はるの - みる会図書館


検索対象: 夕やけ小やけでまだ日は暮れぬ
132件見つかりました。

1. 夕やけ小やけでまだ日は暮れぬ

154 「はあ、いうたわ。そやかて、もう、あんたが気の毒で見てられへんから : 「そのことでね、センセがお義兄さんにいわはったのよ。帰りとうないけど、松子さんが 帰ろ帰ろというんですって。それで私、呼ばれてねえ 「何かいわれたの ? 」 と私はむ配になりました。 「松子さんは何が気に入らないんだろう、って : : : 」 「それは気に入る入らんやなくて : 「わかってる。私、よう説明したわ。そしたらねえ、松子さん、びつくりせんといて。お 義兄さんは、あんたのこと、再婚相手として考えていたんや、いわはるの 私はびつくりして声も出ません。 「あんたの控え目で優しいところが気に入ったんやていわはるの」 「そんな : : : 」 「私もね、あんたが鬼の大王やたらいうて、怖わがってるの知ってるから、控え目で優し く見えてるのは、布わがってるためです、と いいたかったけど、そうもいえんから、はあ はあて聞いてたんやけど : : : お義兄さんはせめてもう五、六日いて、自分のことをよく見 てほしい。そしてお互いにもっと知り合いたし しいはるの」 私は何といっていいのかわかりません。いきなり雷にでも打たれたよう。ただもうポー こ

2. 夕やけ小やけでまだ日は暮れぬ

「 : : : そしたら樺山さん、こういわはったんよ。それはみね子さんの人徳ですて : : : 人徳 かしらん ? ホ、ホ、ホ、ホ、ホ : : : 」 百舌が笑ったような声を立てる。 「あのね、けどわたし、あの人のこと、ちょっとイヤゃなあ、と思うことあるの」 ある日、デイトから帰って来たセンセはいいました。 「なんですのん ? 」 と私は乗り出してしまう。 「今日ね、大阪城で、樺山さんいうたら、こんなこといわはるの、手 = 握ってもよろしい か ? て : 「まあ ! いやらしい ! 」 「わたしね。それ、ちょっと困ります、いうたのよ。そしたら、なんで ? と訊かはるの。 けど、恥かしいですわ、いうたら、愛し合うてるのやから、そんなことかまわんやないで すか、て : : : 」 「へーえ。それで、手握らせてあげはりましたん ? 」 「そんなん、誰が : : : 」 センセはもってのほか、という勢いで、 「仕方ないから、考えさせてもらいます、というたんよ。そしたら、ガッカリして、まだ

3. 夕やけ小やけでまだ日は暮れぬ

「よう寝てはります」 樺山さんは声をひそめていいました。 「このまま・ほく、帰ってしもてもええでしようかなあ : : : 」 「ええでしようかって、樺山さん。住田さんと婚約しはったんやからいつまでもここにい てはるわけにはいかんでしよう」 「それはそうですけどね」 と煮え切らない。 「ほく、センセの顔見たら、抵抗力失いますねん」 「住田さんという人が出来たのに、センセの方がええといわはるの ? 」 私はつい強い口調になりました。 日 : どういうたらええのかなあ : : : 住田 「いや、センセの方がええというわけやないけど : ・ でさんと婚約したからいうて、急に邪慳にしたりするのん、えらいゲンキンすぎていかんの ゃないかと思いますねん」 「そんなこといらん心配ですわ。樺山さんがそんなんやとセンセはますます工工気になっ タて、樺山さんのこと家来みたいにしはりますよ。そしたら住田さんかて面白うないでしょ : ぼくひとり幸福になるのは悪いような気がして : 「それはそうですけど : : : けど : じやけん

4. 夕やけ小やけでまだ日は暮れぬ

「そうよ」 「七つ年下ですね」 「そうよ」 そういってセンセは、「ふ、ふ」と鼻の奥で満足そうな音を立てました。 「七年前に奥さんに死なれてから、ずーっと身持ち正しく来はったんやて。自分でいうの もおかしいけど、女の人の手にも触ったことがなかったんです、やて。それがわたしを見 て、やっと理想の女にめぐり逢えたというキモチです、いわはるの」 「大阪駅前から。ハスに乗ったでしよう。その。ハスの中でわたし見て、もう、『この人や』 と胸に決めたんやて」 ーテーの間じゅう、そばについてはるもんやから、ほかの男の 「向うへ行ってからも、 人ら来とうても近づけへんのよ」 年「昨夜、 ーテーの後でもう、早速、山田センセに申し込みしはったの」 「何ですの、山田センセて ? 」 「山田センセ知らんの ? 老人問題評論家」

5. 夕やけ小やけでまだ日は暮れぬ

けが 「あんな穢らわしい人ともう、一つ屋根の下に住めません。帰ってもらいましよ」 「何かしはったんですか、樺山さんが」 「二人で : : : 住田さんと二人で、何してるか : : : あんた覗いてきたらええわー センセの声は慄えています。 「あの人わたしの枕もとに坐ってはったのに、とろとろしてふっと目工開けたら、そーと 部屋を出て行くとこやないの : : : それで何したと思う ? : : : 」 「何ですの ? 」 「納戸へ行って、住田さんの上に乗ってるの」 ! 私は絶句しました。 「センセ : : : それを : : : 覗き見しはったんですか ? 」 日 やっといいました。センセはそれには答えす、 で「布団も掛けんと、乗ってはるの : : : 」 と私を睨むのです。 け「あんないやらしい人とは思わなんだわ。不潔やわ。穢らわしいわ : : : 」 タ私はおかしさをこらえながら、 「けど、お二人はもう近々結婚しはる仲ですからねえ : : : 不潔というても : : : 」 そういうのに耳も貸さず、 ふる のぞ

6. 夕やけ小やけでまだ日は暮れぬ

ういうご関係ですのん ? 」 「どういうご関係て : : : 」 のんき センセは暢気そうに、土産の甘納豆の箱を開けながら、 「あの人、わたしのこと、アイしてはるの」 友野さんは一瞬たじろぎましたが、すぐに態勢を立て直し、 「そんなら結婚しなさるんですの ? 」 「結昏 ? : 小娘のように小首をかしげて、甘納豆を口に入れます。 たゆと 「あの人はアイしてくれてはるけど、私のキモチは、揺蕩うてるのよ」 「迷ってはるんですか ? 」 「揺蕩うてるのよ。愛の大海原を、ゆーらゆらと揺れてるの」 友野さんと私は顔を見合せました。友野さんは声を大きくして、 愾「センセはゆらゆら揺れてはったらいいかもしれませんけど、松子さんにはえらい迷惑か お かってると私、思いますの。センセひとりの御世話をするだけでもこの節、たいへんなこ の 春となのに樺山さんまで : : : 」 するとセンセの甲高い声がいいました。 「けど、樺山さんもよう働いてはるわよ。洗濯もしてるし、お風呂も沸かさはるし、布団

7. 夕やけ小やけでまだ日は暮れぬ

142 「そんなら忘れものでもしはったんでしよ」 何をいいたいかわかっているので、わざと違うことをいうてやりました。 「そうやないの : : : 」 センセはいいました。 「ただじーイと立ってはるの」 「まさかノゾキやないんでしよう ? 」 「そんなんやないの、何かこう、部屋にじっとしていられず、ふらふらと来てしまった、 という感じ・ : : ・」 「なんでです ? 夢遊病やあるまいし : : : 」 「あんた、わからへん ? 」 じーツと私を見る。 「わかりません : : : 」 するとふふッと笑った。 「そうかもしらんわねえ。わからんやろねえ。あんたには : : : 恋愛の経験てないのやから そういって、すーツと向うへ行ってしまいました。

8. 夕やけ小やけでまだ日は暮れぬ

かかってモチョモチョと食べた後、テラスへやって来ました。 「松子さん、あんた、どう思う ? 」 「どう思うって ? 何がですのん ? 」 「あの、おにいさんのこと」 「おにいさん ? 博文さんのことですかフ センセは私に顔を寄せてきていいました。 「あの人、わたしのこと、なんやしらん、キヨーミあるみたい。そう思わない ? 」 「キヨーミ ? キヨーミて、何ですのん。私にはわかりませんけど」 素気なくいってやりましたが、一向にこたえす、 「あのお方、オトコの目でわたしのこと見はるの : はず 馴れている筈なのに、やはり、胸がムカついて絶句してしまう。 「昨日、いわなかったんやけど、あの人、私がお風呂に入ってる時、脱衣室まで入って来 決はったんよ の 沢「脱衣室へ ? なんでですのん ? 」 軽「なんでやと思う ? 松子さん」 「誰も入ってないと思て、ご自分が入るおつもりやったのとちがいます ? 」 「そうやないの、私の前に入らはったのよ ふろ

9. 夕やけ小やけでまだ日は暮れぬ

「為さんがセンセのこと、好きやと思てはるのよ」 「どうもそうらしいですね」 「わかってた ? 「そりやもう : : いろいろと」 「やつばり」 為さんが笑うと白い歯がキラッと朝日に光って眩しい。私は炭酸水でも飲んだように胸 つかえ の閊がすーツと降りて、活力みたいなものがガーツと湧いて来ました。 「迷惑かけるわねえ。すんませんねえ」 そういって為さんと別れると、大急ぎで帰って来ました。 「ただいま」 すわ と家へ入り、チンマリ、テレビの前に坐っているセンセを立ったまま見下ろして、いっ てやりました。 「今、為さんに会うたら、為さんがいうてました。センセ、何やカンちがいしてはるらし いけど、迷惑感じてますねん、て : : : 」 センセは何をいわれたのかわからん、という風に・ほんやりした目を私に向け、 「何の話です ? 」 まぶ

10. 夕やけ小やけでまだ日は暮れぬ

「ああみえて友野さん、アッチの方、強いのんとちがう ? 「そんな : : まさか : : : 年いくつやと思てはるんです」 「あんたね、こういうロ 門題に、まさか、ということはないのんよ : : : 」 「そうですか。もしそうやったら、友野さんも早うご主人のところへ帰りたいでしようか ら、一緒に帰ることにしましょ 「そやからね、ご主人を呼んだらええのんよ。土曜から日曜にかけて、ご主人、来はるの かと思てたら来なかったでしよう。わたし、これはおかしいなア、とひそかに思てたの。 来ないということは、もしかして、なんそ若いオナゴさんでもいて、それを友野さんは感 づいてるもんやからヒス起してるのとちがうやろか : 「そんなこと、私、わかりません ! 」 さじ 私は匙を投げてセンセの傍を離れたのでした。 その夜のことです。 決食事の後片つけをしている時、友野さんが「松子さん、ちょっと」といって、自分の寝 沢部屋にしている二階の一番奥の洋間に入りました。 軽「松子さん、あのねえ : とヘンに改まっています。 「あんた、センセにそろそろ引き揚げようというたの ? 」