そんな - みる会図書館


検索対象: 何がおかしい
99件見つかりました。

1. 何がおかしい

「凄いねえ。それで学校へ行ってるのフ 「そうよ。それから男の子のハゲも多かったわ。ジャリッパゲ、一銭ハゲ、三日月ハゲ、 タイワンハゲ : : : 」 「どうしてそんなにハゲがあるの ? 」 「つまり昔の男の子は皆、丸刈りだからハゲが見えるのよ。そのハゲは、たいていおでき こんせき とか怪我とか、そんなものの痕跡だけど」 「汚いねえ、昔の子供は。ハナをたらして、耳ダレ出して、目の縁は紫の隈どり、頭はハ ようかい ゲ : : : まるで妖怪じゃないの」 「それにまだある。アクチが切れてるものもいたわ」 「アクチってなによ ? 」 「唇の両端のところが白くただれてるのー いよいよ 「愈々ゲゲゲの鬼太郎の世界だあ」 「それに、そうだ ! シモャケ、アカギレ ! 手の指や甲の皮膚が赤紫色になって、その 上に方々割れて赤い肉が見えてるの、ジクジク血が滲んでて」 私はだんだん調子づいて来た。 シラミもたかっていたしね 「その上に、ノミ 「シラミってどんなの ? 」 すご

2. 何がおかしい

159 「寒いうちは着物を着ています」 といった。すると相手は重ねて訊いた。 「着物の色は何色ですか ? 「何色かって : : : なんでそんなことを今いわなければならないんです ? 私は女優じゃな いんですから : : : こんなバアサンの写真なんか、どうだっていいじゃないの」 ま、つま、つ 私の見幕に相手はの体で電話を切った。私の中では怒りがくすぶっている。その怒 りは相手の真意がわからぬことと、わからぬままに怒ってしまったことへの後ろめたさの ためである。 翌日、私は後ろめたさを抱えてカメラマンとインタビ、アーを迎えた。 ・けっこう 「昨日は激昂したりしてすみませんでした」 と謝る。てれかくしにア ( ( と笑ってみせて、どうにかインタビ = ーは順調に終ったの いであったが、さて、写真を撮るだんになってカメラマンがこういった。 「この前の篠山紀信さんが撮られた写真、とてもよかったですね。今日はあれに負けない 何ような写真を撮りたいと思いましてね」 「あっ」と思った。その言葉ですべてがわかった。カメラマンは仕事熱心の人だったのだ。 彼は篠山さんよりもいい写真を撮りたいと念願した。そのため着物か洋服か、どんな色か を聞いておいて、あらかじめあれこれ工夫を凝らしておくつもりだったのだ。

3. 何がおかしい

179 同じ日に速達が東京の留守宅から回送されて来た。見も知らぬ読者からで、 「どうか気を落さず、よい作品を書いて小学館を見返してやって下さい」 とある。 私はだんだん不愉快になって来た。清貧を選んで生きようとしている人が、隣近所から 気の毒がられて握り飯や芋の煮たのを持って来られた時は、こんな気持がするのではない か、という気分である。 ねまわ 芸術院会員を最高の栄誉と考えて、根廻し奔走に明け暮れてめでたく芸術院会員になる 人もいれば、今東光氏のように、「そんなもん、いらねえ」と断る人もいる。しかしなり たがりや組となりたくない組と、どっちが上か下かということは、本来、ないのである。 そこにあるのは、それそれの価値観だけだ。人の上に立ちたい、人から仰がれたいと思う 人のその情熱によって優れた作品が産み出されることもあるし、そんなものを無視するこ はとによって、同じ成果を上げる人もいるのである。 、や、気の毒だ、いや、可哀そ あの人は三十過ぎているのに結婚しないのはおかしい。し 何うだ、何とかしてあげなければ、と余計な心配をする人が世の中には沢山いる。しかし本 人は「何とかしたい」とは少しも思っていないから、迷惑至極という顔をする。しかし、 「三十過ぎて結婚しないのは不幸である」という観念に縛られている人は、その迷惑至極 の顔が理解出来ない。

4. 何がおかしい

103 ンサムである。 「ほんとにもういっぺん来るのフ 「来るよー ぼうぜん そういってトラックは下って行った。私は呆然として見送る。テラスに残っていた祭礼 あっけ の世話役の親爺さんたちはこの話を聞いて呆気にとられている。 「本気かい。センセェ」 とい、つ。 「ほんとに来るかしら ? 」 「いや、来ないべ」 とあっさりいう。ここへ来るにはおよそ五〇〇メートルの砂利道を爪先上りに上って来 この胸突八丁が問題である。 て、最後は一〇〇メートルの急坂を登らなければならない。 私は様子を見に降りて行くことにした。 と 「クルマで行くかし ? 夢と世話役。彼らは乗用車で来ているのだ。 、歩いて行くわ」 みんなに担いでこいといっておいて、自分は車に乗ったのでは女がすたる。そんな気持 。こっこ 0 ュノノ おやじ つまさき

5. 何がおかしい

111 「いやや」 と私はいう。なぜいやなのか、と母は問う。それくらいのこと、なんでもないじゃない とい一つ。 か、先生は叱ったりしない、 しかし、私は叱られるのが恐くていえないのではない。それが母たちにはわからない。 いうてごらん : : : 」 「なにが恥かしいのん、え ? なにが ? 例によってはじまる。そうして母は匙を投げて家事手伝いを呼んで学校へ行かせ、やが て「ひさ」というその家事手伝いは、笑いながら帽子を持って帰ってきた。 よ・つや ほっとして帽子を手に取ると、漸く難関を突破したという安堵と、一旦は見捨てようと した帽子への哀れさ、申しわけなさで胸がいつばいになるのだった。 私がこんな思い出話をすると、人は皆、信じられないという。 「ほんとですか」 え と念を押す人もいる。 思 「佐藤さんもそうだったのかと思うと、元気づけられます」 夢といったのは、気弱な子供を持ったお母さんである。 「でも、そんな子供だった佐藤さんが、どうして今のような鬼をもひしぐ人になったんで しよう」 と質問した人もいる。

6. 何がおかしい

ハナシにならん ! 」 「あんた、シラミも知らんの ? と威張る。 ひど 「頭につくのがシラミです。髪の毛に卵を産みつけるから、酷い時は髪の毛にびっしり白 い点々がついてるの。シラミの親は頭の血を吸うから痒い。子供がガリガリ頭を掻きはじ めると、何や、アタマばっかり掻いて、シラミでもいるんやないか、と親は気がつく。ノ ミは頭につかないで身体について血を吸う。シラミは跳ばないけど、ノミはよく跳ぶから、 えり すわ 教室に坐っていても、隣の子供の襟もとなんかから、ビヨーンと跳んで来て、こっちへ移 る危険があるの」 とんなところに住んでたのよ ? 「ママはいったい、。 いち」 「鳴尾村という苺の名産地 , と答えて思い出した。 かいちゅう 「村中苺畑ばっかり。それで子供がみな、お腹に蛔虫を持っていた・ : え 思 「なにイ ? カイチ = ウ ? お腹の中に虫がいるのお ! 」 「そう、蛔虫、知らないの ? 」 ぎようちゅう 「知らないよう、そんなもの ! 蟯虫のこと ? ズを太 「蟯虫なんてあんなもの、蛔虫に較べたら、殿サマと足軽ですよ ! 蛔虫は、 くした白い虫で二十センチから大きいのは三十センチ以上あってどんどん増える。腸の中 かゆ

7. 何がおかしい

でしよう ? 女性にももてるし、もてたら自信がつく。その自信が積極性を産む : : : そう いうものじゃないかな ? 」 ハナの高さで自信があったりなかったりするような男、女は魅力を感じま 「そんなね ! せんよ。我々女が男に期待するのは、女には持てない男の意志力、体力ですよ。女には持 ちにくい理性的判断力ですよ。人はどういう人間に感動するかといえば、努力する人、勇 気ある人、強い人、情熱を持っている人、そういう人に心が動くんです。ハナ見て感動す る人なんていませんー しかし若者はニコニコ顔で、 「でも、実際にモテるようになったんですよ」 へんべい モテる ! この立看板みたいに扁平で作りバナのヘナへナ男がー 私はひとり憤然としたが、彼は平然として動じず、 「ほくの前に新しい世界が開けたような気がして、毎日が充実しています」 「そりや結構ね ! 」 という声は我ながら捨てばちで、もうどんなイヤミも説教も罵詈も、彼の胸を刺し貫く ことは不可能であることを思い知った。新しい ( ナが彼のプロテクターになったのである。 かぎ この問題の鍵はどこにあるか、と私は考える。社会がもっと単純であった頃は、プ男は ブ男であることを背負って、その代りにその失点を補う努力を重ねることによって、ブ男

8. 何がおかしい

132 罪のかげに男あり」になってきた。主役は女が務めるようになってきたのである。 若い女性が男に貢ぐために勤務先の大金に手をつけるという事件がそう珍しいことでは なくなってきた。女性は社会的に解放されると同時に犯罪面でも解放 ( ? ) されていった のだ。昔は女が男に貢ぐといえば、せいたい苦界に身を沈めて得た金を、電柱のかげでせ びりに来た男に渡す、という程度だったのである。 そんなことを思いながら、手もとの週刊誌をめくっているとこんなタイトルが目に止っ 「架空の赤チャン千七百人で三億円詐取した女事務員の財テク」 大手ミシンメーカーの健康保険組合に勤める四十六歳の女性が、医療給付に関する事務 んべんひ を行っていたのをいいことに、架空の出産をでっち上げて、「配偶者分娩費ーを七年間に 約三億円着服していたのだ。組合員は四千七百人いるが、本人や配偶者が子供を産む可能 性のある組合員は約半分くらいとみても、一年平均、二百四十人も子供が生れたという計 算になる。 さすがに組合の財政が悪化してきて、原因分析を始めたところ、医療費、特に分娩費が 突出していることがわかった。他の会社の四倍になっていたのである。ところがこの原因 究明を、ほかならぬこの女性にやらせていた。そのため不正の発見が遅れたというのであ る。

9. 何がおかしい

218 女性誌のインタビュアが来ていう。 「お仕事の間の気晴しはどうしていらっしゃいますか ? 」 私は途方に暮れる。気晴しなんか私は考えたことがない。気晴しをする必要も感じない。 それが私の正直な気持だが、その正直な返事は彼女を困らせるだけだろう。彼女は、人 間には気晴しが必要だとしつかり思いこんでいるのだから。そんなものは必要ないという てら 私の返事を彼女は衒いだと思うだろう。この人は何ごとも人と違うことをいう自己顕示欲 の権化だと思うかもしれない。何かにつけて人に逆らう厄介なャツだとも。 仕方なく私は気晴しについて一所懸命考える。インタビアが好もしい人であれば尚の こと手助けをしたい気になる。 「ま、あえていうなら、煮豆を煮たり、塩昆布を煮たり、そんなことかしら : : : 」 「まあ、佐藤さんがそんなことをなさるんですかア : : : 。驚きですわア」 それほどたいしたことでもないのにそう驚かれると、私はむしろ悲しくなってくる。吉 田先生ならきっとこういわれるだろう。 「なに気晴し ? そんなものがなぜ必要なんだ、くだらん ! 」 若い頃は私も平気でそういっていた。しかしこの頃はもういわない。年をとるというこ とはこ、ついうことなのかフ・

10. 何がおかしい

「こうしているとパリを思い出しましてね 「ま、 「マロニエが美しい頃ですよ : : : 」 などと、 いってもいわなくてもいいような会話を気どって交し、 「またいっかお目にかかりたいですね 「え ? でも、きっともう、お会いすることってないんじゃありません ? 偶然って、そ うありませんもの」 「いや、それはね、簡単ですよ。意志を持てばいいんです」 「まあ : : : 」 うれ てなこといって嬉しがってる。そしてそれがやがて擬似恋愛に発展して、浮き浮き したり、悩んだり、幸福感に浸ったり、急に色つぼくキレイになったり、人にそういわれ 以て喜んだり : : : そんな他愛のないことなのよ。そうね、そんなところね : : : と勝手に決め て我々は憤然とする。低俗といわれても、我々の世代はせいぜいそんな忖度しか出来ない 何のである。 「妻であり母であることがつまらない ? つまらなくたって、自分にそれだけの力しかな 5 かったらしようがないじゃないの ! 」 、」も と急に怒気が籠る。そういわれてみればつまらない人生を送ってきて、もう取り返しの そんたく