キヨーコ - みる会図書館


検索対象: 娘と私のただ今のご意見
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1. 娘と私のただ今のご意見

また、こういうことを圭 = くー 大号泣だの、ケロリたの。佐藤愛子の筆にかかると、すべての物事は、可笑しみを帯びて くる。繰り返すが、これが彼女の才能であり、独得の感性なのた。 事実は、決してケロリではなかった。ただ私にはジケジケ、シクシクする暇がなかっただ けの話である。二人の子を背負って、敵意溢れる世の中と戦い、稼がねばならなかった。 合、間に、愛子さんと私はときどき会うようになった。 その合い尸 私は離婚直後。向うも、二度目の離婚をした直後。愛子さんにはキヨーコという娘さんが いる。私にもキヨーコという娘がいる。しかも同い年。 「お宅のキヨーコさん、お元気 ? こ 「うちのキヨーコは : : : 」 会えば娘の話になった。父親に恵まれない二人のキヨーコについて、そのふびんさ、いと おしさ、あわれさ、憎らしさ、あらゆることを、私たちは、この十七年間話し合ってぎた。 その中で、私は佐藤愛子の中に二つの対極的な母親像を見た。 一つは、じつに冷静で、透徹した作家の目を持った母親、愛子像。 もう一つは、震えるほど細やかな神経でキヨーコさんをいつくしむ母親、愛子像。 ひところ、佐藤さんが、響子さんを連れて日本各地、外国、いろんな旅に出かけた時期が あった。 はためには恵まれた境遇の母娘の旅とうつったであろう。またその時期、佐藤さんが書い

2. 娘と私のただ今のご意見

270 どの子にもそういう年齢があると思うが、その時期でも愛子さんは娘のことを書き続けて 佐藤愛子のその壮絶な作家精神に、私はいつも脱帽しつづけてきたが、同時にキヨーコさ んもすごいと思う。 キヨーコさんは、きっとこう思っているに違いな、。 「ママが書けば、シクシクは″大号泣〃となり、忙しければ″ケロリ〃になる。 ママの筆は魔法であり、すべての出来事は魔法の杖で″ママ色の世界〃に変えられてしま それが作家というものであり、作家の娘とは、魔法と現実を割り切って生きるしかないの キヨーコさんがそう考えてくれなければ、佐藤愛子の娘と私シリーズは、この世に誕生し なかったはずだ。 そういう風に娘を育てた佐藤愛子も、母親の魔法に負けずに生きている娘も、たいしたも のだと私は思う。

3. 娘と私のただ今のご意見

228 「天井のない別荘 ! 何たる自由 ! こういう家はマコトの自由を知っている人間でなけれ ば建てられないよ ! 」 と恥じ入りもせすに自慢するから、うつかり天井がほしいともいえない。 「あなたは自由でいいかもしれないけれど、そのおかげであなたの周辺は不自由なのよ。そ の一番の被害者がキヨーコちゃんよ と友達はみないう。 しかし私は娘の自由を束縛したことは一度もないつもりた。人から束縛されることの嫌い な私は、人を束縛することも嫌いだ。自分が自由でいたいから、人も自由でいるのがいい と思っていたが、娘が行くというので、そ 娘が大学へ行きたくなければ行かなくてもいし んなら行きなさいということになった。大学を出ても勤めたくないというから、そんなら家 にいなさいといった。勤めをしないなんて何のために大学を出たんた、などといったことは ない。暫くすると勤めたいといい出したから、そんなら行きなさい、といった。いい加減に 嫁に行け、などとはいわない。すべて娘の自由だ。そのうちに気に入らぬ男と結婚するとい い出しても、それは彼女の自由であるから私は決して反対しない。反対しないが、悪口はい う。それは私の自由である。娘は気にしなければよろしい ある日、私は娘に訊いてみた。 「キヨーコ、みんながこういうお母さんを持ってキヨーコちゃんは可哀そうだというけれど、 ホントにそうかなア ? 本当のところはどう ? 」

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なかったのだ。そうしてその戦いによって男は己れを磨き鍛えたのです。今の軟弱なる若者 は、何によって鍛えられるか : 「ソレ、ソレ、ソレがいけないというのよ」 と友達は声をはり上げ、 「そんなことをいってるから、キヨーコちゃんにポーイフレンドが出来ないのよ」 「しかもいうだけでなく、アイ子さんの場合は書きまくるでしよ」 「すぐにアダナをつけるしねェ」 「アダナが何が悪い シルシ と私は叫ぶ。アダナは親愛の印です。我が家へ来て、アダナもつけられずに帰るような手 察合は、個性のない証拠。 考 「これだからね工 : の て と皆、サジを投げる。 に「キヨーコちゃん、可哀そうだわ」 ン「ホント : レ 本当はモテないからポーイフレンドがいないだけなのに、母親のせいになる点、娘は恵ま フ 一れている。 しかし、本当に娘にはポーイフレンドはいないのだろうか ? ・ 私の友達はみな、

5. 娘と私のただ今のご意見

166 て、心からびつくりしたように無邪気にいってみたら」 私「三文声楽家の発声練習みたいだわねえ」 子「いきなりいうから調子が出ないのよ。エーツー さんがいってあげなければ」 私「それもそうね。じゃあいうよ。いい ? 娘「うん、 と娘は。ヒンポンの練習でもするように面白がってる。 私「キヨーコ、この間買った靴の代金のことだけどあんたの貯金から払いなさいねー 娘「エーツ、そんなムチャな : : : 」 (--«子「ダメ。エーツ、ウッソオ、っていうんでしょ ? 」 娘「そうか、ゴメン」 子「サトウさん、そんな靴の代金の話なんかじゃなくて、もっとほかにないの ? 」 私「わかった : : : じゃあ、いうよ。キヨーコ、ゆうべあんたが取っといてっていってたコ ロッケ、食べちゃったよ」 娘「エーツ、ウッソオ・ : : ・」 私と e 子は顔を見合せる。何だか九官鳥が叫んでるみたいだ。子は暫く考えてから、 と軽く、愛らしくい 「どうもねえ : : : 少しカみすぎるのよ。もっと力を抜いて、エーツ ! と自然に出るような一言葉をサトウ

6. 娘と私のただ今のご意見

154 いわないのよ」 「どうして ? 」 「どうしてって、そんなこと、どうだっていいじゃないの。ウインドウショッ。ヒングを楽し むには、その程度の知識は持ってた方がいいのよ。これはラルフ・ローレンだとか、ルイ ヴィトンにはどんな特徴があるかとか、グッチはどうか」 「グッチのニセモノとホンモノの違いはどこにあるか、なら知ってるよ。自慢じゃないけど そういうことを見抜く目はあるんだから 「ニセモノ置いてるような店でウインドウショッ。ヒングしたって楽しくないのよ。高級品を 見て目を養うことも、ウインドウショッ。ヒングの一つの目的ね」 そんなもの、養ったってしようがない。どうせ高級品とは縁のない身分なんだから。 「ママ、一度でいいから、いってみてよ。『あなたにはこの色が似合うんしゃなくて』とか。 そしたら私が『あら、お母さん、こっちの方がステキよ』『でもキヨーコちゃんは色が白い から淡い色もよく似合ってよ』『あら、そうかしらア : ・ : 』『キヨーコちゃんの好み、少し 地味すぎやしない。もっと派手でもよくてよ』とか、そんな会話を一度くらい交してみたい そういうのを上品な会話というのかもしれないが、娘がいうと新派の村芝居になってしま うのはどうしたもんたろう。 「じゃあ、一度やってみるか」

7. 娘と私のただ今のご意見

161 隣の花 よ くった男を私は知っている。仕方なかったなんていう暇があったら、自分の頭をゲンコツで : と口まで出かけたが、さつぎの約束を思い出して口を噤 殴って、気合を入れた方がいい : む。 「それにね」 と娘はいい気になってつづけた。 っていって家を飛び出すとす 「ママなんか、私のキモチ、なにもわかってくれないのよー るでしよ。そういう時に、慌てて後ろからキヨーコ、キヨーコちゃん ! って呼びながら息 を切らせて追いかけて来るー・ーそんなお母さんが私はほしい」 なにをホザく ! ) ( チェッー 「あれは確か小学校一年の時よ、叱られたので家出する ! といって家を出て行ってるのに、 いつまで経っても誰も追いかけて来ないんだもの。仕方なしに幼稚園の門のところに立って じーっと待ってたけど、日が暮れて行くのにまだ誰も来ない。ノソノソ帰って来て家へ入ろ うとしたら、門に錠が下りてるじゃない。チャイムを押しても出て来てくれない。しようが ないから塀を乗り越えようとしてかき上ってたら、お豆腐屋さんが通りかかって、『閉め出 されちゃったの ? 』っていってお尻を押し上げてくれた : : : 」 かわい 「ほら、こういう時でもママは笑うでしよ。可哀そうなことしたわね、とはいわないでし あわ

8. 娘と私のただ今のご意見

160 てふり返ったりしないお母さん : : : そういうお母さんがいいなあと思うのよ」 「じゃあ、どうしろというのよ」 「娘にやつつけられてションポリして、台所でジャガ芋の皮を剥いている。その寂しそうな 後姿を見ると、あんなこといってこっちも悪かったなあ、という優しい気持になるんだけど ママが悪かったわ : : : ごめんなさいね。ううん、 「ふン、ジャガ芋剥きながら、キヨーコ、 キヨーコもいいすぎたわ、ごめん、ママ : : : か。三文ドラマを地で行こうっての ? 」 「ソレソレ、すぐそういって大声出す。だから何もいわないのよ、私は」 「じゃあいわない。、 しわないから、何でもいいたいこと いいなさい」 「大丈夫 ? : : : それからね。何か失敗して落ち込んでる時に、まるで鬼の首でも取ったよう にハリ切ってお説教したりしないお母さんが理想よ。『だからいわないこっちゃない。だカ らいつも気をつけなさいっていってるでしよ。それをちゃんと聞いてないからこういうこと になる。だいたいがあんたという子はいつも人のいうことを上の空で聞いている。この前だ って : : : 』と二年も三年も前からのことを並べ立てて、五分ですむお説教が一時間になって しまう。こっちは失敗して落ち込んでる上に、またお説教聞かされて踏んだり蹴ったり : あーあ、こういう時に優しい声で『仕方なかったのよ。こんなことになるとは思わなかった んだものねえ』と背中をさすってくれるお母さん : : : 」 なに、仕方なかった ? 仕方なかったとは何だ。仕方ない、仕方ないといいながら首をく

9. 娘と私のただ今のご意見

「冗談じゃない。ママが死んだらどうするの。たとえ死ななくても年をとって、ポケて仕事 が出来なくなって、チイチイ。ハツ。ハチイ。ハツ。ハ スズメのガッコのセンセ工はア : : : あん た、誰や ? なにキヨーコはん ? どこのキヨーコはんや ? なに、わたいのムスメ ? こ んなソラ豆ムスメ、いたかいなア : : : 」 「なんでポケると大阪弁になるんだよ ? 」 「ポケるとアタマ使わないから、大飯喰いになって、タクワン一本でおひつに一杯のご飯を モリモリ食べ、もっと、もっと、もっとやア、おなか空いたよう、と喚き立てる。収入なし で大飯喰、 し。いったいどうなると思う ? 」 「だってママはいつだったか、親孝行したら金銀財宝、山のごとき財産をあんたにあげる、 といってたじゃない」 とつまらぬことを憶えている。 そんなことをいい合っているうちに就職問題はいつもどこかへ飛んでしまい、気がついた 時はもう遅い。今から就職口を捜してもダメ、という事態になっていた。 そんならそれでよろしい。しかしその代り、母親が必死で原稿書いているというのに、娘 ちょうど がフラフラしてもらっては困る。丁度、秘書の若林さんがご主人の転勤で大阪へ行ってしま ったから、家事と秘書の仕事をするかというと、うん、するよ、という。 「よし、ではそうしなさい。月給は五万円です ! 」 「うん、 しいよ」 わめ

10. 娘と私のただ今のご意見

231 自由について考えこむ えっ ! と叫んで私は絶句した。そうか ! やつばりあの時か : この話を聞いた友達の一人は勝ち誇っていった。 「だから、自由自由といってるとこういうことになるのよ」 あなたはよくても他人が迷惑するのだという。 「それにしても犬でよかったわ、キヨーコちゃんじゃなくて」 いや、娘の方がまたよかった。私はあの優しい奥サマに何といってお詫びをいえばいし かわからない。それにしても自由を認めるということはむつかしいものですなあ :