あし 足の指をひろげて雪にしずむのをふせぐキタキツネで しんせつうえ ある も、やわらかい新雪の上は、おもうように歩けません。 こうどう によう キタキノネは、一年中、行動はんい内に尿をしますが、 かいす、つ おお 一 5 三月の恋の季節に、めだって回数が多くなります ゅび ねんしゅう きせつ においのマーク きおん がつけしゅんゆき 一月下旬、雪は一メートルをこえ、気温は マイナス三十度以下にもなります。キタキッ さむ ネは、このいちばん寒い時期に、日中も活動 きせつ をはしめます。恋の季節をむかえたのです。 うわぎ わたしは、上着とズボンに四個、カメラに しゆっぱっ も一個のカイロをつけて出発しました。 せつめんのこ 雪面に残されたキツネの足あとをたどって いくと、キツネが尿をしたあとがあります。 ひらけた場所では、目しるしになるものがあ ると尿をします。森の中では、十メートルお きに尿をしていることもありました。 こ、つど、つ 尿は、キツネがしぶんの行動はんいをほか しんごう しん のキツネに知らせる信号です。また、この信 ごう 号で、おすはめすをさがします。 ゆき なか やま 深い雪の中では、山スキーをはいていても、 ひざまでうもれてしまいます。寒さでカメラ おも も田 5 、つよ、つに動かないことかありました。 によう こよう こよう 、つこ によう なか あし さむ につらゆう かつどう
ちか 十月七日のダぐれ近く、巣からやく一キ 3 ロメートルはなれた森の中で、やっと一び であ かお きのキタキツネに出会いました。顔やから あし だっきから、このキツネが、 足の不自由な めす親からうまれたおすの子ギッネだとわ かり 6 ー ) た。 であ ひろ 出会った森のとなりは、広びろとした畑 です。そこで、食べかけのトウモロコシや くさりかけたスイカをみつけました。キソ ちか かわぎし ネの食べあとです。近くの川岸には、魚や みすとり 水鳥を食べたあとも残っていました。 キタキツネのえものは、おもにネズミや しようどうふつ ウサギなどの小動物ですが、夏から秋にか おお けては、昆虫や植物の実も多く食べます。 きせつ この季節、キタキツネは、おもに早朝と ゅうかたかつどう 夕方活動します。行動はんいがだいたいわ しゅうかん かってきたこの子ギッネにも、一週間に一 であ 度くらいしか出会えません。 がっ こんらゆう わ、つ しよくふつ こうどう なっ 、小に」ゅ、つ あき そうちょう さかな
森のキタキツネ 0 科学のアルハム
あとかき おお きせつ 北国の季節が移りかわるなかで、わたしは多くのキ であ タキツネの生と死に出会ってきました。 わか ある年の春、トラバサミに足をはさまれた若いキッ ネが、なんとか巣にたどりついたものの、うえのため あか はっこっか 死んでしまいました。白骨化した足にくいこむ赤さび たわなを、わたしはわすれることができません。 ばんあし ここに出てくる三本足のキタキツネは、たび重なる そだ くなん 苦難を生きぬいて、無事子どもを育てあげました。子 ま ギッネが去っていったタ映えの尾根にすわり、子を待 おや ちつづけるめす親のすがたが、心にやきついています おさな どうぶつえん 動物園のキタキツネしか知らなかったわたしの幼い であ のやま 子どもたちが、野山をかける子ギッネに出会ったとき、 「自由なキツネだね」といったのを今でもよくおばえて います。 もり ゅ、 しかし、森はまた深い雪にとざされ、風で舞い上か あし こなゆき る粉雪にわたしの足あともかき消されてしまいます。 とお きおく あのキタキツネは、今はもう遠い記憶の中でしか会え みぎたかひでおみ ません。 きたぐに さ はる うつ す ゅうば あし こころ おね あし かせ なか 右高英臣 ま かさ あ あ 1943 年、疲阜県多治竟に生まれる。 日本大学芸術学部写真学科を卒業。現在 フリーの写真家として、、、人間と自然との 調和 " をテーマに、自然界の山ふところ さ・ ) え、、らう で撮影中。主な著書に「ライチョウの四 季」「ウミネコのくらし」「エゾリスの森」 「キツッキの森」 ( 共にあかね書房 ) がある。 現住所北海道旭川市神居町雨粉 5 号 自宅岐阜県多治見市池田町 7 の 181 ・写植株式会社田下フォト・タイプ ・発行所株式会社あかね書房 〒 101 東京都千代田区西神田 3 ー 2 ー 1 電話東京 ( 263 ) 0641 ( 代 ) ・発行 1990 年 9 月発行 ◎ 1983 H. Migitaka, Printed in Japan 23cm X 19cm 56P N D C 489 ・科学のアルバム⑩ 森のキタキツネ ・著者右高英臣 ・発行者岡本雅晴 ・印刷株式会社精興社 ・製本中央精版印刷株式会社 著者との契約により検印なし I S B N 4 - 2 5 1 - 0 5 5 7 7 ー 9 みきたかひておみ
ンにト第「 ? ノしウ 生と死、そして新たな出会い せつめんのこ 雪面に残るキタキツネの活動のあとは、 あし 足あとや尿だけではありません。みはらし のよい日だまりには、直径四十センチメー ゆき トルぐらいの雪のくばみかあります。キッ ネが休んだあとです。また、深さ一メート ゅ」 ルをこすななめのあなをほり、雪の下にう すもれたえさを、ほり出したりもします 足あとを追っていると、キツネの死に出 会、つことがあります おやそた キタキツネは、親に育てられている間や びようき 一 ) 、つつ、つに ) ひとりだちの時期ー こ、病気やけが、交通事 おお 故などで多くが死んでいきます。そして、 それらの時期をぶしにすごしたキツネをま さむ ちうけているのが、冬の寒さとうえ、それ に人間の銃やわなです。 こうしたきけんをのりこえたキツネたち 新しいいのちをはぐくんでいくのです あし やす あたら によう かつどう あいた
おお ゆきだま 寒さがきびしく、雪の多い年には、枝に雪玉がた くさんできます。 ←森の中へとつづくキタキツネの足あと。ときには、 六キロメートルもつづいていることかあります 、、 , 00 ー ~ 00 、 0 ・ 0 わ さむ あし えだ 不規則な足あと 三月、寒さは ) しくぶんやわらぎ、日中の森 ゆき では、雪どけかはしまります。ピューイ、ピ だか ューイ、ピューイ。ゴジュウカラのかん ~ 咼い ごえ よもりしゅう なき声が、森中にひびきわたっていきます。 あし キタキツネの足あとをたどっていたわたし やす ある ふきそくあし は、休みやすみ歩いたような、不規則な足あ とをみつけました。キツネの足あとは、もっ とリズミカルでまっすぐなはすです。でも大 きさは、たしかにキツネのものです。 にち わたしは、その足あとをなん日も追いつつ けました。しかし、ふふきか一夜にして、す べてをかき消してしまい また、新しい足あ とをさかさなければなりませんでした。 きそくあし がっさむ あし あし あたら につちゅう あし おお
尾根の上から、あたりをけいかいするキタキツネのおす親。 おす親のやくめは、おもに巣の近くをみはることです。 おや
つよ 子をもつキタキツネは , とてもけいかい心が強く , きけんを感じるとなん度も巣をかえ せいらよう ます。また , 子の成長にあわせて巣をかえることもあります。
こそだ キタキツネのめすは、三 5 八びきの子をうみます。 キタキツネの子育ては、もつばらめす親 十びきの子が出てきたときは、おどろきました。 ~ 果 のやくめです。 の出入口は数か所あるらしく、別のめす親は、最後 か′、にん まで確認できませんでした。 五月二十一日、めす親が巣にはいったあ そと と、九ひきもの子ギッネが巣の外へ出てき めす親が巣にいるのは、十分ぐらいです。その問だ け、子ギッネは巣の中から出てきてあそびます。 ました。つぎの日には、十びきの子ギッネ ちふさ が、めす親の乳房にむらがっていました。 二日後のことです。めす親が巣の前でク ちふさ ックッとなくと、五ひきだけか乳房にむら がり、あとの五ひきは、巣のそばであそん ちち はんふん でいるだけです。半分にわけて乳をのませ おも るのかと思いましたが、そのよ、つすはあり 、 .4 、をません おやおな せん 以前わたしは、二ひきのめす親が同し巣 かんさっ で、八びきの子を育てたのを観察したこと おなれい かあります。それと同し例なのでしようか それから三日後、巣には五ひきの子ギッ ネが残っていました。別 のめす親と子ギッ ネは、ほかの巣へ移ったのでしよう。 おや おや かっ そだ うつ べっ まえ
人間のしかけたトラバサミにでもはさまれて、足の さきかちぎれてしまったのでしよ、つか もり 森の斜面には、フキノトウが芽ぶきはじめています。 しやめん あし ゆき 四月になると、雪どけはいっそう早くなり ふるあし しい足あとと古い足あとのみわけがっきにくくな ってきました。 きおく ふきそく わたしは記億をたよりに、不規則な足あとがっ こんど いていた森で、今度はキタキツネがあらわれるの を待っことにしました はつけん 四月二十日、森の斜面で一びきのキツネを発見。 ある よくみると、どこかぎこちない歩きかたです。 まえ よあ かんさっ つぎの日、夜明け前から観察していると、巣と たいばく みられるカッラの大木の根もとから、キツネが出 みぎまえあし しりしていました。しかも、そのキツネは右前足 ふきそく あし あしくび の足首からさきがありません。不規則な足あとは、 おも 、このキツネのものにちかいない、わたしはそう思 ちぶさ いました。それに、おなかにふくらんだ乳房がみ おや えます。どうやらめす親のようです。 こうび キタキツネは、ふつう一 5 三月に交尾し、やく 五十二日後に子をうむといわれています。この巣 こそだ でも、子育てがはしまっているようです。 がっ あし がっ しやめん がっ はや あし あたら