鮎川哲也 - みる会図書館


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1. 九回裏

タイム・ケンネル豊田有恒オョョ城の秘密小林信彦貝になった子ども松谷みよ子 時間砲計画豊田有恒 パパは神様じゃない小 林信彦お月さんももいろ松谷みよ子 サイボーグ王女豊田有恒冬の神話小林信彦タばえ作戦光瀬龍 自殺コンサルタント豊田有恒オョヨ大統領の悪夢小林信彦墓碑銘一一〇〇七年光瀬 立日 月退魔戦記豊田有恒サイボーグ・・フルース平井和正明日への追跡光瀬 年少年エスパー戦隊豊田有恒虎は暗闇より平井和正宇宙のツアラトウストラ光瀬 イルカの惑星豊田有恒魔女の標的平井和正黒いトランク鮎川哲 両面宿儺豊田有恒怪物はだれだ平井和正憎悪の化石鮎川哲也 帯 西遊記プラス豊田有恒アンドロイドお雪平井和正死者を笞打て鮎川哲也 白鳥鮎川哲也 倭王の末裔豊田有恒メガロポリスの虎平井和正黒 学 文邪馬台国作戦豊田有恒死霊狩り全三冊平井和正風の証言鮎川哲也 改体者豊田有恒悪徳学園平井和正リラ荘殺人事件鮎川哲也 日 代持統四年の諜者豊田有恒悪夢のかたち平井和正積木の塔鮎川哲也 非・文化人類学入門豊田有恒超革命的中学生集団平井和正死のある風景鮎川哲也 録津軽世去れ節長部日出雄美女の青い影平井和正人それを情死と呼ぶ鮎川哲也 庫オョョ島の冒険小林信彦まぼろしの雪男谷口正彦砂の城鮎川哲也 怪人オョヨ大統領小林信彦笑辞典落語の根多宇井無愁準急 " ながら】鮎川哲也 匍大統領の密使小林信彦予言者山田智彦ベト言フ事件鮎川哲也 大統領の晩餐小林信彦蜘蛛の館山田智彦裸で転がる鮎川哲也 合言葉はオョョ 小林信彦犬の生活山田智彦死が一一人を別つまで鮎川哲也 秘密指令オョョ小林信彦愛の終り山田智彦金貨の首飾りをした女鮎川哲也 ( 18 )

2. 九回裏

田実 呼び止める女鮎川哲也男の日ごよみ宮原昭夫アメリカ 唇鮎川哲也カムイの剣矢野徹わが人生の時小田実 蝶を盗んだ女鮎川哲也。・フテン船長の冒険矢野徹明後日の手記小田実 月自負のアリ・ ( イ鮎川哲也新世界遊撃隊矢野徹天国は遠すぎる土屋隆夫 街Ⅱ父と子永六輔カラスの海矢野徹天狗の面土屋隆夫 鷲矢野徹危険な童話土屋隆夫 旅Ⅱ父と子永六輔海 女Ⅱ父と子永六輔地球 0 年矢野徹判事よ自らを裁け土屋隆夫 、の牙土屋隆夫 2 孤愁の岸杉本苑子安楽死西村寿行 ~ ノ 舟崎克彦瀬戸内殺人海流西村寿行粋理学入門土屋隆夫 トンカチと花将軍舟崎靖子 文木馬がの。た白い船立原えりか屍海峡西村寿行地獄から来た天使土屋隆夫 本まぼろしの祭り立原えりか原色の蛾西村寿行影の告発土屋隆夫 代青い羽のおもいで立原えりか蒼き海の伝説西村寿行針の誘い土屋隆夫 現妖精たち立原えりか幻の白い犬を見た西村寿行傷だらけの街土屋隆夫 録でかでか人とちびちび人立原えりか牙城を撃て全二冊西村寿行赤の組曲土屋隆夫 目 鼠どもへの訴状佐江衆一化石の荒野西村寿行芥川龍之介の推理土屋隆夫 すばらしい空佐江衆一汝、怒りもて報いよ全二冊西村寿行異説・軽井沢心中土屋隆夫 わが闘争堤玲子荒涼山河風ありて西村寿行青い帽子の物語土屋隆夫 カクテル・・ ( ーティー大城立裕双頭の蛇西村寿行ねこに未来はない長田弘 ばなりぬすま幻想大城立裕悪霊の棲む日々西村寿行日本代表ミスロ笛ふい中島河太郎 編 テリー選集 1 て殺人を権田萬淪 風の御主前大城立裕妄執の果つるとき西村寿行 日本代表ミス犯罪エリ中島河太郎一 誰かが触った宮原昭夫銃器店へ中井英夫テリー選集 2 ート集団権田萬治

3. 九回裏

見ると哲夫が一人で来ている。哲夫のそばには十八、九に見える女がびったりより添っていて、 一見して二人はただの客とホステスでないことがわかる。 「や、今朝ほどは」 敬太郎がいうと哲夫はテープル越しに、 がんば 「お互いに頑張りましよう ! 」 とグラスを上げた。 「雨にも負けず風にも負けず 雪にも夏の暑さにも負けぬ 丈夫な身体を持ち 東に美女あれば 誘いに走り : : : 」 哲夫は敬太郎に自分のテープルへ来ないかと誘った。 「紹介します。ミドリというんです。どうです、可愛いでしよう」 っ哲夫は相当に酔っている。朝は快活に笑っていたが、あの笑いはやはり敬太郎と同じく胃袋の 三 - 重苦しさをふっ飛ばすための笑いだったのかもしれない。 「オレは今日は帰らんぞウ ! 」 と哲夫はミドリを抱き寄せながら怒鳴った。

4. 九回裏

つの心 「やあ、寺田さんーー」 敬太郎は声をかけられた。後ろから追いかけて来たのは林哲夫である。二人は顔を見合わせて 苦笑した。 「どうですか、昨夜は ? 」 哲夫はいった。昨日の顎の腫れはやや引いているが、額に新しい引っ掻き傷がついている。 「朝帰りですよー 敬太郎がいうと、哲夫は苦笑をおさめて、 「えっー と驚いた。 「それはまた、勇敢ですなあ。ぼくはとにかく帰りましたよー 哲夫はいった。 「寺田さん、はじめつからあんまり勇敢にやり過ぎると長つづきしませんよ。つまりね、細く 長くということを考えなくちゃ : : : ボクシングでも、竸馬でもしよっぱなからはり切りすぎるの は試合巧者とはいえないんです」 「なるほど。そういうもんですかねー 敬太郎は憮然としていった。こと町子に関する限り、「細く長く」も「太く短く」も関係がな いのだ。目下の情勢では敬太郎は自由である。妻から何の制約も受けていない。いわば浮気し放 か

5. 九回裏

題というひろびろとした世界を与えられているのだ。 敬太郎は哲夫の後からバスに乗り込んだ。 「それにね、寺田さん、浮気というものはあんまり堂々とやってはいけませんな。たとえ女の 上に乗っかっているところを女房に見られたとしてでもですよ。女と関係してるんじゃない。今、 この上を通って向こうへ行こうとしていたところだといい張れ、といいますからね。それは自分 の非を隠すためじゃない、女房に対する思いやり、エチケットなんですな。女房ってものは、疑 ウ いながらも、夫が否定してくれるのを待っているんですからね。本当のことをいいなさいー ソついても欺されないわよ ! といいながら、ウソをついてもらったことで救われているんです からね。それが浮気道というものなんですよ」 敬太郎は哲夫を見た。哲夫はたしか昨夜、 「オレは今日帰らんそウ、あんな女のいるところへ、おかしくて帰れるか」 と叫んでいた。 たしかあんな虫ケラは黙殺しろとどなっていた。敬太郎はその言葉にけしかけられて、あんな 女と旅館へ泊まってしまったというのに : そのとき哲夫はしたり顔にいった。 しろうと 「素人の人は、ややもすると柔軟性に欠けるキライがありましてね、肩に力が入ってはいけな いことは角力も浮気も同じですよ、アハハハハ」 すもう

6. 九回裏

敬太郎は思わずその人を睨みつけた。それから目を反らしかけて、慌てて、 「や、失敬しました」 と謝った。どこかで見た顔だと思ったら、静子の夫、林哲夫だったのだ。しゃれ者の哲夫らし こうしじま うわぎ く、しゃれた格子縞の春らしい上衣にかすかに。ヒンクがかったワイシャツを着ているが、右の顎 と頬が腫れ上がってせつかくの美男子が今朝は歪んでいるのだ。 「や、お早うございます」 哲夫は照れくさそうに笑い 「いやはや、どうも , と歪んだ顎を押えた。 「いや、この頃、女房のやつはなかなか攻撃がうまくなりましてね」 哲夫はそういうと敬太郎を見て快活に笑った。 「どうも女房というやつは : : : 困りますなあ : : : よくも飽きずにヤキモチをやきつ。つけるもん 心だと思いますよ、アノ の 「はあ」 っ 敬太郎はさっきの町子の電話を思い出しながらいった。 「これは大分ひどくやられましたねー 「はじめの頃は拗ねる専門でしたがね。それから怒り泣きってやつですよ。その次の段階が罵 にら ののし

7. 九回裏

静子は小声でいった。 「でもこんなサービスがある時は怪しいのよー うれ そうはいっているが、静子の丸いくびれた顎はやはり嬉しそうに笑っている。 「じゃ、また」 えしやく 町子は哲夫に会釈して通り過ぎた。林哲夫はいっ会っても身だしなみのいいダンデイだ。学生 からだ 時代はテニスの選手だったというが、四十歳近くなった今でも、引き緊まった身体つきは崩れな 。彼はゴルフ焼けの顔をほころばせた。白い歯がこぼれる。そんな風に笑うとき、哲夫は自分 のその白い歯の魅力を十分に知っているように見えた。 町子はシクラメンの鉢を抱え直してドアを開けた。小学校五年生の京子は、朝早くから友達と スケッチに行くといって出かけて行った。奥の六畳で夫の敬太郎はまだ寝ていた。 「まだ寝てるの、もうお昼よ。いい加減に起きたら : 町子はサイドボードの上にシクラメンを置いて奥へ声をかけた。奥からは返事がない。だが 返事がないのは眠っているからだとは限らない。敬太郎は町子が話しかけたことに対して、返事 つをしないことが普通になっているからである。たいていの場合、敬太郎は、「うん、とか「うう 三ん」とか「うーん ? うーんーという肯定とも否定ともっかぬ返事ですませてしまう。林哲夫よ りも二歳も年下の三十七歳だというのに、哲夫より三つも四つも上のように見えるのは、生来の ぶしよう ふうさい 不精から来る身だしなみの悪さと同時に風采の上がらなさもある。町子はよくいっていた。

8. 九回裏

それは敬太郎には結婚以来、はじめての浮気だった。敬太郎は町子から一度もヤキモチをやか れたことがないのを、内心ひそかに口惜しく思っていた。いや、恥じていたといってもよい。林 うらや 哲夫の浮気話を聞くたびに、哲夫を羨ましく思っていたといってもよい。敬太郎は一流大学独文 卒。その彼が三流大学を卒業したという哲夫に、何となく一目おく気分にさえなっていたのであ 「うちの主人は大丈夫、浮気の点だけは安心してるの。それほどモテないんだから」 町子が静子と電話でそんな話をしているのを聞くたびに、心の底で、 「今にみていろ、ぼくだって と思わぬ時とてなかった。だがそんな風に思っている時も、敬太郎の顔は暢気そうで鈍感そう で、女にもてぬことなどへとも思っておらぬように見えたのである。 はじめのうち、波がヤキモチをやくのが敬太郎には嬉しくてならなかった。やっと一人前の男 になったような気持がした。その嬉しさを味わいたいために、敬太郎はわざと町子のノロケをい って波を嫉妬の鬼にしたこともある。しかしそのうちにだんだん、敬太郎はそんなことをいわな くなった。ヤキモチをやかれることが嬉しいなどと思わなくなった。敬太郎は普通の男並みにヤ キモチを怖れ、普通の男並みにごま化すのがうまくなった。 「バカだなあ、君ほどの女が、どうしてそんなつまらないことをいうんだよ」 くちびる 敬太郎は波を引き寄せて、その胸の隆起に顔を近づけ、唇を寄せて行きながらいった。

9. 九回裏

いっか静子がこれと全く同じゃり口で哲夫の浮気現場を突き止めようとしていたことがあった のを思い出した。静子は哲夫が本当に三日間の大阪出張に行ったかどうかを調べるために、偽名 を使って会社へ電話をかけていたのだ。そのとき町子は苦笑してそんな静子を眺めていた。町子 は自分のその苦笑を覚えている。 「突き止めたところでしようがないじゃないの。なぜそんな無意味なことをするの」 あざ といったその言葉の、嘲けるような調子まで覚えている。その惨めさが、いっそう町子の興奮 をかき立てた。 町子は敬太郎の電話番号控えをはじめから一つ一つ調べて行った。たいして沢山の数ではない。 殆どが男名前だ。やがて町子は名前のない番号が最後に書いてあるのに気がついた。局番からい せたがや うとそれは世田谷の局番にちがいない。敬太郎はなぜ番号だけ書き止めて、人の名前を書かなか ったのだろう。それは故意にしたことか、書き忘れたことか。書かなくてもその人の名は敬太郎 の頭に刻み込まれているということなのか ? 町子の手はためらいながらダイアルを廻しはじめた。信号音が呼んでいる。静かに受話器が外 された。 「もしもし」 どこかで聞いたことのある落ち着いたアルトがいった。 「三村です」

10. 九回裏

幻 るどなる。それからこの頃は暴力段階に入ったようです。この次がどういうことになって行くの か : : : いずれは衰える時が来るんでしようが」 哲夫は笑った。 「もっともどっちが先に衰えるかの問題かもしれませんがね : : : アハ 敬太郎も仕方なく、 「ア、 と笑った。そうして笑い声を上げると胃袋のへんに滞っていた重苦しさが少し減ったような気 がした。敬太郎はいってみた。 「お互いに苦労しますなあー 「ぼくはね、女房の方も遠慮せずに浮気をすればいいのにと思うんですよ。そうしたらヤキモ チを生甲斐とするようなことにはならんと思うんです。ですがらときどき、そういって勧めるん ですがね。そうするととても怒るんですよ。なぜ怒るのか考えてみたんですが、どうやら、浮気 したいにも相手がおらぬということらしいので : : : い や、これにはぼくは笑いましたねえ」 哲夫の笑い声に合わせて敬太郎も笑った。すると胸に残っていた重苦しさは完全に消えた。 その日は波はまだ仕事先から帰っていなかった。それで敬太郎は講義をすませたあと、三井書 房へ寄って担当編集者の稲垣を誘って新宿へ出た。今日は早く家へ帰る気はない。いきつけのバ ーを二、三軒廻って稲垣と別れ、一人になってから最後に行った店で、敬太郎は声をかけられた。