冬の嵐 - みる会図書館


検索対象: 凪の光景 下
225件見つかりました。

1. 凪の光景 下

六十四歳の抵抗 冬の嵐 探春 混迷 タ凪 解説縄田一男 目次 149

2. 凪の光景 下

さざなみ 美保が撮影の仕事で鳥取へ行くと聞いた時、謙一の胸を小波が走らなかったといえば嘘 になる。しかしその時、 「そうか」 いつものように謙一はいっていた。 「一泊かい ? 」 「ええ多分。大雨でも降らない限り」 美保はてきばきといった。 「ここんとこ、。ハ。ハは遅いから吉見はおばあちゃまのところへお泊まりさせていただくこ とにしました。あなたの食事はとりあえず朝だけお願いしておいたけど、おばあちゃまの ことだから遅くなってもお茶漬けくらいは食べさせて下さるわよ」 「うん、それでいい」 ひらめ そう答える謙一の頭に、千加の顔が閃いたのだった。 冬の嵐 うそ

3. 凪の光景 下

す ? 」 「いいえ、昨日から降り出しまして、今日もまだ降っていますが」 「そうですか : : : どうも : : : 」 気落ちしながらいった。 「では、あのう、川端浩介さんをお願いしたいんですけれど : : : 」 とどろ 脳天に響くほど心臓が轟いていた。 と、いきなり朗らかな声が出てきた。 「もしもし、川端ですけど」 「あ、浩ちゃん : : : わたし : : : 」 そういった後、いうべき用件がなかったことに気がついた。 「もしもし、おばさん ? ああ、うれしいナ。ぼく、退屈してたところ。朝からずーっと 雨。晴れそうにないの」 浩介の口調は甘ったるい。 嵐「で、なあに ? おばさん : : : 」 の当然のことだが、浩介に用件を訊かれて信子は慌てた。 冬 「美保さん、そこにいる ? 」 「いや、いませんよ」

4. 凪の光景 下

んならきっとすぐにいうわ。やったのか ? って。やってないっていったら、なーんだ、 っていう : : : あたし、・ハ力にされちゃう : : : 」 謙一は返事に窮する。しかししみじみ千加を可愛いと思うのは、そんな愚かしさを見せ られる時だ。 「でもあたし、わかってるの、課長さんって、うちのおばあさんがよくいう分別のある人 なんだ、そうでしょ ? 」 「分別 : : : そう思うかい ? 」 「そうなんじゃないの ? 奥さんや子供がいるのにそんなことしてはいけないと思って 「それはそうだよ。君に対して責任があるからね」 「どんな責任 ? 」 「つまり、これ以上の関係になったら、君は更に傷ついて苦しむ。ぼくは君と結婚出来な いんだから」 嵐「そういう責任 ? 」 の「そうだよ ? 」 冬 「でも好きなんでしょ ? あたしのこと」 「好きだよ」 る」

5. 凪の光景 下

103 冬の嵐 「なかなか一家言ある女じゃないか」 丈太郎は黙りこんでいる良平の気持ちを引き立てるようにいった。 「しかし、いってることは一理あるな。真剣に生きてる人だよ」 「あんたと気が合うんじゃないか」 良平は気のない声でいい、 「ああ真剣勝負で迫られたらかなわないな」 「しかし生活に活気が出るぞ」 「活気か : : : しかしこの年になって、活気がありすぎるのもなあ : : : 」 「あれくらいの活気がないと、あんたんところの家族と太刀うち出来ないだろう」 「それはいえるな。しかし、も少し何とかなあ : : : あれじゃあ女のような気がしないもの なア : しばら 良平は暫く考え込んでいてから呟いた。 「あの女は男とやったことあるのかね」 丈太郎は思わず良平を見た。 「処女なのかな」 「そんなこと、どうだっていいじゃないか。処女ならどうだというんだね」 「いやね、ただどうなんだろうと思ってね。あの顔見て、興味を感じないか ? 」

6. 凪の光景 下

119 冬の嵐 丈太郎はジロリと謙一を見た。 だが今朝のあの女、ありや何だ ? 謙一は黙りこんだ信子から、目を吉見に向けた。 「吉見はママがお仕事してることいやかい ? ママがいないために我慢してることいつば いあるかい ? ママが家にいる方がいいか ? 」 「うん ? ぼく ? 」 吉見はつまらなそうにいった。 「ぼく、どっちでもいい」 「我慢してることがあるんなら、してるっていっていいんだよ」 「ほんとだよ、どっちでもいいんだ、ぼく」 「お母さん、聞いた ? そういうものなんだよ。お母さんが思うほど吉見は辛いわけじゃ ないんだよ。はじめつからこうだから、こういうものだと思ってるんだ」 謙一は立ち上がった。 「じゃ、ぼく、寝るよ。吉見どうする ? 」 「もう一晩おばあちゃんと一緒に寝ようね」 信子の猫なで声に吉見はいった。 「ぼく、あっちで寝る。おばあちゃんのイビキうるさいんだもん」

7. 凪の光景 下

二人は車道を横断した。幼稚園の遊び場を背にした歩道に、・ハス停のべンチがある。散 り落ちたプラタナスの葉を払って謙一は千加を坐らせた。 「課長さんも坐って : : : 」 「うん、いや、いい」 さび 千加は少し寂しそうに謙一から目を逸らせ、 「あたしって、ほんとに、課長さんのことすごく好きになっちゃったみたい : つぶや 独り言のように呟いた。 「好きで好きでたまんない。ここから帰らなくちゃいけないことはわかってるんだけど、 足がいうことをきかないの」 謙一は何といえばいいのかわからない。 「あたし、きっとしつこいタチなんだわ。だから今にきっと、また : : : 嫌われてしまう」 「なにをいってるんだ。始まったばかりじゃないの」 「ごめんなさい。しつこくして」 嵐千加は急に俯いていった。 の「課長さん」 冬「なに ? 」 「キスしてほしい : うつむ

8. 凪の光景 下

「ズボンを穿いたばあさんというやつはどうもねエ・ 「いやなのか」 おもむき ひぞくおんなとうもく 「匪賊の女頭目という趣だな」 丈太郎はむっとした。泣きごとをいいながら贅沢をいうのはよせ、といいたかった。 「じゃあ帰るか。落第だな ? 」 丈太郎がいった時、洗濯物を干し終わった戸部スミが、二人の方をジロリと見た。 「何かご用 ? 」 太い声である。 「いや、別だん用というわけではないんですが : : : 」 仕方なく丈太郎はいった。 「ヒカリ幼稚園というのはここですかな ? 」 「ヒカリ幼稚園はうちですけど、何のご用ですか ? 」 「いや、そのう : : ここは今、何人くらい園児を預かっておられるんでしようかね」 嵐「今 ? 今は七人です」 の 女園長はムッとしたようにいった。 冬 「一時は八十人くらいいたこともありましたけどね、年々減って今は七人です」 太い眉の下で大きな角ばった目が光った。 ぜいたく

9. 凪の光景 下

135 冬の嵐 眠ってしまった、というような返事を信子は期待していたのである。 「そんなこと : : : みつともないわ」 「みつともない ? どうして ? 」 「どうしてって決まってるでしよ。あなたのお母さんのような年の人と」 いいながらチクリと胸を刺される。 「年 ? アレするのに年はカンケイないと思うけどなア」 「そうなの ? 好きだから ? わかったわ、愛してるのね ? 」 浩介にとって愛とセックスは別ものであることを信子はよく知っている。知っているが、 あえていう。浩介は九官鳥の胸の愛撫をつづけながらいった。 「そんなこと、考えたことないです。だって必要ないことでしよう ? その時の気分だも 「気分 ? 気分で浩ちゃんはそんなことするの ? 」 「うん、やりたい気分だったり、やってあげたい気分だったり : : : 両方が一致することも あるけど、片方だけのこともあるし : 。今度のはやってあげたいが六にやりたいが四か 「まあ四〇。ハーセントもあったの : 。男みたいな五十女だっていうじゃないの」 思わず激しい言葉を使っていた。 あいぶ

10. 凪の光景 下

117 冬の嵐 考えているから 「あなたはそれでいいとしてよ、子供はどうなるの ? 」 「美保は美保なりによくやってると思うんだけど」 「そう思ってるの ? 本当に ? 」 信子は詰め寄るようにいった。 「謙一、あなたは吉見のことをどう思ってるの ? 可哀そうだと思わないの。今まで黙っ てたけど、破れた靴下を履いてたこともあるし、セーターがほっれてたこともあるわ。そ れみんなわたしが黙って直しておいたのよ。スナック菓子の食べ放題。こんな細い首して からだ 身体だって痩せてるでしよ」 「お母さん、美保がいないところで美保を批判するのはやめて下さい。いうのならいると ころでいった方がいい」 苦虫を噛みつぶしたような顔で、丈太郎は二人のやりとりを聞いていた。 「そりゃあね。わたしだって美保さんに直接いいたいわよ。いいたいけど : : : 」 急に信子の勢いは弱くなった。 「いえないじゃないの」 「いえない ? なぜです ? 」 謙一は冷静を心がけて静かにいう。 かわい