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をあおるよりしようがないといった風だった。 「はあーん、そうですか。そんなことがあったんですか」 てじゃく 手酌でビールを注いでは阿川はくり返した。 「いいなあ、いい話ですなあ : : : 」 いつの間にかすっかり日が暮れていた。こんな所じゃなしに、落ち着いたところで飯を食おう、 と藤堂はいった。 藤堂は中学生の時よりも単純で、無邪気だった。彼は大声で快活に笑い、史をじっと見つめて 何度も、 「なっかしいなあ : : : 」 といった。そんな気取りのなさはおそらく藤堂が年をとったために出て来たものにちがいなか 「いいですねえ、ゆっくり昔話を聞かせていただきましよう」 裏と阿川は賛成した。三人は車を呼んで近くの海沿いの町の料亭へ出かけて行った。車の中でふ 回と、藤堂はいった。 九 「ふうちゃんは丸田の隣のイトコというのを知ってる ? 」 「さアちゃんとキヌちゃんでしよう ? 知ってるわ」 史はいった。 っ
俊子は溜息と一緒にい 0 た。丸田茂子は = 一年前にで死んだのだ。俊子も史も茂子が中学生 と小学生の男の子を残して死んだということを人伝てに聞いただけだった。 「ああ、ふう公、歳月が流れたんやねえ : : : 」 俊子はしみじみといった。 「お互いに長いこと、生きて来たんやねえ : ・ 「マルポンが死ぬとはねえ」 史はいった。 「死ぬとはねえ」 俊子が受けていった。 「ナゾを握ったまま、マルポンは不帰の客となった : : : 」 史はまた紙芝居屋の声色でいった。そのときふいに史の顔を涙が転げ落ちた。三十年経ったの だ。それそれがそれそれの人生を生きた。戦争を経てここまで来た。そうしてすべては過ぎ去っ 裏たのだ。もう再びもどって来はしない。 回甲東中学五年桜組藤堂研ーー 九史は思い出した。過ぎて来た遠い野末のたそがれの中の灯のように、その名は瞬いていた。史 の中に埋もれ死んでいたものが、今、蘇り、立ち上ってくるのを史は感じた。彼は XO+O と胸 そでひじ に書いたユニホームを着、濃紺のアンダーシャツの袖を肘までまくり上げてバットを振っていた。 またた
です。先生、 x 子を倖せにしてあげて下さいね」 読者は年々変っているのに、読者の手紙の中身はちっとも変らない。久が十年以上も少女小説 の大家でいられたのは、多分、少女期というものには時代を超えて変らぬ同一の感受性があるた めなのにちがいなかった。 久は月の大半を徹夜で仕事をした。もう十年も同じような小説を書いていると、つくづく小説 を書くのがいやになる、と久は有作にこぼした。こぼすばかりでなく、時には書きつぶしの原稿 用紙を丸めて有作に投げつけることもある。有作が常務をしている広告代理店は末期症状を呈し はとん たままもう五年、持ちこたえて来た。有作は殆ど月給を家へ入れたことがないのだ。会社は重役 連中の月給辞退によって辛うじて倒産をまぬかれた月もある。月給を受け取ることが出来た月で も、有作は家へは金を入れなかった。有作は常務なのに、専務や社長に借りられてしまうのだっ 「今月は社長だけが月給辞退してすんだ」 千と有作はいった。社長だけが辞退してすむ月というのは、喜ばしい月なのだ。しかし辞退した 万社長は、有作に借金を申し込んだ。 うらや 十 「君のところはとにかく奥さんが稼ぐから羨ましいよ」 そういわれると有作は、貰ったばかりの月給袋の中から社長に金を渡さずにはいられなかった のである。 しあわ かせ
「誰がそんなことをいったんだ。ひどいこというなあ、ぼくはね、あんまりさアちゃんがみす ぼらしいのでそうしてやっただけですよ。さアちゃんばかりじゃないよ。あの姉の方にだって小 遣いをやったよ。あの姉妹ばかりじゃない。昔の友達は戦後、皆困ってた。ぼくはいわばアプク ゼニのようなものを取っていた。だから、友達の中で困っている人間は、ずいぶん面倒をみた よ 阿川がもどって来たので史はロをつぐんだ。 いいですなあ : 阿川は、席について自分のコツ。フにビールを注ぎながらャケクソのように頭をふった。 「美しい話だ : : : そばで見ていても気持がいい : そうして、さあ、もっと聞きましよう、と居直った具合に、藤堂と史を見た。しかし、藤堂も 史も暫くの間、黙ったままだった。 丸田茂子は藤堂研を愛していたのだ 史は思った。二人のイトコが怖かったのではない。藤堂研を愛していたのだ。俊子が躍起にな って不審がっていた点がそれで解明出来る。史は電話でそのことを俊子にいう場面を想像した。 ひやア : : : そう ? ・ 俊子は女学生時代の例の調子で叫ぶだろう。そうしていう。 あんた、ふう公、マルポンにポロ負けやねエー
来なかったけど、戦争が終ってから、さアちゃんの面倒をみてたんじゃなかったの ? 」 「ぼくが引さアちゃんと ! 」 藤堂は高い声を出した。 「ぼくはさアちゃんの手ひとっ握ったことは、なかったよ。おふくろから一日結婚を頼まれた けど、何もしなかったよ。ぼくは一度でもそんな関係に入ってたら、どんなことがあっても結婚 している。ぼくはそういう男だー 「でも : : : 」 いいかけた史を藤堂は中学生のように憤然として遮った。 「それはね、ぼくだって若かったから、海軍に入って皆、恋人だの婚約者だのから手紙が来て うらや るのが羨ましかったよ。それでついフラフラとさアちゃんに手紙書いて、復員して来たら結婚し よう、といったこともあった。つまり手紙で約束をしたんだ。しかし、よく考えてやつばりやめ ようと思って、それで丸田に手紙を出して、さアちゃんと結婚の約東をしたが、あれは取り消し 裏てくれと頼んだんだ。それだけだよ、さアちゃんとの関係は 回 「でも戦争が終ってから、藤堂さんはさアちゃんにお小遣いあげたり、生活の面倒みてたって 九聞いたけど : : : つまり愛人としてね」 「バカな ! 」 げつこう 藤堂は激昂した声を出した。 さえぎ
藤堂は懐かしそうにいった。 「しかし、あんたのお父さんがこわかったなあ。何べんも手紙を書きかけたけど、ふうちゃん はラブレターが来ると皆の前で読み上げるんや、って茂ちゃんがいつもいってたんでね。それも ようせんかったなあ : : : ぼくのクラスに月野という奴がいて : 「ああ、月野ーーー覚えてる」 「月野はあんたに自分を好きなら白マル、嫌いなら黒マルを停留場の柱に書いておいてくれと 手紙書いたことが組中にひろがってねー 「あらっ・・・・ : そんなこと、なんで・ : ・ : 」 「茂ちゃんが兄貴にしゃべって、丸田が学校で発表したんだ。月野は可哀想だったなあ : : : 皆 にからかわれて : 「どうしたかしら、月野さん」 おうとう 「戦死したよ。硫黄島で , 裏二人はだんだん熱中して行った。史の中で砕け散っていた藤堂のカケラが少しずつ集って形を 回とり始めた。 九阿川は藤堂と史との間にいて、右を向いたり左を向いたりして、史と藤堂をかわるがわる見て いた。藤堂はいった。 「阿川さん、ぼくはこの人のことが好きでね。中学五年の秋、四か月間、毎朝、この人に会う
8 「あのイトコのおふくろというのが変っててねえ。ぼくがフィリビンへやられることになって 挨拶に寄ったら、一日でいいから小夜と結婚してやってくれ、というんだな」 まっす 史は車に揺られながら真直ぐ前を見つめていた。 「あんな時代だろう。戦死するかもしらんといっても、かまわんというんだな。ぼくはびつく りしたねえ : : : とにかく変った一家だったなあ : : : 親爺が女を作って出て行ったきり帰って来な かったんだー 藤堂はいった。 「あの頃は親爺から送金があったから、茂ちゃんの家よりも豊かだったんだな。茂ちゃんの方 の親爺は早く死んでたから、丸田の方の生活は苦しかったんじゃないかなあ : : : しかし戦後はひ どかったなあ、さアちゃんが野球場へ訪ねて来たことがあったんだよ。結婚したけど別れたとか いってね。みすぼらしい恰好をして、あんまり可哀想だから丁度、アメリカの友達が送って来て くれた洋服地をやったりね、その後、小遣いも時々、やってたなあ : ・ 史は真直ぐ前に顔を向けたまま、 「ふーん、そう」 といっただけだった。 海沿いの町の料亭は海のそばにあったが波の音は聞えなかった。史は障子を開けて水銀燈に照 いしどうろう らされている庭の芝生と石燈籠を眺めた。その向うに海がある筈だったが、芝生の向うはただ黒 おやじ
その夜、有作は帰って来なかった。有作は社長と一緒にある金貸しに融資を頼むために箱根へ 出かけて泊ったのだ。その日会う約東だった金貸しは約束を反古にして芸者を連れて箱根へ行っ た。それを知った社長と有作は直ちに後を追ったのである。 有作は翌日の朝、帰って来た。丁度、久が起きて朝食のトーストを焼いているときだった。有 作は一文なしになって、タクシー代も払えなかった。社長と二人の箱根での宿泊費を有作は払わ ふすま 三されたのだ。有作は人さし指の爪を黒ずませていた。芸者が怒って、カまかせに閉めた襖に指を 挾んだのだと有作はいった。社長と有作は死にもの狂いで金貸しに喰い下ったのだ。それで金貸 しは芸者と寝ることが出来なかった。目的は不首尾に終った。今月末には会社はつぶれるかもし はさ 工藤は叫んだ。 「タクシーの運ちゃんに知られるなんて一流ですよ。流行作家ですよ、先生ー 「ホントだとしたらその運ちゃん、なかなか見どころがあるわ」 久は半ばふざけていったが、悪い気持ではなかった。 「ありますとも、ありますとも。とにかくたいしたもんですよ」 久は少女を見た。少女のおかつばの下で紫がかった霜やけの指が顔を隠している。その太い指 のぞ と指の間から小さな赤い目が久に向ってキョロリと覗いていた。
「やられた ? どろぼう 「泥棒だったのよ、あの子。預金通帳は空つぼ : : : 」 いったんニコニコの消えた有作の顔に、波紋のように笑いの波がひろがって行った。 「やられたのか、三十万引 有作は叫んだ。 「やられたのか、あの子にー 「うちにはもう八百六十円しかお金がないのよ ! 」 思わず有作は笑った。顔を天井に向けてカラカラと大声に笑った。その笑い声は近来、有作が 放った笑い声の中で、最も愉快そうな笑い声だったのである。