上げ - みる会図書館


検索対象: 女の怒り方
38件見つかりました。

1. 女の怒り方

と笑った。私は何しろヒイキであるから、ヒイキの身として誰よりも大きな声で、 「ワハハノ と笑ったのである。そのうちに終業のベルが鳴って、先生は一礼して教室を出て行った。 用紙を上げたり下げたりしただけで一時間は終ったのである。 ひかきぼう しばら それから暫くして先生の姿は学校から消えた。先生は職員室のストープの火掻棒で、 いきなり同僚の先生を殴ったので、狂気の人であったことがハッキリしたのである。 「そんならあのときの、ハイ上げて、ハイ下げては : : : 」 「アタマ、狂ってたんやわ」 とはじめて私たちは納得した。先生が私のノートに感心の呟きを洩らしていたのも、そ へつにヒイキというわけではなかったのだ。 の現れの一つだったのだ。。 我々はみんな先生はおかしい、と思っていた。しかしそのことを誰も他の先生にいわ なかった。生徒の分際で教師についてとかくの批評、いや疑問すらさし挟むことは許され なかったのだ。先生が答案用紙を配ってハイ上げて、ハイ下げてとおっしゃいました。 . て先生のアタマはヘンなのではありませんか、などと他の先生にいおうものなら、頭ごな 上しに叱られてそれ以後は不穏分子としてニラまれるのがオチである。先生が火掻棒で他 の先生をプン殴ったからこそ、頭の狂いが認められた。 なお そうでなかったら私たちはその後も尚ずつーと、「ハイ上げて、ハイ下げて」をマジメ しか

2. 女の怒り方

ハイ上げて 私が女学校一年のときのことだ。国語の教師に先生という中年の女教師がいた。 先生は授業中、他の生徒に教科書を朗読させながら机の間を廻って来て、ふと私のノ ートを取り上げ、ペラベ一フとめくり、 「すばらしい ! 」 つぶや 吐息と共に呟くのである。 「フンフン、なるほど、なるほど、ふーん」 と感心しながらノートをあちこちめくっていることもある。何がすばらしいのか、何が なるほどなるほどなのか、さつばりわからない。ノートには格別のことが書いてあるわけ ではない。先生の講義をメモしてあるだけである。それでクラスのみんなは私は先生の ヒイキなのだといった。 てある日、先生は突然、テストをするといって答案用紙を配った。配り終ると先生はい 上った。 「さあ、皆さん、用紙を両手で持って高く上げて下さい」 私たちは何やろ ? と思いながら、いわれるままに用紙の両端を持って頭の上に掲げた。

3. 女の怒り方

すると先生はいった。 「ハイ、下げて」 みんな下げる。 「ハイ、上げて」 みんな上げる。 「ハイ、下げて」 「ハイ、上げて」 先生がマジメなので我々もマジメくさって、いわれるままに上げたり下げたりした。 「ハイ、下げて」 「ハイ、上げて」 どれくらい上げ下げしただろうか。 「ハイ、止めて」 と先生がいったので、我々は頭の上に用紙を掲げたまま、じっとしていた。すると先 生はいった。 「ここに赤い丸を書いたら、日の丸ですね、オホホホホ」 うれ それほどおかしいこととも思えないが、先生が嬉しそうに笑っているのにムツツリして いては申しわけないという気持で、 ( 昔の学生はみんな素直だったねえ ) 皆、「アハ

4. 女の怒り方

た。—先生は人を負傷させるようなことはしなかったので、私たちは卒業するまで「コー サンいたしました」と床に指をつけて謝りつづけたのである。 むずかしいことは、「事件」という形で決定的な終幕が来ない限り、異常は認められに かたぎり くいということである。日航機の片桐機長にも「ハイ上げて、ハイ下げて」の段階があっ うんぬん たにちがいないのである。しかしその段階で第一二者が異常を云々しても、おそらくは真剣 に受け止める人はいなかったにちがいない。 結果が出てはじめて人は信じるのである。 数日前、テレビでヒットラーが演説しているフィルムを見て、私はヒットラーの狂気説 をはっきり認めた。あれは「大獅子吼」なんてものじゃない、ただの絶叫である。ヒステ リイの悲鳴である。その悲鳴に向って国民は「ハイル、ハイル、ヒットラー」と歓呼して いるのだ。 「ハイ上げて、ハイ下げて。ここに赤い丸を書いたら日の丸ですね、オホホホ」 て というようなものだ。 げ 上異常を異常だとはっきりいう力、そしてそれを正しく認める力を持ちたいものですね、 と私は丁度、居合せた人にいった。 ところで日本の政治家は大丈夫ですか、「ハイ上げて、ハイ下げて」の人はいないでし ししく

5. 女の怒り方

です、飼主の顔が見たいといわれねばならない。 「大の面倒を見きれない人、しつけの出来ない人は大を飼うべきじゃないわね。大を飼う には飼主としての資格といったものが検討される時期に来ていると思いますわ」 「それじゃあ、そのうちに母親の資格審査を受けてから子供を産めということになります か、アハ と高笑いしたのが精いつばいの抵抗である。 「うちのチコチャンは利ロでねえ、その上に信仰心までありますのよ。私が毎朝、お題目 を上げていると、後ろへ来て一緒にお題目を上げるんです」 と自慢する奥さんがいるが、大としてはべつにお題目を上げているつもりはないのだ。 とおぼ 奥さんのお題目の声に誘われて単に遠吠えをしているに過ぎないのである。 大がサイレンや汽笛や豆腐屋のラツ。ハと一緒に遠吠えをするのは、野生の時代に森林や 草原で仲間と遠吠えをかわし合った習性が今なお残っているからだと識者はいう。 へつに信仰心でも何でもない。 奥さんのお題目がチコチャンの遠い習性を呼び起すのだ。。 そういえばかって我が粗大の中に、娘が笛を吹くと一緒に、遠吠えをするのがいた。 「コンピラフ、不フ、不 おいてに帆かけてシュラシュシュシュ」 それに合せて「オーオオーオーオオー」と吠える。その声を聞くと「うちの大はお歌が

6. 女の怒り方

214 「フ、フ、可愛いねえ、人間って : : : 」 と徴笑する。 ノハハ」と笑い出したりするよ 白血球はだんだん増えて、テレビを見ながら突然、「ア、 うになる。なぜ笑うかというと、マジメくさってタンゴを踊っている男女がいたからだ。 世の中に、タンゴほどおかしいダンスはない、という気がしてくる。 タッタッタッタ、タタタタータ、 タッタッタッタ、タタタタータ 名曲「ラ・クン。ハルシータ」までが喜劇的メロディになってしまうのは、タンゴを踊る あご カップルの伏目にちょっと顎を上げかげん、ロもと引きしめたマジメ顔のせいである。 すもう ここまでくると白血球は増える一方。相撲の千秋楽の「君が代」斉唱の光景。大男が並 んで沈痛に、牛のアクビのごとく「君が代」を歌うそのマジメ顔。つつしんで手を上げる ハンザイ三唱がまたたまらない。 ーベンには相 ーベン「第九交響曲」のクライマックス。べート あるいはまたまたべート そろ すまぬことながら、あのソプラノが揃って首ふりながら声はり上げる必死のさまは、いか なる〕劇にもまさる喜劇と思われる。 ノスに乗ってひとりで ハスに乗る。乗客はマジメくさって坐っている。当り前でしよ、ヾ クスクス笑っている方がよほどおかしい、という人は白血球が減少気味の人である。私は かわい

7. 女の怒り方

175 面魂 いつだったか、読者の人から手紙が来た。 「佐藤さんが横断歩道を渡って来られるところを見かけましたが、その面魂に威圧される 思いでした」 おもて 面魂ーー勇ましき心のその面に現れて見ゆること。 並々ならぬ強い精神が顔に現れていること。 と辞書にある。 「私の波瀾多い生きざま、苦難との闘い、撃ちてしやまんの気概、真理を洞察せんとする 眼力、そういうものが私の面魂を養ったのでありましよう。女として大切なことは何かと いうと、美人であるとかチャーミングだなどといわれて男どもにもてはやされることでは さまつじ ない。そんなものは、生れつき与えられた瑣末事に過ぎんのです。己れのカで創り上げる すなわ ものこそ大事なのである。即ち面魂こそ、それです ! 」 と私は上機嫌で娘に説教していたのだ。 だがその創り上げた筈の面魂が、「金融カンケイ」の面魂であったとは , この頃は何ごとも「らしさ」がなくなって何かと厄介である、というようなことをかね てより私はいったり書いたりしていた。娘かと思えば子持ち、ホステスかと思ったら主婦、 クリーニング屋のアンちゃんかと思ったら子供の担任の先生、先生かと思ったら大工さん、 女かと思えば男、男かと思えば女、ややこしくてしようがないといっていたその仲間に、 はらん

8. 女の怒り方

と重箱のスミをほじくり出すので、それに対して何かいわなければならなくなる。当然 ( ぼうぎよ けんか ことだがマスコミと喧嘩する力も防禦する技術もないからである。 要するに彼女は、「いささか気の強い一人のただの女」なのである。世の中には彼女ト りももっと計算に長けていて、もっと利ロな女はいつばいいる。 いっきく 私は榎本三恵子さんの世間知らずの気の強さに一掬の涙を注ぎたい。 あば かんぶ そしてまた、前妻によって完膚なきまでに男としての器量のなさを発かれた榎本氏ー それにしても榎本さん、もうちょっとしつかりしはらな、男たるものが女房に仕事のこし をベラベラしゃべったりするからこういうことになるんですがな。普段、頭の上らぬハ一「 イセか、隠し預金に妻を抜かして弟の名儀にしたりするからイカンのだ。いざカマク一フし おおいしくらのすけ いうその時に、「どうしよう、どうしよう」とは何ごとか。大石内蔵助を見なさいよー 男 : と怒ってはみるものの、あまりのその弱さ、踏んだり蹴ったりのその立場に一掬の「 た ぎ を注ぎたい。 す ついでながら伊藤素子さんについては、私の一掬の涙は無用であろう。 ペ や だって新しく来た弟のヨメが猛き女であったおかげで、それまでとやかくいわれてい ペ兄貴のヨメさんのカプが急に上ったようなもんだもん。 もとこ たけ

9. 女の怒り方

ついついエイツー 黄昏のいろいろ ハイ上げて ツツ。ハリ亠巧 女の泣き場所 ああ、恥ずかしい 残したらいけません 工セ貴婦人 どきどきマナー 奥にいる人 外人はコワイ 処女、美女、熟女 ウソにしがみついている男 シャクな話 91 85 119 103 108 142

10. 女の怒り方

「あのネ、ボクとオ x >< x しない ? いいでしよ、しようよ : : : 」 カッときて、何かドギモを抜くようなことをいってやりたいと思った途端、私は叫んで いた。 「ゼンオンドチアー ! 」 相手、沈黙。受話器の向うはシーンとしている。やがてカチャン ! 力なく受話器が下 りる音がした。 翌日、またかかって来た。 「オ x >< x しようよ。ホントはしたいんでしょ ? もう濡れてるんでしよ」 待ち構えていた私は叫んだ。 「ピップエレキ・ハン ! 」 相手、沈黙。 しばらくあってカチャン。 「どんなもんだい ! 」 と私は凱歌を上げ、娘は何だか口惜しそうな顔をしている。 「この次かかったら私にいわせてね」 「いいよ」 そういっているのに、チリリーとくると大急ぎで手を伸ばしている。 がいか ぬ