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検索対象: 何がおかしい
192件見つかりました。

1. 何がおかしい

242 「ハイ、お土産 ! スポンジケーキ ! 」 ハトンをとる走者さながら私は受け取ってしまった。共に走ってプラ その勢につられ、 あいさっ ットホームの階段を駈け上り、既に入っている電車に飛び乗った。席について、挨拶をし ようとふり返ると、彼はもはや背中を向けて階段を降りているではないか。 やれやれ、これでひとっ片づいた : ・ っや 彼は宅急便屋のおっさんのように胸に呟いたことであろう。 ( 憤怒に燃えて買った帝国 ホテル製弁当のなんとまずかったこと ! 帝国ホテルはその名にかけても、あのような弁 当を千五百円で売っていることを恥じるべきだ ) それからまだこんなこともある。 最近のことだが、ある化粧品会社から私にちょっとした仕事の謝礼を下さることになっ た。仕事らしい仕事ではないから、私はいりませんといったのだが、気持として受け取っ てほしいといわれたのである。すると忘れた頃に電通から電話がかかってきた。そしてい きなりまた、「請求書を書け」だ。謝礼を貰うのに請求書を書くやつがどこの世界にい る ! 電通は今にお中元を出すにも請求書を書けというだろう。そこで私はいった。 「請求書を書くのなら、お金はいりません」 すると相手はいっこ。 「いらない ? でも x 十万円ですよ ! 」

2. 何がおかしい

久々の美談 うらかわちょうあざとうえい 九月十三日は北海道浦河町字東栄集落を鎮守する東栄神社の祭礼の日である。 み了一し 東栄は漁師の集落であるから、若い漁師たちが大漁旗を立てた漁船に御輿を乗せて沖合 まわ を三度廻った後、御輿を担いで集落を廻ゑ私の家は集落の後ろの岡の上にあるので、御 輿が来るのは一番最後である。岡の上だから御輿はトラックに乗って坂道を上ってくる。 それが毎年のことだ。 「あなたたち、トラックなんかに乗ってこないで、お御輿担いで上っていらっしゃいよ」 毎年のように私は若者たちにそういう。まったく、トラックに乗った御輿なんて、引越 しの手伝いじゃあるまいし、格好がっかなすぎるではないか。 しかし若者たちはいっこう答える。 夢「なに、担いで上ってこいってか」 「ムチャいうよ : : : 」 そういって御輿と一緒にトラックに乗って帰って行くのだ。 ああ日本の若者、ダメになったのは東京ばかりじゃなかったのか ! 毎年私は歯がゆい 101

3. 何がおかしい

103 ンサムである。 「ほんとにもういっぺん来るのフ 「来るよー ぼうぜん そういってトラックは下って行った。私は呆然として見送る。テラスに残っていた祭礼 あっけ の世話役の親爺さんたちはこの話を聞いて呆気にとられている。 「本気かい。センセェ」 とい、つ。 「ほんとに来るかしら ? 」 「いや、来ないべ」 とあっさりいう。ここへ来るにはおよそ五〇〇メートルの砂利道を爪先上りに上って来 この胸突八丁が問題である。 て、最後は一〇〇メートルの急坂を登らなければならない。 私は様子を見に降りて行くことにした。 と 「クルマで行くかし ? 夢と世話役。彼らは乗用車で来ているのだ。 、歩いて行くわ」 みんなに担いでこいといっておいて、自分は車に乗ったのでは女がすたる。そんな気持 。こっこ 0 ュノノ おやじ つまさき

4. 何がおかしい

108 草色の帽子 耳力しがりやの弱虫だった。おとなに挨拶をするのが恥かし 小学校へ上った頃の私は、し、 いから黙っている。すると母は、よその人に挨拶をきちんとしないといって怒る。だから よその人がくると、私は逃げた。 挨拶をしないのは、するのがイヤだからしないのではなく、恥かしいからしないのであ る。しかしひとには、なぜ恥かしいのかがわからない。だから、 「おかしな子やなア」 と嘆かれる。 この「恥かしがり」という病 ( ? ) を背負って、私は人知れず苦しい思いをしていたの 0- 」 0 「なにが恥かしいの、え ? なにが ? 」 と母はいう。しかし何が、なぜ、恥かしいのか、私にもわからないのである。 「いうてごらんよ。いいなさい : 母は迫り、居合すおとなたちが口々に、 あいさっ

5. 何がおかしい

夢の話 ほとん 若い頃はよく夢を見たものだが、この頃は殆ど見なくなった。いや、見なくなったので はなく、目が醒めるのと同時に忘れるようになったのであろう。何だか見たような気がす るが、はっきり脳裏に浮かんでこないということがよくある。フロイトにかかると夢はす べて性欲から出ているということになるが、ならば夢を見なくなったということは年老い て性欲も消えたということになるのであろうか。寂しいことである。 それでも時々は夢を見ること ( 憶えていること ) がある。その多くはおしつこがしたい のだが、どこの便所も戸を開けると汚れていたり、人が入っていたり、戸がなかったりし てうろうろするという、尿意を抱えて眠っているための夢である。こういう夢ばかり見る ようになったのも侘びしい話だ。 昔はよかった。いろんな夢が楽しめた。怖い夢、ロマンチックな夢、悲しい夢、死んだ 近親者と出会っている夢、追いかけられて、鉄腕アトムのように空へ舞い上っている夢も

6. 何がおかしい

「課長さんとはセックスを楽しんでるだけ」と。 ふる 子はその答に目が眩み、唇がワナワナ慄えて口が利けなくなった。そしてやっと気を 鎮めて私のところへ電話をかけて来たという次第だった。子にいわせると、女が男に身 体を許す場合は身体で金を得るのが目的か、そうでなければ無智無節操。さもなければや むにやまれぬインラン女と決っている。もしその外に娘が男に身を許すとしたら、それは 「熱烈恋愛」の場合だけである。 「それとてもやね、私らの時は熱烈の湯気が吹き上ってるからというて、すぐナニしても しいということにはならなかったでしよ。どんなに愛し合っていても結婚までは清い身体 でいよう、といい合うたもんでしよ。たまに結婚前に妊娠したことがわかったりしたら、 はじさら それはもうえらい恥晒しやったやないの。いくらやむにやまれん欲求やというても、それ を抑えるのが人間というもの。犬と人間の違いはどこにあるかというと、クンクン臭いを 嗅いで、気に入った、さあ、ではすぐしよ、というのが犬、人間はじっと我慢する。我慢 して愛を育てる。そうしてから結ばれるのが人間というものでしよう。それが今、犬ナミ になりつつあるのよ。二十六で、セックスを楽しむ、やなんて平気でいうの。インランな のよ。うちの主人の血イ引いてるんやわ。私、姪にいうてやったの。セックスは愛を伴わ なければいけない。セックスはそれを通して愛を高めるものーーーそうでしょ ? そうやな くら

7. 何がおかしい

「こうしているとパリを思い出しましてね 「ま、 「マロニエが美しい頃ですよ : : : 」 などと、 いってもいわなくてもいいような会話を気どって交し、 「またいっかお目にかかりたいですね 「え ? でも、きっともう、お会いすることってないんじゃありません ? 偶然って、そ うありませんもの」 「いや、それはね、簡単ですよ。意志を持てばいいんです」 「まあ : : : 」 うれ てなこといって嬉しがってる。そしてそれがやがて擬似恋愛に発展して、浮き浮き したり、悩んだり、幸福感に浸ったり、急に色つぼくキレイになったり、人にそういわれ 以て喜んだり : : : そんな他愛のないことなのよ。そうね、そんなところね : : : と勝手に決め て我々は憤然とする。低俗といわれても、我々の世代はせいぜいそんな忖度しか出来ない 何のである。 「妻であり母であることがつまらない ? つまらなくたって、自分にそれだけの力しかな 5 かったらしようがないじゃないの ! 」 、」も と急に怒気が籠る。そういわれてみればつまらない人生を送ってきて、もう取り返しの そんたく

8. 何がおかしい

たんのう 十年ほど前に、私は胆嚢に石があって、疲れると必ず胆嚢炎を起こして苦しんでいた。 いろいろ手だてを尽したが、手術をするほかに方法はないと専門病院でいわれるようにな り、ためらっているうちに、それまで嫌いだった大根おろしとトマトがやたらに食べたく なって来た。そのほかはご飯も肉も魚も何も食べたくない。来る日も来る日も大根おろし とトマトばかり食べている。中毒になったように食べて、気がついたら痛みが起らなくな っていた。 察するにこれは、私のうちなる自然治癒力が働いて、私にトマトと大根おろしを食べさ せたのだと私は思う。身体に悪いものは「食べてはいけない」といわれる前に「食べたく なくなる」 。本来、動物はそのようにして健康を保って来たのではなかったか。 「そうじゃ、その通り。犬を見てみい、猫を見なさい。あれらは腹具合が悪いと青草を食 って直しおる。あれと同じじゃよ」 なんだか私は犬猫ナミという感じだが、それにしても、薬よ、注射よ、医者よ、手術よ、 え と他人に頼っているうちに、本来持っていた自然治癒力が磨滅して来て、現代人は長命だ が病弱になって行くのではないか ? 何かというと病院に走る。そのため病院はいつもお祭りみたいに人が集っていて、漸く まわ 診察の順番が廻って来た時はヘトへトになり、下っていた血圧も上るという有さま。それ に気がっかず、なに血圧が二〇〇 ! たいへんだー と心配してよけい血圧が上る ちゅりよく ようや

9. 何がおかしい

び上るがうまく上れず、仕方なく追手を蹴飛ばしているという夢を見た。 子供の頃から二十代にかけてはよく怖い夢を見てうなされた。得体のしれぬ化物や幽霊 や悪者が出てくる。自分の叫び声に目が醒めるが、胸の動悸はいつまでも治まらない。六 歳頃に見た怖い夢はいまだにまざまざと思い浮かんでくる。それは私が生れてはじめて見 た怖い夢だった。私が育った家には風呂場につづいて高窓がひとつあるだけの小暗い小部 屋があって、その窓の下に不用になったデスクが置いてあった。夢の中で私はその上に上 って高窓から外を見ようとしている。するとその大きなデスクの下の暗がりに、白い着物 を着て髪を長く垂らした女の幽霊が潜んでいて、下から私の片足をひしとんだ : : : そう いう夢である。 それに類した夢はその後も数えきれぬほど見たが、考えてみるとこの数年は自分のうな される声で目が醒めるというような怖い夢を見たことがないのに気づくのである。 ばおばけ、悪漢のたぐいが出てこないというのではない。出てくることはくる。だがいっ 思もそれと戦ってやつつけているというのが最近の夢の特徴だ。いっか見たのは、場所はど かこかわからないが、幽霊が髪ふり乱して立ちはだかるのを掴まえ、原爆投げを試み、逃げ ようとするその長く引いた着物の裾をパッと踏んで引き戻し、 「塩持ってきて ! 」 と叫んでいる。私は塩でもって魔性の穢れを祓おうとしているのだ。 すそ はら レ」、つき

10. 何がおかしい

それで女の人に憑いていた狐は落ちたのである。女の人が頭まで水の中に入ってしまう とっさ おぼ と、狐は溺れてしまう。狐は水を嫌うから、咄嗟に頭の上の桟俵に飛び乗り、そのまま川 下へ流れて行ったのだ。 それを見て私はすっかり感心してしまった。その前まで目を吊り上げて飛び跳ねていた 彼女は濡れた髪を拭いて小ざっぱりとま 川から上ると柔和な丸い顔に変った。 , 女の人は、 はず とめ上げ、お寺の庫裏で羞かしそうにお茶を飲んでいた。 ちょうしよう ほとん この話をすると、殆どの人は私を嘲笑する。反論するのもバカバカしいという顔をすゑ だが何といわれてもそれは実際に私がこの目で見た情景なのである。 私と和尚は「クスリ嫌い、という点で意見が合う。殊に和尚は「抗生物質は骨を溶か す , という持論を持っていて、例えば種なしプドウ、あれは抗生物質を注射しているため に種がない。あんなものを食っていると、人間もそのうちタネなしになってしまう、とい うが、その意見については私はただ傾聴するに止めている。 ある時、私は散歩の途中、よせばいいのに小溝を飛び越えようとして、木の根に足を取 にじ られて転んだ。砂利道で手を突いたために、手のひらがすり剥けて薄く血が滲んでいる。 そのすり剥きはたいしたことはないが、手を突いた拍子に右手の親指を突き指したため、 みるみる腫れ上って行った。 けんしようえんけ もの書きを業とする私には大事な右手だ。しかもかねてより腱鞘炎の気のある右手であ