思い - みる会図書館


検索対象: 坊主の花かんざし(四)
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1. 坊主の花かんざし(四)

「結構です、結構です。私の方で払っておきます」 といわれ、払わずに帰って来た。係の人はあとでその額を見てびつくり仰天、キモをつぶした かもしれない。山口県の読者がおられたら、何とぞ、山口銀行に預金をして下さるよう、お願い します。山口銀行はホントによい銀行です。 さて、私は家へ帰って来た。すると友達から電話がかかって来た。いきなり、 「遠藤周作いう人、けったいな人やねえ」 という。聞けば週刊新潮の例の記事の中に遠藤氏のコメントとして、「佐藤愛子は、中学生 代ぼくが彼女を追いかけまわしたなんていっていますが、本当はぼくは彼女の顔も見たことはな い」といっているという。遠藤さんは楠本憲吉さんと組んで中学生時代、私にラブレターを出 1 もちろん いたなどというホラ話をふざけ半分に流したことがあるが、勿論、それはウソなので、私は人から ん聞かれるたびに、あれはデタラメです。二人がかりでウソつくから、みんな本当に思うのよ、 いいいいして来たのだ。 の 主「けったいな人やねえ。それに、何のイミがあって、いきなりあんなことをいわんならんのや ろ ? 」 けい・ヘっ と友達は遠藤さんを軽蔑した。と、間もなく高校生の私の読者からも同様のことをいって来た

2. 坊主の花かんざし(四)

りよう力い という表現を用いるが、「ナニ」という一言葉が何を意味しているか、暗黙のうちに諒解し合う 土台があってこそ、この言葉が自然に受け人れられるのである。 しようふ では、この頃はやりの「愛し合った」という言葉を使うか。しかし、例えば昨夜は娼婦と「愛 しあって来たよ」といういい方はあまりしないから、これも「やった」というニュアンスとは違 うようである。 娘心としては、ロジャーと女の子との関係を語るのに、「愛 , 、という言葉がつくのは面白くな い気持があるであろう。 では、何というか ? 「寝た」という一一一口葉があることを私は思い出す。しかし、高校生の娘の口から出る「寝た」とい う一一一口葉には、「やった」と同様にものすごい感じがある。 改めて私は考えた。私の乙女の頃は、いったいソレについて、どんな表現を使っていただろ う ? と。考えたが思い出せない。 我々の時代は親 ( おとな ) とそのような話題について語るという生活はなかった。そのことに ついては、知っているけれども知らぬふりをしていた。親は親で、子はうすうす知っているであ ろうとは思っているけれども、知っているであろうことを知らないふりをしていた。

3. 坊主の花かんざし(四)

らいが 「全市をあげて佐藤先生のご来駕をお待ちしています」 ハラ。ハラと人 と手紙が来たので汽車に揺られ、車に乗り継いで行ってみると、講演会場には、 がいるだけ。ムリにかり出されて来たらしいおばあさんが最前列でポカーンと口を開けてこっち を見つめている。そんな目にも、しばしば会っているのである。 それゆえ私は女史に対して、ためらってみせたのだ。すると彼女はいった。 「三宅先生は岩下志麻さんと佐藤さんをお選びになったのです」 「えつ、岩下さん ! 」 私は目が昏む思いである。天下の美女、岩下志麻さんと共に選ばれたー・ 「しかし、また、どうして、私なんぞが岩下さんと一緒に : : : 」 と昏みつつ、抵抗の格好をつける。 陋「オホホ」 ざ と女史は笑って、 ん か「個性的な方といいましようか、人生の年輪を重ねていらっしやる方といいましようか : : : 」 「ああ、そう : : ・・個性的ネ : : ・・」 私は漸く肯いて承知したのである。 四数日後、三宅一生さんのスタジオへ行った。三宅一生という人は、何とも日本人放れのした颯 さっ

4. 坊主の花かんざし(四)

「もしかしたら、彼が殴った女のタイプは、その人の女房に似ていたんじゃないでしようか」 人間はみなそれぞれに心の安定を保っため、何らかの形で慾求不満の補償作業を行っている。 社会の矢面に立っている人間は、飛来して突き立っ矢の分量だけ、どこかでその矢を射返さなけ れば身がもたぬのだという。 「いや、佐藤さんはいいですなあ。好き勝手なこといって、高笑いして暮している。実に羨まし 「いうならばなんですな。佐藤さんは鎮西八郎為朝のごとく、豪勇無双、あたりかまわず強弓を 射まくられるゆえ、慾求不満などおありにならんのでしようなあ」 「はあ、そう見えます ? カラカラカラ」 と羨ましがられた手前、私は鎮西八郎為朝の気分で豪快に笑って家 ( 帰って来た。そして自分 の部屋に人って、むっと坐っている。そう見えますか、カラカラカラと笑った分だけ、直懣が胸 に満ちている。私だ・つて人と同じだけ辛い思いをしているのだ。鎮西八郎為朝だと ! あんまり 強弓を射過ぎて、左腕が長くなってしまった為朝だというのか ! いったい何がいいたいのだ , ハカモン , そのとき、卓上の電話が鳴った。

5. 坊主の花かんざし(四)

がく・せん 雷に打たれて、腰ぬかした人のごとき相手の声を聞いて、愕然と目覚めた。禁酒禁煙の誓い学 破った人の気持は、かくもあろうか。 赤提灯の灯影、おでんの湯気。寒空。木枯。憂きこと多き会社の仕事。 そろ こう条件が揃うと、女房子供に誓ったことも忘れて、つい、ふらふらとのれんをくぐる。一 だけと思ったのがもう一本。二本が三本、三本が四本となって、その後はもうャケクソ。我を宀 れて奔流に身を委す。そのキモチ、ホントによくわかる。 私のそんな述懐を聞いて、友達は半ば呆れながらいった。 「ハッカ。ハイプのようなものがあったらええのにね」 彼女は三年前 リ、ハッカ。ハイプを噛んで、禁煙に成功したのである。 「ねえ、若い頃、一緒に見た映画があったでしよう ? 覚えてる ? 」 友達はふと思い出したようにいった。 せいよく 「性慾と闘う若い聖職者がいて、部屋に人って来た恋人を、必死で押し出しながら叫ぶのよ。 『出て行ってくれ ! お願いだ ! 出ていってくれ ! 』って 。私らは女学生やったから、 うしてもその意味がわからなくて、なんで、あそこでムリに追い出したんやろ、なんて首ヒネ たやないの」 そういえばそんなことがあったような気がする。それにしても、けったいなことをこの人は田

6. 坊主の花かんざし(四)

171 坊主の花かんざし ( 四 ) するとさんはいった。 「佐藤さんはいっそ、芸者になるより、国会議員にでもなった方がいいのではありませんか」 あっ、そうだ。そういう生き方もあった。手はじめに次の参議院選挙に立候補してみようか。 「何党から出ます ? 」 「そうね、やつばり自民党がいいわね」 なぜ自民党がいいか ? だって、あすこには虐め甲斐のある人が沢山いるんだもん。 がい

7. 坊主の花かんざし(四)

146 そこへ狐狸庵遠藤周作、「どないしてんねン」と例のごとくノンキなダミ声で電話をかけて来 。早速、 「どないもヘッタクレもあるかいな」と例のコメントのことを聞くと、話はこうだ。ゴマの灰め が遠藤さんに電話をかけて、 「佐藤さんは遠藤さんが昔、自分を追いかけまわしたといっていますが、本当ですか ? 」 と聞いて来たので、いやアレはちがいます、こうこう、と答えたのが、ああいうコメントとな って出たのだという。昔、遠藤周作が佐藤愛子を追いかけまわしたと「佐藤愛子がいっている」 とは、ゴマの灰の一一一口葉なのだ。遠藤氏はそれを否定しただけで、すべてを一人でいったことにさ れてしまっている。 新潮社社長殿 , さまっ 貴下はこの私の怒りを、とるに足らぬ瑣末な怒りとお思いでしようか ? この週刊新潮記者を不誠実、悪意、面白半分、。へテン、鈍感、思い上りと断じる私を非難され ますか ? 私は歴史ある大潮社のためにあえて社長に問うのです。貴社が三流なら私は黙す。 一流ゆえいうのだ。 私が新潮社の仕事は一切やめるといったら、ゴマの灰の頭目はいった。

8. 坊主の花かんざし(四)

こっちは答えを待っているのだが、彼はすまして生ハムかなんかを食べている。 「いくら訊問してもダメね。時間の無駄だわ。証人の方は決意を固めてるのよ。矢でもテッポで かば も持って来い , ってなもんよ。殿、この胸板でお庇い申しますぞ ! よくよくご覧あれ、とい うところね。まさに男の世界ですよ。弁慶の立住生の気分よ。尽忠報国の誇りが、彼らを支えて いるんだわ。ねえ、そう思わない ? 」 すると川上さん、ふという。 「女に訊問させりやいいんだよ」 私「うーん、なるほど。亭主に浮気を白状させる時の要領ね。あなたツ、ここまで証拠が上っ てるのに、どうしてそう白っぱくれるのよツ、早くおっしゃいよ、おっしゃいったらおっしゃい よツ、キーツ・ : こういう調子ね。引っかくの」 四 川上宗薫「こんなに私がいってるのに、どうしてもいわない気ね、どうしてなの、どうして ? ざもう私をアイしてないのね ? わかったわ、そんな気持だったのね : : : いいわ、死んでやるか 花 私「でも私ひとりじや死なないわよ、死ぬからにはあなたも道づれよ。覚悟は出来てるでしょ ぼうちょう 坊 うねえ。ピストルがいい ? 出刃庖丁がいい ? それとも細ビキで首を : : : 」 川上宗薫「いいわね。やるわよ。やるわよ。やるったって、アレをやるんじゃないわよ。わか

9. 坊主の花かんざし(四)

そこで一流に馴れぬ二流人間は、一流ホテルへ行くと緊張して、素人のど自慢のステージに上 ったごとくにコチコチになる人がいる。歩き方なども急におごそかになって、元旦の鶴のように 首を伸ばしニコリともしないでものをいう。 「あの、カフィショップどちら ? 」 いつもはコーヒーショップといっているのに、急にカフィなどというのも、一流たらんとして いるためなのである。 「はい、こちらでございます」 たず 目の前にあるのに訊ねてしまったのも、一流たらんとして緊張しすぎたためだ。 「ディナーは何時から ? 」 「はい、七時から十時まででございます」 四 「あッそう」・ 、し 「十八階のスカイルームでございます」 花「あッそう」 主本当は晩メシは表へ出て千円の幕の内でも食べようと思っていたのを、つい、一流気分に乗せ られてエレベーターで十八階へ行ってしまう。 「いらっしゃいまし」

10. 坊主の花かんざし(四)

ワ 1 転向者の歎き 去年の夏、北海道浦河に家を建てたのは、都会の生活に疲れたからでもあったが、もうひとつ、 機械文明への抵抗という大仰な決意も含まれていたのである。 せんたくき かって私は電気洗濯機排撃論者で、洗濯はタライと洗濯板でするのが一番よいと信じていたも のだ。天気のよい日、庭にタライを持ち出して中腰になってゴシゴシと洗濯をする。その時にロ に出て来る歌は、「おさるのかご屋だホイサッサ」である。 エーッサエーッサェッサホイのサッサと洗い終えて、タライの水を変えてすすぐ。力いつばい ものにしざお 絞って物干竿に乾す時の爽快さ。乾すのは竿であって、ロープなんかではいけないのだ、と私は ひとりではり切っていた。竿よりもロープで乾す方が余計な手間がはぶけてよいのだが、「竿で とうとう がんば しんとう なくてはならぬ」などと頑張ったりしたのも滔々として広がり滲透して行った家事の合理的処理 法というやつに対してむやみに反抗的になっていたためである。 しかし、そういう持論も小説が売れない間は実行出来た。高年産婦として子供を産んだにもか そうかい