歩い - みる会図書館


検索対象: 坊主の花かんざし(四)
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1. 坊主の花かんざし(四)

「ははわれにうーたおしえしときははのなーみだ目にひかりきイ」 などと口を卵型に開けて美声を転がしたものである。友達ともよく歌った。 「こころも睦ぶ友だち つれてゆく村の細道 おのずからなる歌の声 足なみにしらべかないて : : : 」 声合せて歌いつつ道を歩いたりした。 「おとめよわれらおとめよ においこきつぼすみれよ その色よその姿よ おとめのしるしよ」 し 全く可愛いものだったねえ。清楚、純真とはあの頃の私をいうものではなかったか。考えてみ ん かると、我が身のこととは思えぬが、本当なのだ。 主それが今や、「おさるのかご屋だホイサッサ」だ。 坊 「エーッサエーッサ ェッサホイサッサ」

2. 坊主の花かんざし(四)

ばる。男は、 「いたい、いたい」 と悲鳴を上げ、女をふり切って逃げようとするのを、 「チクショウ ! 逃げる気か」 と女は追いかける。 けんか 私は忽ち野次馬根性が湧き起って、二人の後を追いかけ、「どうしたんです、なんで喧嘩して いるの」と仲裁したくなった。後を追おうと走ったら、連れの人に、 「およしなさいよ」 とたしなめられた。 「だって面白そうじゃないの」 四 「・ハカ・ハ力しい、いい年してやめなさい」 し しぶしぶやめたが、気がつくとまわりの人は少し歩みをゆるめて注目するがすぐスイスイ歩み ん 去る。せつかく街頭で喧嘩しているのに、これではつまらないだろうなあ。 の 主うららかな春の一日、街を歩いていたらさわがしい物音と共に傍の建物の細い階段から一人の くつみが 男がコロコロと道路に転がり落ちて来た。丁度、そこに靴磨きが坐っていたが、男はその前まで 転がって来て漸く止った。靴磨きは広げていた新聞から顔を出して、転がり男を眺め、一瞬、 わ

3. 坊主の花かんざし(四)

がく・せん 雷に打たれて、腰ぬかした人のごとき相手の声を聞いて、愕然と目覚めた。禁酒禁煙の誓い学 破った人の気持は、かくもあろうか。 赤提灯の灯影、おでんの湯気。寒空。木枯。憂きこと多き会社の仕事。 そろ こう条件が揃うと、女房子供に誓ったことも忘れて、つい、ふらふらとのれんをくぐる。一 だけと思ったのがもう一本。二本が三本、三本が四本となって、その後はもうャケクソ。我を宀 れて奔流に身を委す。そのキモチ、ホントによくわかる。 私のそんな述懐を聞いて、友達は半ば呆れながらいった。 「ハッカ。ハイプのようなものがあったらええのにね」 彼女は三年前 リ、ハッカ。ハイプを噛んで、禁煙に成功したのである。 「ねえ、若い頃、一緒に見た映画があったでしよう ? 覚えてる ? 」 友達はふと思い出したようにいった。 せいよく 「性慾と闘う若い聖職者がいて、部屋に人って来た恋人を、必死で押し出しながら叫ぶのよ。 『出て行ってくれ ! お願いだ ! 出ていってくれ ! 』って 。私らは女学生やったから、 うしてもその意味がわからなくて、なんで、あそこでムリに追い出したんやろ、なんて首ヒネ たやないの」 そういえばそんなことがあったような気がする。それにしても、けったいなことをこの人は田

4. 坊主の花かんざし(四)

126 かくなる上は齧るしかないー・ 見るとそのダッコはどこもかしこもツルツルまるまるしているが、ロが蛸のようにつき出て、 るダッコなのである。 ェイー こいつを鬻ってやれ , そのロを私は物み切った。噛み切った途端に、その噛み口から「シュウ ! 」と空気が抜けて一 . って、ダッコめ、みるみる凋んでフニヤフニヤになりおった。 ところがである。 「ざまアミロ ! 」 と思ったのも束の間、噛み切られたロの方がまだ生きていた。そいつが、私の顎のへんに張〔 しやくわっ ついて、そこから電流を注ぎ込まれるような灼熱の痛みが走る。チューインガムの嘴みカスのレ うなそれを爪を立てて引き剥すと今度は手の甲に吸いつく。それを引き剥すと指先に吸いつく。 ェイ、面倒だ ! 食っちまえ ! 私はそいつを口の中に人れて、奥歯で噛みくだいた。 目が覚めた時、胸が大波のように上り下りしているのが自分でもわかった。本当に何年ぶり でお化けの夢を見た。私の母性愛が娘のために化けものを引き受けたのだ。

5. 坊主の花かんざし(四)

「結構です、結構です。私の方で払っておきます」 といわれ、払わずに帰って来た。係の人はあとでその額を見てびつくり仰天、キモをつぶした かもしれない。山口県の読者がおられたら、何とぞ、山口銀行に預金をして下さるよう、お願い します。山口銀行はホントによい銀行です。 さて、私は家へ帰って来た。すると友達から電話がかかって来た。いきなり、 「遠藤周作いう人、けったいな人やねえ」 という。聞けば週刊新潮の例の記事の中に遠藤氏のコメントとして、「佐藤愛子は、中学生 代ぼくが彼女を追いかけまわしたなんていっていますが、本当はぼくは彼女の顔も見たことはな い」といっているという。遠藤さんは楠本憲吉さんと組んで中学生時代、私にラブレターを出 1 もちろん いたなどというホラ話をふざけ半分に流したことがあるが、勿論、それはウソなので、私は人から ん聞かれるたびに、あれはデタラメです。二人がかりでウソつくから、みんな本当に思うのよ、 いいいいして来たのだ。 の 主「けったいな人やねえ。それに、何のイミがあって、いきなりあんなことをいわんならんのや ろ ? 」 けい・ヘっ と友達は遠藤さんを軽蔑した。と、間もなく高校生の私の読者からも同様のことをいって来た

6. 坊主の花かんざし(四)

「ねえ、ママ、こんなことってあるかしら ! 本当に、こんなことってあると思う ? 」 娘は真剣に私に迫った。 「クイーンの歓迎。ハーティがあった時に、私の友達の友達の友達が出席したら、ロジャーがその 子を膝の上に乗せて、『この子は気に人った、この子はぼくのものだ』っていったんだって ! 」 それから娘は憤然としていった。 「そしてその人は、クイーンの中の二人とやったんだって ! 自分でそういってるんだって」 がくぜん 私は愕然として娘を見た。 「ねえ、ママ、本当だと思う ? 本当にクイーンがそんなことすると思う ? 」 私は答えられない。 「ム、ム」 四 とロごもる。私の頭の中で、いきなり飛び込んで来た「やった」という一一一〕葉が鳴り響いている。 ざその言葉が娘の口から出るのを今、はじめて私は聞いたのである。 「何ということをいうんです ! 」 花 主「そんな下品なことをいうもんじゃありません ! 」 坊 と普通の母親ならば、ただちにたしなめるであろう。世間の母親というものは、子供に対して 簡だけはたいてい、終始一貫して「マジメな母親」としてのみ生きているから、こういう時にたし

7. 坊主の花かんざし(四)

114 すぎるのがよくないのである。 私のような一二流人間は、こういう上流風に接すると気が滅人って鬱状態になる。そして次には それに抵抗したくなる。 「ちょっとポーイさん、手を上げて下さい」 「はつ、こうでございますか」 「え、そう」 わき コチョコチョコチョ。脇の下をくすぐる。 「ご冗談は・ : : ・ク、ク、おや : : : め : : : ク、ク、 身をよじりながらも社儀正しくいうか、それともジッと歯を喰いしばって声も洩らさずくすぐ ったさに堪えるか、試みてみたくなる。 こかん 私の女友達にはポーイと二人きりでエレベーターに乗っている時、胯間のモノを找んでやりた くなるという人がいる。といって色情をかき立てられるわけではない。あんまりオトコ。ハナレし ているので、そのようなことをして反応を見たくなるのだそうだ。 その人は、またすっ裸でロビーを歩いたらどうなるだろうということも考えたという。一糸ま とわぬ裸身、とはいうものの五十歳に近い。それを見てポーイはどうするか。 平素のたしなみ忘れてウロウロするか。思わず面を背けるか、それとも柱となりたるまま凝固 そむ うつ

8. 坊主の花かんざし(四)

あぜん 通り過ぎようとして私は思わず立ち止り、「唖然」という感じで彼女を見つめたのである。 私が生れてから一番最初に「愛してる」という一言葉を聞いたのは、五歳頃のことだったと思う。 私はばあやに連れられて、活動写真を見に行った。西洋人の女のひとが。ハラソルをさし、羽の ついた帽子をかぶり、お尻をふりふり歩いて来る。そこは公園でべンチがある。女の人はべンチ に坐る。すると弁士がいった。 「今日も今日とてメリーさんは、べンチの端に腰うちかけてもの思いにふけっているのであった すると、向うからカンカン帽をかぶり、縞の背広を着たステッキ男がやって来る。男はメリー さんに近づいたと見るや、ステッキを脇に抱え込んで地面にひざまずき、片手を前にさし出す。 「ああ、メリーさん ! ボクはあなたを愛します、愛します ! 」 酌と弁士は大仰に抑揚をつけた。 私が家へ帰ると、母が聞いた。 ん 「どこへ行ったの ? 」 の「メリーさん見て来た」 坊と私は答えた。 「メリーさん、ボクはアイします、アイしますや : : : 」 わき

9. 坊主の花かんざし(四)

大猫馬牛の素直さを見よ。カナリヤ、、鳩ポッポ、みなそれぞれに無邪気である。 全く烏ほどいやな奴はいない、と私はだんだん腹が立って来た。器量も声も悪いくせに、い一 たい何を威張っているのか。どんなトリエがあってそんな自尊心が持てるのか ? 生ゴミの・ハケツの底を叩き、私は物干竿の烏の前すれすれに歩いた。上目づかいに様子を見」 しつよう ば、彼は執拗にも黒い目を宙に向けてあくまで黙殺の姿勢。 「クソッタレ ! 」 行き過ぎながら罵ったトタンに、石コロにつまずいて、ドタリと転んだ。。、 ホリ。ハケツを拾いユ がら思わずふり返って烏を見る。 その一瞬、目が会った。目と目がガキッと会い、それから烏は「フン ! 」という風に顔を横宀 け「カア」と啼いた。 四 この「カア」はこたえたねえ。 し けんか ん羆を友として静かに暮すつもりが、烏と喧嘩している。いやはや、どこ ( 行っても、私の戦、 はつづくらしい。 の 主 ののし けと

10. 坊主の花かんざし(四)

「テレビなし ? ホントですかア」 と電気屋さんは呆れ顔。しかし、電気屋さんは私の家の掃除洗濯をしてくれる人ではないから、 私は威張って、 「いらない」 断乎としていう。と、そこへ大工さんが来て、 「洗面所には洗濯機の置き場を作っておきました」 「洗濯機 ? そんなもの使わない」 「えつ、洗濯機を使わないで、何で洗濯するんですか ? 」 「タライと洗濯板があれば十分」 また威張っていう。電気屋さんと大工さんは顔を見合せ、頭をふりふり帰って行ったのである。 かくて私は懐かしき我が貧乏時代 ( それは日本の貧乏時代でもある ) の生活に戻った。 し ざ「エーッサエーッサェッサホイのサッサ にうき 歌いつつ洗濯し、竿竹に乾す。誰に遠慮気がねもなく、ハタキをかけ、。ハツ。、ツ。ハッと箒では 花 の き、タ、タ、タ、と雑巾がけをする。 主 と、ある日、玄関に訪う声がしてテレビが届いた。近くの牧場主さんからの贈りものである。 その牧場の馬が競馬で勝って副賞にテレビを貰った。それを私に下さったのだ。 だんこ あき ぞうきん おとな