主権を持つ人民はそのよくなしうることのすべてを自分自 共和制において人民全体が主権を持っ場合は、それは民主 政である。主権が人民の一部の掌中にあるとき、これを貴族身でなすべきであり、そのよくなしえざるところは、これを その代理者達になさしめるべきである。 政という。 人民は、民主政においては、ある点について、君主であ かれの代理者達はかれが任命するのでなければかれのもの ではない。したが 9 て人民がその代理者すなわち為政者を任 り、他のある点については臣民である。 人民はその意志である投票によってのみ君主たりうる。主命することはこの政体の基本的格律である。 権者の意志が主権者自体である。したがって投票権を定める 人民は君主と同様に、否、君主以上にさえも、顧間府また 法はこの政体においては基本的なものである。事実、この政は元老院に指導される必要がある。しかしそれに信頼を持っ 体において、いかにして、だれによって、だれにたいして、 ためには、その構成員をかれが選ばねばならない。それらを 何事について投票が行なわれねばならぬかを規定すること人民自らアテネにおけるごとくに選ぶにせよ、またはローマ は、君主政においてだれが君主であるか、いかなる方法でか においてある場合に行なわれたごとくに、それらを選任する れは統治すべきかを知るのと同じ程度に重要なのである。 ためにかれが設けた政務官によって選ぶにしても。 ( 原注一 ) リニウスいわく、「アテネにおいては人民会議にまぎれ 人民は自己の権威のある部分を委託すべき人々を選任する こんだ外国人は死刑に処せられた」と。それは、こんな事をにたんのうなものである。かれは忘れんとして忘れえざる事 やった人間は主権を侵害したからである。 物と、明々白々なる事実とによって決定しさえすればよいの 諸議会を構成すべき市民の数を決定することは緊要であである。ある人間がしばしば従軍し、あれこれの功があった る。さもなければ人民が発言したのか、それともたんに人民ということを人民はよく知っている。したがってかれは将軍 の一部がしたのであるかを知ることができぬであろう。ス。ハ を選ぶ能力を十分に持っている。ある裁判官が職務に精励 ルタでは一万の市民が必要であった。弱小に生まれて強大に し、多くの人々がかれに満足してかれの法廷を去ること、ま いたったローマにおいては、運命のあらゆる有為転変を経験た、かって汚職の事実のなかったことを人民は知っている。 部すべく生まれ出たローマにおいては、あるときはそのほとん人民が裁判官を選ぶにはこれだけで十分である。人民がある アイディレス 一ど全市民を城壁の外に持ち、あるときは全イタリヤと世界の市民の豪奢や富に驚嘆したとすれば、それは公建造物総監を 第一部とを城壁の中に持ったローマにおいては、この定足数を選びうるにたりる。これらすべてのことがらは人民が公共広 ( 原注一一 ) 定めたことがなかった。そしてこれがその減亡の大原因の一場において、君主がその宮廷におけるよりも、よく知ってい るのである。しかし、政務を執行し、その場所・機会・瞬間 つであった。 プラエトール
人民はこの欺瞞について苦情を述べた。そこで護民官のマ る条項にしたがって判決するといわれていた ルクス・セン。フロニウスは元老院の権威によって、貸借に関 ガビニヤ法により州域の人々とローマ市民との間の利子付 しては、ローマ市民相互間に高利を禁する法は等しく市民と貸借が禁止され、そして後者が当時全世界の金を手の中に持 同盟国人またはラテン人の間にも適用されるという人民決議っていたから、法外な高利を餌にして、ローマ人が貪欲に目 バ ( らんで貸した金を踏み倒される危険を忘れさせるように を成立せしめた。 試みる必要があった。しかも、ローマには執政者を威嚇し、 この時代には、同盟国民と呼ばれたのはアル / 河とルビコ ン河にまで広がり、ローマ州域として統治されていない、固法を沈黙させる有力者がいたから、この人たちは金を貸すの により大胆であり、法外な高利をむさぼるにもより大胆であ 有な意味におけるイタリヤ諸人民のことであった。 った。その結果、州域はローマで勢力のあるすべてのやつら タキトスはいう、高利を阻止しようとして作らた法にた いする新手の欺瞞が絶えず作られた、と。同盟国人の名義のために交互に荒掠された。そして各知事はその州に入るや で、もはや貸したり借りたりできなくなると、州域の人間を命令を発し、その中で高利にたいして勝手な率を課したの で、貪欲は立法に手を貸し、立法は貪欲に手を貸したのであ 化けさせて、その名義を借りるのは容易なことであった。 このような違反にたいしては新たな法が必要であった。そった。 仕事はつねに進行しなければならぬ。国家の中ですべてが れで、ガビニウスは、投票における腐敗を阻止するのを目的 とした有名な法を作った時、それに成功する最良の方法は借活動しなくなれば、国家は死減する。都市、同業団体、組 この二つの 金を思い止まらせることだと考えたに相違ない。 合、個人も借金しなければならない場合があった。軍隊の掠 ことは本来結びついていた。なぜなら、選挙の時には金利は奪、役人の汚職、税務吏の恐喝その他、毎日のように作られ 必ず騰った。それは投票を買うために金銭が必要だったからて行く悪慣行の費用をまかなうためだけにせよ、痛切な借金 である。ガビニヤ法がセン。フロニウス元老院議決を州域に拡の必要を人々は持っていた。なぜなら、ローマ人はいまだか ってこんなに富んでいたことも、こんなに貧乏だったことも 大させたことは明らかだ。サラミス人がこの法のおかげで、 部 なかったからである。元老院は、執行権を持っていたから、 ローマで金を借りることができなかったのであるから。ブル ( 原注五 ) 四 ト , スは架空名義で、かれらに月四分で金を貸した。そしてそ必要上、またしばしば恩恵によって、ローマ市民から借りる 第のために二つの元老院議決をえた。その第一のものの中に許可をあたえた。そしてこのために元老院議決を作った。だ がこれらの元老院議決までも法によって権威を失わされた。 は、この貸付けは法律にたいする違反とはみなされないこ なぜならこれらの元老院議決は人民に新利率を要求する機会 と、シシリヤの総督はサラミス人の借用証書に記載されてい
無数の悪弊の結果である。これは一種の必要悪だが、制限政 することがある。だから、わが国では財産は夫または妻の ドトウバラフェルノ プロープル 特有財産、獲得財産または取得財産、嫁資、嫁資外婦産、父体の精神にさえも反するものとして、立法者は時々矯正す リーブル シュプスチ 方財産、母方財産、諸種の動産、無条件相続財産、限嗣相続る。なぜなら、人がやむなく裁判所に訴える必要があるの フランカル は、国家構造の性質からであって、法の矛盾や不安定によっ 財産、世襲財産と譲渡財産、貴族的自由所有地と平民的自由 所有地、地代と年金などである。それぞれの種類の財産は特てであってはならない。 人々の間に必然的に差別のある政体においては、特権がな 有の規則にしたがうから、それらを処分するにはそれらの規 ければならない。それはさらに簡単さを減少し、無数の例外 則を守らねばならない。それがまた簡単さを失わせる。 わが諸政府において、封地は世襲となった。貴族が一定のをつくる。 社会にとって、また、特にそれをあたえる人にとって最も 財産をもっことが必要であった、すなわち、封地には一定の 面積があることが必要であった、封地の所有者が君主に仕え負担のかからない特権の一つは、他裁判所よりもむしろ、あ うるためにである。このことが多くの種類を生ぜしめざるをる裁判所に訴えを提起する特権である。だがどの裁判所に訴 えなかった。たとえば、封地を兄弟間に分割することのでき えを起こすかが問題になる時に、それはまた新たな難問を惹 き起こす。 なかった地方もあるが、弟たちがより多くの面積からかれら の生活手段をうることができた地方もあった。 専制国家の人民は全く異なった場合にある。これらの国に 国王は、かれの州の一つ一つを知っているから、多様な法おいては何に基づいて立法者は法令を規定することができる を制定することも、異なる慣習を容認することもできる。とのか、裁判官は裁判しうるのか、わたしは知らない。土地は ころが専制君主は何も知らず、何事にも注意を払うことがで君主に属することの結果として、土地所有権に関してはほと んど民法が存在しない。主権者が臣民の財産にたいして持っ きない。だからかれは一般的な態度が必要であり、厳格な、 どこでも同一な意志によって統治する。その足の下ですべて相続権の結果として相続についてもまた民法がない。、 かの国において主権者が行なう独占的交易は商業にたいする のものは平べったくなる。 部君主国において裁判所の判決が多くなるにつれて、法律はあらゆる種類の法を無用にする。ここで奴隷娘と行なう結婚 は嫁資や妻の利益についてほとんど民法がないようにしてし 一時として互いに矛盾する判決で満たされる。それは、あるい 第は相次ぐ裁判官の考え方がちがうからであり、あるいは、同まう。その上、奴隷の驚くべき多数の結果は、自己に固有な じ事件の弁護がうまかったり、まずかったりするからであ意志を持ち、したがって裁判官の前で自分の行動に責任を持 り、最後に、人間の手を通るすべてのものの中にまぎれ込むつべき人がほとんどいないことになる。大部分の道徳的行為
哲学的に論すれば国家のあらゆる部分をみちびいているも君主は何らの規則も持たす、彼の気まぐれは他のすべての気 のは賢の名誉であるというのは正しい。しかしこの賢物の名まぐれを破壊する。 誉も、本物がそれを持ちうる個人があるとすればその人にと 名誉は、専制国家には知られておらず、そこにはしばしば ( 原注一 ) って有益であろうと同じ程度に公共にとって有益なのであそれを表現すべき言葉さえないのであるが、君主国家には君 る。 臨している。それはそこにおいては、政治体の全体に、法 また、人々をしてすべての困難な、骨の折れる行動をする に、そして徳行にさえも生命を与えるものなのである。 原注一。ヘリ (Perry) 四四七頁参照。 ように強制しながら、これらの行動の反響」以外に報 酬をやらすに済むというのはたいしたことではないか。 第九章専制政体の原理について 第八章名誉はけっして専繝国家の原理ではないと 共和政には徳性を、君主政には名誉を必要とするごとく、 いうこと 専制政体には恐怖が必要である。徳性に関しては、それはこ ここでは人間は 専制国家の原理はけっして名誉ではない。 こにはまったく必要がなく、名誉にいたっては有害であろ すべて平等であるから、自己を他人より尊重することはでき ない。そこでは人間はすべて奴隷であるから、自己を物以上 君主の広大無辺の権力はかれがこれをゆだねた人々に全部 に尊敬することはできないのである。 移ってゆくから、自己を非常に高く評価することのできる人 その上、名誉にはそれ自身の法と規則とがあって、勝手に人の中には、そこに革命を起こすことができるかもしれな ( 訳注こ 屈曲できないであろうから、また、それはそれ自身の気まぐ 。それゆえ、恐怖がすべての人の心をうちひしぎ、野心の れに依存するものであって、他人の気まぐれに依存するもの情の影をも消減せしめることが必要なのである。 ではないから、国家構造が定立していて、確定的な法の存す 繝限政体は、その欲する限り、また、危険なしに、その機 る国家の中にのみ存在しうる。 関を休ませることができる。それはその法とそのカ自体によ これがいかにして専制君主のもとで許容されえようか。名って維持されるから。しかるに、専制政体において、君主が 誉は生命を軽んずることを光栄としている。しかるに専君一瞬でもその腕を振り上げるのをやめるとき、枢要の地位を ( 原注こ 主の権たるや生命を除きうることにのみ懸っているのであしめる人々を一瞬にして消減せしめえないときには、万事は る。名誉はいかにして専制君主を許容しえようか。それは秩終りとなる。なんとなれば恐怖というこの政体の原動力がも はやそこにないのであるから、人民はもはや保護者を持たな 序ある規則を持ち、鼻息の荒い気まぐれを持っている。専制
110 訳注一 FaIemum 古代ローマで有名な酒。 君主政の構造の結果、富はそこでは不平等に分配されてい るから、奢侈の存するのは当然である。もしも富者がそこで 第三章貴族政における奢侈禁止法について たくさん金を使わなければ、貧民は餓死するであろう。そこ 構造に欠陥のある貴族政には貴族がそこで富を持ちなが では富者は財産の不平等に比例して費消し、前述のごとく、 ら、しかも費消してはならぬという不幸がある。節欲の精神奢侈がこの比率において増加することさえ必要なのである。 に反する奢侈はそこから追放されねばならぬ。そこで受け取個人的富はそれが市民の一部から肉体の必要とするものを奪 ることのできないきわめて貧乏人と、使うことのできない大った結果、増加したにすぎないのだ。したがってその必需品 金持ちだけがいるということになる。 がかれらに返還される必要がある。 ヴェネチャでは法が貴族を強制して節欲させている。かれ かくのごとく、君主政国家が維持されるためには、奢侈 らはきわめて貯蓄になれているので、遊女でなければかれら は、農夫より職人へ、商人へ、貴族へ、大官へ、大諸侯へ、 の金を使わせることができない。 この国は勤勉を維持するた 大徴税請負人へ、親王方へと、しだいに増大してゆかねばな めにこの方途をもちいているのだ。最もいやしい女どもがそらぬ。さもなければすべては終わりになるであろう。 こでは危険なしに金を使っており、それに対しかの女たちに いかめしい官吏や、法律家や、初期の時代の思想でみたさ みつぐ人々は世にもいぶせき暮らしをいとなんでいるのだ。 れた人々から構成されているローマの元老院で、女性の習俗 ギリシャの良好な諸共和政はこの点について感心すべき制 ならびに奢侈の匡正がアウグストスの治世に提案された。デ ( 原注一 ) ( 訳注一 ) 度を持っていた。富者はかれらの金を祭礼に、唱歌隊に、競 イオンの伝えるところにより、 いかに巧妙にかれがこれらの 走用の車や馬に、負担の重い名誉職にもちいた。そこでは富 元老院議員たちのうるさい要求をはずしたかを見るのは興味 も貧困と同様に負担になるものであった。 深い。それはかれが君主政を建設し、共和政を解体しつつあ ったからである。 第四章君主政における奢侈禁止法について ティベリウスの治世に査察官たちは旧い奢侈禁止法の復活 タキトスはいう、「ゲルマン民族のシュイオン人は富にたを元老院に提案した。英知あるこの君主はそれに反対した。 いして敬意を表する。その結果かれらは唯一人の統治の下に いわく、「現状においては、国家は存続しえなくなるであろ 暮らしている」と。このことは奢侈が君主政にもつばら適し 。いかにしてローマは生存しえようか、いかにして諸州は ており、そこでは奢侈禁止法の必要がないことをよく示して生存しえようか。われわれがただ一つの都市の市民であった ときにはわれわれは質素であった。しかし今日ではわれわれ
って交易する場合には、より多くの商品を取る国民は、金銭 による決済すなわち超過額を支払う。それで購人においては 第二十二篇貨幣の使用との関係における もっとも多く需要する国民の欲望に比例して商業が行なわれ 法について るにたいし、交換においては、もっとも少なく需要する国民 の欲望の範囲においてのみ商業が行なわれるという差異があ る。さもないと、後者はその勘定を支払うことが不可能にお 第一章貨幣使用の理由 ちいるであろうから。 未開人のごとく、わずかの商品しか持たぬ民族や、また、 第二章貨幣の性質について 一「三種の商品しか持たぬ文明国人は、交換によって交易を 貨幣はすべての商品の価値を代表する表徴である。表徴が 行なう。ゆえに、アフリカの奥地トンブクトウに、塩と黄金 ( 原注一 ) とを物々交換するためにおもむくモール人の隊商は貨幣を必持続性をもち、使用によって容易に消耗せす、破壊されるこ 要としない。モール人はその塩を一山にする。ネグロも砂金となしに大いに分割可能性を持つようにと、人はある金属を を一山にする。黄金が十分でないと、モール人がその塩を減選ぶ。表徴が容易に運搬できうるようにと人は貴金属をえら ぶ。金属は共通の尺度となるのにきわめて適している。それ らすか、ネグロがその黄金を加えるかが、両当事者の合意に いたるまで行なわれる。 は同一の品位にすることが容易にできるからだ。どの国家も しかるに、ある民族が非常に多数の商品について取引を行それに極印をつける。形態が品位と重量を保証し、またその なう場合には、必然的に貨幣を必要とする。なんとなれば運両者が一目見ただけでわかるようにするためである。 ( 原注二 ) 搬に便なる金属は、つねに交換により取引する場合によぎな アテネ人が金属をまったく使用しなかった時牛を用いた。 くされるであろうところの多くの失費を節約するからであそしてローマ人は牝羊を用いた。しかし一頭の牛はほかの一 る。 一片の金属が他の一片と同じである 頭の牛と同一ではなく、 部 ようこま、 すべての国民が相互に欲望を持っ場合に、一方が他方にた 正貨が商品の価値の表徴であるように、紙幣は正貨の価値 四いし非常に多数の商品をもとめんと欲するにたいし、後者は 第 前者の商品をきわめて僅かしかもとめんと欲せす、しかも他の表徴である。だから、紙幣がよいものならば、それは正貨 の一国民にたいしては、それとは逆の立場にあるということを立派に代表し、その効果に関しては全く差異がない。 がしばしばおこる。しかるに諸国民が貨幣を有し、売買によ 貨幣が物の表徴であり、それを代表するごとく、それぞれ
244 第七章人間の製作物について 第六章人の勤勉によって形成された国土について 人間はその配慮とよき法によって土地をその居住により適 人間の勤勉によって居住に適するようになり、さらに存続 するために同じ勤勉を必要とする地方は制限政体を招くものするものたらしめた。われわれは前には湖水や沼沢のあった だ。この種の主なものが三つある。シナの江南・浙江の美し所に河川が流れるのを見る。これは自然が作ったものではな いが、自然によって維持される財産だ。ベルシャ人がアジア き二省、エジプトとオランダ。 ( 原注一 ) 昔のシナの皇帝はけっして征服者ではなかった。その権力の支配者であった時、かれらは灌漑されたことのないどこの 場所へでも泉の水を引く者には五代にわたってその地の収益 を拡大するためにかれらが行なった最初のことはもっともか れらの英知を示すものであった。水面下より帝国の最も美わを受けることを許した。しかしてトーリス山から多くの溪 しい二省が出現するのを人は見た。それは人間の作ったもの流が出てくるので、そこから水を引くためにいかなる費用も 惜しまなかった。今日では、どこから水がやってくるかも知 であった。この両省の筆紙に尽し難い豊饒こそわがヨーロッ らずに、人々は自分の畑や園囿にそれを見いだす。 。ハにこの広大なる地方の幸福についての観念をあたえたので かくのごとく、破壊的国民は自分が減亡した後まで残る害 ある。しかし帝国のかかる重要部分を破壊から防ぐための不 ( 訳注こ 断の、必要な配慮は逸楽的人民の習俗よりもむし . ろ賢明な人悪を行なうごとく、亡びた後までも尽きることなき善事を行 民の習俗を、専制君主の暴政的権力よりもむしろ君主の正統なう勤勉な国民がある。 な権力を必要とした。そこでは権力は、かってエジプトでも 原注一 + リープ (Polybius) 第一 0 篇第二五章。 訳注一 Laboulaye はアラビヤ人が灌漑設備をそのまま残したスペインが そうであったごとく、制限的でなければならなかった。そこ これだという。 では権力は現在オランダがあるごとくに、自然が自分自身に 注意を払い、懶惰や気まぐれに身を委せぬように作ったオラ 第八章法の一般的関係 ンダがあるがごとくに、制限的でなければならなかった。 法は各種の民族が生活資料を獲得する手段ときわめて大な かくのごとく、自然的には奴隷的服従に傾きやすいシナの る関係を持っている。商業、航海にしたがう民族には、自己 風土にもかかわらす、帝国のあまりにも大なる面積に伴う非 の土地を耕作することに安んする民族よりも広汎な法典が必 道にもかかわらす、シナの最初の立法者たちはきわめてよい 法を作ることを余儀なくされた。そして、政府はしばしばそ要だ。後者には、その家畜の群で生活する民族よりも広汎な 法典が必要だ。この最後の者にとっても狩猟によって生活す れにしたがうことを余儀なくされた。
らに岩礁にすら避難することをよぎなくさせた時、それらはをしている商業さえも有益でありうる。わたしがオランダて 経済的商業を発生させた。このようにしてティル、ヴェネチ 聞いたところでは捕鯨業は一般に、ほとんどが支出を償わな ヤ、オランダの諸都市が建設されたのである。逃亡者たちが しかし造船に使われる人たち、船具、船舶付属品、食料 そこにかれらの安全を見出した。生きのびねばならなかつを供給する人たちもまた捕鯨業に主要な利害関係をもつ人た た。それでかれらはその生活資料を全世界から引き出した。 ちなのである。かれらは捕鯨で損をすることがあっても、艤 ( 訳注こ 装で儲かっているのだ。この商業は一種の宝くじである。そ 第六章大航海の一一、三の結果 してだれもが当りくじの期待に釣られる。すべての人は賭を 時として、経済的商業を営む国が、他の国の商品を手に入れ好む。それで最も思慮のある人たちも、賭の外観、その不 るための資本または材料として役立つある国の商品を必要と安、逆上、放心、時間の、否、全生涯の浪費が眼に見えない する時、他の商品から大いに儲けをあげる期待または確信を場合には、喜んで賭をする。 訳注一この章は始めの諸版には欠けている。 もって、それらの商品のある物からはきわめてわずか儲ける か、または全然儲けなくてもがまんするということがおこり 第七章商業にたいするイギリス精神 うる。だから、オランダがヨーロツ。ハの南から北への貿易を ( 訳注一 ) ほとんどひとりでやっていた時、この国が北に運んだフラン イギリスは他国民との間に一定の関税をほとんど持たな スの葡萄酒は、いわばオランダの北欧貿易を行なうための資 その関税はいわば、各議会ごとに、廃したり、課したり 本または材料としてこの国に役立っていたにすぎなかった。 する個々の税によって変わる。この国民はこれについてもそ オランダではある種の商品は遠方から輸入されたにもかか の独立を保持せんと欲したのである。自国で行なわれる貿易 わらず現地での相場より高くなく売られることがしばしばあにつきこの上なく嫉妬深いから、条約によって拘東されるこ ることは周知の事実である。その理由は次のように説明されとなく、自己の法に依存するのみである。 る。その船に底荷を積む必要のある船長は、大理石をのせ 他の国民は商業の利益を政治的利益に譲らしめた。イギリ る。荷敷用の木材を必要とする時はそれを買う。そして、こ スは常に自己の商業の利益にその政治的利益を譲らしめた。 れによって損さえしなければ、かれは大いに儲かったと思う これは世界で最もよく次の三大事項を同時に利用しえた民 であろう。オランダが石材業、森林業もまたもっているのは族である。宗教、商業および自由。 訳注一ここでは、通商条約を意味する。 このためなのである。 何ももたらさない商業が有益でありうるのみならず、欠損
8 原注四アウグストスは元老院議員、地方総督、知事から武器を帯びる権利 を奪った ( 「ディオン』第三三鑰 ) 。 原注五コンスタンチヌス。参照「ゾジムス』第二篇。 原注六「国家論」第八巻。 原注七スペインの怠惰。そこではすべての官職は捨て売りされるのだ。 訳注一かれは最初のシシリヤ、サルジニヤ国王となった ( 一六六六年ー一 七三二年 ) 。 訳注二イギリスを指す。 訳注三コンスタンタン・プロフイロゲニトスの「美徳、悪徳論」からの抜 萃。 訳注四リシュリュ 1 の「政治的遺言』から借用した考察たとラブーレーは いっている。 第六篇各種政体の原理の帰結と民法、刑 法の簡単さ、裁判の形式および刑 の決定との関係 第一章各種政体における民法の簡単さについて 君主政体は専制政体のように簡単な法を許すわけにはいか ない。そこには裁判所が必要である。これらの裁判所が判決 を与える。与えられた判決は保存され習得され、昨日裁判さ れたと同じように今日も裁判されるように、また、市民の財 産と生命とが国家の構造と同じように安全であり確実である ようにせねばならない 君主国においては、生命、財産だけでなく名誉に属する事 柄も判決する裁判の施行には慎重な審査を必要とする。裁判 官の慎重さはかれの託された事項が大きくなるに比例し、、 れが判決を下す利益の重要さに比例して増大する。 だからこれらの国の法において、多くの規則、留保、敷衍 が見出され、それらが特殊の場合を増大し、理性そのものを 一個の技術とするかに見えても驚いてはいけない。 位階、出生、身分の相違は、君主政体に設けられている が、これがしばしば財産の性質における差別をもたらす。さ らにこの政体の構造に関係ある法がこれらの差別の数を増大
な検察制、それに劣らず専制的なヴェネチャの国家糺問官に る場合には、かれらを選んだ人々に報告の責任があるが、イ かわるべき、理性にかなった唯一の手段なのである。 ギリスにおけるごとく選挙区別の代議員については問題は別 自由な国家においては、自由な魂を持っとみなされるすべ であるとは、シドニイ氏の至言である。 ての人は、自分自身によって治められねばならぬのであるか すべての市民は、各種の地区において、代表者を選ぶため ら、人民は全体として立法権を持つべきはずであろう。しか に投票する権利を持つべきである。ただし、自分自身の意志 しそのことは大国においては不可能であり、小国においてもを持たぬとみなされているほどの下賤な身分にある者はこれ 幾多の不都合をまぬがれないから、人民は自らなしえざるすをのそく。 べてのことをその代表者によってなさねばならない。 多数の古代の諸共和国には一大欠陥があった。それはそこ 人は他の町の必需よりも自分の町の必需のほうをはるかに では人民が能動的な、そしてある種の執行を必要とする議決 よく知っている。また近隣の人の才能を他の同国人のそれよを行なう権利を持っていたことである。これは人民のまった いっそうよく判断できる。したがって立法府の成員は くなす能力のないことなのである。人民はその代表者を選ぶ 国民の全体から一般的に選出さるべきではなく、住民はおのため以外には統治に参加すべきでない。 これぞかれのなしう おのの選挙区で代表者を選ぶのが適当である。 るところなのである。なんとなれば、人々の能力の正確な度 代表者の持つ大きな長所は、政務を討議する能力があるこ 合を知っている人は少ないにしても、しかしながら各人は自 とである。人民はそれにはぜんぜん不適当である。このこと己の選ぶ人間が他の大部分の者より開明されているかどうか は民主政の大欠陥の一つとなっている。 を、一般的には、知る能力を持っているからである。 選挙人から一般的訓令を受けた代表者が、ドイツの議会で 代表者団もまた、なんらかの能動的な議決をするために選 行なわれているように、各事件について個別的訓令を受ける ばれるべきではない、 これはかれのよくなしえざるところで ことは必要でない。なるほどこうすれば、代議員のことばはある。ただ法をつくり、またはつくった法がよく執行されて いっそう国民の声の表現となるかも知れないが、それは際限 いるかどうかを見るために選ばるべきである。これはかれの のない渋滞におちこませることになり、各代議員を他のすべ はなはだよくなしうるところであり、かれのみのよくなしう ての代議員の支配者たらしめたり、最も緊急なさいに、国民るところでさえもある。 のすべての力が一つの気まぐれによってさまたげられるかも 国家にはつねに出生、富または栄誉によって卓越した人々 しれないのである。 がいる。しかしもしかれらが人民の間に混同され、他の者と 代議員が、オランダにおけるごとく、人民の全体を代表す同様に一票しか持たぬとすれば、一般の自由はかれらにとっ