ファックス - みる会図書館


検索対象: 何がおかしい
4件見つかりました。

1. 何がおかしい

空飛ぶ文字 北海道の家にいる夏の間、原稿は何で送るのですか、ファックスですか、とよく訊かれ る。なんでも地方在住の忙しい作家にファックスを使う人が多いのだそうである。 しかし私はファックスですか、と訊かれると、 「ファックス使うほど、私は流行作家じゃないですよ ! 」 むっとしていう。ファックスを使うんですかと訊いただけでむっとされたんじや相手の 人は立っ瀬がないと思うが、ついそうなってしまうのだ。 ファックス、ワープロ、 ハソコン、私はどれも嫌いである。嫌いなのはそれがいったい どんなものなのか、何度説明されてもわからなくなってしまうからで、そういう何度聞い ても呑み込めないようなものが当然のように世の中にはびこって行って、まるで電燈のス ひね ィッチを捻るように皆が使っているのに、私ひとりがわけがわからぬままに取り残されて いるというのは不愉快である。 私の亡母は留守番電話や電話天気予報の仕組みがどうしてもわからず、

2. 何がおかしい

あいさっ と挨拶していた。それを娘と一緒になって笑っていたものだが、その私が今、似たよう なことになりつつある。まったく、何という世の中だろう。「落ちこぼれ」はもはや子供 だけの問題ではなくなりつつあるのだ。 ながいす 夏の一日、私がのんびり長椅子に横になってテレビの「遠山の金さん」を見ていると、 東京の雑誌社から電話がかかってきた。切羽詰った甲高い声が、対談のまとめ原稿をチェ ックしてほしいが、速達で送っていたのでは間に合わない。ついてはそちらの町にファッ クスがあるところはないでしようかという。 ファックスー 聞くたびにムカつくファックスがあるところなんて、知るわけがない。第一、ファック スがあったとしても、それでどうなるのか私にはさつばりわからないのだ。ここは田舎で すからそんなものないですよ、とよく考えもせずに答えた。間に合わなければ原稿はチェ ックなしでお委せします、というと電話の主は逆上気味で、いや、何とかして手を入れて え といただきたいんです、と叫ぶ。だけどしようがないでしよう。あなたの方は明日までに必 要なんだから。 ( だいたいそんなギリギリまでまとめ原稿を書かなかったということがそ もそも編集者としてなってないよ ! 私をごらん ! ファックスなんか使う必要がないよ 冫いつだってちゃんと締切に間に合せているじゃないか ! ) とカッコの中は心の中で ブップッいって、電話を切った。 まか

3. 何がおかしい

暫くしてまた彼女から電話がかかってきた。 「ファックスがありました ! 」 と叫ぶ。 「なに、ファックスがあったー どこにフ・」 「そちらの町の郵便局へ電話をかけましたら、とても親切にして下さって、郵便局にはフ アックスはないんだけれど、 Z++ にあるかもしれないから問い合わせてあげるといって チェッ、郵便局め、余計なことを ! 「それで今、返事を下さって、 Z++ にありましたって : : : 」 「それで今からすぐ、送りますから、すみませんけど受け取って、手を入れてまたファッ クスで送っていただけませんでしようか」 「私がへ受け取りに行くんですか ? 」 「郵便局の方が受け取って、そちらのお宅へ届けて下さるそうなんです。ほんとに親切な 郵便局で、私、感激しました : : : では : : : 」 やがて坂を上ってくる赤いスクーターが見えた。郵便局のスクーターだ。 しばら

4. 何がおかしい

といつも愛想がいし 「はい、ご苦労さま。すみませんねえ。わざわざ。郵便局の仕事でもないのに、ごめんな さいね」 と謝る。なんで私が謝らされるのだ、と思いつつ。すぐ原稿を開いて読み、手を入れた。 そこまではいいが、その後が問題だ。これをファックスなるもので送らねばならぬので ある。娘の運転で町のへ行った。町の中心地へ行くのに・ ( スを使うと、二時間に一 本しかないのだ。車なら二十分くらいで行く。 緊張して z へ入って行った。 「あのう、ファックスを貸していただきたいんですけど」 「 ( イ ( イ、どうそ」とこの町の人は、どの人もみな、本当に親切でいい人ばかりだ。だ が、「 ( イ ( イ、どうそこちらにあります」といわれても、何をどうすればいいのか、皆 目わからないのである。どうするんですか、と訊くのも業腹。ーーというより恥ずかしいの え で、「ではこれを」とさし出した。そうすれば先方がやってくれると見込んだのである。 見込み通り、相手の男性は原稿を受け取って、なにやら妙な ( としか私には形容のしよう がない ) キカイの間に原稿の一枚をはさみ込んだ。原稿用紙はスルスルと消えて行く とその時、私はそう思ったのである。「消えて行く」と。なぜかそう思い込んだのだ。 「ずいぶん赤で書き込んでありますね ? この赤の字、よく出るかな」