223 家 「君は全く充分に理解したよ」と私は言 0 た、「そしてど第七巻 うかその四つの分割された部分に応じて、魂のうちに生す る次の四つの情態を把握してくれ給え、すなわち、最高の 部分に応じて叡智を、第二の部分に応じて悟性を、それか・ ら第三の部分には信念を割り当て、最後の部分には想像を 割り当て給え、そしてそれらを比例的に並べ給え、それら一「では、次に」と私は言 0 た、「われわれの本性が教育 が関係を持っ対象が真理に与かるのに応じて、それらは明を受けた場合とそうでない場合とに関しては、次のような 瞭性に与かるものと考えて、ね」 情態に比較して考えてみ給え、つまり、こう想像してみ給 ほらあな 「わかりました」と彼は言った、「そしてあなたの仰っし え、いわば洞穴のような地下の住居に人々がいる、その住 やることに同意し、その通りにならべます」 居は太陽の光に向かって開いている洞穴の幅いつばいの長 い入口を持っている、そしてその人々はその住居の中に子 供の頃から手足も首も縛られている。そのために彼らは同 じ所に留まっていて、ただ前方だけを見ることになる、そ•-a の縛めのために頭をぐるりと廻すことができないので。そ れから、またこう想像してみ給えーーー彼らのためには火の 光が彼らの後の高くて遠い所で燃えている。その火と囚人 との間には上の方に一つの道がある。そしてこの道に沿っ て壁が建てられている。ちょうど操り人形師の前に、見物 人に面してその上の方で操り人形を示す仕切壁が設けられ ているように、ね」 「ええ、想像します」と彼は言った。 「それからまた想像してみ給えーー人々がこの小壁の上に。 出ているいろいろの道具や石や木やその他のいろいろな材 料で作られた人間やその他の動物の像を小壁に沿うて運ん
266 へ「ところで、特にこんな風にして栄誉制的な人間から寡 く左右に地べたに平伏させ、奴隷となり下がらせて、一方 頭制的な人間へ変化してくるのだね」 のものには少しの金から多くの金の生じてくるのは何処 「どういう風にしてですか」 か、ということより他のことは何も思惟するのを許さず、 「それは、栄誉制的な人間から生まれた子供が最初はそのまた他方のものには富と金持ちたちより他のものは何も 父を真似て、その父の足跡を追いかけているが、後に父が嘆し尊敬することを許さず、また金銭の獲得より、あるい 突然、ちょうど船が暗礁に衝突するように、国に衝突し はそのことに何か貢献するものがあればそのものより、他 て、彼自身の持ち物をも彼自身をも海に流すのを、つまり、 の何ものかに自分の名誉をおくことを許さない、と私は思 将軍職についたり、あるいは、何か他の重大な役についた うよ」 りしたのが、ついで法廷に引き出され、悪性の告発人に傷「それより他の仕方では」と彼は言った、「愛誉的な人間 つけられてあるいは死刑、あるいは追放刑、あるいは市民権から愛銭的な人間へのこれほど速くて烈しい変化はできま 剥奪と全財産没収の刑に処せられるのを見る時に、だよ」 せんよ」 「ええ、そのようです」と彼は言った。 「それなら」と私は言った、「この人間は寡頭制的なもの。 かね」 「そしてだね、君、その息子がそれらを見たり、その身に 「ともかく彼の変化は、寡頭制がそこから変わって出てき 蒙ったり、その財産を失ったりした後は、私は思うんだ こわ が、恐くなって、直ちに、自分の魂の中にある玉座から愛た国制と同じような人間からのものです」 名心とあの気概的部分とを真逆様に突き落とし、そして貧「では、彼が同じようなものであるだろうかどうか、考察 乏のために卑しくなって、金儲けへ転向し、けちけちと倹してみよう」 「考察しましよう」 約したり、せっせと働いたりして、しみったれて少しずつ 貯めこみ、お金をかき集める。このような者はその時には あの欲望的愛銭的部分を玉座に据えて、自分自身の中のペ 九「先ず第一に、金銭を非常に大事にするという点では同 ルシア大王とし、ターンと黄金の頸節りで飾り、短女 じようではないだろうか」 以上すべてベルシア 「ええ、もちろんです」 人の使用せしもの 〕を腰につけてやるとは思わないかね」 「ええ、思います」と彼は言った。 「その上また、けちん坊でそして働き者であって、自分の 「しかし、思惟的部分と気概的部分とは、あの部分の傍近心にある欲望のうちでただ止むを得ないものだけを充たし 554
ころ、正義のうちにあくまでも止まり、敢えて他の人々のしようから。では人々の言うのは、こういうようなことで ものから手を控えて触れないほどに道徳堅固なものは誰一す。 人ありますまい、彼には市場から何でも欲するところのも のを、恐れるところなく取ることも、また家の中に入りこ 四しかしわれわれの語っている人々の生活についての判。 んで誰とでも欲するところのものと一緒に寝ることも、ま 定そのものは、というと、もし最も正しい人と最も不正な た誰をでも欲するところのものを殺すことも、牢獄から解人とを対置するならば、正しく判定することができるでし 放することもでき、またその他神に等しい者として、人間 よう。でなければ、できません。それならその対置は何で のうちにあって何でもなすことができるのに。そしてこうあるか。それはこうです。不正な人の不正義からも、また いうことを為す点において一方の人は他方から少しも異な 正しい人の正義からも何一つ引き去らないで、両者それそ らず、両方とも同じところへ赴くでしよう。たしかにこのれを自分の生き方にかけては完全無欠なるものと仮定しま ことを大きな証拠として、人は主張するでしよう。誰一人しよう、すると、第一に、不正な人は、優れた専門家のよ 自ら進んで正しくあるのではない、むしろ正義は個人的に うに振舞わしめなくてはなりませんーー例えば一流の船長 は善いものではないから、強制されてである、何故なら各や医者は、その技術における不可能なことと可能なことを 人は不正をなすことができるだろうと思うところでは、、 見分け、後者は企て、前者はよす者なのです。が、また、咄 つも不正をするものであるが故に、と。というのは実際すもしひょっとして過ちを犯すなら、それを矯正するに足る べての人々は不正義は正義よりも個人的には遙かに多く得者ですーーそういう風に不正な人も不正事を正しく見分け のいくものであると思っているからです。しかもその思うて、それを見つからないように企てさせなければなりませ ところは、このような種類の言論について語った人の言うん、もし極端に不正な者であるべきならば、ですね。しか し捕えられる者はヘまな奴だと考えなければなりません。 ところによれば、本当なのです。何故ならば、もしひとが というのは事実そうでないのに、正しい者であると思われ 家このような自由を手に入れながら、不正なことは何一つな すことを決して欲せず、また他人のものに触れないなら、 るということが極端な不正なのですから。だから完全に不 国それを知る人々は彼を最も惨めで最も考えのない者だと思正な人には完全な不正義を与えなければなりません、そし て何一つ引き去らずに、最大の不正事をしながら正義に関 うでしようが、しかし不正をなされることに対する恐怖の ために、お互いの前ではお互いに欺し合って彼を賞めるでする最大の名声を自分にもたらす者であることを、許さな
でいく、そしてこの運んでいく人々のうちには、きっと、 人が真実なものと信じるのは、それらの人工的なものの影 四話をしている者もいれば、黙っている者もいる」 以外の何かではないだろう」 「それは奇妙な比喩、奇妙な囚人です、ね」と彼は言っ 「それは非常に必然的なことです」と彼は言った。 「それでは考えてみ給え」と私は言った、「彼らの縛めか 「われわれに似た者だよ」と私は言った、「だって、先すらの解放や無思慮からの治療はどのようなものだか、もし 第一に、君はこのような人々が自分自身やお互いのものは、 次のようなことが人間の本性に一致して彼らに起こるとす 洞穴の正面に火によって投ぜられる影以外に、何かを見たればね。すなわち、人が解放されて、そして突然立ち上が ことがあるだろうと思うかね」 って、首を廻し、歩いて、火の光を見上げることを強制さ 「しったい、どうしてできましよう」と彼は言った、「彼れ、そしてそれらすべてのことをなすのに、苦痛を感じ、ま らが生涯その頭を不動にしておくことを強制されている以ぶしい光のために、あの時見ていた影の本体をよく見るこ 上は、ね」 とのできない場合、もし彼に、あの時彼の見ていたのはっ 「しかし運んでいく人々については、どうだ。これも同じ まらぬものだったが、しかし今は、有るものに一段と近づ じゃないか」 いていて、一段と多く有るものの方に向かわせられている 「もちろんです」 ので、一そう正しく眺めているのだ、と言い、そしてまた 「ところでもし彼らが互いに対話することができるなら、 通り過ぎていくものを、それぞれ彼に指差しながら、それ 彼らが有るものだと信するのは、彼らが見ているちょうど は何だと訊ねて答えることを強制するなら、彼は何と言う そのものだ、とは考えないかね」 だろうと君は思うかね。彼は途方にくれて、あの時見られ 「それは必すそうです」 ていたものの方が今指差されているものよりも、一そう真 「しかし、もしその牢獄がまた正面から反響してくるとし実だと考えるだろう、と思わないか」 たら、どうだね。通りすぎていく人々の誰かが話をする時 「ええ、それはすっと多く真実だ、と考えるでしよう」 いつでも彼らがその話をしているものだと考えるのと彼は言った。 は、通りすぎていく影以外の何かだろうと思うかね」 、え、私は断じてそうは思いません」と彼は言った。 一一「それなら、またもし光そのものの方を見るように彼を 「それでは全くのところ」と私は言った、「このような人強制するなら、彼は限に苦痛を感じ、彼のよく見ることの
し、またそういうことを認めてもならない」 行〕アキ ~ レウスが自分のうちに相反する二つの病い 「ええ、たしかにそのようなことを賞めるのは決して正当すなわち一方では金銭愛に伴われた奴隷根性を、他方では ではありません」と彼は言った。 神々や人間たちに対する高慢を持っているほどに、ひどい 「しかし、ホメロスのために、はばかられるが、少なくと混乱で充たされていた、とわれわれの青年たちが信じるの もこれらのことをアキルレウスに関して主張するのは、まを許すべきではないーと私は言った。 た他の人々が言う時に、信するのは、敬虔なことでないと 「それは、もっともなことです」と彼は言った。 言いたい。またアポルロンに向かって彼がこう言ったと信 ずるのも 五「それでは次のことをわれわれは信じてもならないし、 あやま あなたは私を過らせた、 また語るのを許してもならないことになる、つまり、。ホセ 遠矢を射給う神よ、 イドンの息子のテセウスやゼウスの息子の。ヘイリッスがあ あらゆる神々のうちで最も破減をもたらし給う神よ、 んなに恐るべき掠奪へ勇んで赴いたられ、 7 レネを搬奪し、 またベルセポネを誘拐 あなたに実際復讐するだろう、 しようとした、というとか、また神のその他の息子や英雄神 もし私にその力が備わっていれば が、今日彼らについて嘘をついて人々の言っているよう 一一二巻、一五行〕 な、恐るべきことや不敬なことを敢えてなすことができた また神である河に〔弩づ第 ' 河「イリ彼は服従しない で、闘う用意があったということを、またさらに他の河ス と力いうことをね。いや、むしろわれわれは詩人たちを ベルケイオスに捧げられていた彼の髪の毛について、屍で強制して、あるいはそれらがこれらの人々の仕事であると あった英雄。 ( トロクレスに髪の毛を贈って、一緒に持ち去か、あるいはこれらの人々が神々の子供たちであるとか主 と言って、彼が実際そうしたとい 張させないように、あるいはまたその両方のことを言わせ らせ度い〔一五一 ないように、あるいはまたわれわれの青年達を説得して、 うことを信じてはならない。またさらにヘクトルを。ハトロ クレスの墓をめぐって引きまわしたこと 〔同上、二四巻、 一四行以下〕や神々が悪いものを生み出すということや、英雄神たちが人 間たちより少しも優れたものではないということを、信じ 捕虜を虐殺して火葬用の薪に投じたこと 〔一七五ー六行〕な ど、これらすべては真実を語ったものと言うべきではな させようと企てることのないように、しなければならない。 また最も思慮があってゼウスの孫であったペ . レウスと というのはこれはさきのところ〔一 、 = 一八〇。〕で言 0 たこと・ だが、それは敬虔なことでも真実なことでもないからた。 女神の間に生まれ、最も賢いケイ。ンに育てられた〔鴃←
「じゃ、また、他に、ライオンの姿を一つ、人間の姿を一 合ったりするままにしておくようなことにするのが、彼に っ作ってくれ。そして最初の者はすっと一番大きなものとって利のあることだ、ということだ、とね」 に、第一一の者は第二番目に大きなものとしてくれ」 「ええ、全くたしかに」と彼は言った、「そういうことを 「それらは」と彼は言った、「前のより容易です。もう造 言うことになるでしよう、不正をすることを賞讃する人 られました」 は、ね」 「他方、正しいことをなすことが利のあることだと言う人 「それじゃ、それら三つあるものを、一つにくつつけて、 はこういうことを主張するのではなかろうか、すなわち、 何とか生まれながらお互いに一緒にくつついているように 人がなしたり、言ったりしなければならぬのは、内なる人 してくれ」 間がその人間のうちで一番勢力のあるものとなるようにな 「もう、くつつけられました」と彼は言った。 「じゃ、それらの囲りに外から一つのものの似像、すなわり、そしてライオンの種族は味方にして、ちょうど野菜は ち人間の似像を造って、それが内部のものを見ることがで育てて培うが、野草は生長するのを妨げる百姓のように、 ふうたい きないで、ただ外部の風袋ばかりを見る者には、一つの動多頭の動物の面倒を見るようになり、そしてまたそれらす べての動物のために、すべてのものに共通な配慮をし、お 物、すなわち人間に見えるようにしてくれ」 互いにも自分自身にも親しいものにした上で、育てるよう 「囲りに造られました」と彼は言った。 になるのに寄与することである、ということをね」 「じゃ、われわれは、この人間にとって不正をすることは 「ええ、たしかにそれらが、他方において、正しいことを 利があるが、しかし正しいことをなすのは有利でない、と 賞讃する人の言うことですよ」 言う人に言おうじゃないか、君の主張するのは、ほかじゃ ない、あのいろいろのものからなる動物やライオンやライ 「じゃ、どんな点から見ても、正しいことを賞讃する人 オンの一党にはご馳走してカの強いものにするが、しかし は、真実のことを言っているが、しかし不正なことを賞讃 人間は飢えさせて弱いものにし、その結果、そいつらのど弸する人は偽りを言っていることになるだろう。実際、快楽。 ちらでもがどこへなりと導いていこうとするところへひっ の点から考察してみても、好評の点から考察してみても、 ばっていかれるようなことにし、そしてその一方を他方に 利益の点から考察してみても、正しいことの賞讃者は本当 8 慣れさせて、親しくさせることができないで、むしろそれのことを言っているが、非難者は、何も健全なことを言わ らが自分達同士の間で咬み合ったり、争ってお互いに食い ず、また何を非難しているかも知らずに、非難しているの
時には悪しきものに彼は出合い、時には善きものに出 「しかしどうだ。善いものは有益だね」 合う 「ええ」 しかしそうでなくて、悪い方を混合しないままで与える 「従って幸福の原因だね」 「ええ」 「従って善いものはあらゆるものの原因ではなくて、善く 悪しき飢餓は彼を駆り立てて、 「イリアス』二四巻、 あるものの原因ではあるが、悪くあるものの非原因である 聖なる土地の上を漂わす 五二七ー五三二行」 ということになる」 またゼウスはわれわれにとって、 善きものと悪しきものの分配者である 「ええ、全くです」と彼は言った。 ということも受け入れてはならない。 「従って神は、善いものである以上、多くの人々の言うよ うに、あらゆるものの原因ではなくて、人間にとっては少 数のものの原因者で、多数のものの非原因者であるわけだ。 一九またパンダロス〔人。。休戦の誓を破 0 て、ギリシアの将 , ネラオス に矢傷を というのはわれわれにとっては、善いものは悪いものより 〕の破「た誓約や契約の破棄がアテナやゼウスのせ 負わせた はるかに少数であり、また善いものの原囚としては神より いで生じたのだと誰かが言う 「イリアス』四〕なら、われわ ほかの何ものをも、求むべきではなく、他方悪いものの原れは賞讃すべきではない、また神々の争いや諍い〔あるい 因には、神ではなくて、何か他のものを求むべきだから は判定〕〔「ⅵリア』二〇巻、一〇ー七四行を指す、と一般には解され だ」と私は言った。 によるその判定を指す、と解されているとが、テミスとゼウスとの 「あなたの仰っしやるのは全く本当だと思いますーと彼は せいで生じたと言うなら、賛成すべきではない。またアイ スキュロスが語っていることを、青年たちに聞かせてはな 一一「ロった。 「従って」と私は言った、「ホメロスからもその他の詩人らない、それはこうだが からも神々についてのその過ちを受け入れてはならない、 神ははかなき人間に罪を植えつけ給う 断片 彼は過ちを犯して、こう言っているのだが 或る家を全く減ぼそうと望まれる時。 二つの酒壺、運命を充たしてゼウスの門にあり しかしもし人がこのイアンポス 3 の詩が含まれてい 一つは善き運命を、されど他は悪しきそれを充たしてるような詩を、 = オペの災難〔イ王ア、ビ・オ , の妻となり多数の男 女を設け、これを誇って、ただアポルロンとアルテミスの二子しかあげなか そしてゼウスが誰かにその両者を混合して与えると、 ったレトを嘲ったため、この二子の矢にその子供は殺され、彼女自身は石に と、
らを呼び迎えるのだろうか」 るか、誰が思慮深いか、誰が金持ちであるか、鋭く見なけ 「自分の方からひとりでに」と彼は言った、「多くの者が ればならないことになる。そして彼はこれらすべての人々 飛んでくるでしよう、もし彼が報酬を出しますなら、ね」 に対して、自ら好むと好まざるとに拘らず、敵となって、 陰謀を企らまざるを得ないほどに幸福なんだよ、国を綺麗「君の言っているのは」と私は言った、「きっと、また外。 国産の種々雑多な一種の雄蜂のことだろう、私には君はそ に浄めるまでは、ね」 う見えるよ」 「ええ、ほんとに結構な浄めですよ」と彼は言った。 「ええ、私があなたに見えているところは本当ですよ」と 「うん、そうだよ」と私は言った、「医者が身体を浄める のとは正反対のね。だって、医者は最も悪いものを取り除彼は言った。 「だが、どうだね。当の国からは欲するのではなかろうか いて、最も善いものを残すのだが、彼はその反対だから 「ええ、どうもーと彼は言った、「彼が支配しようとする 「どういう風にですか」 以上は、それは彼にとって必然のことのようです」 「奴隷たちを国民たちから取り上げて、自由民にした上、 自分を取り巻く親衛隊に組み入れることを、さ」 「それは大いに」と彼は言った、「たしかにこの連中は彼 入「それじゃ」と私は言った、「彼は至極結構な必然によ にもうこの上なく忠実ですからね , って縛られていることになるね、それは、彼に多数のくだ 「これは、ほんとうに至極結構なものだろうよ」と私は言 らない者たちと一緒に、しかもこれらの人々によって憎ま った、「君の言う僣主なんて奴はさ、もしあの以前の友人 れながら住むか、それとも生きないかのいずれかを命する たちは亡ぼして、こういった連中と、友人や忠実な人間と 必然だものね」 して交わることになるのだとすれば、ねー 「ええ、そのような必然によってね」と彼は言った。 家 「ところが」と彼は言った、「そういった連中と交わるん 「それでは、そういうことをすることによって国民たちに 嫌われれば嫌われるだけ、一そう多数の、一そう忠実な親ですよ」 国 「そうして」と私は言った、「きっと、これらの仲間たち 衛隊を必要とすることになるのではなかろうか」 は彼を賞讃し、この新国民は彼と一緒になるが、しかし立 「ええ、もちろんですー 「それなら、忠実な者たちは誰なのか。そして何処から彼派な人々は憎んで、避けるね」
「その上たしかにまた、人は、たくさんのいろいろさまざ。 るのだもの」 まな欲望や快楽や苦痛は、子供たちや女たちゃ奴隷たちの 「それはもちろんです」 「しかし」と私は言った、「私の見るところでは、この言うちに、またいわゆる自由人たちのうちの多数の下品な人 葉が言おうとしていることは、人間そのもののうちに、魂人のうちに一番多く見出すだろう」 「ええ、全くです」 の何か或る部分はより優ったものとして、或る部分はより 劣ったものとして、あるということであって、そして本性「然るに単純で適度な欲望ーー実にこれらは理性や正しい 意見に従い、思惟によって導かれるものだが、それには少 上より優ったものがより劣ったものの征服者である場合、 そのことを自分自身に打ち勝った者という表現は意味して数の、非常に優れた素質をもち、また非常に優れた教育を 受けた人々のうちで君は出遇うだろう」 いる。・ーーーというのはその表現は賞讃の言葉だからーーが、 「ええ、本当に」と彼は言った。 しかし悪い養育のせいでなり、何らかの交際のせいでなり、 より優った者の方が小さくって、より劣った者の多勢によ って打ち負かされた場合、このことをこの言葉は非難のつ 九「それらのことも、君の国のうちにあって、そこでは多 もりで咎めて、そしてこのような状態にある者を自分自身数の下賤な人々のうちにある欲望が、より少数のより優れ に負けた者、放縦な者と呼んでいるようだ」 た人々のうちにある欲望と思慮とによって打ち負かされて いるのを、見はしないか」 「ええ、たしかにそのようです」と彼は言った。 「ええ、見ます」と彼は言った。 「それでは」と私は言った ( 「われわれの新しい国の方を 「それでは、もし或る国を、快楽や欲望に打ち勝っている 眺め給え、するとその国のうちに、これらの一方があるの もの、自分が自分自身に打ち勝っているものと呼ばなけれ を見出すだろう。というのはその国が正当にも自分自身に 打ち勝った者と呼ばれ得る、と君は主張するだろうから ばならないとすれば、この国も、そう呼ばなければならな ね、苟しくも自分のより善い部分がより劣った部分を支配 する者を節制のある者、自分自身に打ち勝った者と呼ばれ 「ええ、全くそうです」と彼は言った。 国なければならない以上はね」 「それなら、それらすべての理由によって、また節制のあ るものとも呼ばなければならぬのではないか」 「ええ、眺めますーと彼は言った、「そしてあなたの仰っ 「ええ、全く」と彼は言った。 しやる通りです」
「それじゃ、親しいアディマントス君」と私は言った、 「いや、断じてそうでないということは、ありません」と 彼は言った。 「それを絶対に投げ出しちゃいけないね、たといその考察 「だが、しかし愛学的であることと愛知的であることと が一そう長いものであっても」 は、同じだね」と私は言った。 「ええ、たしかにいけません」 「たしかに同じです」と彼は言った。 「では、来た、一つ、あたかもわれわれが物語を語って、 「それでは恐れるところなく、われわれはまた人間におい それで閑をつぶす者のように、言論の上でその人々を教育 ても、もし人が身内の知った人々に対しては温和であろう。してみることにしよう」 とするなら、生まれつき彼は愛知的で、また愛学的でなけ「ええ、そうしなけれはなりません」 ればならないとしよう」 「そうしましようーと彼は言った。 宅「では、その教育は何であるか。それとも多くの時間 「では、国の優秀な守護者になろうとする者はその本性が によって発見された教育よりも優れたものを発見するのは 愛知的で、気概があって、速くて、強力であるべきだ」 困難であるか。しかし思うに、身体のための教育は体操術 「たしかにそうです」と彼は言った。 であり、魂のための教育は音楽であろう」 「では彼は以上のような性質のものであるだろう。が、し 「たしかにそうです」 かし彼はどのような仕方で、いったい、養育され、教育さる 「ところで教育は体操術より先に、音楽術によって始むべ べきであろうか。そしてそのことを考察するなら、われわきではないか」 れがすべてのことを考察するに当たって目的としたこと、 「もちろんですー すなわち正義と不正義とはどんな仕方で国の中に生ずるか 「しかし音楽のうちに、君は文学を含めるかね、それと ということを、よく見ることに対して、われわれにはたしても ? ・ーと私は言った。 それは何か役立つかね。ーーと聞くのは、充分に議論をつく 「含めます」 こ及んだりしないためなんだよ」 さなかったり、余分な議論冫 「しかし文学には一一種類あって、一つは真実のもので、他 すると、グラウコンの兄弟が言った、「そうです、少な の一つは偽りのものだね」 くとも私はその考察はそのことのために役立つものと予期「そうです」 します」 「しかしその両方の文学において教育すべきだが、 先す初