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検索対象: 何がおかしい
192件見つかりました。

1. 何がおかしい

「凄いねえ。それで学校へ行ってるのフ 「そうよ。それから男の子のハゲも多かったわ。ジャリッパゲ、一銭ハゲ、三日月ハゲ、 タイワンハゲ : : : 」 「どうしてそんなにハゲがあるの ? 」 「つまり昔の男の子は皆、丸刈りだからハゲが見えるのよ。そのハゲは、たいていおでき こんせき とか怪我とか、そんなものの痕跡だけど」 「汚いねえ、昔の子供は。ハナをたらして、耳ダレ出して、目の縁は紫の隈どり、頭はハ ようかい ゲ : : : まるで妖怪じゃないの」 「それにまだある。アクチが切れてるものもいたわ」 「アクチってなによ ? 」 「唇の両端のところが白くただれてるのー いよいよ 「愈々ゲゲゲの鬼太郎の世界だあ」 「それに、そうだ ! シモャケ、アカギレ ! 手の指や甲の皮膚が赤紫色になって、その 上に方々割れて赤い肉が見えてるの、ジクジク血が滲んでて」 私はだんだん調子づいて来た。 シラミもたかっていたしね 「その上に、ノミ 「シラミってどんなの ? 」 すご

2. 何がおかしい

I 夢かと思えば わかってる。何しろ座談会の邪魔だとて、二人の男が私を運び出しにきたくらいだもの。 それにしてもこういう夢をフロイトはどう解釈するのだろう ?

3. 何がおかしい

ないが、むざむざ見せてやるのがシャクである。 「佐藤のばあさんの裸ときたら : ・ さかな と酒の肴にされるのが。 そういう次第で陽のあるうちに入浴したいのだが、五時に電話がかかってくると思って 待っていた。娘が町へ行っているので私一人である。入浴中にかかっては困る。 五時半になった。 かかってこない。 六時まで待った。 かかってこない。 七時に来客の約束が入っている。娘はそのもてなしの酒肴を整えに町へ行ったのだ。思 いきって入浴しようか ? しかし風呂場から居間の電話まで、二つの座敷を裸で走り抜けなければならない。それ え 思 を思うと、もう少し待ってみようという気になるのである。 ここまで読まれた読者は、 ( ( ーン、ここで佐藤愛子の憤怒が湧き立つのだな、とお思 - いになるだろう。それはこの数十年来の私のパターンである。 しかし「憤怒の女ーの異名をほしいままにした私も今、六十四歳になんなんとして、つ いに憤怒に飽きた。気の弱りではなく、飽きたのだ。 しゅこう

4. 何がおかしい

「勿体ないじゃないの、そんな余計なお金を使うなんて : : : 」 「勿体ないことなんかない。お金はそういう時に使うものです ! 」 常々、「勿体ながり」の私を知っている娘は、勿体ないと思う一心から危険を冒すかも しれない。そう考えて声に力を籠めた。 ぜいたく 「こういう時に贅沢をする ! それが佐藤家の家憲です ! 」 「わかったよ : : : 」 親の心子知らず。娘は面倒くさそうにいって出発して行った。亭主がいたら、と思うの はこういう時である。 「なにを。ハ力なことをいってるんだ。大丈夫だよ」 の父親の一一一一一口があれば母親というものは気が鎮まるのだが。 翌日、船の中から電話があり、穏やかな航海をつづけていると知ってひと安心する。そ してその翌日、私は飛行機で千歳へ向い、苫小牧で下船した娘と無事出会った。 別荘へ向う車の中で、「実はネ」と一部始終を話す。 「それであの時あんなに沈んでいたの。なんでこう暗い顔してるのかと思ってたんだ」 と娘は笑っていた。 それから三日ほど経って、ふと娘がいった。 もったい

5. 何がおかしい

I 夢かと思えば 113 はしやしない。人に説明出来るくらいなら泣きはしないのだ。 私はその子の代りに怒 0 てるお母さんにそうい 0 てやりたか 0 た。しかしたとえそうい 0 たとしても若いお母さんは多分納得しないだろう。人は母親になるとなぜか自分が子供 どった頃のことを忘れてしまうのである。

6. 何がおかしい

240 返事がまたこない。 確かめの電話を人れると、相談したがどうもむつかしいという返答である。 ( それなら そうと、なぜ返事をしてこない ! ) だがその語調で先方には何も伝えていないらしいこと が私には推察出来るのである。私が直接、主催者と話をすることが出来ない以上、彼女は 自分の一存で事態を左右出来るのだ。 ( 昔の仲人ばあさんによくこういうのがいた ) 二度 ばかり電話のやりとりをした後、私は面倒くさくなって行くことにした。しかし講演会の たびに、やれ時間は ? 出発は ? とあたふたさせられるのでは本業に差しつかえる。担 当を変えてもらうことにした。 しばら 彼女はそれを承知したが、それから暫くして、市講演の例の行動メモというのが送ら れてきた。見ると担当者 0 となっている。私の要求通り、担当は変ったのである。 これが普通なら、「いわれる通り、担当を 0 という者に変えましたからよろしく」とい ってくるところである。しかし電通は (< 嬢はとはあえていわない ) そういう「無駄」は しないのである。担当者が変ったことは、その文書の担当者名を見ればわかるだろう 彼ら合理主義者たちはそう考えるのである。 私はここで嬢氏への個人的怨みを晴らそうとして、この文を書き始めたのでは決し てない。この一文を読んだ電通の上層部が、 < 嬢氏を責めるようなことがあれば、それ

7. 何がおかしい

230 もちろん う見解をとっているのだ。勿論、私は取材過程でそのことを知っている。しかし私の小説 では私はその考え方をとらず、あくまで「現代の青春と愛の不幸」という形をとった。 ところが弁護士はそれが「真実に反している」。だから出版は控えるべきだというのだ。 ここへきて私はどうにも首肯出来ぬ思いに捉われた。 「共生関係から生じた心身耗弱」という殺人理由は、弁護士と精神分析医にとってのひと つの解釈である。その解釈に文句をつける気は毛頭ない。しかしそれが「真実ーであるか らそのように書かなければいけないという主張に私は反発せずにはいられない。 真実とは何なのだろう。 それはもしかしたら、殺人を犯した当人にもわからぬものなのた。社会が複雑になって 人間がそれに引きずられて行くに従って、真実はますますわからなくなって行く。殺人と いう行為にひとつの解釈をつけることは弁護士にとっては、職業上必要なことであろう。 しかし現に裁判長はそれを認めなかった。それは裁判長の見解であり、それが不明だと怒 ることは自由だが、だから裁判長は「間違っている」と断定することは出来ないのである。 「共生関係に陥ったための心身耗弱」 それはあくまでひとつの解釈である。 しかし真実ではない。い や、真実かもしれないし、そうでないかもしれない、 といい直

8. 何がおかしい

の怒号から、先生の愛情が豪雨のように降り注いでくるのを感じていた。言葉無用の、そ かんめいちよくせつ の簡明直截な強い愛情に洗われていると、もうどんなことも怖くなくなっているのだった。 どとう 夫の破産、離婚と同時にきた直木賞受賞の後、私は怒濤のように生きてきた。借金返済 の義務が私を怒濤にさせたのだ。 「この世を生きるとは矛盾を生きることだ」 とその頃の日記に私は書いている。 私はすーっとまっすぐに生きたいと念じてきた。私が何よりも嫌ったのは妥協だ。その ふそん ため私は世間の目には奇人変人であり、権力の権化であり、怒りつぼく威ばり屋、不遜な 女、恐怖の的になった。 私の読者だという若い女性が、ある大出版社の入社試験に臨んだ時、好きな作家は誰か つぶや と訊かれて「佐藤愛子」と答えた。すると面接員はこう呟いたという。 「こりやダメだ。協調性がない : 一次試験に。ハスしていた彼女はその面接で落ちた。 彼女からの手紙でこのことを知った時、私は大笑いした。まったく、笑ってるよりしょ うがない。 これは現代を象徴している。今は協調時代なのである。まっすぐに生きることがむつか しいというよりは、そう生きてはいけないと大方の人が考えているのだ。

9. 何がおかしい

124 さすがにためらいが起きたとみえて、では相談して後ほどお返事します、といって電話 は切れたが、十分経っか経たぬうちにかかってきた。 「先ほどはまことに失礼いたしました。相談の結果、社長もたいそう面白いといいまして、 ではそのように、おっしやるようにしていただこうということになりました」 「いいんですか : : : ほんとうに : 敗残の兵のごとく私はいった。 ああ、かくなりたる上は『さんざんな男たち、女たち』ではなく、『さんざんな私』と 題名をつけたいものである。

10. 何がおかしい

136 お不動様とマヨネーズ 七年ばかり前のこと、ある霊能者から「佐藤さんは不動明王が守っておられます」とい われて以来、私はお不動様を信仰している。 いうまでもなく、お不動さまは我々の目には見えない。従って「守っておられますーと いわれた時に、それをすぐに信じる人もいれば信じない人もいる。すぐに信じて忽ち信者 になったりする者は「単細胞ーだと笑われるのが今の世である。 目に見えないものをなぜ信じることが出来るのか、何を根拠にそれを信じるのかと嘲 笑的にいう人が多いが、私は「それは有難い」とすぐに信じた。 年をとるに従って人は用心深くなり、疑い深くなるというが、私はその反対で ( もっと も若い時分から不用心ですぐに人を信じては欺される人間ではあったが ) 、老来ますます その傾向が強くなって、すべてを無心に受け容れようと意志するようにさえなっているの である。 こいつは疑わしいな、眉ツバだと思うことはそれはある。しかしそう思いながらも、信 じたいという気持の強さの方が勝って、その結果、 しよ、つ まゆ たちま ちょう