予言者 - みる会図書館


検索対象: 世界の大思想25 ニーチェ
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1. 世界の大思想25 ニーチェ

けた。「なるほどここには水の音がびちゃびちゃ聞こえる には聞こえる。それはまるで知恵のことばのようだ。つま り、ゆたかに、倦ます、流れているのが聞こえるには聞こ えるが、わたしのほしいのはーー・・酒なのだ , すなわち、予言者はここのところで、ツアラッストラと だれもがツアラッストラのように生まれつき水を飲むの 客たちの挨拶をさえぎったのだ。 , 。 彼よ、一瞬の時も失えな が好きだとはかぎらない。水はまた疲れた者、枯れしぼん い人のように飛びだすと、ツアラッストラの手をつかんで 叫んだ。「しかし、ツアラッストラ ! だ者には役には立たぬ。われわれには酒がふさわし 酒こそはじめて突然の回復と即席の健康をあたえてく 一事は他のことよりも必要だ、とは、あなた自身がいっ たことだ。結構、いま、わたしにとっては一事は他のすべれるのだ ! 」 てのことよりか必要なのだ。 予言者が酒を求めたこの機会に、ロ数の少ない左手の王 ひとこと 一言、時にかなったことばを中しあげたい。あなたはわも一度口をきくことになった。「酒の心配ならわれわれが たしを食事に招待したのではなかったか ? そしてここに してある」と、彼はいった。「わたしとわたしの兄弟の右 は長い道をやってきた者がたくさんいる。まさかあなたは手の王が酒の心配はしておいた。われわれは酒なら十分持 話だけでわれわれを追っぱらうつもりではあるまいね ? っている、 ロ・ハに一杯つみこんで。ないものはパンだ けだ。」 それにあなたがたもみな、凍えるとか、おぼれるとか、 息がつまるとか、そのほか身体の苦情はいやというほど申「パン ? 」と、ツアラッストラは答えて、笑った。「。 ( ン しでられたが、しかしだれひとりわたしの苦情、すなわちこそ隠者の持たないものだ。しかし人はパンだけで生きる 飢えのことを問題になさったかたはいなかった。」 ものではない。良い小羊の肉によっても生きるものだ。わ ( こう予一一一一口者は語った。しかしツアラッストラの動物たちたしは小羊を二匹持っている。 ( ロ ) はこのことばを聞くと、びつくりして飛びだして行った。 それを早速屠り、サルビアを薬味にして料理しょ というのは、彼らが昼のあいだに持ち帰ったものだけで う。そういう料理がわたしは好きなのだ。草の根や果実も は、ただひとりの予言者の腹をみたすにも足りないだろう欠けてはいない。 これはどんな美食家にも結構すぎるくら と見てとったからだった。 ) いのものだ。それにまだクルミやその他の噛み割るための 「渇きも含めての話だ」と、予言者はことばをつづ謎もある。 ほふ

2. 世界の大思想25 ニーチェ

言者は、手で顔をぬぐった。まるで自分の顔をぬぐいさろつづけた、「深みから、ざわめぎとどよめきが、上のほう 2 うとするかのようであった。ツアラッストラも同じように ツアラッストラはふた まで登ってくるではないか ? 」 顔をぬぐった。こうして二人は無言のまま、気をとりなおたび黙って耳をすました。すると彼はその時、一つの長い し、腹の底に力をいれてから、たがいに手を差しだした。 長い叫びを聞いた。深淵がたがいに投げあって、次から次 たがいに顔見知りであることを示そうというしるしであへと伝えて行く叫びであった。というのは、その叫びを手 る。 もとに引きとめておこうとする淵が一つもなかったからで 「ようこそーと、ツアラッストラはいった。「大いなる疲ある。それほど険悪なひびきを持った叫びであった。 「悪しき告知者よ」と、ついにツアラッストラはいっこ。 労の予一言者よ、かっておまえがわたしの食卓に坐った客で あったことを、むだにしないでおこう。今日もまたわたし「あれは危急の叫び、しかも人間の叫び声だ。きっと、黒 い海からでも聞こえてくるのだろう。しかし、人間の困窮 のところで飲み食いしてもらいたい。そして、おまえと食 事を共にするのが、不平を持たぬ老人であることを、とが など、わたしに何のかかわりがあろう ! わたしがいまま めないでくれ ! 」 「不平を持たぬ老人 ? 」と、予言者で犯さすにすんだわたしの最後の罪ーーーその名を何という は頭をふりながら答えた、「あなたがどういう人であろう か、おまえはたぶん知っているであろう ? 」 と、あるいはどういう人になろうと思っていられるにして 「同情だ ! 」と、予言者はあふれでる心の底から答 えて、両手を高くさしあげた も、おお、ツアラッストラよ、あなたはこの山上に、あま 「おお、ツアラッスト りにも長くいすぎた、 ラ、わたしはあなたをあなたの最後の罪に誘惑しようとし いつまでもあなたの小舟が陸に 上がったままではすみませんそ ! 」 「さては、わたしてきたのだ ! 」 は、陸に上がっているというわけか ? ーと、ツアラッスト このことばがいいおわるかおわらないうちに、例の叫び ラは笑いながらたずねた。 「あなたの山のまわりの 声がまたしてもひびいた。しかも、前よりか長く、 いっそ 波、大いなる困窮と悲哀の波が高まってきている」と、予う不安に、ずっと近くに。「聞いたか ? ・おお、ツアラッ ストラ、あれを聞いたか ? 」と、予言者はさけんだ。「あ 言者は答えた、「やがてそれはあなたの小舟を持ち上げ、 あなたを連れさるであろう。」 ツアラッストラはこれの叫びはあなたに向けられているのだが、あなたを呼んで には答えないで、いぶかしく思っていた。 いるのだ。さあ、きてくれ、きてくれ、きてくれ ! 時が 「あなたの 耳にはまだ何も聞こえないのか ? 」と、予言者はことばをきたのだ、ぎりぎりの時がきたのだ ! 」 おか おか ふら

3. 世界の大思想25 ニーチェ

七つの封印 ( あるいは、「然りーと「アーメン」の歌 ) 一七節とも「なぜなら、わたしはおまえを愛するからだ、お わたしが予言者であり、二つの海にはさまれた高い山の お、永遠よ ! 」というリフレーンで結ばれているから「七つの 背を行くあの予言的精神にみちみちているからには、 封印」という。七節ともそれぞれ最初の三段落が副文章になっ 過去のものと未来のものとのあいだに重い雲となってた ており、第四段落を挿入文章として、第五段落以下は同じ文章 だよう予言的精神、ーーうっとうしい低地に敵意をいだ で構成されている。「アーメン」というのは、「かくあれかし , き、疲れきって、死ぬことも生きることもできないすべて という意味の祈りの結語で、「然りとアーメンをいう」という のものの敵である予言的精神、 言い方で「是認、同意する」の意に使われる。ツアラッストラ 流にいえば「そうあることを欲したのだ」という意味。 暗い胸に稲妻と救済の光線を放っ用意をしている予言的 精神、予言的電光に「然り ! 」といい、 「然り ! 」と笑う 稲妻をはらんでいる予言的精神、 しかし、そのようにはらんでいる者は幸いだ ! そ かってわたしの怒りが墓をあばき、境界石を動かし、古 してまことに、し 、つの日か、未来の光を点火すべき者は、 い板を破壊して、けわしい谷底にころがしてやったからに 長いあいだ重い雷雲として山にかかっていなければなら かってわたしのあさけりが、かびのはえたことばを吹き とばし、そして、十字グモには箒のように、古い息苦しい おお、どうして、わたしが永遠に欲情を感じないはすが あろうー 婚礼の指輪の中の指輪 , ーー永遠回帰の指輪に欲墓穴には、吹き清める風として、わたしがやってきたから によ、 情を感じないはずがあろうー わたしはまだ一度も子供を生ませたいと思うような女を 古い神々が葬られているところに、かってわたしが心楽 見つけたことはなかった、わたしの愛するこの女を除いてしく坐り、古い世界中傷者たちの記念碑のかたわらで、世 は。なぜなら、わたしはおまえを愛するからだ、おお、永 遠よー なぜなら、わたしはおまえを愛するからだ、おお、永遠 ほうき

4. 世界の大思想25 ニーチェ

ツアラッストラは、混乱し動揺して、これに答えず黙し そんな人を探し求めて、この高みに登ってくる者があっ ていた。ついに彼は、思い迷う者のようにたずねた。「で、 たら、むだ骨をおることになろう。なるほど洞穴は見つか あそこでわたしを呼んでいるのは、だれなのか ? 」 るだろう、背後の洞穴、もろもろの隠されたもののための 「自分で分かっていられるではないか」と、予言者ははげ隠れ家は見つかるだろう、だが、幸福の坑道、宝の部屋、 しく答えた。「何のために自分をかくされるのか ? あな新しい幸福の金鉱脈にはお目にかかれないであろう。 たを求めて叫んでいるのは、より高い人間なのだ ! 」 幸福ーーどうして、こんな埋もれた隠者のもとで、幸福 が見つかろうか ! 幸福の島々や、もっと遠く忘れられた 「より高い人間だって ? 」と、ツアラッストラは恐布にと らえられてさけんだ。「それはまた何を欲するのか ? そ海のあいだに、わたしは最後の幸福を探さねばならないの れはどんな望みを持っているのか ? ・より高い人間 そではないか ? いつはここでどうしようというのか ? 」ーーそして彼の肌 しかし、すべては同じことだ。なんのかいもないこと は汗でおおわれた。 だ。探してみてもはじまらぬ。幸福の島だって、もうない のだ ! 」 しかし予一一一口者はツアラッストラの不安には答えないで、 深みのほうに耳をすまし、耳を傾けた。だが、そこは長い あいだ、物音もなく静かだったので、予言者はふりむい 予言者はそのように嘆いた。しかし、彼の最後の嘆きを た。するとツアラッストラが立ってふるえているのが目に 聞くと、ツアラッストラはふたたび明るくなり、しつかり たよ、つこ。 とした。まるで深い穴から明るみに出てきた人のようであ 「おお、ツアラッストラーと、予言者は悲しげな声でいし った。「 ! 否 ! 三たび否 ! 」と、彼は強い声で叫ん はじめた。「あなたがそこに立っている姿は、自分の幸福だ。そして、ひげをなでた。 「そのことはわたしのほ ス に目まいを起こしている人のようではない。倒れないためうがよく知っている ! 幸福の島々はまだあるのだ ! そ には、あなたはいやでも踊らなくてはなるまい のことについてはロをきくな、おまえ、なげきの悲哀表 しかし、あなたがわたしのまえで踊り、あなたのあらゆよ , こ る旋回を飛んでみせても、だれもわたしにいうことはでき そのことについてはびちゃびちゃいうのをやめてくれ、 おまえ、午前の雨雲よ ! 現にわたしはすでに、おまえの まい、『見よ、ここに最後の楽しい人間が踊っている ! 」 悲哀によって濡れ、水をあびた犬のように立っているでは

5. 世界の大思想25 ニーチェ

こうツアラッストラは語った 191 ると、頭の一ばん切れる連中までが不信を学ぶ。そしてま ことに、「すべてはー、ー静止しているのではないか ? ーと いうのは、馬鹿者だけではなくなる。 これはま 「根本においてすべては静止している。」 さしく冬の教えだ。冬枯れ時にはもってこいの話であり、 古い一つの妄想がある、その名を善悪という。この妄想 冬眠者とストーブのそばにうずくまっている連中には結構 の車輪は、これまで予言者と占星師のまわりをまわってい な慰めだ。 「根本においてすべては静止している。」 かって人々は予言者と占星師を信じた。だから彼らは、 れを反撃して、氷雪をとかす暖風が説教する ! 荒れ狂「すべては運命である。やむをえないから、おまえはなす 暖風、これは牛は牛だが、耕す牛ではない、 べきである ! 」ということを信じていた。 う牛、怒った角で氷をぶち破る破壊者なのだ ! ところで 次いで人々はふたたびあらゆる予言者と占星師に不信を 氷は 橋をぶちこわす ! いだいた。だから彼らは、「すべては自由である。意志す おお、わが兄弟たちょ、いまはすべてが流れのうちにあ るから、おまえはできるのだ ! ーということを信じてい るではないか ? すべてのらんかんと橋は水の中に落ちた ではないか ? この期に及んでだれがまだ「善」と「悪」 おお、わが兄弟たちょ、これまで星と未来についてはた にしがみつこうか ? ・ だ妄想されただけで、知識されたことはなかった。だから 「わざわいなるかな、われら ! 幸いなるかな、われら , 暖風が吹く ! おお、わが兄弟たちょ、すべての街路善悪についてもこれまではただ妄想されただけで、知識さ れたことはなかったのだ ! を通じて、そのように説教せよ ! 一価値転換の事業を行なうわれわれは幸福であると同時に不 幸である。新しいものの建設には、常に古いものの破壊が伴う からである。わざわいと幸いが分離しがたく一体になっている つの こ 0 「おまえは盗んではならない ! ところに、ニーチェの思想家としての真面目さがある。簡単に 楽天的でも、あるいはまた悲観的でもないところに注目すべき であろう。 おまえは殺してはならな

6. 世界の大思想25 ニーチェ

こうツアラッストラは語った た。弟子たちょ、よい食事をするように、配慮せよ、時を 移さずに , こうしてわたしは、悪夢のつぐないをしよう 救いについて と思う ! 予言者もわたしのそばで食べ飲むようにさせよ。まこと ツアラッストラがある日、大きな橋をわたっていくと、 に、わたしは彼に、彼のおぼれ死にうるような海を示そ不具者やこじきたちが彼をとりかこんだ。ひとりのせむし が彼にこう話しかけた。 「見よ、ツアラッストラよ ! 民衆もあなたから学び、あ こうツアラッストラは語った。それからしかし彼は、夢 なたの教えを信じるようになった。しかし、民衆が完全に を解くものの役をつとめた弟子の顔を長いこと見つめ、頁 豆あなたを信じるようにさせるには、なお一つのことが必要 を振った。 である。 すなわち、あなたはまずわたしたち不具者を 説得しなければならないー その点で、選択は思いのまま である。いくつもの後ろ髪を持った機会がある ! 盲者を いやし、足のなえた者を走らせることがでぎる。背中に余 計なこぶを持っている者から、ぜい肉を少し取りさること もできるだろう。 それが、思うに、不具者をしてツア ラッストラを信じさせる正しいやり方であろう ! ツアラッストラは、そう語った男に、こう答えた。「せ むしから隆肉をとれば、その精神をとることになるーーこ う民衆は教える。盲者に目を与えれば、彼は、地上にある 悪い事物をあまり多く見るので、自分をなおしてくれた者 をのろう。また、足のなえた者を走らせる者は、最大の害 を加えることになる。なぜなら、彼を走らせるやいなや、 彼の悪徳も彼とともに走るからである。 こう民衆は不 具者について教える。民衆がツアラッストラから学ぶとし 一ひとりの予言者が絶望的厭世観を述べ、人類の終末を予言 する。その時、ツアラッストラも絶望的であったが、夢の中で 一つの新しい思想を暗示された。それが永遠回帰の思想である が、それはまだはっきりした形になっていない。 = 嫉妬や憎悪の邪悪なまなぎしで見られると、不幸がくる、 とい一つ迷信がイタリアにある。

7. 世界の大思想25 ニーチェ

124 て・ まことに、われわれは死ぬにももう疲れすぎた。さあ、 予一一一口者 われわれは目をさましたまま、生き続けようーー墓穴の中 「・ーーそして、わたしは、大きな悲しみが人類の上にくる のを見た。もっともすぐれた人たちさえ、彼らの仕事に疲 こうひとりの予言者が語るのを、ツアラッストラは聞、 一つの教義がのべられた。一つの信仰がそれとならんでた。その予言は彼の胸にこたえ、彼の心を変えた。彼は悲 行なわれた。『すべてはむなしく、すべては等しく、すべしげに疲れて、歩きまわった。彼は、予言者の語った人々 ては過ぎた ! 』というのだ。 に似てきた。 そしてあらゆる丘からこだましてきた。『すべてはむな 「まことに、 いくらもたたないうちに、あの長い薄暗がり しく、すべては等しく、すべては過ぎた ! 』と。 がやってくる」と彼は弟子たちにいった、「ああ、わたし たしかにわれわれは収穫してしまった。だが、なぜすべ の光をどういうふうにしてその先まで保たせたらよいかー ての実はくさり、茶色になったのか。邪悪な月から昨夜何 わたしの光がこの悲しみの中で窒息しないようにー わ がしたたり落ちたのか。 たしの光は、より遠い世界のための、さらにもっとも遠い 労働はすべてむだであった。われわれのブドウ酒は毒と夜のための、光であるようにー なった。邪悪なまなざしがわれわれの畑と心を黄いろくこ このように心の中に憂い悲しみをいだきつつ、ツアラッ 、力学ー ストラは歩きまわった。三日間、飲み物も食べ物もとら われわれはみなひからびた。火がわれわれの上に落ちるず、休息もせず、ロもきけなくなった。ついに彼は深い眠 と、われわれは灰のように飛散する。 そうだ、われわ りにおちいるにいたった。弟子たちは長いあいだ眠らずに れは火さえ疲れさせた。 彼をかこんですわり、師が目をさまし、また語るであろう すべての泉はかれ、海もしりぞいた。地はことごとく裂か、憂愁から回復するであろうか、と心配しながら待っ こ 0 けようとするが、地底は飲みこもうとしない ! 「ああ、おぼれ死ぬことのできる海は、。 とこに残っている さて、ツアラッストラが目をさましたときったことば のか』そうわれわれの嘆きはひびくーー・浅い沼沢を越え はこうであった。彼の声はしかし弟子たちには、はるか遠

8. 世界の大思想25 ニーチェ

こうツアラッストラは語った 与えすにおいたろうか ? わたしが何を与えすにおこう、その一つを持っため ならば。この子供たち、わたしの意志とわたしの最高の希 望のこの生きた植えつけ、この生命の木を持っためなら こうツアラッストラは語って、突然話をやめた。彼の憧 憬が彼をおそったからである。そして、心の感動のあまり 目と口をとじた。すると客たちもみな口をつぐんで、静か に呆然と立っていた。ただ老予言者だけは例外で、彼は両 手と身ぶりで合図をしたのだった。 一「危急の叫び」の章以下、ツアラッストラが出会ったすべて の者が実は「より高い人間」であったことが、ここで判明す る。しかしツアラッストラは、いたわられることを求めるこれ らの「より高い人間」と、はっきり一線を画して、これらの人 間を踏み台として生長する「笑うシシたち」のくるべきことを 期待する。 = ここに集まった奇妙な連中が「より高い人間」であること に、ツアラッストラは初めて気づく。 三ツアラッストラ自身のこと。 四「悪魘に指一本与えると、手全体を取られる」という格言に よる。これをもじって「女に小指一本あたえると、金庫を全部 とられるーといったふうに用いられる。 五第二部「予言者」。 ( 一二四頁 ) 六第四部「危急の叫び」。 ( 二三〇頁上段 ) 七「ドイツ式に ( ドイツ語で ) はっきり」とは元来二語一義 で、ぎつくばらんに、の意。

9. 世界の大思想25 ニーチェ

学者について 詩人について 大いなる事件について 予言者 救いについて : 人間の利口さについて もっとも静かな時 : ・ 第三部・ さすらい人 幻影となそについて : 不本意な幸福について 日の出まえ 小さくする徳について オリーブ山で 通りすぎることについて 背信者について 帰省 : 三つの悪について 重圧の霊について 古い板と新しい板について 快方に向かう人 大いなる憧れについて もう一つの踊りの歌 七つの封印 ( あるいは、「然り」と「アーメン」の歌 ) 一六四 一七六 一会 一一 0 六

10. 世界の大思想25 ニーチェ

232 しのものは、わたしの客であるおまえのものでもある ! そいつをな いまわたしはからだを振って、ふたたび身をかわかすた またそこに蜜が見つかったら、よろしい めに、おまえから逃げだす。それをおまえはふしぎに思っ めたまえ、おまえ、不平のクマよ、そしておまえの魂を甘 てはならぬ ! おまえには、わたしが無礼と思われるか ? くしたまえ ! 夕暮には、二人とも上機嫌でいたいから しかし、ここはわたしの宮廷だ。 しかし、おまえのいう、より高い人間については、よか 上機嫌で、今日の一日が終わったことを喜んで ! ろう ! すぐにあの森のなかで探すことにしよう。彼の叫そして、わたしの歌にあわせて、おまえ自身にクマ踊りを びはあそこから聞こえてきた。おそらく、そこで悪い獣に踊ってもらおう。 追いつめられているのだろう。 おまえはそれを信じないのか ? 頭をふっているね ? 彼はわたしの領分の中にいるのだ。わたしの領分で彼に よろしい よろしい ! 年老いたクマよ ! だが、わた 危害を受けさせてはならぬ ! そして実際、わたしのとこ しもまたーー予言者なのだ。」 ろには、多くの悪い獣どもがいるのだ。」 こうツアラッストラは衄った。 こういってツアラッストラは立ちさるために向きを変え た。すると予一一一口者がいった。「おお、ツアラッストラ、あ なたは悪党だー 一ショーベンハウアー流の大いなる疲労と悲哀の予言者がツ わたしにはよく分かる、あなたはわたしから離れたいの アラッストラを誘惑するために訪れる。それはツアラッストラ ど ! できれば森へかけこんで、悪い獣を追っかけまわし の最後の罪、同情を試練するためである。その時、より高い人 たいと思っているのだ ! 間の危急の叫びがきこえ、ツアラッストラはそれを助けるため しかし、それが何の役に立とう ? 夕暮には、またわた におもむく。 しにつかまるだけのこと。あなた自身の洞穴のなかに、わ = 第四部のモットーに見られるように、苦悩を共にする同情 たしは丸太のように辛抱強く、どっしり坐ってーーあなた とその克服が、第四部の主題である。永遠回帰の底には苦悩が を待とう ! 」 ある。それを克服して初めて超人が成立するのである。 「それもよかろう ! 」と、ツアラッストラは立ちさりなが ら、うしろに向かって叫んだ、「わたしの洞穴の中のわた