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検索対象: 世界の大思想1 プラトン
208件見つかりました。

1. 世界の大思想1 プラトン

「それならまた、今さっき雄蜂と名づけた者はこのような 要なものじゃないだろうか」 快楽や欲望でいつばいになっていて、不必要な欲望によっ 「そうだと思います」 「思うに、。 こ飯に対する欲望は、両方の点で、すなわち有て支配されている者のことを言ったのだが、必要な欲望に 益なものであるという点と〔もしその欲望を充たさなけれよって支配されている者のことをけちん坊で寡頭繝的な者 ば〕生きてゆくのを止めさせ得るという点で、必要なものと言ったのだね」 「ええ、もちろんです」 であろう」 「しかしおかずに対する欲望は、健在に対して何らかの益三「では、もとへ戻って」と私は言った、「寡頭制的な人 を何らかの点で提供するなら、そうだろう」 間から民主繝的な人間がどうして生じてくるか、われわれ 「ええ、全くです」 は話すことにしよう。そしてそれは大抵つぎのような仕方 「しかし、これらのものを超えて、このようなものとは異で生じてくるように私には見えるよ」 なったような食物に対するものであって、若い頃から懲ら 「どういうようにしてですか」 され教育されることによって多くの人々から去らせること 「若者が、今さっきわれわれが述べたような仕方で、すな ができ、一方身体には有害であり、また他方思慮と節制とわち無教育に、けちん坊に育てられた後で、雄蜂の蜜を味 から見て精神にも有害である欲望はどうだね。不必要なもわい、そしていろいろで種々様々な色を持ち、いろいろな のと呼ばれるのが正しくはないだろうか」 状態にある快楽を調達する腕前を持った猛烈な動物と交際 「ええ、非常に正しいです」 する時、おそらくそこで自分自身のうちにある寡頭制から 「それなら、これらはまた消費的なものであるが、しかし民主への変化の初めを彼は持っことになると思い給え」 あのものは仕事の生産にとって有益なものであるので、生「全く必然的なことです」と彼は言った。 家 産的と呼ぶべきではないか」 「それでは、国の変化するのは外からの同じような性質の 「もちろんです」 援軍が一方の同じような性質の部分を援けた時だったが、 「じゃ、性欲についてもその他の欲についても、そう言うちょうどそのように、若者が変化するのもまたそれで、外 3 べきだろう」 からの同族の同じような性質の欲望の種類が、彼のうちに 「そうです , ある欲望の一方の種類を援ける時に、ではないか」

2. 世界の大思想1 プラトン

非難する人々は、誰でもが力を手に収めるや否や、直ちに これらのことを、ソクラテスさん、いや、おそらくまた できる限りの不正をするからです。そしてこれらすべてのもっとこれらよりたくさんのことを、トラシュマコスさん ことの原因は他でもないあの事情なのです、つまりそこかや誰か他の人が正義や不正義について弁じるでしようよ、 ら出発して、この男〔グラウコン〕の言論も私の言論もその少なくとも私の思うところでは、無躾けにそれらの力をあ 全部が、ソクラテスさん、あなたに向かって語られることべこべにすることによりましてね。しかし私としましては あなたに何も隠す必要がないので言いますが・ーー・あなト になった事情なのです。それはこうです、『何と驚くでは たから彼らの言うのとは、反対のことをお聞きしたいと思 ないか、その言葉が今日まで残っている昔の英雄神たちか って、できる限り一生懸命になって語っているのです。だ ら初めて、今日の人間にいたるまで、正義の賞讃者と称して いる諸君のうち、誰一人としていまだかって不正義を非難からわれわれのために言論によって、正義は不正義よりも し、正義を賞讃するのに、それらから生じてくる評判や名優れているということだけではなく、その両者はそれを有 している者をそれ自身としてそれ自身によって何にするが 声や褒美を云々する以外の仕方によったものはなかった。 しかしその両者のそれそれがそれをもっている人の魂のう故に、一方は悪いものであり、他方は善いものであるかとい うことを、示して下さい。つまりグラウコンがお願いした ちにあって、神々にも人間たちにも気づかれない場合に、 ように、思われを取り去って下さい。というのはもしあな 自分の力によって自分としては何をなすかということを、 たが両者から真実に一致した思われを取り去り、真実に反 つまり一方不正義は魂がそれ自身のうちに有しているすべ ての悪のうちで最大のものであり、他方正義は最大の善でした思われを付け加えようとなさらないなら、あなたは正 あるということを、誰一人としていまだかって詩においてしくあることではなくて、正しくあると思われることを賞 讃し、また不正であることではなくて、不正であると思われ も世間の話においても、言論によって充分に論じた者はな かった。というのは、もしそういう風に最初から諸君のすることを非難するものであり、また不正であることに気づ。 べてによって論じられて、われわれを若い頃から諸君が説かれないことを奨励するものであり、そしてトラシュマコ スさんに同意して、正しいこととは他人の善であり、優者 得していたなら、不正をしないようにお互いを警戒し合う ことはなく、却って各自が不正をなして最大の悪の同居人の利益であるが、不正なこととは自分には益のあるもの、 になることを恐れて、自分で自分を最もまく警戒したこと 利のあるものであるが、劣者には益のないものであるとい であろうから」 うことを認めるものだ、とわれわれは主張するでしよう。

3. 世界の大思想1 プラトン

貧乏人が金持ちによってここでは決して軽蔑されない時てきめられる時に、なのだ」 いや、むしろ痩せて日焼けした貧しい男が、日蔭育ち 「ええ、たしかに」と彼は言った、「それが民主制の樹立 の多くの贅肉を持 0 た金持ちと並んで戦闘部署につけられです、たとえ、武器によってできましようと、あるいは恐 て、彼が息切れと困惑とでいつばいなのを見る時に、貧乏怖によって他方のものが引き退るためにできましようと、 人はこのような人間どもが金を持っているのは自分たちのね」 卑怯のせいだと考え、自分たちだけで一緒になった折りに、 一人は他の一人に相伝えて「奴さんらはこっちのものだ = 「それなら、いったい」と私は言った、「これらの人々 よ。碌でもない奴なんだから』と言うとは思わないかね」 はどんな仕方で暮らしているか。さらにまたそのような国 「いや、私はよく知っていますよ」と彼は言った、「彼ら 制はどのようなものであるか。これを問題にするのは、も がそうすることをね」 ちろん、それによってそのような人間は民主制的なものだ 「それじゃ、病的な身体が病気になるには外からほんのちということが、明らかにされることになるからだよ」 よっとした影響を受けさえすればいし ように、しかし、ま 「ええ、もちろんです」と彼は言った。 た時には外からのものがなくとも、自分で自分に内訌を起「ところで、先ず第一には、それらの人々は自由であっ こすことがあるように、それと同じような状態にある国もて、その国は自由と言論の自由とに充ちたものとなり、そ 些細なきっかけから、すなわち一方が寡頭制の国からなり、 こでは何でも好き勝手なことをなすことが許されるのでは あるいは他方が民主制の国からなり、ともかく外から味方ないか」 を引き入れるなら、病気になって、自分で自分と戦うので 「ええ、たしかにそう言われています」と彼は言った。 。なしか、しかしまた時には外からのものがなくとも内乱「しかしそういうことが許されるところなら、明らかに、 を起こすことがあるのではないか」 めいめいの者は何でもめいめいの気に入った自分の固有な 「ええ、大いにそうです」 生活設計を、そこでは立てることができるだろう」 「じゃ、民主制が生じてくるのは、思うに、貧乏人たちが 「ええ、明らかにそうです」 勝利を得て、他方の者たちをあるいは殺しあるいは追放す「それじゃ、私は思うが、その国制においてはいろいろさ るが、残りの者たちには平等に国民権と支配の役とを分ちまざまな人間たちが一番多く生じてくるだろう」 与え、国におけるそれらの役が、大概の場合、籤に基づい 「ええ、もちろんです」 5

4. 世界の大思想1 プラトン

家 22 ] 国 と、明瞭、不明瞭の点で相互にくらべてみた場合、見られて、さきの部分には関係のあった似像を用いすに、エイド るものの範囲では、分割されたものの一方は似像であろうス〔形相〕そのものをそれだけで用いて研究するのを強い られることになる他の部分ーー無仮定の初めの方へ向かっ そして私が似像と言っているのは、先す第一に影のこ加 とであり、第一一に、水や、きめのつんだ滑らかな明るい組た部分ー、ーとに分割される仕方なのだ」 「あなたの仰っしやることは」と彼は言った、「充分には 織を持ったものや、のうちに写る映像、及びすべてそのよ うなもののことである、もし君が分ってくれるなら 分りませんでした」 「ええ、分りますー 「そうかね、それは後廻しにしよう」と私は言った、「こ。 「それなら、他方は、それが似ている当のもの、すなわちれらのことをさきに言っておいたら、それは分り易くなる われわれの周囲の動物や植物や道具の種族全部だ、としてだろうからね。つまり、君は知っていることと思うが、幾 何学や計算やそのような学間の研究者たちは奇数、偶数、 くれ給え」 いろいろの図形、三種類の角、あるいはその他それぞれの 「ええ、そうします」と彼は言った。 「どうだね、君はまた見られるものに関して、真理不真理研究部門におけるそれらに類似のものを仮設し、それら の点から見ると、類似させられたものは、類似させられたを、自分たちは知っているものとして、それらを仮設と し、誰にでも明らかなことだと思って、自分たちに対して 当のものに対して、ちょうど可臆見的なものが可知的なも のに対して有するのと同じ比例で、分割されている、と主も、他の人々に対しても、それらについては、何らの説明 をも与えることは、もはや求めない、むしろそれらから出 張しようと望むだろう」 発して、直ちにその残りのものを、整合的に追求していき 「ええ、私はたしかにそう主張します」と彼は言った。 「それじや他方、可思惟的なものの分割についても、それながら、ついに、それの考察を目ざして出かけたところの ものヘ到達するのだ」 がどういう仕方で分割されねばならないか、考察し給え」 「ええ、全くですーと彼は言った、「そのことなら、知っ 「それはどんな仕方なのですか」 「それは、魂があの時模倣されたものを〔動植物等《を指す 。の〕ています」 「それなら、またこういうことを知っていると思うが、そ 似像として用い、仮設から出発して、初めの方へではなく て、終わりの方へ向かって進んでいきながら、探究するのれらの学間は限に見られる形態を使用し、をれらについて を強いられることになる部分と、反対に、仮設から出し議論をするけれど、実際に考えるのはそれらについてでは

5. 世界の大思想1 プラトン

「仰っしやる通りですーと彼は言った。 せよ、或るものに同じようなものを、同じようなものだと 「それではこんな仕方で」と私は言った、「区別する、つ 思わないで、それが似ている当のものであると考える場合 まり、一方には今さっき君の言ったもの、すなわち愛観者のことではないか」 や愛技者や実行者を別に、他方には今話題になっている 「ともかく私は」と彼は言った、「そのような人は夢を見 者、すなわちその人々だけが愛知者と呼んで間違いない者ているのだ、と言うでしよう」 を別に分ける」 「しかしどうだ。これらの人々とは反対に、何か美そのも 「と、仰っしやると、それはどういうことですか」と彼は のを信じ、それをも、それに与かる事物をも、はっきりと 一一一口った。 見ることができて、与かる事物をそれだとも、またそれを 「思うに、一方の人々は」と私は言った、「美しい声や色与かる事物だとも考えない人ーーこの人は、今度は君には 眼を醒まして生きていると思われるかね、それとも夢を見 や形やそのようなものから製作されたものを歓迎するが、 て、とかね」 しかし美そのものの本性を彼らの心は見て歓迎することは 「それはたしかに眼を醒まして、です」と彼は言った。 できないのだ」 「それではこの人の心の働きは、知識する人のそれとし 「ええ、それはたしかに実際その通りですよ」と彼は言っ て、認識だと言い、他方の人の心の働きは、臆見する人の 「しかしね、美そのものに向かって進んでいき、それをそそれとして、臆見だと言うなら、正しいだろうか」 「ええ、全く」 れだけで見ることのできる人々は珍しいのではなかろう 「すると、臆見はするが、しかし知識はしないとわれわれ 。の言うこの男がわれわれに腹を立てて、われわれの言うこ 「ええ、全くです」 とは本当でない、と異議を中立てるなら、どうだ。われわ 「それでは、美しい事物は信ずるが、しかし美そのものは 信じもせず、また誰かがそれの認識へ導いてくれても、つれは、彼に何とかなだめの言葉を言って、静かに説得する いていくこともできない者は、夢を見て、生きていると君ことができるだろうか、彼が健全でないということは、彼 国 にかくしてね には思われるかね、それとも眼を醒まして、とかね。 「それは、もう何としても、やらなければなりません」と や、考えて見給え、夢を見るというのはこんなことではな いのか、つまり、誰かが夢を見てにせよ、眼を醒ましてに彼は言った。

6. 世界の大思想1 プラトン

ころ、正義のうちにあくまでも止まり、敢えて他の人々のしようから。では人々の言うのは、こういうようなことで ものから手を控えて触れないほどに道徳堅固なものは誰一す。 人ありますまい、彼には市場から何でも欲するところのも のを、恐れるところなく取ることも、また家の中に入りこ 四しかしわれわれの語っている人々の生活についての判。 んで誰とでも欲するところのものと一緒に寝ることも、ま 定そのものは、というと、もし最も正しい人と最も不正な た誰をでも欲するところのものを殺すことも、牢獄から解人とを対置するならば、正しく判定することができるでし 放することもでき、またその他神に等しい者として、人間 よう。でなければ、できません。それならその対置は何で のうちにあって何でもなすことができるのに。そしてこうあるか。それはこうです。不正な人の不正義からも、また いうことを為す点において一方の人は他方から少しも異な 正しい人の正義からも何一つ引き去らないで、両者それそ らず、両方とも同じところへ赴くでしよう。たしかにこのれを自分の生き方にかけては完全無欠なるものと仮定しま ことを大きな証拠として、人は主張するでしよう。誰一人しよう、すると、第一に、不正な人は、優れた専門家のよ 自ら進んで正しくあるのではない、むしろ正義は個人的に うに振舞わしめなくてはなりませんーー例えば一流の船長 は善いものではないから、強制されてである、何故なら各や医者は、その技術における不可能なことと可能なことを 人は不正をなすことができるだろうと思うところでは、、 見分け、後者は企て、前者はよす者なのです。が、また、咄 つも不正をするものであるが故に、と。というのは実際すもしひょっとして過ちを犯すなら、それを矯正するに足る べての人々は不正義は正義よりも個人的には遙かに多く得者ですーーそういう風に不正な人も不正事を正しく見分け のいくものであると思っているからです。しかもその思うて、それを見つからないように企てさせなければなりませ ところは、このような種類の言論について語った人の言うん、もし極端に不正な者であるべきならば、ですね。しか し捕えられる者はヘまな奴だと考えなければなりません。 ところによれば、本当なのです。何故ならば、もしひとが というのは事実そうでないのに、正しい者であると思われ 家このような自由を手に入れながら、不正なことは何一つな すことを決して欲せず、また他人のものに触れないなら、 るということが極端な不正なのですから。だから完全に不 国それを知る人々は彼を最も惨めで最も考えのない者だと思正な人には完全な不正義を与えなければなりません、そし て何一つ引き去らずに、最大の不正事をしながら正義に関 うでしようが、しかし不正をなされることに対する恐怖の ために、お互いの前ではお互いに欺し合って彼を賞めるでする最大の名声を自分にもたらす者であることを、許さな

7. 世界の大思想1 プラトン

「それはそうです」 はさらにこのような人間の性格を知って、彼を判定するた % 「じゃそれらの理由によって、思うに、このような人は多めに、他の者と並べて立てるためなのだ」 くの人々よりもお上品だろう。しかし和合的な調和のある 「そうすれば」と彼は言った、「今までのわれわれ自身と 魂の真の徳は、彼らから何処か遠くへ逃れ去っているだろ同じように進むことになるでしよう」 「ところで」と私は言った、「ともかく国制が寡頭制から - 目 「そう私には思われます」 民主制へと変化するのは何か次の仕方ではないか、 「その上このけちん坊は、何らかの勝利や何らかの立派な分の前におかれた善いこと、すなわちできるだけ金持ちに きそ 功名を国において自分の費用で競う相手としては、取るに なるということに対する飽くを知らぬ欲望のために、ね」 足らぬ者なのだ。よい評判やそのような競技のために消費「いったい、どういう仕方でですか」 することは、消費的な欲望を呼びさまし、励まして、とも 「思うに、その国制では役人は多くのものを所有している。 に勝利のために戦わせたり競わせたりすることになりはし ということによってその役にあるのだから、青年たちのう ないかと恐れて、それを欲しないから、自分の極く少しのちに、放蕩者が出てくる場合、法律を以て彼らには自分の らしく戦うので、 ものを使ったり失くしたりすることを許さすと、禁じるこ 財産を以て寡頭制電の ~ 五五一。参照 たいてい敗かされる、しかも依然として金持ちだ」 とを望まないのだ、それはこのような青年たちのものを買 ったり、それを抵当に金を貸したりして一そう金持ちにな 「ええ、全くそうです」と彼は言った。 「それならなお」と私は言った、「われわれはけちん坊やり、一そう尊敬される者になるためなんだが、ね」 金儲けをする人が、同様であるという点から見て、寡頭制「ええ、それは何より確なことです」 に配されているということを信じないかね」 「ところで、国において、このことは、すなわち、富を尊 「いや、決して信じないなんてことはありません」と彼は敬すると同時に国民の間に節制を充分に所有していること 言った。 は、可能ではなくて、むしろ一方か、さもなければ、他方 をゆるがせにすることは必然だ、ということは直ちに明ら かではないか」 一 0 「それでは民主制を、どうも、次には考察しなければ ならないようだ、どんな仕方で生じてくるか、また生じて 「ええ、かなり明らかです」と彼は言った。 きてからは、どのような性格を持っているか、とね。それ 「それじゃ、寡頭制においては役人たちが、放蕩するのを

8. 世界の大思想1 プラトン

338 た。家へ運ばれて十一一日目に火葬にされようとして薪積のれらの魂は嬉しそうに牧場へ立ち去っていって、あたかも 上に横たえられていた時に、生きかえった。そして生きか お祭の際のように、野宿し、そして知り合いの魂はみな互 えった上で、彼は、あの世で見たことを語った。彼の言っ いに挨拶を交わして、大地から来た魂は別の魂からあちら たのはこうだ。自分から抜け出した時に、彼の魂は多くの のことを訊き、天からきた魂はそれらの魂に起こったこと 魂と一緒に路を進んでいって、彼らは或る不思議な場所にを訊いた。そして互いに、一方の魂は、地下の旅路ーーその 到着した。その場所には大地の二つの裂け目があって、互旅路は千年を要するものだがーー・でどれだけの、またどの いに相接し、他方、上の方にそれと相向かって、天の二つ ような苦しみを嘗めたり、見たりしたかを想い出しながら、 の裂け目があった。これらの裂け目の間に裁判官たちが坐悲しんだり泣いたりして物語り、他方天からきた魂は善い っていた。彼らは裁判をした時に、下された判決をあらわ目に遭ったことや途方もない美しい眺めを見たことを物語 す徴しを前につけてやって、正しい者たちには、右の、天った。ところで、グラウコン君、その多くのことを物語る を通って上へ行く道を進んでいけと命じた。しかし不正な のには、多くの時間を要するが、しかしともかくその主要 者たちには、左の下へいく道を進んでいけと命じた。これなことはこうだと彼は言ったよ。各自がかって或る人に加 らの者たちも彼らがなしたことをあらわす徴しを、後ろに えたそれぞれの不正、また各自がそういうことをしたそれ もっていた。しかし彼自身が近寄ると、裁判官たちは、彼ぞれの人、それらすべてのために刑罰を順次に受けていた があの世のことを人間たちに報告する使者とならなければ が、それぞれの不正に対して十度、すなわち、人生の期間 ならぬ、そしてその場所の一切のことを聞いたり見物したを百年として、その期間に一度ずつ刑罰を受けた、それは りせよと彼に命ずる、と裁判官たちは言った。だから、見不正事の刑罰を十倍支払うためである。例えば、もし、或 ると、そこでは、天と地のそれそれ一方の裂け目によって、 る人々が、国や軍隊を裏切ることによって、多数の人々に 魂どもが、判決を下されると立ち去っていったが、他の一一対し、その死の責任者であったり、あるいは奴隷状態にお つの裂け目によっては、どうかと言うと、一つの裂け目から としいれたり、あるいは何かその他の悪行の共同責任者で は、汚れや埃にまみれた魂が大地から上ってきたし、他方あったなら、それらすべてのそれそれのために十倍の苦し の裂け目からは、別の清らかな魂が天から下りてきたのでみを受け取るだろう、またもし他方いくつかの善行を施し あった。そしてそこにその時々に到着する魂はいずれも、 たことがあって、自分が正しい者であり、敬虔な者である ちょうど長い旅路から帰ってきたもののように見えた。そせことを示した者があれば、同様にそれ相応の報いを受け取 しる

9. 世界の大思想1 プラトン

て、そうしてやらねばならぬのに、ふいてやらず、お蔭で このような人がこのような人と共同する場合には、何処で 君ときたら、羊と羊飼の見分けもっかぬからだよ」と彼は でも、その共同関係が解体する時に、正しい人が不正な人 一一一口った。 よりもより多くのものではなくて、より少ないものを手に 「ええ、そんなことを、一体全体、なんで仰っしやるんで入れるのを見出すだろう。第二に、国に対することにおい すか」と私は言った。 ては、何らかの献納をする時には、正しい人は等しい持物 「それは、君が羊飼や牛飼は羊のための善や牛のための善のうちからより多くのものを献納し、他方はより少ないも のを献納する、また支給がなされる時には、一方は少しも を探求して、主人や自分のための善より他のものを目当て にしてそれらを肥らせ養っていると思い、そしてまた本当手に入れないが、他方は多くのものを獲得する。その上ま。 た、両者が何らかの役につく時には、正しい人々は、たと に支配者であるところの国の支配者は人が羊に対して抱く い他に損害は受けなくとも、自分の財産はなおざりのため 気持ちとは何か違った考えを被支配者に対して持ち、彼ら 自身がそれから利益を挙げ得るところのことより何か他の駄目な状態になるが、しかし正しい人間であるため国庫か ことを、夜昼通しで探求すると考えているからだよ。そしらは一文も儲けない、それに加えて身内の者や知人たちに て正しいことと正義、また不正なことと不正義について如 は、彼が正しさに背いて彼らに少しも奉仕する気のない時 には、憎まれることになる。然るに不正な人にはこれらと 何にもご造詣が深くて、正義や正しいこととは、実は他人の 善、すなわち強者で支配している者の利益であるが、服従はすべて反対のことが起こることになる。というのはここ に不正な人というのは私がさっき言ったちょうどその人、 して奉仕している者の身に蒙る損害であり、不正義はこれ と正反対であるということ、そして支配者は、本当にお人すなわち大がかりに多くのものを取ることのできる人々の 好しの正しい人々を支配し、被支配者たちは強者であるそことであるから。だからこの人を考察して見給え、もし不 の男の利益をなし、その男に奉仕しながら、彼を幸福にす正であることが自分にとって個人的には、正しい人に比べ、 るが、しかし自分自身を決して幸福にしない、ということどれだけ多くの利益になるかを判断しようと、君が思うな をご承知ない。しかし、ソクラテス君、君は大変のお人好らば、ね。そしてそのことを何にもまして最も容易に学ぶ ことのできるのは、不正を犯した者を最も幸福な者にする しだが、こういう風にして、正しい人が不正な人よりあら しかし不正を働かれて、しかも不正をなすことを欲し 、カ ゆるところで損をするということを考えてみなければなら ない。第一に、お互いに対してなされる商契約においては、得ない人々を最も不幸にする最も完全な不正の許に行って

10. 世界の大思想1 プラトン

して、自由をたくさん提供してくれないと、彼らを、けし ような事情のもとでは、生徒を恐れて、へつらい、生徒は からぬ寡頭制的な奴だと非難して懲らしめるだろう」 先生を軽んじる、また子守役に対しても同様だ。そして一 「ええ、たしかにそんなことをします」と彼は言った。 般的に言って、若者たちは言論においても行為においても 「然るに」と私は言った、「支配者たちに従順な者たちは、年長者を真似て、張り合い、老人たちは若者たちに調子を これらを隷属を好む碌でなしだと罵るが、一方では被支配合わせ、若者たちを模倣して、陽気さや頓智で自分をいっ 者たちと同じような支配者たちを、他方では支配者たちと ばいにするのだ、それが、いかさま、不愉快な奴だとか、 同じような被支配者たちを、私にも公けにも賞讃し、尊敬専制的な奴だとか思われないためなのだ」 するのだ。このような国においては、必ずや自由というも「ええ、全くです」と彼は言った。 のは、極端に走らざるを得ないのではないか」 「けれどもーと私は言った、「君、このような国のうちに 「それは、もちろんのことです」 生じる自由の量が極端に達するのは、買われた男や女の奴 「そして」と私は言った、「ねえ、君、無政府状態は個人隷が買った人々に劣らす自由である場合なのだ。しかし男 の家庭にも忍び込み、遂には動物のうちにまで生まれてこ たちに対して女たちのうちに、あるいはまた女たちに対し て男たちのうちに生じてくる権利の平等と自由とがどれほ ざるを得ないのだ」 ど大きなものであるか、すんでのところで言い忘れるとこ 「どういう意味で、われわれはそういうようなことを言う ろだったよ」 のですか」と彼は言った。 「それならアイスキ = 。スの言葉靈和牘〕に従「て」と。 「それはこのようなことだ」と私は言った、「父は子供と 同じようなものになって、息子たちを恐れるのが慣いとな彼は言った、「ちょうどいま、唇に上ってきたことを、そ るが、他方息子は、いかさま自由になるために父と同じよれがたとい何であっても言うべきではありませんか」 うなものになって、両親をはばかりもしなければ、恐がりも「うん全くだ」と私は言った、「そしてその言葉に従って しないのだ。また居留他国人は市民と等しく、市民は居留私がロにするところはこうなんだよ。つまり、人間どもに 他国人と等しくなり、また他国人も同様にそうなるのだ」属している動物のことだが、それがそこでは他のところに 国 おいてよりどれほど自由であるか、経験がないものなら、 「ええ、たしかにそうなります」と彼は言った。 誰も信じまい。実際、諺〔この諺は、女中がその性質においてキ婦 「それらのことや」と私は言「た、「また些細なことだが、 他にこのようなことも起こるのだ。つまり、先生は、この のように文字通り牝犬どもは女主人のような性質のものに