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検索対象: 北一輝著作集 2
439件見つかりました。

1. 北一輝著作集 2

一斑の露出に過ぎず。而も革命の支那が如何に近代的政治組織と財政組織とを建設すべき氣運に充實し、亦眞個革 命的指導者等が其氣運に鞭って起たんとするの意氣信念を見るべし。『革命」が日英の講和干渉によりて暫らく篁 叢の間に隱れたるが故に、世人は黄の一斑譚の一斑を暼見して未だ財政革命の全貌を見るの機に至らざるのみ。若 し依然たる愚呆と驕慢とが通俗的斷見を挾んで、破壞は可なり此等の一二を以て建設を能くすべからずと言ふが如 きとあらば、彼等革命黨はルソーと西鄕とに辯護人を得べし。ルソーは具體的成案として奢侈税と進級税との笑ふ べき二者を有せしのみ。西鄕は征討將軍として江戸に入りし時も荷版籍沒收に對する後年の大々的掠奪を口外せざ りき。而かも佛蘭西と日本と、革命生起後數年にして共に當然の結果たる革命本來の目的を成就したり。支那の事 將に今後に存す。斯る通俗的斷見を以て譚を論じ黄を評するは、支那民族がルソーの國民、西鄕の國民よりも優等 人種なりといふ笑ふべき假定の上に立つ者と云はざるべからず。而して艾、彼の統計的數字に基きて支那の財政を 甲乙する學者吏僚の如き共の實は盜賊の計算書に依りて收支を考へんとする者、共の愚亦及ぶべからず。支那は財 政精訷の革命を要して數字を求めず。古今東西統計表を抱きて革命したる者なし。革命とは政治的方面に於て然る 、財政的經濟的一切の社會的組織に對して只一の暗中飛躍あるのみ。中世的暗黑の中一點微かなる近代的曙光 治を望んで飛躍するーー之を佛蘭西革命といひ、維新革命といひ、然り而して現時の支那革命といふ。 127

2. 北一輝著作集 2

共代表者の覆沒とは、支那が積弱割亡の禍根を芟除して能く一國として存立し得るや否やを決せんが爲めの革命に 史 則ち排滿は興漢の豫備運動にして、微少なる袁孫の交迭を一意味せず。 外 命此の將來の觀測は袁が皇帝たることによりて動亂生ぜざるやの警告を發したる日本及び列強に對して、袁が能く 那 忠實なる大總統たるも荷平和を維持し得べきやの反問となるものなり。是に對して然りと答ふるものあらば是れ袁 支世凱の人物を超人的に解するものにして敬遠爭はざるを可とす。而して多くの一般的皮相觀は支那に騷動は止むを 得ずといふ程に笑過し去る。而も隣國の治亂に休戚の責任ある諸公は斯る無智を粉飾する放言に安ずる能はざるべ し。實に今の皇帝計畫に支那の涙を呑むで服する所以は國家存立の爲めに動亂を避けんとする眞卒なる憂惧より出 づるもの。袁を擁するの計畫者等が割亡を免かるべく永久の統一を要すとして袁を以て彌縫せんとするは動機の同 情すべき妄動と解すべからざるか。固より憐むべき彌縫にして容すべからざる妄動なるは論なし。而して要するに 袁が皇帝たるにせよたらざるにせよ、今後支那に革命亂の免かるべからずとせば是に對する朝野諸公の態度は豫じ め今の時に於て定むべきものなるに似たり。而も奈何せん第一革命當時に於ける朝野擧りての無理解が日本自身の 爲めにも隣國の爲めにも無數無限の遺憾を殘したる前例に鑒みて密かに僣越なる憂惧を抱かざるを得ざることを。 依て不肯は諸公が將來を觀、將來に處するに一失なからんが爲めに、如何に過去の革命運動の觀察を謬まり處すべ き所以の途に踏み迷ひたるかの反省を請はんとしてに運動の經過せる跡を略論せんと欲す。これ前述の革命思想 觀が不省一個の見解に止まる如く、一外國人たる不肖自身の實見し得たる狹き範圍に於ける運動の見解に過ぎず、 而しながら不肯の革命黨に於ける祕密結社時代の立場と、革命亂中は共一中樞人物たりし故宋敎仁君と相携、て長 江を上下し親しく離合集散の勢を視、全く渦中の人として南京政府の成立し崩壞せるを眺めたることゝによりて、 外國人としての過誤なき便宜を有するものなり。若し諸公の知る所にして並に語る所と異なるものあらば、そは悉 く支那通等の遊侠的誇榮より出でし虚僞か吏僚等の卓上觀察による誤謬なり。此の範圍に於ける不省の斂述は多く 正當なりとすべし。 不省はに革命運動の跡を囘顧するに當りて先づ支那輕侮觀者と着眼點を異にするを前置きせざるを能はず。彼

3. 北一輝著作集 2

った。是れ英國人自身のカーラ一イルによりてクロムエルの泥が洗はれたよりも恥かしき逆賊である。大西鄕亦足利 奪氏でよろしい。彼の銅像は圖々しくも彼れを亂刺したプルタス共によりて築かれた。而して今や忠臣藏のお化け の如く上野の森に迷って居る。 あゝ「支那革命外史』に萬言を列ねて而して求むる所の者は何そ。不竹は歴史 を書く爲めに生れては來ない。彼等と共に書かるべき運命の波に投げ込まれて居る。恰も賴山陽の日本外史が日本 の歴史的記録に非ざるが如し。 『ヴェルサイユ會議に對する最高判決」の全部的適中によりて不省を賣ト者の如く取扱ふことに不可なし。而も 是れを以て過去の者と看じ去るならば此の憐むべき賣ト者を遇する所以ではない。三年の前に、道理を卦とし事實 を筮竹として下した斷案が今日に至て世界的現實として表はれたならば、未だ現實に現はれて來ない部分の斷案は 更に三年の今後を指示する者でないか。 英米の割裂。延ひて英米相屠るべき第二世界大戰の運命。共渦中に處 して印度の獨立と支那の自立とを負へる日本國自身の革命的大帝國の破壞及び建設。日の本の訷々は若き『明治 三世』の御見學の爲めに、日英同盟の屍骸を土左衞門の如くテームス河に浮き上げて指し示した、而してワシント ン會議がヴェルサイユ條約を葬むる會葬式である默示を、亦米國々務省に藏せる條約正文の盗失によりて全世界に 掲げ示した。耐々の照覽の下に敢て此言をなさん。 啻に此の一書簡のみでなく、此書全部が今や我が日本國の 進むべき唯一の對支策及び全部の對外策となったのである。若し此書の指示する所と反對に日本國を導く者あらば、 是れ三千年の歴史を亡ばすロマノフの廷臣でありカイゼルの臣僕である。 支那公使山座圓次郎氏と同參事官水野幸吉氏の遺影を書中に挾んで置いた理由につきては不省自身の語るべき限 りの者でない。歴史は沈默のまゝに流れて居ればよろしい。或は天、選ばれた者の手を借りて歴史の唇を引裂く日 もあらう。あゝ黑い血潮を吐いて前後任地に仆れた公等の道義的對支策を繼承すべき第二の公等は今何處にあるの だ。凡ての聰明の源泉である道念の人々こそ、公等の盡くるなき恨を噛み殺しつゝ洩し訟へて居る此の書の謎を解 き得るであらう。 さうだ。今日終に時機到來した日英間の袂別は公等の死を以て購ひ得たのであるか。支那と、 印度と、而して日本國自身の爲めに、日英戦爭の運命を憤叫して置いた此書こそ、今は公等の恨の爲にも公等の國

4. 北一輝著作集 2

しめんとする妖術の研究なり。諸公。現時の支那は或者の主張する近代的君主政治を建つべき『統こなく、又他の 史 者のカ詭する近代的共和政治を敷くべき『自由』なし。巳に存する者ならば將に求めんとする努力を要せず。苟も 外 命一國の革命として全國民が存亡を賭しての大努力を考察するに於て、由來日本の朝野は是れを理解すべく心事甚だ 敬虔を缺く。固より革命に當りては舊き統一的權力を批判し否定し打破し得る『思考の自由』と、共の自由思考を 支實行し得る程度にまで舊專制力の弛頽し了はれる「實行の自由』を要す。是れ社會的解體の意味に於ける自由なり。 從って革命とは自由を得んが爲めに來るものに非ずして、自由を與へられたるが故に起るものなりとも考へ得べし。 恰も佛蘭西革命に於て彼のミラボー等の貧乏貴族が貴族政治を批判し得る思考の自由と、共の思考の否定に基きて 是れを打破せんとする實行の自由とが、此等に對する抑壓力を失へるまでに舊權力の弛頽せし社會的解體の結果と して與へられたるが如し。是れ野蠻人及び動物の生れながらに有する本能的自由にして、ルソーは天賦の自由と命 名したり。而しながら此の天賦的本能の發動は佛蘭西革命を産めるものにして、佛蘭西革命より産れたるものに非 ず。印ち生物たる一意義に於て有すと言へる本能的放縱は中世組織の崩壞が産みしものなり。而して佛蘭西革命の育 成したる者は斯る自由を拘東し統制せんとする專制統一なりしことは事實の立證する所なり。「革命政府』が大殺 戮を以て自己に反對する者、自己を非議する者、自己を指す者の自由を蹂躙して、暴君逆主の専制を敢行したるを 見よ。是れ最も露骨に革命が自由を與へず専制を求むる者なりといふ原理を擧示す。革命政府が革命の目的を理解 せず、『國家の存立の爲めに我等は專制的統一を要す』と言ふことの代はりに、「自由の爲めに他の自由の蹂躙を敢 てす』といふ自殺論法に陷れるを以て此の原理に疑惑を生ずる者あるべし。然らば維新革命を見よ。王覇を辯じ得 る『思考の自由』と覇を倒して王を奉ずべしとする『實行の自由』とが、共の階級間に齒されざるほどの最下級武 士によりて現はれ、而して封建制の舊權力が是れを彈壓せんとして却て白晝大臣の頭を切り取られたる程度にまで 腐朽せし社會的解體なりき。所謂勤王無賴漢と稱せられし切取強盜の本能的自由を恣にすることを得て幕府を倒し たるもの、維新革命は自由を與へられたるが故に來れるものなり。而も明治大皇帝の革命政府は彼が如く自由の蹂 躙が自由なりといふ論法を取らず、明白に統一的專制の必要を掲げたり。而して革命の目的は一天子の權カ下に一 144

5. 北一輝著作集 2

馬たるべきの遙かに易きを敎ふ。支那を奪はんと欲せば須らく一個師團の陸兵と三隻の巡洋艦を以てすべし。白人 國の卑陋なる高利貸政策を學びて而も支那の信賴を要請するの矛盾は發狂せる亞細亞の盟主なり。亞細亞の安全の 爲めに支那と共に日本の擁護せざるべからざる經濟的利權の存するあらば至誠一貫堂々として支那と共に之を協る べし。資本的侵略に根立する英國の優越權を承認して而も夜盜の如く共の一角を窺兪するの附庸國は亞細亞モンロ ー主義の發言者たるべきものに非ず。露西亞の武力が支那を脅かせし時日露戰爭ありき。英國の資本が支那を半ば 亡國に陷れつゝある今日、日本は終に英國の隨伴より脱出する能はざるか。不肯は切に諸公の指導によりて日本の 支那保全主義が國家的正義に根據して更に英國の併呑に抗して徹底するに至らんことを祈る。 斯くの如き現實の理想に向って躍進しつゝある支那革命黨及び革命の遂行によりて兩國の國交に革命的進轉を期 待しつゝありし不省等は、身親しく英國の外交策内に局限驅使せられたる日本の墮弱卑屈なる行動を見て如何に失 望したるべきぞ。漢冶萍が白人國の分割を豫想したる債權の下に置かるゝが日本及び支那の危機なりとせば、誠 實聰明なる兩國の協定は支那の進で求むる所なるべし。經濟的分割を確定せんとする英國の所謂優越權を承認して 日本先づ自ら根本に於て共保全主義の不徹底を表白す。對支外交の眞一意保全に存するか分割に存するかゞ不肖等日 本國民自身に理解されずーー政府共者亦理解せざる如くにして而も獨り支那の不信を責めんとするや。保全主義が 俯仰訷明に恥ちざる正義に立脚して而して共故に漢冶萍が賣國階級の手に懸かりて白人國に占有さるべからずとな 凱らば正道自ら歴々として存す。何爲ぞ革命の血祭に擧げられたる盛宣懷と孫逸仙とを結合せしめて南京政府を覆す 食が如き革命援助の大恩を估りしか。私かに國を賣らんとするものに結べる日本は他の白人國と等しく國を買ひて侵 買略する者と解せらるべく、仰いで以て東洋の盟主となす能はざるは支那民族の狡獪なりとするか。保全主義を資本 使的侵略の排除に徹底せしめて英國の優越權を拒否したる後に於てせよ。日支兩國が兩國の必要に基きて如何なる協 公定を敢てすとも、爾が誤りて敵國となせる獨逸父なさんとする米國の贊同も亦難しとせざるべし。英國が共の同盟 國を傷くるに巧妙なる流言と術策を以てしたるとは斷じて許す可らざるは勿論なり。而も罪は印ち承認すべからざ 十 る彼の優越權を認めたる日本の無智にして卑屈なる外交に在り。四國の分割に結托せる盛宣懷の日本に擁護さるゝ

6. 北一輝著作集 2

呆と驕慢とは公に代はりて日本を統治し以て同族相食むの醜を萬世に殘すべし。あゝ天の命若し支那を救はんと 欲せば希くは彼等をして日本に亡命せしむること勿れ。日本と佛蘭西とが革命の道程に於て順逆難易殆ど天地の相 異ありし所以の者は、實に亡國階級等の國外逃亡の有無に存す。國際戰爭に於て奪とき數百萬の屍を砂上に横ふる ことも、國家の獨立に避くべからず。然らば革命の支那は亦等しく國家の存立の爲めに許容すべからざる犧牲の數 十萬人を吝むものにあらず。斷腸の涙を呑みて勳功第一の忠臣を討伐せざるを得ざりし明治大皇帝に顧みて魔界の 殘類を屠りて蒼生を塗表に救はんとする新統一者の折伏をぐること勿れ。或は身命と財産とを外國租借地に運び て保護を白人の國旗に求むる者あるべし。是れ嘗て佛蘭西の貴族が爲せしところ。日本は墺太利に學びて彼等の惡 を擁護せんが爲めに兵を進むるの不義を爲すべからず。或は東洋に實力を及ばす能はざる空虚なる租界地の權利な る者を無視すべし。千里の遠き本國に在る兵艦を指して威嚇する保護者を衝き飛ばして國權の發動を自由ならしむ べし。而して更に萬悪爲さゞるなき袁大總統を庇護し使嗾せる 0 〇〇〇〇のポケツを搜らずして止まんや。 地球の義人をして怒髮冠を衝かしむる大罪悪を祕めたるポケッよ。日本は日英同盟の誼によりて再び三たび共の印 度巡査となり團匪亂に兵を派せし如く、白人侵略者の生命財産を保護すべく同胞の血税を不義に絞らんとする如き ことあるべからず。彼等は固より官僚討伐の中道に於て列強と事を構ふることを好むものにあらず。外人の横暴に ぞ對しては或は暫くの間涙を呑みて忍辱することあるべきも、恐らくは維新革命後の拜跪屈從の如きものあらざらん。 而も中世的階級等が外國の國旗に保護を求むること絶えず、又列強これを倖ひとしこれを與みし易しとせば、必ず 政や佛蘭西の發狂に一變すべし。義和團匪の敗は荷ほ馬關の團匪が聯合艦隊に降伏せしが如きのみ。而も馬關團匪あ 共りて日露大戰ありしならば、彼等が佛蘭西的發狂に驅らるゝとき、小ポナバート將軍の出でて義和團匪をウォース テリツツの野に指揮することなしとせんや。日本は英國にあらず。日本を亡ばさんとする者は訷武帝の耐靈ありて 洋 日本の天啓的使命は一に唯支那をして佛蘭西革命の狂亂に驅らざるとにありとせずや。諸公。支 東處分すべし。 六那の革命が維新革命の跡を追ひ、而して維新革命と等しき中心人物を共の指導者と國民とが渇望しつゝあるならば、 焉ぞ利劍を持てる如來の降下せざるを保するものそ。而して更に諸公。斯る意味の中華民國大總統とは所謂投票耐 巧 7

7. 北一輝著作集 2

せんと欲す。 外而しながら是れ支那の革命が佛蘭西と等しき血を以てする中世史の破壞なりと云ふの謂ひのみ。自由の樂土は專 命制の流血を以て洗はずんば淸淨なる能はず。基督の愛と雖も我は平和を來す者に非ず刄を出さんが爲に來れりと宣 那布し、佛の宇宙大に滿つる大慈悲は道をぐる一切の者を粉碎せずんば止まず。ーー觀世音首を囘らせば則ち夜叉 支王。大海に浴るゝ慈悲の佛心を以て四億萬民の自由を擁護扶植せんとする者、焉んぞ是等を殘賊する暗黑時代の魔 群を折伏せずして止むべけんや。ロベスピールは多恨多涙の士。死刑を宣言する能はずとして判官を辭せし程の愛 を持てり。而も國民の自由が内亂外寇に包圍さるゝに至るや、巴里の斷頭臺に送る者一萬八千人、更に全國に渡り て死刑すべき者七十萬人を豫算せし夜又王に一變せり。奈翁は自由の熱狂兄。議會が反動的勢力の占據する所とな りし時、自由の爲めにクー・デ・ターを敢行するに自ら卒倒せし程の良心を持てり。而も彼れの史上に於ける價値 は全歐洲の自由の爲に他の中世的勢力を幾戰場に屠りたる流血の夜叉王たりしことに在り。明治大皇帝の佛心天の 如きは是れを言ふの要なし。而も國家の統一の爲めには最高の功臣大西鄕が過ちて錦旗に放ちし一羽翦を假借せざ りしほどの利劍を持てる彌陀如來なりき。諸公。佛と魔との相異は小我私心に立脚すると宇宙大に滿つる慈悲心よ り迸發するとの差なり。ロベスピールと奈翁とが後年權勢に狎れて魔界に落ちしは固より然り。而も或期間迄の 彼等は國民の自由を擁護せんが爲の殺戮者なりしを否む能はず。不省は弦に利劍を持てる彌陀如來が支那に降下 すべきや否やを豫言せず。袁と〇君と、小我私心に基く暗殺を行ひて心事行跡凡て魔鬼。實に今の支那が鬼類魔群 の世界なるは論なし。然ながら天地循環の理によりて夜の終ると共に曉を見、中世史の暗黑時代に亞ぎて近代國 家の白日を仰ぎたる事實は、獨り將に暗黑時代を終はらんとする支那に類推する能はずと云ふや。日本の中世史が 封建の暗黑に堪へずして自由と統一の中樞を二千五百年來の法燈に渇仰するに至るや、如來は終に明治大皇帝に權 化して救濟の爲の折伏を賜へり。支那の萬人口を揃へて曰く、今の吾人は唯英雄の出現を待望する耳と。英雄の文 字を現代の墮落せる解詭によらず、如來の使なりといふ本義に於て理解し、少くもカー一フィルの祚人を意味する者 とせよ。今の支那は明かに救濟の爲の折伏を渇仰する者に非ずや。何者の愚ぞ君主政と共和政の可否如何の如き物 154

8. 北一輝著作集 2

たるに非ずや。彼の凡腕は投降者を主位に置きて革黨の客たるべき實質上の顛倒事を現出せしめたりとはこれを何 史 とか言はん。彼は革命の始めに來らざるのみならず、革命が終りつゝある時に來り、他の凡ての革命的指導者等が 外 命凡て共の任務を盡くしたる後に來れる者。而して只彼の爲めに殘されたる此の一任務にすら孤負したる斯くの如し。 支那浪人團と共れに雷同する衆愚とは孫逸仙の名に眩惑して恥となさず。而も當時隣邦國士の擧りて、孫文虚榮の 那 支爲めに虚位を窃みて天下の大事を誤れりとせる切齒痛憤の情は不省敢て一管の筆を以て之を後世史家に殘さざるべ からず。に於て疑問あるべし、 , ーー・袁世凱の大總統たりしは孫君の木偶なりしが故なるかと。

9. 北一輝著作集 2

の思想に要めたる如く、將に亡國に瀕せる彼等は日本に就きて興國の精訷を研めざるべからず。佛譯の自由論と漢 史 譯の國家主義とは誠に奴隷と亡國とが渇望の泉を各々對岸の近きに求めたるもの。特に支那は共の危急の迫まれる 外 命が爲めに譯書の間接的交渉を足らずとして留學生の派遣となれり。而して日本の興國的思想は遺憾なく彼等自身の 那東洋魂を覺醒せしめ、彼等は共覺醒によりて日本の興國學を直ちに革命哲學として受取りたりき。 支斯くの如きは固より滿淸皇室の夢想だもせざりし所ならん。彼は日本の國民精訷が國家民族主義に在るを見て、 留學生等は共の學ぶ所を以て克く我が滿室に忠に克く我が皇家の急に赴くべしと期待せしならん。而しながら天は 人智の量るべからざる飜弄を樂しむ。德川氏の覇府を萬世に傳へんとせし漢學が王覇之辯に變じて維新の革命運動 に理論を供給すべしとは人智の量る能はざる所なりき。天の飜弄を知らざる滿淸皇室は己が人の君を亡ばし人の國 を奪へる征服者にして被征服者の覺醒と共に覆さるべき詭明を日本の國家民族主義に求めしめんが爲に留學生を 派遣したるに似たり。制者が王を族滅して兩者の辯を爲すを要せざる支那に於て治者の利益たる漢學は、王覇竝立 の日本に來りては革命の道德的詭明たらざるを得ざりき。異民族の支配を蒙らざる日本に於て治安維持の國家民族 主義は、滿人に征服せられつゝある支那に渡りて革命の科學的理解とならざるを得ず。印ち日本の國家民族主義に よりて解釋せられたる忠孝道德は己の君を亡ほし國を奪へる者と共に天を戴かざる事を敎へ、他の民族の支配を受 くるよりも死を勝れりと詭く者。印ち滿淸皇室に封して日本のあらゆる敎科書は革命哲學たり凡ての學校は革命倶 樂部なりしなり。況んや萬千種を以て數ふべき漢譯の『百科全書』は禹域四百州渉らざりし所なかりしに於てをや。 世人は『排滿興漢』の革命旗が武昌城頭に飜へりしを見て共の不可解に驚異す。而も滿人の統治を排滅し漢族の復 興に努めよといふ國家民族主義は、十數年來兩國政府の獎勵の下に東京の講堂に於て堂々として鼓吹されつゝあり しなり。世人は一月ならずして二十二行省の半が呼應し三月にして排滿の終局せるを見て無智の漫罵を民族の雷同 性に加ふ。而も革命のダイナマイトは漢譯の包装に陰れて三百九十一萬方哩の全土に埋沒せられたりしなり。 或は曰はん、少數なる黄吻の書生輩何をか爲さんと。是れ恐るべき勢力を有して而も一の根據なき非難なり。古 來何れの國と雖も革命的大革が白髮顏によって成されたる一事例だにありしか。維新の革命が成就したる時、

10. 北一輝著作集 2

支那の文字を誤記する代はりに英語の練達せる如く、思想に於て支那人と云はんよりも英米人なり。英米人の如き 權利思想を有する彼は「正義の女優』を渇望しつゝある群衆の前に中國同盟會總理たる權利によりて立てり。彼は 陳腐なる禪讓的形式を蔑視して言下に大總統の推戴を受理せり。是れ中部同盟會の盟主たる譚人鳳が武昌城中に於 て禪讓的舊道德を墨守せる純支那人なると兩極の反對なり。彼は譚人鳳の頑固なる團匪的愛國黨にして至純なる犧 牲心の魂なるとは正反對に、國家觀念に於て許すべからざる缺陷あり決死的犧牲心の驚くべき程乏しき人物なり。 而も彼の顯著なる長所は自由民權の宗敎的信者なることゝ、己を信ずるの篤くして動かざる一事に在り。當時革 黨有力者は斯る局外者の大總統たるを見て武昌に於ける黎元洪の擁立と大差なき木偶として顰蹙せるは論なし。 而も彼の自信力と權利思想と當時の群衆心理とを考ふれば敢て必ずしも然らざるべきなり。特に彼の中華民國史に 於ける百代不磨の功績として看過すべからざる事は、彼が此の新建國の始めに於て支那の將來は必ず共和政ならざ るべからずといふ大憲章の精訷を宜布したることなりとす。嚴格に言へば彼の來らざる以前十一月末武昌の十一省 代表者會議に於て宋君の草案せる『中華民國臨時政府組織大綱』が決議せられ、戰時中明確に支那の共和政なるべ 後の史家は共和政の宣布者が何人なるかを嚴査すべし。固より孫君の共れは全 きを宣布したゑとは事實なり。 く錯誤せる米國的思想の祖述に過ぎずして甚だ皮相淺薄なるは固よりなり。而もこれ維新革命に於て然り、佛蘭西 艾宋君の國家主義の然らざるを得ざりし如し。是れ革命さるべき程に頽發せる國民に深遠 革命に於て然りし如く、 相なる思想の生るべからざる古今の通則のみ。而し乍ら共和政は支那の國粹的革命黨に萠芽せず又日本の國家民族主 の義にも片影だに見られざる者なり。然らば彼が如き自由民權の宗敎的信者が巳に祕密結社時代に於て各省の先覺者 設に影響せる所を、更に大總統として此の建國の際に宜布したる支那將來の幸幅や測るべからざる者あるべし。輕薄 なる輕侮論者は英公使の輿夫が共和政とは大淸皇帝に代はりて袁陛下を見ることなりと云ひしとかを盾として南京 京臨時政府の精訷を輕視す。而も是れ一國の過渡期に於て賤民階級が常に新理想と沒交渉なる歴史的原則を忘却せる 者なり。狒蘭西革命に於て自由とは訷を拜せず淫蕩を恣にすること、平等とは富家を掠奪して財を等分する事なり と解して彼の戰慄すべき暴民の信條が作られたりといふに非ずや。是れ袁を皇帝と同視する輿夫を待たず、巳に南