聞い - みる会図書館


検索対象: 娘と私の時間
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1. 娘と私の時間

ちゃって、もう、もう、ああ、どうしよう ! キャアーツ ! 」 私ニャニヤ。 「ま、世の中にはいろんなことがありますョ」 「ひとごとだと思って簡単にいわないでヨ ! 」 「世の中に出て生きるということはね、恥をかくことです。ママだって、山のように恥をかいて 来た」 「キャアーツ、もうこのことについて、何もいわないで ! 」 という騒ぎ。だから、私ははじめからよした方がいいといってたんだ。 放送日が来た。放送は夜の十時からである。私はそんなもの、聞きたくない。聞かなくたって、 どれほど酷いか想像はついている。なのに娘は、 「さあ、はじまるよ、ママ聞かないの ? 」 と催促をする。こういうところがこの娘のヘンなところだ。私なら失敗した放送なんぞ、人一 倍うるさい母親に聞かせたくない。 いよいよ始まった。 「では今回、二千人の応募者の中から選ばれました六人の方を : : : 」 と聞えて来るやいなや、娘は一目散にどこかへ逃げて行ってしまった。六人の若い人が順々に

2. 娘と私の時間

前から見ているときは何ということはなかったが、くるりと後ろを向いたとき、まる出しのお がそこにあった。 「あら ? 」思わず佐藤さんはいったが、お手伝いさんは聞こえるふうもなく、「よいしよ」と。 ンストに包まれたお尻をくるくる動かしながら椅子を持ち上げている。「あのうもう一度佐 さんが声をかけたとき、今度はお尻を突き出してテープルの下にかがみこんでしまった。 「珍しくキビキビと働いているのよ。そうか、彼女は心機一転、最新流行に身を固めて働いて、 るんだ ! 偉い ! まことに美しい姿です ! こう私は思ったのね」 と佐藤さんはいう。ところがしばらくして「あっ」というお手伝いさんの声。見れば彼女は次 見の前に呆然と立ちすくみ、そしてポツリといった。 「わたし・ : ・スカートはくの、忘れてました」 この話を聞いて、また私は思い出していた。やはり十五、 , ハ年前のことである。「川上 ( 薫さんがご面会です」と受付からの知らせで、私は社の玄関へ下りて行った。佐藤さんがいっ , ょにいる。私を見るや彼女は玄関を出て歩き出した。そして歩きながら激しい口調でいう。 説「〇〇さんがねえ、いくら電話をしても居留守を使っているのよ。それでラチがあかないから亠 急ぎで家を飛び出し、〇〇さんの会社へ行ってみたの。たしかにいたわ。それなのにみんなで 解 している ! いません、留守です ! の一点張り。彼は麦彦と私を騙したのよ ! 騙して大金 取っておいて居留守を使う ! それでも社長か ! 社長ならちゃんと弁明すべきです ! 」

3. 娘と私の時間

って来てほしいと家政婦さんにいった。しかし家政婦さんはダイニングルームで食べればいいと いう。娘はテレビの前で食べたい。いい争っていると突然、家政婦はいったという。 わがまま 「そんな我儘をいうのなら、ママが帰って来たら私はやめます」 その話を聞いて私の友達は仕方なくいった。 「それならねえ、響子ちゃん、仕方がないから家政婦さんに、さっきはごめんね、といって謝り なさい。あなたが謝れば、あの人だってやめるなんていわないと思うわ」 私はその話を聞いて、怒り心頭に発すると同時に情けなさ、口惜しさ、哀れさがこみ上げ、家 政婦を殴り飛ばして子供のカタキを討たんと走り出したい衝動に駆られた。 たかが小学生のいうこと。しかも母親は留守勝ち。一人で食べるご飯は淋しいから、テレビの 前で食べたいといえば、たとえ親がいけないといおうとも、内緒で膳を運んでやるのがおとなの やさしさというものではないのか。しかし我が子も心配した通り、家政婦がいなくなっては私は 講演にもテレビ局にも行けない。締切に間に合うよう小説も書けない。せつかく小学校四年の子 の供が我慢して、「ごめんね」と謝ったものを、親の私がプチ壊してしまっては子供の忍耐も無駄 とになる。しかも娘はそんなことがあったことを、私に一言もいいつけたりはしていないのである 「うーぬ」 と私は唸って悶え、家政婦をプン殴ることを我慢し。

4. 娘と私の時間

といった。その本の題名は『頭がよくなる本』 「わたし、そんなに頭が悪いかしら : : : 」 とクョクョしている。私は情けなくて、すぐには言葉も出ない。横を向いて、 大きな吐息を洩らすのみ。 やがて気をとり直していった。 「フランスの哲学者、アランの幸福論の中に″楽しいマリーと悲しいマリー あれをよく読んでごらん」 それはこういう話である。 マリーという娘は見るもの聞くものすべてが楽しくて充実し、ほんのちょっとしたことにも幸 福を感じる週と、何もかも悲しくてしようがない週とが一週間おきにやって来る娘だった。悲し い週は誰も自分を愛してくれないと思い、それも自分が。ハ力で退屈な女だからだと判断し、お世 司辞をいわれるとからかわれたのだと思い、親切にされると侮辱されたのだと思ってクョクョした のそのマリーを診察した心理学の教授がひとつの発見をした。それはマリーの楽しい時期の終り とになると血球の数が少なくなり、悲しい時期の終り頃になると、それが多くなるということだっ 〃という章がある。

5. 娘と私の時間

そも経験というものは : : : 」 ここでその説教のすべてを書くと紙数がなくなるので省略する。私は心ゆくまで説教を楽しん で、 ( そこはやつばり母親の権威 ) 翌日、娘を送り出したのである。 娘は新幹線で東京を出発した。その日は神戸へ行き、翌日は京都で泊る予定だ。翌日、私が原 稿を書いていると電話が鳴った。 「もしもし、ママ ? 」 娘の声だ。 「今、京都駅にいるんだけど、ホテルがとれてなかったのよ。それでママ、どっか、安いところ 知らないかなア」 「何だって ! 」と忽ち私ははりきった。またへマをやったな。 「ホテル、 , 予約しといた筈なのに、とれてないの」 「怪しからんじゃないの、予約しておいたんでしよう、それをとってなか : : : 」 プーと電話は鳴って切れた。 「ホテルがとれてなかったんだって : : : 」 私は秘書の若林さんにいった。若林さんは驚いて、 「まあ、どうしたんでしよう ? 「それがよくわからないのよ、途中で切れたもんだから」 はず

6. 娘と私の時間

そう聞くと、 「しや、ハッチ行ってこいよ ! ガン・ハってな ! 」 すぐ調子にのるのがこの母の困ったくせ。 「へただねえ、なってない」 娘はハッチふうに肩をすくめて、卒業式へと出かけていったのであった。 ◇親のたのしみ 高校を卒業した娘は、仲よしグループと卒業記念旅行をするという。 卒業記念旅行ねえ、ふーん。 何のかのと名目つけて、この頃の若い連中はよく遊ぶねえ。 高校卒業記念に各家庭を廻って庭掃除をするとか、母親の肩モミ大会を開くとか、そういう記 念行事を考え出さないのは、実に不届きである。すると娘はいった。 「じゃあ、手料理大会というのをやって母親を招待しよう」 いや、それはこっちで願い下げにする。五年前、私は娘の作った「すまし汁」なるもののその 不気味、奇怪な味をいまだに忘れることができないのだ。そのすまし汁にはほうれん草と。ハン粉

7. 娘と私の時間

彼女は怒りながらスタスタ歩く。怒っているから足早となる。私は小走りで追いかけながら話 を聞き、あいづちを打ち、川上さんがオロオロと「ちょうどぼく、愛子さんの家にいたからね、 いっしょに : : 」といいかけて、ふと気がついたように歩みを止めた。 「愛子さん、どこへ行くの。喫茶店に人るんだろ」 「喫茶店 ! こんなときにコーヒーなんて ! 」 「でも、トンちゃん ( 私のこと ) の声でヤツに電話をかけてもらうんだろうよ」 「あ、そうか」 やっと佐藤さんは立ち止り、そして近くの喫茶店のドアを押した。その後ろ姿を見たとき 佐藤さんは片脚にタテに真っ直ぐ線の人ったストッキング ( 当時はそういうストッキングが多 。ハンストなどはなかった ) をはき、片脚に線の人っていない、つまりシ 1 ムレス・ストッキ ングをはいていた。 また最近、ある時期佐藤さんは健康が思わしくなくて、頼まれた関西での対談を断わりつづけ ていた。依頼者は再度頼みにはるばる関西からやって来て、そのとき「女房の手作りですが : : 」 とお重を差し出したそうだ。 佐藤さんはありがたくふたを取る。そこには色もつややかなタケノコごはんがふんわりと盛ら れ、上に二、三枚のサンショの葉が飾ってある。

8. 娘と私の時間

と怒るから、それではもう聞かないのかと思うと、テレビを見ている時など、 「わっ、あの人 ! どう ? 」 と、こりもせずに又いう。 思った通りをいうと怒るから、仕方なく、小声て 「ヒゲさえ生やせばいいってもんじゃない」 つぶや と呟く。 「なに ? 何ていった ? 」 「男前の悪いのに限ってヒゲを生やしてる」 「まっ、失礼ねッ ! 」 そら、怒る。だからもう、ママの意見は聞いてくれるなっていうんだ。 「わたしね、ポーイフレンドが出来ても、ゼッタイ、うちには連れて来ないわ」 とある日、娘はいった。 時「どうして ? 」 私「だって、ママが必ず何かいうでしよ」 娘 「あなたが聞くから答えてるだけよ。聞かなければ何もいわない」

9. 娘と私の時間

「だから、そう歌ってるじゃないの。 グワンソ、天才・ハカボンのオーオーオー 。、。、ツだからア」 「ちがうったら、。、。、ツだからじゃない。。、。、だかアらア・ 「ちがいませんよ」 「ちがってますよ」 「ちがってないッ ! 」 「ちがってるったら。いい ? よく聞いていなさいよ。 元祖天才・ハカボンの ( タタタ ) 。、。、だかアらア 。ハ。ハなのだア」 私は歌う。 「グワンソ天才・ハカボンのオーオーオー 。、。、ツたカらア 。、。、ツなのだア」 「ちがうったらちがう、よく聞きなさいよツ」 娘は歌い、 ・・よ

10. 娘と私の時間

あい漫才〃のような、あのやりとりは一度も聞いたことがない。残念である。読むだけではっ ~ らないな、と思う。 あの機知に富んだューモアと、そっけなくも真を突いた即答は、さすがに佐藤さんのお嬢さ , ぐうたら娘にはとても出来るものではない。佐藤さんが神経を張りつめて仕事をしたあと、 響子さんとの会話は何よりの安らぎになるだろう。佐藤さんの一生懸命さを、響子さんは一番、 く理解しているのだから 「池田さん、きのう響子ときたらねえ」 その話によると、響子さんは ある日佐藤さんのお宅へ伺った私に、佐藤さんはいった。 の夕方、お友だちと二人で新宿を歩いていたという。ガード近くで、突然、なんとなくくずれ、 感じの青年二人に声をかけられた。 「よう、ぼくたちね、どんなに手に人りにくいロックコンサートの券でも、必ず買えるし、レ ードだって安く買えるルートを持っているんだぜ」 説「え ? 」 ロック狂の響子さんたちは思わず立ち止った。 解 「ウチの会員になれば、のことさ。会員にならない ? 人会金一二万円ーー」 そこで、響子さんは