りて各々共の眞善美を進化せしめ、共の進化せる中の最も眞なる善なる美なる者が最も眞なる善なる美なる異性を 得て共の眞善美を子孫に遺傳し以て社會の理想を實現すべし。印ち廣き意味に於ける天才の世なり、天の眞なる個 是に至っては 性、天の善なる個性、天の美なる個性は、戀愛の中心となりて全社會の崇敬を集むるの世なり。 社會主義の極致にして個人主義の理想と抱合す。 個人主義の大潮流は羅馬法王の絶對無限權を排除し思想の自由を呼號することによりて流れ始めたり。社會の一 分子たるに過ぎざる羅馬法王が他の凡ての分子の上に眞と善との決定權を有すべからざるは論なく、 一派の學説た 個人主義の高貴なる理る「國體論』が個性の自由なる發展を壓伏して、思想界の上に羅馬法王として共の眞とし 想と高有進化の大權善とする所を強制するの權なきは亦論なく、『輻神』が共の醜くき手を延べて男女の間を 離合せしむるの結びのとして、美の判決をなすの權力は亦實に何者よりも許容すべからず。凡ての進化は生存競 爭なり。生存競爭の決定權は萬有進化の大權にして基督と雖も有すべからず。如何なる者が善として、眞として、 美として生存するやは社會全分子の多數決によるの外なく、而して一時代の多數決は共時代の眞善美に過ぎずと堆 も、次ぎの時代は更に次ぎの時代の多數決を以て眞善美を決定すべく、而して多數決の最も多數にして僞りなき投 票は、議會の討論にあらず新聞紙の輿論に非らず、又直接立法に非らず、社會の全分子を擧れる男女の理想とさる ゝ所なり。只、今日の社會は階級的暦をなせるが爲に戀の理想は宿六となり長芋となり藝妓となり察向ける鼻の令 夫人となりて甚しく低級の者なりと雖も、社會の進化と共に理想は進化し、階級の掃蕩と共に理想は廣き高き者と 若を男女の握れる手と手は羅馬なるべし。社會の全分子たる男女に平等の物質的保護と自由の精禪的開發が擴張 法王の絶對無限權を有すべしするの時、 ーー、、若き男女の握れる手と手は羅馬法王の絶對無限權を有すべし。是 れ個人の絶對的自由の世に非らずや。社會の一分子たる法王若しくは皇帝の一意志によりて眞善美の決定さるゝに 怒りて起てる個人主義なる者、寧ろ社會主義の實現によりて共の理想を實現せらるべし。故に吾人は個人主義者を 社會主義と個人主排せず、又個人主義の思想を繼承して社會主義者と稱しつゝある今の社會革命家の多くを排せ 義との理想の合致ず。個人と社會とは小個體たる點より見たると大個體たる點より見たるとの立脚地の相違にし 180
は多く田園を營みて驗黎の屈菜を防ぐ。自以來國司等第田の外に更に水田を營むことを得ず、父私かに貪ぼりて 開墾し百姓農業の地を侵すことを得ず」と令し、又弘仁 = 一年には「諸國司の公癬田の外に水陸の田を營むは記 限せり。然るに諸國司朝憲に從はず、専ら私利を求め百端好欺少しも懲革することなし。或は他人の名を借りて多 く墾田を買ひ或は言を天臣に托して爭ひて展地を占む。民の業を失ふこと是れに依らざるはなし」と令したる如き に見よ。斯くの如くにして國司なるものは漸時に大なる私有地を有するに至って公民國家の據て立つべき經濟的源 泉が枯渇し、延喜天暦の賢良なる君主等が理想の夢より下界を顧みて下民の情を問ひし時には實に租税の皆無にし て大藏省の前に草が生じ居たるほどなりしなり。斯くて皇室は理想的國家の夢想に失敗して經濟的要求の餘儀なき 後の天皇皆天智の理想を必要の爲めに、若しくは天智の死と共に高遠なる理想を解せざる多くの君主が佛敎の惑 章 打ち消して家長國となる溺の爲に、金銀米穀を以て富有なる土豪に國司を賣り、艾國司を再任するに至りて皇室 十自ら公民國家の理想を打ち消したり。印ち國家の利益と目的との爲めに行動せし天皇は天智の死と共に去りて、天 第皇の利己心の爲めに國土及び人民を財産として取扱ひ國家が天皇の爲めに手段として存する所の家長國となれり。 義而してその始めには天皇は最上の強者とし共の地方の土地と人民との上に家長として天皇一人が國家の所有者なり 命き。而しながら斯くの如にして土着せる國司、強大になれる土豪は社會の進化と共にその強大を加〈て後年の源平 的となり群雄となり諸侯となり、家長國の潮流は滔々として維新の革命に至るまでの貴族國時代となれり。彼の君主 復經濟的基礎を失へる中世史の天皇は單國時代の牛よりして天下の大半を私有せる藤原氏あり、諸皇子餓ゑて天皇よ 論に理想國を理想しつゝありしに過ぎずり米穀を與へられたりと云ふに至りては如何に皇室が後の家長君主として抗 國爭すべき經濟的基礎を失へるかを見るべく、從て理想國の上に唯一最高機關として起たんことを夢みたりし天皇の 第甚だ微弱にして常に抑壓せられ、理想が單に理想たるの外なかりしは社會の進化として當然なり。否 ! 經濟的基 礎に於てのみ大化の公民國家が一場の夢想的計晝なりしのみならず、共の政治的組織に至っては純然たる階級國家 四 大化革命の政治的組織はなりと云ふの外なし。天武天皇は萬姓を混同して八色の姓を賜ひ、大なる氏の氏長には 問純然たる階級國家なり大刀を、小なる氏の氏長には小刀を賜ひたる如き明かに家長制度の繼承にして、氏に
以上の歸結は下の如くなる。 今の生物進化論は凡て悉く共力を極めて排繋したる天地創造詭を先人思想として生物進化の事實を解釋しつゝあ 以上の歸結は今の生物進化論は凡て悉くその力を極めて排鑿したる者なりと云ふと。印ち人類は天地の始めより個々 る天地創造説を先入思想として生物進化の事實を解釋しつゝありに存在せりと云ふ個人主義の思想によりて個體の觀 念を作り、一元よりアミー バの如く分裂せる大個體なりと云ふ社會單位の生存競爭を解せず、從て個人單位の生存 競爭たる雌雄競爭と共れの食物競爭との生物進化論に置ける地位を定むる能はずと云ふこと。人類を天地の結局ま で存在すべきものなるかの如く考へて生物種屬の階級に於て人類の占むべき地位を解せず、從て理想の實現せられ て人類より上級の生物が人類に代りて地球に存在すべしと云ふ生物今後の進化を推論する能はずと云ふこと。而し て人類今後の進化によりて天國が地球に來ると云ふ科學的宗敎に到達せざるは、亦等しく天地創造詭の宗敎を先入 思想とするが故なりと云ふこと。 宇宙目的論の哲學と生物進化論の科學とは鉉に始めて合實に、社會哲學は人類社會と云ふ一生物種屬の生存進化の 致し相互に歸納となり演繹となりて科學的宗敎となる理法と理想とを論ずるものなるを以て、當然に生物進化論の 卷末の一章としての社會進化論として論ぜらるべし。而して字宙目的論の哲學と生物進化論の科學とはに始めて 合致し、相互に歸納となり演繹となりて科學的宗敎となる。只、吾人々類は相對的存在の生物種屬なるが故に、共 「類祚人』の一語は生れによりて見られたる字宙、考へられたる目的は之を字宙の大より見るときは相對的理想 物進化論の結論なり たるに過ぎずと雖も人類として生存しつゝある間は『訷類」が絶對的理想なり。 故に吾人は生物進化類に『類耐人』の一語なくしては結論なしと云ふ。 共の次ぎの章は固より「訷類』の筆執るべきことなり。 206
て國家主權の公民國家を未だゲルマン文明人の祖先が暗黑なる中世史の初期に入りし時代に於て建設せんと夢想し 大化革命後の八たりし所以の者は、族制々度と祖先敎とを以ては佛敎の蘇我族に壓伏されんとしたる如く社會の 九十年問 進化し新宗敎の來れる當時に於て皇室の基礎たる能はざるを看取したるが爲めなり。茲に於て天 皇は蘇我氏覆の凱歌を終ると共に、天皇を以て國家最高の機關として全人民全國土の上に支配すべき理想を表白 したり。 ( 大化革命の理想の實現につきては後の維新革命を論じたる所を見よ。儒敎は世俗の所謂民主々義に非ず、 「社會主義の啓蒙運動』を見よ。 ) 斯くの如くして皇室が天智の明哲によりて全國民の上に國家機關の理想を以て臨 みたる者實に八九十年間なりき。而しながら基礎なくして建築は成る者に非ず、理想は遠き昔に掲げらるゝ恰も プラトーのレバブリックの如くなりと雖も實現は皆永き進化の後に於て得らる。當時の國家主權の國體と國家の最 高機關たる天皇とは天智の如き明哲なる人物に於てのみ理想さるべく、共後砠先敎の代りに佛敎を國敎とするが如 きとありて儒敎の理想と全く背馳し從て國家機關の理想は先づ朝廷の手によりて破壞せられ念佛と題目とが政事と なるに至りて大化の理想的國家は理想家の死と共に葬られたり。佛寺伽藍の建立、侶比丘尼の遊民の增殖等によ 家長國に於ける財産りて租税と皇室の私有財産とにて足らず、弦に統治權を皇室自家の利益の爲に行使し官職を 權としての統治權賣買して國家機關たる天皇は國家を自己の目的の下に存すとする家長君主となり、共賣官制 度によりて國家の機關たりし國司は再三同地に任ぜられて土着し、在來の土豪の外に多くの土地人民を所有し後世 の群雄割據となり封建制度となるべき家長國の萠芽を作りつゝ始まるに至れり。印ち、大化革命の主謀者が世を去 ると共に皇室は統治權を自己の目的と利との爲に存する所有權と考へて、土地及び人民を統治して得べき利益を 獻金なる名に於て渡し、獻金を以て國司たりし土豪等は購買したる統治權を以て土地人民を自己の目的と利益と 故に當時の天皇の文字の内容は最も多くの土地と人民を有する強 の爲に所有物として處分するに至りしなり。 大なる家長なりと知るべし。此統治者が國家の目的と利益との爲に存せず自己の財産權の行使として統治權を行使 したる時代なりしが爲に、藤原氏は自己の利谷の爲めに統治權を行使すべき後見人を爭ひて所謂藤原氏專制時代を 生じたるなり。穗積博士等の復古的革命主義者が夢想すゑ天皇が國土及び人民の所有者にして統治權を天皇の財
己をより善くより美にして永ぎ侖たる子孫を進化せしむと云ふよりも、單に永き侖たる子孫が共の命を維すれば 足るとして各々の理想とする所の男若しくは女を撰擇することを第二に置くが故に、共の子孫は自己よりも進化す る能はずして理想の實現たるべき子孫は單に現實の繼承者たるに過ぎざるなり。否、理想の男と云ひ理想の女と云 ふは今日全く經濟的優者たるなり。印ち理想の内容には光輝ある物質を以て充塞せらる。天下の男と女とは黄金を 持てること共事が天下の女と男とに理想の戀人として戀せらるゝなり。社會の進化に一の不合理なることなし。人 社會の進化と戀類種屬が種屬の維持進化の爲めに腕力に訴へて生存競爭を爲せる初期に於ては、腕力の優れたる 愛の理想の進化者が社會の維持進化に最も利益ありしを以て同時に雌雄競爭の優勝者となり、共の時代の女子は 最も剛健克く鬪ふものを理想として戀し、共の理想の男子が亦共の當時に於ける理想の女を撰擇して、弦に社會の 中に於て最も理想に近き男女の結合を得、共の子孫が社會の中に於ける最も理想的なる共等の遺傅を受けて剛健克 く鬪ふものとなり、以て社會の理想を實現しつゝ進み來れり。而して今日は腕力による経濟戦爭にあらずして勞働 若しくは智識を以てする經濟戰爭なり。故に腕力を以て他の經濟物を掠奪する者は刑罰に問はるゝと共に離婚請求 こよりて經濟的優者たるもの の理由たるほどに雌雄競爭の敗者として理想の内容を全く一變し、勞働若しくは智識。 を愛の理想となすに至れり。社會の進化とは経濟的進化なり、故に勞働若しくは智識を以て經濟的優者たるものを 雌雄競爭の理想としつゝあることは、懶惰なる若しくは魯鈍なる分子を淘汰し最もよく勞働し最も多く智識あるも のが子孫を得、共の子孫が社會の中に於ける最も理想的なる共等の遺傅を受けて最もよく勞働し最も多く智識ある 而しながら誤解すべからず、 ものとなり、以て社會の理想を實現して社會の経濟的進化を來しつゝ進み來れり。 瓧會の進化は純然たる段落を劃せらるべきものにあらず。今日の勞働と智識とを以てする經濟的優者は尚腕力に訴 へたる生存競爭時代の思想を繼承して共の勞働と智識とは全く經濟的資料たる所の他種屬の上に向はずして同族間 の、印ち吾人同胞間の鬪爭に用ひられつゝあるなり。印ち第一編の『社會主義の經濟的正義」に於て述べたる經濟 現今の戀愛の理的戰國と云ふもの是れにして、上階級の用ふる智識と下階級の絞らるゝ勞働とは全く他の共 等の智識と勞働とを打消さんが爲めに過ぎざるなり。此の殘虐醜なる經濟的戰國に於ては個人 136
彼等の病みて路儚に呻吟するを恰も頑童の湖邊に打ち上げられたる猫の死骸を見んとして集まる如く彼等の周圍に 繞ぐりて憐憫と好奇の面貌とを以て眺めつゝあるは屡々見る所なり。農夫の如きは土地と共に賣買せらる。羅馬人 の所謂「話し得る農具』なり、中世史の土百姓農奴なり。而して此の奴隷の繁殖は廉價なる黄色奴隷として海外に 輸出せらる。彼の國法の保護の下に立てる移民會社なるもの、一個嚴然たる奴隷貿易商人にあらずして何ぞ。 貧困の原因は近世文明にあらず機械工業にあらず、實にこの經濟的貴族國の故なり。 ( 貴族國、家長君主、奴隷制度 等の法理的一意義及び歴史的説明につきては更に第四編の「所謂國體論の復古的革命主義』及び第五編『社會主義の 啓蒙運動』を見よ ) 。 個人主義の舊派然るに解すべからざることは、嘗て貴族國の貴族政治と奴隷制度とを顛覆したる個人主義が、 經濟學 今や却て此の新形式の貴族政治と奴隷制度とを辯護して經濟的貴族國の維持に努力しつゝあるこ となり。是れ燦爛たる國家の被布に眩惑して内容の醜怪なるを忘却せる、所謂舊派經濟學なるものなり。 章 一社會主義は固より個人主義と根本の思想に於て相納れざるものなりと雖も、個人主義の理想が如何に文明史の潮 流を指導して流れつゝありしかを考ふるならば個人主義の奪嚴なる意義につきて決して不注一意なるべからず。人類 正の歴史が進化の斷崖に漲り落ちんとせる時、印ち過去の革命は常に個人主義の名に於てせられたりき。ルーテルが 羅馬法王の權力に對して思想の自由を呼びて起ちしより、佛蘭西國民が天賦の平等を論じてマルセーユ城に突貫せ の個人主義の發展しに至るまで個人主義は實に革命思想の源泉なりき。これ理由あるとなり。個人主義は之を説明 義と歴史の進化の理論としては誠に一の臆詭に過ぎずと雖も、理想として考ふるならば、或る高貴なるものを有 會す。社會の組織は自由の活動を理想とすることに於て進化すべく人類の幸は萬人の平等を理想として逵せらるべ し。今日の野蠻人は如何にすとも數百千年來の奇異殘忍なる舊慣を脱する能はずして、個人は唯その奇異なる習慣 壹や殘忍なる迷信の犧牲として生るゝかの如し。老いたる父母を殺して饗宴する習慣も幼兄を捕へて猛獸に供ふる迷 信も、共の一たび古來よりの習慣とさるゝや個人は一の疑ふことをだに得ざるなり。故に彼等は幾萬年を經たるべ
大臣責任論を充してビ = ロー伯の名が甚だびゅろうたる共れの音響に似たるが故に外交の失策と等しく内閣大臣 問題は何が故に脱糞放屁を恥辱の放屁たる可と雖も、問題は何が故に獨乙皇帝自身が共の責任を負擔するを囘避 と感ずるかの理由の根本に存すして禪聖不可侵權を振ふかに在り。又、この書が御婦人諸君の手に上りたる時社 會主義者にもあるまじき女權の蹂躙なりとして攻繋さるべし。而しながら問題は女權論を主張する所の女學生等が 共口に送る燒芋は憚らず之を横町に求むるに係らず海老茶袴とやらんを掲げてのポテトーは嘗て解せざるかの如き 眺めを以て大道を濶歩するこの理由に在り。西洋の貴婦人が便所に出入するは親子兄弟の間にも知れざる一個の祕 密なりと云ふ、問題は何が故に祕密にせざる可らざるかの理由に在り。吾人が斯る問題に筆を染めたるは醫學者が 共の指頭を以て糞尿を攪亂するが如く科學的研究として些の恥辱に非らず。而しながら間題は何が故に糞尿を恥辱 となしつゝあるかの人類の現實に在り。而して共の恥辱と感ずる程度の小兄よりも成人に甚しく、野蠻人よりも文 明人に甚しき感情の進化に在り。吾人は斷言す、是れ理想に對して現實の到らざるを、印ち高き現實を望みて未だ 更に其れを恥辱すること小兒よりも大人に野蠻人低き現實を脱却する能はざるよりの感情なりと。目的論の哲學と 章 よりも文明人に甚しきに感情の進化が問題なり 八 生物進化論とはこの感情に詭明を與ふ。人類は進化的生物なり、 理想に到達せんとする目的の爲めに常に現實を脱却せんと努力して止まざる字宙の顯現なり。若し字宙にして進化 哲の目的無く、人類にして進化的生物に非らずとせば、決して排泄作用をなさざる所の祚若くは天女を理想に畫くべき 社目的論の哲學と生物進理由なく、從て共の理想と現實との甚しく懸隔せる脱糞放屁を恥づるの理由なし。恥辱の 化論は凡ての説明なり感情は理想に對照されたる現實の不滿なり。吾人は自己の道德につきて無數の恥辱を感じ こっきて無限の恥辱を感ず。印ち吾人が共善ならざるを恥辱とし眞ならざるを恥辱とするは、共の道德 進自己の智識こ 的理想若しくは智識的理想に對照して、共の遙かに及ばざる不善無智の現實を恥づるなり。吾人がソクラテスを 理想とする時共の哲學史の源泉をなせる眞と毒盃の全身に廻はるまで靈魂の不死を論きし善とに對照して誠に至ら 參凡て眞善美に係はる恥辱の感情は理ざる現實を恥づ。吾人がワシントンを思ひリンコルンを思ふときに共善を理想 想に對照されたる現の不滿なりとして到らざる現實を恥ち、マークスを思ひル 1 ソーを思ふときに共眞を理想 1 一口
家庭、近隣等にして漸時に學校となり、社會となり、書籍となり、古今の人物となり、世界の思想となる。而して 是等先在の理想にして荷足らずとせられ更に一の高き對象を求むるに至るや、弦に共の己に模倣して得たる先在 の材料を基礎として、各個人の特質を以て更に高き者を内心に構造し、構造せられたる理想を模倣することにより て到達を努力す。此の特質と共の構造せられたるものゝ高貴偉大なる者が加ち英雄なり。故に史上に足跡を殘した る英雄は共の特質に於て偉大高貴なる者ありしと雖も、共の特質を發揮せしむる基礎として材料を供給する社會的 境遇に於て幸運なりしものならざるべからず。古今英雄の傳詭は凡て之を證す。彼の戦陣の英雄が血痕の附着せる 搖籃中に眠り、革命の英雄が旋風前の陰暗なる黑雲中に産聲を擧げし如き是れなり。山河に悠遊することによりて 詩人西行あり、石山寺の月を眺めて源氏物語は書かる。超然内閣と盲從議會とを以てはグラッドストーンの雄辯は 産れず。デ = ファ 1 ソンの獨立宜言書は國體論の材料を組立てゝ書かれたるものにあらず。人は只社會によりての み人となる。吾人の如き明白なる野蠻人は今日の如き野蠻部落の如き未開なる社會組織を脱する能はざるが故に斯 現今の人は凡て狼のる野蠻人となれるなり。今日社會の大多數は獨乙の森林に發見せられし如く、蒸氣と電気と 四手に養はれつ、ありを有する大都會の中央に於て實に獸類の手に養はれつゝあることを氣附かざるか。地主資本 家階級の社會に見よ、訷の如き發展を爲し得べき人類として生れたる嬰兒は、先づ模倣すべき對象として眼前に現 はるゝ者は實に狼の如く殘忍に狒々の如く好蕩なる父、四圍の迎合訶諛の爲めに絹服の豚に過ぎざる令夫人と稱せ 理らるの母あり、嬉戲の間に模倣すべき封象としては便侫隱險なる乳母、靡野卑なる僕婢、兢々として命是れ從ふ の出入の子女のみ。斯くのごとき不幸なる境遇に人となれる彼等が、共の等しく人と云ふに係らず喰人族のごとき良 心を有する人として作らるゝは何の怪しむべきことかあらむ。下の貧民階級に至りては全く狼の手によりて狼と 會して養はる。狼のごとく四を以て匍匐するとは敎、られざるも作進退悉く獸類なり。爪を以て掻き牙を以て嚼 むことは學ばざるも小兒間の爭鬪が狼の父母によりて多く歡迎さるゝことは事實なり。此の鬼として睥睨する山 貳の訷が模倣の理想として白紙の如き心情の奥に投射さるゝ時、べ一フンメーとして息卷く宿六が酒氣を吐きて蠑螺の 如き鐵拳を未だ形成されざる次白質の頭腦に加ふる時、共の子女が長じて黑奴の如き良心を有すると何の疑かある。
だっーー・現實と理想ーー卞等生物にては食物競爭の優者が同哮に雌雄競爭の優勝者たる 者多しーー入類に於て食物競爭の優勝者が雄雌競爭の優勝者たる過去及び現在ーーー臀下の 權利と男色奴隷ーー・積極的亶の男子階級ーー女子を購買するの權利と男子を購買するの 貧富同權論と云ふのみ 自由 : ー・男女同權論は私有財産制と共に實現せられたり 「」が結びの祺となれり 雌雄競爭によりて理想を實現すと云ふ理由ーー雌雄同數 ならざる下等動物の雌雄競爭と同數なる人類の進化ーー・家庭單位の食物競爭と理想の實現 に非らずして單に現實の承に止まる , ーー社會の進化と戀愛の理想の進化 , ーー現今の戀愛 の理想ーー理想の爲めに現實を犧牲とする下等生物ーー戀愛の理想の進化と自由戀愛論 舊思想の壓遉を排除すとの意味に於てする自由戀愛論ーー戀愛の自由は先天的に非ら ずーー・社會主義の自由戀愛論は革命の爲めに唱へらるーー詩人の直覺せる僥と戀の二大鉞 槌ーー戀の要求の最も充たされざる蟻蜂の社會 , ーー・全分子戀愛を要求する人類は全分子理 戀愛と平等主義 , ーー悲慘なる家庭論ーー金井博士の家庭論よりする 想を有する故なり 一般階級には再 社會主義の非難ーー私有財産制度は民主々義を確立し女子を開放せり 個人主義時代の男女 自由戀愛論と女權間題とは無關係なり び私有財産なくなれり 同權論の誤謬を纊承する所謂社會主義者ーー分化的進化をなせる個人としての男子と女子 とは同等にあらずーー自由戀愛論とは社會の全分子たる男女の理想とする所を自由に實現 經濟上の獨立による して社會を進化せしめんとする戀愛方面に於ける自由平等論なり 戀愛の自由 , ーー女學生の墮落とは女子の經濟的獨立による貞順の奴隷的義務の拒絶なり 鉉に於て當然の疑問は起らん。社會主義の世に於ては死刑による淘汰なく、腕力による淘汰、經濟上の競爭によ る淘汰なく、國家間人種間の戦爭による淘汰なし。然るを如何そ生存競爭によりて淘汰さるべき劣敗者と云ふやと。 社會主義の世に於て誠に然り、社會主義は社會の一分子たる個人の手に萬有進化の大權を掌握せしめ等しく分 固より生存競爭あり子たる所の他の個人の權威を蹂躙するの甚しき死刑淘汰の如き社會の進化を阻害する生存競 爭を廢滅せしめんとする者なり。高荷なる理想の實現に向って努力しつゝある經過的生物として食物競爭の爲めに 126
化と云ふ。故に日く進化とは理想實現の聯績なりと。善の理想を實現する今後の方法は社會民主々義にあり。眞の理 想を實現する今後の方法は社會民主々義にあり。美の理想を實現する今後の方法も亦社會民主々義にあり。天則に 物質文明を讃美不用と誤謬なし。君主國時代も、貴族國時代も、民主國時代も、資本家制度の今日も、私有財産 せん 制度の現代も、貧困も犯罪も貪慾も殘忍も、天下一切のことを擧げて社會進化の理想の努力なり。 彼の遠き昔の二元論の思想を繼承して科學を罵り物質文明を罵るが如きは訷の美の宗敎的要求の一面のみに於ても、 食物の化學的調合によりて達せらるべきを解せざるが故なり。物質精訷一にして二ならず、天地萬有皆一體たり。 人類は交接作用人類は更に交接作用を止すべし。交接作用の言ふべからざる恥辱たるや排泄作用の共れより をも廢止すべしも甚し。凡ては目的論の哲學なり、凡ては生物進化論なり、彼の戀愛と肉慾とを二分して一を訷 の光明に置き一を動物慾として唾棄しつゝあるは共の解釋の二元論の外に出づる能はざるは止むを得ずとするも、 人類も 章戀愛と肉慾とを分離せんとする要求は人共の要求たる誠に人類の進化的生物たるより發する理想なり。 八 類の進化的生物たるより發する理想なり蠍に至っては誠に以て祚の座に指頭を觸れたる者なるかな。おゝ眼前に見 ゆる訷よ ! 不幸にして未だ今日の科學は吾人に充分の基礎を供給せず。吾人は科學的研究者の態度を忘却して徒ら 哲に雲間の御姿に手を延べて裾を引かんとする者に非らず。二元論の基礎を爲せる有機物無機物の差別が科學の進 社化によりて無くなれりとするも、又科學者の或る者が無機物より有機物を作り艾全く生きたる生物を作りしとする も、吾人は直ちに訷が共の肋骨の一片を取りて人を作りしと云ふ訷話の事實となるの時來れりと 佐一元論の化學 は斷言せず。ーー然しながら來るべきことを待望す。生物學の範圍内に推論を止めて生殖の方法 物が如何に異なれるかを見よ。兩性抱擁の醜怪なる方法は凡ての生物の生殖行爲にあらず。魚類の多くは ( 或者を 編凡ての生物は兩性抱擁除きて ) 雌の卵の上に雄の精蟲を振りかくゑとなり。人類は何が故に異性の體内に於て精 參の生殖方法に限らず蟲を振り掛けざるべからざるか。人類は何が故に九ヶ月間を母體に送らざるべからざるか。 8