげえ頑張ってるの、わ かるっすよー だって、山崎先輩さっきの泳ぎもすげえ綺麗たっ ははは、と乾いたような笑いが最後に零れた。それを最後に、 たし、フォームが綺麗なのは頑張ってる証拠だって、兄ちゃんも 沈黙が更衣室を満たす。 言ってたっす ! だから、だから、山崎先輩は、すげえ泳ぐのが あんなに出会ってからず「と賑やかたった百太郎も、何も言わ好きで、頑張「てるって、俺わか「た「す ! 」 きっと、こんな愚痴を聞かされて、困り切っているのだろ 興奮したのか、百太郎はペンチにあがって膝立ちになった。 う。迷惑かけちまったな、とやさぐれた気分で視線を向けーーー宗 「なのに、そんなに好きなのに、そんなの、そんなの山崎先輩、 介は、固まった。 可哀想じゃないっすか ! 」 相変わらず涙をぼろぼろと真珠のようにこぼしたまま、百太郎 小さな両手を伸ばして宗介の頭を胸元に抱きしめた。 「お、おい、御子柴 ? 」 ぎゅっと抱きしめられ、薄い胸からはトクトクと百太郎の心臓 の音が聞こえた。泣いているせいか、少し速、 「諦めたらだめっす ! きっと、絶対、肩もちゃんと治るっすー それに、もし、もしその夢がだめでも、また山崎先輩がやりたい 宗介はどこか現実味なく感じていた。 「もう、俺の夢は叶わねえ。俺はどんなに頑張っても、もう誰よ ) ・も速く泳げねえし、オリンピックにもいけねえ。夢もなんもな くなって、俺はも、つ終わりだそう・だ、水、水はも、つ辞めよ、つって、 そう思ったんだった」