心配 - みる会図書館


検索対象: オレンジ色の希望の光
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1. オレンジ色の希望の光

た左手を軽く揺すってやる。 「とりあえす、ここだと邪魔だし、更衣室に一回戻るか」 すでに、一体どうしたのだろう、と他の人々が心配そうに見つ めている。 軽く頭を下げると、百太郎の手を 騒ぎを起こすのも良くない 引いて更衣室に戻った。幸い、先程と同様に誰もいない 「痛くないっすか ? 大丈夫っすか ? 」 並んでペンチに座ると、百太郎はしきりに肩を心配してくる。 「大丈夫た、慣れてる」 まだずきすきと痛いか、しばらくすれば収まるだろう。 宗介のどこか他人事めいた返答に、しかし百太郎は納得しない 「良くないっす ! ちゃんと病院行って、診てもらわないとー そしたら良くなるっすよ ! 」 だが、宗介の心の一番柔らかいところは、そんな百太郎の優し さを、受け止めきれなかった。 唸るように絞り出された声に、百太郎の目が丸くなる。 、ビリしてもまた泳いだら痛 「この肩な。もう駄目なんだよ。 くなっちまう。医者にも診せたけど、焦るなって言われるばっ ) で、誰も冶るってはっきりは、一 = 0 ってくれねえ」 自分の言葉のせいで、百太郎の瞳がどんどん色をなくしてい のがわかった。あんなにくるくると動ス弋 : ら : らと輝いていた 瞳が、どんどんと困惑で揺れ始める。それでも、宗介はロを止め られなかった。止めてしまったら、心が壊れてしまいそうたった。 「良くなったって思って大会にエントリーしても、やつばり肩か 痛くて出られねえ。みんな、『頑張れ』って言うんだ。 張れよ、負けるな、また泳げるって。俺が、頑張っていないか、ら 、けないのか ? リハビリなんて、くそってほどやってる。俺は、 子どもは、素直で、純枠で、残酷だ。 誰よりも速く泳ぎてえんだよ。なのに、頑張れば頑張る程、どん 百太郎は、医者に行けばこの肩が治ると信じて疑ってもいない し、ただただ宗介を心配しているだけなのだ。それくらい、宗介どん遠くなってくんだ」 ずっと抱えてきた思いは、一度口をついて出たら止まらない にもちゃんと分かる。 思っていたことが、とす黒い塊になって吐き出されていくのを、 5 : 治んねえよ」

2. オレンジ色の希望の光

「うつ」 水をかきわけていた肩が、突然痛みを訴えた。今度は、先程御 子柴家の風呂になぜか着いてしまう前のように溺れはしなかっ たけれども、泳ぎ続けることは出来すに足をつく。ニ十五メート ルプールの、まだ真ん中あたりだった。 「大丈夫っすか」 プールサイドできらきらしていたはすの百太郎の目が、一瞬に して心配そうな色に変わる。 飛び込もうとするのを、大丈夫だ、と手で制す。ここて年下の 百太郎に助けに来られるのは、宗介のプライドが傷つく 痛む肩を押さえて、プールの端まで戻り、プールサイドに上が 上る。しつかり見るためか、百太郎が水から上がる。 飛び込み台は使えなかったので、一つ深呼吸をしてタイミング をはかって、プールの壁を蹴る。フォームを意識しながら、勢い よノ \ 水をか、た 「うわあ ! すげえ、山崎先輩速え ! 」 陸上で、歓声を上げる百太郎の声が遠くに聞こえる。無邪気な やつだな、と微笑ましくなった、その時。 る。不安そうな顔をした百太郎が、すぐに駆け寄ってきた。 「山崎先輩 : : : 肩、痛いんすか ? すげえ赤くなってるっす、俺、 俺事務員のおばちゃんに救急箱借りてくるっす ! 」 「落ち着け、御子柴。 ・ : 大丈夫だ」 考えてみれば、百太郎の所に来る前にも泳いでいて、肩の痛み を感じていたのだ。それまでいたところとはまったく違、つところ に辿り着いてしまったという驚きと、懐いてくる百太郎のために すっかり忘れていた。冷やしもしていなかったのだから、こうし てまた全力で泳いだりしたら、痛くなるのも当たり前だ ( 御子柴が喜ぶからって、ちょっと調子に乗っちまったな ) とう・にもしよう・かないのた。本、米な、ら、、冰がない方力い、こと はわかっている。それができない以上、今、この肩を相手に出来 ることは冷やすことくらいだ。 「ても、ても山崎先輩 : ・ : こ しかし、百太郎は心配そうな顔て、ぎゅっと宗介の左手を握っ ている。まるで、自分が痛みを抱えているようた。 「大丈夫だ」 本当はその頭をがしがしと撫でてやりたいか、左手は百太郎に 握、られているし、今は右肩を動かしたくない 仕方なく、握られ -4

3. オレンジ色の希望の光

よくからかわれるのだろう。ぶすっと唇を尖らせてみせたもの中学に上がったばかりといったところか。その年で年上への礼儀 の、少年ーー・・・御子柴百太郎は、すぐに気を取り直して、宗介にも を弟に教え込んでいるとは、大した兄だ、と感心する。 名前尋ねた。警戒心など、欠片もない 「んーと、じゃあ、兄ちゃんのことはなんて呼べばいいんすか ? 」 ( こいっ : : : 大丈夫か ? ) きやっきやと嬉しそうに兄自慢をしていた百太郎だが、そうだ、 自分が怪しい者ではない・ と思い出したとい、つよ、つに、 : と自分で、言っても説得力はない こてんと首を傾げた。 「あ ? か、少なくとも宗介自身としては何か悪い目的を持ってここに、 : そうだな」 るわけではないからいいものの、普段からこんな様子なのか、と 宗介としては、呼び捨てだったから思わず突っ込んだだけで、 少々心配になる。 別に特にこ、フ呼んでほし、 というような呼び方があるわけでも 、、 0 「俺は、山崎宗介だ」 「そーすけ ? 」 「呼び捨てじゃなかったらなんでも、 、いカら、好きに呼べ」 ちょっと舌っ足らすに名前を呼ばれ、くすぐったい気持ちにな 面倒く癶、くなってそ、つ宀一 0 、つと、百太郎はしば、らく唸ってか、ら、 る。それを隠すように、宗介は百太郎の頭を軽く小突いた 「じゃあ、宗兄ちゃんって呼ぶっすね ! 」 「俺の方が年上なんだから、呼び捨てにすんじゃねえよ」 と、再び瞳をきらめかせた んん、でもそうっすね ! 兄ちゃんにも年上の人に失 だが、先程まで全力の尊敬を込めて語られていた百太郎の兄と、 礼なことすんなって言われてるし ! 」 同じ呼称で呼ばれるのは、どうもくすぐったくて仕方が無い 「兄ちゃん ? 兄ちゃんいるのか」 いや、山崎先輩って呼んどけ」 なんでもい、 「兄ちゃんはめっちやすげえんすよ ! 俺よりニ歳上だけど、す って言ったのに、わかままっす ! 」 げえ泳ぐの速いし、かっこいいんす ! 」 「いいから、年上の言うことは聞いておけ」 百太郎とニ歳違うということは、今小学校高学年か、あるいは 「ちえつ。じゃあ山崎先輩って呼ぶっす」