私 - みる会図書館


検索対象: 女の怒り方
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1. 女の怒り方

☆ 私がそのような観察を楽しんでいると、私の担当 ( というのもヘンだが ) のホストがい っこ。 「お客さん、失礼ですけど何していらっしやる方 ? 」 私「何に見える ? 当ててごらんー ホスト「そうねえ : : : 」 と首をかしげる。このあたり男と女がまるで逆転している趣。 ホスト「むつかしいわねえ : : : 」 私「そう、むつかしいわよ、私の商売は、アハハハ」 ホスト「家庭の奥さんでないことだけは確かですね。あちらで踊っていらっしやる方は みんな奥さんたちでしよう ? 」 私「その通り」 魂ホスト「とにかく、普通の方じゃないですね。何か仕事を持ってる方でしよう。美容師 面 といってから、改めて私の頭を見、 「ちがうわね」

2. 女の怒り方

224 その口調は、そういう自分にも腹が立つ、とでもいうような憮たるひびきで、私はな んとなくニンマリしてしまった。先生のエッセイそのままのお人柄を感じたからである。 ところが、その電話の会話の途中で、先生はいきなり怒りはじめたので、私はびつくり してしまった。私がお叱りを受けたのではない。 講演を承諾してくださったあと、札幌で泊るホテルについておたずねした。先生はいっ も利用されているホテル名を告げ、もし、そこが満室の場合はーーと話が展開していった とたん、先生は過去のいまわしい記憶をよみがえらせたのだった。 「〇〇ホテルに泊ったときは、ホントにひどいめにあいました。お部屋はひどいし、食事 もひどいし、もう私はぜったいに許せませんツ、あのホテルはツ」 声をふるわせてのご立腹、しかも本気で怒っているらしい様子に、私、失礼なことなが ら思わず吹きだしてしまった。これもまた、たくさんのエッセイに書かれている「佐藤愛 子流・怒り方」そのものなのである。が、吹き出してしまった私に怒りのホコ先が向けら れても当然なはずなのに、なんと先生は私の笑いと一緒にご自分も楽しげに笑いはじめた のだった。先生のユーモア精神の神髄を、その笑いから、はっきりと教えられたような気 、、、した。 数カ月後、先生は所用があって札幌にみえられた。私が依頼した講演はまだ先のことで、 それとは別に私は先生の宿泊先のホテルに、ごあいさつにうかがった。

3. 女の怒り方

130 外人はコワイ 人は信じないかもしれないが、幼い時の私は恥ずかしがりやの怖がりの泣き虫だった。 四歳のとき、神戸の市電の中で、隣に腰かけていた二人の西洋人に話しかけられた。その 頃の私は ( これも人は信じないだろうが ) 実にアイくるしい女の子で、電車などに乗ると 乗客がみんな徴笑んで見たものである。どうも、。ハアサンになってから、子供の頃のアイ ふいちょう らしさを吹聴するというのもどうかと思われるが、今から思うとその二人の西洋人も私の 「アイらしさ」に思わず言葉をかけたくなったのであろうか。 「カワイラシイ、オジョーチャン、ドコイクノ ? 」 ひとみ おぼ と訊かれた一一一口葉を今でもはっきり憶えている。そういわれただけで、もう私の双の瞳は 涙が盛り上るのである。電車中の人が私を見ている。私は涙を見られまいとして、手を伸 ばしてソックスの縁どりをいじった。すると西洋人は笑いを含んだ声でいった。 「オウ、イイ、クッシタデスネ」 私は恥ずかしさと怖さに我慢ならなくなり、座席からすべり降りて、わーツと泣いた。 「オヤオヤ、ナゼナクノ」 「アッハッハッ、ツハッ」

4. 女の怒り方

「そうですね、子供がいると何かと歯止めにはなります」 このあとに「彼女を責めないで」という一幕があるのだが、あのとき、先生は私という 女をどう見られたのか、と想像すると、六年たった今でもドッと冷や汗がでる。 三年前、私のデビュー作『マドンナのごとく』が出版された際、私は先生におわびの手 紙をかいた。たくさんの人とお会いになる機会のある先生が、はたして私のことをおぼえ ていてくださるかどうかは分らなかったけれど、先生をあざむいていたと思われるのがっ らくて、という気持からだった。 つまり、小説家志望なのをかくして、先生に接していた。そう受けとられるのが耐えら れなかった。しかし、先生にお会いした六年前の私は、真実、物書きになるつもりはなか ったのである。 手紙とともに拙本をお送りすると、先生はすぐさま返事をくださった。「『マドンナのご とく』という小説は、女のニヒリズムを書いています。どうして他の方々は、それが分ら ないのかツ」といったような内容で、まさしく私が言いたかったことをズバズバと指摘し 説てくださった。 私がどうして、あんなにも「先生をあざむいていたと思われるのがつらい」と悩んだの 解 か、おそらくそれは先生の影響だろう。 当ェッセイ集の随所にも見られるけれど、先生はごまかしを嫌う。そして、他人のごま

5. 女の怒り方

226 それどころか、翌朝、札幌を発たれる先生にごあいさつに参上した、私の勤務先の社長 に、こっそりこう言ってくださったのだった。 「彼女を責めないでくださいね。あの方なりに一生懸命やったのですから、けっして怒ら ないように」 社長からこの話を聞かされた瞬間、私は涙ぐんでしまった。 私は、この紙面を借りて、佐藤愛子先生のこうしたやさしさを強調したい。 先生ご自身はシャイな方だから、エッセイにはこの手の話題はたくみに避けているけれ ど、違うのである。怒ってばかりいるわけではないのである。 さらに今から思うと、私はたくさんのドジをふんだだけでなく、相当に図々しい相談を、 その朝、食事をされている先生に持ちかけたのだった。 「先生、じつは私、未婚の母になろうと考えておりまして、いえ、相手の男性はこれから 探す ( ? ) のですが、どうお思いになりますか」 先生はたじろがなかった。・ こくしぜんに食事をなさっていた。 「あなたにとっては初産ですか、それは」 「はい 「そのおトシで初産は少しきついかもしれませんね」 「でも私、子供がほしくて」

6. 女の怒り方

122 「は」 とポーイはおもむろ顔から困惑顔になる。エライ様の左右の紳士たちは我がことのよう に恐縮して、 「君ツ、あちらの先生からツ、あちらのツ」 「あちらの先生」とは私のことであるから私は閉ロした。 「いえ、その、わたくしは : : : 」 と一「ロ葉にならぬことをいいながら、仕方なくワインを注がれたグラスを取り上げ、ここ で味見をするべきか、せざるべきかに思い悩んだ。 ポーイの方は私の「結構」を待っている。 「結構」といってあげたいが、しかし礼儀を重んじるエ一フィ様の方は、私がひとりで皆よ り先にワインを飲んだら、この礼儀知らずめ、と思うにちがいない。 びんささ しかし私がワインに口をつけない限りは、ポーイはいつまでもワインの瓶を捧げたまま 私のそばに立っているだろう。 するとポーイは今にエライ様に叱られるだろう。 おっきの人はこのつまらないエチケットの食いちがいについての認識を持っているのか もしれないが、そうかといってエライ様に向って、 せんえっ 「えー、僭越ですが、西欧におきましては、ワインを賞味いたします際 : : : 」

7. 女の怒り方

きぜん りんぜん 第一印象は、背すじのまっすぐな方、であり、毅然として凜然、であった。ここでも私 は思った。先生の書かれるエッセイはすべて本当なのだ、この方は嘘をつかない方 : ホテルのティールームでお茶を飲みながら、夕食はまだという先生はサンドイッチを注 文された。三十分ほどして、おいとましようとすると、先生は卓上のナプキンを広げ、残 されたサンドイッチを包み、そう大きくはないハンドバッグにしまわれた。 「私たちの年齢の人間は、モノをそまつにはできないのですよ」 それと同時に、私は先生のエッセイの特徴でもある、好ましい主婦感覚を目のあたりに し、なぜとはなく胸がジンときた。当ェッセイ集の中の「残したらいけません」にも、そ の生活信条が笑いをもって語られている。 しかし、あのハンド・ハッグにむりやり詰めこんだサンドイッチは、どういうふうに変形 していたのか、いまだに気がかりである。そして、先生はやはりそのサンドイッチを、ひ とり、お部屋でめしあがったのだろうかーーー多分、意地になって食べられたに違いないと、 私は邪推する。 説さて、私がお願いした講演会は、六年前の九月におこなわれ、千数百名を前にしてのお 話は大好評で、聴衆をおおいに笑わせ、楽しませてくれた。 解 しかし根がドジな私は、こまかい失敗をいくつもやり、先生にご迷惑をおかけした。な のに、である。かの怒りの愛子先生は私をいっぺんも叱らなかった。

8. 女の怒り方

170 「今回の間違いは、人間というものは人相だけ、あるいは固定観念で決めてはならぬとい う教訓です」 さと と私は娘を諭したのであったが、考えてみれば私がかような固定観念を持つに到ったの は、私の周辺のもろもろの男性群に責任があるのではありますまいか。 いた

9. 女の怒り方

藤堂志津子 佐藤愛子先生にはじめてお会いしたのは、今から六年前 ( 一九八六年 ) だった。 もっとくわしく述べると、お会いする半年前からご縁があった。 その年の春、私は胸をドキドキさせながら、先生のご自宅の電話番号をまわしていた。 当時、私は札幌の広告会社に勤務するプランナー ( 企画立案者 ) で、先生のご講演をお願 いしようとしていた。講演の企画主旨などは、あらかじめ手紙でお送りし、それから一週 間ほどして電話をかけたのである。 電話のベルが鳴るのが聞こえた、と思ったとたん「はい、佐藤です」 「おそれ人りますが、佐藤愛子先生は、ご在宅でしようか」 説「私です」 うっと息がつまった。そんな私の表情を見通したように先生はすかさずおっしやった。 解 「お手伝いの人はいるのですけれど、電話のベルを鳴らしつばなしにしておくのは、私、 イヤなのです。だから、つい自分で受話器を取ってしまう : : : 」 解説

10. 女の怒り方

ベルの鳴らせ方 私の五、六年前の雑文集を読み返してみると、いたずら電話、エロ電話に対して怒って いる文章が幾つもある。 まことに「浜の真砂は尽きるとも世にエロ電の種は尽きまじ」で、五年経った今も相変 わた らずェロ電話に悩まされ : : : いや、人が悩むとき私はたいてい怒るから、数年に亘って怒 りつづけて来たのであるが、最近はついに怒らなくなった。私は怒ることに飽きて、エロ すべ 電話を楽しむ術を身につけたのである。 夜、電話が鳴る。その鳴り方でほぼェロ電話かそれ以外のものかが私にはわかる。ェロ いきおい いんび 電話は鳴り方からして既に淫驩である。リンリンと勢よく鳴らずに何となく頼りなげに、 チリチリと鳴るーーように私は感じる。 ェロ電に関する限り予知力が私には養われたのだ。ェロ電の時間帯というのもあって、 だいたいタ飯の後二時間あたりから深夜に及ぶ。ェロ電の主も人ナミにタ飯を食べてタ・ハ コを一服、夕刊を読んだり、気に人ったテレビ番組が終ったりしてから、 「さて、はじめるか」 という気分になるのであろう。 まさご