久七 - みる会図書館


検索対象: グラフィック版 好色五人女
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1. グラフィック版 好色五人女

たばこ入れ 「このたびは何やかやとご厄介になりまして」 と、礼を言って別れて行った。 これでおせんは自分のもの、と久七はおもい ろのみやげ物を見立てて買ってやった。 らすま 久七は日の暮れるのも待ち遠しいので、鳥丸の近くに 知人かいるのを訪れようと出かけているあいだに、婆は きよみずてら 、急いで宿を おせんをつれて清水寺へお参りするといし ぎおん 出た。祗園の新趣向の弁当屋のすだれに付け紙がしてあ って、目印に錐と鋸の絵が描いてあった。この家におせ たるや んが入ってすぐさま中二階へ上ると、樽屋が出迎えて、 さかずき 末々までの夫婦約束の盃を取りかわすと、婆は梯子を 下りて階下に坐り、 「ここはほんとに水がよくて、お ~ 余がおいしいこと」 と、分り切ったことを言いながら、せんじ茶を何杯も 何杯も飲んでいた。これがおせん樽屋のはしめての契で あって、樽屋は昼の舟で大阪へ帰って行った。 ・はばあ 「今すぐ帰りま 婆とおせんは宿に帰ると、にわかに、 しよう」と言えば、「ぜひ二、 = 一日は都枷」と久七が 引医」とめたか 「いやいや、奥さまに男ぐるいしたなど とおもわれては困るから」 ーったっ と、出立した。久七はすっかり、ふてくされて、 ふろしきづつみ 「風呂敷包は、ご苦労ですが久七さん、お願い」 と一一一口って、も、 「肩が痛くて」 ふしみいなり と言って持たない。方広寺の大仏・伏見稲荷を過ぎ、 わりかん ふじ - もり 藤森神社で休んだときの茶代は割勘で払って、大阪へ帰 ってきた。 みトみ - フ—•J やっかい んは胸の火のたきつけで新世帯 「伊〈参るなら参ると、そう言「てくれれば、通し駕 のりか 籠か乗掛け馬で行かしたものを、もの好きにも抜け参り なぞして。こんなみやげ物は、誰の金で買ってきたのだ え。夫婦連れ立ってのお伊勢参りでも、とてもとても、 そろ そんなことはしないものなのに、よくもよくも、二人揃 って帰ってきたものだ。これ久七、お参りから帰った祝 あれはなにも いに、おせんの寝床をとってやるがいい むじやき 知らぬうぶな女なのに、久七がそそのかして、無邪気な ものに男の味を知らせたというわけだね」 りつぶく と、お内儀さまはご立腹で、久七の申し訳けはすこし も聞き入れてもらえす、罪のないのに疑いを受けてしま ひま った。やむなく、九月五日の年季明けをまたすにお暇を 貰「て、それから後は北の娵屋という米問屋に奉公 はすつばんな やつはし して年季を重ね、八橋の長という蓮葉女を女房にした。 やたをこ・フド ) すしゃ この頃では、 ト各で屋をして世を暮し、おせんのこ ・ー / ロ広ん由川 とはいっとはなしに忘れてしまっている。人間はみな、 うつりぎ 移気なものである。 おせんのはうは別に変ったこともなく奉公をつづけて たるや 心もそ いたが、樽屋とのかりそめの契が忘れられない らにばんやり日を送って昼も夜もわからす、女がしなく 容姿が てはいけない身だしなみもしぜんにしなくなり、 みすばらしくな「て、しだいしだいにれてしま「た。 おおがま 丁度こういうときに、鶏がとばけてタ方に鳴き、大釜 がしぜんに腐って底が抜け、桶に仕込んで朝夕の食膳に うちくらのきば かみなり 出す味噌の風味が変り、雷が内蔵の軒端に落ちかかるな

2. グラフィック版 好色五人女

「忍び逢い京の水ももらさぬ仲」伊勢参り だけは主人に無断で出立しても罰せられない おせんは伊勢参りを口実に樽屋と途中で落 じゃまもの きゅしら ち合う約束をする邪魔者の久七が同行する きてん が老女の機転でついに旅先の一夜を結ばれる 見物にやってきていたわけだが、や、これは、と見付け られてしまったのは、どうにも仕方のない恋路の邪魔で あった。 「自分も日頃からお伊参りをしたいとおも「ていたの だから、願ってもない道づれだ。荷物は自分が持ちまし じゃま こづかいせん ちょうど よう。丁度、小遣銭も持ち合わせている、不自由な目に はあわせませんよ」 したぎみ と親切そうに言うのは、久七もおせんに恋の下心があ るためなのだ。婆は顔色を変えて、 「女に男が同行すれば、とてもとても人が見てよもや唯 だいじんぐう の中とは一一一戸つ、まい とくに大神宮様はそういうことを頗 るお嫌いになって、お伊勢参りの途中みだらなことをし て驅が離れなくなってしまった男女のことを、見たり聞 いたりしているでしよう。けっしていらしてはいけませ んよ」 と言えば、 「これはおもいもよらぬ事まで、気をおまわしになりま すね。自分はすこしもおせんさんに気があるわけではあ かみしんじん りませんよ。ただ神信心から思い立ったことだ。ほら、 恋の道は祈らすとても神や守らんという言葉もあるよう に、同行したからといって心さえ誠の道にかなっていた ならば、神罰どころか却って隣れみをかけてくれるにち がいない。おせんさんの気持しだいでは、どこまでも道 づれになって行き、帰り道には京都に寄って四、五日ば まったけ とう 0 ゅう たかお もみじ かり逗留し、丁度高尾山の紅葉、嵯峨の松茸のさかりで じようやど かわらまち はあることだし、川原町にうちのご主人の定宿があるけ さん・髦 - うおおはし にしづめ れど、そこはなにかと気が張るから、三条大橋の西詰の 橘ん宿に小ぎれいな座敷を借りて、おかかさまには条 はんがんじ の本願寺参りをさせてあげますよ」 と、もうおせんを自分の物にしたような気持でいると は、久七はうかつものである。 やまさき よどがわづつみ ようやく秋の日は山崎あたりで傾いて、淀川堤の松並 カ・え あわ ま、一と

3. グラフィック版 好色五人女

っくし 0 右吉祥寺のお七親子左松や土筆を きらさぶろう 売る里の子にばけてお七に会いにきた吉三郎 きらじようじ ーを一簷デ 。第罫ををに当工おド しー長鸞 夜を明かそうとした。 冷たい風が枕もとに吹き通しで、土間は冷えあかり、 ほとんど命もあやういくらいである。しだいー こ息も切れ、 目かくらんできたとき、お七の声がして、 「さきはどの里の子がかわいそうだ、せめて湯でも飲ま せてあげて」 と言うので、飯炊き女の梅が、召使用の茶碗にくんで、 下男の久七に差出すと、久七は受取って里の子に与えた。 「ありがたいお心つかい」 まえいみもあそ と言えば、久七は暗がりにまぎれて里の子の前髪を弄 「お前も江戸にいたならば、兄貴伝 ( 男色の ) ができる年 頃だが、 気の毒になあ」 と一一戸つ。 いかにもしい育ちでございまして、田を鋤く馬の手 綱を取ることと、柴を刈ることのほかは、なにも知りま せん」 めした と言えば、その足をいしりながら、 「感、いに、あかぎれは切れていないな、これならロをす こし吸お、つか」 と、ロを寄せてくるので、里の子は悲しく切なく、歯 を喰いしばって涙をこばすと、久七は考え直して、 「いやいや、葱やにんにくを食べたロかもしれない」 と、やめにしたのは嬉しいことだった。 やがて寝る時刻になると、下働きの者たちは打ちつけ 梯子を登って二階にあがり、ともし火の影も薄れた。主 とだな じようまえ 人は戸棚の錠前に注意すれば、内儀は火の用心のことを 十分に言い付けた上に、娘の身に気をつかい、店と奧と 「し、、り′し の仕切戸をしつかり締め切ったので、亦 ( 路の綱が切れて 情なかった。 八つ ( 午前一一時 ) の鐘が鳴ったとき、表の戸を咄いて、 女と男の声がして、 ただいま 「もしもし叔母さま、只今ご出産になりましたが、芽出 たいことに男のお子さまで、旦那様も大そう喜んでいら っしゃいます・」 と、しきりに呼びかけた。家中の者が起き騒いで、「そ ーしんド ) よ れは嬉しいこと」と、寝所からすぐに夫婦連れ立って、 ぞうり かんぞうつか 出て行きがけに海人草・甘草を擱み取り、荒てて草履を 片ちんばにはき、お七に入口の戸を閉めさせ、大急ぎで 出て行った。お七は戸を閉めて引返すときに、夕方の里 の子を思い出して、下女に、「その手燭をちょっと」と その姿を照らしてみると、ぐ っすり寝込んでいる様子は 一層あわれである。 「気持よく眠っているのですから、そのままにしておお わぎ だんな

4. グラフィック版 好色五人女

伊勢神宮外宮伊勢参りは庶民の問で一種の流行ともなっていた すげがさ げぐう 木を半ば過ぎたところで、めかしこんだ男が人待ち顔で まるばや 丸葉柳の根元に腰をおろしているのを、近くなって見れ たるや ば、打合わせておいた樽屋である。不首尾を目で報らせ て、あとになりさきになって行くとは、当てはすれのこ とであった。婆は樽屋に言葉をかけ、 「あなたもお伊参りのようで、しかもおひとり、気立 もよいお方と見ました。わたしたちと一緒の宿に」 と言えば、樽屋はよろこんで、 「旅は道づれ世はなさけ、とか言います。よろしくお願 いー ) 6 、丁」 と答え、久七はさつばり納得のいかぬ顔をして、 「何処の人だか分らぬ人を、こともあろうに女の道づれ に頼むとはとんでもないことだ」 と言う。婆は親切らしい声をして、 「神さまは何でもお見通しですよ。おせんさんにはあん たという頼りになる人が付いていることだし、心配なこ とはありませんよ」 と、旅立ちのその日から同じ宿に泊ることにはなった すき 隙ん」、つかか が、互いのおもいのほどは告げられない ー・うじ ているのだが、 久七は注意深く、区切りの障子をはすし て部屋を一つにし、風呂に入っているときも首を出して 日暮れて寝るときにも、四人同し枕を 様子をうか力い 並べた あんどん 久七は横になったまま手をのばして、行燈の油皿をか たむけ、間もなく火が消えそうになったので、樽屋は枕 もとに近い突上げ窓の戸を開けて、「秋もこう暑くては」 と言えば、折しも雲のない空の月が四人の寝姿を照らし

5. グラフィック版 好色五人女

た。おせんが空をかくと、久七のほうが右の足をもた せかけてくる。樽屋はこれを見付けて、厨子で拍子をと る口調で、 「恋はくせもの、皆人の : ・・ : 」 みちゅき はやり と、流行の曾我の道行を語り出す。おせんは目を開い たるや せんす 「まったく、 女が子供を産む苦しみほど恐ろしいものは わん ありませんね。いつもおもっているのですが、奉公の年 : フ↓・ きたの 野の不動様のお弟子になって、ゆく 季の済みしだい、ヒ ゆくは出家するつもりですわ」 と、婆に寝物語で言えば、婆は、つと、つとしながら、 「それかいし 、ともさ。田 5 、つよ、つにならないこの浮世だか らね」 と言う。あたりを見れば、宵のうちには西枕だった久 七は南の方を頭にして、ふんどしを解いているのは、伊 参りの旅なのに不用心のことである。樽屋は峪貝に丁 こすぎ 小杉の鼻紙に持ち添えたまま、虹 字の油を入れた品を、 ねん 念そうな顔をしているのも滑稽である。 夜のあいだは、互いに恋路の邪魔をし合い、次の日は さんばうこうじん おおっ 逢坂山から大津の駅馬をやとい、三宝荒神というかたち に男女三人で乗った。はた目にはおかしいが、驅の疲れ もあるし、またそれぞれ恋のもくろみがあるので、人が せけんてい 見たからとか世間体か悪いとかいうことは気にかけてい る余裕がない。おせんを真中に乗せて、は屋と久七が両 脇に乗り、久七がおせんの足の指先をしわりと握れば、 樽屋は脇腹に手を差し入れ、こっそりとたわむれている が、それぞれの心のほどがおかしいことである。 連中はみな伊参りが目当てでないから、宮や二見 げぐう 浦へは行かす、外宮だけちょっとお参りしてしるしばか りのおはらい串をうけ、名産のわかめを買いととのえた。 道中二人の男が睨み合いながらも、べつに変ったことも なく京都まで帰ってきて、久七のはからいで取った宿に ついた。樽屋は立替え金などいちいち細かく計算して、 おうさカ わきばら ぐし じゃま 、、るや ・フきょ

6. グラフィック版 好色五人女

たき ! 酢屋酢・酒・味噌・米・薪などの日 常品は現金買いではなくたいてい節季 払いの掛売りが多かった 常品の経費をいかにうまく倹約するか が町家の女房の腕のみせどころだった つイー第レ かかり 自分の家の裏にある草花を見るのさえ、このような有様 である。 ったいに世間の女が浮わっいてはではでしいことは、 これにかぎったことではない。女房がこれだから亭主は し上・・は・ら しんまちおぎのだゅう 一層の贅沢をして、島原の野風太夫、新町の荻野太夫、 c ようてんびん みどう この二人を毎日両天秤に買い、今日は朝早く北の御堂ま かたぎぬ いりということで、肩衣を持たせて家を出たが、そのま ま大門が開くのを待って廓に行く気配が見え透いていた。 八月十一日の明方前に、あの横丁の老女の板戸をひそ 力に咄き、「おせんでございます」と言い終りもしない ふろしきづつみ うちに、必要な品をまとめた風呂敷包を一つそそくさと 投げ入れて立去った。入れ忘れたものがあるかも知れな いと気がかりになり、火をともして検べてみると、銀一 め こ亠艮 月お金が十八匁もあろ 匁に一文銭をつないだもの五つ、 うか、白米三升五合はど、観節一つ、守袋に挿櫛一対、 あわせ いろいろの色に染め分けたしごき帯、銀すす竹の袷、扇 を流した模様の着くたびれた硺々、裏をほどきかけた木 わらじ 綿の甅袋。草鞋の紐はきっちりと仕上っておらす、加賀 てんまほりかわ すげがさ 名産の菅笠に「天満堀川」と書いてあるのは無用なこと すみ と、汚れないように老女が墨をおとしているとき、入口 の戸を咄き、「かか様、先に行きますぞ」と、男の声が して立去って行く。 そのうちおせんが身をふるわせてやってきて、「お家 の都合は、今が抜け出すのに一番よいとき」といえば、 老女はその風呂敷包をさげて人目につかぬ道を走りなが かみしんじん おっくう 「年寄のわたしには億劫なことだけど、神信心のことだ から、伊まで付添って行「てあげよう」 と言うと、おせんは厭な顔をして、 「お年寄に長道中は、どう考えてもご無理でしよう。わ よぶね ふしみ たしにその人を引合わせて、ともかく伏見から夜舟でお 帰りなさいませよ」 ろうば もう老婆をまいてしまう気持になって、気のせくまま ほうば 、、 - うばし に急いで行くうち、京橋を渡りかかったとき傍輩の久七 さんきんこうたい に出会ってしまった。久七は、今朝の参勤交代の行列を いちもんせん ひも

7. グラフィック版 好色五人女

図版目録 もあるだろう 。『好色一代男』の江戸 盛行をみるに至ったが、桃山期からは、 ・盆踊りの図英一蝶筆 : : 引・天理図書館蔵吉田・花鳥・タ霧・ 歌を記さす、純粋に各種職人図として、版に、師宣が西鶴の図にしたがって描 ・神宮徴古館農業館蔵旅の道具 : 吉野太夫俳諧女歌仙より : いたが、師宣は西鶴、半兵衛たちより 風俗画の一部となり、やがて単独に職 ・サントリ ー美術館蔵四条河原風俗・東京国立博物館蔵新吉原座敷拳す も、人物が大ぶ 人尽絵が登場してくる。職業の種類も もう古山師政筆・ りになり、群像描写も絵巻・ すっと巧みになる。西鶴の自画と、師 増え、その用具、技法がさまざまで、 ・京名所図屏風 : : ・驕・滴翠美術館蔵ぶりぶり・うんすん 絵画のモチーフとして興味が高まった かるた : ・京より瀬田への道東海道分間図絵 こともしめしている。 ・東京国立博物館蔵白地鷹衝立模様 ・西鶴作品版本の挿絵・ ・東京消防庁蔵火災図 : 友褝染小袖 ( 部分 ) ・白地斜縞歌文字 イろ / 7 ー . 0 4- 7 ー LO っ・つ ( ・・つ 0 ・好色五人女 : ・東京国立博物館蔵菊次郎のお七・ 模様小袖・白地叉手網模様小袖 : C.D . 0 . 4 . 7 ・ - . つ 挿菊五郎の吉三郎 : : 花・昭和女子大蔵道ゆき疋田染小袖裂 つな . 1 ー . 0 . つ - -0 8 . 加賀友染夜着裂・黒茶地宝尽縫腰蓑裂 代・東京国立博物館蔵中村松江の八百 0 ・ 0 ・万の文反古 : 色屋お七 : ・世問胸算用・ ・東京消防庁蔵歌舞伎狂言「八百屋・サントリ ー美術館蔵秋草蒔絵提重 ・西鶴置土産 : 一鶴お七」歌川豊斎筆・ ・好色一代男・ ・興福院蔵街角の往来都鄙図巻よ・久保克敬氏蔵難波西鶴翁芳賀一 っ ) 8 ・男色大鑑 : 宣の「大和絵のこんげん」 ( 『好色一代 品筆・ り住吉具慶筆・ ・好色一代女 : 男』の絵本化 ) などを比較すれば、そ : ・国立国会図書館蔵好色五人女版本 ・三井文庫蔵貞享ニ年江戸図 : 西鶴の著作のうち、「好色一代男』 の相違はあきらかである。 表紙 : ・縁先髪結図 : らっかん と『諸艶大鑑』は落款がないけれども、 後の絵師で自著自画で傑出している ・天理図書館蔵「役者笠秋のタに見・天理図書館蔵西鶴自筆短冊・ 西鶴自画の挿絵とされている。はかの のは、奥村政信、北尾政演 ( 山東京伝 ) ・暉峻康隆氏蔵貞享三年大坂図 : つくして」独吟百韵自註絵巻より 著作には吉田半兵衛その他がかいた 等、まったくないわけではない 。しか井原西鶴筆・ 当時、上方の代表的な絵師であった半し政信、政演等の人々は絵師として自 ・野郎・茶屋・太夫・天神・鹿恋・端・撮影ー c.D . 1 ー 兵衛の生涯ははっきりせす、たぶん西立し得た。かならすしも文筆専業では 女郎好色訓蒙図彙より・ 市瀬進 / 木下猛 / 小宮東男 / 関孝 / 成 0 ・ 0 なかった。そういうあたリから振りか 鶴と同し頃、没したと思われる。が、 ・安達瞳子氏蔵化粧道具・櫛 : 瀬友康 / 松野等 / 世界文化フォト / フ とりわけ西鶴のためには『好色一代女』えるならば、西鶴は自画自作においても ・角屋蔵香枕・鏡台・ 「好色五人女』『武道伝来記』『日本永輝かしい先駆者であったといえよう。 ・三和銀行蔵両替店諸道具 : ■編集協力■ ■その他■ ・師走の図 : イ蔵』『本朝桜陰比事』等の挿絵をか 稲垣史生 / 木村東介 / 郡司正勝 / 小鯖 ・若侍と禿 : 『本朝二十不孝』も半兵衛がか : 5 ・国文学研究資料館常香盤・筆屋の 英一 / 三和銀行 / 昭和女子大 / 角屋 / いたのではないかと一言われている。 看板・味噌屋の看板 : ・蚊帳中読書図伝菱川師房 : ・ 8 ・ 9 早大図書館 / 東大図書館 / 橋本澄子 / 西鶴の絵は半兵衛の影響を受けてい ・東京国立博物館蔵歌舞伎図屏風 : ・日本民芸館蔵たばこ盆・秀衡椀・ 日比谷図書館 / 便利堂 / 吉田漱 るか、かなり巧みで、こまかくみれば、 熨斗文蒔絵重箱・卵殻張重箱 : ・地図作製・ 0 00 0 1 ′ 個性的な表現もみられる。半兵衛にく ・早大演劇博物館蔵大阪絵看板「お 蛭問重夫 らべて、泉に卩ら 払がすくなく、人物の夏狂乱」葦国筆・ ・滋賀大経済学部史料館蔵ちょうち・髪型イラスト■ 石津博典 表情もやや幼いところがある。しかし ・出光美術館蔵春秋遊楽図菱川師ん・きせる入れ : ■図版監修■ 自作自画だけあって嗇 ~ 図するところが平筆・ : ・角屋蔵楊弓・雙六しだれ柳より ・柳孝氏蔵川遊びの図 : また悪達者でない雅趣 よく表現さし 中村溪男 / 宮次男 167

8. グラフィック版 好色五人女

ロづけをかわす男女 そうなれば思いのままで、吉三郎の寝姿に寄添って、 言葉も出すに、しどけなくもたれかかれば、吉三郎は眼 が覚めてお七を認めたが、身をふるわしてもう一度蒲団 にもぐりかけ夜着の袂をかぶりかけた。それをお七は引 き除け、 「髪が崩れますのに」 こんわく と言えば、吉三郎は困惑して、 「わたくしは、十六です」 といえば、お七、 「あたくしも十六になります」 と一一一一口い 吉三郎がかさねて、 ちょうろう 「長老様がこわい」 と言う。お七も、 「わたしも、長老様がこわい」 なんともこの恋は、手はじめがはかどらすもどかしい ことである。そういうだけで、二人とも涙をこばし一向 ぎわかみなり に埓があかない。そのうち、また雨の上り際の雷があら あらしく鳴りひびいたので、 「これは、ほんとにこわい」 ついたことである。自然と と、お七が吉三郎に卩 やみがたい情も胸にこもってきて、吉三郎が、 「手足がすっかり冷えているよ」 と、お七を肌近く引寄せると、お七は恨み言をいし 「あなただって贈くはおもわないからこそ、あのような 手紙をくださったのに、こんなに驅を冷たくさせたのは、 誰のせいなのでしよう」 らち ふとん

9. グラフィック版 好色五人女

ばんだい きらさぶろう 「君を思えば雷も恐くない」お七は吉三郎 会いたくてたまらないがその機会がない し人ら、、 春雷の夜お七は吉三郎の寝所に忍んでゆく 香を継ぐ子坊主に見つかったのをうまく買収 わどこ 吉三郎の寝床に入りニ人は契をかわす てんびんばう 0 町角の往来今しも天秤棒から盤台をおろ あみがさ した魚屋が商いをしている編笠や扇で顔を 隠した武士がのぞきこむ遊女屋の脇には天水 おけ やぐら 桶が積んである手前の屋根の上の櫓は の家が公認の遊女屋であることを示している しんじよ てんすい すぐすしているのがお七には待ち遠しい。ようやく小坊 あさはか ずしんじよ 主が寝所に戻ってくるのを待ち兼ね、女の浅墓な思いっ きで、髪をばらばらにし、恐ろしい顔をつくって闇がり おど から脅かすと、さすがは肚ができていてすこしも驚く様 なじ 子がなく、 「汝元来、帯ときひろげて、世にまたとない はら 淫奔女である。すぐさま、消え去れ。また、この寺の大 黒になりたいなら、和尚の帰られるまで待て」 くちょう いんどう と、引導を渡す口調で、目をむいて言った。 お七はてれくさくなって走り寄り、 「おまえを抱いて寝にきたのよ」 こばうず . と言うと、小坊主は笑いなから、 「吉三郎様のことなら、おれと今まで足を差し合わせて 寝ていたんだよ。その証拠はこれさ」 と、沁れの僧の裾をお七の顔の前にかざすと、白 菊などという鑵の香木を焚きこめた移り香が匂ってきた。 カまん 「とても我慢できない」 みもだ と、身悶えしながら、お七がその寝間に入るのを見て、 小坊主が声を上げ、 「やあ、お七さまが、よいことをなさる」 と一言うので、驚いたお七が、 「おまえの欲しいものはどんなものでも手に入れてあげ るわ、だから大きな声を出さないで」 と、一一一一口、疋ば、 あ・さ′、さ 「それならば、鉉八十と、松葉屋のかるたと、浅草の米 いま欲しいものはこれだけ」 まんじゅう五つと、 と、言、フので、 「それこそたやすいこと、明日さっそく用意してあげる から」 と、約束した。小坊主はすぐに寝てしまい 「夜が明けたならば、三つのものを貰うはす、きっと貰 、つは亠 9 」 と、うつらうつらして言いながら寝入って静かになっ すそ

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団扇 気 うちわ この娘と知っこ オ。この女こそと思い隹 . れて、何の註文も つけす縁組を取急ぐのもおかしいことであった。 しもたちうりらすまあか その頃、下立売鳥丸上ル町に、「しゃべりのおなる」 た画こ - フ′」カカ ゆいのう という有名な仲人嚊がいた。この女に深く頼り、結納の じようじゅ かノ、だる きちじっ 角樽を用意し、願いが成就して、吉日をえらんでおさん を嫁に迎えた。 フべ 花のタ、月の曙の美しさにもこの男は目もくれす、た だおさんだけ眺め、夫婦仲よろしく三年ほど経った。朝 わざ つむを 晩世帯を守る女の業を大事にし、手すからべんがら紬を っ」 精出して織り、下女たちに紬を織らせ、亭主の身なりに 気をつけ、倹約を第一とし、竈の火も薪をやたらに燃や こづかいちょう さす、小遣帳も筆まめにつけるという按配で、町人の家 にはこの上ない嫁であった。 しだいに家も栄えてうれしさが限りもなかったが、亭 主に江戸の方に行く用事ができた。京都を離れるのを厭 いよいよ旅 がったが、仕事のためとなれば仕方がない。 むろまち に出ようと決心して、室町の女房の里に行き、事情を話 すと、留守中の娘の身を思いやって、 「万事に気のつく男で、留守を受け持って商売のことも はす うまくさばき、家事についてもおさんの頼りになる筈だ から」 と、何処でもそういうものだが、親の愛情から気にか も・ん - もん むこ けて、長年召し使っている茂右衛門という若者を、娘聟 のところへ差向けた。 この茂右衛門は正直な男で、髪型は人まかせ、額の毛 そろ も抜き揃えす、袖ロは五寸に足らぬ律義さで、生れてこ ゅ - フりカよ わき のかた遊里通いの編笠をか京ったことがなく、まして脇 けんやく あみさ りちぎ あんばい そろばん 差をこしらえるような贅沢をせす、ただ算盤を片時も離 カ - ね一・し - フ さす、夢の中でも金儲けの工夫ばかりして暮していた。 ちょうど 丁度季節は秋、夜嵐がひどく吹くので、冬になったと ようじよう きのことを思いやって、身の養生のためにと茂右衛門は きゅう 灸をすえることを思い立った。腰元のりんが、手ぎわよ くすえることができるので、この女に頼んでもぐさを沢 “うだ、 山ひねり、りんの鏡台に縞の木綿ふとんを折かけてもた カまん れかかってすえはしめた。最初の一つ二つは我慢しかね、 灸をすえているあたりをおさえて顔をしかめるのを見て、 乳母や中居や飯炊きのたけまで笑い出した。そのあとは、 はやく一 もぐさから煙が 9 マっ 9 も、つと・出て熱さか烈しく、 番おわりの塩の上にもぐさを置く炎にならぬものかと待 ち兼ねていると、すえそこなって火玉となったもぐさが ころ 背骨をつたって転がり落ちて、その熱さに身の皮が縮み 上り、苦しさがしばらく続いたが、すえ手の迷惑をおも カまん いやって、目をふさぎ歯を食いしばって我慢していた。 りんは申し訳けなくおも「ててて揉み消したが、これ が肌のさすりはしめで、いっとはなく茂右衛門をいとし くおもい、人しれす恋心に沈み、そのうち噂にのばって、 おさん様の耳に入ったが、一層思いはつのるばかりだっ むひっ りんは勝しい育ちで、無筆なので恋文の書けないのを 悲しくおもい、下男の久七がうろ覚えの文字をぬたくら すのがうらやましく、ひそかに久七に代筆を頼むと、久 七は茂右衛門そっちのけで、りんを自分のものにしよう とするのはいやらしいことだった。 しぐれ むな 空しく日が経って、時雨のばらばら降る十月頃、おさ ざし めした よのらし