答え - みる会図書館


検索対象: バラの木にバラの花咲く (集英社文庫)
43件見つかりました。

1. バラの木にバラの花咲く (集英社文庫)

坂口はチャイムを押した。 チャイムが鳴るのを聞きながら、円はべッドに座って、受話器を耳に当てていた。 「だからもう、ガマン出来なくなったのよ。見て下さった ? ならわかって下さるでしょ う ? 私、やめたいの : : : やめます。さっき、そう決心したの : : : 」 「そんなことを君 : : : そんなにいきなり、感情だけで決めてはいけないよ」 「どうして ? どうしていけないの ? 「やめるといったって、ぼくがやめたのとはちがうからね」 「ちがわないわ、どうちがうの ? 」 「だって契約が残っているんだろう ? こ 「ええ。でも、それは話し合いでどうにでもなるんじゃないかしら。局の方だって、この頃 の私に不満なのよ。坂口さんだってよそよそしいの。私、スタジオへ入るのがもうイヤ。何 もかもイヤ。どこへ行っても矢部円、矢部円っていわれるのもイヤ。ああ、私、あなたと二 人でどっか、遠いところに行ってしまいたいー ねえ ? 私を連れてって : : : どこかへせめ て一月 : : : 一週間、いや三日でいいわ、一緒にいたい : ・ 乱その時、ノックと同時にドアーが開いて、坂口が立っていた。今の一一 = ロ葉は坂口の耳に入っ ただろうか。一瞬そう思ったが、そのまましゃべりつづけた。 混 「ねえ、行くとしたら、どこがいし 、 ? 日本 ? 外国 ? 」 坂口がゆっくり近づいて来て、べッドのそばに立った。円を見下ろした。

2. バラの木にバラの花咲く (集英社文庫)

「私はイヤです。絶対にイヤ。お断りするわ」 興奮のあまり涙が滲んだ。その涙の向うに坂口の呆気にとられた顔があった。円はどうな ってしまったんだ、何が起ったんだ、とただ驚いている。その坂口が急に気の毒に思えた。 円の気持はとうに彼から離れている。いや、離れているというよりも、最初から密着したこ とはなかった。坂口の妻に嫉妬を覚えたことは一度もない。 この人は奥さんとのときも、こんなことをするのかしら、と彼の愛撫を受けながら思った ことはあるが、そのために心が乱れることはなかった。二人でいる時の坂口よりも、局の中 おおまた を大股にあちこちして、大声を上げている坂口の方が好きだった。確かにそんな坂口は魅力 的な男といえた。彼にを力がある。円が惹かれたのは多分その力に対する自信だった。だが 今は彼の力は円の鼻につく。 「お断りするって、君 : : : 」 坂口はいった。君には断る権利があるのか、とあとの無一一 = 口がいっていた。 「命令ですか ? 」 と円はいっこ。 乱「今は相談の段階だがね」 坂口は穏やかにいって、改めてこの事態を考えようとするように煙草に火をつけた。 「今は相談の段階だけど、次第によっては命令に変更するーー ? 」 坂口は答えすに、ゆっくり煙草の煙を吐き出して目で追った。 しっと あっけ

3. バラの木にバラの花咲く (集英社文庫)

338 ちよくせつ 直截に言ってしまうと、私はどうも、キャスターなるものがキライらしい ( そこに、 どうしようもない欺瞞性とウサン臭さを感じとってしまって ) 。 何でニ = ースキャスターになりたいの ? と ( スチ = ワーデスに憧れる気持ちが頷けぬよ や、答えというか心、は分っている。 うに ) それ志望の娘っ子達に訊いてみたい。い : のフツウの O*-Äお茶汲みコビー係よりか、ハナャカ日ちょいとキレイなカッコして に出られて。 ( キ。ハキニ = ース読んだりシ = ザイに行ってみたりは、しばしばお馬鹿さんに見 えるタレントよりかよほどチテキなショクギョウとね。 ( でもホントのとこ何が ? どこが 知的 ? ) 。 私の独断と偏見で言うと、日本に本当のニ = ースキャスターなるものは居ないと思ってい アメリカ 、と思っている。よく言われる事に日本は米の十年遅れ、というの るし、又育っ訳もない がある。確かに多くの現象がそう、遅れてマネして右へ習え ! でもね、徹底的に言語を駆使し、議論好きな国民性、コト。 ( で日々自己主張や武装して闘 っているような国のソレが、この国に当てはまる訳ないじやござんせんか。清里あたりの急 ごしらえの真白けなペンション林立か、旅館がに呼び名や表っ面ばかり化粧直し 模様変え、としかみえない、昨今の = ース番組ラッシ = ( 私 = = ースはもう沢山。それよ 力しいドラマを見たい。本当をホントめかしてやるものより、上手なウソで酔わせてくれる ものを切望する ) の現象や、アナウンサーが急にキャスターと看板掛け替えたりしているだ アメリカ けの現実には。所詮、だから、向うで咲いてる。ハラを、チョキンと切ってきてこっちの土の ぎまん

4. バラの木にバラの花咲く (集英社文庫)

「通りすがりにご挨拶したんだけど、あんまり楽しそうで、気がっかれなかったみたい 「まあ、そんな : : : 」 花子は素直に恐縮し、 「ごめんなさい、失礼しました。じゃあ、同じ舗道で ? 」 「ええ」 円はいっこ。 「加納さんとご一緒だったでしよう ? 」 「ええ」 「おやめになったんですってね ? あの方」 「ええ」 花子はニコニコするだけで何もいわない。円はそれにじれた。 「私、びつくりしましたわ。河合さんと加納さんっていう組合せー・ー」 これ以上いっては執拗すぎる、と思いながら円はいっていた。 の「それにあの方ーー加納さん : : : 何だか陰気くさい人だったでしよう。あの方が、女連れで 歩いてるなんて、想像出来なかったんですもの : : : 」 ふ 「そう ? 」 花子は小首をかしげていった。それ以上の言葉を円は待ったが、花子は微笑んだ目を円に

5. バラの木にバラの花咲く (集英社文庫)

「ズバリ訊きますが、あれは誰なんですか ? こ 円は駐車場に入り、黙ったまま車の間を縫って行く。 「ねえ、矢部さん、いって下さいよ。テレビであんなふうにしゃべった以上、いっかは明る みに出すつもりなんでしよう ? なら、いってくれてもいいじゃないですか : : : 」 円は自分の車の横に立って、ハンドバッグの中のキイを探りながらいった。 「あのことについては、あれ以上いいたくありません」 「いいたくないなんて、それは卑怯ですよ。そんならはじめからいわなければいいんだ」 、それからすぐに調子を和らげた。 小男の芸能記者は攻撃的にいし 「ねえ、 いって下さいよ : : : ねえ、お願いしますよ : : : 芸能界の人ですか ? タレント ? それともディレクターか何か ? 」 「そんなことになぜ興味があるんですか」 運転席に乗り込んで、キイをさし込みながらいった。 「どうだっていいことでしよう ? たかがテレビキャスターが片想いしようと失恋しようと、 そんなことが何が面白いの、大の男が関心持つようなことじゃないでしよう ? 私はただ森 イ 本さんが訊いたことに答えただけですわ」 「そりや、・ほくは関心なんか持ってませんよ。ぼくは関心なんか持ってないけど、大衆は知 りたがってるんです。彼らのその要求を満たすのが・ほくらの役目なんです。だから : ひきよう

6. バラの木にバラの花咲く (集英社文庫)

「どうしたの、何かあったの」 「ううん、そうじゃないの、ごめんなさい。突然、人が来たものだから、慌てたの」 「どうした ? さっきと声が違うね」 鋭敏に修次はいった。 「そうワこ 円は一心に取り繕った。 「実はね、坂口さんが突然、来たのよ」 「坂口さんが ? 何の用で ? 」 「だから、これから話を聞くの」 「今日のことで彼にやめたいなんていったんじゃないの ? 」 「ええ、まあ・ : : ・ちょっと : : : 」 「だから心配して来たんだな」 修次は簡単に納得していった。 「じゃあ、切るよ。安心した : : : 何ごとが起ったのかと思って驚いたよ : 乱「ごめんなさい」 「また明日、電話するよー 混 「ええ、きっとね」 受話器を下ろすまで、坂口はじっと円を見つめていた。

7. バラの木にバラの花咲く (集英社文庫)

「いや、そんなことはないでしようが : ・ : ・」 修次はロ籠った。 「郁也は喜ぶでしようがね : : : あなたのところへ電話をかけて来たってことは、やはり、あ なたに頼ってるんでしようから : : : 」 「ではご一緒してもかまいません ? 「ええ、それは : : ぼくはかまいませんが、しかし : : : 」 「何ですの ? 」 「日帰りというわけこま 冫をいかないかもしれませんね。電車とバスを乗り継いで、半日はかか るそうですよ 「かまいませんわ。一泊しても」 「あなたが泊れるような宿があるかなあ : : : 」 「大丈夫。牛小屋の隅にでも寝ますわ」 と花子は明るく笑った。 「しかし仕事の方は ? 乱「金曜日まで暇ですの、どうせ局にいても何もないんですもの : : : 」 「そうですか : : : では明日か明後日に出かけることにしましようか」 混 「ええ、私はどちらでも。でも早い方がいいんじゃありません ? 」 「電車の時間を調べたり、やつばり行くとなるといろいろありますから明後日にしましよう

8. バラの木にバラの花咲く (集英社文庫)

177 雪の夜 「この問題は本腰を入れようと思うんだ。郁也が今どこにいるか、警察は捜しているらしい かくま がね。しかし相手は中学生たろ、誰か匿う人間がいるとオレは睨んでる。そうでなければも う家へ帰って来る頃だよ。あるいは親がどこかに隠してるか : : : 」 「そういえば親はわりに落ちついてるみたいだなあ、大矢もそういってたけど」 「今、ふと思ったんだけどね、矢部くんと藤木くんが児玉家へ行った時、加納に会ったって 藤木くんがいってたね ? 」 坂口は円の方を向いた。 「ええ、会ったわ」 「何しに行ってたんだろ ? 」 と坂口は円を見つめた。 「家の中から加納が出て来たんだろ ? 君は話したんだろ ? 」 「ええ」 それ以上に円がなにもいわないので、坂口はつづけた。 「仕事じゃない。個人的な知り合いのようだったと藤木がいってたな、あの時・ : 「話しかけたんだけど、何もいってくれなかったの」 仕方なく円はいっこ。 「あの人、頑固だから : : : 」 にら

9. バラの木にバラの花咲く (集英社文庫)

向けているだけだった。 「失礼しました、さようなら」といって円は花子から離れた。そういって帰るよりしかたが なかった。花子は「ええ」と「そう ? ーばかりいっていた、と円は思った。花子は驚いたの かもしれない。今まで挨拶を交すだけの間柄であったスターの円が、いきなり親しそうに寄 って来て、たいした用件でもないことを話しかけたのだ。今頃、花子はその奇妙さについて 考えているかもしれない。 けれども、まさか、それが円の加納修次への恋のためだとは花子には想像出来ないたろう。 円を詮索好きの他愛のない女だと思ったかもしれないが、それが嫉妬のためたと見破られる よりは、そう思われた方がよい。しかし花子に話しかけたことの収護は何もなかった。二人 の関係はわからないままだった。花子が「ええ」と「そう ? 」しかいわなかったのは、それ を隠すためだったのだろうか ? 反省会が行われている会議室へ行くと、坂口が次の企画をディレクターに説明していると ころだった。 どうせい 「宮川研と下月マュミの同棲だがね。宮川のワイフのハナシを取りたい。あの奥さんは前の ワイフから宮川を盗ったんだから、今回のことについては、彼女なりの感想がある筈なんだ。 もともと陽気な女でね、つまり、夫を寝盗られた妻の心得、みたいなことだね。それを出し たい」 「昨日、・・でやってたけど、窓が開いたと思ったら、カメラマンが水をぶつかけら せんさく

10. バラの木にバラの花咲く (集英社文庫)

129 ライル と叫んだ子がいる。円が立ち上るのを追いかけて訊いた。 「その人は、円さんのあのテレビ、見てました ? こ 「さあ ? どうかしら ? 」 「わかんないですかワこ 「ええ」 「何の反応もないんですか ? あの後」 「そうよ」 円は化粧室を出た。 「それでいいんですかワこ 声が追ってくる。その方に向って円は大声で、 「いいのよ ! 」 と叫び返した。