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検索対象: オレンジ色の希望の光
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1. オレンジ色の希望の光

続いた 「山崎くん、無理はやめなさ、 、。簡単に冶るものじゃない君の ためにも、頑張りすぎはダメなんだよ」 「山崎、大丈夫なのか ? 」 主冶医にそう諭されても、宗介は止まることができなかった。 「肩だろ ? 大丈夫じゃねえだろ」 彼の言っている意味はわかっていたけれども、止まったら、そこ 「今度の大会、誰が勝つんたろうな」 で夢まで目の前から消えてしまいそうて怖くて、頑張ることしか 部外者は無責任にそんな言葉を遠巻きに囁いた。この間まで賞できなかったのだ 賛と嫉妬のまなざしを向けていた者たちが、同情とあざけりの目 もし、近くに誰か、宗介が弱音を吐ける相手がいたら、事態は を向けるよ、つになる。同じ水泳部の中でも、圧倒的な強さで他を また違ったのかもしれないでもそれは仮定の話で、そこにそん 寄せ付けない宗介を、よく思わない者たちもいた。そんな人間た な相手はいなかった。 ちは、これみよがしに宗介に対して同情して見せたり、馬鹿にし 頑張れば頑張る程、どんどん駄目になってい たりした。 ( : : : 本当の俺の肩は : : どうだったんだろうな ) だが、宗介にとってそんな人間は、相手をするに値しなかった。 気がつけば、故障していなかった頃の自分の肩がどうだったの 大事なのは、肩を治し、再び夢へと全力で手を伸ばすこと、ただ かなんて、わか、らなくなっていて。 一つ。囁かれる言葉に耳を貸さす、宗介はリハビリに励んだ。 ( 俺は、絶対に凛とオリンピックに行くんだ : 、ビリは、簡単なものではなかった。血がにじむよう・な田、 でリハビリをし、、水げるよ、つになったと田った、ら、また無理をし て故障をする。大会にも、エントリーしても出場てきない日々か き飛ばしてくれるような魔法だったのだ。 , ーーーもちろん、そんな もの、この世に存在するわけがないのだけれども。 宗介が夢を見たのは、そんなときのことだった。起きたと きにはもう忘れてしまっていたけれど、大事な何かを失うような、 そんな嫌な夢。 そして、 ハビリで良くなってきたと思った肩が再び故障をし、 ・ 4

2. オレンジ色の希望の光

とは限、らない にいるっす ! お、俺襲われるっす— ! 』 疑問も謎もっきないけれど、宗介は一度それらを 全て忘れることにした。 もし仮にここで百太郎が叫んだりしたら、間違いなく警察を呼 とにかく、なんとかして高校に戻らなければならない ばれ、宗介は連れて行かれるに違いない 安心してこれからとう : つっても、俺の格好は水着たしなあ・ こんな格好で外するか悩めるのも、ひとえに百太郎がよく言えば宗介を信じてく れたから、悪く言えば警戒ごに欠けているからた。 歩いたら、警察に通報されるんじゃねえのか ? ) それに、身一つでここに来てしまったため、財布も持っていな そんな事情か、ら、宀不介としてはできる限り優しく声をかけると、 これでは、と、フにもで弋」ない 百太郎のきらきらとした瞳は、宗介の下半身に向けられた。 「山崎先輩、水泳やるんすか ? 」 「あ、ああ : 宗介は途方に暮れる、というのを文字通り体感していた。一体 と、つした、らいいのか、まったくわか、らない 練習している最中だったから、海で着るようなものではなく、 「はあ : : : くそっ、参ったな くるぶしの少し上まで覆う、完全に競技用の水着た。隠しても仕 深いため息をついて頭をおさえていると、 5 と、隣からの視線方が無い 宗介の答えに、百太郎の瞳はさらに輝きを増す。 が気になった。誰の、と考えるまでもない。先程からおとなしく 「俺もやるんすよ ! 」 黙って宗介の懊悩を見つめていた、百太郎のものだ。 : なんた」 「そうか」 「俺ね、俺ね、専門はパッ なんとなく嫌な予感がしたものの、無視をするわけにもいかな タだ」 「俺はパッ い。なにしろ、今、宗介の運命は百太郎が一部握っていると言っ てもい、。 ぐいぐいと身を乗り出してくる百太郎の勢いに少し引く。本当 『、やあっー に水泳が好きなのだろう・。 だ、誰か、誰かっー なんか知らない人が風呂場 クなんすよ ! 山崎先輩は ? 」

3. オレンジ色の希望の光

「パッタ ! すっげえ ! 兄ちゃんも水泳やってるんすけど、兄場合によっては、百太郎をつれていることによって更に怪しい目 ちゃんは専門がフリーで超速いんすよ ! 」 で見られかねない 。高校生でそんな前科がつくのは勘弁してもら 「そうか」 いたいし、宗介にそんな趣味はないからとんだ濡れ衣だ そういえば、凛が気にして、最終的に一緒に永ぐために転校ま 「いや、どうやってそこまで行くんだ。御子柴、よく考えろ。俺、 でしていった七瀬遙もフリーだったな、と思い出す。 服がないんだぞ。水着姿でふらふら外を歩けるか ? 」 それよりも、百太郎のこの会話がどこに着地するのかがまった 無理だろう、と説得を試みるが、百太郎は大丈夫っす、と邪気 くもって不安だ。宗介が眉間のしわを深めようとしたとき。 なく笑ってみせる。 「それじゃあ山崎先輩ー・プール行きましようよ ! 」 「俺とか兄ちゃんの服だとちっちゃいっすけど、俺の父ちゃんの 宗介が予想した中で、一番なって欲しくなかった展開がやって 服着れば、 、、つすよ ! 父ちゃんはでつかいから、山崎先輩ても きた。頭を抱えたいのを我慢する宗介には気付かず、百太郎はわ大丈夫っすよ ! 」 ねっー くわくとした様子で、今日はスイミングスクールのプールが誰で と笑顔を向けられ、言葉に窮する。 「いや、でもそのスイミンクスクール、、 もフリーで使える日だから、と宗介の腕を掴んでねだる。 、きなり行っても部外者 「ねえねえ、 、いっすよね ! 」 は永げないだろ」 、、わけがな、 どうやって高 今は【冰いでいる場ムロじゃない お前は、 、いかもしれないが、俺は受付て止められるはずだ、と 校に戻るか、というとんてもなく重要な問題が目の前にある。 なんとか悪あがきをするが、それさえも、百太郎がおひさまのよ そもそも、身一つでここにいる宗介だ。どうやってそのスイミ うな笑顔で弾き飛、はした。 ングスクールまで行くのか 「大丈夫っす ! 今日は誰でも自由に泳いでいいんすよ ! あ、 先程も考えていたカ、 、くら今穿いている水着の丈が長いから それに近くだから、歩いていけるっす ! 」 とはいえ、このまま外を歩いたらかなりの確率で通報されるし、 ここまで反論を封じ、られては、宗介も、も、つ行弋」たくないとも 0 一

4. オレンジ色の希望の光

百太郎は、唇をぎゅっと噛みしめたまま、ぼろぼろと涙をこぼ ー ) イ、いと」 小さな膝小僧の上に、涙の雫が落ちている。 「お、おい、御子柴 ? 」 まさか百太郎が泣くなんて思ってもいなかった。焦って涙をぬ ぐってやろうとするが、あいにく自由に動く左手は百太郎に掴ま れたままだ。 「そ、そんなの : : : 山崎先輩が可哀想じゃないっすかあ ! 」 宗介に声をかけられたのがきっかけになったのだろうか。百太 郎はぐっと拳で涙をぬぐうと、それでもまだ涙で濡れたままの瞳 を宗介に向けた。 「山崎先輩は悪くないっす ! そんな、すげえ頑張ってるの、わ かるっすよー だって、山崎先輩さっきの泳ぎもすげえ綺麗たっ ははは、と乾いたような笑いが最後に零れた。それを最後に、 たし、フォームが綺麗なのは頑張ってる証拠だって、兄ちゃんも 沈黙が更衣室を満たす。 言ってたっす ! だから、だから、山崎先輩は、すげえ泳ぐのが あんなに出会ってからず「と賑やかたった百太郎も、何も言わ好きで、頑張「てるって、俺わか「た「す ! 」 きっと、こんな愚痴を聞かされて、困り切っているのだろ 興奮したのか、百太郎はペンチにあがって膝立ちになった。 う。迷惑かけちまったな、とやさぐれた気分で視線を向けーーー宗 「なのに、そんなに好きなのに、そんなの、そんなの山崎先輩、 介は、固まった。 可哀想じゃないっすか ! 」 相変わらず涙をぼろぼろと真珠のようにこぼしたまま、百太郎 小さな両手を伸ばして宗介の頭を胸元に抱きしめた。 「お、おい、御子柴 ? 」 ぎゅっと抱きしめられ、薄い胸からはトクトクと百太郎の心臓 の音が聞こえた。泣いているせいか、少し速、 「諦めたらだめっす ! きっと、絶対、肩もちゃんと治るっすー それに、もし、もしその夢がだめでも、また山崎先輩がやりたい 宗介はどこか現実味なく感じていた。 「もう、俺の夢は叶わねえ。俺はどんなに頑張っても、もう誰よ ) ・も速く泳げねえし、オリンピックにもいけねえ。夢もなんもな くなって、俺はも、つ終わりだそう・だ、水、水はも、つ辞めよ、つって、 そう思ったんだった」

5. オレンジ色の希望の光

よくからかわれるのだろう。ぶすっと唇を尖らせてみせたもの中学に上がったばかりといったところか。その年で年上への礼儀 の、少年ーー・・・御子柴百太郎は、すぐに気を取り直して、宗介にも を弟に教え込んでいるとは、大した兄だ、と感心する。 名前尋ねた。警戒心など、欠片もない 「んーと、じゃあ、兄ちゃんのことはなんて呼べばいいんすか ? 」 ( こいっ : : : 大丈夫か ? ) きやっきやと嬉しそうに兄自慢をしていた百太郎だが、そうだ、 自分が怪しい者ではない・ と思い出したとい、つよ、つに、 : と自分で、言っても説得力はない こてんと首を傾げた。 「あ ? か、少なくとも宗介自身としては何か悪い目的を持ってここに、 : そうだな」 るわけではないからいいものの、普段からこんな様子なのか、と 宗介としては、呼び捨てだったから思わず突っ込んだだけで、 少々心配になる。 別に特にこ、フ呼んでほし、 というような呼び方があるわけでも 、、 0 「俺は、山崎宗介だ」 「そーすけ ? 」 「呼び捨てじゃなかったらなんでも、 、いカら、好きに呼べ」 ちょっと舌っ足らすに名前を呼ばれ、くすぐったい気持ちにな 面倒く癶、くなってそ、つ宀一 0 、つと、百太郎はしば、らく唸ってか、ら、 る。それを隠すように、宗介は百太郎の頭を軽く小突いた 「じゃあ、宗兄ちゃんって呼ぶっすね ! 」 「俺の方が年上なんだから、呼び捨てにすんじゃねえよ」 と、再び瞳をきらめかせた んん、でもそうっすね ! 兄ちゃんにも年上の人に失 だが、先程まで全力の尊敬を込めて語られていた百太郎の兄と、 礼なことすんなって言われてるし ! 」 同じ呼称で呼ばれるのは、どうもくすぐったくて仕方が無い 「兄ちゃん ? 兄ちゃんいるのか」 いや、山崎先輩って呼んどけ」 なんでもい、 「兄ちゃんはめっちやすげえんすよ ! 俺よりニ歳上だけど、す って言ったのに、わかままっす ! 」 げえ泳ぐの速いし、かっこいいんす ! 」 「いいから、年上の言うことは聞いておけ」 百太郎とニ歳違うということは、今小学校高学年か、あるいは 「ちえつ。じゃあ山崎先輩って呼ぶっす」

6. オレンジ色の希望の光

: らき、らと輝く光か、 3 年は見た。 誰よりも強く求めてきたその光は、求めすぎたが故に、彼の手 か、ら、かっていく。 はっと目を覚まして・身体を起こす。荒い息と、じっとりと服を ( なんでだ : : なんでなんだ : 濡らす、嫌な冷たい、冫 呈、光はどんどん力を失っ 伸、はせ、は伸一、はす . 程、本もが一け「は本もか / 、オ どんな夢を見ていたのかは覚醒した今となっては覚えていな ていって。 良くない夢であることは確かだろう。胸の中では、嫌な喪 ( 俺は : : : 俺は、だったら、これからどうやって生きていけば良失感だけがざわざわと音を立てている。 いんた : 「はあ・ 光を失った暗闇の中で、絶望と共に、溺れたように息が苦しく かしがしと髪をかき乱し、彼ーーー山崎宗介は悪態をついた。習 なっていく。 貭のように、右肩に触れる。 重い身体は、どんどん沈み込んでいくようだ。 ( : : : 起きたら良くなってる、なんて魔法みてえなことあるわけ ねえよな ) 今はなんともないけれど、きっとまた、あの痛みは、この肩を 襲ってくるに違いない なかった。 助けて、と、叫んだような気がしたけれど、それは錯覚だった のかもしれない 真っ暗な世界の中、光を失って一人きり 少年はもう、自分が一体どうしたらいいのか、何もわから 、つとその強癶、をなくしていくのを、少 とはいえ、 いつまでもここで暗い顔で沈み込んでいても仕方が 今日は平日。朝練もあるし、授業もある。 宗介は暗い顔はそのままに、パジャマ代わりのジャージを脱ぎ

7. オレンジ色の希望の光

弋」ているよ、つだ。 浴槽の傍で尻餅をついていたーーー宗介は彼が言葉を発するま 「良かった : : : ん ? 」 でその存在に気がついていなかったーーーオレンジ色の髪の少年 ひとまず安堵の息を吐いたところて、違和感に気付いた。なぜ が声をあげた。ト学校中学年くらいの、元気がみなぎっているよ たろう、浸かっている水が温力、 、、。永いでいたプールは日皿水プー うな明るい雰囲気の少年だ。ぱちばちと驚きで激しく瞬きをする ルではない。先程飛び込んだ時も、いつも通り水は冷たかった。 瞳は、三白眼気味だが好奇心の強さでか、きらきらと輝いている。 いや、それより何より、周りの様子がおかしい。意識が戻った見ず知らずの人間が目の前にいるというのに、物怖じしたり法え ときはそれどころではなかったが、今ではわかる。 たりする気配すらない 「プールじゃねえぞ、ここ : ・つうか、ここはどう見ても : : : 」 「そんなの、俺が聞きてえよ。 : ここ、とこだワ・」 体格の良い宗介は足を曲げなければ入れない広さ。すぐ横に迫 「ここっすか ? ここは俺んちの風呂って言ってるじゃない るタイル貼りの壁。温かい水。そう、ここは、とう考えてみてもすかあ ! 」 答えは一つ。 「いや、そういうことじゃねえよ : : : お前、名前は ? 」 質問のらちがあかないことにいらいらする。だが、 相手は明ら かに年下だ。怒るわけにもいかない 気を取り直して、答えが決まっているであろう質問をすると、 少年はえっへんとでも言うように、 腰に手を当てて胸を張った。 「俺っすか ? 俺は御子柴百太郎っす ! 」 「モモタロウ : : : どっかの昔話にでも出てきそうな名前だな」 「その『モモ』じゃないっすよ ! 兄ちゃんは、なんていう名前 なんすか ? 」 「 : : : どこの風呂だよ ? 」 そ、つ、ここは風呂だ。それも、銭湯とかそう・いう・類てはなく、 とこかの家の風呂だ。 「俺はプールて溺れたんじゃねえのか : 状兄を把握しようと、宗介が頭を掻いていたとき。 「兄ちゃん、なんで俺んちの風呂にいるんすか ? 」 っ 、 6

8. オレンジ色の希望の光

ことやったらいいんすよー・山崎先輩なら、きっと、きっと : うわあーん ! 」 泣き疲れたのだろう。しばらくすると、百太郎はこてん、とカ 一生懸命言葉を選ぶように、百太郎は宗介を慰めようとしてく が抜けるように眠ってしまった。狭いべンチだが、百太郎一人寝 るくらいなら問題ない。宗介は床に座って、百太郎のまだ僅かに れたのだろう。それは、宗介にもわかった。だが、幼い心のキャ シティを越えてしまったのか、堰を切ったように百太郎は泣き 湿った髪をぼんやりと撫でていた 「 : : : ありがとな、御子柴。俺のために泣いてくれて」 出した。ぎゅうっとますます抱きしめられ、髪に百太郎の熱い涙 が落ちてくる。 先程宀一 0 えなかった礼をそっと囁くと、聞こえていないたろ、つに、 「おい、落ち着け、御子柴」 百太郎の唇がヘにやっと笑みの形に動いた。 ぽんぽん、と左手で百太郎の背中を撫でる。 それを見ていると、次第に宗介も睡魔に襲われた。泳ぎ疲れた のだろうか。そんなつもりはないのだけれど。 「俺、俺、もっと山崎先輩と泳ぎたいっす : 、カないそう・思って抗えたのは初 ひっくひっくと嗚咽をこぼしなが、ら、それてもまだ、今日初め こんな場所で寝るわけには、 て会った得体も知れないような自分のために言葉を紡ごうとすめのうちだけで、気がつくと宗介も眠りの世界に旅立っていた る百太郎は、本当に、 心が優しい少年なのだろう。 「ううつ、や、山崎先輩、また、俺と泳いでくれるっすか ? 」 「ああ、俺も、また御子柴と泳げたらいいな。ラッコみてえなお 前のパック、嫌いじゃねえよ」 自然と、宗介の頬が緩む。抱きしめたままでそれを感じたのか、 百太郎もようやく、涙でぐしゃぐしゃな顔のまま、えへへ、と微 笑んた。 目を覚ますと、そこは先程までいた更衣室ではなく、宗介が初 めに溺れたプールのプールサイドだった。 周りには、誰の姿も無い。当然、百太郎もいなかった。 「あれは : : なんだったんだ ? 」

9. オレンジ色の希望の光

「うつ」 水をかきわけていた肩が、突然痛みを訴えた。今度は、先程御 子柴家の風呂になぜか着いてしまう前のように溺れはしなかっ たけれども、泳ぎ続けることは出来すに足をつく。ニ十五メート ルプールの、まだ真ん中あたりだった。 「大丈夫っすか」 プールサイドできらきらしていたはすの百太郎の目が、一瞬に して心配そうな色に変わる。 飛び込もうとするのを、大丈夫だ、と手で制す。ここて年下の 百太郎に助けに来られるのは、宗介のプライドが傷つく 痛む肩を押さえて、プールの端まで戻り、プールサイドに上が 上る。しつかり見るためか、百太郎が水から上がる。 飛び込み台は使えなかったので、一つ深呼吸をしてタイミング をはかって、プールの壁を蹴る。フォームを意識しながら、勢い よノ \ 水をか、た 「うわあ ! すげえ、山崎先輩速え ! 」 陸上で、歓声を上げる百太郎の声が遠くに聞こえる。無邪気な やつだな、と微笑ましくなった、その時。 る。不安そうな顔をした百太郎が、すぐに駆け寄ってきた。 「山崎先輩 : : : 肩、痛いんすか ? すげえ赤くなってるっす、俺、 俺事務員のおばちゃんに救急箱借りてくるっす ! 」 「落ち着け、御子柴。 ・ : 大丈夫だ」 考えてみれば、百太郎の所に来る前にも泳いでいて、肩の痛み を感じていたのだ。それまでいたところとはまったく違、つところ に辿り着いてしまったという驚きと、懐いてくる百太郎のために すっかり忘れていた。冷やしもしていなかったのだから、こうし てまた全力で泳いだりしたら、痛くなるのも当たり前だ ( 御子柴が喜ぶからって、ちょっと調子に乗っちまったな ) とう・にもしよう・かないのた。本、米な、ら、、冰がない方力い、こと はわかっている。それができない以上、今、この肩を相手に出来 ることは冷やすことくらいだ。 「ても、ても山崎先輩 : ・ : こ しかし、百太郎は心配そうな顔て、ぎゅっと宗介の左手を握っ ている。まるで、自分が痛みを抱えているようた。 「大丈夫だ」 本当はその頭をがしがしと撫でてやりたいか、左手は百太郎に 握、られているし、今は右肩を動かしたくない 仕方なく、握られ -4

10. オレンジ色の希望の光

いたはずだった。それなのに、がらっと曇りガラスの引き戸を開 けて入った風呂場の、洗い場の向こうにある浴槽には、たっ】 とお湯が、今ま癶、に弗かしました、とでも宀一 0 、フよ、つに日勿 ~ をあげ ていたのだから、びつく りである。 「それで、俺がお風呂の中のぞき込もうとしたら、急にお湯がぐ るぐるって渦巻きだして、その中から急に山崎先輩が出てきたん すよ ! 」 そのとき、驚いた百太郎は尻餅をついてしまったのである。 「で、詳しく聞きたいんだが : そのあとは、宗介も知っての通り。 一通り噎せて、状况を把握 だな ? 」 して今に至る。 ちなみに、宗介は百太郎のことを苗字で呼ぶことに决めた。 「 : : : 結局、俺がなんでここにいるのかはわかんねえままか」 風呂に入ったままの宗介に対して、百太郎は風呂場の床にべた はあ、と深くため息をつく。百太郎からここの住所も聞いたが、 んと座り、両手をちょこんと浴槽の縁にかけている。その体勢で東京どころか、まったく違うところだ。 宗介を見上げ、こっくりと頷いた。 いや、そもそも宗介は高校のプールで溺れたわけで、ここが東 「そうっす。俺、風呂掃除いつもしてるんすけど、今日も掃除し京だろうと、たとえアメリカだろうと、プールから風呂へ瞬間移 ようって思ってきたら、昨日ちゃんと抜いたはずのお湯が入って動したことへの説明には、まったくならない て、変だなあって思ったんす」 ( : : : まあ、よくわかんねえけど、来ちまったことはもう仕方ね 御子柴家では、お風呂のお湯は先燿に再利用はしていないた えし、ごちやごちや考えてもしよ、つがねえか ) から、最後に入浴した人間、昨夜てあるならば、百太郎の父が抜 悩んでいたところて、またこの風呂から元いたプー : と、和やかに自己紹介をしてしまったが、それどころでは ない。宀小介にしてみればここはどこでなせ自分はここに、とい、つ 話だし、百太郎にしてみればなぜここに宗介が、という話だ。 : ここは、御子柴の家の風呂なん 不承不承、と宀一。う様子て呼んでみたものの、まだ小学生、「先輩」 という呼び方が珍しいのだろうか。一度呼んでみてから、百太郎 は嬉しそうに笑った。 ルに戻れる 一 8